「君は一体何の目的でここに来たの」
それはある意味初めての侵入者に対しての問いかけだった。
場所はライセン迷宮最深部。巨大ゴーレムを操りながら現れた侵入者であり挑戦者に対峙しているときだ。
(一直線で来たって事はあの羅針盤を持ってるのかな?)
このライセン迷宮はミレディの趣味と実益がふんだんに加えられた迷宮で中にはおびただしいほどのトラップが内蔵されているのだ。
即死級のトラップは勿論、疲労した体を酷使するための無駄な仕掛け、疲れ果てた精神を追いつめるための煽り文句。悪辣なエヒトに対抗出来るための精神力を試すという実態が入りつつミレディの個人的な趣味が混じった迷宮。
オマケに谷の影響を受けて魔法を使うのが著しく難しくなっており、自らの身体能力が試されるという常人では不可能、強者でも手こずってしまう、一握りの力を持つ…エヒトに対抗できる人物のための迷宮だった。
(強者って事は変わりないと思うけど…)
だからこそここまで来た侵入者はかなりの力を持つ人物でもあったのだ。その筈なのだが…
(思っていたより小さいね)
侵入者はミレディの想像していた人物像とはまるで違った。その人物は幼い子供だったのだ、年の頃は14ぐらいの銀色の髪を持ち翠色の目を持つ少女だったのだ。
腰に短い剣を持ち背には小さな弓や。とてもではないがこの迷宮を突破できるには見えないが、ミレディは別段気にすることは無かった。
世界は広い、一見脆弱な存在が強大な力を持つことだってあるのだ。この挑戦者もまたその部類なのだろう。
だが気になるのはその顔だ。ミレディが巨大ゴーレムで姿を現してからずっとこちらを…正確にはゴーレムをキラキラとした目で見つめているのだ。
「ふわぁー カッコいい~文で見るのとは違ってやっぱり実物は思ってたよりずっといいですね」
そんな呟きが聞こえるほど目を輝かせるのは思っていた反応とは違った。そのせいかむず痒い物を感じてしまうミレディ。意表を突くように話しかけるなどをしたのだが
「やほ~はじめまして~みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」
「ほぅほぅ思ったよりもずっといい声ですね。厳つくかっこいいロボットに中身は可愛い女の子の魂。うーんこれはロマン、ですね」
グッとガッツポーズをされてしまう始末だった。てこを外されたとでもいうか。兎も角調子を外されてしまった。
「え~っと、そこはゴーレムから可愛い女の子が出てきたこと驚くべきじゃ無いかな?」
「ああ、そうでしたね。これは期待に沿えず申し訳ない」
恥ずかしそうに頭を掻く仕草。それがまた違和感を感じてしまう。一つも驚かないその仕草はまるでこのライセン迷宮に自分が居る事を事前に知ってるかのような態度ではないか。
ミレディは僅かなやり取りからそう思うまでに至った。
(うーん、もしかして他の迷宮の中に私の事が書いてあったのかな?)
落ち着いたたたずまいに慣れ切っているかのような言動。他の迷宮を突破した可能性は十分にあり、だからこそ自分の事をどこかで知った可能性もある。
そう考えて違和感を飲み込むことにした。その筈だかが相手にはその思考を読まれてしまった。
「うん?ミレディさんの事はオスカーさんの手記に書いてありましたよ」
「オーくんの手記に?って事は」
「はい、お察しの通りオルクス迷宮やほかの迷宮はは踏破済みです。勿論あなた方解放者たちの事やこの世界の事情も存じてありますよ」
(…この世界の事情?)
気にかかる言い方だ。自分たち解放者の事について他人事のように話すのはまだいい、しかしエヒトの所業に関してまで心底そうでもよさそうな言い方なのは何かが引っかかる。
まるで自分は関係が無いとでも言いたげな…
(だけどここまで来たのなら試練は受けて貰わないとね)
だが何にせよこの迷宮の最深部までやってきたのだ、なら試練を始めなければいけない。…本当は人と話すのが余りにも久しぶりなのでもうちょっとだけ話をしていたかったのだけど。
だが侵入者はミレディの思惑を外すことに熱心の様だった
「あ、私別に神代魔法は要らないので試練は要りませんよ?」
「へっ!?」
神代魔法。解放者たちが残した規格外の力を誇る特別な魔法。解放者たちが残した迷宮の最深億に設置されており迷宮の試練を突破すると授かることが出来るものだ。それをこの少女は要らないのだというのだ。
てっきり他の迷宮を乗り越えたという事なので神代魔法の収集が目当てなのだと思ったがどうやら違うようだ。
「ど、どうしてかな?折角のミレディちゃんの魔法、興味は無いのかな」
「重力魔法、物体の重力を操る…のは福次効果で実際の所は星のエネルギーに干渉する魔法。ですよね?」
当たっていた。ミレディの持つ神代魔法は確かに重力魔法であり、また少女の言う通り使い方を極めれば星に干渉することだって出来折る。そう言う魔法だったのだ。
「そう言うのはもう間に合ってるんですよ。だからここに来たのは神代魔法が目的ではありません」
(…この娘、何か変だ。凄く変。何かズレている)
きっぱりと断るその様子は本当に魔法目当てではない。だからこそ奇妙な違和感は困惑と疑心に変わる。まるでこちらの事を知っているような口調に態度。ミレディの宿敵であり生涯をかけて倒すと誓った仇敵、あの糞野郎たちとはまた違った不気味さをこの少女はまとっている様に感じ取れてしま他のだ。
「…なら何が目的なのかな?」
意識せずとも口調が固くなる。自分の中でこの侵入者への警戒心が高くなっていく。いったい何者なのか、何が目的なのかそれが気がかりとなっていく。
「目的ですか。そうですね…まぁ色々とありますが一番は貴方に会いに来た。それが理由ですかね」
「あのトラップを潜りぬけて私に会いに来た?それはちょっと嘘くさいよ~」
ミレディ自身自覚していることだが、このライセン迷宮に仕掛けたトラップの数々は侵入者の心をへし折るように作られているように出来ているかなり悪辣な物なのだ。それを自分に会いに来ただけで突破されたのでは疑うしかない。
「あっ…もしかして何か疑われています?私、貴方の味方ではないですけど敵には絶対になりませんよ?」
「味方とか敵は私が決めるんだよ?…ねぇ、改めて聞くけど本当に目的は何なの」
意図が掴めない。一度決めつけた疑心は晴れることなくますます警戒を濃くしていく。それにこの胸にざわつく様な畏怖は何なのだろうか。同じ言語で話しているのに致命的に話がかみ合っていない気がしてしまうのだ。
不信感で胸が詰まりそうなこの予感は本当に何なのだろうか。そんなミレディの考えに何か思う事でもあったのか少女の顔が少しだけ曇った
「…簡単な事ですよ。貴方に頼みがあってきました」
「へぇ?ようやく話してくれるんだ?」
「何てことのない頼みなんですが聞いてくれるのは貴方しか居なくわひゃ!?」
話の途中で腕に装着されているモーニングスターを少女に向けて発射する。案の定というか高速で発射された鉄の塊は難なく躱されてしまった。
「ちょっといきなり何するんですか。暴力反対ですよ!」
「あははっ頼みがあるのなら私を打ち負かしてからにしなきゃ駄目だよ~」
結局疑心は晴れることなく、暴力で解決することにした。このまま話をしていても埒が明かず、なによりここまで無傷でしかも消耗もなさそうなのだからかなりの使い手なのだろう。
話ながらも周囲に待機していた量産型ゴーレムたちを次々と侵入者に差し向ける。
「さぁ初めての御客人様、精々死なないように頑張ってねぇ~」
ようやく調子を取り戻して勝負の宣言をする。話も頼み事もまずは自分を打ち負かしてからだ。
(はぁ…コミュ障此処に極まれりってことですかね。どんだけ人付き合いが駄目駄目なんだっての)
侵入者…アリスは内心で大きな溜息を吐いた。ぶつくさと文句を言う相手は目の前で倒れ伏すミレディ・ゴーレムに対してではなく戦闘沙汰になってしまった自分に対してだ。
アリスがこのライセン迷宮に来たのは只の暇つぶしによるものが大きいかった。計画の始動までの時間、暇を潰せてそれなりに刺激のある場所と言えばまだ踏破していないこのライセン迷宮しかなかったのだ。
ミレディが最深部に待っているのもゴーレムになっているのもアリスはすべてを知っている。だからちょっとした話し相手のつもりで接触したのだが…
「まさか戦闘沙汰になるとは、はぁ~」
周りの崩壊しかかっている惨状を見て尚更深い溜息を吐いてしまう。相手はミレディとは言え解放者なのだ。接触は慎重になるべきであったのに浮かれてのこのこと顔を合わせに来たのが間違いだったのだ。
(でも戦いになるだろうなっては思ってましたし…本体が無事ならそれでいいですよね?)
言い訳染みてはいるがどうにかして自分を納得させる。このゴーレムはあくまでも戦闘用というのも知ってはいるがそれに知って派手にやり過ぎたものだ。
『ちょっ?ちょっと何で貴方そんな魔法が使えるの!?』
『魔力食いが効かない特別体質!又は魔力の量がイカれているだけ!多分どっちかですよ!』
『それ絶対両方だ!』
先の戦いで弓矢に魔法を番えて放った時のミレディの焦り声だ。いくら規格外だとは言えはしゃぎ過ぎたのかもしれない
『ねぇこれアザンチウムなんですけどっ!?』
『すいませんこっち膂力の方が上みたいですねっ!』
ゴーレムの装甲を魔力でコーティングした剣でぶった切った時のミレディの驚き声だ。そもそもゴーレムと力比べをするのが間違いだった。
『あのさぁ…何で私のお株取っちゃうの?』
『…申し訳ない』
しまいには周りを浮かんでいた小さな騎士ゴーレムたちを自前の重力魔法でひとまとめにくっつけさせミレディに放った時だ。浮かれているどころか調子に乗りすぎて何も考えていなかった。
「短慮に思考放棄。ここまでくると私本当は相当な馬鹿なのでは?」
挙句の果てには調子に乗ってゴーレムの核まで素手で抜き取り握りつぶしてしまう始末。何だかんだミレディと触れ合えて浮かれていたのが全ての原因でしかなかった。
現れた移動用のブロックに乗りここまでの出来事全てを反省し、着いた部屋で待ち構えていたのは何やら肩を落としたニコちゃんマークの仮面をかぶった人型のゴーレムだ。
「自慢のゴーレムをボッコボコにするとか貴方何なのよぉ…」
「あーあースイマセン」
恨みが籠ったような呟きを呪詛のように吐き出すミレディに対して申し訳なく謝る。もはやこれでは何をしに来たのかわからないものだ。
「もういいよホント…。それで貴方は一体何?」
それでも切り替えてくれたのは僥倖か。とは言えその質問に馬鹿正直に答える気もない。…だからと言って本当の言う事のも憚れるのだが。
「そうですね私は、只の一般人ですよ。ちょっと異常な力を持った普通の人」
「その言葉意味わかっていってるの?」
案の上信じてくれることはなかった。アリス自身信じてもらえるとは思えず、ましてやこれで信じてもらえるのならミレディの正気を疑っていたところだ。
だが嘘ではない。与えられた規格外の力と歪んでいると薄々自覚しつつある自身の願いを覗けばごくごく普通の一版人なのだ。
「まぁ別に信じてくれなくても構いませんよ。私も同じような目に会ったら信じないですし」
溜息のような物を一つ。痛くもない腹を探られているようで心労が溜まっていくような気がする。まぁ誰が悪いのかと言えば隠し事の多すぎる自分なのだが
「…それで目的は何?」
未だに懐疑的な視線を向けられてはいるが、ようやく本題に入ったと一安心。遊びできたのは本当だがついでに頼み事…正確には許可が欲しかったのだ
「端的に二つあります。まず一つ。今現在私はオルクス迷宮の最深部…オスカー・オルクスの住居を使っていますがあの拠点の滞在許可が欲しいんです」
「……は?」
アリスが拠点としてるオルクス迷宮最深部の解放者の住居。広々とした空間に人が住むことのできる居住区、オマケに掃除用のゴーレムや工房まである理想的な場所だがアリスとしては使うにはどうにも心苦しいものがあった。
オスカーの遺言としては迷宮の踏破者に使用してもらっても構わないスタンスであろうが、いくら亡くなったとはいえ人が元住んでいた場所に許可なく住み続けるのはどうにも居心地が悪かったのだ。
「オスカーさんの話では勝手に使っても良いとは言ってましたけど、貴方が生存している以上、許可を求めるのは何も間違っていない筈…ですよね?」
実際に大家の最後の知人でもある訳だしと付け加えたら「解放者の私を大家扱い…?」と何やら呟くミレディ。気のせいか頭を抱えている。
(いったい私が何を要求するつもりだと思ったのか)
憤慨するわけではないが何かムスッとするものだ。こちらとしては比較的穏便に話をしに来ているのに勝手に試練を受けさせているわけなのだから
「それならまぁ好きにすれば。オーくんの迷宮を突破したのは事実みたいだし」
「有難う御座います」
取りあえずこれで拠点の正式な確保が出来た。後は好きに使ってもいいだろう。内心ホクホク顔でいたら続くミレディの呟き
「…オーくんはどうしたの」
「オスカーさんですか?野ざらしになっていたので勝手に埋めときました。一応墓も作ったのですが、良いですよね?」
椅子に座って骸骨化しているのはあんまりすぎたので住居にあった畑の隅っこに丁重に埋めておいた。花も周りに植えたので一応供養は出来ている筈。尤もこの世界では死者に対してどういう墓を作るのか知らなかったため墓石と十字架を兼ね合わせた物になってしまったが。
「そっか。お墓を作ってくれたんんだ…うん、有難う」
「いえ、どういたしまして」
どこか遠くに視線を向けるミレディ。在りし日の解放者たちを思い返しているのだろうか。アリスには何となくこれから頼むのを言うのが気まずくなった
「それで、もう一つは?」
「あー…実はもう一つは名前が欲しくて」
「名前?」
「とある事情で偽名が欲しいんですよ。あと一つあれば私の正体を上手い事隠せないかなって」
どうせ名を名乗る相手は只一人、この世界で真に興味を引くのはった一人なのだ。その相手に正体をすぐに感づかれてしまうと余りにも興ざめであった。
だから隠すために偽名を欲していたのだ。
「何故それを私に?」
「…気分を悪くしないでくださいね。欲しい名前は『リエーブル』最初の解放者の名前です」
「ッ!?」
『リエーブル』始まりの解放者の名字であるその名を自分が語るなんて最高に皮肉が効いている。全てを嘲笑う自分が語るにはおこがましくも尤もふさわしい名前。
そう言う目論見で名前を言った瞬間、すぐに距離を取られ重力魔法を発動されてしまった。戦闘用のボディではないのにすぐさま魔法を発動したのは流石解放者というべきだろうか。
だが悲しいかな、常人ならばひれ伏す魔法も自分に対しては無駄に終わる。後に残るのはなけなしの魔力を使ってしまい疲労してしまったミレディと無傷な自分だけだ。
「どうしてその名前をッ!」
「…別にただで名乗ろうって訳じゃありませんよ?貴方達の悲願を果たします、それほどの価値があるのですよその名前は」
解放者たちの悲願。それはつまる所この世界の人々の運命を神の手から介抱するという事。神代魔法を手に入れ異常なる力を持ちながらも負けてしまった者達の最後の日眼。
偽神エヒト・ルジュエを討つという事
「貴方があのエヒトと戦うと?一体何が目的なの」
ミレディの問いに一瞬だけ躊躇する。しかし話したところで理解はされないだろう、だから話す気はない。何せ自分は…自分たちはエヒトよりもたちが悪いのだから
「目的は、まぁいいじゃないですか。もう一度言いますが貴方の敵になる事はあり得ないのですから」
「…」
考えを巡らせているのか黙ってしまったミレディ。その姿を見て内心ため息を吐く、やはり自分はどうしようもない人間だと。
本当はもっと楽しく話をしてみたかったのに相手の神経を逆なですることしかできなかった、今もそうだ
「沈黙は肯定とみなしますよ?」
やはり返事は無い、悲しく寂しいが仕方ない。絶対に欲しい訳では無いのだ。ただ自分が名乗ると皮肉が効いていて自分が楽しい、だから名乗ろうというそれだけなのだ。
自分さえ良ければ後はどうでもいい、そんな思考回路になってしまったのだから今回は諦める。それだけの話だ
「…いいよ、貴方がアイツを倒したのなら名乗ってもいいよ」
だがそんなアリスの考えとは別にミレディは心底不愉快そうではあるが名乗る事を許可したのだ。これにはアリス自身驚きの目でミレディを見る事しかできなかった。
「何?貴方ができるっていうから言ったんだけど?それとも出来ないの?」
「いえ、まさか許可していただけるとは思わなくて…」
まさか本当に承諾してくれるとは思わなかったのだ。自分で勝手に付ける名前とは違った偽名。さて、これで材料はそろった後は如何動くものか、時間はあるもののこれからの事を考えワクワクしているとミレディの呆れた声が聞こえてくる
「それで散々人をおちょくった貴方の名前は?私たちの事を知ってるだけ知って何も話さないとか失礼にもほどが無さ過ぎじゃない?」
確かに散々ミレディには失礼な言動と行動をしたものだ。今後会う事は恐らくないだろうがそれでも感謝と謝罪とほんの少しばかりの憐れみを込めて名乗るとしよう
「ああ、これは失礼しました。コホン、それでは改めて名乗らせていただきます
私の名前は アリス・アニマ・
「…ふふ」
ふと懐かし事を思い出した。ライセン迷宮の最深部でミレディと出会った時の会話だ。アレは一体何年前だろうか。
あの後別れた後ミレディがどうなったかは知らない。結局の所自分の楽しみの邪魔さえしなければ最後の解放者がどうなろうとどうだっていいのだ。
「でも、流石に失礼だったなぁ」
しかしそれにしたってあの時の自分は礼儀を欠きすぎていた。要らない戦いに発展し黒くもない腹を探られた。あの時の申し訳なさは今でも覚えている
「き、貴様、一体何を笑っている!?」
そんなアリスの目の前で一人の褐色の肌の男が腰を抜かしながらも虚勢を張っていた。顔は青ざめ可哀想な事に冷や汗が止まらないらしい
「いえ、貴方の処遇をどうしようかなと思っていまして」
自分より目線の低い男に微笑みながらはてさてどうしたものかと思考する。殺しても何も問題ないのだがそれではさすがにスマートでは無さ過ぎるか
「ききさまが何者だろうと我ら魔人族は決して屈さんぞ!たとえ貴様がどんなに化け物だとしても」
「うーん吠えるのは良いんですけど現実をちゃんと認識してくださいよ。貴方の連れていた魔物は全滅しましたよ?」
吠える男に苦笑しながら現実を分からせる様に周りを見渡す。辺りには大小さまざまな魔物の死骸。その数ざっと一万ぐらいだろうか?もはや原形をとどめていないのが多すぎるのでアリス自身把握していない。
「ぐっ!ぐぅうう!」
言われて改めて男は引き連れていた魔物が何も手も出せずに殲滅されたのを思い出す。空から翠色の流星群がやて来たと思ったときには何もかも終わっていたのだ。
場所はウルの町、その遠く離れた場所だった。男は農耕地帯であるウルの町を魔物を引き連れて壊滅させるという任務を受け持っていたのである。
(大切な任務だった…この肥沃な地を破壊すれば必ずや我ら魔人族の勝利の先駆けとなるはずだったのにっ!)
フリードから大勢の魔物を受け取り夜明けと共に一気にウルの町へ突撃しを人欠片も残さず葬り去る任務は目の前の銀髪と緑の目を持つ女によって遮られてしまったのだ。
(この事を伝えなければ!早くフリード様に…!)
何もわからないうちに捕獲され、無造作に転がされている今、男はどうにかしてこの女の脅威を魔人族領に持って帰る必要があった。
魔人族の優位としてある魔物。その大群を難なくと倒し些事だと片付けへらへらと笑っているこの女の事を報告しなければ…余りにも危険なののだ。数の有利が効かない化け物が居る、たったその一言でも伝えなければいけなかった
「ん?ああ、言っておきますけど私は貴方達の戦争には加わりませんよ?」
「な、なに?」
「だって全部する必要のない茶番劇なのですから」
フフと笑うと歩み寄ってくる化け物、処遇をどうするか決まったのだろう。その目は愉快そうに笑い本当に恐ろしかった。
「さて、それではあなたはメッセンジャーとなっていただきましょうか」
「ま、まて…来るなっ!」
「別にそんなに怖がらなくてもイイじゃないですか」
「ま、魔王様助けっ」
自分にこの任務を与えた敬愛する存在に助けを求めたが最後まで言い切る事は出来なかった。頭を鷲掴みにされ他その瞬間、意識が吹っ飛んだからだ
「魔王様に伝えてください、こちらの方は順調だって」
最後に聞こえたのはそんな呑気な声だった
「さてと、あともう少しですね」
ふらふらと力なく歩く魔人族を見送り呟く。何てことのない作業だがやはり胸躍るという物。
「計画は順調、イベントも消化しつつあります」
どうしたって笑いがこみあげてくる。そろそろ大きな出来事が始める。彼は一体何をしてくれるのだろうか、それとも何も出来ずに終わるのだろうか。
「どう対処しますか?どう凌いでみせますか?私は本当に貴方が何をするのか楽しみなんですよ」
遠くの空にいる彼の姿を思い浮かべる。この世界で一番の関心を持つ彼は一体何をするのだろうか。最近コソコソと動き回っているらしいので楽しみなのだ。勿論それを暴くつもりはない、楽しみは取っておかなければ。
(と言った所で、助けを請われれば助けてしまうんでしょうね~)
そんな事言いつつも何だかんだで手助けをしてしまうのだろう。自分のどうしようもない根っこに苦笑しながら一人嗤うのであった。