今まで考えずに何となくで生きてきた。
親から言われるがまま行動し、周りの声に合わせて行動してきた。
そんな考え方でもこの短い人生が困ることは無かった。これからずっと先もそうする予定だった。
教えてほしい、今まで流されるだけの自分は
今何をすればいいんだ?
異世界のトータスへの召喚され神の使徒とあがめられ戦争の終結を求められた。話し合いはロクに行われず戦争に参加することになった、だけどそこには自分の意思は一欠けらも無かった。
クラスメイトの天之河光輝が勝手に一人で盛り上がり皆がそれに便乗した。その便乗した物の中に自分はいた。戦争に参加する理由は無かった、
誰かを助けたいとか世界を救いたいだとか、そんな事は考えていなかった。
ただ周りがそう言ってたから自分も同じように動いていただけ。それだけだった。
そうして生きていたのに…
「……これからどうすりゃいいんだ?」
これが最近の近藤礼一の口癖だった。
朝食を終えた近藤は当てもなく廊下を歩いていた。いつもなら訓練や自主学習でもするのだが今回は何となく取り組むことが出来なかった。
(…アイツらのように強くなれるのか?)
以前はさほど変わらなかったクラスメイトがぐんぐんとレベルを上げ強くなっている。力に目覚めたというべきなのか、友人の斎藤は空を飛ぶようになったし中野も炎を自分の身体のように操っていた。そして檜山は安定して強い。
そんな友人たちやクラスメイトと比べると自分ではその域に到達できないのではないかと薄々と考える様になってしまった。
『なぁお前はどうしてそんなに強くなれたんだ?』
以前ふとした気持ちで斎藤に聞いてみた。その強さはどうやって手に入れたのかと。斎藤は少しだけ悩んだ後、簡単に答えた
『なんていうんだろうね~自分の殻を破るっていうのかな?強い思いが可能性を引き出す?ごめん自分でも何を言ってるのかわかんないや」
曖昧な言葉だった。だが同時にどこか納得するものがあった。そうなると自分は……
「どうすりゃいいんだろうな俺は?」
正直な話、自分が強くなれるとは思ってはいない。だからと言ってこのままでいいのかと言うと…答えは出せない。
分かるのは周りはどんどん成長していく中で自分は何も変わっていないというそれだけだった。
「はぁ…はぁ…」
「…乱れていますね。何か悩み事でも?」
訓練を付けてもらってる騎士団副長ホセからだった。自身の天職が槍術師と言うのもあり槍の心得があるホセが訓練を付けてくれているのであった。
「……俺、アイツ等の様にはなれませんよ」
「と言うと?」
「アイツ等みたいに強くなれないって話です」
言うかどうか少し迷ったが結局出てきたのは愚痴のような物だった。クラスメイト達と比べて劣る自分の才能、きっかけを得られずダラダラと過ごすだけの毎日。このままでいいのだろうかと言う不安。日頃不安に感じていることをつい話してしまったのだ。
「そうですか。ふむ、なるほど君は実に一般的な少年なのですね」
ホセは嫌がる様子もなく近藤の愚痴を聞き少しだけ考えた後口を開いた。
「一般的?」
「ええ、言い方を変えればその他大勢と言いますか。才能に恵まれた他の方々と違ってきっと君こそが標準なのでしょうね」
近藤こそが普通であり他のクラスメイトは特別なのだと言ってるのも道義だった。そしてそれは実にその通りでもあった。なにせ薄々とそう思っていたのだから。
「日本と言う君たちの故郷を私達は詳しくは知りません。ですが近藤君の様な方々が一般的で常識的なのでしょう。なら恥ずべきことではありませんよ。君は巻き込まれただけの一般人なのですから」
「……」
ホセの言い方は存外厳しい。トゲや皮肉が混じっているのもあった。だが言い返すこともない。事実なのだから
「なら、俺のやってることは無駄なのかな?」
「どうでしょう。彼等の追いつくのは無理かもしれませんが無駄になるとは…まぁこれは君が判断することです」
私は貴方ではないので。そう言い終えると去っていくホセ。訓練はこれで終わりらしい。やる気がなくなってしまったのでこれ以上しても無駄だと気付かれてしまったのかもしれないが。
「…本当に俺はどうすればいいんだ?」
答えのない問いに返す者はいない。当たり前だ、この問題は自分で答えを出さなければいけないのだから。
「はぁ……」
悩む近藤に比べて空は澄み渡るような快晴。いっそ憎々しげに思えたほどだった。
自分の意思と言う物を感じたのは何時頃だったか良くは覚えていない。だが気が付けば親の言う事ばかりを聞いていた気がする。
アレをしろコレをしなさい。その言葉に普通は反感を持つのだろうが自分は楽だと思っていた、考えなくてよかったからだ。
特に考えず思わず、只々日々を過ごしていた。それは人にとっては変だろうが少なくとも自分にとっては幸せだった。
(だから、今まではそれで良くて…?)
ふと、周りを見渡す。辺りは暗くいつの間にか夜になっていたようだった。そんなにぼーっとしていたのだろうか、訝しむ様に自分の記憶を掘り下げようとすると急に腕を掴まれる
「おい近藤!何やってんだよこんな所で!?」
「…檜山?」
腕を掴んでいたのは友人の檜山大介だった。…その筈なのにどこかおかしい、いつもは見せないどこか焦ったような声、何やら引き攣ったような表情。とてもではないがいつもの友人ではない。
「今からメルド達と合流するんだよっ!お前も早く来いっ」
「え?何で?」
余りにも急かしてくるので素頓狂な声が出てしまった。本当に混乱して出た言葉なのだが檜山はその問いに面倒そうに顔をすくめ舌打ちさえし始めた。気のせいか殺気を向けられた気さえした。
(…檜山が俺に?)
檜山大介とは短い付き合いである。高校生になってからの友人で冗談を飛ばしたり下らない会話をする仲ではあるが一度だって喧嘩をしたことは無かった。それだけ檜山が精神的に大人だったりもするのだが、こんなイラつかれたような顔をはされた事なかったのだ。
檜山の態度の変わり様に困惑しているとその疑問を軽く吹っ飛ばすような事件が起きた
「何でって…魔人族が攻めてきたんだよっ!」
「はぁ!?」
今まで何の異常事態もなかったのに何でいきなり魔人族が攻めてきたのか。今朝まではいつもと何ら変わりない日常だったはずなのに。
いつもとは打って変わっておかしい友人に魔人族が攻めてくる異常事態。訳が分からないままに流されてしまう近藤だった。
そうして何やら騎士たちが集団で待機しいてる広場に他のクラスメイト達と一緒に付き…状況を把握しようとしている中でそれは起きた。
ブスッ!
「…あ?」
突然背中から刺され痛みを感じる間もなく地面に倒れ伏す。意味がワカラナイ理解が追いつかない、必死に思考を整理しようにも変わりゆく状況がそれを許さない。
自分と一緒に居たクラスメイト達もまた同じように周りの騎士たちの手によって次々と地面に倒れていく。倒れたクラスメイト達は運が良かったのか悪かったのか一撃で死ぬようなことは無く苦悶の声を上げていく。
(なんだ?…敵は魔人族じゃ?どうして騎士団が?…どうすればいい?俺はどうすればいいんだ?)
痛みは無くしかし体は騎士によって押さえつけられているので動かない。落ち着いているのに混乱のせいで上手く思考を回せない。…日頃のなぁなぁ主義がここにきて自らの窮地を招いてしまったのだ。
「アハハハッ」
誰かの笑い声が聞こえる。混乱のままその笑い声を上げた人物を見るが暗闇のせいだろうか全く持って顔が見えない。
(何だ?何が起きているんだ?)
自身は疑問でいっぱいでしかし当たり前だが誰も応えてくれる者はいない。分かるのが笑っている人物が誰かを嘲笑っている甲高い声だけだ
「ひ、やま。教えてくれ、何が…!」
訳が分からずとも友人に事の状況を聞こうとした時、悪寒が走った。笑っていた人物がこちらに近寄ってきたのだ。
その手には短剣が握られており、顔は全くわからないのにニタニタと笑っているのだけは確認できる。
…どう見ても考えても自分を害しようというのだけは理解できた。
(何だ!?どうして!?どうして俺なんだ!?俺が一体何をしたってんだ!なぁ誰か教えてくれよ!!)
視線が短剣に固定されたまま何も出来ない。逃げようにも体は不思議な事に縛られたように動かない、そもそも騎士によって体を拘束されている。それでも心は必死に叫び声を上げる。
今まで流されるように生きていた、何も考えず何も思わず、人の動くまま望むまま。そんな近藤は今初めて必死に声を上げていた。
「や、止めろ!嫌だっ俺はまだ死にたくなんてっ!? あがっ!が、ぐぅぅぅう!?」
制止の声は状況を止める事もなく、突きつけられた短剣は近藤の胸…心臓をゆっくりと突き進んでいく。哀れな事に身体能力が上がったせいか
一気に突き突られぬことは無くまるでいたぶる様に短剣は沈み込んでいく。
(痛い!嫌だ!どうして!?痛い痛い痛い痛い!!!誰か助けてくれ!)
悲鳴を上げるその声を聴く者はいない。心臓を突き刺されたせいで呼吸ができなくなりゴボゴボと口から鮮血が溢れだしてゆく。胸から流れる血がまるで涙の様に近藤の服を真っ赤に染め上げる。
(い、いやだ…こんな所で死ぬなんて俺は嫌だ! 俺は…俺は
死にたくない! 生きたい!)
近藤は初めて声を上げた、誰もが聞けぬその望み、今までなぁなぁで生きていた自分が初めて心の底から望んだことは死にたくない、生きたいという誰しもが持つ当たり前の事だった。
だが現実は無情だ、必死にバタつかせていた手足はどんどん力を失くし、張り上げていた声は徐々に弱弱しい物へと変わっていく。
「あ、あぁ…ぐぁ…」
小さな声は自身の望みを言えぬまま虚しい空気だけを吐き続け…そして止まった。
(どうして…いや…だ…誰か…)
後に残ったのは何もない只空虚な後悔のうめき声だけだった…
「…ください」
誰かの声がする。ぼやけた頭でそんな事を考えていた。
「起き…さい、こんな所で寝ていると」
耳に入る声はこちらを心配するような声。その声にふと皮肉気な声が漏れる。自分はもう死んだって言うのに一体何を心配するのだろうか。
「近藤さん、こんな所で寝ていると風邪をひきますよ?」
「…うん?あぁ?」
肩を揺さぶられぼやけた視界を開ければそこには銀の髪と翠色の目をした女性がこちらを見ていた。
「あ?ここは…」
「訓練所ですよ。うたた寝をするのは結構ですが、こんな場所では風邪をひいてしまいます」
見渡せば確かにそこは訓練所だった。一体いつの間に寝ていたのだろうか。
(確かホセさんと話していてそれから……!)
記憶を思い返した瞬間、強烈な吐き気に見舞われる。慌てて口を押え立ち上がる。
「ちょっ!?大丈夫ですか!?」
女性の声に返すことも出来ず突き飛ばす様にして走り出す。もう女性が居たことさえどうでもいいぐらいの吐き気だった。
「うおぇ!おえええ!ごぼっ ごほっ!」
洗い場に突き胃の中にある物を堪らず吐き出す。中身をすべて吐いて、それでも悪寒は止まらず吐き続ける。
「おええええ!!!」
自分の心臓に短剣が突き刺さった感触はまるでリアルそのものだった。噴き出す鮮血に吐き出した吐血。徐々に体の力が無くなり薄ら寒く死ぬという悪寒その物。
「…何で…俺は生きて…うぇぇ」
胃液しか出てこない。それでもまだ、自分が死んだという実感を消す様に吐き続ける。冷や汗と震えが止まらない。
それほどまでに先ほど見た物は強烈だったのだ。クラスメイトの危機と言う物では感じなかった、橋の一件で感じた恐怖を上回る末恐ろしい物があの白昼夢にはあったのだ。
えづき、涙を浮かべながら震えていると懐かしくもいつも聞いている声が聞こえてきた。
「うん?そこにいるのは近藤か?」
「ひ、檜山か?」
そこにいたのは友人の檜山大介だった。首を傾げ乍ら歩み寄ってくるその姿はあの白昼夢と似ているようで…思わず後ずさった。
「ひっ」
「お前、吐いてんのか?一体どうしたんだ」
しかしそんな様子の近藤に気にした風でもなく檜山は鼻を詰まらせると近藤の容体を伺ってきたのだ。目の前には顔を青くしている友人に酸っぱい匂いがする洗い場。違和感を覚えるのは無理なかった
「な、なあ檜山、俺生きているよな?死んでいないよな?」
「あ、何を言ってるんだお前」
多少の恐怖を感じたが歩いてきた檜山があの夢とは違っていつもの檜山大介であると思った近藤はどうしても気になる事を尋ねてみた。
それは自分がちゃんと生きているのかどうかの確認だった。たとえ夢から覚めても恐怖だけは消えなかったのだ。
「…ちゃんと生きてるぜ。顔色は悪いけどな」
「そっか、そうだよな、夢に決まってるよなあんなもん」
生きていると言われホッとする。自分は死んでいないと確信を得有られることが出来てひとまず呼吸が落ち着いた。
「おい、近藤一体どうしたってんだ」
「あ、ああ。…さっきヒデェ夢を見たんだ」
檜山に問われ顔を引きつかせながらも先ほどの夢を語る。白昼夢と呼ばれるほどの酷い悪夢。騎士団が裏切りクラスメイトの誰かが嘲笑いながら自分を殺してくる夢。改めて話すと余りにも現実離れしすぎている夢だった。
「ひ、ヒデェ夢だったぜ。あんなもん夢に決まってるよな、なぁそうだろ檜山」
自分が死ぬ夢なんて余りにも縁起が悪過ぎる。だから友人に鼻で一笑してほしかった、それなのだが…
「……チッ」
「檜山?」
檜山は何故か忌々しそうに顔を竦めた。それはまるで檜山も見ていたような顔で…だが檜山はその顔を失くすと近藤に向けて鼻で笑った。
「夢に決まってんだろそんなもん。ったく心配性が過ぎてビビっちまったのか?」
「んんなわきゃねぇだろ。ちっと疲れすぎたんだよ、俺はお前と違って繊細だからな」
「あ?近藤テメェこの俺が鈍い鈍感野郎って言いてぇのか」
「ちげぇよバーカ」
悪態をつきながらもそれはいつものやり取りだった。両者とも怒った訳では無い下らないやり取り、たったそれだけで心が軽くなっていくのを感じて行く。
「はー テメェは色々と考えすぎなんだよ、おらっこれで頭を冷やしやがれ!」
大きなため息をついた檜山は洗い場の水を近藤に掛けてくる。冷水が顔に掛かり水浸しになる。本来なら不快なその冷たさが気持ち良かった。
「うわっテメッこのっやりやがったな!」
「はっ!近藤確かお前水魔法にも適正あったんだろ、だったらこの水でちったぁ顔を洗ったらどうだ!」
確かに水魔法に適性はある、だからと言って水をかけてくるのはいかがなものか。水を掛けられた近藤は今度はお返しにと水魔法『水球』で檜山に水を掛ける
「ここに…ああもぅ面倒だ!喰らえおらっ!」
「うおっ!?やりやがったな!」
詠唱を途中で打ち切り水を直接檜山にぶつける。ほぼ無意識で詠唱を破棄した魔法は途絶える事無く檜山に当たり、檜山を水浸しになる。詠唱を破棄した魔法、それが意味することを近藤は気付かずしばしの間檜山に向かって水をかけ続けるのであった…
「死にたくない、か」
王都にある噴水広場にて近藤は水面に映った自分の顔を見つめていた。その顔はどこか憑き物が落ちたような顔だった。
「そりゃそうだ、誰かってこんな所で死にたくねぇもん」
思い返せばその通りだった。流れだとか言われてきたとかはあるが、死ぬために生きてきたのではないのだ。
あの夢は結局、自分の悩みが見せた白昼夢なのだろう。檜山が去り際に難しい顔をしていたが近藤はそう思う事にした、だってそうしなければあの夢は正夢になりそうだったからだ。
「…死なない、死にたくない。生きていたい」
なんの為にと問われれば意味は無いというのだろう。だが誰かって死にたくはないのだ。そんな自分の根本的な思いに気付くの随分と時間が掛かってしまった。
ホセは言っていた、自分は一般人だと。確かにその通りだった。周りに流されるまま生きていた人間だ、自分の意思を持たず影響力のある人間について行くだけのその他大勢なのだ。
それは今後も変わらないだろう。今後の生き方に大きな変化は訪れないだろう。
「だけどそれでいいんだ。…無理に変わる必要はないんだ」
人の生き方は無理に変えられない、だけどそんな自分でも望みがある。ただ死にたくない生きていたいというちっぽけながらも尊いものがあったのだ。
「俺は死なない。…生きるんだ」
生きたいというこの原動力を力にしよう。死にたくないという執念を力に変えてみせる。
そう覚悟を決めた近藤を祝福する様に噴水は大きく水しぶきを上げるのだった。
色々と悩んで考えましたが結局はこの路線で行きます