ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

30 / 70
何とかできました…


帝国皇帝様 後編

 

 

 

 作戦会議から三日後、遂に帝国の使者が現れた。

 

 予想通りと言うか目論見通りと言うか、それともアリスさんの言葉通りか。今俺達が居るレッドカーペットが敷かれた謁見の場には帝国の使者が5人ほどたったまま王様と向かい合っていた。

  

 使者と王様が簡単なあいさつを交わした後、人類の希望勇者の紹介が始まった。一応キリッとした顔をしているが…調子は良くなさそうに見える。大丈夫だろうか。

 

 取りあえずは天之河に続いて実地訓練組も挨拶を返していく。ここまでは順調。何だったが…

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

 疑わしい目で光輝をじろじろと見る使者のおっさん。一応教皇イシュタルの前なので露骨な態度はとってはいないが…

 

(イケメン好青年をジロジロと舐め回す様に見るおっさん。…これは事案では?風紀が乱れるぅ!)

 

 確かに光輝が若く初々しいので疑問に思うのは何も間違いではないのだが、少々見すぎでは?おっさんに視姦されるなんてどんなプレイだよ。正直天之河が可哀想である。

 

「た、確かに俺が倒したと言うよりも皆が倒したという言い方の方があってますが…」

 

 ベヒモスを倒したとき天之河は見ていただけですもんね。話がこじれるから言わないのかもしれないだろうけど、居た堪れなさそうだ。現に使者の護衛らしおっさんは値踏みする様に上から下まで天之河を視姦している。オエッ!

 

(…あ、ふーん。なるほどねぇ)

 

 天之河を視姦している男。よくよく考えれば結構失礼な話である。一応王国側は勇者がベヒモスを倒したことになっている。それを使者が疑いの視線を向けるのはまぁしょうがないかもしれないとして、高々護衛風情の男が猜疑の目を向けるのはかーなーり失礼に当たるのでは?

 

(つまりアイツが皇帝か)

 

 平凡そうな面をした男だ。高すぎず低すぎない身長にに、イマイチパッとしない雰囲気の男。人ごみに紛れ込んだら直ぐ見失いってしまいそうになるそんな平凡な男だ。

 

 だからこそこの男が皇帝なのだろう、平凡を意識しすぎて逆に浮き彫りになってる。どうせアーティファクトかなんかで平凡そうに見えるような細工でも施してあるんだろう。

 でも表情までは隠せない。天之河を見下すようなその視線と侮った表情までは隠せないんだよ皇帝さん。

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

 

(来た!)

 

 釣り針に獲物が引っかかった気分だ。罠にのこのこと嵌っていく哀れな犠牲者。なるほど、アリスさんがニヤニヤと笑っていたのはこういう気分だったからか。サイテーだな俺も彼女も。

 

「え、あ 俺は…」

 

 いきなりの事で二の句が告げられない天之河。困ったように王様に見ようとするがここで待ったの声がかかる。

 

「オイオイちょっと待ってくれないか使者さんよぉ?」

 

 粘つくような不快感アリアリの声で待ったのは我らが鉄砲玉その2である檜山大介である。ニヤついた顔で使者を嘲笑するその顔が実にいやらしい。

 

「檜山?一体何を」

「何をじゃねぇだろリーダー。使者さんよぉ。いきなりやってきてアポもなく俺達のリーダーに模擬戦を仕掛けようってのはちっと無礼にもほどがあるんじゃねぇのか?」

「むっ」

 

 天之河にかなり気安く肩を組み嘲るように笑う檜山に場の空気は完全に支配された。これは檜山の演技力と俺のソラリス能力の掛け合わせである。

 

『攻撃誘導』 刺激的な匂いで他者からの注目を浴びるエフェクト能力だ。これで檜山に注目が集まり場の主導権を握ることが出来た。

 

「40層が精々の不甲斐ないこの世界の住人の代わりに65層までいってベヒモスを倒したと真実を言えば、揃いも揃って疑うとは随分と帝国のケツの穴はちいせぇんだな。えぇ?」

 

 煽る煽る。檜山の真骨頂ここに極まれり。やべぇヤベェよコレ…何か俺も楽しくなってきた。やれやっちまえ檜山!なーになんかあったら牢屋にぶち込まれるだけだ!脱獄準備は何時だってできてるぜ!

 

「しかし実際にこの目で見ていないのは確かでございます。我ら帝国は実力主義者の集まりです。申し訳ありませんが、言葉だけで信じろと言うのは」

 

「だから俺たちの大将を測ろうってのか?はっそこの冴えないおっさんじゃ役不足だ、失せな」

 

 明らかに帝国を見下したもの言い。普通の人間なら即刻処刑ものだが檜山の立場はこの世界を救いに現れた勇者の仲間であり『神の使徒』である。誰も手出しは出来ないのだ。

 まさしく檜山の独壇場だ。それにしても檜山の奴護衛が誰か分かってて言ってんだからタチが悪い。

 

 冴えないおっさんと言われた当の皇帝様は…薄く笑っていた。心底楽しそうなのを見つけたと言わんばかりに。

 

「檜山!帝国の方々に失礼だろ! すみません俺の仲間が勝手な事を言って」

 

「別に構いやしねぇさ。確かにいきなり勇者様と力比べをしようと考えていたこっちが悪かった」

 

 ひらひらと本当に気にしてい無さそうにする護衛の人。その乱雑な言い方からして隠す気が無くなったか?まぁいい多分俺の考えている通りの性格なら…

 

「代わりにそっちの威勢の良いガキ。そっちの方と戦らせちゃくれねぇか」 

 

「あ?なに抜かしてんだおっさん」

 

「この俺が勇者に挑むほどの腕か確かめてほしいんだよ」

 

 ニヤニヤと不敵に笑う護衛の人に檜山は眉を吊り上げる。が、結局檜山はこの申し出を受け入れ、国のお偉いさん方が見守る中檜山と護衛の人との模擬戦が開催されることとなったのだった。

 

 

 

 いや、本当に全部俺の掌で事が動いているよな…まるでどこかでこの展開を見てきたみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

「檜山しっかりやれよ」

「舐めちゃ駄目だよっ」

「絶対油断すんなよっ」

 

「わーったよ。お前らこそちゃんと俺の勇姿を脳みそに刻んでおけよ」

 

 中野、斎藤、近藤からの熱い激励を受けている檜山に微笑ましい気持ちになりながら、我らがデバフ要員闇術師に再確認をする。

 

「で、上手く行った?」

「もち。…つってもあくまで軽微なものだ。期待すんな」

「それで良いのさ。代わりにこっちの仕込みは上々だから」

「…加減してやれよ」

 

 清水の言葉にノーコメントを貫く。仕込みは上手く行ってるのだ、後は檜山しだいだ。

 

「檜山君」

 

 同じように昨夜仕込みが出来上がったと笑っていた南雲が檜山に近づく。その手には布に巻かれた二本の細長い棒を持っていた。

 

「これ、何とか出来上がったから」

 

「ああ ワリィな」

 

「良いって事さ。それよりも扱いには気を付けてよ」

 

 南雲から渡された棒を持ちいつの間にか用意された決戦場へ赴く檜山。その背に南雲が最後の激励を掛ける。

 

「ちなみに、銘は『桜花』と『神風』だから!」

 

「分かった。 ……って、おい!お前帰ってくんなって事か!?」

 

 南雲が付けた銘に対して叫び声を上げ蹴りを入れようとする檜山。ケラケラ笑って逃げる南雲、なんだか微笑ましいやり取りである。あ?帝国の奴ら?もう放置でいいんじゃないのかな。

 

 

 

「さて、それじゃ始めるとするか」

 

 両者が向かい合ってから檜山はそう言うと南雲から渡された細長い棒の布きれを割と大げさに取り払う。現れたのは美しい刃渡りが施された細身の歪曲した剣。俺達日本人にとって最もなじみ深くまたロマンを極めた変態武器。

 

 

「アレは、え?マジで?」

「何で檜山はアレを持ってるの」

「あれは…日本刀?」

 

 檜山が取り出したのは白木造りの柄を持つ美しい刃渡りの日本刀だった。突然出された俺達にとってなじみ深い?物を出された地球組は驚きの声が上がる。もちろん俺だって最初を見たときは余りの出来の良さに感激の溜息をもらしてしまったものだ。その後の凄まじいドヤ顔の南雲に蹴りを入れる事も忘れなかったが。

 

「ほぅ…随分と立派なモンを持つじゃねぇか」

「ふん。俺たちの故郷の業物でな。わざわざうちの錬成師が俺様に錬成してくれたんだよ」

 

 ちらりと視線を南雲に向ける檜山とつられて護衛の人も。注目を浴びた南雲は澄まし顔をしているが…アレ相当照れているな。耳真っ赤で口元がプルプルしているもん。

 

「しかし刃を潰さねぇのはどうなんだ。コイツは模擬戦だろ」

 

「あ?何だ俺の刀が当たるって心配してんのかよ。その程度で天之河に挑もうってマジで恥の上塗りだな。やっぱお前役不足だわ」

 

「ククッ ケツの青いガキが随分とほざく」

 

 軽愚痴を叩きあいながら遂に構え始める。議論戦闘もいいけどやっぱり男なら拳で語りあわないとね。 

 

 護衛の方はだらりと大型の剣をぶらさげ構えらしい構えが無い。一件ふざけているようにも見えるが…アレは檜山からの攻撃を誘っているのだろうか?

 

 そんな護衛を鼻で笑い檜山の方もぶっきらぼうに日本刀で肩で叩く。こちらも動かない。挑発をしているのだろうか?

 

 白兵戦が点で駄目な俺にとっては全く持って分からない

 

「解説の中野君。アレはいったいどういう事でしょうか。私にはお互いふざけ合っている様しか見えないのですが」

 

「誰が解説だ。…アレはお互いの間合いを推し量っているんだろう。一歩でも相手の間合いに飛び込めば切り刻まれるだろうしな」

 

「なるほど…つまりこの硬直はもうしばらく続くという事ですね。以上実況の柏木と解説の中野でございました」

 

 ついついノリで中野に冗談を飛ばしたが案外ノッテくれました。嬉しい限りです。さて両者の激突がいつ始まるかと言うところで遂に状況が動き始めた。

 

 檜山が先に動いたのだ。ユラリと動くその要は緩慢。しかし一気にトップスピ―ドで護衛の人に肉薄する。俺にとってはほぼ見えない斬撃の嵐を護衛の人に向けて放つ。唐竹、袈裟、切り上げ、二本の刀を器用に動かし、追い詰めていく。まさしく斬撃の嵐だ。

 

 対して護衛の人は最小限の動きで檜山の斬撃をかわし続けている。最小限の動きで最大の効果をって奴だろうか?見た限り檜山を嘲笑ているように見えるかカウンターを狙っているの可能様だが

 

「いや、アレは見た通り檜山の方が優勢だ。躱し続けて反撃の隙を伺うように見えるが実際は何も出来ないでいる。それに見て見ろよあの男の口元を。さっきまでへらへら笑っていたのがもう余裕がなくなってやがる」

 

 解説ありがと中野。でもゴメンね。俺動き続ける相手の口元を見れるまで動体視力は良くないの。言っちゃなんだが今の俺サイヤ人たちの動きを頑張って理解しようとするサタンだぜ?力不足にもほどがあるんだよ。

 

 

 

 

「チッ 勇者のオマケかと思えば随分と良い動きをするじゃねぇか」

 

「おいおい、この程度でか?俺たちのリーダーはもっとやべぇぞ?」

 

 一杯食わされたと呟く護衛に失望を交えた言葉を吐く檜山。…もしかして檜山お前天之河を持ち上げようとしていない?褒めてると言うよりハードルを上げている様な…

 

「ふん ならお前で苦戦しているようではイカンな。そろそろ反撃させてもらうぞ!」

 

 護衛の人がそう言うと姿勢を低くし足に力を込めているような動きをする。その姿はいつか見た野生の肉食動物が獲物に飛びかかろうとする動きそのものだった。

 

「ッ!」

 

 事実、その表現は正しかったようでまるで暴風のように一気に檜山に肉薄して剣を振りかざす護衛。受け止められないと感じたのか檜山は間一発横に転がる事で回避をした。

 

 転がり直ぐに体制を整える檜山。見つめる視線の先にはもう一度護衛が力を貯めているようにまた姿勢を低くしていた。今度は先ほどよりも早そうだと思わせる威圧。しかし檜山はその姿を見て微かに口元を歪ませていた。

 

「これでしまいだ」

 

 再度巻き起こる暴風が如きの跳躍。対面する檜山は先ほどとは変わって特に回避をする動作もせず、左手に持っていた短刀、『桜花』を護衛に向けた。その動きはまるで力を感じさせず緩やかでしかし護衛の跳躍よりも早かった。

 

「ばーか」  

 

 その言葉と同時だった。短刀から直線状に刃が発出されたのだ。

 

「っ!!?」

 

 ほぼ脳天に当たる角度のそれをしかして護衛は瞬時に見切り横に逸れることで回避する。だがその動きは悪手だった。

 

「これで王手。だな」

 

 その言葉と同時に刀を振りかぶった檜山が着地で体勢を崩した護衛に宣言する。振り下ろされた刀は首を切り落とす直前での所で止まった。

 

 体勢を崩した護衛に首に刃物を突き付けた檜山。生殺与奪を握った物が勝者であるというのならこの勝負…我らの勝ちである。

 

「そこまでにしておきましょうか。これ以上は必要ないでしょう。そうですなガハルド殿」

 

「ちっ …まぁいい神の使徒とやらがどんなモンかはこれで分かった」  

 

 イシュタルの言葉を受け舌打ちをする護衛。檜山が刀を収めると、護衛は立ち上がり忌々し気に右の耳にしていたイヤリングを取った。

 

 するとやっぱりと言うか靄のかかったように護衛の周りがボヤケ初め、晴れるころには全くの別人がそこにいた。

 

 四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

 

 その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

 「ガ、ガハルド殿!?」

 「皇帝陛下!?」

 

 いきなり現れた皇帝に周囲の人たちは大騒ぎ、俺達は…驚いている者が数人心底どうでもよさそうなのが数名といった所か。

 

 王様と何やら話し始めた皇帝だが俺にとって興味はもう無い。この模擬戦で天之河が恥をかかさなければそれでもう後は皇帝や帝国なんて心底どうだっていいのだ。

 

「お疲れ檜山。カッコよかったぞ」

「危なかったけど何とかなってよかったよー」

「まさか相手が皇帝陛下だったなんてな」

「帝国で一番強いんだろ。良くもまぁ勝てたもんだ」

 

 帰ってきた檜山にクラスメイト達が次々と労いの言葉を掛ける。もみくちゃにされている檜山を眺めながらホッと一息を吐く俺。この模擬戦は天職『軽戦士』である檜山が居なければ成功は成し遂げれなかったのだ。

 

「やっぱ檜山君なら上手く使いこなせると思ったよ」

 

「殆どぶっつけ本番だろうが。 …疲れた、俺はもうあんなの二度と御免だ」

 

「後で疲労回復に聞く湿布をやるからそれで我慢してくれ」

 

 心底疲れたという顔をする檜山に湿布を渡しながら今回の作戦を反復する。

 

 

 皇帝との模擬戦、実質作戦の肝は檜山が天之河の代わりをすることだったのだ。 その為に檜山の強化が最優先だった。相手は帝国の中で一番強いであろう皇帝陛下。正攻法で勝てるのなら問題は無いが相手は傭兵や荒くれ物の一番トップ。数か月の訓練程度の俺達ではとてもではないが勝てない相手だ。

 

 だから俺達は戦闘を吹っ掛ける相手となる檜山の強化に目を付けたのだ。幸いにして俺はソラリスの能力者。身体能力をドーピングする薬なんて幾らでも作れるのだ。

 使った薬は『アドレナリン』『アクセル』『力の霊水』の三つを事前に檜山に服用してもらった。効果は薄めにして、体に馴染むかどうかは最後まで不安要素だったが…流石は檜山上手く薬を使いこなしたようである。

 

 南雲は檜山の武器の製作をした。始めからギミックのある武器を作りたがっていたが檜山は軽戦士。シンプルな方が良いとの結論でモルフェウスの力を行使して日本刀を作ったのだ。

 確か『インフィニティ・ウェポン』と呼んでいたが…ともかくすぐに南雲の望む武器が製造された。そこに一応の隠しギミックとして刃が射出されるギミックを作ったのだ。何でも『流石に異世界で刃を飛ばすなんて発想は出てこないだろうし…ちょっとビックリさせるのもいいよね』と言う結論で作ったらしい。どこまでも浪漫に生きる奴である。そしてその浪漫を活用した檜山も大概である。

 

 闇術師の清水が施したのはこの模擬戦となる場所にあらかじめ魔法陣を仕組んでいたのである。ごくごく小さい隠密性優れた魔法陣で作った結界内で皇帝に感情操作をしやすくするようにしたのである。最も清水曰く出来たのはほんの少しだけ思考が単純になると言う物だったが…結果は見ての通りであった。

 

 皇帝は俺たちの領域にノコノコ足を踏み入れこちらを見下し始めた。なるほど実力主義者なら別に問題は無い、だって俺達は元は只の学生だから。でもね、馬鹿にされれば腹に来るものだってあるのだ。

 

 手を出さなければ無害。でも手を出そうとするのならそこには凶悪な毒が含まれている。俺達は専守防衛を得意とする能力者達。領域に入り平穏を脅かすのなら俺達はどんなことだってしてしまう。

 

 こうして俺達の影の活躍によって天之河は恥を掻かずに済み、俺たちのクラスは舐められずに済み、王国は帝国との同盟をスムーズに進めることが出来、クソッたれな脚本をぶち壊すことが出来たのである。

 

 これぞ我らの勝利ってね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅ 檜山と言ったか」

 

 皇帝が檜山を見つけたのは懇談のためのパーティーの時だった。皇帝にとっては王国に滞在したところで得られるものは無い。暇をつぶすためと多少の興味で先ほど行われた模擬戦の相手である檜山を探していたのだ。

 

「チッ あんだよおっさん」

 

「おいおい俺は皇帝だぞ 口の利き方には気を付けた方が良いと思うぜ」

 

「俺達にとっての皇帝じゃねぇだろうが。口に気を付ける必要性なんてこれっぽちもねぇな。それとも何だ?異世界の住人から敬れてぇのか」

 

 返す口の利き方は完全に嫌悪感丸出しだ。だが皇帝にとってはそれが良かったのだ。おべっかを使いへりくだるより堂々とした不遜の態度の方が好感が持てる。ガハルド皇帝とはそんな男だったのだ。

 

「はっはっは わりぃわりぃ。そんなどうでも良い話をしに来たんじゃねぇさ」

 

「ならなんだよクソ野郎」

 

「お前、俺の国に来ねぇか?」

 

 それは唐突なスカウトだった。キョトンとした顔を向ける檜山にまた愉快になりつつ皇帝は話を続ける。

 

「模擬戦をして分かったがお前はまだまだ発展途上だ。俺たちの国に来ればもっと強くなる。それにダーティーな挨拶のやり方も心得ている。まさしく俺たちの国に馴染みやすい人材だ」

 

 治安が悪くしかし活気と熱気はほかの国とは比べ物にならない国。それが皇帝の治める国だった。檜山大介はそんな国に適合する人材だと皇帝は直感を抱いたのだ。

 

「あのなぁ 一体俺に何の得があって」

 

「俺の国に来れば金はたんまり手に入り、名誉も思いのままだ。役職も与えてやろう、俺の側近として行動すればお前が望むものはなんだって手に入る」

 

「だからいい加減に」

 

「女だって抱き放題だ。好きな女を侍らせ、飽きたら捨てればいい。ああ、亜人族ってのも良いぞ。奴隷なら腐るほどある」

 

「!」

 

 檜山の瞳がぶれたのを皇帝は見逃さなかった。この男はこちら側の人間。欲に正直で欲しいと願える誰よりも人間らしく人間味のある逸材なのだ。

 

「お前はこっち側だ。暴力を正当化し発揮する強者そのものだ。弱者の傍にいるのは止めとけ、詰まらねぇ法に下らねぇ

情に従う理由は無い」

 

 そして鍛え上げればまだまだ強くなれると皇帝は感じ取った。模擬戦で一瞬だけの交差でも感じ取った強者特有の圧の出し方。刃が出るギミックを至極当然に使えるダーティーさ、皇帝と言う政治に関して手を出せないものに臆さない肝の太さ。

 

「俺と共に来い檜山。俺と来ればお前の未来は確実に栄えある者と変わる」

 

 

 

 

 そう言い切った皇帝の目は侮蔑は一つも無かった。檜山大介と言う個人を見て要るように思ってしまう清々しさだった。

 

 だから檜山は告げる。皇帝に対し己の未来を選んだ。

 

「ねぇな。俺がお前と行くだと?あり得無さ過ぎて笑えて来るぜ」

 

 言葉とは裏腹に一つも笑みを出さない檜山。皇帝と檜山数秒だけ目線を交差させると、突然皇帝は笑い出す

 

「ぶわぁはっはっは!そうか俺の庇護を無下にするか!これは随分と手酷い振られ方をされちっまたもんだなぁ!えぇ!?」

 

「うるせーおっさんだな」

 

 愉快そうに笑う皇帝は腹を抱え力の限り爆笑してくる。対して面倒そうに舌打ちする檜山は実に対になっていた。

 

「ふぃー 久しぶりに笑ったぜ。なぁ檜山」

 

「あん?」

 

「どうして俺の話を蹴った。お前にとって美味い話であることは間違いない。それぐらい分からんでもねぇだろ」

 

 事実檜山にとっては皇帝の話は、メリットは大きかった。自分の実力を思う存分振るえる場所であり、実力主義国家なら訓練相手にも困らないだろう。自身の腕は上達し、何より皇帝の傍なら望むものがすべて手に入る可能性だってあるのだ。

 

 金も名誉も強さも…そして女さえも。

 

 檜山自身薄々気が付いている。自身の淡い恋心は決して花咲かないものだと実る事の出来ない幻想そのものだと理解しているのだ。だからこそ皇帝の話は旨味があった

 

「…否定はしねぇよ。あんたについて行けば裕福な暮らしは間違いない」

 

「だったら何故だ?アイツ等か」

 

 皇帝の向ける視線の先には檜山の友人たちが居た。雑談をし、楽しそうに話をしている少年たち。その姿を見て檜山はふっと笑う。

 

「まぁな。アイツ等は俺が居ねぇとてんで駄目な連中だからな」

 

「…そうか」

 

 意外と平凡すぎる答えに少々失望を隠せない皇帝。自身のスカウトを蹴ったのだ。もっと訳アリな理由かと思っていたのだが

 

「……ってのは建前だ。大本は別だ」

 

「ほぅ」

 

「……ガキの時、ある奴と一緒な保育園だった」

 

 少しの間があり、ポツリと零した内容は檜山の幼少期の時だった。檜山自身ずっと胸の内に抱えていた思い出だった。

 

「そこで俺はガキ大将をやっていた。よくある他のガキをイジメて、気に入った奴には寛大で大人には真っ向から噛みつくクソガキだった」

 

 そこで一息つく。聞かせる相手には話している内容が理解できているかどうか分からなかったがどうでも良かったのだ。どうせもう会う事もない。会う気もない

 

「そん中で1人、変な奴が居た。ニコニコといつも笑うガキだった。最初は気に入らなくてイジメていた」

 

 イジメと言っても子供のすることで虫をひっつけたり、おやつを取ったりなどそんな程度の物だった。しかし

 

「それでもそいつは困った顔をするだけで怒る事は無かった、泣きもしなかった。只々子供のすることだから仕方ないって顔で俺を見ていたんだ」

 

 それからソレが異質だと気付き始めた。外面は子供でも中身が不釣り合いだったのだ。

 

「大人のいう事を完全に理解していた。わがままを言わなかった。大人から気に入られ方をちゃんと把握していた。…何をすれば保育士の負担が減るかすべて知っている様な動きをしていた」

 

 だから大人からの受けは良かった。気味が悪くなるぐらいに。  

 

「ガキが泣いているのを困った顔であやそうとした。ガキのままごとに疲れた顔をしていた。ガキの理不尽な我儘を蔑みのこもった目で見ていた。…ガキの感情を理解していなかった」

 

 子供からは気持ち悪いと見られていた。全員から恐れられた、不気味な化け物だと大人ではわからない子供特有の本能で理解していた。 

 

「…ガキ大将だった俺は全員に告げた。アレは化け物だ、イジメるな絶対に関わるなって。…今でもその判断が間違っているとは思っていない」

 

 気味の悪い化け物に触れ合うほど馬鹿では無かった。ソレは悲しそうにはする物の寂しそうにはしなかった。だから保育園を卒業する時になっても大人達は誰もソレが独りでいるだなんて気が付かなかった。ソレも納得していたから。

 

「で、その化けもんが何だってんだ」

 

「…高校生になってまた出会ったんだ。そいつはもう俺の事なんて忘れているだろうけど、俺はハッキリと覚えている」

 

 幼少期のころなんてさっぱり忘れて友達と笑いあうソレ。子供の時恐怖だったズレは見かけなくなっており普通の高校生に見えた。そして実際話したら相手は自分のことを覚えていなくて、ただの少年だった。その筈だったのに…

 

「…なるほどな。そいつがアイツだと」

 

「皇帝さんよ。忠告して置くぜ、アイツには関わるな。人畜無害な面して中身はズレている。日本にいたときはまだマシだったがこの世界に来てからはもう俺でもどうなるかすらわからねぇ」

 

 皇帝が見ているひとりの少年を見乍ら檜山は警告する。今回は一人の人間が負けただけで結果は終わった。だが次はどうなるかはわからないと。

 

「次ちょっかいを出せば今度は国が潰れる。比喩じゃなくてな」

 

「…ふん。なるほど俺はどうやら邪竜のケツを蹴り上げそうになってたって事かい。そいつはゴメンこうむるな」

 

 少年少女たちの中に混ざっている微かな異質の匂いがする三人を見て皇帝は判断する。王国には軽いなれ合いだけにしておこうと。檜山の話を聞いてそれが本当の事だと理解するには今日の模擬戦は決まり過ぎていた。

 

「じゃ おっさんは竜のケツを間違えて蹴り上げる前に退散するとしようかね」

 

「そうしとけ、そしてもう二度と俺たちの前に姿を現すな」

 

「はっはっは お前ならいつでも歓迎だぜ檜山」

 

「チッ」

 

 こうして帝国との会談は愉快そうに笑う皇帝と不機嫌そうになる檜山との雑談で幕を閉じるのだった…

 

 

 

 

 




最初のプロットでは皇帝は物凄い小物扱いになる筈だったんですよね…ほんとキャラって予想外の動きをするものです。

ここで連絡です。二章前半が終わりました。次から後半戦となるのですが、ストックが切れました。
ですので申し訳ありませんが少しの間休息をいたします。具体的にはストックを作り上げます。何時になるかはわかりませんが、チマチマと溜めてまた投稿しようと思います。

それではまた投稿できるまで、感想はいつでもお待ちしておりますー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。