ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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クラスメイト強化編
今回は炎術師兼サラマンダーの彼


生きる炎

 

 

 少年が中野信治と呼ばれるようになる前、まだ個体名として名前を付けられなかった時。

 

 少年はずっと小さな小屋の中で住んでいた。周りにあるのは寝床として置かれている粗末な毛布。使い道のない小さな机。かろうじて外が見えるだけの小さな窓。

 少年はずっと狭い世界で生きていた。

 

 

 小さな世界の小さな自分。それが少年の生きてきた世界だった。

 

 

 

 

「……懐かしいな」

 

 ふと、夢を見た。幼いころの夢だった。鮮明に思い返せる無機質で色のない世界。暗闇が支配しそれを享受していた幼年の日の思い出だった。

 自室のベットで目を覚まし辺りを伺う。日はとっくに暮れ時間帯は夜だった。溜息を一つつきベッドから抜け出す。もう一度眠る気は起きなかった。

 

 

 簡単な身支度を済ませ部屋から出る。個人の徘徊は注意されるかもしれないが中野にとってはどうでも良い。寧ろ夜こそが彼の時間だった。

 

 昼間より静かになった廊下を歩き、中世を匂わせる作りの城を見渡す。異世界トータス。オーヴァ―ドのエージェントになってから幾多の戦場を歩いてきたが流石に異世界は経験が無く、又想像できなかった。

 

(…やる事は変わらんがな)

 

 指の一部分を炎に変えながら自嘲する。日本だろうが異世界だろうが自分のやる事は一つも変わらない。敵を燃やし灰にするだけだった。

 

 

 フラリフラリと歩く。目的なんてなく彷徨う火の粉の様に。

 

 

 

 

 

 

 

 少年が住んでいた村は地図にない寂れた村だった。山奥に隠れる様に存在した名前のない村、来訪者なんていなく居たとしても噂にはならないほどのひっそりとした村だった。

 

 少年はそこに住んでいた。少年には家族なんてものは無くいつも一人だった。

 

 小さな小屋にやってくるのは奇妙な仮面をかぶった大人で、言葉を発しない。食事を持ってくるときも少年の身の回りの世話をするとき誰もが何も言わなかった。

 

 少年はそれが異常な事だと気付くことは無かった。教育もなく会話もない。人格は育つことなくただ生命活動を維持するだけの物体。

 

 そんな日々を疑問に思うことなく少年は日々を過ごしていた。

 

 

 

 

 少年の住んでいる村は確かに小さな村だった。しかしそこはとある神を崇める狂信者の集団だった。神を崇め信仰しいつか神を降ろす日々を夢見て生きている狂信者の村だったのだ。

 

 その村が外部に発見されることは無かった。迷い込んできた物を捕まえし神への生贄として捧げ殺害してきたからだ。

 

 少年はその狂信者たちにとっての神への最も清き供物だったのだ。その為に少年は攫われ育て、神へと捧げるその日が来るのを狂信者たちは待っていたのだ。

 

 

 そして神への捧げ物として贄になる日、少年の人生を大きく狂わせる事件は起きた。

 

 

 

 

 

 

 廊下をふらりと歩いていると訓練所の方で小さな明かりを見つけた。小さな明かりは揺らめいてしかし温かい物だった。誘われるようにして明かりへと近づいていく。

 

(まるで火に近づく蛾の様だな…)

 

 生憎自分は虫ではなく炎なのだが。そんな自虐の笑みを浮かべながらフラフラと日に近づけばそこには焚火をして温まっていた後輩となるオーヴァードの柏木が居た。

 

 どこからか持ってきたであろう小枝を積み重ね焚火に当たりながらぼんやりとしている。小さな明かりに照らされるその顔はどこか遠くを見つめていた。

(…珍しいな)

 

 中野にとって柏木とはいつもふざけて朗らかに笑う奴だという認識があった、だから火に照らされぼんやりと遠くを見つめるその顔は酷く珍しく感じた。

 

 そんな不躾な視線に気が付いたのか柏木はふっと顔をあげこちらに気が付くとはにかんだ。

 

「お、中野じゃん。どったの?」

 

「それはこっちのセリフだ。訓練所のど真ん中で何やってんだ」

 

「あはは…見ての通り焚火をしていたんだ。ちょっと考えたいことが一杯あってね」

 

 勿論メルド団長からは許可は得ているよーと間延びした声でぼんやりと焚火の火を見ていた。何となくじゃあなと離れるの難しく感じたので近くに腰を下ろす。隣で柏木が驚いたような気配があったが無視をした。元々人に合わせるのは得意ではない。

 

「………」

 

「………聞いてもいいか?」

 

 どれぐらい時間がたったのか。火を見つめながらふと柏木が話しかけてきた。断るつもりもないので黙って話を促す。

 

「オーヴァードになったって事はさ。普通の人間には戻れないんだろ。…俺は化け物のまま変わらないのか?」

 

「ああ、そうだ。人間には戻れない」

 

 だよねーと力ない返事が聞こえる。どんなに望んでもオーヴァードは人間には戻れないのだ。能力を使っている内に薄々事の大きさが分かってきたのだろう。この世界の魔法や魔力とは根本的に異なる力、レネゲイドの力を。

 

「まぁ、今更しょうがないとは思っていたんだけど…使っていると何だか戻れないような気がしてきて。…色々質問していいか?」

 

 いつもの日常、ありふれた日常を歩むはずだったものは突如として変わっていく。それはどこにでもある覚醒したオーヴァードが苦悩する事だった。 柏木もその部類なのだろう。変わりゆく自分に苦悩し、段々と受け入れ慣れていくことへの恐怖があるのはとても正しくそして普通な事だった。

 

「なんだ」

 

「中野はさ、オーヴァードに覚醒した時はどんな感じだったんだ?俺や南雲と同じような感じだったのか?」

 

 だが、自分はその感覚を共有出来ない。炎を宿したあの日から業を背負う事になった自分にはその答えは何も無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 贄として定められた日。その日はとても調子が良かった。何故なのか理由もわからないまま仮面の大人たちに連れられ出来ていた祭壇へと歩いて行く。

 

 時間帯は深夜で空は黒く星の明かりが瞬いていた。その光を遮るかのように祭壇の周りは松明の明かりで爛々と輝いている。

 

 仮面の大人たちに促されるように祭壇に横たわり夜空を眺める。そんな少年に満足すると狂信者たちはそろって声を上げる。

 

「フ―グル… ムグル… クト―グア ………ハウト 」

 

 何かの詠唱で何かの呪文だった。それが一体どんな意味を表しているのか気にする事もなく少年は夜空を眺めていた。

 

 小屋から出て初めての夜空だった。瞬く星の何と綺麗な事か。周囲の大人も、包まれる熱気も何もかも忘れ夜空を眺めていた。

 

「……あ」

 

 その詠唱を聞き流していた時、ふと夜空の中で光る星を見た。小さな小さな星だが何よりも強く輝きを放っている。その輝きは少年の心を揺り動かすには十分で…気が付けばその星から光の雫が降ってきた 

 

(なんだろうコレ…)

 

 ひらひらと舞い落ちる光。それは祭壇のそばにある松明がだす光と同じようなもので少年は知らなかったが『火の粉』と呼ばれるものだった。

 

 狂信者たちがその光にどよめいているのを気にせずその火の粉をただ何も考えずパクリと口に入れた瞬間。

 

 

 

 全てが白熱へと染まった。

 

 

 

 光に目を眩み目をつぶってある程度時間が過ぎた時、収まったと思い目を開ければその状況は一変していた。

 

 炎が全てを支配していた。

 

 周りの仮面の大人たちに火が飛びかかっていた。うごめく炎は意思を持つかのように信者たちを狙い焼き焦がしていく。逃げようとする者許しを請う者誰彼と関係なく炎は平等に勢いを増して襲っていく。

 周囲の森は炎によって火災が起きており、空が明るくなるほどに炎が猛って辺りを包み込んでいた。

 

「…?」

 

 何故信者が燃えているのか、どうして近くの森も燃えているのか、疑問に感じた時ようやく自分の異変に少年は気が付いた。

 

 体中から炎を発していたのだ。炎は揺らめき少年の周りを漂っていた。熱くはなくむしろ自分の手足のように動かせる炎は見ているとひどく安堵した。それと同時に湧き上がる様な愉快な快楽を感じ始め覚えて…少年はいつの間にか炎を操るすべを体で覚え始めていた。

 

「…ふふっ」

 

 それは初めての笑顔だった。炎を操れば操るほど心が弾み興奮してくるのだ。指先から放たれる揺らめく火の力。ふっと解き放てばユラリと動いた火は大人へと襲い掛かる。

 

「ぎゃぁぁああ!!!」

 

 絶叫をあげ服に着いた火を消そうともがき苦しむ大人。その姿は滑稽だった。愉快だった。口元が吊り上がり腹の底から音が漏れ出していく

 

「ふっ…ふふふ…あはは…あっはっはは!!」

 

 のたうち火を消そうともがく信者に向けて心の赴くまま火を放つ。高温のそれは消そうともがいていた信者へと当たり絶叫を上げさせながら全身へと瞬時に広がった。

 

「やめっ!止めてくれ!私たちが悪かっ」

 

 許しを請う声が途切れそのまま火の燃料となった物言わぬ焼死体。真っ黒の燃えカスへとなり下がったそれに少年は愉快な気持ちになる。

 

「~~~♪」

 

「ひぃっ!?」

 

 次は誰に当てようか、誰を燃やそうか、笑顔をで標的を選んでいけば怯えた声を出してくる。声から感じ取れる恐怖に絶望震える体は死への恐れをはっきりと示していた。もたつきながらも逃げようと必死に後ずさる信者たち

 

 少年はその姿を見て…自分がどうしようもなく興奮しているのをはっきりと感じ取ったのだ。

 

 

 

 そこからはまるで煉獄の如く炎の蹂躙が始まった。

 

 逃げようとするものを少年は徹底的に狙った。恐れるモノ、命乞いをするもの、諦めるもの、誰も一切の慈悲なく愉快に痛快に、炎で燃やしていく。

 

 燃やすレパートリーも焼却するたびに増えていく。ワザと足だけを狙い炭化させて機動力を失わせる。四肢をケドロ状になるまで念入りに解かす。顔を燃やしてのたうち回す。

 

 人を燃やした、人を燃やせば燃やすほどまだまだこの遊びを続けたくなった。

 

 村中を探し回る。逃げ惑う人を見て笑みを深くし容赦なく燃やしていく。わざと弱火を使い水辺へと誘導させ安心させた所を水の水温を上昇させ煮えたつ熱湯に変化させ溶かして回った。

 

 子供をかばう親が居た。心に引っかかるものを感じたので子供の周囲の酸素を熱焼させ酸欠にし苦しませる。親が必死になって子供の命を助命するのでつい体温を上昇させ内側から溶かしていった。グズグズになった親と酸欠で紫色になって死んだ子供を混ざり合うように灰になるまで燃やした。

 

 少年は蹂躙と殺戮を繰り返す中、無意識に村の周囲に炎の囲いを作り上げていた。

 

 獲物を逃さないためだった。

 

 

 

 

 

 

 

「覚醒か…」

 

 当時の事を想い返し溜息が出てくる。はっきり言えば何の参考にもならない、寧ろ鬼畜の所業だ。まさか本当の事を告げる事もなく曖昧な言葉で答えた。

 

 

「あんまりよくは覚えていない、碌なことにはならなかったのは確かだが」

 

「そっか…それならしょうがないよな」

 

 元々深く聞くつもりが無かったのか、そう言うと柏木は小さくなった焚火に薪を足していく。どうやら気づかなかっただけで柏木の隣には結構な薪が置かれていた。

 

「~~~♪」

 

 鼻歌を歌いながらご機嫌に日に薪をくべていく柏木。しかし入れる量が多すぎたのか、火は今にも消えそうだった。

 

「あっれ~おかしいなぁ 何で消えそうなんだ?」

 

「入れ過ぎじゃね?分量を間違えたんだよ」

 

「む。ならこの『エクスプロージョン』で」

 

「おい馬鹿止めろ」

 

 何を思ったのかソラリス能力で液体火薬を作り出そうとする柏木に待ったをかける。いくらレネゲイドウィルスが暴走する予兆を見せないからって流石にそれはやり過ぎだ。と言うよりも高々焚火でそれは火力が強すぎる。

 もしかしたら爆発するかもしれないのだ、サラマンダーの自分は良いとしてソラリス能力者とは言え身体能力は一版人に毛が生えた程度の柏木はどうするつもりだったのか。

 

「えー」

 

「えーじゃない。…全く」

 

 仕方がないので焚火に指を突っ込み種火をつけ薪に火を灯させる。それで火力が上がったのか焚火は先ほどよりも少し大きくなった。

 

「おおー! 流石中野サンキューだぜ!」

 

「ハイハイ、ったく普通オーヴァード能力をここまで気楽に使うのか?」

 

「ううん ブーメランですなぁこれは」

 

 オーヴァードの力をここまで使う人がこれまでいただろうか、日本に帰った時果たして柏木は普通の生活を送れるのだろうか、疑問とある種の不安はあるが、嬉しそうに笑い焚火を眺めるその姿を見て考えるのは止める事にした。  

 

 しかしその嬉しそうなその顔は直ぐに思い悩む様に曇ってしまう。

 

「うぅむ。しかし中野ー俺両親にはどう説明すればいいんだ?正直な話この力の事隠し通せるつもりはないぞ」

 

 なるほど、確かに自分が異能の力を持つ人間になってしまったら、家族の事を考えると悩むのは仕方がない。尤も柏木の父親はオーヴァードではあるので問題は無いのだが…

 

「ああ、お前の親父だったら…」

 

「?知ってるの?」

 

 その純粋な疑問にどうこたえるべきか、知り合いと言うには殺伐として恩人ともいえた。口で説明するのは難しいのだ。

 

 

 自分が引き起こしたあの惨劇を止めた張本人とは…

 

 

 

 

 

 

 村中にいるすべての人を燃やし尽くし殺戮を終え、一息を付いた。体の芯からざわつくような熱気はまだ生贄を求めておりまだまだ燃やしたりなかった。

 

「……外へ」

 

 村の中にいる生命体の熱はもう無い。ならどうするべきか、答えは決まっている。村の外へ出て新たな贄を探すだけだった。

 自身のそんな熱に魘されたような考えは夜空に光る赤い星が宿する様に光り輝いているのを見て間違っていないのだと嗤った。

 

 

 そうして初めて世界の外へ出て行こうとして…

 

 

「ガキが 火遊びをしてんじゃねぇよ」

 

 その一言共に顔面に衝撃が襲った。初めて味わう激痛と身体が吹っ飛んでいくという奇妙な感覚を味わい、何件もの燃えた家屋を巻き込みながら体はやっとで止まった。

 

 倒壊した家屋に下敷きにされてしばしの間呆然。少々の時間を掛けて自分が殴られたと知り、燃え上がる炎で一気に廃屋から飛び上がる。炎を纏い、激情を乗せた顔で顔面を殴った相手を探し出す。

 

 直ぐにその男は見つかった。加えた煙草に火をつけぶっきらぼうに歩んでくる男。顔に大きな横一文字の傷をつけた精悍な男だった。

 

「元々この村を潰すつもりだったとはいえ…全く下らねぇボヤ騒ぎを起こしやがって」

 

 面倒くさそうにしかし、目は一つも笑わない男はこちらを観察するような目で見てくる。その目は今まで見たことが無い理性ある獣の目だった。

 

「っ!」

 

 その目に恐怖を覚え瞬間的に炎を弾丸として撃ちだす。恐怖に駆られ咄嗟に出た行動は炎を操る力の初歩的な基本動作だった。

 

「フン。 随分と躾のなってねぇガキだ」

 

 だが溜息と共にその炎の弾丸は拳一つでかき消されてしまった。そうしてやっとで分かった、自分がどれだけ小さい村で生きていたかを、自分がやっていたのは只の弱者をいたぶっていたのであり自分より上がいる事を知らなかったという事を

 

 

 

 

 

「…まぁお前の親父さんなら話せば受け入れてくれるだろうさ」

 

 結局戦いにもならず一日中殴られ続けたことを思い返し、何とも曖昧な返事を返してしまった。顔見知りだと話したところで関係性を話すのはでもあるし何より自身の過去を探られるのにはいい気持ちはしないからだ

 

「そうかなー うぅんでも父さんなら…ま、いっか」

 

 頭を捻って悩む柏木だが、結局考えても無駄だと思ったのだろう、問題を後送りにしたかのように能天気に笑い、焚火に薪を追加した。

 

「~~♪」

 

 随分と機嫌が良い様で目を瞑り体の力を抜いてリラックスしながら何やら鼻歌を歌っていた。謳っているのは何の曲だろうか、どこかでチラリと聞いたような気がしたが自分にはさっぱりだ。

 

「カルマだよ。最近どこかで聞いたような気がして…それに歌詞が妙に心に残って一時期ずっと謳っていた事があったんだ」

 

「ふーん」

 

 聞けば何かのゲームの歌らしい。生憎そういう物にはてんで興味が無いのだがまぁ触れる事は無いだろうしそれでいい。

 気になったのはさっきまで悩んでいたのに今は気楽に微笑んでいる事だった。

 

「うん?そりゃ考える事は一杯さ。どうして俺がオーヴァードになったのかとか、日本に帰ってからこの力とどう向き合えばいいのかとか、そもそも俺の将来どうしようかなとか。考える事は一杯だよ」

 

 漏らすのは将来の不安。自分には全くない未来への不安と期待が混じった吐露だった。…UGNに飼い殺されることが確定している自分に比べそれが幸福な事なのかどうかは分からないが羨ましいとは思った。

 

 そんな自分の内心を知ってか知らずか、でもと柏木はつぶやいた。

 

「でもさ、中野が居るからまぁ何とかなるんじゃないのかなって思う事にしたんだ」

 

「……は?」

 

「俺より先にオーヴァードになった異能の先輩。俺より先に立って生きている中野が居るから気軽に相談できるんだ」

 

 柏木が言うにはもしこれが南雲と二人だけでオーヴァードになってしまったら悩んで悪循環に陥ってそしてジャームになってしまうのではないかと

思うのだという。気ままに好き勝手力を使って人の世界を混乱に貶める、そんな化け物になってしまうのではないかと

 

「何で俺が居ればジャームにならないと言えるんだ」

 

「間違っていたら怒ってくれるでしょ。それに中野の火に何度も助けて貰ったから」

 

「確かに余りにも間違えたら燃やすつもりではあるが…それよりもなんだそれ?いったいなんの話だ」

 

 前者は確かにその通りだ。力の使い方に私利私欲の度合いが強くなればが粛清するつもりではある。顔見知りでも躊躇なくできるように育てられたからだ。

 

 しかし後者の話は一体何の話だろうか、疑問は顔に出たらしく柏木は苦笑していた。

 

「色々あったさ。あの橋でお前俺に向かって熱を送っただろ?あの時アレがあったから南雲を投げ飛ばすことが出来たんだ。それにカトレアの時も。あの時もお前の熱視線が無ければあんなに上手くいかなかったさ。」

 

 もちろんその後の無双も含めてもだけどなっ!っとカラカラと笑いながら感謝を口にする柏木。その笑顔を見て表面には出さないが心中は複雑だった。

 

 確かにエールは送った。それが能力に出たかどうかは知らない。しかし感謝されるようなことでもないのだ。あくまで仕事で能力者としての後輩と言うだけで進んで助けようとした訳じゃない。

 

 そもそも自分の炎は業そのものだ。誰かを焼き殺し終わらせるその為だけの炎でそれしか使い様がない破滅の炎なのだ

 

「ありがとう。中野にとってはどうかは知らないけど、あの炎があったから俺は生きることが出来たんだ」

 

「――――」

 

 しかしそうやって笑顔を向けられたのは生まれて初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 傷のある男に負けてからUGNに入る事になった。最初は反抗的に炎を操ったが上には上がいるよう何度も丁寧に殴られて自身の力量を叩きこまされた。

 

 徹底的な躾を受けてからは他のチルドレンと同じように教育を受けオーヴァードの力を使う様になっていった。

 

 自身の力は預けられた施設の中で異様なほどに強力だった。操る炎はまるで手足の如く動き、熱の温度を上げるのは呼吸より簡単だった。同じサラマンダーのオーヴァードの中でも異質だった。

 

 生きる炎。そう二つ名を付けられ呼ばれるようになったのもさして時間はかからなかった。

 

 しかし力とは引き換えに他者との交流は少なかった。理由は呆れるほどに簡単で自身が使う炎を他のチルドレン達から恐れられていたからだ。

 

「アレは違う、普通じゃない」

「異様だ。もっと別の…」

「怖い、あの炎は人を殺すことに長け過ぎている」

 

 数々の陰口があった、しかしそれは本当の事だった。まるで何かを燃やす事だけが取り柄のような自身のサラマンダーとしての能力。本来なら氷を生み出し低音を操れるべき力も持たない、炎に特化した怪物。永遠に燃え続ける炎、上がり続ける熱量。

 

 自身の生まれもあった。あの村は邪神を崇め敬い、炎を祭る異教の狂信者の総本山。調べてもそれ以上の情報は無かったが気味悪がられるのはその出自のせいでもあるのだろう。

 

 世間一般的な教育も受けつつジャーム焼却者としての訓練を続けて行けば自分の力の異質はよく理解でき、恐れられるのも知ってはいた。

 

 

 

 だから一度だって自分の炎(恐れられた力)に礼を言われたことだってなかったのだ。

 

 

 

 

 

「…お前はやっぱりおかしい奴だな」

 

「いきなりディスられた!?」

 

 思うがままの言葉を言えば驚き目を見開く柏木に苦笑を漏らす。そんな和やかな雰囲気は今までは得られなかったもの。そしてもう手にしていた物

 

 思えば檜山達とも話しているときは楽しかったのだとあらためて気づく。転校としてかりそめの生活だったのだが以外に気に入っていたのだろう。そんな自分に驚き、そしてふと笑う。

 

「…そうだな。そうしてみるのもまた良いのかもな」

 

 自身の手を眺める。この炎で一体何人のジャームを燃やしてきた事か、いったい何人の故郷の人達を燃やし殺してきた事か。罪悪感は消え失せ何時しかそれが当然だと受け入れていた。それしか出来ないのだろうと。

 

 自身の罪は決して許されない。どんな事情があろうとも故郷の人達を殺してきたのは事実なのだから。でもその力で何かを守れることが出来るのだと改めて気付かされた。

 

「どしたん?嬉しそうに笑って」

 

「…何でもないさ」

 

 柏木に怪訝な顔をされたがどうでも良かった。今、改めて気付かされたこの目の前にある焚火のような心は存外悪くないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃぃいいやっほぅぅううう!!!」

 

 あくる日の訓練所、斎藤は飛べるようになってから毎日のように低空飛行を続けていた。地面から数センチ上昇しスピードを上げていくという自分だけの訓練。空を飛べるという感触をかみしめるかのようなその姿は今ではもう恒例行事としてしまった。

 

 そんな訓練所に珍しい人影が一つ。気付いた斎藤は笑顔で近づいた。

 

「やっほう中野!今日は珍しいねぇ~どうしたの」

 

 友人である中野信治だった。随分と珍しいその姿ににこやかに笑い掛ければ、不敵な笑みを返された

 

「いやなに、いつも空を飛んでいるお前が気になってな。楽しいか」

 

「うん!楽しいよぉ~この誰も邪魔者が居ない大空をびゅんびゅうと飛ぶのは楽しいさ」

 

 自身の気持ち良さを表すかのように空でくるくると回る。流れる風の何と言う気持ち良さか。これがほかの人が味わえないことに少し気落ちしつつ返答を返せば中野は炎を灯しながら笑った。

 

「なるほど、じゃあ俺も飛ぼうか」

 

「へ?」

 

「よっと」

 

 口に出た疑問は目の前で形となって返答された。中野が空を飛んだのだ。

 

「えええぇぇ~~~~!?!?!」

 

 両足から炎を吹き出して両手に灯した炎でバランスをとる。多少はふらついている者のその姿はまさしく空を飛んでいた。空を漂い不敵な笑みを見せ斎藤に話しかける。その顔は今までにないほどニヤついていた

  

「ああ、なるほど良いもんだな。お前が気に入るのもうなづける。でもな」

 

 驚愕している斎藤へニヤリと笑う。挑発と余裕を混ぜ合わせた酷く子供っぽい笑顔だった。

 

「空はお前だけの物じゃない」

 

 そのまま上昇していく中野に対して口をあんぐりと開けた斎藤はしばらくしてハッと我を取り戻すと飛んでいく中野の背へと飛び上がった。その顔には笑みが広がっていた、ようやくこの空を楽しめることが出来る仲間を得たのだ。

 

「何それ!?一体いつの間にそんな事できたの!?すごいじゃん!」

 

「ま、ちょっとした炎の有効活用さ」

 

 嬉しそうにはしゃぎまわる斎藤に適当な事を返す。レネゲイドと炎術師の力の組み合わせだと言った所で理解されるとは思い難い。この世界に合わせて適当に技能が生えたなどと理由を付ければいいだろう。

 

 眼下には斎藤のはしゃぐ声につられてきたのかいつの間にかクラスメイト達がやってきてこちらを指さしていた。

 

 その中の一人柏木に対して中野は薄く笑う。

 

 

 一つだけ柏木に話していなかったことがあった。それは自身の力は決してサラマンダーだけの力ではないという事。

 

 炎が目覚めたあの時、口にした火の粉によってサラマンダーとして覚醒された。しかしそれ以外にも邪神の力の一部分が身に宿った可能性があったのだ。 

 

 本来なら自我が崩壊する邪神の力は僅かな火の粉であったため自身と同化することが出来た。サラマンダーの力に目覚めレネゲイドウィルスが邪神の力と同化した。自身の異様さの説明をいくらでも思いつけるが、中野にとってはどれでも良かった。

 

 

 気味悪がられていた炎は誰かの力になれたのだと、ありきたりの結末に中野は満足したのだ。

 

 

 

 

 

 

 




中野信治 とある邪神の生贄。偶然か必然かサラマンダーとして覚醒した時その邪神の力の一部が身に宿った。サラマンダーとしては奇妙な炎はジャームとよく似ているが理性を持っているのでUGNからは始末屋として生かされている。現在異世界にて炎を使った飛行の練習中。
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