ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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何だかんだで日は沈む

 

 

何やかんやありながらもその後王族達や騎士団長、宰相等、高い地位にある者の自己紹介は問題なく終わった。途中、王族の少年(言い換えるなら王子だろうか)がチラチラと白崎に視線を送っているのが見えた。

 

 気持ちは分かるぞ少年。白崎の外面だけは滅茶苦茶美少女だもんな!俺以外の人への対応も良いし!でもざんね~ん白崎は南雲が好きなのだ。正直お前の恋が実るとは思えない。諦メロン♪

 

「まぁ王族の権力を使ってNTろうとしたらぶっ殺すけどな」

 

「え?なに?いきなりどうしたの?」

 

「俺はお前推しってことだよ」

 

「???」

 

 親友が学校一の美少女と甘酸っぱい青春を送るのを2828しながら冷やかして微笑ましく見守りたい(なお、恋人関係が成立したら性的に喰われる模様)

そのためこの世界の住人が白崎に惚れるのはいいが恋愛成立は俺としてはNGなのだ。なので王子様、お前の恋は認めない。

 

 

 

 その後一人一人自己紹介で終わって時間帯は大体5、6時ぐらいだろうか。晩餐会に出ることになり、俺達は待合室?で待つことになった。流石は王城。数十人の客人相手でも収納できる部屋があるとは…それはともかく

 

「…流石に疲れた」 

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫だ!って言いたいところなんだがな、ちょっと落ち着きたいかな」

 

 添えられていた柔らかいクッションのソファーに体を沈み込ませながら俺は全身を伸ばす。元気そうに見えるがこれでも結構クタクタだ。原因は恐らく気疲れや考えすぎだろう。隣にいる南雲や他の皆は案外元気そうだ。正直羨ましい。

 

「晩餐会ねぇ、正直この世界の料理レベルはどんなもんだろうな」 

 

「うーん、王宮の料理人が出すものだから…たぶんこの世界最高級の料理が出るって事じゃない?」

 

「あー確かに王族や貴族様たちが食うもんならレベルが高いかもしれんな」

 

 南雲の言葉にウンウン頷く。がここで嫌なことを考えてしまった、即座に否定して欲しくて慌てて南雲に確認する。

 

「な、なぁ南雲さんや」 

 

「どうしたの変な言葉遣いになって」

 

「今気が付いたんだが…出てくる料理は俺達が食えるものなんだろうか?もしかして変なものが出されるんじゃ…」

 

「…んん?? あっ…はは、まさか大丈夫だよ」

 

 普段俺と話している勘の良い南雲はすぐに俺が言いたいことが伝わったようだ。一瞬硬直するも大丈夫だと言うがお前の顔から冷や汗が出たのを俺は見逃さないからな。

 

 異世界転移。良い言葉だ。まさしくオタクにとって涎が出てくるほどの夢の世界と言う物だろう。しかし異世界は日本、正確に言えば地球とは違う文化をたどっている世界だ。同じような姿、言葉、似たような思考、行動をしているからと言って日本と一緒と言うのは安心しすぎだろう。

 

 長々と変な事を言ったが要は、俺達が食べる料理に変なものが入っていないかという事だ。たとえて言うならば虫型の魔物が入っているとかうねうねした魔物の触手やらが出てくるとか、さらに嫌なことを言うなれば人肉料理が出てきても不思議ではないかもしれないのだ。

 

「いや、流石にそれは無いと思うからね柏木君」

 

 俺の顔から何を考えていたのか察した南雲だが、不安になるのは仕方ないだろ。異世界なのだ。俺たちの都合や尺度で考えるというのは早計過ぎる。咄嗟に転移されたときに掴んでいた学生かばんを握りしめる。

 

 一応この中にはカロリーメイトやお茶が少なからずある。もしもの時は皆に分配することを考えなければいけない。

 

「っく、異世界転移と思って油断していたがまさか食糧事情が出てくるとは…なんてハードな転移だ」

 

「多分考えすぎだと思うけどなぁー」

 

 呆れた視線を向ける南雲だが、俺の不安は止まることは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 晩餐会またの名をディナー、又は勇者様一行(笑)のお披露目会か。

 

 時間になり大きな広間へ案内された俺達は席に着き運び込まれてくる料理に期待と不安を寄せる。結論から言うと不安は全くの杞憂だった。運び込まれてきた料理は地球の洋食…西欧料理?に近く俺達が普段食べるものとそう変わらなさそうだ。

 

 運び込まれてきた前菜のサラダは瑞々しく色とりどりの綺麗な野菜が入っている。主食だろう何かの肉のうまそうな脂身と焼き加減。漂う匂いによだれが出てきそうだ。今にも一心不乱でむしゃぶりつきたいがここで気付いてしまった。

 

(やべぇよやべぇよ!俺テーブルマナー全く持って知らないんだけど!)

 

 テーブルマナーを録に知らない一介の高校生がこんな格式のある晩餐会に出たところで恥をかくだけだ。周りを見れば皆もどうすればいいかわからなくて困惑している。

 気にしていないのは檜山達ぐらいだろうか、しきりに美味そうだと斎藤たちとはしゃいでいる。気持ちは非常に分かるが落ち着け。

 

 どのナイフとフォークを使うべきか模索していると見かねたのか先ほどの銀髪メイドさん(そろそろ名前を知りたいのだが自己紹介する暇がない。無念)がそばに来て話しかけてくる。

 

「どうしましたか。何か…ご都合が悪いことでもあったのでしょうか」

 

「あーいや、そういうのではなくて…その、俺達こういう時のテーブルマナーを知らなくて変な目で見られないか心配で…」

 

「ああ、そうでしたか。心配ありません、大丈夫ですよ。そもそも今夜の晩餐会はあなた方とトータスの者が親睦を深めるために開いたものです。お互いを分かりあい交友するのが目的ですので、ぐちぐちと礼儀作法に苦言を言う者はいませんよ。それに温かいうちに食べてくれないと腕によりをかけて作った料理長が泣いてしまいます」

 

「そ、そうだったんですか…ならいただきます」

 

 メイドさんは耳に残る様な透き通る声で悪戯っぽく笑い気にせず食べろと言うのでそういう事ならと料理を食べようとする。俺に合わせて周りの皆もホッとしたような顔をすると料理に手を付け始める。おい、俺は最初にナプキンを取った者かよ。

 

「では、私はこれで失礼します。何かございましたらいつでも気兼ねなくお呼びください」

 

 優雅に一礼をするとそのままメイドさんはすたすたと去ってしまう。その後ろ姿を見ていると隣の南雲から話しかけられる。…どうでもいいが朝からずっと南雲が俺の横にいる気がする。

 

「よくよく考えたら勝手に召喚して置いて礼儀作法の事に文句を言う人なんている筈がないよね」

 

「だよなぁ、正直無駄な心配をしていた」

 

「杞憂って奴だね。それよりこの料理中々美味しいよ」

 

 見れば南雲はパクパクと料理を美味しそうに食べている。俺も腹が空いているので同じように料理を食べ始める。

 

 味は…いい感じだ。変なものが入ってるわけではなさそうだし、量もそれなりにあるが、問題なく食べれる。色付けが多少派手だが王宮料理だと思えばこんなものか。

 

「ふむふむ、異世界料理も悪くない」

 

「だね、この虹色の飲み物は何だろう?ジュースみたい」

 

「どういう原理の着色料を使っているのやら…流石ファンタジーだ」

 

「着色料じゃなくて自然素材?…うーん訳が分からない」

 

 南雲とこれはどんな料理で味がどーたらこーたら話しながら食べるのは楽しいものだ。周りの皆も同じように近くの席の奴と喋りながら料理を堪能しているようだった。

 

「ウメェウメェ!」

「うまうま」

「あはは~がっつき過ぎだって檜山~」

 

「恵理ちゃんこのお肉美味しいね。いったい何のお肉なんだろう?」

「うーん。…何かの虫だったり?」

「え”」

「冗談冗談。本気にしないでよ鈴」

 

 異世界とか何とかいわれているが料理を堪能している今この時はまるで修学旅行で見知らぬ外国にでも着た気分だ。檜山と近藤はひたすらパクつき斎藤に笑われている。谷口は幸せそうに中村と話をしているが中村に揶揄われたらしく一瞬顔を真っ青にさせた。

 

 そんなこんなで南雲と雑談しながら料理を堪能していると渋みのある騎士のおっさんがこれからの事を話し始めた。食べながら聞いた話を要約するとこれからの俺達の衣食住の説明やや訓練を指導してくれる教官たちの紹介などだった。

 

 その中で印象に残る騎士が三人いた。一人はいま説明をしている団長さん。礼服を着ていても分かる筋肉の膨れ具合は歴戦の勇士と言った感じでかなり逞しかった。まるで映画に出てくるマッチョの俳優でナイスミドルだ。正直カッコイイ。

 

 次に騎士団長の横にいる人で副官の人だった。騎士団長が男前の精悍な顔つきなら副官の人は美麗と言う言葉が良く似合うイケメンだった。こちらを見る切れ長な目付きがやたらと鋭いのがとても印象的だった。

 

 もう一人はいかにも仕方なく連れてこられた感を隠そうともしない若い騎士だった。眠そうに欠伸を噛み殺しているのがハッキリと見て取れるほどこの晩餐会自体が心底どうでも良さそうだった。

 

 とはいえ親交自体は穏やかに進み周りの皆は親睦を深めようとしたのか話しかけてくる教官たちと多少の緊張感を残しながらも会話をしていた。なんだかんだでうまく交流しているようだ。

 

(はてさて、戦いなんて一つも経験のないど素人がそんなに強くなれるんですかねぇ?) 

 

 いきなりど素人を戦線に組み込んだとして、果たしてどれくらい役に立つといえるのか。

 

 そもそもの話、人間族は滅びそうだという話だったが、なぜ王族の方々は表情に焦りが無いのか。

 

 それよりもずっと前に、どうしてエヒトと言う神様とやらはど素人の俺達を選んだのか。…正確に言えばなぜ天之河なんだとか。 

 

 

 

 

 そんなしょうもないことを考えながらもおいしい料理に舌鼓を打つ俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晩餐会が終わった後、美味い食事に満喫した俺達は大浴場へ案内された。この異世界では体を洗うという事が普及されているみたいだった。これは正直とてもありがたかった。何せ日本人、何日も体を洗わないでいると不潔感でストレスが一気にたまるという事らしいからみんながほっとした顔になっていた(特に女性陣)

 

「風呂があるのか、流石に風呂も入れず一日が終わるってのは無いしな、正直助かった」

 

「ちゃんとお風呂がある文化なんだね、衛生面では気を使っているみたいで良かった」

 

「トイレもなぜか水洗式だったしな…機械はなさそうだし、魔法道具って奴なのか?」

 

 夕食の後トイレにいったが、俺が恐れていたポットン式ではなくなぜか水洗式だった。用を足した後勝手に水が流れていくのだ。おまけに紙もちゃんと完備されてあり、日本の高水準の生活環境で暮らしていた俺達にはかなりありがたかった。

 

 脱衣所で服を脱ぎ(当たり前の話だがちゃんと男湯と女湯があった。シカタナイヨネ)いざ大浴場へ!

 

「ほほ~う。中々悪くないんじゃな~い?」

 

「広さは中々、温度は丁度良く、ファンタジーだからどんなものかと思ったけど、うん。いい感じだ」

 

 大体銭湯ぐらいの大きさの浴場で、大き目な風呂が一つに、後は個別用?なものが数か所。流石は王宮。正直生活レベルの高い場所に呼び出されて本当によかった。

 

 大き目の風呂場に入り怒涛の如く起きた今日の疲れをとる。肩までつかるお湯の気持ち良さといったらやはり格別だ。

 

「あぁ~気持ちいいんじゃ~」

 

「……はふぅ」

 

 お湯は少し熱めで、その熱さが疲れた体によく効く。自然と声をあげてしまうのも無理のないことだった。隣の南雲なんて頭にタオルを載せて完璧にリラックスモードだ。なんだかんだで疲れがあるのだろう、ほにゃりとした顔はさっきまでなにやら考え込んでいる顔とは違っていた。

 

「ん~どうしたの」

 

「いや、リラックスしているなって思ってさ」

 

「そりゃこんな時ぐらいはねぇ~正直異世界の人がいるところでは気が休まる暇がなかったよ」

 

「あ~お疲れさん」

 

 やっぱり色々考え込んでいたらしい。それもそうだと思う、なにせ戦いを知らない少年少女を戦争にけしかけようとする世界の住人だ。全員がそうではなかったとしても、警戒してしまうのは仕方がない。

 

 体を洗うためにほにゃほにゃしている南雲と分かれ桶や椅子の用意された洗い場で石鹸を使いタオルで体ごしごしと洗う。

 

「隣、邪魔するぜ」

 

「ん?おう」

 

 そういえば髪はどうすればとキョロキョロしているところで隣に坂上竜太郎が現れた。

 

 坂上竜太郎。190㎝でかなりガタイが良い筋肉モリモリのマッチョマンだ。性格は脳筋思考で気合や根性などの精神論に重視しているスポーツマンタイプだ。中々のいかつい顔だが悪人ではない、一見日本人には似つかわしくない大柄な体格で初見では本気でビビるが悪人ではないのだ。大事なことなので2回言いました。

 

「なぁ坂上よー」

 

「あん?なんだ」

 

「この世界どう思う」

 

 隣に座ったのも何かの縁。ムキムキな体を洗う坂上にこの世界トータスについて聞いてみた。坂上は思ったことはスパッと言う竹を割ったような豪快な奴なので直感的にこの異世界をどう思ったのか知りたかったのだ。もう少しいえば他の奴が何を想っているのかが知りたいというのもあるが。

 

「さぁな、正直、戦争だが魔人族だが、俺はどうでもいいなぁ」

 

「お?意外だな。天之河の意見に乗っていたから世界を救おうとでも考えているのかと思った」

 

「いいや、これっぽっちもだな。光輝が言ったからそれに乗っただけだ。ほかは何にも考えてねぇよ。それにダチが危ないことをしようとしていたら手を貸すもんだろうが」

 

「へぇー 友人思いだな」

 

「……いや、そうでもねぇさ」

 

 お?意外だな、即答かと思えば少しだけ考えて出た言葉は何やら意味深な重さがあった。だがそれも一瞬ですぐにいつもの調子に戻ってしまった。 

 

「ともかくだ。俺はやれることをやるだけだ。お前が何を考えているのかは知んねぇが、柏木もそんなもんだろ」

 

「確かにそうかもなー」

 

 何をするのか見当もつかず、何ができるのか分からないけど、物事はいたってシンプルで自分でできる事をするだけなのかもしれない。 

 坂上の言葉にうんうん頷いていると会話が一区切りした為かそのまま坂上は風呂場の方に行ってしまった。ちなみに坂上はタオルを腰に巻かずにいたため大柄な体格にふさわしいビックな一物がブランブラン揺れてた。隠せよ…

 

「まぁ、やれるだけの事をやってみますか」

 

 色々考えてしまうけど結局はこういう事なのかもしれないなと思う俺でした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで全員風呂から上がり用意されていた寝間着(かなり肌触りが良い!)を着てメイドさんたちに案内されること十分、俺達はなんと専用の個室を与えられるという事が分かった!

 

「マジか…個室が与えられんのか、それもかなり良い部屋」

 

「VIPルーム?一応、人数分の部屋が割り振られるらしいけど…コレ召喚された人が百人とかだったらどうするんだろう」

 

 まじまじと俺の部屋と南雲に割り振られた部屋を見ながら唖然とする俺と南雲。何しろ日本にある俺の自室より大きく(もちろん南雲の部屋よりもでかい)天秤付きのベットがありタンスや机などは高級品と見て分かるほど存在感を放っていた。

 

「…さて、南雲様、柏木様。少々お話がございますがよろしいでしょうか」

 

 俺と南雲がぽけーっとしていると、案内してくれた銀髪メイドさんがなにやら真剣そうな顔でそう切り出してきた。この人はイシュタルから説明された時

に俺に飲み物を入れたくれた人で晩餐会で話した人でもある。何だかんだで縁がある人だった。

 

 余談だが、ほかの皆はもう部屋に入っている。俺達は案の定最後尾だったので最後に回されたわけだ。

 

「えっと何でしょうか」 

 

「貴方方一人一人に専属の侍従が付くというお話は聞きましたか」

 

「あーそういえば晩餐会でそんな話があったような」

 

 晩餐会で渋みのある騎士がそんな話をしていたような気がする。…アレ?結構重要な話だったのに何で忘れていたんだろう?

 

「あの時は柏木君、肉にかぶりついていたからロクな話を聞いていなかったじゃないか」

 

「マジか」

 

「話を続けてもよろしいですか?」

 

「あ、はい」

 

「その専属の話なんですが、実は色々あって人手が間に合わなくなってしまったのです」

 

「なんと」

 

 その話が本当なら俺達のクラスで一人だけ専属の人がいないという話になる。そして俺と南雲に話しかけてきたという事は…

 

「察し通りです。ほかの方々に専属がついた今、お二人のどちらかがいないという話になりますので…」

 

 その話を聞き南雲と顔を見合わせる。正直に言えば専属の侍従なんていらないというのが本音だ。知らない他人に気を使われるというのは結構なストレスになる。

 しかし異世界と言う俺たちの常識が通用しないこの場所ではいた方が何かと助かる場面が多いのもまた事実だ。

 

「仕方ねぇ、南雲お前がメイドさんをはべらせろ」

 

「え!?ぼ、僕はいいよ。それより柏木君こそ必要なんじゃないの?」

 

「馬鹿いえ、俺は大丈夫だ………多分」

 

「多分って…やっぱり駄目じゃないか~」

 

「お二人とも話は終わっていませんが?」

 

「「ア、ハイ」」

 

 俺と南雲の譲り合い(と言う名の擦り付け合い)を見ていたメイドさんが呆れたように話に入ってくる。

 

「それで、話を戻しますが、その足りない分は私が受け持つことになりました」

 

「へ?あなたがですか?」

 

「はい、私があなた方の専属の侍従になるという事です」

 

「えっと僕と柏木君の侍従という事になるのは色々負担になると思いますけど」

 

「大丈夫ですよ。これでもニア先輩からは太鼓判を押されているのです。問題はありません、むしろドンとこいです」

 

 ニア先輩と言うのが誰か分からないが、やたらと自信をもって宣言する彼女は撤回する気はないらしい。南雲も仕方ないのかなと呟いている。俺?…しかたないだろ断るのもマズいような気がするしこの人の立場ってのもあるだろうから。

 

「なら…これからよろしくお願いします」

 

「僕の方の迷惑をかけるかも知れませんけどよろしくお願いします」

 

「はい。こちらこそです。それと私の名前は『アリス』です。これからは気楽にお呼びください」

 

 嬉しそうに微笑む彼女はそう言って自己紹介をした。『アリス』一見どこにでもありそうなその名前は酷く俺の心を揺さぶる。

 

「アリス…さん、ですか」

 

「そうですが、どうかしましたか?」

 

 アリスさんはそう言って小首をかしげてくるが、俺としても動揺は隠せない。何故なら日本でやっていたゲームでキャラクリエイトした主人公の名前も『アリス』だったからだ。名前の由来として俺の知らない不思議な世界を旅する主人公として「不思議な国のアリス」からとったのだが…まさか同じ名前なんて。

 

 とんでもない偶然ともいうべきか、それとも都合がいいとでも良いのか。何にせよこの俺の理想の少女像を詰め込みまくった様なアリスと言う人には強い奇妙な縁を感じてしまうのだ。

 

「いえ、何でもないです。コンゴトモヨロシク…ですね」

 

「はい今後とも…いえ末永く、ですね」

 

 そう言ってふんわりと微笑んだ後、丁寧なお辞儀を返すとすたすたと去っていってしまった。

 

「どうかしたの?さっきから変な顔をして」

 

「うーん。俺のマイキャラと同じ容姿に同じ名前だから奇妙な縁があるなぁと思って」

 

「ふーん?ただの偶然じゃない?」

 

 確かに南雲の言う通りただの偶然であるはずだ。いきなりこの世界に来てしまったせいなのか妙に疑い深くなってしまっているのかもしれない。もしくは色々あっては疲れたのかも。

 

「…それにしても専属のメイドかぁ」

 

「おい南雲、鼻の下が伸びているぞ、正直キメェ」

 

「ひどっ!だってしょうがないじゃないか。あんな可愛い子が専属なんて」

 

「そりゃあ分かるけどさ、まぁ今後の生活を考えると仲良くはなりたいよな」

 

 そんな雑談をした後そろそろ寝ようかと言う話になった。普段ならこれからという時間帯で本当はもっと起きていても大丈夫なのだが、明日もいろいろありそうなため寝坊するのはよくないだろうと南雲が提案したからだ。

 

「それじゃあお休みー」

 

「うん、そっちこそお休みー」

 

 隣の部屋だから明日一番で顔を見合わせるだろうがなんだかんだで南雲と別れ、自室に戻り鍵をちゃんと掛けて天蓋付きのベットで横になる。

 

「……本当に異世界なんだな」

 

 本当なら今の時間は家でゲームでもしているはずだった。それが何の因果か異世界で豪華なベットで横になっている。

 

「そりゃあ異世界転移に憧れてはいたけどさぁ、まさか自分がまきこまれるなんて想像できるかよ」

 

 あこがれだった。それは間違いない。小説の主人公のように強くなって女の子にモテてなんてことを考えていたのだけは間違いはない。しかしだからと言って…本当にこうなるなんて思いすらしなかった。

 

「だけど、一人じゃないだけマシだよな」

 

 良くある話では主人公一人だけと言う展開が多いが、幸いにも俺には南雲やクラスの皆がいる。だから大丈夫だろう。一人よりかはきっとマシ。そう思わなければ急にやってきた不安で押しつぶされそうだった。

 

(大丈夫、大丈夫だ俺。ここには南雲や先生に皆もいる。だからビビるなよ)

 

 僅かに震える手を見なかったことにして、柔らかい枕に顔をうずめる。やはり高級品だ。沈み込むこの柔らかさは人を駄目にするクッションとよく似ている。

 

 次第に瞼が落ちていき睡魔に襲われる。最後に思い出したのは故郷の日本や両親の事ではなくまた南雲やクラスメイトの事でもなく何故か朝見た変な夢とアリスさんの事だった。

 

 

 




一言メモ

異世界の料理=食べられるもの? 地球でもちょっと故郷を離れると想像しないものが料理に出てくることがあるので、異世界だとどうなるんでしょうかね?ご都合主義?きっとそうかもしれませんね。
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