「ハジメ、面白いゲームを買ってきたぞ!」
「ハジメ、漫画は楽しい?」
「楽しいよ、面白いよ。…ありがとうおとうさんおかあさん」
父と母が勧めてくれたサブカルチャーはまさしく自分の人生の一部となった。その事に感謝している。
…でも、だからと言ってそれが良い結果を招くとは限らない
「先輩、聞きたい事があるんですけどいいですかー」
「あん?何だってんだ急に?」
「このハイリヒ城下町の詳細が掛かれた大きな地図ってあります?」
「あー確か…あったぞー」
「くださーい」
職場の先輩に頼みハイリヒ町の地図を譲り受け拠点の机に広げる。ニートに案内してもらった箇所を思い返しながら一つ一つポイントをマーカーで丸を書き込む。
「僕達の拠点を心臓部分だとして…」
マーカーで効率のいい場所を決め、線を這わせて一つ一つ計画を練っていく。修正と訂正の繰り返しをして地図に書き込みを続ける。
「魔人族を侮ってはいけない。…残り時間は少ない」
今まで考えていたことがふと口から出てきた。カトレアと言う女を見てから確信に変わった。それは魔人族の脅威だ。
魔人族の魔法がどんなものなのかあくまで想像することしかできなかった、だがオルクス迷宮に実際カトレアが居たのだ。人間族の領域に誰にも発見される事無く。危惧していた想像は現実となる。
魔人族は姿を消す魔法か又は空間を転移する魔法を持っている可能性がある。それも大量の魔物も一緒に出来るほどのものが魔人族は使えてしまうのだ。
「僕達は戦うことが出来ない能力だ。才能的にも精神的にも。でもだからと言って何もできないわけじゃない」
オーヴァードの力に覚醒した自分と親友は後方支援がメインの能力だった。中野の様に前線切って戦うのは不得意であり何より自分と親友は中野と違って普通の高校生なのだ。正面切って戦うほど覚悟は決まっていない。
だからこそ、モルフェウスとソラリスの力を生かした防衛戦を練る必要があった。攻めるために力を使うのではなく自分達を守るために力を使うのだ。その為のアイディアは自分の力が判明した時から形となっていた。
「過剰防衛だって言っても恨まないでよ。僕達は…僕は只大切な人を守りたいだけなんだから」
地図を睨めながら作業の順番を考える。ひとまずは、拠点に秘密の地下室を作るのが先決か。
父親はゲームクリエイター 母親は少女漫画家。この二人の間に生まれた自分はそうなるべくオタク趣味を持つこととなった。
無論それは両親が熱心に勧めてきた事や自分から両親が没頭している事に興味を持ったからでもあった。
父親と母親が勧めてくる世界は独創的でしかし魅了する世界だった。ゲームも漫画も存在するだけで世界があり幼かった自分の見識を広げてくれることとなった。
「ハジメ!一緒に対戦ゲームをしようか!今度は負けないぞ~」
「ハジメ お母さんの勧めた漫画面白かった?感想を聞かせて?」
今にして思えば、小さい頃の自分に熱心にサブカルチャーの面白さを勧めてきたのは自分たちのやっている仕事がどんなものなのか理解してもらうためだったのかもしれない。
又は、家に居てもゲームや漫画の事ばかりで
どちらにせよ両親の勧めは確実に自分がオタクへの道ヘ進む事の一端となった。
…もっとも寂しくないと言えば嘘にはなるが。
とは言え休日を一人で過ごすことにも慣れていたし両親ともに共働きで家にまで仕事を持ってくるのが仕方ない事だという事を幼いころからちゃんと理解していた。
小学校に入学して、自分の持つゲームや漫画の知識は友達を作る事に貢献してくれた。はやりのゲームの攻略法に漫画の考察。小学生の他愛のない雑談はクラスを盛り上げてくれた。
でもそんな日は長くは続かなかった。それがいつ起こったのかいつそうなったのか分からない。だがいつかはそうなってしまう事だったのかもしれない。
「ゲームをする人って気持ち悪いよねー」
「そうだよねー漫画が好きって頭おかしいんじゃない」
「何であんなのに必死になれるんだろうねー」
クラスでゲームや漫画の話をするのは気持ち悪いという風潮が広まったのだ。ゲームをして外で遊ばない子供は恥ずかしい。熱く漫画の事を語るのは気持ち悪い。登場人物のことを好きだと言うのは変な目で見られアイツはおかしいと陰口をたたかれる。
今ならなんとなく想像できる。ただ単に相手の事を否定出来る何かがほしくなりそれがたまたまオタク趣味だった。それだけの事でそんな事だろうと今なら分かる。
「……え?」
だがまだ小さい頃の自分は周りのそんな変化についていける事は出来なかった。今まで漫画やゲームで盛り上がり話をしていたクラスメイト達が
一蹴にして自分の知らない話題で盛り上がっていたのだ。
ここにきて自分がゲームや漫画しか興味がない事が裏目に出てしまった。両親が愛した物しか無かった自分はクラスメイトたちのする話についていけなくなってしまったのだ。
スポーツ、服装、雑誌。芸能人、テレビ番組にニュースの事さえ。クラスメイト達の話すことがゲームや漫画に没頭していた自分には何もわからなくなってしまったのだ。
そこからの小学生時代は只々虚しい日々だった。
イジメられているわけではない。物を隠されたことなんてないし暴言を言われたわけではない
暴力を振るわられた訳ではない。殴られるとか蹴られるなんてことは無かった。
無視をされた訳では無かった。話しかければ返事は返してくれる。
だが、自分は興味のない事には致命的なまでに要領が悪く、皆についていけなくなったのだ。皆が話すそれぞれに面白いとは思わず惹かれる者なんてなかった。
知ろうとしても直ぐに飽きが来てしまった。…小さなころからの
クラスメイト達の会話に混ざれなくなり独りぼっちになる事が多くなった。休み時間は教室から逃げる様にトイレに行き、昼休み時間は図書室に引きこもる。…友人と言う物は自然と無くなった。
「ハジメ?どうかしたの?」
「どうしたそんな暗い顔をして?何か学校であったのか?」
家に帰りふとした瞬間に漏らしてしまった感情に目ざとく気が付いた両親はそう聞いてくる。学校で何かあったのかと、大丈夫なのかと。
そうした両親にいつも返す言葉は決まっている。偽りの表情を貼り付け満面の笑顔で
「ううん。何でもないよ!そんな事よりもっと僕に面白い話を聞かせてよ!」
両親は仕事に忙しい。家に帰る時間は遅く家にいても残った仕事がある。自分との接する時間は僅かしかない。だから気づかない。気付かせなんてしない。
いつも聞かせてくれる話が学校では意味のない物に変わっているなんて、学校で独りぼっちでいるなんて、嘘をつき続ける両親に余計な心配を掛けさせたくなかった。
学校では話題に乗れず独りぼっち。
家では嘘をつき続けて独りぼっち。
どれもが自分のせいでどれもが自分が悪い事。それを誰よりも知っているからこそ何もできない。
自分の気持ちを押し殺しずっと一人で、只々虚しい空虚な人生だった。
「拠点は心臓の役割。体中に血管を張る様にして…」
秘密の地下室を作り出し、一度拠点へと戻ってもう一度作業の順番を確認する。計画は念入りに慌てず段取りをしっかりと組んでから。
日々の錬成師としての仕事がこんな所で役に立つなんてわからないものだと一人苦笑しながら地図を眺める。
「…上手く行く可能性は低いけど、やるだけの価値はある筈」
ハイリヒ城下町の全体図を見渡して一息。日々の鍛錬で鍛えた錬成の力と異能のモルフェウス。この二つを駆使すれば、作業はかなりの早さになる。実際一部屋分の地下室は数十分で出来上がったのだ。鍛えればもっと早くなる可能性がある。
「…本当ならこれを量産した方が良いんだろうけどね」
呟き、手の中にあるペンをモルフェウスの力を使い銃へと変化させる。出来上がったのはミリタリーマニアには有名な突撃銃AK-47カラシニコフだ。
『ハンドレット・ガンズ』
自分の手中にある物質を変換し射撃武器を作り上げるモルフェウスの力の一つ。出来上がった銃は形を知っていても中身がどんな形ですら知らないその筈なのに、動作不良を起こすこともなく簡単に出来上がってしまったのだ。
「映画やゲームで見た銃を作り上げる。対して労力はいらず時間もかからない。…そして僕はこれを量産できる能力を持っている」
モルフェウスの力は規格外だ。常識を覆し超常の力を得ていると言える規格外さ。そして自身の天職の技能『錬成』最近モルフェウスの力が関係しているのか 〝自動錬成〟〝複製錬成〟〝高速錬成〟等々恐らく高等技術の技能が芽生えてきているのだ。
「この力があれば銃を何丁、何十丁、何百丁だって作り上げることが出来る。兵士はともかく非戦闘員すらも武装することが出来る」
殺傷するためには相手に狙いをつけて引き金を引く。簡略化してしまうが要はそれほどの気楽さと簡潔さで誰でも武装できるのが銃の強みでもあり力だ。恐らく本気でやればこの城下に住む住民全員が有事の際には戦えることが出来てしまうだろう。…親友の狂化薬なども使えばなおの事だ。
だがしかしそれでいいのだろうかと言う善性がストップをかけてくる。
「
引き金を引くだけで人を殺せる力を持つという事はすなわち倫理観の欠乏を招く事となる。なにせ人を撃つ感触なんて無く、あるのは引き金の重さと衝撃と反動だけだ。…こんな事を続けてしまえば人はどうなってしまうかどう変貌してしまうのかなんて火を見るより明らかだ。
「だから僕は銃を作らない。…銃は要らない、もっと別のアプローチを使ってこの防衛拠点を作り上げてみせる」
その為にはこの計画を緻密に立てて練らなければいけない。そして出来上がった日には親友の力…ソラリスの力を当てにしなければいけない。
親友の力を頼る事には罪悪感が募るが、そんな猶予はさほど残されていない。どう親友を説得するか、問題はそこであり、なんやかんやで協力してくれるとは思ってはいるが…そこら辺は何とかなるだろう。
「ふぅ…少し休憩しようかな」
頭を使いすぎた様だ、少し休憩を挟むことにする。焦っては作業の効率が下がり思わぬ見落としをする可能性がある。これもまた仕事で覚えた教訓だ。
冷蔵庫から親友が適当に作ってくれた疲労回復薬を混ぜたジュースを取り出しのどを潤す。疲れた体に冷えたジュースは最高の一杯だった。
「勤労してからの一杯は最高だね。…ふふっ」
冷蔵庫には色々と飲み物が置かれている。親友が気を聞かせて用意したもの単純に飲みたい物色々と勝手に用意してある物が多い。
「……柏木君」
親友の名を呟き目を閉じる。ほんの少し疲れたので体が休養を訴えているようだ。そのまま意識が薄れていく。
どうしようがなくとも月日は流れていく。小学校卒業は余りにもあっさりと訪れた。皆が寂しさや別れなどで涙を流す中 自分はというと何の感傷もなかった。
息子の立派な姿にむせび泣く両親を複雑な感情で一瞥しながら、次に始まるであろう中学校時代の事を考える。
幸福にも中学では小学校時代の知り合いは一人もいない。居たとしても記憶になんか残らないしどうだってよかった。ただ自分がどうなっていくのかが不安だった。
結局オタク趣味以外の事は何一つ興味を持てることもなく中学校へと入学する。未知へのドキドキとする不安とまたオタク趣味が悪趣味だと蔓延する空気になるのかという不安が混じり合いながら入った中学校。
そこで自分は誰よりも何よりも大切な人と出会う事になった。
実際の所出会いはあんまりよく覚えていない。休み時間偶々話をしたのか、それとも授業の時近くにいたから。もはやそんな出会いすら忘れてしまうほど彼とはいつの間にかつるんでいたのだ
「おーい南雲~エンディング見た~?」
「見たよ。まさしく感動したね。そっちは?」
「まだ!何あのラスボス!?ほぼ詰んでいるんですけど!」
「あはは、まだまだ精進が足りないね」
こんな何でもないやり取り。只の雑談で日常会話。人とまともに話したのがこれが実は3,4年ぶりだと話したら相手は驚くだろうか。そんな思いを載せながらも親友…柏木との一緒に居る時間は増えて行った。
いや、ほとんど一緒に居たと言っても過言では無かった。休み時間は適当にグダリ昼休みもこれまた一緒に図書室へ突撃したり。放課後は教室で宿題をして帰ったらお互いの家に遊びに行くかどこかの店を適当にふらつくか。
「明日は休みかぁ…さて、どうしよっかなぁ~」
「あ、あのさ」
「うん?」
「もし暇ならさ…今夜僕のうちに泊まりに来る?」
「ふぉっ!?」
「えええっと無理ならいいんだよそっちだって準備があるんだしってそうだよねいきなりは無理だよねあははごめん僕つい」
「誘われたのなら致し方ない!行くべ!お世話になりますべ!」
「へ?…いいの?」
「え?駄目なの?」
駄目もとで自分の家に泊まりに来ないかと誘えば快く快諾してくれる始末。それがどれだけ嬉しかった事か。きっと親友にはわかるまい。
学校が終れば家に集合して夕飯は家族が忙しいのでコンビニで適当に買った物を適当に摘まみながら声を潜めつつ騒いで遊んでふざけ合って…深夜になれば流石の眠気に負けてお互い眠る事に。
「zzz……フゴッ!……zzz」
「ふふ………グスッ」
呑気に眠っている親友を見ると涙が出てきた。悲しくて泣いたのではない。嬉しくて涙が出てきてしまったのだ。
漫画やゲームをしていればある程度の願いや願望が出てくる。それはいつかゲームの世界へ行ってみたいだとか漫画の主人公のようなドタバタの忘れられない出来事を体験してたいだとかとても可愛い女の子に恋されたいとか色々とあるが自分のは単純な事だった。
親友がほしい。ふざけ合って馬鹿をやっていつまでも一緒に笑っていられる友達が欲しかった。
小学生の時願ったそれ、いつも一人である以上どうしようもなく毎日が寂しかった。学校では独りぼっち。家では嘘をつき続ける。安息など無い日が続けば妄想のように願いを望む。それが自分の場合親友だった。
諦めを持っていたその願いは割と簡単に叶えられた。今一緒に眠る親友は自分が喉から出るほどに欲しかったものだった。
だから失くしてしまう事を極端に恐れた。そんな事は無い、ある筈がないと思いつつも心の奥底では一人になる事を恐れた。
中学生活は順調で楽しかった。傍に友人がいるこれだけで世界は色を変えてくるのだ。興味もなかった事柄や世間が急に彩り良く見えてくる。一つも気にならなかったテレビの向こうの世界や周りの身近なものが目に入ってくるようになってきた。話すことのできる友人も増えた、付き合いが楽しくなった。
たった一人の友人のお陰で自分の世界は広がった。
自分を変えてくれた世界を変えた大切な人はかけがえのない物へと変わっていく。只の雑談が無性に面白くふざけ合う事がどれだけ素晴らしく心が落ち着く事か。
「なぁ…最近お前女の子に狙われてね?具体的に言うとストーカーされてね?」
「え?なにそれ初耳なんだけど」
「あの電柱に身を隠しているあの娘の事だよ。南雲の好みドストレートの」
「あははそんな女の子いる訳………いた。え?本当にいたんだけど…って逃げちゃった」
自分好みドストレートの女の子のストーカーができるというちょっとしたハプニングもあったが中学生活は順風満帆だった。
勿論それにも終わりが来るのもちゃんと理解していたが。
「高校か。 うぅーん」
「柏木君はどうするの? …決めたの?」
「…実はやりたいことがあんまり見つからなくて、それで俺でも入れるような高校に行こうかなーと」
「そっか。 ………そう、だよね。それが普通だもんね」
中学が終われば次は高校生になる。…この気楽な付き合いができる親友とは離れる可能性だってあるのだ。その事に内心怯えていた。
「???んで、入ろうとしているのはここ何だけど」
「……その学校、僕の希望と同じ場所じゃん」
離れ離れになる。そう覚悟していたがあっさりとその決意は霧散してしまった。一緒だねーと苦笑したが実際の内心は小躍りするほどうれしかった。
そして高校に入り、憧れだった高校生活が始まっていく。
世界は広がる、世界は彩りを増していく。
世界は多様な形を見せる。世界は安寧と歓喜に包まれていく。
掛け替えのない大切な人のお陰で自分は生きているのだ。
「…君?眠っているの?」
誰かの声がする。ぼんやりとする頭でそんな事を考え乍ら自分の先ほどの夢を反復する。誰かに見られているような気がしたが気にしなかった。
高校生活に入りまた親友と一緒だった自分はこれまで通り楽しい日々を過ごした。くだらない雑談にゲームや漫画。サブカルチャーは色々と経験した。
友人も出来た。清水幸利と言う最初は暗く根暗そのものと言ったオタクだったが親友の底抜けの明るさと馬鹿騒ぎに巻き込まれて徐々に明るくなっていった。今では親友の馬鹿な言動に溜息と苦笑を漏らす仲だ。
からかう相手も出来た。檜山大介とその連れの面々。恐らく元自分をストーカーしていた白崎香織に好意を抱いているため突っかかって来るのか悪態をついてくるが割とかわいげなものだった。これが悪辣で悪意に満ち溢れていたら相応の事を仕返しするが根が善良であるため揶揄う程度だ。
変なクラスメイトもいる。特に印象が残らないがそれでも割と適度な付き合いができる永山たち。
好青年を発揮して学校中からモテている天之河とそのお供坂上龍太郎。偶に面倒な時もあるが許容範囲内だ
元ストーカーの白崎香織とも同じクラスメイトになった。いつの間にかストーカーをやめていたがまさか同じ高校に入って同じクラスメイトになるとは思わなかった。視線を感じる時が頻繁にあるが日常生活を邪魔するわけでもなく時たま微笑を返せば顔を真っ赤にするのでそれはそれで気分が良かった。
幸せな日常。得難い幸福。だがそれは突然壊れていく。
「南雲君? もしもーし …熟睡中?」
異世界召喚。ここまでならまだ許せた。何だかんだで憧れがあったのは本当の事であるし興奮したのも事実だ。中世の武器に現実ではありえない魔法。楽しいと思ったのは事実だ。
でもそのせいで大切な人が傷ついてしまうなんて…自分の考えは余りにも浅はかだった。
血を流し命を失っていく親友。その事に無力感と怒りが湧き上がった。
戒めるのは自分の油断と慢心。もっとしっかりとしなければいけなかった。もっと考えなければいけなかった。故に計画を練る必要がある。自分の得意分野で自分の持ち味を生かして。
「……ゴクリ」
自分の天職錬成師とオーヴァードの能力モルフェウス。どちらも共通するのは物質変形の力であリ物質創造でもある。この力を生かす方法をとるのなら可能性は無限にある。だから早急に力を練り上げ鍛錬を繰り返して力を付けなければいけない
「……うん?」
「……あ」
目をパチリと開けばそこには何故か眼前に白崎香織の顔があった。ほんの少し顔を前に動かせば唇が触れそうな距離。相手はまさか起きるとは思わなかったのか硬直している。
これは夢だ。まだ頭がぼんやりしているしそもそも彼女が目の前にいる筈なんてない。そう考えるとまだ頭がまどろみに入りたがっている。
「こっここれれれは、ちちがうのっわひゃ!?」
目の前で弁解している白崎香織似の少女を抱きしめて眠りに入る事にする。どうせ夢なのだ何をしたって許されるだろうしそもそも拠点に勝手にはいってきた彼女が悪いのだ。
椅子に座りながら微睡んでいたので自然と彼女がこちら側に倒れ込むような体制となるが、思ったほど重くはなかった。
寧ろ鼻腔くすぐる様な甘い匂いと柔らかな彼女の肢体が非常に気持ち良い。
「はわっはわわ抱きしめ…おっおっ♡」
何やら変な声が聞こえ左肩が熱くなっているような気がするがもはやどうでもいい。そんな事よりも彼女もまた守らなければいけない。大切なものは増えていくのだ。
「うぃーっす ただいま~って…え?」
「おっ♡おっ♡ 南雲君のにおいがしゅるの~」
「なぁにこれ」
親友が帰ってきたようだ。困惑しているがそれもどうでもいい、寧ろその瞬間を見逃さない。
「ちょっ!?赤い糸!?おい南雲お前何して、うわっ!」
赤い糸を錬成し親友を即座に捕獲する。そのまま巻き上げてこちらまで引きずるように動かすのは造作もない事だ。
本来なら抵抗できるであろう親友は不覚を取ってこちらまで引きずられてしまい、空いた右腕でがっちりとその腕を掴む。
「おい南雲お前寝ぼけていんのか!?と言うよりなんで白崎が…ひぃ!?」
「はぁはぁ南雲君南雲君…あぁ~まさしく天国ッ!」
「おまっ! お前鼻血で顔面ひでぇ事になってんぞ!?」
左腕には最愛の彼女、右腕には最高の親友。掛け替えのない大切なもので絶対に手放したくない大切な物。
一度は手放させざるを得なかった。それが彼の為だったし彼女もまた納得してくれた。
でも今回は絶対に離さないと、そう決心したのだ。
父と母が教えてくれたサブカルチャーは好きだ。自分の人生となったと言っても過言ではない。
しかしそれはあくまでも出会いに恵まれたからだ。もし彼に出会わず一人のままだったら…
帰る為の理由にならない事に許してほしいが、それぐらいあの両親なら笑ってくれるだろう