「…帝国か めんどくさい匂いがする」
ベヒモスを倒してから数日後、俺達実地訓練班は一時訓練を中断し王都に戻る事になっていた。それは何故か、単純に王宮から迎えが来たからである。
迎えが来た理由は、何でも完全実力主義国家ヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るのだというのだ。細かい理由は滅茶苦茶面倒なので流すが何でも、ベヒモスを倒した勇者の実力が見たいからだとか。
フルボッコで雑魚扱いされたベヒモスだがあれでも六十五階層の化け物だったらしく、人間族初の快挙であり、その事を知った帝国が興味を示したというのが実情か。
「実力を知りたいってねぇ…少し前までは普通の高校生だった男だぞ?期待するのがおかしいと思うんだけど」
神の使徒『勇者』そしてその仲間達。聞こえはとてもいいが実態は神から与えられた力で胡坐をかく少年少女だ。いったい何を推し量ろうとするのか疑問なんですが、これも政治的理由なのか面倒事な気配しかしない。
そんな説明を迎えの人達から聞き、何やかんやで王宮へ帰還する。久方ぶり?の王宮は依然と変わらず、まぁこんなもんだ。
「おかえりなさい」
「ただいま…ってアリスさんか」
訓練班が馬車から降り何やら迎えに来た王宮の人達と会話しているのを眺めていると傍に人の立つ気配。掛けられた声を返せばそこにいたのは何やらくすくすと笑うアリスさん。
「知っていますか?あなた方を…正確に言えば勇者君を見に帝国の方々が来るそうですよ」
…この顔は何か知ってるな。私はすべてを知っています~この後何が起きるのかをしています~知りたい?知りたいのかなぁ?と煽ってくるそんな顔だ。…もっと正確に言えば推理物で犯人とトリックを先読みで知ってる奴の顔とでも言えばいいのか。
「アリスさんは」
「ん?」
「何が起きるのか知ってるんですか」
帝国の訪問。普通に考えればそれだけで終わる筈である。しかしこのニマニマと笑う顔とベヒモスが終った後と言うまるでイベントが始まるようなタイミング。言っちゃなんだがあの時みたいにまたシチュエーションの中に入り込んだ気分だ。
「ええもちろん知っていますとも」
「教えてください、何が起きるんです」
隣に立ちムフフと笑う彼女に聞けば、ほんの少しだけ考えるそぶりを見せ、視線を天之河に向けた。笑っているのにその目は…何だろう可哀想な物を見る目とでもいうのか。こういうの何だっけ憐憫?
「帝国からやってくる使者の中に皇帝が紛れ込んできます。フットワークが軽くトータス世界ではお強い皇帝様は勇者君の実力を見る為に模擬戦が始まるんですが…」
「…天之河負けたのか」
実力主義で戦いが日常茶飯事の国のトップである皇帝と数か月前までは一般人だったステータスが高いだけの勇者。結果なんてわかり切っている事だろうに。…する価値もない模擬戦だな。そんな俺の不満そうなイラつきが伝わるのか、アリスさんも少しイラついた声になる。
「そもそもあの模擬戦、皇帝の初披露だとか帝国の説明だとか色々ありますけど主体が勇者君の愚かさを見せしめにするための舞台なんですよね。あの世界の天之河君は気持ち悪いですがそれでも無様な姿をさらそうとする悪意のあるあの公開処刑はもっと嫌いなんですよねー」
うん?何だろう少し違和感。予言と言うのがどんなものか知らないけどこの言い方はまるで…
(他人事と言うより舞台を見るような言い方?予言ってそういう物なのか…うぅん?)
なんか変な言い方をするアリスさん。言葉の端に何か彼女の事情と正体が紛れん込んでいる様な…まぁ今は帝国か。多少の違和感は持ちつつもこの後に起きる事を考える。
勇者と皇帝の模擬戦。そして勇者の敗北。そしてその後の予想できる展開
「あ…何かイラッと来た」
「どうしてです?」
「天之河をコケにしようとする匂いを強く感じる」
気に入らない気に入らない。確かに天之河はアンポンタンな事があるがそれでも良い奴なのだ。馬鹿だけど本当に良い奴なのだ。それをコケにするって? これは…俺の、いいや俺達の案件だな。
「フフッ まだ見ぬ皇帝よ、どうやら俺の逆鱗を撫でやがったな」
「あ、逆鱗なんてあったんですか?」
「当方、馬鹿にされることが嫌いです。それが例えクラスメイトでも」
「…愛されてますねぇ天之河君」
皇帝がやってくるのは確か三日後、それまでに少しプランを考えねばならない。天之河がコケにされずしかして、皇帝を上手く受け流す方法を。
天之河をシチュエーションの奴隷になんてそうはさせるか!
「つ~訳で始まりました裏方会議第四回目。議題は帝国からやってくる皇帝についてでございます~」
「わーぱちぱち(棒読み)」
「ひゅーひゅー(棒読み)」
「お前ら何時もこんなことやってんの?馬鹿じゃねぇの?」
場所は俺の部屋。緊急を要するためすぐにでも俺の腹心である南雲、清水、檜山には集まってもらったのだ。議題は勿論やってくる皇帝に関して。
「つーか皇帝?帝国の使者だけだったんじゃ?」
「とある筋からやってくるのが使者の護衛に扮した皇帝だと判明したので対策を検討したいのです」
「とあるスジからねぇ…へぇ柏木君いつの間にかそんな知り合いが出来たんだ」
南雲の疑惑の目が刺さる刺さる。ジトーっとした目が南雲の心境を物語っているところから察するに信用はしてくれるけどその誰かを話せと言っている。後でちゃんと話しておこう…
「んで、何を対策するってんだ?」
「かくかくしかじか!」
「まるまるうまうまね」
事情を説明し、兎に角このままでは天之河が無様に負けてコケにされる可能性があると話したが…周りの反応は微妙だった。俺の話は信じてはいるものの天之河が負ける事についてはどうでもよさそうみたいだ。お前ら酷くなぁい?
「…別にいいんじゃねぇのか。俺達がどうこうする必要性あんのかそれ」
「何でさ」
「天之河が弱くて皇帝が強かった。それだけの話だろ」
だから俺達が何かしようって話にはならないんじゃないかと檜山は言う。確かにその通りだけど、それで納得できるほど俺は大人じゃない。
「強者が弱者を踏みにじるのは仕方ないかもしれない。弱いから見下されるのはしょうがないかもしれない。でも、それでいいのか」
「…何が言いたいんだ柏木」
「俺たちの大将天之河光輝が負けるって事は俺達も同列にみられる。俺達も舐められるんだ負けた天之河と同様に。見下されるって事にお前は納得できるのか檜山」
大将が負ければ俺達の強さも同列にみられる。いわば皇帝と戦うという事は俺達日本人の格を図られているという事と同義だ。負けてそれで終わりとは問屋が卸さない。
「相手から下にみられる。今後帝国から舐められ続けて我慢できるのか檜山」
「…チッ」
言いたいことが伝わったのか苦虫を潰した顔になる檜山。トップが貧弱だとその下も同じだとみなされるのは檜山にとっても面白くないようだ。
「…わーったよ」
これで一人陥落でありますな。さてもう一人は…
「でもよぉ 天之河には一回痛い目に遭った方が良いんじゃないか」
「なしてだ清水?その根拠を言いなさい」
「はぁ… この世界に来てから少し天之河おかしくなってんだろ。ちょっとは痛い目を見て目を覚ました方がアイツのためだろう」
清水の言い分は確かに頷けることがある。この世界に来る前は本当に天之河は人の良い好青年だったのだ。多少正義感が強い所が確かにあったが、人の事を思い遣る良い奴だったのは間違いない。
俺も以前英語の赤点の補修を食らったとき少し勉強を見てもらったことがあるのだ。その恩は忘れない。
「いや、アレはお前が究極的の馬鹿なだけだったんだろうが。未だにゲームのタイトルが分からないからって南雲に聞くのはどうかと思うぞ」
「親友が英語が読めないからってゲームのタイトルをいつも聞いてくる件について」
「うぐっ!? …ま、まぁその話は置いといて」
「置いておくんだ。ふーん」
南雲の視線が辛い。いつもいつもすいません、しかしこの話はのちほどにして…えほんえほん
「確かに可笑しくはなってると思う。なんか変な病気でも喰らったんじゃないかって思うし一度頭の検査をした方が良いのかもしれない」
我ながら結構酷いこと言ってない?クラスメイトを頭の病気扱いってヤバくない?…俺の良心は一体どうしちまったんだ?
「でも、今の天之河に負けた屈辱を味わせるのは悪手な気がしてさ。…なんつーか本当にぽっきり折れてしまうような気がするっていうか」
結構思い詰めているようにも見えるんだよなぁ。そんな時にクラスメイトや王国の人達の前で恥を掻かせるような事が起きるって…天之河にとって良くない。うんやっぱ駄目だわ、天之河は同じクラスメイトで仲間で普通の人間です。そのことを強く意識しなければ。
「…はぁこのお人好しめ」
渋々と言った様子の清水。これで二人目。後は
「聞きたんだけどさ柏木君」
「なんじゃらほい」
「人に見下されたくない。天之河君の為に。なるほど理由としては納得できるけど、本当にそれだけ?それだけの理由で帝国に楯突くの?」
別に帝国に喧嘩を売ろうって訳じゃないんだけど… 兎も角として南雲の言い分はもっともだ。だから俺も出来る限り言葉を吐き出そう。最初に感じた本心をもって
「そう…だな。それらの理由もあるけど、一番は物凄くイラつくって事かな」
「その心は」
「まるで、筋書き通りのような気がしてだ。天之河が負けて俺達が恥を掻く。そのどれもが見えない悪意を感じて気に入らない」
帝国が来てからのシチュエーションはまだ起きていないこれから起こる未来の話だ。それなのにアリスさんの言葉をどうしても俺は心の底から信用してしまう。まるで自分の言葉のように。
そんな俺が感じたのは見えない悪意。天之河に対して恥を掻かせようとする誰かの嘲笑と嘲り。普通の少年に対しての強い憎悪。そんな物を感じてしまうのだ。
だから俺はその企みを阻止したい。オルクス迷宮で南雲を助けたときのように、シチュエーションに反逆したいのだ
「反逆…か。そうだね。僕の時と同じ様に感じるのならそれは阻止しないと」
そんな俺の心から思ったことを告げるとほんの少しチラリと檜山を見て溜息を吐く南雲。見られた檜山も南雲も何だか複雑そうだ。
「柏木君がそう決めたのなら僕からは何も言わないよ」
「…すまんな」
「良いって事さ。寧ろ手を貸すよ、実力主義国家の癖に未だに魔人族を倒せない情けない奴らに舐められるのは気に入らないからね」
「ファ!?」
「クッ」
「ぶはっ」
南雲が不敵に笑いながら言い放った痛烈な皮肉がどうやら捻くれ二人組にもツボにはいったようだ。無論俺も含み笑いでお腹が痛くなる。
「クックク よくもまぁそんな大口叩くな南雲。相手は帝国様だぜ」
「本当の事でしょ。強者の国を謳うのに僕達が呼ばれたのが何よりも物語ってるでしょ」
「確かにその通りだ。ど素人を呼ばなきゃいけない状況なのに亜人族の奴隷をかこっている時点でお察しだ」
「亜人の奴隷?ほぅほぅならそれは僕に対する挑戦状だ」
何やら燃えてきた様子の三人。これはとても頼もしい。口元がいやが応にも嬉しさでつり上がってしまう。
「んで、結局どうするんだ」
「それについてはプランがある。細かいところは後で南雲と清水で調整するとして…」
ニヤリと笑い檜山に視線を向ける。それで錬成師と闇術師は俺が何をしたいのかわかったようだ。流石は我が同胞。言いたいことはすぐに伝わってくれる。
「この作戦の肝はお前だよ 檜山」
そうして俺は、このメンバーで唯一の白兵戦闘担当『軽戦士』に向かって笑ったのだった。
見直すと何だか違和感がある様な?急いで作ったとはいえ難しいですね。