ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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今現在の悩み。
男子クラスメイト達の口調が割と似ている事 
ストックが切れた事。



もう一度迷宮へ

 

 

「そろそろかな… よし皆、ここらへんで休憩を取ろう」

 

 地図と睨めっこをし、皆の体調を考え休憩の号令を取る事にする。その言葉に不思議そうに返すのは坂上だ。

 

「あん?俺ぁまだいけるぞ」

 

「まだいけるはもう駄目だって話だぞ坂上。それにお前が大丈夫でも後衛たちの事も考えないと」

 

「あーそうだったな。んじゃここらへんで休むかぁ」

 

 そう言って周りの警戒態勢に入る坂上。実に聞き分けの良い男で話が早い男でもある。皆も俺の言葉に特に不満を言うことなく休憩の準備に入る。

 

 

 場所はオルクス迷宮六十階層。そこで俺達地球組は実地訓練の再訓練をしていたのだ。

 話は過去にさかのぼる。俺達男子共が馬鹿騒ぎをしてから数日後、坂上を筆頭に数人の生徒たちがまた訓練したいと話してきたのだ。

 

『ずっと考えたがやっぱ俺はこの拳しかねぇ。だから戦いをしたい。俺は俺のできる事をやるって決めたんだ』

 

 そう言って拳を握った坂上の姿に闘志あふれるのを感じた俺。自分で決断をしたのなら止めるつもりはなく、その意思を尊重したいとも思ったのだ。…坂上の後ろにいた数人が少し気になりもしたが。

 

 そしてメルド団長とホセ副長にそのまま坂上達をつれ自分たちの意見を主張し相談したところ、再訓練の許可はすんなりと下りたのだ。

 

『そうですか。君たちがそう言うのなら私達も止めはしません』

 

 そう言ってフッと笑ったホセ副長の顔が少しだけ嬉しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか。兎も角訓練の許可は下りたので訓練所でもう一度戦いのおさらいをし、オルクス迷宮へとまた足を運ぶことになったのだ。

 

 

「おーい柏木。あの魔物除けの薬撒き終ったぞ」

 

「サンキュー遠藤。ほらっ頑張ったお前にアメちゃんをくれてやろう」

 

「何でそんなもん持ってんだよ…有り難くもらうけど」

 

 斥候と周囲に魔物除けの薬を巻き終えてくれた頼れる裏方遠藤に王宮で働くおばちゃんたちにもらったアメを渡す。ぶつくさ文句は言いながらも嬉しそうな遠藤にホッコリし、荷物を紐解いて薬をじゃんじゃん取り出していく。

 

「しっかしやっぱ柏木が居ると怪我の心配もいらないね~」

「心配いらないじゃなくてしない様にするのがベスト何だぞ斎藤。ほれ」

「わかってるよ~」

 

 斎藤に魔力回復薬を手渡しながら一応の注意をする。本人もちゃんと自覚しているのか被弾をしたことも無ければ怪我のかすり傷えない。中々上出来だ。

 

「それで、今はどのへんだ」

「えーっとここらへんかな」

「ふぅむ」

 

 清水と不完全な地図を眺めながら今後の予定を調整する。俺がいる限り薬の枯渇とは無縁であるが、それでも大事を取って行動したいのだ。

 

このオルクス迷宮に再挑戦しているのは俺に檜山達四人、清水、永山野村に遠藤、辻さん吉野さんそして坂上と谷口に中村と天之河の合計十五人で行っているのだ。

 

 クラスメイトの中でも戦意が挫けて来れない奴もいた。八重樫を筆頭に園部達も結構精神的にこれないみたいだった。まぁそれは仕方がないだろう。結構しんどそうな顔していたし、寧ろここに来る奴は性根が図太いのかもしれない。

 

「柏木、何考えているんだ」 

 

「んー色々と。それより野村皆に薬を配ってきてくれないか」

 

「へいへい」

 

 鞄の中にあった大量の回復薬を野村に渡しつつ皆の様子を眺める。負傷の方はなさそうで気力もまだまだありそうだ。しかし念には念を入れて体力増強薬の方も出しておくべきか…

 

 

 しかしまぁなんだな。こうやって今後の事を考え乍ら皆の調子を見るのは結構神経を使う。思わず副長であるホセさんに愚痴の一つが出てきてしまった。

 

「やっぱ俺がリーダーをするのは間違ってるんじゃないの副長さん?」

 

 この遠征訓練、指揮を執るのは俺となっているのだ。理由として副長さんから訓練に出るための条件として言い渡されたことだった。

 

 後方支援職である俺は皆の様子を逐一確認し無理が出てきたと感じたら撤退の判断ができると騎士団からは思われているらしい。…本当にそうだろうか?厄介ごとを任されているだけなのではなかろうか。

 

 でもまぁ今の天之河に指揮は無理そうだしある意味仕方ないのかもしれない。それにあくまで指揮と言っても体調管理と地図の確認だ。戦闘については戦闘天職の方々にお願いしてある。

 

「おーい中野~焚火を起こしてくれ」

「…いいけどそれに何の意味があるんだ?」

「気分!」

「さいですか」

 

 中野に頼み小さな焚火を作ってもらう。こういう時、炎術師…じゃなくてサラマンダーが居ると心強い。ライター代わりにするなと怒られそうだが。

 

「「BONFIRE LIT」」

 

 暖かな焚火に清水と一緒に温まる。無論寒くはない、寒くはないのだが…気分である。仄かに燃える焚火で温まっているとぞろぞろと周りの男連中が集まってきた。

 

「見回り終ったぞ。やっぱここら辺はあらかた片付けたから何もいねぇや」

「お疲れー回復薬要るか?」

「あ、それなら俺にもくれ」

「俺も俺も」

「なぁ後どんだけ進んだら戻るんだ?」

「知らねぇ。柏木に聞け、つーか腹減ったな」

「俺簡単なドライフルーツなら持ってるわ」

「マジで?いつの間に」

「売店で売ってた。ちなみに結構マズい」

「えぇ…」

「まぁ俺達の世界と比べたら駄目っしょ」

 

 わちゃわちゃと男連中が雑談をするのでやかましいことこの上ない。最も俺も混ざっているので文句を言う資格は無いのだが。

 

 離れているのは女性陣と、中村に話しかけられながらも妙に居心地の悪そうな天之河だろうか。こっちに来ればいいのに…

 

 天之河はあの大橋での一件以降どうにも信頼を失くしてしまったというか、クラスメイト連中と多少の溝ができてしまったようだ。受け答えはするもののぎこちなさが凄い。

 俺はあんまり気にしないが除け者にしているようで心苦しくもある。坂上ともどうやら距離があるようで…どうにかして普段のこの世界に来る前の天之河に戻ってほしい所だが…

 

(少し、精神作用の薬でも作ってみるかな)

 

 ソラリスの能力は何も怪我の治療薬を作るだけではない。幻覚作用の薬だってできるとは中野の言葉だ。実質俺の『深夜のテンション!』は精神に作用する。使い方をもっと考えて具体性持たせれば…はてさて毒も薬も紙一重とは誰の言葉だったか。

 

「柏井、何考えてんだ」

 

「うん?どったの」

 

「何か悪い顔をしていた」

 

 少し気取られてしまったか?ばれると後が面倒だ話を変えてみよう

 

「いや、今頃南雲はお仕事の真っ最中だろうなーと」

 

「あー南雲は確か働いているんだっけ?アイツよくやるよなぁ」

 

 近藤の言葉にうんうんと頷く他の男連中。南雲は王都にいる錬成師筆頭さんの職場で働いているのだ。何でも気に入られたようでかなりの量の仕事を割り振ってくれているのだとか。

 

「騎士団の物資の点検修復に職場での労働だったか? ぶっちゃけ俺達よりも動いてね?」

「…俺あんな風に取り込むことは出来ねぇよ」

「あ?別にいいんじゃね?後方支援は汗水たらして働いて俺達は命を掛けて戦う。それが役割分担って奴だろ」

「檜山お前良い事言った。人には向き不向きがあるって事さ。俺は薬を作ってお前らは戦う。これが一番頭の良いやり方だ」

 

 そもそも南雲は裏方で色々とやってる方が性に合うのだ。前線でバンバン戦うやり方はらしくない。ゲームでも裏でこそこそ動いて悦ってるやつだし…。

 

「でも、いつも仕事が終ってから『働いた後のご飯はおいしい!』ってドヤ顔晒してくるんだよなぁ」

 

「あの野郎俺達よりも先に就職して勝ち誇ってるな!?」

 

 ドヤ顔をして勝ち誇った笑みを浮かべる南雲。非常に良い空気を吸っているのである。 そんな南雲の姿を幻視したのか溜息がどこからともなく漏れる

 

「はぁ…俺達帰ってから就職とか進学とかどうなるんだろうな」

「あ?いきなり何言ってんだ」

「だって考えてもみろよ。俺達高校生だぜ?今頃勉強してなきゃいけないのがよりにもよって異世界で武器持って戦ってるんだぞ。先が不安になるのもしょうがないだろ」

 

 まさしくその通りである。高校生で遊び盛りではあるが、嫌でも先の事を考えなきゃいけない時が来るのだ。ましてや今いるのは異世界。帰ってから一体誰が俺たちの未来を保証なんてしてくれるものか…。

 

 改めて考えると先の将来のビジョンなんて俺は全く持って考えていなかった。いつもの様に南雲や清水と遊んでいればそれでよかったのだ。不安がぶるりと襲い掛かる。

 

「…皆、進学か就職するか決まってる?」

「僕は、航空関係の仕事に就きたいなぁ」

「あー俺は人を殴るのを主にした仕事に付きてぇから…ボクサーでもなって見ようかな」

「こえぇよ坂上。…俺は就職だな」

 

 それぞれ斎藤と坂上と檜山である。こいつ等先の未来をある程度は考えているのか…すげぇな

 

「つか檜山が就職?てっきり大学でパリピすんのかと思った」

「パリピってなんだよパリピって… ま、色々あるっつーか」

「ふむ?色々?」

「檜山はね、さっさと働いてお父さんたちを楽にしてあげたいんだよ」

「あ~言ってたな。大学は金がかかるからどうとか」

「ほう!」

 

 いつも不良ぶってる檜山が親孝行息子だと!?思わぬ話題に目を光らせれば、思い出すかのように斎藤、近藤中野がうんうん頭を頷いている。

 

「ばっ馬鹿野郎!?お前ら何でんなこと知ってんだよ!?」

「え、前自分でつぶやいてたじゃん」

「前こっそりアルバイトの求人票見てなかったか?」

「給料が云々とか時間外手当とか、保証とか言ってたぞ」

 

「んなっ!?」

 

 思い当たるところでもあったのか顔を赤くさせ口をパクパクさせる檜山。図星を当てられてまさしく絶句と言うその表情からして割と就職を真剣に考えていたのだろう。……可愛い!

 

「へぇあの檜山が孝行息子とはね。やっぱ人間見た目じゃねぇな」

「良い男だ。尊敬する」

「こっちは将来なんてなんも考えていないからなぁ~檜山は偉いよ」

 

 男子達から温かい目を向けらる檜山大介君。褒められて上げられてさらに耳まで真っ赤になってズザザザァ!と後ずさる行動はもう微笑ましくて仕方がない。

 

「も、もういいだろうが!おらっ休憩は終わりだ!さっさと行くぞ!」  

 

「えぇ~もう終わり~」

 

「ま、休息としては十分休んだだろ。ほら、皆準備をするぞ。さっさとしないと孝行檜山君にケツを蹴られちまう!」

 

 数人が含み笑いをし、檜山がウガ―と怒り騒いでいる。そんな男連中の悪ふざけを見て女子たちは呆れているやら微笑んでいるやら様々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(進行は順調。怪我はなく精神に疲労は見られず…か)

 

 皆が戦い着実に階層を進む姿を見乍ら俺は後方で皆の戦闘実績を記録していた。勿論皆の邪魔はしていないし油断もしていない。

 

 実はホセ副長からみんなの戦闘データを図ってほしいと頼まれているのだ。誰がどう動いてどんな事をしたのか、詳細には出来なくても見た所感でもいいと言われ快く引き受けたのだ。

 

 そもそもこの遠征訓練、騎士たちはついてきていない。ホルアドの宿屋で待機はしているものの迷宮まではついてきていないのだ。

 

(…坂上達がもう変な強さになってきたし、いつまでも保護者同伴ってのもあれだからな)

 

 騎士団の人達より強さが斜め上?になってしまった坂上達。一緒に居ても連携がうまく取れず、なら自分たちで進んでみようという話になったのだ。何時までも騎士団の人たちがいると思ってたら甘えちゃうからね。

 

(それにしても、前と比べて大分強くなってるよな…)

 

 皆の戦いぶりを見ていて思うのだが、前のオルクス迷宮の時と比べて全員ではないが成長が著しい奴が何人かいるのだ。 

 

 

 坂上龍太郎  拳を振るう思い切りの良さは以前と比べて格段に上がったような気がする。一撃粉砕。あの体格から振るわれる拳の威力はほとんどの魔物を一撃で打ちのめしている。そのくせ一切おごることなく、寧ろまだまだと言いたげな顔は味方乍らに恐ろしい。

 

 斎藤芳樹  風の魔法の扱い方が掴めたのか、風刃の威力はまるで真空破だ。オマケに風を纏い魔物の攻撃を逸らす、少しだけ体を浮き上がらせ疾走する、突風で魔物をぐらつかせて隙を作るなど攻撃以外でも魔法の扱い方を熟知しつつある。朗らかに笑うその裏でいったいどれほどの魔法の練達をしてきたのか 

 

 遠藤浩介  存在感が無い。…と言うと失礼なので戦闘中に忽然と姿を消してしまうのだ、そこからの奇襲の急所狙いはまるで仕事人が如く。見えない匂わせない、感知させない。そんな存在が命を狙いに来る。…本当に失礼だと思うけど、この力を悪用しようと考えない遠藤が良い奴で本当によかった。

 

 以上三名が前と比べて格段に強くなっているのだ。身体的な強さは勿論だが俺としては精神的な成長が強さの元になっていると考えている。だってその方がロマンチックじゃん。

 

(己の殻を破った者はそれ相応の物を得る…なんつって)

 

 厨二的な考えだが、人は成長する生き物だ、彼等は彼らなりに思う事があって思い悩んで受け入れて歩みを進めるのだ。そんな彼らには相応の祝福が与えられてしかるべきだ。

 

「……ふふ」

 

「?どうしたの柏木君」

 

「何でもないよ」

 

 俺の独り言に合いの手を返してきた谷口に何でもないと返し、にやけてしまった顔を戻す。やる気に満ち溢れた彼らはまだまだ伸びていくのだろう、だからきっと彼等は何処までも強くなれる。

 

(んで、他の奴はと言うと…)

 

 他のメンバーで順調に強くなってるのは、清水、檜山だろうか。元々この二人は劇的な成長は感じさせない。スタンダードな成長といった所か。

しかし檜山の動きは遂に立体軌道に達し壁を垂直に駆け上がる事も出来てしまった。…お前は一体どこに行ってるんだ?

 

 清水は闇魔法が面白いのか自身の影も使って攻撃している。どんな魔法を使ってるのかさっぱりだが、本人は闇魔法のもう一つの可能性洗脳に関しても手を伸ばそうと試みているらしい。…洗脳ねぇ。夢が…広がるかな?

 

 

 後は…永山、野村、近藤辺りは普通だね。経験値がたまってレベルアップしているような面白みのない普通さ。勿論永山も野村も頑張ってはいるけど、劇的ではなくあくまでこの世界基準。普通過ぎてバグが入ってないとでもいうべきか…

 

 

 特に近藤は、檜山達について行っている者の本当に文字通りついて行ってるだけであり戦闘にあまり貢献できていない。獲物である槍がこの洞窟では振り回しづらいというのもあるが…性格的な物が出てきてしまったのだろうか。自分で戦っている感じではなく他に合わせて行動しているように感じる。…薄々思っていたが、アイツ自分の意思って奴が少ないんじゃなかろうか。まるで流されて生きている様な…

 

 

「でもまぁ、天之河よりはましか?」

 

「天之河君?…そうだね、何か動きづらそうだね」

 

 俺の独り言に律義に返してくれる谷口の言う通り、天之河は前のオルクス迷宮の時と比べて動きがかなり鈍い。キレのある剣の軌道は随分とヨレヨレで鈍くなっている気がする。一撃で魔物を倒していた腕前は何回も魔物を切りつけてやっとで倒せるほどになってしまっている。

 

(これは不調と言うよりも…)

 

 正確に言えば弱体化しているとさえ言ってもいいのかもしれない。戦いとは精神が直結するものだ。それはスポーツでも同じ、どんなに才能のある者でもメンタル面がボロボロであるならど素人にさえ負けてしまう。今の天之阿を見ればどうにも焦っているようで、精神的に参ってるのかも。

 

「うぅん。どうにかしないといけないけど、不用意にツッコむのもなぁ」

 

「さっきから何の話?」

 

「あん?そりゃ天之河の…って谷口なんでこんな所にいるんだ?」

 

 傍にはなぜか谷口が居る。谷口の天職は結界師なので前衛の傍にいて結界を張るのが仕事であるはずだが?うぅん、それとも後方にいた方が良いんだっけ?兎も角疑問に思い首を傾げれば溜息をつかれた。何で!?

 

「何故って柏木君戦う力がほぼ無いんだから誰かがそばにいないといけないんだよ」

 

「戦う力が無いって…確かにその通りだけど」

 

 随分ときっぱりと言う谷口に少々虚しくなる俺。どうにも俺は戦闘の才能はからきっしの様である。この迷宮にくる前にオーヴァードの先輩である中野に相談したが

 

『お前に白兵戦能力は無い、きっと射撃も糞だろう。…つーか戦闘の才がほぼ無い。誰かに盗られたのか』

 

 と冗談交じりに言われたほど戦うのが下手なのだ。という事で護衛は確かにありがたい話だ。しかし何故谷口がそばにいるのだろうか。

 

「柏木君は結構うっかり屋さんだからね。鈴がちゃんと見てあげないと!」

 

 拳を振り上げ元気よく答える谷口。いやだからなんで谷口が俺の護衛を…困惑して辺りを見渡せば何故か清水がこちらを見てニヤリと笑いサムズアップをしてきた。マジで何なんだよ…

 

 傍で何故か元気な谷口を放っておいて改めて戦力の状況を考えると、結局は皆強くなりつつあるという事なのだろう。

 一番に気になる中野は規格外すぎて俺では力量を測れない、改めてオーヴァードになって分かった事だがきっと中野は皆より頭二つ分向こう側に行ってる住人だ。

 

 女子連中の事は正直分からない。強くなるんだったら止めもしないし挫けたのならそれでいい。後はもう個人の裁量だ、どうなるかはこればっかりは分からない。

 

 そんな他人任せの事を考え乍らついにやってきた六十五階層。この世界の人たちが到達した最後の階層である。…のはずなんだけどアリスさんはすでに百層を超えそのまたさらに百層を超えてしまっている訳なので…きっとあの人が規格外なのだろう。本人も強さに関しては物凄くどうでも良さそうだったし。

 

「ここから先は未知の領域か…準備は大丈夫?」

 

 みんなに確認する様に見渡せば大丈夫と言う声。なんとも頼もしい限りだ。そんなこんなで着いた先は大きな広間だった。

 

「おい、あの魔法陣」

 

 坂上が示したその先には俺達が広間に入ったのと同時に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒く脈動する魔法陣はどこか見覚えがあって…

 

「ああ、あれベヒモスが出てくるわ」

 

「知ってるのか清水!?」

 

「覚えていないかよ…あのなぁモンスターの量産なんて常識だろ。ベヒモスは本来なら六十五階層の魔物ってメルドさんが話していただろうに」

 

 流石は清水、冷静に返すと直ぐに詠唱に入った。そりゃそうだ、何も魔法陣から出てくるのを待つ必要はない先手必勝ずっと俺のターンは常識で王道そのものだ。他の奴らもそれぞれが詠唱や武器を構えて備え始めた。

 

 だが、そんな俺達に待ったの声が入る。

 

「皆すまん。最初の一撃は俺に譲ってくれぇだろうか」

 

 坂上龍太郎、著しい成長と慢心を失くした俺達の鉄砲玉だ。何事かと坂上を見ればほんの少し申し訳なさそうな顔をした後自分の拳を眺めた

 

「たった一発でいい。たった一発だけをアイツに皆より先にぶちかましたいんだ」

 

「何を言ってるんだ龍太郎!一人で行くのは危険だ、アイツは強い。皆で立ち向かうべきだ」

 

 天之河の余りにももっともすぎる正論を受けても坂上はどうやら思う事があるようで、何やら神妙そうだ。考える時間は少ない、しかしこの申し出は…皆の様子を見る。

 

 清水は詠唱止めた、顔はニヤリと不敵に笑ってる。

 

 斎藤は浮かび上がった、フォローは任せておけと笑っている。

 

 遠藤の姿はもう見えない、影に徹したようだ。

 

 檜山は自らの獲物を抜き放ち、やれやれと言いたげに口角を釣り上げていた。

 

 中野は…指先を炎に替え、檜山の武器に炎をエンチャントした。 

 

 他の人はベヒモスに対しての緊張感からか誰も何も言えないようである。なら判断は決まった。

 

「よし、坂上いけ、一発どでかいのをかましてこい!」

 

「いよっしゃ!」

 

「まて龍太郎!柏木どうして…」

 

 俺の言葉と同時に広場へ突撃する。天之河が止めようとするが、その言葉を無視して走り去ってしまった。

 

 すまんな天之河、でも男にはやらなきゃいけない時がある。きっと坂上はそれが今なのだろう。

 

 頼れる男の背中は強大な魔物に臆することなく突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっとここが自分の分岐点なのだろうと坂上は確信していた。あの日あの時皆を見捨てようとして驕りにまみれた自分への決別の為に。

 

 広場から現れたベヒモスは依然と変わらず壮絶な殺意を眼光に宿らせ咆哮を上げていた。

 

(…へっ。あん時は胸が高まったが、今聞くと只の雑音だな)

 

 以前は強敵だと思っていた、しかし今は只の魔物と変わらなかった。なら自分の拳は通じる筈だ。悠然と身構えたベヒモスは一向に臆さない坂上を敵と捕らえたのか、全身を震わせ突撃を繰り出してきた。

 

(まだだ…まだ打つのは早い)

 

 全てがスローモーションになる中、こちらに向かってくるベヒモスから視線をそらさない。立ち止まり腰を深く落とし右手をしっかりと構える。

 

 血流を滾らせ気合を込める。全てをこの一撃に託す。暴力を振るう自分を己が肯定するために。

 

「グガァオオオオ!!!」

 

 方向をあげ突っ込んでくるベヒモスにタイミングを合わせる。頭突きを繰り出そうとしているその頭に振るわれる拳が重なるように調整する。

 

(今だ!)

 

「オラァ!」

 

 気合一発。培った体幹とこの世界で増した膂力。真っ直ぐ正確に狂いなく振るわれた拳は着実にベヒモスの頭部に当たり…その巨体を吹き飛ばした

 

「グッ!?」

 

 しかし只ではすむはずがなく自分も衝撃で吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされる体、傷む腕。

 

(はっ…やったぜ!)

 

 しかし坂上はどこか満足な表情をするのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるでダンプカーと自動車が正面衝突したような破砕音だった。坂上の正拳突きがベヒモスの巨体を吹き飛ばしたのだ。しかしその代償として坂上も飛ばされた。そりゃそうだいくら坂上でも体重と体格の明確な差がある。しかし、こちらはすでに対処済みだ。

 

 永山がすぐに駆け寄り坂上に俺が渡した回復薬を全身に掛けてもらう。それだけで治療完了直ぐに参戦可能だ。最も必要なさそうだが。

 

 吹き飛ばされたベヒモスに黒い影がまとわりつく。清水の闇魔法でベヒモスの四肢が影により拘束されていくのだ、もがくベヒモスだが拘束は解けそうにない

。流石は妨害に関しては俺たちの誰よりも先を行く男清水幸利、頼もしさでは群を抜く。

 

 壁にはりつけになったベヒモス。後は只のデカい図体のカカシだ。可哀想にいつの間にか目を一文字に切り裂かれている。恐らく遠藤の仕業だ。次に坂上が吹き飛ばした瞬間に駆け出した檜山が二刀の剣をもって飛びかかる。

 

「そらそらそらっ!ははっ!抵抗できねぇんじゃ話にもならねぇな!」

 

 右手に炎の魔力を纏った剣を、左手に風を纏った剣を振り回し振り増していく。視覚化された風の軌跡と炎の軌跡がベヒモスを滅多切りにしていく。袈裟、縦、横、もはや軌道が滅茶苦茶過ぎてよく分からない。

 

「グギャァアアア!?!?」

 

「ヒィィイヤッハァァアアア!!!」

 

 ほぼ一方的な攻撃にベヒモスの止まらない悲鳴、弱い者イジメ?いやいや檜山が圧倒的すぎるんです。何あのスタイリッシュなアクション!?吹き出した血をジャンプで回避してさらに急降下してまた傷を増やしていくぞ!?これじゃどっちが魔物か分からない。

 

「ふぃー おい!後はお前らに譲ってやるよ!」

 

 最後に一回思いっきりベヒモスを蹴り上げるとその反動でこちら側に跳躍しながら捨て台詞を吐く。無論そんな事は割っていると言いたげに血だるまになったベヒモスに風と炎の魔法を唸りを上げ襲い掛かる。

 

「『狂嵐』 あーあ これじゃ訓練にもならないかもね」

 

「『インフェルノ』 別に構わんだろう。アレ如きじゃ対して俺たちの障害にもならない」

 

 失望が混じった言葉と不遜な言葉を吐き捨てるのは斎藤と中野だ。唱えられた魔法の風がベヒモスの皮膚を切り刻んでいく。荒れ狂う暴風は気まぐれにベヒモスの身体を容赦なく裂傷を与え続ける。

 中野が出した炎は切り刻まれたベヒモスを無残にも焦がしつくしていきが見る見る内に 小さくサイコロ状になった焦げたステーキへと変貌してしまった。

 

 中ボスとして大げさに登場してきたベヒモスは坂上の正拳突きが炸裂してからわずか5分も満たない速さでこと切れる余りにも呆気ない結末だった。

 

「か、勝ったのか」

 

「あ?見りゃ分かんだろ」

 

 野村の呆然とした言葉を檜山が乱雑に吐き捨てる。そりゃそうだ誰が見たって俺達の勝利は明らかなのだから。

 

「あーあ思ったより雑魚だったね」

「でもベヒモスが弱くなったんじゃねぇんだろ」

「それほど俺達が強くなってのかもな」

「んなことより魔石の回収どうすんの?柏木に頼む?」

「面倒だからそうしようぜ。アイツ何でか魔石の回収上手いからな」

「魔石は騎士団が使うから絶対に回収しろって言われてるもんね」

「他にも素材とか剥ぎ取れば御の字だったんだけど…」

「…なんだよこっち見んなよ」

 

「…なぁ永山、アイツら強すぎないか?」

「そうだな。いつの間にかずいぶんと距離をあけられてしまったな」

「…檜山、斎藤、中野。俺は…俺はっ!」

「どうしてそんなに強くなれるんだ。勇者であるはずの俺は一体…」

 

 なんだか拍子抜けたと口々に軽く言う戦った面々と見ているだけで何もできなかった者達。この差は随分と開いてしまったけどそれでもきっと埋められると俺は信じている。だから腐るなよ男の子!俺達ならどこまでも強くなれるんだからな!

 

「おーい。獲るもん獲ったら脱出するぞー」

「あー?もう帰るのかよー」

「まぁまぁ一度ゆっくり休憩を取ろうよ」

 

 ベヒモスの死骸から大きめの魔石を回収し、帰還の連絡をする。まだまだいけるかもしれないが取りあえずは撤退だ。まだいけるはもう危ないってね。

 

 

 

 




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後2,3話したら二章前半がおわりです。
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