ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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予定を変更して三章に入りました。まだまだ終わりません

すこーしストックが溜まったので投稿します。


三章
とある少女の話 吸血鬼編


「…………」

 

 

そこはある迷宮の深部。光も閉ざさないその場所で少女は生きていた。身を纏う衣服は無く、表情は暗く俯いてただ時間が過ぎていく日を過ごしていた。

 

 少女は吸血鬼と言う種族だった。吸った血を魔力に替え還元する強力な種族で少女はその種族の女王だった。異常な魔力量に特異な力の数々、そして不死や不老とも取れる生命力の持ち主でもあった。

 

 とある事件が起き少女は光の差さない迷宮の中で幽閉されることになってしまい…それから永劫の時が立った。

 

「……ぅ」

 

 身じろぎをしようにも下半身は自身の魔力を封印する球体によって封じられており艶目かしい肌は鎖によって束縛されている。

 

 身動き一つできず、何もできない封印された牢獄。それが少女の状況だった。

 

 

 

 

 

 助けが来るとは考えたことは無かった。この迷宮は凶悪な魔物たちが運び居る魑魅魍魎の真っただ中にあるのだ。そんなところまでくるものが居るとは考えられない、そして自身も逃げ出そうにも何もできない。捕らわれてからずっと何も出来ず暗闇の中でただ時間だけが過ぎて行った。

 

 

 そんなすべてを諦めた時

 

 

「……?」

 

 僅かに音が聞こえたような気がしたのだ。眼前の分厚くずっと閉じたままの扉の向こうで僅かに音が聞こえたような気がしたのだ。

 

(…そんなはずは無い。…いつもの気の迷い)

 

 暗闇で幻聴が聞こえてきたのはこれが最初ではない。来る日も来る日も暗闇でおかしくなった時扉が開くという幻聴と幻想を見ていた時があったのだ。

 

 こんな所に居たくないという自分の妄想が生んだあり得ない希望。手を差し伸ばしてくれる人はもうどこにもいないという現実。

 

 

 

 いつもの様に諦めて目を閉じる筈だった。

 

 

 ギ……ギギィ…

 

 だがその日、運命はひょんなことで開かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ …思ったよりも真っ暗だな」

 

「!」

 

 突如として聞こえた声に少女は驚き顔を上げる。いつも閉じていた扉は限界まで開き光が差し込んでくる。差し込む光は緑色の淡い光と言えども今まで暗闇の中にいたのだ。目がくらみ扉の前に立つであろう人影が見えない。

 

 カツンカツンと音を鳴らして自分に真っ直ぐ来る扉を開けた誰か。それが誰なのかいったいどういう人間か誰でも良かった。

 

「….た…す……て」

 

 何年も何年も動かさなかった喉を必死で動かし擦れに擦れてしまった声を出す。喉に激痛が入るがそれでもかまわなかった。

 

 

「……助け…て……!」

 

 辛うじて出た言葉は助けを願う声。少女はこの牢獄から出たかったのだ。身動きも出来ず太陽の光も浴びず只々不老の時を生きるには少女は余りにも辛かったのだ。

 

 だから助けを乞う声が出た。ここから出してほしいと。その為ならどんなことだってする。どんな人でもどんな人物であろうとも!

 

「お願…い…わたし……何でもする「煩い。黙ってろ」…へ?」

 

 全力で出した声はあっさりと切り捨てられてしまった。思わずポカンとした表情になる少女。その言葉を理解するのに暫くの時間がかかり…涙が出てきた。

 

 どれほどの月日がたったのかは知らないがこれが外へ出るための唯一のチャンスなのだと少女は理解していた。それをばっさりと切り捨てられてしまったのだ。涙が出てしまうのはもう仕方が無かった。上げて落された気分にも等しかった。

 

「ぅ……グスッ……ぅぅ」

 

「あーもう泣くなよめんどくさい。女ってのはどうしてこう…端的に言えば頭おかしいんじゃないのか?」

 

 泣いた少女に対して心底めんどくさいという色を隠さない声の主。滲む視界を駆使しそれでもと声の主を探す。

 

「可愛い女の子が泣けばどうにかなるとでも思ってんのか?これだから―――ヒロインってのは」

 

「……女…の子?」

 

 目の前で頭をガシガシと掻くのは意外な事に自分と同じぐらいの年頃の少女だったのだ。年の頃は12から14頃だろうか。背中には小さな弓を背負っており腰には中途半端な剣を差している。

 

 服装は随分とボロボロで所彼処にちぐはぐな皮鎧を身にまとっている。子供の冒険者なのだろうか、少女には判別がつかない。

 

 だがそれらを全て些事にするほど顔の容姿は非常に整っており、何より特徴的な髪色と目の色をしていた。

 

「うん?何だよボケーとして」

 

 髪は銀糸のような美しい銀の色だった。所々くすんで汚れて滅茶苦茶になっているが整えれば見違えるほどの美しさになるだろう。

 

 目の色は透き通った翠色だった。片方は澱んで濁っているがそれでも美しいと感じた。ずっと見ていれば飲み込まれると思うほどに。

 

「もしもーし。…だめだこりゃ。まぁいいやさっさと用事を済ませよう」

 

「……! 待ってお願い此処から出して!」

 

 外見に、見惚れてしまったが直ぐに我を取り戻し声を出す。なぜ少女がこんな地獄にいるのか疑問には思ったがそれでも今はその疑問を放り捨てた。

 

「うるさいなー あのさ、助けてっていうけど実際に助けようとすると魔物が降って来るって分かってて言ってんの?」

 

「…え?…なんの話?」  

 

「あーそう言えば知らないんだったか。…大した美人局だ。見目麗しい少女を善意で助けようとすれば魔物に襲われるなんて絶対にアンタを封印した人は性格悪いよな」

 

 いきなりの言葉に口を開く事しかできない。魔物が降って来るとは何だ?そんな話一つも耳にしたことが無い。そもそも美人局とは何だ、自分は捕らわれているのに!

 

 少女の中で様々な疑問が膨れ上がる、しかし自分の背後に回った銀の少女は疑問に答えず、勝手な事を言うばっかりだった。

 

「ま、可愛いヒロインとの絡みの為には絶体絶命の危機と協力は必要だから仕方ないのかもしれないね。まぁもうどうでもいいや。んでっと。んー正規ルートは……」

 

 第一印象とは違って意外と少女は話好きなのかもしれない、勝手なことを言いつつも球体を調べて自分の目の前に現れる。

 

「んーやっぱこれしかないのか?…まったく放っておけばいいのに一体俺は何を考えているんだろうね。我ながら自分の事は知ってるくせにさっぱり分かんないよ」

 

 それは一体誰に向けられた言葉かわからない、しかし少女は笑っていた。苦笑と言うか心底困ったけど仕方ないかとでも言う様に。

 

 そして放たれる翠色の暴風。球体に向かって放たれるすべてを吹き飛ばすかのような風は自信を封印していた球体を解かしていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……」

 

 球体が溶けた後、少女が言ったように魔物は上から降ってきた。蟲型の巨大な魔物だった。少女の言った言葉が当たったことに驚きながらどうにかして危険だと少女に言おうとしたがそれは無駄に終わった。

 

 

「デカいと外せないね。尤も小さくても当てるけど」

 

 弓型のアーティファクトだろうか。物理的な矢ではなく魔力で編んだのか緑色の矢は虫型の魔物に当たると爆発し…気が付けば魔物は絶命していた。

 

 展開の速さに頭が追いつけないであると銀の少女は弓を仕舞い邪魔だと言い放つ。何が何だか言われるがまま部屋の外で待機すれば床を何やら物色している。所在なさげに取りあえず自分の胸と大事な所を手で隠しながら見守って入れると何やらペンダントのような物を床にはめ込んでいた。

 

「うーんこのいきなり重要アイテムを最初から手にれる滅茶苦茶感。意外と楽しいな」

 

 床からせせり出てきた小さな石の柱を見つつ呆れた笑みで笑う銀の少女。そして何かを取り出すと後はもう用が無いらしくあっさりと部屋から出てきてしまった。

 

「はい、これ」

 

「え?これは…」

 

「君のためのモノ。捨てるか取っておくかは君に任せる」

 

 差し出されたのは球体上の鉱石だった。少女の遠い記憶ではそれは確か映像記録用のアーティファクトだったはず。困惑しながら銀の少女を見れば後は用が済んだと言わんばかりに踵を返してしまった。

 

 

「ま、待って!おいて行かないで!」

 

 慌てて銀の少女の服の端を掴む。余りにも展開が早すぎて頭が追いつかないがそれでも助けてくれた事に関して礼さえまだ言ってなかったのだ。

 

 手を振り張られると思ったが意外とそんな事は無く、銀の少女は振り返った。…顔は面倒そうだったが

 

「どうした?一体何の用だ」

 

「…助けてくれて有難う」

 

「どういたしまして、じゃ」

 

 杜撰な対応だった。それではあまりにもあっけなさ過ぎる。少女は憤慨し少し悲しくなった。

 

(それじゃ…寂しい)

 

 折角知り合ったのだ。礼を言ってはいそれでおしまいは悲しかったし寂しかった。長い牢獄生活で少女は人の温もりを猛烈に欲しがったのだ。たとえそれで嫌われようとも。

 

 銀の少女そのまま別れようと歩き始めるがそれでも服は離さない、寧ろ力を込めた。逃がして堪る物かと少し思った。

 

「お礼。私助けて貰ったのに何もしていない」

「要らないよ。もう十分返して貰ているので」

「?」

「自分が良い奴だというくだらない自尊心を満たした。ほら、報酬はもう充分貰った」

 

 どうやら関わろうとするのを避けているように感じてくる。根拠はない、女の直感だ。さらに力を込めて…寧ろ先回りする。

 手を広げて逃がさないぞとアピールするのも忘れない。…銀の少女は視線を外した。そう言えば今全裸だった。恥ずかしい所全部さらけ出しているが知るもんか

 

「…まだ何か?」

「貴方の名前…聞かせて」

「無いよ。俺に名前は無い」

「……嘘」

「…はぁある意味本当の事なんだけど」

 

 面倒そうに深い溜息を吐く。言っている意味は分からなかったがこのやり取りで分かった。この銀の少女話せば話すほど深みにはまるタイプだ。…別名チョロイとも言う。 

 

「アリス。又はアニマ。…まぁどっちでも好きな方で呼べ。()()()()()()()()

「?ならアリス」

「じゃあ 名前を教えたので」

「待って」

 

 右にすり抜けようとしたので右へ移動する。左へ行こうとすれば左へ。何とも子供っぽいやり取りだがどうやら効果は抜群だ。

 

「…通してくんない」 

「やだ」

「……何で」

「責任とって」

「へ?」

 

 目を丸くする相手に少女は自分のわがままを押し付ける事にした。生来わがままを言える身分ではなくそういう子供っぽい所は抑え込んでいたがどうやら長すぎる牢獄生活で色々と弾け飛んだらしい。

 

「私を助けた責任とって」

 

 心底面倒な表情でアリスは溜息を吐いた。でも少女は気が付いた、その面倒そうに振舞う目が少しだけ笑ったのを見たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前付けて」

「やだ、センスねーよ」

「それでもつけて。文句は言わない」

 

 それからアリスとの冒険が始まった。聞くことは色々とあった目的は、何故一人なのか、何故その若さで出鱈目な強さなのか。

 

「そもそもなんで名前を付けないと行けなんだ。元からあるだろ」

「人生を新しく始めるため。これが最初の一歩」

「……じゃあゲロシャブ」

「…うぅ…グスッ」

「あーもう!今考えるから待ってくれ!」

 

 泣きまねをすれば余りにもチョロくてすぐに構ってくれる。…何だか少し心配になるチョロさなのは言わないでおく。

 

「ティア。それで良いだろ」

「ん。私の名前はティア」

「はぁ…」

「ねぇアリス」

「ん?」

「私の初めて…取られちゃった」

「…………はぁ~~~~~~」

 

 赤い顔で頭をガシガシと掻いている。揶揄えば割と初心な反応を返してくれる。助けて貰った身でありながらアリスを揶揄う事に嵌っていく。妙な扉が開く危険な匂いを感じた。寧ろ望むところだ。

 

 迷宮探索は進む。そもそも少女改めティアは魔力がとてつもなくある吸血鬼なのだ。強敵はいなかった。無論アリスも。

 

「アリス」

「何」

「あのアーティファクトは何?」

「見ればわかる」

「……見たくない」

「好きにしてくれ。俺は関知しない」

「アリスと一緒なら見る」

「はぁ」

 

 

「アリスは何故ここに?」

「…興味本位で来た」

「ジ――――」

「…ある目的がある。その為にここに来た」

「目的?」

「…半分は終わった」

「……私の事?」

「ノーコメント」

 

 迷宮攻略は余りにも順調だった。と言うより苦戦せず最深部も踏破してしまった。本来ならかなりの苦戦が免れない最深部のボス、九つの頭を持つ蛇はアリスが放つ魔力矢により頭部を弾け飛ばされてしまった。一体どれだけの威力があるのか…考えたくもない、喰らってしまったら自分でも即死は免れないだろう。

 

 

 そんなわけで迷宮最深部を突破したどり着いた秘密の隠れ家、別名反逆者の住処、そこで休む事となった。三階にいたここの住人である骨の遺体には多少驚きつつもそれがこの場所の住人で解放者と呼ばれていたオスカーだと部屋に会った麻帆仁で知った。その説明を受けたアリスどこか悲しそうにオスカーを見つめ遺体を物凄く丁重に埋葬をした。

 

 そしてある程度の探索を終え、大きめな風呂場を発見した時アリスから先にお風呂に入って来いと言われたのだ。

 

「ん。一緒に入ろう。洗いっこしたい」

「嫌、つーかさっさと行け。気が付いていないかもしれないけどかなり臭うぞ」

「!!?!??!?!?!?」

 

 とまぁそんなやり取りもあったが一番風呂は譲ってくれた。久しぶりにはいったお風呂はやはりかなり気持ちが良い物で少々のんびりしてしまった。丁寧に丹念に体を洗い、一応臭いが取れたと判断してから上がりそこで、暖炉の近くでソファーに座りぼんやりとしているアリスを見つけた

 

 

「アリス」

「何」

「お風呂空いた」

「そう」

 

 パチパチと音を立てる暖炉を眺めているその横顔は何を考えているのかわからない。何となくアリスの横に座ったら一人分間をあけられた。悲しくなった。

 

 中々風呂場へ行こうとしないので少し話をすることにした。一応無視はされないので嫌われてはいないらしい。

 

「アリスはどうしてここに?」

 

 一応迷宮攻略の時に聞いたことだ。はぐらかされてしまったが、今一度問う事にした。

 

「…お前を助けるため」

 

 ポツリとつぶやいた言葉は自分を助けるためだという。その言葉は凄くうれしかった。あの永劫に続く暗闇から救ってくれたことはどんな事をしてでも返したいほどの大きな恩だった。

 

 しかしここで一つ気になる事がある。なぜ自分があの場で捕らわれていることを知っているのかと言う尤もな事だった。あの場に自分が居るのは閉じ込めた張本人か極少数だ。普通は知る筈もない事なのだ。

 

「教えない、言った所でわかる訳が無い」

「む、…それでも知りたい」

「なら言い方を変える。教えたくないんだ。察しろ」

 

 どうやらかなりの禁句らしい。気にはなるが仕方無いと諦める事にした。助けてくれたの事は事実なのだ。それで良しとする。

 

「…風呂入ってくる」

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

 ある程度ぼんやりしたらそう一言つげてお風呂場へ向かうアリス。何だかんだで彼女も綺麗好きだ、今まで迷宮の中で体を洗えないことに不満を零していたのを知っている。

 

「……今のうち」

 

 アリスがお風呂に入っている間に彼女の私物を点検することにした。正直な話こそ泥みたいで気が引けるが彼女の事を知りたい気持ちが罪悪感や倫理感をはるかに上回ったのだ。

 

 

「…?どれも普通」

 

 彼女がいつも携帯していた武器を調べる。短弓に小剣と言う子供が持ってても不自由しない大きさだった。調べてみるがどれもアーティファクトの類ではなく只の丈夫に作られた市販の武器だった。

 

「…ならアレはやっぱり自前の…」

 

 迷宮内では弓矢を構え何度も魔物を狙い魔力矢で撃ち続けた。近くまで接近してきた魔物には小さな剣で一撃で両断し切り捨てた。武器がアーティファクトの類かと思ったがどうやら自前の力らしい。…もしそうだとするのなら明らかに規格外の力だ。

 

「…他には特にない…?」

 

 彼女が持っていたバッグも調べる。そこからは大きさに見合わずさまざまな食料品や日用品が取り出されたが、驚きはしなかった。初めて見た時、ある程度の説明は受けていたのだ。尤も空間魔法がどうたらとかイマイチ説明にもなっていない話だったが。

 

 その中で一つ気になる物があった。奥底の底、二重構造で隠されていたノートを発見したのだ。

 

「…今のうち!」

 

 キョロキョロと辺りを見回しまだ彼女がお風呂から出てこないのを確認し、一度深呼吸を挟んで中身を開帳する。

 

「!」

 

 そして出てきた文字に戦慄した。

 

「…読めない」

 

 最初に書かれた文字が読めなかったのだ。まるでミミズが這うような文字だった。理解しようとすればするほど頭が痛くなるような記号の数々。均等に書かれてはいるがはっきり言えば解読不能だった。

 

「…むぅ。まるで異種族」

 

 ペラペラとページをめくり読める場所を探す。そうしている内にまるで異なる種族の文字のように見えてきてしまってまるで自分が考古学者のような気分になってきた。

 

「…うん?」

 

 そうこうして流していけばようやく読み慣れた文字が見えてきた。といってもまるで文字が覚えたての子供のような落書き感はあったが。

 

「……文字の練習?」

 

 書かれていた内容は単語のような短文の羅列だった。汚い文字を何とかして綺麗に書けるよう様にと四苦八苦したような跡が残っている。

 

「…じ…ぶん…はん…ため……みま…?」

 

 解読が難しい、流石に酔ってきそうだったのでまたページをめくる。後に続くのは日記と言うより何処の町へ行ったかなどの確認内容だった。これでは流石に面白味や探求心が減ってくる。

 

 しかしその中の最後のページ。それがひときわ目立った。

 

「これは…」

 

 最後に書かれた内容に目を通す。その頃になると文章はある程度読めるようになっていた。思わず見入ってしまう

 

『明日、迷宮に入る。

 

 意味は無い、行く必要はない、そのはずだ。そのはずだった。

 

 何故向かおうとしているのか。見当がつかない。このままでは計画に支障が出てくる。

 

 理解しているのに止まれない。これは立派な違反だ、優先順位を間違えている。

 

 どうして? その疑問が尽きない。自分が向かう必要性は皆無なのに』

 

 

 これは、先ほど話した何故迷宮に来たのか、それに関しての内容だろう。日記で見る限りは何故迷宮に入ろうとしているのか当事者本人が混乱しているようだった。

 

 だがその先に掛かれた、最後に掛かれた最新の記述である程度納得がいった。

 

『理解した。見誤ったのは自分の心』

 

 その後には何も書かれてはいない。少しばかりその文字を指でなぞり…元に戻し片づけた。自分が触った痕跡は残さず気が付かれない様に。

 

「……」

  

 様々な感情が不出してくる自分の心を時間を使って整理し、そしてふと気が付く。風呂に入っているには長すぎると。何せ結構な時間ノートを読みふけっていたのだ。

 

 

 急いでお風呂場に入ってみればそこにいたのは…

 

「…アリス。茹で上がっている」

 

 風呂場の淵で顔を赤くしてのぼせているアリスだった。白い肌は赤くなっており、目がトロンと何処かを見ている。呼びかけてみるが反応が薄い。

 

「よいしょっと」

 

 仕方がないので全裸のアリスを背負い部屋まで運ぶことにした。アリスの身体は想像以上に軽い。自分よりも軽いのではないかと言う体に少々驚きながらえっちらおっちら不慣れな中部屋まで歩く。

 

 その時ふと背中でうわ言のような声が聞こえてきた。

 

「……全ては……自分の為に」

 

 それが何を意味するのか結局別れてしまうまでわからなかったが、兎も角意外とポンコツなアリスに苦笑するのであった。

 

 

 

 

 

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