「~~♪」
ある日気分よく廊下を歩いていた時だった。天気は快晴で日差しが柔らかい絶好の昼寝日和と言っていいほどの気持ちのいい午後。
(…ヒェッ!?)
庭に髪の長い女が居た。、陰鬱な雰囲気を纏った、何だかものすごく怖い女だった。
女は良く手入れされている茂みに何か話しかけているようだった。手を伸ばしているその姿は闇に引きずり込もうとしているようで本当に怖い。
「にゃーん。おいでー私は怖くないにゃー」
あろう事かネコ語である。と言う事は奥にいるのは猫なのか。と言うか今の声って…該当する人物にがっくりとうなだれ何事か呟いている女の顔を除く
「にゃぁあーーん、どうしてこないのかにゃぁ~ いじけ無しの私じゃ駄目なのかにゃぁ~」
「やっぱりその声は…八重樫か?」
「……へ?」
自慢のポニーテールを解いたその女はクラスメイトの八重樫雫だった。
「それで怪我をしていた子猫を見かけて追いかけたと、その途中で髪をくくっているゴムが外れたけど気にせず猫をネコ語で呼んでいたと」
「うっ…うぅ…」
顔を真っ赤にしプルプルとしているが小さく頷いているあたりからしてどうやら本当の事らしい。なんとまぁ…実際茂みからは何かかさかさと言う音が聞こえてくる。
「だって猫さん何だか怪我をしているみたいだったし…」
八重樫曰く、城内に迷い込んだであろう子猫が怪我をしているのを見つけ保護しようとした所逃げられてしまい、必死に追いかけ茂みに隠れたのを発見し治療のため呼ぼうとしているのだが警戒され中々来ないのだという
(…心折れても優しさ失わず、か)
多少言語が怪しい所があるが、それでも小さな動物を助けようとするのは八重樫らしい所か。多少幼児化しているがどうかその優しさを失わずにいてほしい。
「にゃーんにゃーん。…どうして来ないのかな?」
「分かったからその言い方止めろって」
まだかなりアレな言い方をする八重樫に溜息を吐きソラリス能力を使う事にする、たまにはこんな使い方も良いはずだ、寧ろこうやって使うのが正解なのかも
「八重樫、手を出してくれ」
「?」
首を傾げながらも素直に手を差し出してくれることに感謝しつつ、八重樫の指に薬品をペタリ。不思議そうにする八重樫に苦笑してもう一回子猫と対面するように促す。
「これに一体何の意味が…わ、わわ!?」
すると警戒し隠れていた猫が恐る恐るやってきて八重樫の手の匂いを嗅ぐとぺろぺろと舐め始めたのだ。
「え、ちょっ!?一体何を塗ったの柏木君?」
「マタタビによく似た薬品を塗りました。これでもう猫はお前を怖がらないさ」
より正確に言えばソラリス能力『錯覚の香り』を使ったのだ。これは相手に安心感を持たせ警戒を溶かせる薬品なのだ。
猫を相手に効果が効くかどうかは分からなかったがやはり生物と言う事で問題は無かった。今ではすっかり警戒が解かれ八重樫に触られても気にしている様子はない。寧ろ懐いているようにさえ見える
「ふふ、可愛い猫ちゃ~ん、もう大丈夫だからね~」
ニコニコと嬉しそうに子猫を抱きしめる八重樫。やはりアニマルセラピーの力って凄い。おれは八重樫に頭を撫でられて目を細める子猫の怪我を
治しながら改めて思った。
「八重樫って猫好きなのか?」
「好きよ。このままずっと抱きしめていたいぐらいに」
即答でした。寧ろ目が据わっていてちょっと怖い。考えればこんな異世界好きな物でも触っていないとストレスが溜まりまくるか…
「そっか、ならもう一度手を出して」
「?」
素直に手を差し出す八重樫。今度もまた手の平に薬品を塗る。…こう言ってはなんだがもうちょっと警戒心を…無理か。
「一体何を塗ったの?」
「んふふふ、まぁ見てなって」
「? …え?」
ニヤリと笑ったその瞬間。いったいどこにいたのかというほどの猫の大群がやって来る、その数恐らくに十匹ほど!
にゃ~にゃ~
みぃみぃ~
ねこです
うにゃぁ~!
「え、ええ?何でこんなに猫ちゃんが!?」
「さぁ、これで猫を触り放題だ!猫と存分に和解してくれ!」
もちろん使ったのはソラリス能力だ。『命の盾』本来なら小さな生物(虫やネズミなど)をフェロモンで呼び出し盾にして攻撃を回避するという能力なのだが…使い方を考えればこういうことだってできてしまうのだ。
にゃ~にゃ~
みぃ!みぃぃいい!
なぁーおうーー
ここはどこですか?
「わひゃ!?ちょ、ちょっとまってくすぐったいってば!?あは、あははっは!」
猫に纏わりつかれ喜びの声?を上げる八重樫。その顔には戸惑いながらも嬉しさが出ているような気がした。
思えばどんなに優遇された王城生活でも現代日本とは文明が違うのだ。絶対に不満が出てきてストレスが溜まっていくだろう。ならソラリス能力で少しばかり羽目を外したっていいはずだ。能力を使って猫に懐かれるぐらい大目に見てくれってもんだ。
なーおー
にゃにゃにゃ!?
にゃふん
いえにかえります
みゃう?みゃぁ
「はいはい、みんないいこだからおとなしくしてね」
大勢の猫に囲まれる八重樫を後にして俺はクールにさるのでした。
「んで、回復魔法って結局何だろうね?」
「うーん、改めて言われると、一体何だろうね」
「便利な魔法。…それ以上何かあるの?」
話をざっくりと切ってしまった白崎に軽くチョップを放つ。折角集まったのに結論を急ぐとは不定な奴め。
「ふんっ!…な、だにぃ!?」
「甘いよ柏木君。腕衰えちゃった?」
しかしあえなく俺のチョップは白崎に片手でガードされる。こやつこの異世界でステータスが上がったからって調子に乗ってるな!?ますます腹立つ奴め、後で南雲にチクってやろう。
「えぇーそこで南雲君を出すわけ?卑怯だよ」
「ふっ、持ってるカードを使って何が悪い」
「全部」
「おい!?」
「な、仲イイね2人とも」
俺と白崎のやり取りに苦笑する辻さん。まぁ不本意だが傍から見ているとそう見えるか?
場所は白崎の部屋にて俺と辻さんと白崎でのんびりとお茶会をしていた。白崎の部屋はなんと一般的な女子の部屋って感じ?で
…後はノーコメントだ色々と口出しをすると追い出されかねない
この3人で集まったのはズバリ回復魔法と何だろうかと言う議題の為だった。
治癒魔法と思いつけば怪我の治療や病気の治療などを思い浮かべ、実際俺達は詠唱によって使えるようになっている。しかしだ、少し考えてみると一体この魔法はどういう原理で出来ているのだろうかと思ってしまったのだ。
正直な話魔法が使えるからって原理が分からないものを病人や負傷者に使う事になるわけで…何も知らずに使ったら後の後遺症になってしまうのではないかというのが俺の持論だった。
そこ考えを整理するために治癒術師として頑張っている辻さんと辻さんよりすごい?白崎に話をしてみたのだ。
(まぁ結局の所はこの魔法の安全性や使うときどう考えているかっていう雑談がしたかったんだけどねー)
「それ今更過ぎじゃないかな?オマケに柏木君魔法を使えないし」
「分かってらいそんな事!…つかお前は何で俺の心を読んだの?」
「柏木君ならそんなアホっぽい事を考えてそうだから」
これである。いや、別に白崎が俺に対しいておざなりなのは全然構わないんだけどね、ガワは可愛いけど中身が結構アレなのは十分には把握しているしさ。気になるのは傍にいる辻さんが変な誤解をしなければいいんだけど
「あはは…」
「ほれ見ろ、お前が変な事を言うから辻さん引いてるぞ」
「柏木君が想像以上に変な事を言うからだよ。ねー」
ねー じゃないっての。ああもう、折角辻さんにきてもらったのに話しが進まないじゃないか。…まぁ雑談を踏まえているから中身のない話をしても全然問題ないんだけど
「そう言う訳じゃないんだけど…ほら二人ともクラスではあんまり喋らないじゃない」
「あーまぁそうしているもんね」
「実際は割とこんな事を言えるほどの間柄なのでございます」
実はってほどの話でもないが俺と白崎は中学の頃から面識がある。…いや会ってしまったというべきか
そもそも白崎が俺と出会ったのは白崎が南雲のストーカーをしていたからだった。
中学の秋ごろ、妙な視線を感じると南雲から相談を受け、冗談半分で探ってみたらばったりと南雲をストーカーしているこいつと遭遇したのだ。
あの時は怖かった、物凄い執着心で南雲を視姦しているコイツの表情と来たら…閑話休題
意を決して話しかけたらストーカーをするのが邪魔だからどけとか、泥棒猫とか、羨ましいから変われだとか、その時からコイツは俺にはそのガワに添った性格をせずに本性もろだしで接してきたのだ。
そんな性格だから美少女と言えども変態と認識した俺はあの手この手で白崎ののストーカー好意を止めるように奮闘して…やめようどうでもいい話題だ。あの時は俺も南雲もこいつも若かった。
「中学の頃からこういうやり取りなので気にしないでくれると有り難いっす。基本コイツ俺以外には外見に見合った性格をしていますので」
「辻さん、私ねこの人だけには優しくしようとかそんな事をしようとは思えないの、あんまりに気にしないでね」
「う、うん?」
「いやそこは他の人と同様に扱えよ」
「無理、生涯の宿敵相手にゴマをするなんてありえない。寧ろさっさと南雲君を明け渡して必ず幸せにするから」
(…ならさっさと襲えよこのヘタレ)
とまぁ、こんなやり取りだが険悪な関係にならないのは間に南雲を挟んでいるからだろうか?何と見えない感情だが嫌悪することは出来ないのだ。
不本意だろうが相手もきっと同じ様な事を考えている筈
「まぁ、いや、それで話を戻すけど辻さんって治癒魔法使う時どうやってるの?」
「え、私?…その、私よりも白崎さんの方が」
「それなんだけど私よりも辻さんの方が治癒術師として才能あるよ?私は治そうって言う訳じゃないもん」
俺の話を遮らないでください。それよりもどゆこと?
「私は治そうって意識じゃなくて…なんていうのかな?治すじゃなくて『戻す』怪我を『治療』させるんじゃなくて怪我をする前の状態にに『戻す』って感じだもん」
「なんじゃそりゃ?」
「治癒じゃなくて『再生』私の天職の魔法は治癒魔法じゃなくて再生の魔法なんだよ」
言ってる意味はなんてなくわかる。俺たちの言葉でいうのなら白崎の意識的には『ゴールドエクスペリエンス』では無くて『クレイジーダイヤモンド』って事なんだろう?。良くは知らんがそう言う意味だと思う
「…解放者にもできたのなら私にもできて当然だよね」
「何かいったか?」
「何も」
小さな声で何事か呟いたが俺には聞こえなかった。まぁ問題無さそうなので辻さんの話に戻ろう
「と、言う訳で辻さん。何か白崎と比べてるのかは知らんけど辻さんの力は掛け替えのないもんなので白崎と比べるんは違うと思うぞ」
「そうなのかなぁ?」
「そうだぞい、野村だって辻さんの魔法はすげーって言ってたし」
「野村君が?…そっか」
ほんのりと頬を染める辻さん。野村が口走ってこた事を言ったがこれはどうやら?ほほぅあの橋のやり取りは良い効果を出したようだよかったよかった
「えっとね私の場合は怪我をした部分を魔法で覆うって感じなの」
「うむ?人間の治癒力を増幅させるんじゃなくて足りない部分を魔法で補うって感じかな」
「そうなのかな?ほらヒトの細胞を活性化させるって言っても体に負担がかかるでしょ。だから私の場合はそれを魔力で補うっていう考えでやってたんだけど」
これはまた貴重な意見かもしれない。治癒魔法や回復魔法、それぞれファンタジーであるが結局のところどういった代物なのかが医学的に証明できないのだ。
それを辻さんは魔力で補うっていうイメージで魔法を使っているらしい
「ヒトの細胞分裂の数は決まっていて、やり過ぎると体の負担がウンウンかんぬん」
「治癒魔法でも受け過ぎてしまうと急激に老化とかしちゃったりして、…この世界の人達は慣れているから問題なく受け付けるけど私たちは日本の人間だからね。何があるか分からない以上、医療行為を使うのは間違いじゃないのかも」
辻さんの意見は尤もだ。俺達は後方支援職、言うなれば負傷者を治す重大な責務がある。だからこそ魔法や薬などについては人一倍気を使わないといけないのだ。
ちなみにだがトータスの教官たちに教えてもらうっていうことも有るにはあったが、どうしても異世界の人間。生まれた時から魔法がそばにいあった人間と科学に包まれた人間とは根本的な意識の差が出てしまう。風邪をひいたとき魔法で治すという考えの人と現代の医療知識に基づいて体を暖かくしてか身体を休めるという考えの人間では差が出てしまうのは当然な訳で…
まぁそういうアレこれが合ってこの会合は俺たちでだけでやってるのだ
「柏木君は如何なの?」
「俺か?俺は…何なんだろうね」
さて、ここで俺の話だが、正直な話この二人と比べて一番ヤバいのかもしれない。一応薬は作ってはいるのだが、この世界の市販的な薬をより性能を改良した試験薬を騎士団に配布はしている。しかしそれはあくまでも既存の薬を量産して性能を増しただけの話だ。
正直に言えば俺は、自身の調合技能とソラリス能力にかまけてしまったといっても過言では無かったのだ。
「一応安全を重視して薬とかを作ってはいるけど…」
「けど?」
「正直な話、医療について素人も丸出しの人間が現場に携わるって一番まずいんじゃないの?」
当たり前っちゃ当たり前だけどね。正直な話俺は薬剤師でも無ければ薬学を専攻する学生でもない。実際かなりの問題だらけだ
「…皆(特に男子)に気前よく振舞っているけどあれ効果は俺が保証しているだけで、別に国から定められている物とかじゃないから…」
「まぁいいんじゃない?皆特に変に…」
ジロリと睨まれた。この頃の男子達の事について思いついてしまったのだろう、足変わらず変な所で鋭い奴め。
「ねぇ、柏木君さ」
「あんだよ」
「責任はちゃんと取らないといけないよ」
悪いがそれについてはノ-コメントだ。俺には俺のやりたいようにやらせてもらう。、一応対策は取ってあるし自分で蒔いた種なので除草剤はいくらでも作れるのだが。そんな目線で伝えればさらに視線の温度が下がったような気がした
「えっと何の話?」
「ううん、辻ちゃんには関係のない話。それで聞きたいことは終わった?」
あくまでも辻さん達には内密にしてくれるのが白崎の良い所か。尤も南雲以外は興味が無いって言われてしまえばそれで終わる話ではあるのだが…
「まぁな。聞きたいことも聞けたし、何だかんだで楽しかったしな」
話は終わったのなら後は退出するのみだ。女の子の部屋にいつまでも居たらいけないだろしこのままだと辻さんに迷惑を掛けてしまうだろうしな。
「そんじゃバイビー」
「え、え?えっとさよなら?」
呆気にとられている辻さんに手を振り部屋から退出する。
只の雑談だったがたまにはこんな事もいいだろう。…白崎が何やら気になる事を言ってたが俺の邪魔はしない筈だ。多分
「んで、約束のモンは出来たのかよ」
「あーまぁな」
檜山にジロリト睨まれてしまったが曖昧に返答を返す。こればっかりは出来たとしてもどうなるかはわからないのだ
「何でそんな微妙なんだよ…」
「出来たは良いけど効果を実証してなくてな」
「阿保じゃねぇか」
「つっても自分で試せる?飲んだ瞬間アヘ顔ダブルピースだぜ?」
俺の言葉にウッと檜山は口をつぐんだ。自分で試さないといけないのは分かってはいるが、誰かって自分がアヘ顔を浮かべる事はしたくないのである。
ここは俺の部屋。檜山と二人でアホなことを話しているのは以前約束した媚薬が出来たからである。
ソラリス能力『快楽の光輝』匂いを嗅ぐだけで恍惚とした表情を浮かべてしまうフェロモンを作る能力だ。
これを有効活用すれば媚薬の効果だって出てきてしまい…まぁ平たく言えばエロ同人も真っ青なことが出来てしまうってものだのだ。
これを檜山に渡せばそれで一応は解決なのだが…問題があって一度もこれを自分で試したことは無かったのだ。
一応ソラリス能力者とはいえ自分で作った薬は自分で使って効果を試してから渡すのを原則としている。
そんな俺がこの媚薬擬きを使うのは中々のためらいが大きく…しかしといって檜山に一向にできないというのはなんだか可哀想でありう約束を破るように思えて…
「…飲んでみる?」
「飲まねぇよ!つかそれって飲んで使う物なのかよ」
「触ってもおっけ―な奴だよ。匂いを嗅いでもまたよし」
「とんだ劇薬じゃねぇか…」
滅茶苦茶に引いているけどお前望んだものなんだぞこれは。…しかしこれ如何した物か、檜山の標的は白崎香織只一人。これは間違いない事で本人は白崎以外は使うつもりは全くないようだが…
「別に使うのは良いんだけどよ」
「使っていいのかよ…お前本当白崎には対応が冷たいな」
「気にすんな。それよりもどうやってこれを白崎に使うんだお前?」
「……」
「いやそこで沈黙すんなよ」
もともと白崎に使うことは確定しているが、どうやって使うのかは本人も考えていなかったらしい。マジかよ…一応檜山とはあくまでも媚薬効果を使っていい雰囲気になるのが精々とは話してある。檜山自身も催眠などは物凄く嫌なようなのでR-18な事にはならないだろう。
(…ってかそもそもコレ、アイツに聞くのか?)
どうやって使うのかは置いとくとしても白崎に果たしてこれ効くのだろうか?なんていうかアイツは薬に対しいて耐性があるようなそんな気がするのだ。なんていうのだろう予感とてでもいうか…
「…なぁ柏木。これ使ったら白崎は…」
「おう」
「…いや、駄目だ!おれはそんな卑怯な事は出来ねぇ!」
「!?」
突然ガバリと立ち上がった檜山。何事かと思えば出来上がったクスリを放り投げて俺に対しいて吠えたのだ
「俺はんなもんには頼らねぇ!今からアイツに告って来る!」
「はぁ!?なにとち狂ってんだよおめぇ!?絶対に無理に決まってんだろ!」
「無理って誰が決めたんだこら!そもそもこんな薬で香織を手に入れても俺は一つも嬉しく何かねぇ!」
その言葉はとてもではないが檜山のセリフでは無かった。あれほど白崎に執着(本当にそうなのだろうか)していた檜山が自分の手で運命を切り開くと吠えたのだ。
「そうか…お前がそう言うのなら応援するよ」
その時の気持ちはどう言えば良いのだろうか。なんだか気持ちが温かくなって、単純に檜山の叫びが嬉しかった。絶対に玉砕するであろう決戦にこいつは行くと言ったのだ
「檜山コイツを使え。この『深夜のテンション』を使えばお前は臆する事は無い!」
「いよっしゃぁあああ!!いくぜいくぜぇえええ!!!」
俺の禁断の薬「ミッドナイトテンション」を飲んだ檜山は絶叫を上げ走り去ってしまった。あの男気溢れる後ろ姿、俺はきっと忘れないだろう。勝てぬ戦に立ち向かう男の背を俺は何時までも見送っていたのだった。
なお、後日城の片隅で体操座りでいじけていた檜山が発見された。
「わかってたよぉ…うぅ…」
泣いている檜山を見つけたメルド団長は優しくその肩を叩いたのであった、
「あの、この頃白崎さんが物凄い目で僕を見てくるんだけど」
そしてどうやら思う事があったのか白崎は南雲のストーカー行為が再発してしまった。
南雲曰く発情した顔で見つめてくるらしい。
「ハァハァハァハァhァハァ…南雲君の匂いがするよぅ…ハァハァハァハ」
…何か物凄い粘つくような声が聞こえてくる……オレは知らん!
「あるーひー」
鼻歌を歌いながら王宮の廊下を歩く俺。目指す場所は騎士団の詰め所であり団長メルド・ロギンスの私室だった。
今日は出来上がったクスリを団長に見てもらう日だったのだ。両手で抱えた箱の中に入ったクスリはさまざまな物で一度団長に見てもらうのが通例だ。
「つっても毛生え薬が主なんだけどねー」
持ってるクスリの大半は毛生え薬というある意味虚しさを感じる者。騎士団と言えども男であり、騎士である以上兜をかぶるのはまた道理であり
兜を被れば頭が蒸れて毛にダメージがいき…まぁそう言う悩みを抱えているの人が多いんだとか、
「って訳でついったとね」
異世界と言えども男が掛かる事情に悲しみを感じながらも団長の部屋に着く俺、ドアを肘で開け部屋の中にお邪魔する。
ノックをしなかったのは薬を届けるのが日課となっていたからだ。薬も持っていくことを団長には伝えてあるし時間帯もいつもと同じ時間。
でもまぁ、お互い失念をしていたのは間違いなさそうだ
ゴリッボリッバキンッ!
何か固い物を咀嚼するような音。
机の上に散乱している魔石の数々
そして…ギョッとした顔でこちらを見、ゴクンと咀嚼していた物を嚥下した団長。
「…へ?」
出てきた言葉はそれだけであり、目に入った映像から現状を理解しようとするも呆然としてしまい…
「むぐっ!?」
「すまん、柏木」
目も止まらぬスピードでこちらに飛びかかってきた団長とそう呟いた言葉を聞いたのが俺の認識できる最後だった…
「まぁ平たく言えば俺は少々特異体質でな」
室内に申し訳なさそうに頬を掻きながらも事情を説明するメルド団長。対する俺は椅子に縛られるという簡単にだが拘束を受けていた。
机の上には依然として魔石が散乱しておりメルド団長の口には鉱石の食べ石があった…まぁつまりはそう言う事なのだろう
「魔石を食べても平気な人間…?」
「そう言う事になるな」
「いやいやいや、南雲が言ってたっスよ。普通の人間にとっては魔石は猛毒だとかだって」
拘束を受けていることを忘れツッコミをしてしまう。確かオルクス迷宮で南雲に魔石が人にとっては猛毒だと説明を受けた気がする。詳しくは知らないが舐めるだけでも危険だって…!
「え、なんでメルド団長喰ってるんすか?」
「だから特異体質だと…」
「歯丈夫過ぎませんか?胃液で石って溶けるんですか?」
「そっちか!?」
いやだって、猛毒云々は置いとくとしても石を食ったらヤバくね?石を食える歯ってどんだけ固いんだよ、つか胃の魔石でパンパンにならないのか?ファンタジーの人間ってマジ人をやめてるな!
「いや、これは俺しか出来ん。他の人は魔石を喰ったら普通に死ぬぞ」
「じゃあなんでメルド団長はピンピンシテるんですか」
「……」
メルド団長だけが特別だったのなら何かしら理由がある筈。そう思って聞いてみたがダンマリだった。どうやら触れて欲しくない話題らしい。
「なぁ柏木。お前絶対に負けたくない奴がいた時どうする?」
いきなり団長から出てきたのは何やら関係の無さそうな話。でもいきなりするんだから意味があるのだろう。とりあえず答えてみる
「そりゃ…ありとあらゆる手を使う事を考えますかね」
絶対に負けたくない、そんな時は想像するすべての手を使う事を考えるな。でもメルド団長はどうやらそうではないらしい。
「そうだな。それでももし足りないって時は?」
「その時は…」
その時はどうするのだろう?どこまで負けたくないのかって話だが…うーん、なら卑怯な手を使うかな?
「ま、それが普通だよな。でもな本当に勝たなければいけない相手の場合は」
そこまで言いかけてメルド団長は言葉を噤んだ。卑怯な手でも届かないのなら……誰もが考え付かないような
「すまん、お前には関係のない話だった」
そこまで考えたらメルド団長が謝ってきた。これ以上は言えない話なのだろう
(考えてみれば縛られるんだからそりゃ縁起でもない話なんだろうな)
人にはいろいろな人生がある。メルド団長も人には言えない理由と歴史があるのだろう。そう思えば魔石を食べれるだけの只の人間だ
「あ~すんません。ちっと踏み込み過ぎたっすね。申し訳ないです」
「いや、俺も迂闊だった。兎も角この事は誰にも話さないでくれ」
「そうっすね。…?はて一体何の話をしてましたっけ。ああ、そうだこの薬出来たんでお願いしますね」
首を傾げれば一瞬驚いた顔をして苦笑するメルド団長。拘束を解いてもらい、持ってきた毛生え薬を渡す。
「うむ助かる。…すまんな」
「いえいえ、又困ったことがあったら相談してください。出来る限りは協力しますよ」
そう言って別れる事にした。
メルド団長には何かしら秘密がある。だがそれはきっと俺達に害をなすものではない筈だ。だからこの件は忘れる事にしよう。人の過去に踏み入るのはそれ相応の覚悟と責任が出てくるからね
続きは恐らく来年です