ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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ちょっとした小話です。


就職と愚痴

 

「えーっと、ここかな?」

 

 副長ホセから渡された手紙を何度も確認しながら城下のある建物へとたどり着いたハジメ。周りからはガヤガヤとした活気のある騒然さが耳に入ってくる。

 

 ここは、ハイリヒ王国城下の工房地帯。ハジメが足を運んだのはその中の国のお抱え錬成師である筆頭錬成師ウォルペンが構えている工房だった。

 

 以前はニートによってハジメの錬成師の教官役を打診されたが、断られた経緯があったのでハジメ自身の足で向かう事を副長ホセに頼み込みやってきたのだった。

 

「あの、すいません」

 

 工房の中に入り、声を掛けるが職人皆が忙しそうに工房内を走り回っておりハジメに気に掛けるものは皆無であった。

 

(だよねぇ…でもここで挫けちゃ駄目だ)

 

 少し消沈するも今度は勇気を振り絞って声を上げる。

 

「すいません!ここにウォルペンさんはいますか!?」

 

「あぁん!?この糞忙しい時にどこのどいつだ!?」

 

 ハジメの声に反応したのは若い職人だった。年はハジメより少し年上だろうか、頭に巻いていた鉢巻を外し、汗をぬぐいながら大股で歩み寄ってくる。忙しい時に呼んでしまったからか目が釣り上がっており中々の迫力があった。

 

「誰だあんた。注文の依頼か?いや今日はそんな予定はないはずだが…」

 

 ハジメを一瞥し、ふむと考え込む青年。以外にも外見に見合わず対応は杜撰では無かった。迷惑を掛けてしまったかなぁと思いつつここに来た目的を話す。

 

「あの、ウォルペンさんに会いに来たんです」

 

「あ?親方にか?つってもなぁ」

 

 ぼりぼりと頭を掻く青年。自分の所属と身分を明かした方が良かったかと考えたところで工房の奥の方から口髭をたっぷりとはやした六十代の男がどしどしと現れた。風格と只住まいからしてこの人がウォルペンだろう、見るからに職人気質の気難しそうな顔で若干顔が引きつってしまうハジメ。

 

「親方、すんません。なんか親方に用事があるって奴が来たんですが」

 

「…フン。ニートの小坊主が言ってた奴か」

 

「知ってるんスか?」

 

「俺の客だ。お前は引き続き仕事をしろ」

 

 青年にそう告げるとハジメに何かを言うまでもなく工房の奥へと向かってしまう。戸惑いながら青年を見ると何とも微妙そうな顔を向けられた。

 

「んだよ親方の客かよ。…ほらさっさとついて行かないと親方の機嫌が悪くなっちまうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 溜息一つを付いた青年はさっさとウォルペンについて行けと首で察し示す。礼を言い工房の奥へと歩みを進める。

 

 工房の中は区間で区切られており、そこら彼処に錬成魔法の光が乱舞し職人たちの創造とした活気と熱気が立ちまわっていた。

 

 そんな中奥にある事務所へと入っていくハジメ。中では事務所のソファーで乱暴に座っていたウォルペンが手紙のような物を見ていた。所在なさげに部屋に立ち尽くすハジメにウォルペンは目を合わせず座れと言い放った。

 

「ニートから聞いた。人間族を救うために現れた神の使徒とやらに錬成師が居るってな。それがお前か」

 

「は、はい僕がその錬成師です」

 

「そうか。…悪いが俺は神の使徒やらなんて胡散臭いモンに敬語を使うことができねぇ、いいな」

 

 首をカクカクと頷くことで肯定を返すことでいっぱいになるハジメ。それほどウォルペンの出す職人気質の威圧感は圧倒的だった。圧倒的な歳の差もそうだが日本では感じられない昔気質の威圧感はハジメにはなれないものだった。 

 

「それで、その神の使途さんがどう言った用件でここに来たんだ。まさか武器を作ってくれなんてもんじゃねぇだろうな」

 

 揶揄する様に話すウォルペンにハジメは背筋を伸ばす。ここに来たのは委縮するために来たのではないのだ。

 

「僕をここで働かせてほしいんです」

 

「…ほう」

 

 顎髭を撫で目元を細めるウォルペン。雰囲気が変わったのを肌で感じながらも言葉を紡ぐ

 

「この工房がハイリヒ王国で一番の場所だと聞きました。僕には戦闘力がありませんが錬成の力があります。それで少しでもこの国の人たちのために役立てたいと思って僕の力が生かせるこの場所で働きたい「帰んな」」

 

 ハジメが考えた言葉は一言でバッサリと二の句が告げられないほどに切り捨てられてしまった。動揺したハジメの姿にウォルペンはつまらなさそうに吐き捨てる。

 

「坊主、人にものを頼むときに口八丁じゃなく本心で言わなきゃならねぇ。この国の人間を救うだ?はっ馬鹿も休み休み言え、そんな事一つも考えていないくせに」

 

「…っ」

 

 見透かされた。ウォルペンの言葉にハジメは思わず動揺してしまった。目の前にいる人間は口先でどうにかできる人間ではなかったのだ。

 

「そもそもの話だ。錬成なら王城でいくらでもできるだろう。ホセの奴に頼めば仕事はいくらでもある。それなのになぜわざわざ俺の所へ来る?そいつを言わなきゃ話にもならねぇ」

 

 正論だった。余りにも正論で当たり前の事だった。だからハジメの頭の中では矢継ぎ早に考えが巡る。そこからしぼり出たのは…どうしようもない本心だった。

 

「オルクス迷宮で」 

 

「あ?」

 

「オルクス迷宮で僕の親友が死にかけたんだ…」

 

 絞り出すような声は震えていた、どうしても親友の死にかけた場面が頭の中をちらついて仕方がないのだ。俯き胸元を掻き抱くようにして声を出す。ウォルペンはそんなハジメを何も言わず見ていた。

 

「僕を助ける為に柏木君は死にかけたんだ。それなのに僕は何もできなかった…」

 

 思い出すのは胸から剣を生やした親友。血まみれで瀕死だった。そんな親友に対して自分は何もできなかったのだ。あの無力感はいまでもハジメの心を蝕んでいる

 

「僕には錬成しかなかった。始めはそう考えていた、でもそれじゃ何もできない。だから考えて考えて思ったんだ、僕には錬成があるって」

 

 そして異能の力モルフェウス。錬成とモルフェウスの組み合わせはきっと想像の限界を超えて自身の力になってくれるだろう。その為には錬成の修練が必要だったのだ。

 

「この工房なら僕の錬成の力を高めることが出来る。だからここで仕事をして僕は錬成の力を高めて強くなりたい。今度こそ柏木君が死なない様に」

 

「ふん、結局はその柏木って奴のためか」

 

「はい、僕はこの国の人たちのためじゃなくて友人や自分の為にこの工房と貴方達を利用したいんです」

 

 自分勝手の話だなと何処かで頭の片隅の自分がささやいた。人を助けるつもりなぞ心の底から無いのだ、全ては自分を助けてくれた親友のため、国の人間が助かるのは所詮二の次だった。 

 

「クックック…そうかそうか」

 

 話を終えウォルペンを今度は真摯に見れば笑っていた。愉快そうに心底楽しんでいるようにも見えた。しくじった…とは思っていない今話したことは本当の事なのだから。

 

「はっ!面白れぇ坊主をよこしてきたもんだなあの副長さんはよぉ!いよぅし分かった。今日からお前はこの工房の丁稚だ、こき使ってやる」

 

「良いんですか?僕はあくまで自分の為に働くんですが」

 

「だろうな。だからこそお前は手を抜かねぇさ。自分の為に働くことになるんだからな」

 

 ニヤリと不敵に笑うウォルペンだがハジメとしても自分の為に働くのだ。元より手を抜くつもりも日本のアルバイトのように身内贔屓のなぁなぁで働くつもりもなかった。

 

「つっても最初は雑用だ。掃除や片づけまぁ俺たちの身の回りの雑事だな。それがひと段落したら錬成で日用品でも作ってもらおう。ああ、それと出来たもの次第では給料を出してやらんでもない」

 

「えっと僕、貴方方の技術さえ盗めれば、無給で働くつもりだったんですけど」

 

「ふん随分と大事ほざきやがる、そういう訳にはいかねぇ俺んとこに来たのならキッチリ金は払う」

 

 やたらと筋を通す人間だとハジメはウォルペンに好意的な物を感じた。確かに金はあっても困らないし合った方が何かと都合が良いのは確かだ。

 

「それと金を出す以上仕事に責任を持てよ。お前と違ってこっちは錬成で飯を喰ってんだ。そこんところしっかり理解して置け」

 

「分かりました」

 

 給料のやり取りが発生する以上手を抜く気もハジメにはない。ここの仕事は日本でやっていた身内での手伝いではないのだ、失敗すれば叱られるし怒鳴られる事もあるだろう。それも織り込み済みだった。

 

「それじゃ、精々お前の本気ってものを見せてもらうから馬車馬のように働くんだな」

 

「望むところです」

 

 こうしてハジメはウォルペンと言う錬成の師を得ることが出来たのだった。これがどういう作用をもたらすのかそれは先の未来で国の人間全員が思い知る事になるのであるとは今この時誰も想像できないでいたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面倒だ。今のこのげんなりとした心境を表すのなら、きっとこの言葉が一番合っている気がする。

 

「私光輝に酷いこと言っちゃった…」

 

 項垂れ落ち込んでいる八重樫雫の深いため息がさらに気分をげんなりさせる。…まぁそうなったのは私のせいでもあるのかもしれないが。

 

 

 場所は私の隠れ部屋。王宮にある空き室を勝手に拝借し使わせてもらっている秘密の隠れ場所だ。…無断拝借だが掃除はこまめに行っているのでどうか怒らないでもらいたい。とまぁ多少の現実逃避はしたものの現状が変わる事は無く、依然としてさっきから深いため息が目の前の少女から断続的に行われているのだ。

 

 何故、八重樫雫が私の部屋にいて、先ほどから溜息を吐いているのか。何てことはない、オルクス迷宮で心がぽっきり折れた彼女が天之河光輝に八つ当たりをしているのを見かけ、見かねてこの部屋に連れてきてしまったのだ。

 

「光輝が悪いわけじゃないのに…どうして私は」

 

「たまたま虫の居所が悪いときは誰にだってあります。彼には少し悪い事をしてしまったかもしれませんがこればっかりは仕方ありませんよ」

 

「でも……」

 

 口を開けば先ほどの八つ当たりを心底悔やむ声。それを仕方ないと慰めれば割り切ることが出来ないのでいるのか納得はしていない顔。これを面倒くさいと言わずにして何と言おうか。

 

「もぅ、自分を責めたってどうしようもないですよ。それより今は少し頭を休めた方が良いです。心が参っているときは悪い事ばっかり考えてしまいますからね」

 

 そう言って取りあえずお手頃なお菓子を差し出す。差し出された以上受け取るしかない八重樫は手に取ってチビリチビリとお菓子をかじっていく……それ結構な値段がする奴なんだけど美味しくなさそうに食べるのは止めて欲しいなぁ。

 

 

 あの日あの時、手洗い場で必死になって手を洗っていた時点で私が見た彼女とは全然違っていた。八重樫雫は私が思っていたほどに心が頑強では無かったのだ。魔物を切り殺し、精神的にぐらつくまでの事は知ってはいたのだが、まさかまさかここまで弱い人間だったとは思いもしなかった。

 

(やっぱり、知っているのと実際のとは全然違うって事ですかねぇ。それに実際に人が死にかけているところを目撃していますし)

 

 私が見た世界とこの世界での違いは色々とはあるが、極端に言えば奈落へ落ちていくのと鮮血をまき散らしながら死にかけたのを見た違いが影響しているのだろうか。真っ逆さまに堕ちるのを見るよりは血を流すのを見た方が精神的なダメージは大きい。それがまぁ彼女にとってはクリティカルしたのだろう。

 

(でもまぁ何だかんだで一応立ち直る辺りしたたかだなぁ)

 

 鬱屈した物を抱えそこにふらりと現れた幼馴染。感情の鬱憤が爆発し八つ当たりをかまし、そして今、少しばかりの休憩を挟めば割と回復し今度は暴言を言ってしまった自分の嫌悪感と幼馴染に対しての罪悪感。これを面倒くさいとしてなんと言おうか。…あれ?私同じことを二回も言った?  

 

 

「ねぇ…アリスさん」

 

「何でしょうか」

 

「私これから光輝にどんな顔をして会えばいいのかな」

 

 知らんがな。…こう言えたらどれだけ精神的に楽か。取りあえずその場限りで適当な事を言って置く。具体的な事をは言われたくないだろうから。

 

「そうですね…少しの間、貴方の心の整理が付くまでの間は距離を取った方が良いでしょうね。彼からしても顔を見合わせ辛いでしょうし、貴方自身も無理に彼と会う事は無いのですから」

 

「そう…ですか」

 

 力のない無い腑抜けた面だ。まだ高校生だし仕方ないと思う反面、高校生にもなってんなこと言わないでくれとも思う。もう義務教育は終わったんでしょう?

 

「…私自身光輝には酷い事を言いました。どうして今だに勇者に拘っているのって。光輝にもちゃんと理由があるのに私は聞く耳を持とうとしないで…」

 

 ポツリポツリと話し始めた言葉には適当に相槌を打つ。こういった話は誰かに話を聞いてもらいたいから言うのではなく自分で心の整理をつけたいから話すのだ。つまり聞き流せばいいのだ。

 

 そもそも私は目の前にいる女が滅茶苦茶嫌いなのだ。あの世界で見せた勇者の保護者面してあっさりと他の男に鞍替えするしたたかさが。

 

「…ずっと光輝の面倒を見ているつもりで本当は光輝に甘えていたのかなぁ…」 

 

 落ち目になった勇者を見捨てて、強者になったDQNに惚れるなんてまるで女より女をしているこの常識人ぶる女が私は本当に嫌いなのだ。

 

「……うん。光輝の面倒を見るふりをして居場所を作っていたのは本当。…ふふっ最低ね。都合が悪くなると光輝に当たり散らすなんて」

 

 私はお前が嫌いだ。…だからそうやって私の知ってる居る女とは別の顔を見せるのは止めて欲しい。…この子も生きているんだなと思うようになってしまうではないか。

 

(…面倒だなぁ。あー本当に面倒くさい)

 

 何がと言われれば、目の前の少女ではなく、自分の性根だろうか。放っておけばいいのにあの日あの時憔悴していた彼女に見ていられなくなったあの時点でこうなる事は予測しておくべきだったはずなのだが…相も変わらずブレブレな自分のスタンスが恨めしい。

 

 

(こんなはずではなかったんですが…)

 

 

 正直な話私には『彼』さえいればそれでいいのだ。私は自分自身の楽しみのためのに彼を見ていればそれでいいのだ。他に余計な事はするつもりもなかったししないでおこうと思ったのだが…

 

(……あの吸血鬼を助けた時点で何を今更って話ですよねー)

 

 脳裏に自分を慕ってくれた吸血鬼の事を思い出す。別れはしたがあの後どう生きているのだろうか。それなりの力はある為それなりに生きているだろうし、会うと自身のスタンスがブレブレを通り越して何もない状態になるため会う気もないのだが。

 

「…でも剣をもう握りたくはないの。香織…貴方は本当に強いね」

 

 リラックス効果のあるお茶を飲んで友人に思いを馳せる八重樫。そんな彼女を見て私も内心ため息をつく。

 

(どうしてこうなったんでしょうかねー) 

 

 彼以外の人間すべてを見捨てるつもりだった私の計画はもうグダグダを通り越して滅茶苦茶になってしまったのだった。

 

 

 

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