ゆっくりとお楽しみください
「ふぃー ようやく君たちの仕事場の場所が確保出来たっすよー」
嬉しそうにはにかむのは俺たちの先生ニート教官だ。随分と久しぶりに感じるが俺たちの作業場を探してくれていたらしい。何でも許可を取るのが大変だったとか書類手続きがしこたま面倒だったとか。ありがてぇ限りだ…
「で、ここが俺たちの拠点になるんですか?」
「えーっとプレハブ小屋?」
騎士団敷地の隅っこにあるまさしくぽつんとした倉庫。老朽化しており使っていないのがすぐに分かるほど廃れていた。
「もう使わなくなった倉庫ッス。他にも色々と候補があったんスけど、騎士団の近くの方が良いだろうって事になったんっすよねー」
なるほど確かに使われていないのなら俺たちが自由に使っても文句は言われないだろうし、俺達としても棚から牡丹餅のような物だ。
「なんにせよ有難う御座いますニートさん。これで僕達も気兼ねなく作業できます」
自室での作業にも色々と限度がある。俺は薬品を南雲は道具作成など、人から見られたくないもんだって一杯あるのだ。どうしても隠れ家的な物は欲しかった。
だけど礼を言う俺達にニートさんは随分と苦い顔をする。成してと伺えば
「あーそれで中身なんすけど…」
ニートさんの後ろについて行けば、なるほど、口を濁したのも頷ける。
「うっひゃー、ガラクタでいっぱいだぁ」
中には壊れた武器や道具、廃材が所狭しと置いてあったのだ。流石は使われていない倉庫。そう言うもんも溜まってしまうものだ
「で、君たちがこの場所を使う代わりに掃除をしろってのが条件で…」
「なるほど、使いたいのなら掃除しろって事だったんですね」
王国側からすれば倉庫が綺麗になって備品が潤う事になる。つまり一石二鳥である。押し付けられた感はあるがまぁ…これぐらいはしょうがないか。そもそも俺や南雲が居る以上掃除なんて楽勝に過ぎないのだ。
「まぁ片づけは自分も手伝うのでちゃっちゃとやっちゃいますか」
「大丈夫ですよニートさん。僕は錬成師。これぐらいの量なら僕達二人でさっさと片付けれます」
「そうッスか?まぁ君が言うのなら大丈夫だとは思うんスけど…分かったッスよ」
首を傾げるニートさんは片づけようとした手を引っ込んでくれた。流石に場所を提供してくれたのに片づけまで手伝ってもらうのはね。
「それよりニートさんにお願いがあるんですけど」
「うん?…あ、そう言えばそうッスね。あの約束を果たさなきゃいけないっすよね」
南雲の言葉に一瞬?マークを出したがすぐに閃いたらしい。それはニートさんと俺たちの約束。果たせなかった約束があったのだ。
「それじゃ早速城下町を案内するッスよー」
「やったぜ」
現在の場所は城下町へ行く門の前。そこで俺と南雲はニートさんと待ち合わせをしていた。
城下町の案内。迷宮に行く前に帰って来たらハイリヒ王国城下町を案内してくれるという約束をしていたのだ。随分と時間がたってしまったが、それは仕方がない。ニートさんは仕事で忙しいし俺達も色々と作業がある。だからこうやってこういう機会はハッキリ言えばすごく楽しみだったのだ。
「つっても自分もそんなに明るいわけじゃないっすからね。適当になっちまうっすよ?」
「全然構わないです。寧ろ滅茶苦茶助かります」
「現地の人がいるってだけで僕達にとっては安心ですから」
旅行だろうが観光だろうが見知らぬ世界であり、未知の世界だ。いくらそれなりになれてきた異世界生活とは言え、俺たちの拠点は王宮であり、詰まる所上級生活を送っているのだ。最近は南雲は下町になれ始めたらしいが、それでもやっぱり現地の人がいる案内ほど頼もしい事は無い。
「んじゃまずはこの噴水広場っすねー」
早速案内された場所は丁度町の中央広場に当たるところだった。ざわめく人の数の多さは流石は中央といった所か。屋台や店売りやら、ざわつきと活気は中々の熱気ぶりだ。
「あの噴水が目印になるんでよく待ち合わせとか集合場所になるッスねー。一応観光案内的な物にもなってるっス」
「噴水か…やっぱり時間が来れば水の吹き上がる量とか変わるんですか?」
「お、良く知ってるっスねー。詳しい事は良くは知らないっすけどアーティファクトを使ってるとか何とかって話ッス」
ここら辺は日本とは変わらないようだ。大きな噴水のまではしゃぐ子供達が微笑ましい。家族連れやカップル連れの憩いの場ともなってるんだろう。
「あ、あそこに近藤君がいる」
「うむ?…あ、本当だ」
南雲の指さす方向には珍しい事に近藤が居た。何やら噴水の池を見て考え事をしているようで周りには人が居ない。避けられているとでもいうべきか。
「話しかけた方が」
「止めた方が良いよ」
止めたのは南雲。なしてと目で言えば、アレは近藤君の問題だと返されてしまった。
「何か知ってるのか?」
「色々と想像はつくんだよ。彼に関しては安易に手は出さない方が良いと思うんだ」
そこまで言われるのならそっとしておいた方が良いのかもしれない。気にはなるんだけどねー。
「良くは知らないっすけど困っていて助けてほしいって言われたのなら助ける。それでいいと思うっすよ」
とはニートさんだ。誰かってプライドがある、手を出すのは善意かもしれないが、そのせいでこじれる可能性だってあるのだと人生の先輩は教えてくれる。
「そういう事なら…」
悩んでいる様な近藤に心の中でエールを送る。何に悩んでいるのか知らんが俺は何時だって力になるぞー。
「そんじゃ次は…まぁふらふら行くッスか」
行く場所は決めずに適当に寄った場所を紹介する案内へと切り替えたニートさん。中々の面倒くさがりだが、俺としては色んな場所へ連れて行ってくれるのだから有り難い限りだ。
そんなこんなで連れてきてくれた場所はなんかやたらと厳重な警備がされている場所だった。鎧姿の兵士が何人も駐在している。
「君たちは疑問に思ったことは無いっすか。魔物が蔓延るこの世界で何で町は安全なのだろうって」
ニートさんのいきなりの質問だが、ふむ、確かに言われてみれば魔物が多く存在するこの世界。そんな中、町は安全で魔物なんて見たことが無かった。今までは単純に人のいるところによりつかないと思っていただけだったが、ニートさんの口ぶりからしてどうやら違うようだ。
「ここはハイリヒ王国全域を守る大結界それを管理している場所ッス。言い変えればこの町や王城の急所っすね」
「大結界?」
そう言えば初めて聞く単語のような?そんな俺にあきれ顔で南雲が説明してくれる。
「この城下町には結界が張られているんだ。何でも国に敵意がある者は入れないだとか、原理はよく知らなかったけど、その結界のお陰でこの町は平和なんだ」
「んで、その結界を作っているアーティファクトがある場所がここッス。見ての通りかなりの数の兵が駐在していて…」
そんな話をしていた時だった。複数の兵士がこちらにやってきた。野郎三人集まってジロジロと見ていたのだから向かってくるのは仕方ないのだが…何か友好的では無い雰囲気がする。つーか腰の剣に手を掛けてね?
「貴様ら何者だ!この怪しい奴らめ!」
鼻息荒くしてやってくるのは顔を紅潮させた厳ついおっさんだ。他も同じような騎士たち。装備が中々装飾派手なのは神殿騎士って奴だからか?
「あー警備ごくろうッス。自分は」
「誰に許しを得て口を開いている!ノコノコと現れ我ら神殿騎士団の管轄に踏み入るとは…」
ニートさんの言葉を待たずに詰め寄ってくるおっさんズ。言っちゃ悪いが目が逝ってる。…なんか怖い。そそくさと一歩後ろに退く。
「だーかーら話を聞いてくれっす」
「この痴れ者め、どうやら我が剣の錆びになりたいようだな」
しゃらんと剣を抜く神殿騎士。…へ?ただ単にこの場所を見ていただけで剣を抜くの?こいつらイカれてんの?
「ふっ、我ら神殿騎士に歯向かう奴がいるとは」
「我が神の神罰を食らうが良い」
「エヒト様に捧げるものが増えるわ…」
逝かれポンチに続いて物騒な光物を抜き出すほかの目が逝ってる人達。あまりに急展開に脳みそがついて行けない。ニートさんは驚く様子もなく俺達の前に立っていて、南雲の方は…腰に手をやって?その姿を目に入れたのかおっさんの口元がつり上がる
「ククッ そうか貴様らが我が神に反逆を試みる愚物の集団『反逆者』共か!…っ」
反逆者。たしかアリスさんが言っていたような単語が出た瞬間、ニートさんの空気が変わったような気がした。疑問形なのはこちら側からはニートさんの顔が分からないけど
「違うッス、デビット神殿騎士団隊長。自分はメルド騎士団ニート・コモルドッス」
「メルド…ああ、あのろくでなしの寄せ集めの集団か」
メルド団長の名前を出した途端、目に理性が入り剣を収めるおっさん。しかし今度は強い侮蔑の表情を浮かべ明らかにニートさんを見下している。
…嫌だなぁ、怖いなぁ。怖くて怖くて少し危険なクスリが出来そうだなぁ。
「ふん!あのような寄せ集めの愚図共の頭領なんて「すません自分達これで良いっすかね」
話している最中に話を遮られると結構イラッとする。そのニートさんの目論見通りおっさんはかなりムッとした表情をしたが、生憎俺達もそこまでおっさんの顔を見たいわけではない。
「それじゃ仕事頑張って下さいッス。……神の玩具共」
何事かと喚き散らすおっさんを放置して、俺達はさっさとそこから離れるのだった。
「いやぁ申し訳ないっすね。ちょっと神殿騎士団の人達最近ピリピリとしているんで」
へらっと笑って謝るニートさんに引き連れられ俺たちは大通りを歩いていた。時間帯は昼時、そろそろお昼を食べようという事で飯場を探しているのだ。
「大丈夫ですよ。そりゃまぁあそこまでイカれているとは思わなかったですけど」
剣を抜くとか神がどうこうとか明らかにやばいよねアレ。もしかして一般人相手でもそうなの?
「あー…神殿騎士ってのは文字通り神に絶対の忠誠を持つ騎士たちの事を言うッス。家柄や血統がエリートの方々っすね。そんな教会からの覚えが良くて信仰心厚い騎士たちは、まぁ、神の騎士と言い換えてもイイっすね」
「神の騎士。字面だけ見るとカッコいいけど…」
「でもぶっちゃけ肩書の割には国に対して何も出来ていないんすよねぇ」
お飾り騎士団。肩書だけは良く、しかし実際は何もしていない。そういう事なのだろうか。
「そういう事っす。やたらと尊大な態度をとるわ、金にがめついわ。何かあったら神を盾に騒ぐとか、まぁ、ろくでもない連中だから滅茶苦茶町の人からは嫌われているんすよねぇ」
「それで、あんな威圧的な態度をとってきたと。おっかないですね」
「だから出来るだけ神殿騎士には近づかない方が良いっすよ。屁理屈をこねて神敵だとか言い出すッスからね」
ニートさんの忠告は尤もだ。もう二度と神殿騎士とは関わらないでおこう!
「で、そんなどうでも良い人たちは置いといて、今向かっているのはどこですか?」
神殿騎士に対してもはやいい感情を持たないであろう南雲はニートさんにこれから向かう場所を訪ねていた。フラフラと歩きながら観光しつつ食事処を探しているのだがどれもこれも上手そうな所ばっかりで何処へ向かうのかさっぱりだった。
「むっふっふっふ~ 食事処とはちっと違うっすけど、君たちが行ってみたいと思っていた場所に行くんすよー」
何処だろうという疑問は目の前に見えてきた建物で期待へと膨れ上がった。一本の大剣が描かれた看板の建物。ホルアドの町にちらっと見えた建物と比べて歴史を感じさせるその場所の名は冒険者ギルド。
以前俺と南雲が行ってみたいとニートさんに愚痴った場所だった。
「冒険者ギルド。冒険者が依頼を受けたり報告など、まぁ君たちが想像しているのと大差はない場所ッス。ここで軽食を摘まもうっス」
「マジッすか。俺たちのような一般ピーポーが冒険者ギルドに入っても良いんですか?」
「良いっすよ~。多少ガラの悪い連中がいるかもしれないっすけどねー」
ポカンとした顔で冒険者ギルドを見る南雲を引っ張りつつニコニコと笑うニートさんにつられて中へ。
中は想像通りと言うべきか、受け付けには可愛い女性スタッフが居て、奥の方ではテーブルに座っている歴戦の冒険者たちがごろごろといる。依頼でも張り付いているのか掲示板らしきものの前には数人の男女がたむろっていた。まさしく想像通りで想像以上だった。
「ほぇー やっぱり冒険者ギルドってすっごいなぁ」
お上りさん丸出しでキョロキョロしているが許してほしい。なんせ始めてきた場所なのだ色々と興味など湧いてしまうのは仕方がない。
「んじゃあっちのテーブルで適当に待っていて欲しいっす」
「ニートさんは?」
「自分は適当になんか頼んでくるッスよ~」
促されるままテーブルの方へ。昼時なのか賑わいがある中、何とかテーブルを見つけ出しちょこんと席に座る俺と南雲。
「す、すごい所だな。周りの圧迫感がスゲェ」
「落ち着こう柏木君。じっとしていれば何も起きない筈」
ある程度は仕方ないと思ったのだが見られている感が凄い。このまま何も起こらずニートさんが来ればいいのだが…
そんな時周りの空気が一変した。何か場が静まったというか…緊張している?周りの人達を見れば視線を変わらないけどどこかを見ているというか…何だろう変な空気だ。南雲を見ればギルドの玄関口を見ていた。
「一体皆どうしたってんだ?」
「柏木君。多分だけどあの人が来たからだよ」
南雲が見ている視線の先。その先にいたのは金髪の若い男だった。年の頃は大体二十代前半だろうか、端正な顔立ちで柔和な笑みが良く似合いそうだが纏う空気はかなり力強さがある。確かな実力のある好青年と言った風体の男だった。
「お?珍しい人が来ているっすね」
「ニートさん」
昼食を持ってきてくれたニートさんが青年冒険者を見て呟いていた。礼を言い持ってきてくれた昼食を受け取りながら件の人について聞きだす。こういってはおかしいかもしれないが、なんだかとても気になってしまう人なのだ。
「あの人は一体何者なんですか?何かここに来てからみんなが緊張しているような気がするんですが」
「ま~そりゃしょうがないっすよ。何せランク金の冒険者たちの中でも最高峰と呼ばれている人っすから」
「金ランクの中でも最高峰!?それって詰まる所」
「冒険者の中で一番強い人。実績と実力全てが重ね合わさったギルドが誇る最高戦力…って事ですよねニートさん」
俺の驚きに続いた南雲が何故かドヤ顔でそう締めくくる。冒険者のランクはお金と一緒で金が一番上なのだ。その中でも金になるにはそれこそかなりの実力者でなければいけないとか。
「身内びいきで金になる馬鹿とかが多い中でも、あの人だけは別格ッス。なんせあの魔境北の山脈を若干十代前半にして助手を連れて立った二人で踏破し 探索を終えたんすっから」
「…えとすみませんニートさん。北の山脈ってなんスか?」
俺の疑問に苦笑するニートさん、話を聞くとどうやらその北野山脈と言う場所は一つの山を越えると魔物の強さが跳ね上がる魔境の様で銀の冒険者達が四つ目が精々の所すべてを踏破したというかなりの化け物クラスと言うのだ。
「まぁ行ったことが無い君達では想像は難しいかもしれないっすけど…そうっすねオルクス迷宮を100階層まで単独でしかも一日で降りれるほどの強さと言えば
分かりやすいっすか」
「それってつまり俺達神の使徒以上のクラスの強さなんじゃ…」
実に解りやすいがそうするとあの人は神の使徒クラスって事になる。やべーんじゃないの?
「そんな実力を持ちながらも性格は温厚で人当たりが良いし生まれも貴族の三男坊。引く手数多の実力良し血筋良し性格良しの、まぁ、とんでもない人間っすね」
なんともべた褒めである。どうやら俺が思っている以上に凄いようでなんだか嬉しくなってくる。…いや待て、何で俺が嬉しく思うんだ?
「それで名前は何て言うんですか?」
南雲がニートさんに聞いたある意味当然の疑問。その疑問を答えたのはニートさんでは無かった。
「ウィル。私の名前はウィル・クデタと言いますよ。お二人さん」
爽やかな声で名乗ったのはいつの間にか近くまで来ていた当の金の最高峰の青年冒険者だった。いきなり現れたことに驚くよりもまじかで見たその顔に何やら胸が高まる。…トゥンク?
「お久しぶりです、ニートさん」
「ういっす、久しぶりッスウィル君。冒険は順調っすか?」
「はい楽しいですよ。やはり冒険とは何時になっても心躍る物です」
「はっはっは、んな爽やかな顔で言われると内の騎士団に誘いにくいじゃないっすか~。メルド団長からは見かけたら必ず誘えって厳命されているんっすよ」
「そのお誘いは嬉しい限りですが、あいにく私はこっちの方が性に合っていまして、そのお誘いは心だけお受け取りしておきます」
俺達を置いてのこの軽快な会話のやり取り。聞いた内容だとメルド団長はこの逸材をどうしても騎士団に引き込みたいらしい。うーんますます誇らしい…だから何でだってのこの俺の感想は。
「それで今日はどうしてこちらに?」
「この子達にギルドってのがどんな場所か教えてあげようと思って、こっちにいるのが南雲君に柏木君。俺の後輩っすよ」
ニートさんから紹介され会釈と共に挨拶をする。金ランクの冒険者だ、今後何があるかはわからないけどぜひとも顔を覚えて頂きたいという下心を入れながら自己紹介をしたのだが…何やらウィルさんの様子がおかしい。
「…南雲ハジメ君、ですか」
南雲の名前に何か思い当たる事でもあるのか少し難しい顔をする。いったい何のことやらさっぱりな自分としては南雲と一緒に疑問符を浮かべるだけだったが、ふと柔和な笑みを出して南雲に手を差し出す。
「確か天職は錬成師でしたよね。これから頑張ってくださいね」
「は、はい」
にこやかに笑うウィルさんにぎこちなく遠投する南雲。金の冒険者で年上だからか、かしこまった南雲が珍しく何となくレアなシーンだ。
「それで君が柏木君ですか」
「はいっす。天職は調合師のしがない高校生ですよー」
あくまでも自分は普通をアピール。一応髪の使徒だとバレルと後跡が面倒なことになるので隠しておくのが今回の王都見学の条件だったのでばれない様にあくまで普通を装った。
それなのにふとウィルさんの笑みが消えた。何故だと思う暇もなくその端正な顔から小さなとっても小さなつぶやきが漏れた
「―――さん」
「へ?」
その言葉に驚き呆けた声を出せば、ウィルさんは慌てて謝罪をする。
「いえ、すみません。知人に大変よく似ているので、つい驚いてしまいました」
「? 俺とよく似ている人がいるんですね~」
俺と似ているって事は良くは知らんがその人は変人の部類だろう。又は面倒な奴か。割と結構失礼な事を考えていると酒場の入り口でまた何やらざわつく声が聞こえてきた。
「っと、そう言えばツレを待たせているんでした」
「ツレっていうとあの可愛い女の子っすか?隅に置けないっすね~」
「はは、そんな関係ではないのですが。それでは失礼します」
会釈を一つするとそう言ってウィルさんは立ち去ってしまった。件の連れの女の子に会いに行ったんだろう。可愛い女の子とニートさんが言うので気になって見ようとするが残念!俺の席からでは人だかりで全く影も形も見えませんでした。
「相変わらず綺麗な銀髪の女の子っすねー。一体どうやって知り合ったんだか」
「そうですねー。…ねぇニートさん。あのウィルって人二つ名を持っているんですか」
ウィルさんのツレは南雲とニートさんには見えたようだ。気にはなる物の今度は南雲の話に興味が移ってしまう。何それ二つ名ってなんかカッコよくない?
「持ってるっスよ。通称『貴公子』身分と性格と実力を持ったウィル君にはふさわしい二つ名っすね」
「いいなぁ~。俺もなんか二つ名で呼ばれたい」
二つ名、それは男心をくすぐる甘美な響きだ。俺もなんかそうやって呼ばれたいのだが…流石に夢を見過ぎか?
「知ってる柏木君。中野君が言うには僕達オーヴァードも二つ名で呼ばれることがあるんだって」
「何それ初耳!」
興奮している俺に苦笑しながらこそっと教えてくれる南雲。どうやら俺達オーヴァードにも二つ名と言う制度があるらしい。なるほどこれは俺の厨二力が試される!響け俺の小宇宙!
と、何だかんだで昼食を食べつつ、冒険者ギルドはつつがなく終わった。全く持って平和な昼食時間でした。
「んで、ここが職人たちが切磋琢磨する工場エリアッス。気性の荒い職人が多いので罵詈雑言が響き渡るのが名物っすね」
昼食を終えた俺達は、そのままニートさんとの観光を続けていた。王都はかなりの広さを誇るので、こうやって移動するだけでも時間はかかり、なかなか楽しいひと時だ。
案内されたのは職人が居るエリア、南雲が働いている場所だ。何とまぁ趣があるところで…端的に言えばかなり汚い。
「そう言えば南雲、今日の仕事はどうしたんだ?」
「今日はお休み。割と不定期でシフトが入っているんだ」
「へ―、いつもご苦労様です」
と、そんな会話師ながら又移動し、今度は何やら怪しげな空気の漂うところへ
「ここは歓楽街っす。夜のお遊び場っすね。ちょっと路地裏を除けば風俗店があるパラダイスッスよー」
連れられてやってきたの何と歓楽街!道理で怪しげで妙な匂いがプンプンする場所だ。今はまだ午後の三時ごろなので客引きや通る人も少ない。夜になるとかなりの人がいるのだろうか…なんだかドキドキする。
「ふ、風俗店があるんすか。……うひひ」
「柏木君、鼻の下が伸びているよ」
「いやこればかりは仕方ねぇじゃん!?風俗だぞ風俗!色々妄想逞しくなるのは仕方ねぇだろ!?」
興奮する俺とは違って南雲はかなり嫌そうにする。南雲はどうにも下ネタが好きではないのだ。ふざける分には寛容だが生々しくなると一気に不機嫌になる。むぅ!
「嬉しそうなところ悪いっすけど、畑山先生から行かせないように注意されているから中に入るのは無理っすよ~」
「しょ、しょんなぁ~。折角来たのにお預けかよぉ」
「ははっ これは仕方ないよね柏木君、男らしく諦めよう」
「…お前の好きなうさ耳ちゃんが居るのかもしれないんだぞ」
「やめて、そんなことを話したら白崎さんがうさ耳付けて襲ってきそうになるから」
「何か苦労しているっすねー」
そんな無駄な会話をしながら歓楽街を素通りする俺達なのでしたー
「いやー楽しくて面白かったです」
「ありがとうございました。今日は大変勉強になりました」
「いえいえ、楽しんでくれたのなら自分も嬉しいっすよ」
町の観光案内を受け、プレハブ小屋に戻りそこでニートさんとの王都観光旅行は終わりを告げた。別れ際に爽やかな笑顔を浮かべるニートさんには大変感謝してもしきれないものだった。
「さて、それじゃあ今日最後の大仕事を始めようか」
「おう!俺達の夢のマイホームだな!」
「…それ、なんか違くない?」
下らない雑談を交わしながら俺達は拠点となるプレハブ小屋の大掃除に取り掛かる。なにせここで錬成や調合…モルフェウス能力やソラリス能力の実験場所となるのだ。使いやすいように改造したくなるってのが常識だ。
「おーい南雲。この棚どかすからそっち持ってー」
「はいよー。…ねぇこれモルフェウス能力を使えば早くない?」
「…あ」
力仕事が全く持って無駄な事に気づきながらも作業を進める。プレハブ小屋と言えども出来れば二部屋は欲しい、作業場と居住空間はあった方がらしくていい。
「つーか寧ろこれ秘密基地を作っているよな?」
「今更気付いたの?そうだよ、ここが僕達のトータス出張秘密基地になるんだ」
キラキラとした目をしながら廃材をプレス機の様に平べったくしている南雲。何だかんだで秘密基地に憧れがあるのだろう。無論それは同じだ。小さい頃はそんな遊び一緒にする奴いなかったから出来なかったからねー…って!?
「おい、今さらっと流したけどお前何やってんの!?」
「え?なにって、片づけだけど」
「片づけは分かるけど、何で武器とか鎧が段ボールの様にペラペラになってんの!?」
南雲が触っていく廃材がどんどん紙の様にペラペラと変わっていくのだ。流石の俺でも驚きで止まってしまう。
「モルフェウスの力を使っているだけだよ。簡単な物なら何でも『折り畳み』ができるよ」
そういって次々と廃材を紙状にする南雲。…もしかしてモルフェウスの力って俺が思う以上のヤバさを持っているのでは…
「何かマズいかな?なら、こっちのほうにしようか」
そう言って今度は壊れてガタが来ているであろう机を砂に変えていく。……なにそれ?
「『急速分解』ほら、中野君も言ってたじゃん。モルフェウスは砂の力も操れるって。まぁ、僕は砂を自由自在に操るのは難しいけど、分解位ならできるからね」
十分やべーって。寧ろさらにヤバイのでは?もし相手が武器を持っていたとしても直ぐに武器を分解することが出来れば相手を無力化することが出来るのでは…
「さてね、即座にできれば戦力になるだろうけど、魔法には無力だからね。そこを間違えないようにしないと」
「なるほど、何でもできるように見えて落とし穴もちゃんとあるって事か。深いな…」
「そう言う君こそ何してんの?」
「何って、粗大ごみを溶かしているんだけど?」
使っているのは『腐食の指先』指先から腐食物質を作り出して大型の粗大ごみを溶かしているだけなのだが…
「そっちこそヤバイじゃん。何なの溶かしているって。エイリアンの血でも流れているの君の身体は」
「無機物にしか効かない薬物なんすけどねー」
有機物…つまり生物には効かないと思う。植物に対して使ったが何の効果も得られなかったし。
「自覚がないようだけど、十分異質だからね。一体その力は何がどうなっているのやら」
「それはお互いさまって事じゃないの」
「だよね。それじゃ僕は家具とか作っていくから柏木君は廃材の方をお願い」
「あいよー」
と言う事で役割分担をすることになりました。俺が溶かしてゴミを無くして、南雲が日用品などを作る。力の使いどころって奴ですな。
「んで、何で日本の自分の部屋をそのまま作れているの?」
「…『万能器具』と言うのがありまして…空気さえあれば何でも作れてしまうもので…てへっ」
「馬鹿じゃねぇの?いや大真面目に」
出来た拠点を見て一言。南雲のモルフェウス能力はイカれている。作業場の方は見様見真似のテーブルとか棚とかそれらしくは出来たのだが、問題は居住区だった。
日本の南雲の部屋とほぼ一緒な部屋が出来てしまったのだ。
「テーブルにベットはまだ分かるぞ。でもさ、何でパソコンとか音楽プレイヤーまでも作るのかな」
「凝ってしまいました」
「阿呆!」
ツッコミをする俺は悪くない。どこの世界でファンタジー世界でパソコンなどを作る馬鹿が居るのか。何か一気にチープな茶番染みてきたぞこのトータス世界!?
「良いじゃん別に。どうせ電気が通ってないんだから使える訳ないし―」
「雰囲気ってのがあるんだよぉ!なんか一気になんちゃってファンタジー染みてきたじゃん!」
「元からじゃないのー」
渋々といった様子でパソコンなどをコップや食器、この世界でも違和感ない日用品に変えていく南雲。あぶねぇ、一気に世界観が崩壊する所だった。
そんなわけですっかり夜になってしまったが、俺達の拠点は完成した。
「出来たー!俺たちの拠点!」
「見た目はボロいけどね。それでも秘密基地だ」
見た目はプレハブ小屋だが中身は結構しっかりと作ってある。作業場の方はおいおい追加していくとして、居住区はそれなりに住めてしまうのではないかと言う出来栄えだった。
「この拠点内なら存分にオーヴァードの力を使える。好きなことが出来るんだ」
「見られると説明が面倒だからな。この場所で自分の力を把握してモノにしよう」
拠点を作る理由として一番大きいのはやはりオーヴァードの力を把握したいが為だった。異質な力は使い方を誤れば身を亡ぼす刃となる。だから知って制御しなければいけない。
与えられた力こそが身を亡ぼす大きな原因となるのは古今東西何処でも同じなのだ。
「それじゃ、オーヴァード生活頑張りましょうか」
「やってやりましょう。異質な異世界生活を」
さて、この力で俺達は一体何ができるのか、不謹慎ながらワクワクするのであった。
ダブルクロス要素を前面に出したいこの頃…