『ねぇずっと疑問に思っていたんだけどさ』
―何だ急に?
ベッドに寝そべりながら急に話しかけてくる青年はどうやら先ほどまでライトノベルを読んでいたようだ。ベットの知覚に散乱している本の数から結構色々と読んでいたのだろう。
『何で神様って奴は転生した人をほったらかしにするのかな』
―?何の話だ
『ほら、転生ものの冒頭とかで「殺してしまったお詫びに」とか「実は間違えて」とか無責任な事を宣う神様がいるじゃん』
―ふむ
よくある転生ものの神様の話か。確かに冒頭で出てきてはヘンな事を宣うよな。神様の癖に間違えたって何だよ。アホじゃん
『あれで主人公に特別な力を与えて異世界に送り込むじゃん。なんでそのまま放っておくのかな?普通は監視とか観察とかするじゃん
―あー確かにほったらかしにしているな
確かにチートを与えた後はポイだ。言われてみれば疑問は出てくるが…まぁメタな答えがすぐに思いついてしまった
―あれって主人公にチート能力を与える為だけの存在だろ。チート能力を手にする言い訳を使ったら後は不要じゃん。だからすぐに消える。…主人公を放っておくんじゃないのか
『それ作者の都合のメタな話で僕の質問に答えていないよね… 僕が言いたいのはその神様って勿体ないなって思うんだ』
つまり物語、キャラとして考えろと。面倒だが面白そうでもある、とりあえず話を続けて欲しい。
『僕としては折角の登場したんだからさ、もっと話に食い込んでもいいと思うんんだ。だって折角出てきた命じゃん。
冒頭で出てきてハイ、さようならはちょっと勿体ないよね』
それではカトレアさん今回は魔王の事を教えてください
今日も今日とてカトレアさんの尋問の時間だ。今回の話題は魔人族の王様、魔王!いったいどんな人なのか。伺う事にした
「アンタさぁ…ちょっと直球過ぎない?」
ジト目で見られてしまった。確かにど直球なのは否定はしない、しかし回りくどいのはめんどくさいのだ。言葉遊びも時と状況による。今回は気楽に行きたい。
「はぁ… ま、良いけどさ。どうせ話したところでアンタらじゃ魔王様をどうこうできるとは思わないし」
なんと、駄目かと思ったらOKをもらってしまった!安心と信頼のガバガバセキュリティ。今後の魔人族が心配です
「聞く気あんの?」
ア、ハイ すんません。
「はぁーーー どうしてアタシはこんな奴の相手をしなきゃいけないのか…」
さっきから溜息ばっかだな。そんなんじゃ折角の美人さんが台無しだぞ!
「…まぁ、只の暴力を振るってくる奴よりかはマシか」
さーせん、面倒な奴で。でも許してちょっ!
「でも魔王様の事を聞きたいってのなら、それなりの要求を聞いてもらってもイイよね」
なんと、うぅむこちらとしては要求を呑むのは難しいのだが。つけあがると困るし。
「なぁに簡単な事さ。アタシの要求はね…」
「…やっぱりアンタの故郷はちょいと豊か過ぎないかい?」
ハグハグとカレーを平らげながら恨めしそうな顔をするカトレアさん。言いたいことは何となくわかるがそれでもその絵面はシュールだ。
「そりゃアタシんとこはそれなりに文化があるって思うよ。それなのにアンタとこの飯はなんていうか…拘り過ぎているというか」
そうかもしれない。特に日本人は食文化には細かいというかこだわりが凄いから。異世界とは言えど自分の故郷が褒められるのは嬉しい。思わぬカトレアさんからの賛辞に頬が緩む。
「アタシかって言うとことは言うさ。人間族は嫌いだけど、アンタは別だからね」
追加でカツ丼を食べながらそう言うカトレアさんは…うん、ある程度の信頼を勝ち取れたようだ。しかしカツ丼が美味しいからって耳をピコピコさせるのはいかがなものか。人妻?なのに触りたくなる。起訴
カトレアさんの要求はただ単に昼ご飯の要求だった。微笑ましい等価交換にホッコリしながら南雲に俺とカトレアさんの昼ご飯を頼んだ。
『あのねぇ 僕は君たちの料理人って訳じゃないんだよ?ちゃんとそこら辺分かっているの?』
と、物凄い呆れた目を向けられたが何だかんだで昼食をポンっと作ってくれた。文字通りの意味で
『無上厨師』
大気やそこら辺にある物資を使って南雲が知っている料理を作り出すモルフェウス能力。肉や魚野菜も調味料も作れるとの事で南雲は料理さえできてしまった。言葉通り調理をする間もなくPONっと作り上げてしまったのだ。
『…空気から料理を作れるって僕の身体一体どうなっているんだろうね…』
遠い目で話す親友。つくづくおかしな能力を手に入れたが自分も似た様なものだ。戦闘には一歩劣るが兵站に関しては南雲も俺も多分軍隊に匹敵できるかもしれない。
閑話休題
それじゃあお腹も膨れたので色々と聞いてみたいんですが
「言っておくけど、応えられることは少ないからね」
構いません。それじゃまず…何故あのオルクス迷宮に行ってたんですか?
「…アンタ、神代魔法って知っているかい」
神代魔法…ですか? うぅん知らないですね。何ですかソレ
「アタシたちが使う魔法よりもっと凶悪で強力な魔法の事だよ。その魔法を取って来いって言うのがアタシの任務だった」
へぇー (…ってことは俺が知らないだけでアリスさんの拠点にはそんなものがあるのか。後で調べてみようかな)
「それで、魔王様から魔物の一個小隊を引き連れてやってきたんだけど…」
俺達と遭遇したって事ですか。 うん?でもあの時俺達の事勧誘してきましたよね。それも任務だったんですか?
「…勧誘は魔王様がアタシに直接頼んできたんだよ。絶対に会う筈だからってさ」
魔王が直々に!? って事は魔王は俺たちの事情を知っているの?
「そうだね、言われてみれば魔王様はアンタ達とアタシが出会う事を確信して…」
そうか…やはり魔王。俺たちの知る範囲よりもっとヤバイ人なのか…って あれ?カトレアさーん。どうしたんですかそんな難しい顔をして…
おーい。聞いてないなこりゃ
(一体何があったんだろうね…)
魔王城の廊下をカトレアは一人考え事をして歩いていた。思考に耽る内容は魔王に呼び出されたためだ。
これまでにも何度か任務を言い渡されたことがあり疑問を挟むつもりは無かったがそれは上司であり魔人族総司令官であるフリード・バクアーがこれまで命令してきた事だった。
今回は魔王直々にカトレアに任務があるとの事で収集を掛けられたのだ。
(あの魔王様が仰る任務…か)
どんな内容か気になるとはいえあの魔王が直々に言い出す事なのだ、気合を居れて背筋を伸ばし魔王が居る執務室前へ歩みを進めた。
しかしここで思わぬ先客が居た
「む?カトレアか」
「フリード様?」
ばったりと上司であるフリードと遭遇したのだ。相手も驚いた様子で顔を上げる。しばしカトレアの顔みて何か思い当たる事でもあったのか頷いていた
「ふむ、なるほどカトレアもか」
「も?もしかしてフリード様もですか」
その問いにフリードは頷きで返した。珍しさと驚きで半々の感情がカトレアの顔に出てくる。本当に魔王が直々に任務を言い渡すのは珍しかったのだ。
「魔王様がアタシたちに任務を言い渡すなんて珍しいですね」
「ああ、いつもは私に任せてくれるのだが…」
実は魔王は5,6年ほど前から軍事に関してはフリードに任せるようになっていたのだ。何でも当人は国の内政に力を入れたいとの事で玉座に座る事は無くなり執務室に入り浸るようになってしまったのだ。
「まぁ 何があろうと私は魔王様の任務を果たすのみだ。カトレアお前もだろう」
「はい、アタシもフリード様と同じ気持ちです」
とはいえ、敬愛する魔王直々の任務だ。やり遂げる気持ちはあるし断る気も無かった。
「やぁ 忙しい所突然すまないね2人とも」
執務室にノックして入り出迎えたのは魔人族の一番トップであり崇拝の対象である魔王、アルヴだ。
金髪の髪に紅眼の美丈夫で年の頃は初老を迎えたと言った所。漆黒に金の刺繍があしらわれた質のいい衣服とマントを着ており、髪型はオールバックにしている。何筋か前に垂れた金髪や僅かに開いた胸元が妙に色気を漂わせていた。
いつもと変りなく、しかし穏やかな笑みで二人を出迎える。そんな親しみの笑みを浮かべる魔王に2人は頭を下げる。
「アルヴ様、何か私達に急を要する任務があるのだとか」
「私たちは貴方の剣です。どうか何なりとご命令ください」
かしこまった口調で敬う二人に対してアルヴは慌てて頭を上げるように言い、困った笑みを浮かべた。
「ああ二人ともそんなに畏まらないでくれないかい。そうやって畏まられると私としてもとても話しにくいんだ。ほらっお茶を入れるから座ってよ」
困ると言われれば二人は顔を上げるしかない。頭を上げる二人の目に映るのはいそいそとお茶の準備をする魔王の姿。
「最近、とても良い紅茶を仕入れてね。試しに友人に振舞ったんだけど白湯の方が美味いと酷評されてしまってね」
困った困った。と一種族のトップがしてはいけないような話をしながら椅子を進めてくる魔王。相変わらずの姿に困惑しながらも2人は勧められるまま席に座った。
(おいカトレア!一体誰だ魔王様の茶を酷評する馬鹿は!)
(し、知りませんよそんなの!大体皆そんな戯けた事と出来やしないですって!)
ひそひそと話す2人に聞こえていないのか
「どうかな?これでも結構頑張ってみたんだが…」
「…美味しいで、す」
「フリードは?」
「美味ですな」
「そっか~良かった良かった。…そう言えば彼、彼女?紅茶が嫌いだったっけ?悪いことしちゃったなぁ~」
魔王アルヴ。魔人族の中で一番の魔力を持ちカリスマを持つ男。現地神と言われるまでの強さを持った男は5,6年ほど前ナニカが変わったとカトレアは感じている。それが何なんのか分からないが、何かが変わったのだ。
紅茶を飲み雑談をしながら魔王の顔を盗み見するカトレア。その様子は本当に只の気さくで温厚な初老の男にしか見えない。
そんなカトレアの心情を知ってか知らずか、アルヴは話の区切りがつくと只住まいを治す。どうやらこれから本題の話があるようだ。
「まずはフリード、君にはある場所へ行ってもらいたい。場所はグリューエン火山」
「火山…ですか?なぜそのような場所に」
「君が習得した変成魔法、それと同じ神代魔法がある事が判明した」
アルヴからもたらされた情報に2人は驚愕した。フリードが命からがら習得した変成魔法、神代魔法と呼ばれるもので効果は魔物を支配下にするという物だった。他にも使い方はあるのだろうが魔物の支配能力だけでもすさまじくこれだけで人間族との戦力差を埋めれるほどだったのだ。
グリューエン火山にあるという神代魔法。これをモノにすれば更なる力を得る事となる。フリードの目の色が変わる。
「変成魔法と同じものがあるとするならば…アルヴ様これならば我が魔人族は!」
「落ち着きなさいフリード。君が変成魔法の習得で死にかけた様にグリューエン火山も並大抵ではいかない。もっと危機感を持ちなさい」
思わず浮かれてしまったフリードを窘めるその姿はまるで教師と教え子の様だ。我に返ったフリードは途端に恥ずかしそうに謝罪した。
「も、申し訳ありません」
「ふぅ…焦ってはいけないよフリード。確かに神代魔法は強力だ。だけどそれらを得るための迷宮はもっと凶悪なんだ。ちゃんと準備をして挑まないと。それに場所は火山の中だ、フリード。君は熱いのは平気かい?」
「平気です。話が魔人族の勝利の為ならば如何なる苦難も望むところです。命に代えてもやり遂げて見せます」
フリードの毅然とした顔に苦笑をするアルヴは小さな声でそう言う事じゃないんだけどなぁと呟いた。
「全く君はいつまでたってもそれだね。勝利の為、魔人族の為に命を賭ける。確かに君の国への思いは理解しているけどそれじゃ駄目だよ」
「それは…どういう事でしょうか」
今度こそアルヴは苦笑を漏らした。笑顔で出来の悪い生徒に諭すようにゆっくりと口を開く。
「君が死んでもらっては困る。と言う事だよ、生きてちゃんと帰還をするそれをちゃんと意識しないと…君が死んでしまったら一体皆はどうすればいいんだい。気が付いていないのかもしれないんだけど君は皆の支えなんだ。これから国を背負う掛け替えのない人なんだ、そう軽々と命を賭けるとは言わないでくれ」
「ア、アルヴ様…」
生きて帰って来い ただそれだけの言葉なのにどうして感極まってしまうのだろうか。目に涙が出そうなほど感激するフリードに今度は厳命する様に毅然と言い放つ
「フリード・バクアー 君はグリューエン火山に行き神代魔法を獲得してほしい。時間を掛けても良い、失敗だって構わない。ちゃんと帰還をするんだ。それが君の任務だ」
「はっ!このフリード必ずややり遂げて見せましょう!そして何があっても帰還します!」
敬礼をし、軍人の顔になったフリードはそう言うとグリューエン火山の遠征の為に退室していった。後の残されたのは苦笑しているアルヴとまだ任務を言い渡されていないカトレアだけだった
「良い子なんだけどね。ちょっと思い込みが激しいのが難点と言うか…まぁそこが可愛いと言うべきか」
苦笑していたアルヴは今度はカトレアに向き直る。自然と背筋が伸びるがアルヴは全く気にしていない。
「さて、カトレア君にも任務があるんだ」
「はっ」
「君は人間族の町ホルアドと言う町へ行ってほしい」
「町…ですか」
潜入任務だろうか。そう考えかけたが続くアルヴの言葉でその考えがフリードと同じぐらい重要だと悟った。
「正確にはその町にあるオルクス迷宮へと向かってほしいんだ。オルクス迷宮最深部には神代魔法があるらしくてね。君も獲得してきてほしい」
神代魔法の獲得。これはカトレアが思う以上のかなりの大役だ。しかしふと疑問と不安が浮かぶ。なぜ自分なのだろうかと、決して力不足だとは思わないが他にも優秀な物はいるのになぜ自分なのだろうと。しかしアルヴはそんな疑問を知っているかのように笑った
「カトレア 君の疑問は尤もだ。だけど
「分かりました。それでは部隊を編成し迷宮へと」
フリードの向かうグリューエン火山とは危険度が違うようだがそれでも一人で向かう気はない。部隊の編成を考えての行動をアルヴは待ったをかける。
「待った。この話は続きがあってね。人間族に勇者が召喚されたって話を知っているかい」
「…? ええ、知っています。何でも人間族の神が呼び出したとか」
眉唾な話ではあるが可能性としてはあり得もなくは無い、そう言う噂があったのだ
「実は彼らがオルクス迷宮で訓練をしているらしいんだ。そこでもしあったら勧誘をしてきてほしんだ」
「へ?」
勧誘とはつまりそう言う意味なのだろうか。呆然として思わず変な声を出してしまったカトレアを咎める事もせずアルヴは何やら楽しそうに話を続ける
「勿論君の護衛として強力な魔物は用意するよ。それでも出会ったら誘ってほしんだ。魔人族側に来ないかって」
「お、お言葉ですが人間族に呼び出された勇者たちが簡単にこちら側に来るでしょうか」
それに言葉には出さないが勧誘できたとしても戦力としても期待できそうにない。そもそも必要なのだろうか。疑問は次から次へと出てきてしまう。
「難しいかもしれないけどね。多少は痛めつけないとうんとは頷かないかもしれないからそこら辺は君に一任するよ」
「…分かりました」
「不服そうだね」
言い当てられてしまったがそれはそうだ。どうして人間族に組みする勇者を勧誘しなければいけないのか、絶対に必要ないはずだろうにと顔に出てしまう。
「それは…はい、その通りです。奴らは人間族側に立つ者どもです。労力を使ってまでは…」
「確かにその通りかもしれない。でもカトレア、君は気にならないかい。異世界から来た勇者たちがどんな人間なのかを」
「それはどういう?」
「異世界の人間。つまり私達とは違う思考回路を持つ者達。異なる世界で生まれ生きてきた者達は一体このトータスで起きている戦争をどう思うのかな。どう考えるのかな」
異世界、異なる世界からの来訪者をアルヴはやたらと気にしているようだった。まるで子供みたいだとふとそんな事をカトレアは思ってしまった。
「私はね。そんな彼らと話をしてみたいんだ。異なる考え方を持つ彼等こそがこの戦争を終わらせるカギとなるかもしれない、そう思えて仕方ないんだ」
だから勧誘をしてきてほしい。無茶苦茶な考え方だとは思うがアルヴは敬愛する魔王だ。断れるはずがない。
「ありがとうカトレア。これは感かもしれないけど彼等との出会いが君にも良い経験になると思うよ」
そう言って何処までもにこやかにほほ笑む魔王の姿にカトレアは内心複雑な感情を募るのだった。
「魔王様はあんた達と話をしたがっていたよ」
ほえ!?いきなり戻ってきたかと思ったらかなりぶっちゃけちゃったよこの人!?
「異なる世界から来たアンタ達なら戦争を終わらせるかもしれないって…楽しそうに話していたよあの人は」
ふむ?どうやら俺達は魔王からかなり買われているらしい。…うぅむ只の高校生の集団に何を期待しいてるんだ魔王は
「魔王様の考える事はアタシたちの様な下々じゃわからない。でも今ならなんとなくわかる気がする」
何がですか?
「アンタ…アンタとこの場所を作った奴、アンタ達なら本当に戦争を終わらせてしまうのかもしれいないって思っちまったんだ」
うーんそれこそ買い被りのような…
「ま、只の女の感って奴さね。アンタもそう深く受け止めるのは止めときな」
はぁ…うーん。これは…魔王ってのは結構話せるけどヤバイ奴なのかもしれんなぁ…うーむ。
ちなみにオーヴァードの二人はソラリスとモルフェウスのエフェクトほとんどを使えるようにしておきます。…ダブルクロスの布教になればいいなぁ