――自分が…死んだ
告げられた言葉に頭が真っ白になる。いったいどこで?いつ?どうやって死んだんだ?疑問が浮かぶが思い出すことはできない。突然の事に動悸が激しくなり、目の前が暗く立ちくらみを起こしそうになる。
「ごめんね、やっぱり言うべきじゃなかったね」
青年が申し訳なさそうに謝ってくるが自分にとっては関係がない。そのまま膝をつき頭を抱えて蹲ってしまう。嘘だと思いたかった。ドッキリだと信じたかった。だが見渡すばかりの白い世界なんて見たこととがないし、何より自分がどこか理解してしまったのだ。ここが普通ではない以上自分はどうにかなってしまったのだと
「大丈夫、大丈夫だよ」
青年が背中を摩ってくる。それだけでなぜか荒れていた心が落ち着いてくる。震えは止まり思考が明確になる
「心が落ち着くように魔法を使ってみたんだ。どうかな」
言われてみれば確かに先ほどまでとは比べようもなく冷静になれていた。
「よかった」
再び穏やかに笑う男。落ち着かせてくれたことには感謝するが、疑問に思う。この男は何者だろう.さっきの魔法とやらを使うのを見るとただ物ではないのは分かるが…
「あははは。確かに疑問に思うよね。うーん立ち話もなんだし…ほいっと」
男の身の抜けた声と共に机と椅子が目の前に現れる。ご丁寧に机の上にはグラスに入った飲み物さえ置いてある。男はさっさと自分の椅子に座ると自分に向かって手招きをする。どうやら座れと言う事の様だ。お言葉に甘え差し出された椅子に座るとふんわり柔らかな触感だった。どうやらなかなかの高級品だ。椅子の感触に内心喜んでいると対面にいる男が少しばかり真剣な顔つきになり口を開く
「疑問に思う事も質問したいこともいっぱいあるだろうけどまずは僕の話を聞いてほしい」
突然の光に驚きつぶっていた目を開けるとそこは先ほどまでいた教室ではなく全くの見知らぬ場所だった。
「何なんだ此処は…」
驚き思わず声が出てしまった。周囲を見渡せば大きな広間であり白い石造りの建造物で巨大な柱に天井はドーム状になっている。当たり前と言えば当たり前だが俺の学校にこんな場所はない。ましてや五限目の授業も移動教室ではなかったはずだ。そもそも謎の光なんてドッキリ聞いたこともない。あったら憤慨してやる
「…ここは」
「南雲?怪我はないか?」
「う、うん。それより…」
自分と同じように辺りを見回す南雲に声をかける。見たところ怪我はないようだが、壁に掛かっている壁画に注目している。男か女かよく分からない人物が書いてある絵だが今の状況以上に気になるのだろうか。絵を見ている南雲を放っておいて辺りの確認をすると同じようにクラスの奴らが周囲を見回している。
隣にいた清水は混乱している顔から徐々状況を理解し始めたのかにどこか喜色に満ちた顔をしはじめた。
「オイオイ…まさかこれって」
口が変な風に開き、鼻息が荒くやたらと顔の血色が良い。興奮しているのか?この訳の分からない状況に?随分と豪胆な奴だな。
「皆落ち着くんだ!隣の人に怪我がないか確認しあうんだ!」
比較的立ち直るのが早かったのか天之河が皆に無事か呼びかけているのが見える。流石は学校一の完璧イケメン超人。なんだかんだでこういう時は結構頼りになる奴だ。
周囲を改めて確認するとそんな混乱している俺達意外に三〇人位の白いローブの様なものを纏った人間たちが祈るように跪いていた。
(なんだコイツら)
不快感と言うのはこういうものだろうか。何に祈っているのかはわからないがその集団に俺は強い気持ち悪さを感じた。たとえて言うならば、ゴミ袋の底にたまって異臭を放つ粘つく液体、又は何日間も常温に出してあった蛆の沸いた生ごみの匂いというか…触りたくない関わりたくないと思うほどの強く生理的な嫌悪感がする集団だった。
そんな汚物団(これからは汚物の集団と命名)の老人が歩み出てくる。年は六十か七十かやたらと顎髭が長く、やり手という印象が強い。おそらくこの汚物団のリーダーだと思われる。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
(…キメェ)
前に出てきた爺の言葉にどこから突っ込めばいいのやら。トータス?勇者?同胞?教皇?いろいろ気になる部分はある。しかし突っ込みたいのは
「男のくせになんで名前がイシュタルなんだ?」
「変な名前だよね」
イシュタルと言う名前で思いつくのは金星の女神の名前だ。どんな女神なのかは南雲辺りにでも聞かなければわからないがとても男が名乗る名前だとは思えない。どうやら後ろにいた南雲も同じように感じていたのか同意する。
俺達が名前でけなしているのに気付いてすらいないのか踵を返し歩いていくイシュタル。
困惑しながらも天之河が先頭にぞろぞろとイシュタルの後ろをついて行くクラスメイト達。正直怪しい。ついて行きたくない。しかしこの状況は何なのか説明してくれないと始まらない。仕方なく俺と南雲は列の最後尾に並ぶことにした。
石造りであろう廊下は蝋燭などの明かりにより思いのほか明るく不潔な所は見られない。いったい掃除にどれくらいの人件費がかかっているのやらと液体もない事を考えていると服の袖をクイクイと引っ張る感覚があった。自分の隣にいた南雲が内緒話をするかのように顔を近づけてくる
「ねぇ柏木君…これってもしかして異世界転移?」
「やっぱりお前もそう思うか、嘘だと思いたいけどとてもドッキリだとは思えないし…」
南雲はどうやらこの状況を異世界召喚だと言いたいようだ。確かにあのイシュタルとやらの話を思い返せば、そうなのかもしれない。
しかし本当に異世界召喚なんて実現するのだろうか。もしかして自分や皆が気付いていないだけでドッキリなんてことがあるかもしれない。清水にでも相談すれば分かるだろうか?
(でも清水の奴、話を聞いてくれ無さそうな気がするしな)
こういう時こそ豊富な知識と妄想で頼りになるはずの清水は異世界召喚だと思ってウキウキとしているのか列の前の方に行ってしまった。その姿に溜息一つ。南雲はそんな清水の姿を見つけて苦笑している。
「清水君は…まぁしょうがないよ。どちらにせよあのイシュタルの話はちゃんと聞いておかないと」
確かにイシュタルの説明と聞かないと判断する材料もない。状況に混乱しっぱなしでは大事な部分を聞き逃してしまうかも。凄い状況なのによく南雲は落ち着いていられるな。
「南雲お前凄いな。こんな状況でもよく冷静でいられるな」
「混乱しすぎて逆に冷静になっただけだよ」
南雲と話しながらもどうしてもこの状況を認めたくないのはやはり異世界だと信じたくないからか。もしここが異世界だとすれば…
俺達は無事に帰れるのだろうか。
イシュタルが進んだ先にあった部屋はテーブルが幾つも並んだ大広間だった。おそらく会議室か又はパーティー会場か。芸術品や調度品には詳しくはないが値段が張りそうな壺や絵が飾られている。上座の方には畑中先生や天之河が座っており後はクラスの皆が並んだものから順番に座っている。俺と南雲は最後の方になった。
全員が席に座ったの確認したのか絶妙なタイミングでメイド服を着た女性たちが飲み物を配っていく。これがまた飲み物を配っていく女性たちの容姿が優れていること優れていること。誰もが顔が非常に整っており日本にいたのならばすぐにアイドルで食っていけそうな人たちなのだ。
南雲を見てみれば生のメイドにテンションが上がっているのか凝視しようとして、すぐに正面に視線を固定した。大方白崎の嫉妬の視線に感づいたのだろう。見れば顔が無表情になっている。コワイ!
中々の独占欲が強い女に惚れられたものだなと苦笑し他の男子にも視線を向けると案の定顔が緩み切っているものが多数だった。特に女の子と触れ合ったであろうことすら無いだろう清水は見るも無残なほど顔が緩み切っていた。気持ちは大変よく分かるがもうちょっとしゃんとしてくれ。
対照的なのが美少女に慣れている(又は鈍感なだけか)天之河は特に何も感じ無いようでイシュタルの説明を待っている。やはりイケメンは格が違うのか…恐らく意図的なハニートラップに効かない天之河スゲェと思っていたところで俺にも飲み物を給士してくれる女の子がやってきた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうござます…!?」
ハッと息をのんだ。女の子は手触りの良さそうな銀色の長い髪の毛を後ろで括り所詮ローポニーと言う髪形をしていた。目は翠色と言うのだろうか、綺麗なエメラルド色で吸い込まれそうな色だ。しかし一番目を奪われたのが顔だ。ほかの女の子たちと同じように整っているのだがなぜか目が離せなかった。
酷く気になるとでもいうのか…引きこまれるのだ。
「?…どうかしましたか」
「いえ、…なんでもないです」
キョトンと不思議そうな顔をする彼女に何でもないと伝えると柔らかく微笑んだ後すぐに離れていった。これからイシュタルからの説明があるからだろう。彼女が離れていくと同時に先ほどの驚きが消えていった。何故だろうと頭を捻ると隣の南雲から囁き声が聞こえてきた。
「どうかしたの?なんか変な顔をして」
「さっきすごく可愛い女の子がいた」
「ああ、あの銀髪の女の子?可愛かったね」
「おう。まさしく俺の理想を詰め込んだような子だった。…つーか俺のやっているゲームのキャラクリした主人公に似ているというか、理想の少女像に似ているというか…」
「なんだそりゃ」
呆れと苦笑が混じったような顔をする南雲。しかし仕方ないとだろ。だってさっきの女の子は俺がやっているゲームのキャラクリエイトした主人公とそっくりとでもいうべき理想的な少女だったのだから。
そんなこんなで全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言ったイシュタルの話は実に阿保みたいなものだった。要は人間族が魔人族と戦争をして魔人側が魔物を使い始め人間族が滅びそうになったからこの世界の神様『エヒト』が異世界の人間たちを人間族を救うために召喚したのだという。
まさしく阿保みたいな話で馬鹿げた話だ。つまり表立って口には出さないが全く持って無関係な俺達に戦争をして来いと、自分たちの代わりに命のやり取りをしろと言いたいのだろう。
イシュタルは話し終えると恍惚な表情を浮かべている。何でそんな表情を浮かべているのかは知らないが爺のイキ顔なんて誰得だ。少なくても俺の趣味範囲外だ。爺のアヘ顔に辟易と殺意が混じりそうなのを顔に出さないようにしていると愛子先生が立ち上がり猛然と抗議した。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることは唯の誘拐ですよ!」
やっぱり良い先生だ。自分だってこんな訳の分からない状況に混乱しているはずなのに生徒の事を思って立ち上がる事の出来るなんて。普通の人にはできることじゃない。先生の行動に感動しているが周りの皆は『ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……』とでも思っているのかほんわかした表情を浮かべている。
お前らいくらなんでも気を抜き過ぎなんじゃないのかと内心突っ込んでいると案の定糞爺は溜息をつきやがった。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です。あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」
と糞丸出しの事を言いやがった。その言葉にようやく今の状況が非常にまずいことに気付いたのか皆が騒ぎ始める。遅いってば!
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」
「やったぜ」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
騒いでもどうにもならない。だが実は俺もみんなと同じように喚きたかった。なぜ?どうして?なんで俺がこんなことに巻き込まれるんだ!?と喚きたいのを口から出ないようにできるのは異世界召喚を題材としたラノベやなろう小説を見ていたからか。
しかし、みんなが騒ぐ声にやはり不安が募る。いくらあり得たかもなと思っていても平然としていられるほど俺の心は強くはない。どうにか打開策は思いつかないかと横にいる南雲を見ると、冷や汗を流してはいるモノの皆と比べて冷静な南雲がそこにいた。
「南雲…お前不安じゃないのか」
「不安だらけだよ。でもなんとなくこうなるんじゃないかって思っていたんだ」
「そりゃそうかもしれないけどよ、くっそう異世界召喚は憧れだったけどまさか自分が巻き込まれるなんて思いもしなかったぞ」
「僕もだよ。でもまだマシな方かもしれない」
「どこがだ?戦争に行けって言れているんだぞ?戦争だぞ戦争」
「確かに戦争は嫌だ。でも見る限り僕たちは奴隷の扱いじゃない。一応勇者として扱われるみたいだ。だからまだ大丈夫…僕が想像していた最悪なパターンとしては女は性奴隷、男はただ捨て駒みたいな感じだったからさ」
確かにイシュタルの言動を見る限りは奴隷扱いはなさそうだ。しかし今のままでは今後どうなるかわからない。どうするべきかと焦りが出てきたところでバンッと音が部屋に響く。ビクッと肩をあげ音が鳴る方を見れば天之河が立ち上がり皆を見回していた。いったい何を言うのかと視線が天之河に吸い寄せられる。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。多分、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。だから皆大丈夫だ!!俺が世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。険しく、だが真剣なその表情に目が奪われる。なんとなくだが天之河がそう言ってくれるのなら大丈夫なんじゃないかという雰囲気が出始める。天之河のカリスマに当てられたのか俺も皆と同じように冷静を取り戻し始める。
天之河の言う言葉は戦争に加担すると言っているようなものだ。しかしここでイシュタルの話を蹴ってしまえば俺達日本人はこの世界で生きるアテを失ってしまう。訳も分からない世界で保護を失ってしまうという事だ。
嫌な話だが断った時点で『ならこの話には縁がなかったという事で、死ぬがよい』なんてこともあったかもしれないし『そうでしたか。では我らの秘伝の魔法で操り人形になっていただきますかな』と言う外道な話も合ったのかもしれない。
それならいっそ協力するふりをして力を着実につけ独自にこの世界から帰る方法を探すなんて言うのもありなのかもしれない。天之河の話にあったように俺達は何かチート能力を持っているかもしれないんだから…
自分の考えをまとめていると坂上が立ち上がり天之河に向かって拳を向ける
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
坂上…お前絶対ロクに考えずに言っているだろ。何となく天之河が言ったから賛同したっぽく見えるのは俺がひねくれすぎているからか?
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
八重樫さん、天之河の保護者兼ストッパーである君がそんな事を言うの? …状況を見ればそれしか言えないか。
「………」
おや?と思ったのは親友である八重樫雫が参加を宣言したのに白崎は先ほどから黙ったままだった。何やら思案しているのか手を組み合わせどっかの最高司令官のようにずっと考え込んでいる。普段の表の顔ならここで「雫ちゃんが言うのなら私も参加する」とでもいうかと思ったが流石にそんな能天気な事は言ってられないようだ。
とはいえクラスのトップの立場の奴らがこんなことを言うんだ。あとは流れるようにしてクラスメイト達が賛同していく。畑中先生が涙目で訴えるがこの流れを止めることはできなかった。でもまぁ俺はこれでいいと思う。少なくとも衣食住と強くなる方法は手に入れることはできるんだから。後は力を蓄えながら帰還の方法を探すだけである。
よくやったぞ天之河!褒めてやる!お前が言わなかったら皆が路頭に迷っていたんだからな。気付いていないかもしれないけどちゃんとみんなを救ってくれているんだぞ! あ、でも確か教室に出てきた魔法陣、お前が中心だったよな…ってことはお前に巻き込まれる形で俺達は召喚されたのか?この馬鹿野郎!お前さえいなければこんなことにはならなかったんだぞ!
天之河に対する評価を手のひら大回転していると、話の流れで参加を表明していない俺達もこの馬鹿げた戦争に参加することになってしまった。おそらく、クラスの皆は本当の意味で戦争をするということがどういうことか理解してはいないだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避とも言えるかもしれない。
無論それは俺も同じだ。どうにかしなければと思う反面流れに身を任せている。今後の事を考えると南雲と相談しなければならない。なにやら色々と考え事をしている南雲を見ながら俺はこの先の未来に思いをはせるのだった。
「流石はエヒト様に選ばれし勇者様と同胞の方たちですな」
クラス全員が参戦の決意を表したのを見てイシュタルは実に満足そうにそんな事を言う。現状俺達にはほかに選択肢がない以上そう言う事は分かっているだろうにつくづくむかつく野郎だ。
「それでは皆さん。この聖教協会本山の麓にあるハイリヒ王国があなた方の事を待っています、ご案内しましょう」
イシュタル曰くどうやらハイリヒ王国と言うところが、今後の俺たちの居場所になるみたいだ。そこで戦い方を学んだりするという事だろう。
これまたイシュタルの後をカルガモみたいにぞろぞろと後をついて行く。仕方ないことは分かっているのだが、どうにも俺達の今後の運命をイシュタルに決められているようで気分がよろしくない。
そんな事を考えていると隣に誰かが近づいてきた。
「柏木。聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「中野? 別に構わないけど…」
何やら考え事をしているのか深刻そうな顔で話しかけてくる中野。わざわざ檜山達から離れて俺に話しかけてくるのは珍しい。
「お前、体に異常が…いや、自分自身に違和感はないか?」
尋ねられたのは体の不調は無いかという事だった。確か先の話では能力が上がっているとかなんとか話していたがその事についてだろうか?何となく自分の掌を握ったり閉じたりしてみるが…特に変わったところは無い。
「いんや?得に変な所は無いけど…」
「…そうか。すまん邪魔したな」
そう言って中野は檜山達と合流してしまった。一体何だったのか。いつもは平然とした顔をしている中野でもやはり異世界召喚と言う事態について動揺でもしているのか。そんな事をぼんやりと考えながら、これから先の不安をごまかす様に隣にいた南雲に話しかける。
「なんかよーあの爺気に入らねぇな」
「柏木君、声を抑えて。誰が聞いているか分からないよ」
「おっとつい本音がポロリと、でもそう思わないか?」
「うん。あのエヒトって神を唯一絶対だっていう信仰とか気持ち悪いね」
「全くだ。なんであんな爺の陶酔しきった顔を見なくちゃいけないんだよ。普通呼び出すのは美少女のお姫様じゃねえのか?」
「あはは、本当にそうだったらよかったんだけど…知ってる?イシュタルが事情を説明しているとき天之河君の反応を伺っていたこと。多分すぐにこの集団でだれが一番発言力と影響力があるのかを察したんだろうね」
「マジかよ。だから天之河の琴線を振れるように魔人族の非道をいかにも深刻そうに語っていたのか。俺はてっきり素で言ってんのかと思ってた」
やはり腐ってそうな教皇でも教皇といった所か、よくもまぁ短期間でリーダーを把握できるとは、やはり気に食わない。それとも食えないとでもいうのだろうか。
「っていうかよくそんなところまで観察することができたな。俺なんて今後どうなるのかただそれだけしか頭になかったぞ」
「それは自分でもびっくり。やっぱり異常な状況だからなのかな。どうにも頭が回っているような気がするんだ」
「異世界に召喚されテンションが上がっているからか?普段の授業でもそうだったらよかったんだけどな」
「実に耳に痛いお言葉で」
ダラダラとそんな会話を続けながら俺達は聖教協会の正門前にやってきた。聖教協会は神山と言われているところの頂上にあるらしく無駄に荘厳な門を潜るとそこには凄まじい光景があった。
「すっげぇ…」
思わずと言った斎藤の言葉が全員の声を表していた。目の前には雲海が広がっていたのだ。太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れた。
「綺麗だ…」
白く淡く輝く雲海と真っ青で雲一つない空がこんなにも綺麗だなんて思わなかった。よくテレビで出てる山の頂上を映す番組などを見たことがあるが、生で見るのとは全然違う。
高山の息苦しさを感じることもなく(後で南雲に聞いたところ魔法で生活環境を整えているんじゃないのかとの事。そりゃそうだ)見る絶景は格別なもので、また俺達が本当に異世界に来たことを実感させるものだった。
「ふふ気に入ったいただけたようで何よりですな。さてもうしばらく進みましょうぞ」
どこか自慢気なイシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。台座には強大な魔法陣が刻まれており、何やら嫌な予感がした。自然と南雲のそばに近寄る。
「どうしたの?」
「いや…なんか嫌な予感が」
こういう時の嫌な予感は的中するものでイシュタルが何やら唱えると同時に魔法陣が輝き台座が動き出す。
「はわ!」
「うわ!ちょっ…何やってんの柏木君!」
「はわわわ」
南雲にがっちりと落ちないようにしがみつく。俺は高所恐怖症ではない。ではないんだが、原理も分からず動き出すものが怖くて仕方ないのだ。これが魔法で動いているのは分かる。だからと言って…
「怖えええ!!これ落ちないよな!大丈夫なんだよな!?」
「おお落ち着いて!大丈夫だから!」
南雲は大丈夫などと言うがだからと言って不安が消えることはない。何せ支えるものが何もないのに浮かんでいるのだ。周りの皆はキャッキャッと始めてみる魔法に喜んでいる。こいつら頭大丈夫なのだろうか?なんで素直にそう喜んでいられるのか俺にはさっぱりわからなかった。
そんなこんなで台座は王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上で止まった。ようやく人心地付ける。肩を回し体のコリをほぐす
「ふぃー怖かった」
「はぁ…ずっと組みつかれていた僕の事も考えてくれると嬉しいなー」
「すまぬすまぬ」
憮然とした顔になっている南雲にひらひらと謝る。しかし怖かった俺のことも理解してほしいといった所で近くにいた銀髪で碧眼の俺の飲み物を配膳してくれたメイドさんから話しかけられる。
「仲がいいのはよろしいのですが、移動しないと皆さんからはぐれてしまいますよ」
「ふぉっ!?」
見れば皆はイシュタルに続いて移動している。このままだとはぐれてしまいそうだ。流石にそれだけは勘弁してもらいたい。
「すみません、ありがとうございます!ほら行くぞ南雲!」
「もぅ落ち着きがないなぁ」
「ふふふ、気を付けていってらっしゃいませ」
くすくす笑うメイドさんに礼を言いながら南雲と一緒にみんなの後を追う。何でさっきからみんなは俺たちのことを放っていくのか全く持って憤慨だ。内心ぷんすかしながら走っていく俺は最後に呟いたメイドさんの声を聴くことはできなかった。
「………ようやく見つけました、あなたが『―――』なんですね」
王宮に付き煌びやかな内装の廊下を歩く俺達。中世の廊下に学生服を着た少年少女がいるのは場違い感が凄く、居心地が悪い。道中ですれ違う騎士っぽい人や文官、使用人に出会うのだが、期待に満ちた変な眼差しをされるので尚更嫌になってくる。
巨大な門を繰り抜けた先は玉座だった。
(あれがこの国の王か…)
玉座の前には破棄と威厳を纏った初老の男が立ち上がっていた。顔は…失礼な話になるが正直かなりテンプレな感じだ。言うなれば特徴のない、又はまさしくモブっぽい顔と言うべきか。
その隣にはこれまた似たような王妃と思われる女性。その隣には将来は天之河に勝るとも劣らない可能性を秘めた金髪碧眼の美少年、物凄く自分好みな十四歳ぐらいの金髪碧眼の美少女がいた。
(いいねぇ実に良いよぅ~)
(柏木君…流石にあの子はちょっと駄目だと思う)
(え~歳そんなに離れていないのに駄目なの~)
小声でひそひそと南雲と馬鹿なやり取りをする。他に軍人やら文官らしい人たちがいるがスルーだ。まずは目の前の美少女をじっくりと目に焼きつけておかなければ。
しかし現実は奇妙にも非常だった。なんとイシュタルは国王の隣へと言ったかと思うと、おもむろに手を差し出し国王は恭しくそのしわがれた手にキスをしたのだ!
(うっげぇーーーー!マジかよ…狂信者でホモかよぉ…)
余りにも理解できない行動に吐きそうになる。見ればほかの皆も吐きそうな顔をしていた。その顔を見て悪戯心がむくむくと湧き上がる。男子生徒だけに聞こえる様に声を潜める。これが女子に聞こえてしまったら事が事だ。
「……使用人は見た!国王と教皇の爛れた関係。熱愛発覚?今日午後ごろ教皇(推定七十台)と国王(指定四十台)が公共の場にて熱烈なキスをしているのが発見されました。情報提供者によると2人はさぞ当然の様に行為をし、周りの者はだれも止めることができなかった模様です」
俺の言葉に何を想像したのやら男子生徒達の一部がどんどん顔色が悪くなっていく。止めてくれよぉそんな顔をしたらノリに乗っちまいそうなるだろうがぁ❤(ねっとりボイス)
「……肉欲に溺れる体、教皇の老練なテクニックに国王は開発されていく。性欲に揺らぎ、抗いながらも守るべきものの姿さえ忘れそうになる国王。しかし教皇はそんな国王を執拗に開発していく『妻よ…子供たちよ…民の皆。すまない。私はもうこの欲におぼれてしまいそうになるのだ……あぁ何もかも忘れ、一人の雄として生きていきたい』
『ふふふ、もう一息ですな…どうです?これが神のご意思と言うものですよ…さぁすべてを忘れ神に身をゆだねなさい、さすれば全ての快楽があなたを待っているでしょう』次回、遂に完結!教皇に屈服し完落ちした国王。その痴態は愛する妻や子供たちそして民の前でさらされることに…『教皇と国王の秘密の信仰』今なら6980円!さらに過去作品の『国王と教皇、初めての密会』編も合わせて13800円になります!」
クラスメイト達は柏木の言葉により精神ダメージを受けた!
清水は日ごろの妄想のおかげで完ぺきにホ○○ックスの光景が目に浮かんだようだ!SANチェック自動失敗!現在のSAN値から3引いてください
中野、斎藤、近藤、玉井、仁村は吐きそうな顔をしている!
永山、野村、相川は口元を抑えている!
遠藤はどこにいるか分からない!
檜山は白崎を見て必死に忘れようとしている!
坂上は動じていない
天之河は赤くなっている!
俺の言葉にが青やら赤やら面白い顔になっている。ふふ、どうやらだいぶリラックスできたようだ。なにせ玉座に入ってくるまでは緊張でがちがちだったからな。俺のファインプレーはやはり素晴らしい。
「…柏木君一応言っておくけどさ、あれ親愛を込めたキスじゃないからね」
「ええ!?そうなの!?俺はぁてっきり同性愛が公共で認められて自慢できる世界なのだとばっかり」
「違うってば、そんな世界僕だって嫌だよ…話を戻すけどあれは国は教会に恭順するってことだよ」
「???」
「つまりこの世界では国より教会の方が立場が上ってこと。もっと言えば国を動かしているのは僕たちを連れてきた『神様』とやらになるのかな」
なるほど、あの誰得な光景はそういう意味があったのか…嫌な話だ。それはつまり神が気に入らないことはすべて神敵になるってことだ。自己紹介をしている王族や国の重鎮達を見ている中、つくづく変な世界に来てしまったと実感する俺だった。
「ところでなんだが、あれ絶対教皇の方が攻めだな」
「いやそれ入らない情報だからね?」
「国王はいいなりの受けかぁ…ん?神が言う事が絶対ならその神がホモだったならどうなるんだ?男は男に女は女に魔法少女は魔法少女に恋すればいいのぉ!ってことになるのか? 案外進んでいるなこの世界!」
「知らないってば」
一言メモ
同性愛 どうでもいいですがトータスは同性愛に関して結構寛容なのでしょかね?ウィルが同性愛者である先輩冒険者ゲイルを嫌っていない辺り割とトータスの親愛事情は進んでいるのではないかなぁ~と。最もウィルが特別に差別意識のない青年だったからかもしれないですが。