ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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色々と考え前倒しになった結果あの人が登場です。
これで少しは本編が進むかな?


魔人族

 

「うーん、うーん コレってマズくね?」

 

「何がだよ?」

 

 現在オルクス迷宮90層目。俺達実地訓練組は90階層目に入ってから怪我もなく順調に攻略していた。その事に対して悩めば坂上からの怪訝な声。うーむ気が付いていないなら少し休憩を入れて話し合うか。

 

「皆ちょいとストップしよう」

 

「?どうしたの柏木君」

 

 俺の言葉に素直に聞いてくれるクラスメイト達に感謝するも何人かは不思議そうに俺を見ている。怪訝な顔をするのは坂上だけではなく谷口や吉野さんや辻さんだった。他の男連中は、警戒と疑問が渦巻いている模様。やっぱり杞憂ではないか

 

「いやね、この階層に入ってから魔物と遭遇してないでしょ」

 

「確かに今の所魔物は一匹も居なかったよね」

 

 俺達は怪我一つもせず90階そうを探索できている理由。それは魔物が一匹も見当たらない事だった。今まではいきなりモンスターハウスだったり通路全部が魔物の擬態だったりなどバリエーションがあったが一匹も居なかった事は無い。それがどうしようもなく気になってしまうのだ。

 

「今まで一匹も居なかった事は無かった。何か異変があったと考えた方が良いかもしれない」

 

「…そうか?他の強力な魔物に殺されただけかもしれない。確かに変かもしれないけど俺達はこんな所で立ち止まるわけにはいかない。そうじゃないのか」

 

 天之河は問題ないのではと主張。ふむ、確かに魔物同士での食い合いはこれまでも合ったことだしこの階層もそんな物の一つかもしれない。でもなんかざわざわするんだよなぁ。

 

「確かにこの階層に強い何かが居たのは間違いないっぽいな。見て見ろよこの血。まだ乾いていないぜ」

 

 そう言って姿を現したのは指にこびりついた血を触っている遠藤。どうやら壁に付着した魔物の血を発見したようだ。

 

「それにしては随分と多すぎねぇか?…勝手な推測だがこの階層全部の魔物が死んだような量じゃねぇか」

 

 壁や天井を見回して鼻を引く突かせ呟いたのは檜山。俺には匂わないけどどうやら血はかなりの量らしい。

 

「でもよ、この階層に入ってから今まで血なんて見ていなかっただろ。なんでいきなり…」

 

「痕跡を隠しているとか、な」

 

 近藤の疑問に中野が仮定を話す。ふむ痕跡を隠す?一体誰が?そんな問いかけに不敵に笑う。

 

「さてな、だが魔物じゃないだろうさ。やった所で何の意味もない」

 

 …となるとこの先に待ち受けるのは?念のためみんなに回復薬を渡す。俺の警戒センサーがビンビンになってきた。取りあえず皆には警戒を引き受けてもらい先ほどから考え事をしている我らが頼れる参謀?清水を手招き。

 

「率直に聞くぞ。どう思う?」

 

「イベント発生の香り。中ボスフラグかも」

 

 流石は清水幸利だ、俺と同意見だったとは何時だって頼れる奴である。

 

 

 率直に言えばこの90階層、何かイベントが待ち受けている気がするのだ。90と言う100に後もう少しのキリのいい数字に今まで見られなかった魔物の消失。考えすぎかとは思うがゲーマーの感が囁くのだ。『イベント発生フラグが立っていますぅぅ!』ってな!

 

 清水に確認すれば同意見って事は皇帝の時と同じように何かあるかもしれない。さてここでとる方針は二つ。

 

 進むか戻るか、だ。

 

「皆、ちっと意見を聞かせてくれ。さっきから話しているけどこの階層は何かきな臭い」

 

 改めて皆を見回せば頷くものと疑問に思う物それぞれ。だからこそ問いたい

 

 

「皆はどう思う?ここで戻るべきか進むべきか各自思ったこと感じたことを話してほしいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろりそろりと慎重に進むは俺達実地訓練組。先ほどの話し合いの結果進む事となった。勿論っ慎重に慎重と準備万端抜かりなくではあるけどね。

 

 話し合いの決め手となったのは天之河の『俺達はこんな所では止まれない!』ではなく永山の『少し様子を見てやばいと感じたら撤退しよう』という事だった。…決して天之河の発言を蔑ろにしてるんじゃないよ!?進んだところでお前の助けたい人っているの?という疑問はちゃんと心の中にしまって置いたんだよ!?

 

 

 いつも通りの陣形を構築し出てきた場所は大きな広間だった。天井も高く悠々とした広々さ。王宮の訓練所に匹敵する…と言うのは言いすぎか。

 

 ともかくまぁ予感は的中だ。清水に目線を向ければ首を縦に振られた。いつイベントが発生してもおかしくはない。

 

「皆、撤退を」

 

「待ちな、アンタ達」

 

 

 撤退の指示をと言うところでハスキーな声が空間に響き渡った。イベント発生の瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 コツコツと足音を響かせながら現れたのは、燃えるような赤い髪をした美女だった。ツリ目の気が強そうな顔に尖った耳、褐色の肌は随分と様になってる。…うん?この容姿は…

 

「……魔人族」

 

 天之河が漏らした言葉でようやく目の前の人間が誰なのかを気付く俺。ああ、そうだこの人は魔人族だ。糞ジジイが言ってた魔人族の特徴と完璧に一致しいてる。

 

(しっかしすっごい格好だなぁ…敵の女幹部ってのは何でセクシー路線を貫くんだ?)

 

 魔人族の格好は艶のない黒一色のライダースーツで体にぴっちりと吸い付いていた。なまじスタイル抜群な為、出ているところはしっかりと出ており引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる。オマケに胸元が肌蹴ているというセクスィーさ。色気がムンムンだね、ちっとも好みじゃないけど。

 

「さて、勇者はあんたで良いんだよね? そこのアホみたいににキラキラした鎧着ているあんたで」

 

「あ、アホ……う、煩い! 魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ! それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

 

 悲報、いきなり天之河ディスられる。確かにキラキラした正直センス無さ過ぎる金色の鎧を着ている天之河だが待ってほしい。

 

 あれは天之河が自分から選び着たものではない!教会から渡され勇者として着用するようにと言われた物なんだ!天之河の私服を見たことは無いけど

アイツはセンスはそんなに悪くはないのだ、…最初来ていた時嫌そうな顔していたし。

 

「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに……まぁ、命令だし仕方ないか……あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

 

「な、なに? 来ないかって……どう言う意味だ!」

 

「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?」

 

(…勧誘か?魔人族が俺達を?………これは)

 

 魔人族が天之河を見ている間に俺は思考に没頭する。今は天之阿川と交渉しているようだからこそ、性急に物事を判断し行動しなければ。

 

 相手は一人でやってきた。このメンバーを相手に悠長に会話をし始めた。そこにどんな意図がある?いやその前に今俺達はどういう状況だ?答えは簡単だった。

 

(かなりマズい状況だな…)

 

 魔人族が人間族の領域にあるオルクス迷宮に居るのだ。…どうやって侵入してきたか、なぜそこにいるのか、疑問は出てくるが問題はそこじゃない。

 

 相手は堂々と人間族の領域に入ってきているのだ。本来敵側の領域に侵入するのなら隠れなければいけないという定石を無視してなおかつ俺達の前に姿を現したのだ。

 

(この情報から読み取れる内容は一つ。相手はこの戦局を有利に翻す戦力を隠し持っている)

 

 一件俺達が数で勝っているがそんな事を歯牙にも掛けない余裕があの魔人族の表情が物語っている。即ちこの階層にはあの魔人族の女の仲間(または魔物だろう)が大勢いると考えた方が良い。

 

(…撤退をしようにもそんな隙を見せてくれるのか?そもそも逃げ切れるのか?…俺達は勝てるのか)

 

 心臓の鼓動が早くなっていく。早く決断をしなければ皆が死んでしまうかもしれない、あの冷たくなっていく死の瞬間をまた味わなければいけないのかもしれない。揺れる俺の思考は…

 

「――」

 

(…へ?)

 

 何かが聞こえた訳では無い、ただ熱を感じただけだ。暖かくも熱くみなぎる様な熱。以前にも感じた様な気がした熱だった。

 

(何だろう…って。中野?)

 

 見渡せば中野が俺を見てニヤリと笑っていた。その笑みが何を意味するのか、なんとなくだが察してしまう俺。

 

 異能力を持つ先輩が好きにやれと囁いているような気がしたのだ。俺の力、俺のレネゲイド『()()()()』の力を使って。

 

 確かにソラリスの能力をフルに活用すれば突破口は開くかもしれない。寧ろ大きな戦果を期待できるかもしれない。それどころか、誰もが成し遂げなかった事が成し遂げれるかもしれないのだ。

 

(…どうせ異世界だ。無理矢理呼び出された世界だ。なら俺も好きにやってやる!)

 

 滅茶苦茶な考えだが、無理やり腹を決める。どうせなら前のめりに倒れたい、力を尽くして倒れるまでだ!

 

 すぐに視線を巡らせる。あの魔人族の女の脅威はちょっと考えればすぐに分かるはずだ。その事を願って仲間達を見渡せば俺の目に答えてくれる奴が何人かいた。

 

 声を出すことは出来ない、気付かれるかもしれないからだ。ハンドサインは出来ない、迂闊に動けば勘ぐられるかもしれない。

 

 だから、目で訴える。俺の気持ちをお前たちに直接打ち込む!伝われ俺の叫びを!

 

『声なき声』 俺の思念をお前らに届けるッ!

 

「(*´ω`*)」

「(^^)」

「(^o^)」

「(゚Д゚)」

 

 うっそ!?マジで伝わりやがった!?俺も大概だけどお前ら馬鹿じゃないの!?そしてそれははやらねぇぞ清水!兎も角魔人族に啖呵をきってる天之河を盾にこそこそと配置につく。

 

「やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ! わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、一人でやって来るなんて愚かだったな! 多勢に無勢だ。投降しむぐぅっ!?」

 

「ヘイッ天之河!美人に興奮するのは分かるけどちょいと落ち着きな!」

 

 啖呵をきってカッコよく締めようとしていた天之河の口に手を押し付け無理矢理口をふさぐ。そのまま天之河の口の中に俺の指を突っ込むのを忘れない。これで余計なお口はチャックだ。

 

「ひゃふわぎ!?ひゃ、ひゃにして」

 

「おいおいくすぐったいだろ?指フェラはニッチ過ぎんぞ?」

 

 流石にいきなりすぎて驚いたのかもごもごとうごめく天之河だが俺の指フェラ発言に驚いたのか大人しくなった。気のせいか中村から殺気が飛んでで来たような?ちなみにそれでも喋ろうとしたら舌を掴んで無理矢理感度3000倍のお薬を流し込む予定でした。…チッ

 

 いきなりの珍騒動でちょっと引いている魔人族をほっといて大人しくなった天之河から手を離し正面に回り込む。

 

「お前ばっか喋ってズルいぞ。俺も少し話をさせてくれよ」

 

「いきなり何をして、じゃなかった!何を言ってるんだ柏木!相手は魔人族なんだ危険すぎる!?俺が戦うから下がっていてくれ!」 

 

 顔を真っ赤にし危険だから下がれと言う天之河。…ほんとお前は良い奴だよ。だがこの場ではそれは悪手だ。

 

「いいから、俺にも話をさせてくれ。頼むよ」

 

 こればっかりは俺が前に出ないといけない。寧ろ俺が前に出ないと無事に終わらせることが出来ないのだ。だが完全に人間族の敵を目の前にした天之河は止まらなかった。

 

「駄目だ!後ろで待つんだ柏木、俺がアイツを絶対に倒して「もういいだろ光輝。アイツに任せて見ろ」な、龍太郎!?」

 

 言い切る前に言葉は止まった。坂上が後ろから天之河を羽交い絞めにしたのだ。驚く天之河だがこれしか方法は無い。許してくれ

 

 心の中で坂上に感謝し改めて俺は皆より一歩前に出た。後ろから微風が流れてきているのを感じ取りながら。

 

 

『甘い芳香』』『攻撃誘導』『錯覚の香り』『ポイズンフォッグ』

 

 

 有り難い事に当の魔人族は面白そうに俺達を眺めていた。いきなり攻撃を仕掛ける人ではなくて良かったよ。

 

「で、もめていたようだけど、返事はどうなんだい?何やらそっちの勇者君はあたしを殺そうとしているみたいだけど」

 

「あーそれなんですが。まずは待たせてしまって申し訳ありません。何分こちらとしては急な話だったので」

 

 まずは非礼を詫びる様に。交渉事とは力を持って話すのではない。何事もエレガントに行かなければ。

 

「ふぅん。勇者君とは違ってアンタ話が出来るみたいだね」

 

「それだけしか取り柄のない者ですので、ああ、自己紹介がまだでしたね。俺の名は柏木。天職は調合師で一応このメンバーたちの雑用件、回復薬係です」

 

 礼儀作法は勉強していないがそれでも相手に失礼に当たらない様に。そんな俺の姿勢を見て幾分か警戒を緩めたような魔人族。

 

「つまり後方支援職ってことかい。…ま、多少嫌味が目立つがそれは仕方ない、か」

 

 頭をガシガシと掻く魔人族。後方支援の戦闘力のない物が前に出てきて少し予想外だったのだろう。少しなにやら考え事をした魔人族はこちらに名を告げてきた。

 

「アタシの名はカトレア。ま、アンタ達からしてみればどうでもいい名前か」

 

 後半の方は小さく呟かれた。ふぅむカトレアね。確か花言葉は…なるほど実によく似合っている

 

「…良い名前ですね」

 

「は?いきなり世辞を言うのがアンタの国のマナーなのかい」

 

「これは失礼。どうしても言葉遊びをしたくなる性分なので」

 

 うぅむ恐らく魔人族…カトレアの後ろには多くの魔物が潜んでいるにも関わらず遊んでしまうのはどこまで俺の肝はおかしくなったのか。まぁなるようになれだ。

 

「では、我らが勇者に変わりましてっと。先ほどの話ですが優遇とはどういったものなんですか」

 

「そのままの意味さ。アタシら側に着けば裕福で贅沢な暮らしを約束できる。勿論安全は保障するよ」

 

 代わりに人間族を裏切れって事なんだろうが…。ふむこれは嘘だな。そもそも裏切ってきた相手にぜいたくな暮らしを当たるのだろうか?答えは否だ。

 

 そもそもの話先ほどの天之河との会話で『絶対に要らないだろうに』『命令だから仕方なく』って単語が出ている。要はこの人にとっては戦力として期待していない、寧ろ邪魔で勧誘して来いっていう上からの命令に批判的なのだ。

 

 だからこの人を基準として考えれば俺達の勧誘はあくまでもついでって事だ。…一体他に何の任務があってここに来たんだろう?どうせ下ったところでアリスさんの拠点しかないのに。まぁいいやその話はどうでもいい

 

 

「それは魅力的ですけど、それだけではハイとは言えないですね。…一つ聞いても良いですか」

 

「アタシに答えれることならね」   

 

「貴方の所のトップ。言い方を変えれば魔王って滅茶苦茶強いですか?」

 

 魔王。魔人族の頂点であり人間族の長きにわたる敵である。一応勇者の敵ではあるが…さて、天之河(勇者)の敵って誰なんだろうなっと。

 

 そんな俺のどうでも良い思考を気にせずカトレアはフッとどこか自慢するように笑った

 

「ああ、強いよ。魔王様はアタシらよりもフリード様よりも…いいやこの世界の誰よりも強くて素敵な人だね」

 

 どこか敬愛を感じられるような表情。言い変えれば子供が自分の親を自慢するような物か。なるほどなら期待アリだな。

 

「なるほどなるほど…じゃあさっきの優遇がどうとかはどうでも良いです。全部要りません。それよりももっと有意義な…俺達が進んで貴方方に付くような話をしましょう」

 

「うん?どういうことだい」

 

 優遇とかどうでも良い。実際人間族についているこの状況も良い待遇なのだから。そんなチンケな話よりも魔人族に出会う事があったのなら聞きたいことがあったのだ。

 

 

「簡単な話さ、その偉大なる強力無比な魔王様は俺達を故郷へ帰らせることが出来るのか?」

 

「…なに?」

 

 空気が変わる。訝しむ様な表情のカトレアに後ろからは息をのむ音がが聞こえてきた。そこには天之河の声も。無論全部無視だ。今この場は俺が握っているんだ、誰にも邪魔はさせない。

 

「魔人族は人間族より数では劣るが質が良いと聞いた。実際今のあんたを見てもその通りだと思う。ならアンタよりはるかに格上の魔王はどうなる?…きっと俺達よりも次元が違う強さなんだろう」

 

 実際に見て分かるが確かに魔人族のカトレアは人間族の兵士と比べて能力がかなり高いような圧を感じる。無論それは今カトレアが恐らく幹部級の強さを持っていることも有ると考えての事だがとにかく魔人族の個体の質は高い。

 

 ならその魔人族を統括し最上級の魔力を持つであろう魔王は一体どれぐらいのことが出来るのだろうか。

 

「人間族と魔人族の拮抗が崩れたのは魔人族が魔物の使役が出来たからだと言う。これは俺の考えだが出来たのはその魔王の力によるものだろう。今まで人間族と魔人族が大きな戦をしていないのは数の差があったからだ。それが一気に均衡が破れる数となるなら…まぁ考えなくても分かるよな」

 

 常人よリはるかに強力な力を持っており、人間族が有利だったはずの数の利をそれを簡単に上回る数を使役するって事は当方もない力だ。

 

「そこでふと考えたんだ。そんな途方もない力を持つ魔王なら俺達を日本へ帰らせることが出来るんじゃないかなってさ」

 

「……へぇ 面白い事を言うじゃないか坊や」

 

 心底面白そうに俺を見てくるカトレア。…ふふ、確かにかなり面白い事を言ってるよな俺。

 

「だから、俺達を日本へ帰らせてくれると約束するのなら俺は進んでアンタたちに協力しよう。俺は日本へ帰る為の切符を手に入れアンタは楽に戦力と兵站を手にすることが出来る。悪い話じゃないだろう?」

 

 手を広げ身振りで大仰に語る。少し白熱してきたせいか汗が出てきた。ソラリス能力者(生きた化学プラント)であるこの俺が。

 

「…面白いねぇアンタ。裏切りを簡単に考えるなんて普通じゃできないよ。流石は異教の使徒って所かい」

 

「おいおい魔人族の所では勇者の仲間って評価がどうなってるのかは知らないけど俺達は完全な被害者だぜ?了承もとっていないのに行き成り拉致されて命を掛けろって?だーれが好き好んで戦争に参加するかよ」

  

「ふぅん? でもそっちの勇者君は人間族の味方っぽいけど?今もあたしの事を睨んでいるし」   

 

「天之河か?ハッアイツは滅茶苦茶人が良いんでな。うさんくせぇ爺に誑かせられて物の見方が狭くなっちまってるのさ」

 

「人が良い…言い変えれば疑わない子供。確かに自分の都合の良い事しか聞かなさそうな面はしているね」

 

「ま、そこが天之河の良い所でもあるし可愛い所でもあるんだがな」

 

 哀れ天之河。ほぼ初対面の人からすら可哀想な子供を見る目で見られているぞ。お前は何時になったら大人になるんだろうな?

 そして、そんな会話をしていたからか当の本人である天之川が坂上の拘束を振りほどき俺に詰め寄ってきた。

 

「さっきから何を言ってるんだ柏木!正気なのか!?魔人族は敵なんだぞ、そもそも人間族を裏切るってどういうつもりなんだ!」

 

「言葉通りだ。もし魔王が俺達を帰らせれるほどの力があるのならば()()()()()()()()()()()()()と思っている」

 

「なっ!?」

 

 俺の言葉に天之河が絶句する。本当にあんぐりと口を開いて…顔が赤くなっていく。本気で怒っているのだろう、まぁ気持ちは分からないでもない。  

 

「そ、そんな事を言っていいと思ってるのか!裏切りがどういう意味なのか分かっているのか!?メルドさん達を…俺達を快く向か入れてくれたあの人達の信頼を裏切るって事なんだぞ!」

 

「あー確かに心苦しくはあるな。でもそれはそれ、これはこれだ。仕方ないのさ」

 

 浮かぶのは世話になった人々や親交があった人達。怪我や打ち身によく効く薬を渡し男くさい笑みを浮かべ感謝する騎士団や汚れが良く落ちる洗剤やお肌に優しい化粧品を提供したおばちゃんたちに 髪の毛の薄さに気をもんでいた文官の方々。どれもこれも何だかんだで優しい人たちだった。

 

 そしてメルドさんやニートさん。あの人達には大変お世話になった。でも仕方がないのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「仕方ないって…あの時お前は言ってたじゃないか!世話になっていた人たちへ恩を返すって!その言葉すら嘘だったのか!」

 

「嘘じゃないさ。でもな天之河俺はあの時言ったよな?俺の最終目標は日本へ帰ることだって」

 

 男子会議をしたとき確かに俺は恩を返すと言った。しかしそれよりも先に宣言したはずだ。日本へ帰る為に動くってさ。…でもその事を突かれると心が痛むので話をすり替える

 

「天之河これは優先順位の違いだ。もしこの世界の人々と俺達どちらかの命を選べと言われたら俺は天之河、お前や皆を俺は選ぶ」

 

「そんな…そんな事許されない!」

 

「だろうな。でもな皆を死なせたくない、死んでほしくないって思うのはそんなにおかしい事なのか?教えてくれよ」

 

 もし仮にだとして魔王に皆を帰らせるほどの力があるとするならば裏切りは選択の一つとして十分に考えられることだ。少し天之河にはきつい事をいうが我慢してもらおう。畳みかけるからへし折れないでくれよ?

 

「そもそも天之河俺達が人間族についているのは何故だか理解しているのか。呼ばれたから?助けを求められたから?違うだろ。なるほど確かにお前はそのつもりなのかもしれない。そうすることが人として正しい事なのかもしれない、だが違うんだ 俺達が人間族についているのはあくまで『エヒト神のいう事を聞けば日本へ帰れるかもしれない』からだ」

 

「そ、れは…でも戦争を終わらせればエヒト神は日本へ帰らせてくれるってイシュタルさんが」

 

「それは教皇の言葉であってエヒト神の言葉じゃないだろ。それとも何か?天之河お前一度でも神様の言葉を聞いたことがあるのか?帰らせてやるっていう神の言葉を聞いたことがあるのかよ?」

 

「っ!」

 

 俺の言葉に口を噤んでしまった。そう、俺達は一度だってこの世界に呼び出して張本人であるエヒトの言葉を聞いたことが無いのだ。

 

「一度もコンタクトを取って来ない無責任な神がちゃんと俺達を帰らせてくれるって保証は一体どこにあるんだ?そんな神を信じて戦争に参加して魔人族を倒してそれで帰れるって保証は一体どこにあるんだ!答えて見せろよ天之河!」

 

「…そんなこと…俺が戦えば…勇者であるはずの俺が頑張ればきっと!だから俺は戦うんだ!君達を帰らせる為に!」

 

「だからそれは一体いつになったらだ!人の言いなりになって剣の修行ばっかりして勇者ごっこに興じて!あのな!俺はいい加減日本へ帰りてぇんだよ!父さんと母さんに会いてぇんだよ!俺はまだ親孝行を済ませていないんだよ!それをちゃんとわかっているのか勇者君よぉ!」

 

 天之河の胸ぐらを掴み嘘と本当を入り混じれた言葉を大きく叫ぶ。それこそ有耶無耶にしようとして逃げようとしている天之河の退路を塞ぐように。後ろのカトレアに気付かれない様に。

 

「…ってるよ……でも俺は…ぃちゃんの為に……」

 

 俺の言葉で脳内がパ二くったのか天之河は目線を四方に動かせて何やらブツブツと言い出す。…なんかごめん。

 

「人を助けようってのは悪くないよ。でもさそれに無理矢理付き合わされるのは…辛い。俺はお前の様に人助けができるような良い奴じゃないんだ。…ゴメン」

 

 胸ぐらからから手を放せば天之河は後ろに数歩後退し俯いてしまった。それがなんか子供をイジメてしまったようで胸糞が悪くなる。

 

「いい演説だったじゃないか。アンタの叫びは胸に来たよ」

 

 まるで良い芝居を見せてもらったとでも言いたげなカトレアは俺と天之河の会話が終ったタイミングで話をしてくる。こっちもちょうどいいタイミングだ。

 

「それで話の続きだ。魔王には世界を超える力はあるのか」

 

 俺の質問。この交渉の肝の部分だ。それをカトレアは薄く笑った。

 

「あるとも。我らが魔王様、すべての生物の頂点に立つあのお方は異世界へ行く力を持っている。アンタ達がこちらに来て力を貸してくれれば直ぐに故郷に帰れるさ」

 

「へぇ…それは随分と有り難いお話だ」

 

 ダウト。嘘だそんな力があるのなら、世界を越える魔力を持っているのならとっくの昔にこの戦争は魔人族の勝利で終わっている。だからその嘘の代償高くつくぜ?

 

「それじゃあまずはその厄介な勇者君を拘束してから事の話を進めようじゃないか。何事もすぐに行動した方が良いからねぇ」

 

「全く持ってその通りだ。お陰でこっちの方が先手を取れたようだな」

 

「?アンタいったい何を言って???」

 

 不思議そうな顔をしたカトレアが自身の首筋を触りだす。本当に何が起こったのかわからないと言いたげなその顔は自分の首筋に小さな針が刺さっているのに気付いた瞬間目を見開く

 

「こ…れは…まさ……か……zzz」

 

 効果は一瞬だった。見開かれた目はすぐさま閉じカトレアは崩れ落ちて眠ってしまった。何せ意識外からの小さなしかし何よりも効率的な奇襲を受けたのだ。効果は抜群だってな!

 

「え?アイツ…眠っている?」

 

「フッフッフ 俺がやったのさ」

 

 なんてことはない。潜伏していた遠藤から吹き矢を喰らっただけなのだ。俺のソラリス能力『眠りの粉』を塗りに塗りたくった小さな針を存在を希薄にさせた遠藤に吹いてもらう。単純な事でしかし人間相手には絶大な力を影響を及ぼすコンビプレイ。…お遊びで南雲に吹き矢を作ってもらってよかった。

 

 そもそも最初から目配せをした時からカトレアを眠らせる為に皆に目配せをしたのだ。遠藤には潜伏してもらい油断したところを刺すと言う大役を。斎藤は俺の後ろに立って僅かな微風をだし風下と風上を作り出し俺の身体から出る幻覚剤をまき散らす様に。

 

 天之河には何も知らせていないが、俺の嘘に本気で突っかかってきたお陰で完全にカトレアを油断させることが出来たのだ。誇れお前がMVPだ!

 

 全ては皆の力で、この局面を切り抜けた。尤も一番優先度が高い標的を沈黙させただけで、危険は無くなっていないのだが。

 

「柏木!前だ!」

 

 坂上の叫びが聞こえる。勿論言わなくたって分かっている。指揮官であるカトレアが沈黙したのだ。周囲に控えていた魔物たちが動き出すのは当然で、一番近くにいる俺を攻撃するのは余りにも自然だった。

 

 全く見えない空気が俺に襲い掛かってくる。死が目の前に迫ってくる。

 

 俺はソラリス能力者。天職は調合師で戦闘が全く持って出来ない後方支援職。

 

 今この場にいる誰よりも戦闘は不得手で交渉しかできない男。一撃でも喰らえば死ぬのは分かり切っていた。

 

 だから、動かない。避けるのは無駄だと知っているから。

 

 

 見えない一撃がやってくる。だから俺は信じた。

 

 

 

 

「よくやった。後は俺にすべて任せろ」

 

 紅蓮の炎が目の前に現れる。生きている炎が全てを焼き払う。

 

「サンキュー 中野」

 

 誰よりも戦闘能力が高いオーヴァードの先輩を俺は信じたのだ。

 

   

 

 

 

 

「しかしよくあんな短時間で魔人族を捕まえようと考えたな」

 

 広間にいたあらかたの魔物を中野が焼却して悠々と帰路につきながら近藤が話しかけてきた。背負っているカトレアをずり落ちない様に調整しながら事のあらましを話す。

 

「まぁな。本当なら撤退を考えたけどどうせなら反撃してみようかなって。ちょうどよく俺や遠藤、斎藤や中野がいたからなー」

 

「それでまぁうまいこと言ったよホント。つーかこれ遠藤が一番お手柄だったんじゃないの?」

 

「そうか?いつも通りしていたんだけど…そういう事ならもっと褒めてくれ」

 

「調子に乗りやがった!?」

 

 グダグダとくだらない雑談は気疲れを癒していく。なんせ全ての事は上手く行った。カトレアに怪我はなく俺達にも負傷者はいない。なんせカトレアが引き連れていた魔物の大半は中野が燃やしてしまったのだ。

 

「おいおい近藤 いくらその女が美人だからって見惚れるのは止めとけ。ろくなことにならねぇさ」

 

「う、うるせぇ!んなことしてねーし!」

 

 何か馬頭の魔物とか黒猫とか白鷺みたいなのが居たがどいつもこいつも中野の敵にはなれなかった。流石はサラマンダー焼却処分はお手の物である。…少しばかり強すぎるのでは思うけど。元々戦闘員だったとは聞いていたけど、いったいどれだけの修羅場を潜り抜けてきたんだろう。

 近藤を茶化すそのニヒルな顔からは何もうかがえない。

 

「はいはい、美人さんはまだしばらく起きないからそれまでにちゃっちゃと迷宮から脱出しようぜ」

 

 カトレアを麻酔で眠らせ捕獲したのでもうこの迷宮にいる必要は無かった。今更100階層を目指しても無理だろうしとにかくスヤスヤと眠っているこのカトレアの保護が最優先だった。

 

「…なぁ柏木 捕まえたそいつどうするんだ?」

 

「取りあえずは俺と南雲の拠点へと連れて帰る。まぁ保護だな」

 

 檜山が眠っているカトレアを一瞥し聞いてきた。ここはやっぱり俺と南雲の拠点へと連れて帰るのが一番ベストだろう。つーかほかの誰かが何を言おうがこれは譲れない。

 

「保護?捕虜じゃなくてか?そもそもメルドさん達に引き渡すのが一番いいんじゃないのか?」

 

 野村の意見は尤もだ。捕まえた魔人族であるカトレアは騎士団に渡すのが一番いいだろう。しかしそれでは駄目だ。捕虜になってしまう

 

「駄目だ。ここは俺達が保護をしなければいけない。そもそもこの国って捕虜に対する人権があるのか知ってる奴いんのか?」

 

 俺の疑問に皆は難しい顔をする。なにせ今まで魔人族を捕まえたことが無い国なのだ。いきなり捕まえてきた魔人族に対して人権は発動するのだろうか。

 

「オマケに見て見ろよ、滅茶苦茶美人だぞ。果たしてちゃんと人間扱いしてくれるのかなぁ?どう思う皆」

 

 俺の背中でスヤスヤと眠っているカトレアを顎で指しながら意見を求めれば皆俯いてしまった。もうみんな想像ついているだろうが捕虜としてやってきたカトレアは果たして人として扱われるのだろうか。仇敵を捕まえた人間族は果たして理性的に捕虜扱いしてくれるのだろうか。

 

 答えは否だ。薄い本が辞典並みに厚くなる。

 

「それは…でもメルドさん達ならちゃんと」

 

「ああそれは俺も信じているさ。メルド団長たちならちゃんと配慮してくれるって。でもその上の人達は?」

 

「…上?」

 

「教会の連中だ。魔人族を魔物と同類に語った連中は神敵とみなした魔人族をどうするのかなぁ」

 

 だから保護だ。神の使徒と呼ばれる俺達が保護をしなければいけないのだ。…ちなみに逃がすって選択肢はない。異世界からの脱出の件を含め聞きたいことは山ほどある。

 

 みんなからの納得のいった視線を受けながら俺達はそのまま迷宮を脱出するのだった。

 

 

 

 

 ただ独りずっと顔を歪めている天之河に誰も触れないようにしながら…。 

 

 

 

 

 




一言メモ

カトレア 花言葉は「魔力」「魅惑的」「成熟した大人の魅力」

裏切り 一度クラスメイト達全員が魔人族に下るって話を見てみたい。…駄目?選択肢としてはありだと思うんだけど…

捕獲 どこもかしこもカトレアさんは無残に散るばかり。たまには生きていてもイイよね。


まだまだクラスメイトの強化話などが続きますー
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