ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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これにて光輝君の話は終わりです。


目覚めと決意

 

 

 

 

 

 

 

 

 懐かしい匂いがする。随分と前に嗅いだ匂い…祖父の家の匂いだった。

 

「…うぅん」

 

 声をあげ体を起こす。それと同時に自分に駆けられていた毛布がはらりと落ちた。辺りを見回せばそこは自分の部屋と似てはいるが違った部屋。

 

(俺…そっか、いつの間にか眠っていたんだ)

 

 しばらく周囲を見回しそこが先ほど自分が居た部屋、柏木の部屋だと理解する。掛けられていた毛布を丁寧に折り畳みベットへ置くと改めて部屋を見回す。どうやら部屋の主柏木は留守の様だった。

 

 窓の外はいつの間にか暗くなっており、どうやらこの部屋に来てからかなりの時間がたっていたようだった。

 

(随分と眠っていたのか…お陰で体が軽いな)

 

 ストレッチをするように体を伸ばせばボキボキと小気味良い音が体中から鳴っているのが分かる。それに比例するように体が軽いのを感じた、恐らく最近取れていなかった睡眠を十分に取れたのが主な理由だろう。

 

「…それに爺ちゃんとも会えたから、かな」

 

 先ほどまで見ていた夢の内容を思い出す。最初は悪夢のような魔王城の出来事にその次は自身の過去を振り返る様な追体験をし、そして祖父との出来なかった最後の会話。全部覚えているのだ。

 

「あれは、あの夢はもしかして」

 

「おっ!?ようやく起きたか」

 

 夢の事を考えようとした瞬間謀ったようなタイミングで部屋の主が入ってきた。そしてまたお盆を持っておりにこやかな笑顔で話しかけてくる。

 

「どうだ調子は?体がだるいとか気分が悪いとかおかしい所は無いか?」

 

「いや…大丈夫だ。もう問題は無いよ」

 

「そっか、なら良かった」

 

 うんうんと頷いた柏木はお盆を机の上に乗せる。そこには中身が入っている器が二つあった。微かにだが良い匂いがしている

 

「ずっと寝てて腹減ってんだろ、今食いもん持ってきたから温めて食おうぜ」

 

「?」

 

 そう言うと持ってきた器を近くに合ったオーブンに入れる。ピッとそうさをしてオーブンの中では暖かそうなオレンジ色の光が照らされる

 

「って何でトータスにオーブンが!?」

 

「南雲が作った。電気の代わりに魔力がどうたら、らしい」

 

「は、はぁ」

 

 唖然とした声しかできない、いつの間に南雲はそこまで錬成を上達していたのだろうか。そんな驚く光輝を尻目にオーブンはチンと小気味良い音を鳴らす。

 

「ホイできたっと。牛丼大盛りお待ちどう様~」

 

 持ってきたのは何処からどう見ても市販の牛丼、日本でよく見かける居たって特徴のない普通の牛丼だった。

 

 

(あ…何か猛烈に腹が)

 

 ただ付け加えるのならこの数か月感じたことのない猛烈な空腹感を見せつける様な見た目だった。それもその筈光輝は今日ロクに食事を摂ってはいない。

 朝、軽めに朝食をとった後ぶっ続けで訓練をしており、その後倒れてしまったのだ。懐かしい牛丼を見て腹を空かせるなと言う方が酷だった

 

グォォォオオ!!

 

「あ…」

 

「おいおい、どんだけ腹好かせてんだよ。正直な奴だな」

 

 思わずなってしまった腹の音に赤面すれば柏木はカラカラと笑うばかり。そうしてテキパキと支度を整えるとにこやかに笑った。

 

「それじゃあいただきまーす」

 

「い、いただきます」

 

 随分と久しぶりに出す声を出し、牛丼を恐る恐るパクリと一口。瞬間感じたのは余りにも食べなれた牛丼の味だった。ごくごく普通過ぎる大型チェーン店の味。

 

「美味いな…」

 

「そうか?滅茶苦茶普通だと思うけど」

 

「すごく美味しいよ」

 

 久しぶりに食べる日常の味のなんと心安らぐことか。柏木はキョトンとしているが光輝にとっては至福の味だ。しかし何故トータスに牛丼があるのか、ふと疑問に思い柏木に聞くと目を逸らされた

 

「いや…南雲が作って…うぅん、オーヴァードの事は説明できないし…むぅ」

「?」

 

 何やら色々と理由があるらしいから詮索するのは止めておくことにした。聞いてしまうと更に柏木が困るだろうと思ったからだ。

 

 用意された牛丼を食べ終え、お茶を飲みホッとしたところで光輝は改めて柏木と話をすることにした。 

 

「その…柏木、謝りたいことがあるんだ」

 

「?何の話だ?」

 

 不思議そうにしているあたり本当に気にしていないのか、それとも覚えていないのか。それでも光輝は話すことにした。唇がかさつく様な背中から冷や汗が出るようなそんな緊張感の中口に出すことにしたのだ。

 

「あの時…皆を助けようとしなくて本当に済まなかった、それと…助けられなくてごめん」

 

 オルクス迷宮で橋の激戦の時、光輝はベヒモスとの戦いを選んでしまった。それが勇者の役目だと判断したが結果的に言えばクラスメイトを見捨てたと同じにふさわしい。

 

 それにその後のことも有る。南雲ハジメが取り残されてしまったときに柏木が瀕死の重傷を負ったとき、自分は何もしていなかったのだ

 

「…前、皆も柏木も守って見せるって約束したのに…俺は何もすることが出来なかった」

 

 例えどういった理由であれ、あの時何も出来なかったのは事実なのだ。自分の醜態を思い出し暗くなる光輝、しかし逆に柏木はキョトンとした顔をした後、プッと噴き出していた

 

「ああ、そう言えばそんな話をしていたっけ。いや~懐かしいなぁ」

 

「柏木、俺は冗談で言ってるんじゃない。そうやって茶化さないでくれ」

 

「ごめんごめん、別に茶化しているじゃないさ。つーかあんなパ二くった状況だったらんな最善の行動がすぐにできる訳ないじゃん、気にすんなよ」

 

「…それでも俺は皆を助けるべきだった。それが俺の役目で俺の責任だったんだ」

 

 勇者であり、リーダーだから。そう言った光輝に柏木はやはりどこか気の抜けるような笑みを浮かべ首を横に振った

 

「そうかぁ?幾ら勇者だろうがリーダーと言われようがあん時俺達まだトータスに来て二週間だったんだぞ。普通の高校生だったお前にそこまで求める方がおかしいんじゃねぇの?」

 

 だから気にする必要はないのだと締めくくる柏木。その言葉にホッとした安堵感を感じ、しかしそれがまたクラスメイトに対しての罪悪感になる

 

「…柏木はそう言ってくれるけど、他の皆は俺の事を恨んでいるんじゃないのかな」

 

「あーそっか、そう考えちまうか…」

 

 思わず漏れ出してしまった不安は困惑した声で止められた。

 

「…本当は言うべきじゃないのかもしれないけどよ。実はお前の様子を見て欲しいって頼まれててさ」

 

 秘密にしておいてくれよと前置きした後柏木は声を潜めた。どこか困ったような顔だった

 

「誰だと思う?」

 

「……」

 

「坂上。つーか男子全般だなあれは」

 

「!」

 

 親友の名前が出てきて驚き柏木のを見る。言いづらいのか頬を掻くと目を泳がせていた。

 

「頼まれたんだ、天之河の様子がもう見ていられないって。だから今日近寄ったんだけど」

 

 想像以上だったと苦笑する柏木。その言葉を受け、心配されていたという嬉しさよりも気遣われてしまったという申し訳なさがあった。

 

「そうだな。確かに俺は醜態をずっと晒し続けていた。そんな奴を相手するのも疲れるだろう、迷惑を掛けてしまったな」

 

「おいおい、んな顔すんなよ。そう言う事じゃなくて…俺やアイツ等がお前に話しかけれなかったのは」   

 

 どうにも自虐が止まらない光輝に今度こそ柏木は眉根を抑え…そして溜息をついてしまった。

 

「そのな、皆お前に非難されるのが怖かったからなんだよ」

 

「怖かった?どうしてだ?そもそもこのトータスに皆が来てしまったのは俺のせいだ。だから俺が皆を巻き込んだ」

 

「…確かにこの国が行った召喚は勇者を呼ぶためのものだから結果を見れば俺達はお前の巻き添えを喰らったに過ぎない」

 

「ならやっぱり俺のせいじゃないか」

 

「違う」

 

 そこで柏木は一度言葉を切り、一瞬言い淀んだ。その顔に浮かんだのは…滲み出る後悔だろうか

 

「戦争に参加をしたのは…紛れもなく俺たちが自分で言い出した事だったんだ。確かにお前につられたのは間違いない。でもなあの時俺達は誰一人としてお前に待ったを言わなかったじゃないか」

 

「……」

 

「不安だった、混乱していた。理由は色々とある。でも、今後の自分たちがどうなるかを俺は…俺達は考えないようにしてしまったんだ。そこでお前だ。天之河、お前の戦争表明だ」

 

 そうだ、あの時自分は戦うと決めた。そう皆に宣言してしまった。

 

「勇者と呼ばれた俺達のリーダーの参加。それを幸いとして自分で判断するという事をお前に押し付けちまったんだ。自分で判断すべき事なのに…結果だけ見ればお前に責任だけを押し付けた」

 

「…あの時皆混乱していたんだ。俺はそこまで気が回らなかった」

 

「だけど話すべきだった。お前も俺達も同じクラスメイトで同じよう召喚された日本人で…同じ人間なのだから。その事を怠った俺達がどうしてお前を非難できる?どうしてお前だけのせいにできるんだ?」

 

「……」

 

「誰のせいって訳じゃないけどよ。責があるのならそれはあの時先生の言葉を重く受け止めなかった俺達全員じゃないのかなぁ」

 

 天之河光輝は誰にも相談することなく即急に自分一人で話を勧めてしまった。

 

 クラスメイト達はその天之河光輝の言葉に責任を押し付ける様にして話に加わってしまった。 

 

 

 非があるとすればそれはあの時全員。誰のせいでもなく全員の責任でもあった。

 

 

「すまんかった天之河。俺達の居場所と言う重圧をお前ひとりに押し付け、そのくせお前が迷っていたら近寄ることすらせず遠ざかってしまった」

 

「ごめん、俺は皆の事を考えるべきだったのにこの世界の人たちの事しか考えていなかった。すべきことを放置して勇者と言う言葉に酔いしれてしまった」

 

 両者が紡ぐのは謝罪の言葉だった。余裕さえ持てば相手の事を思い遣ることが出来たはずなのにそれが出来なかったのだ。

 

「「……」」

 

 両者顔を見合わせしばし沈黙。相手がどう思ているのかはわからない、何せ幾らチート能力を得たとしてもエスパーではないのだから。

 

「「…ふふっ」」

 

 だが自然と漏れたのは何とも言えない笑い声だった。言うべき言葉を言えたような小骨の取れたようなすっきり感があったのだ。

 

「俺、皆と話してくるよ。色々と迷惑を掛けたのは事実だし、皆のこと知りたいから」

 

「それが良い。人間話さないと分かり合えないしな」

 

 柏木が苦笑して言った言葉。それは奇しくも祖父が話していた事と一緒だった。だから改めて言われると胸に来るものがある

 

「柏木」

 

「うん?」

 

「有難う」

 

「礼を言う必要はないよ。それ言うのは他の奴らに言っとけ」

 

 照れているのか煩わしいのか手の平をシッシとむけてくる。考えてみればもう時間帯は夜になっている。これ以上長居するのは柏木に迷惑がかかるだろう。

 立ち上がり佇まいを整える。

 

「それじゃ、俺行くよ」

 

「ああ、今日はもうさっさと寝ろ」

 

「そうする」

 

 最後にもう一言だけ感謝を述べ、柏木の部屋から出る。その時柏木がチラリとだけ苦い顔をしたのを光輝は気付く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり暗くなった王城は中々の暗さだったが不思議と恐怖感は無かった。

 

(明日は一人一人と話してみよう。何を考えているのか何をしたいのか)

 

 思い描くのは明日の事について。召喚されたクラスメイト一人一人と話をしてみたかった。最初にするべき事だったのに随分と後回しになってしまい苦笑する。

 

(そうして今度はもっと真剣に考えよう。世界を救うってどういうことなのか。人を助ける事についても)

 

 祖父との語らいを得てもまた自分は思い悩むときがあるだろう。何せ自分はまだまだ未熟だ。その時は皆と相談をしようと光輝は思った。

 

 いくら頭脳明晰だとか運動神経抜群と持てはやされようが自分はまだまだ16年しか生きていない未熟な高校生。思い違いやすれ違うことだってあるのだろう。

 

(だけど、それでも一人じゃない。そうだよね爺ちゃん)

 

 今は亡き祖父にそう語りかける光輝。一瞬の再会だったがそれでも得るものはあったのだ。

 

 

 暗闇を胸を張って歩く光輝。今後の事を考えながら歩く少年は仄かに身体が白い光を纏っていることに気が付くことは無かったのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謝る必要も礼も言う必要はないんだよ天之河…」

 

 扉から出て行ったクラスメイトの姿を見てポツリと出たのはそんな言葉だった。はぁと大きな溜息を出し手で顔を覆う。

 

 思うのは新たなる明日を生きるクラスメイト天之河光輝の決意とそれを汚す自分の後ろめたさだった

 

『光輝の様子を見てくれねぇだろうか』

 

 そもそも俺が天之河に親身になったのは坂上から頼まれていたからと言う理由が大きかった。何があったかは口を濁していたため詮索はしなかったが坂上はどうやら天之河に負い目を感じているらしかった。それで俺に様子を見る様に頼み込んできたのだ。

 

(オマケに男子共の事情も聞いたしなぁ)

 

 坂上に話を聞けばどの男子も天之河に尻ごみをしているようで近づくに近づけなかったらしい。仕方ないとは思いつつも俺もまた天之河に関しては特に意識していなかった部類、同罪なので引き受ける事となったのだ。

 

 当初の予定ではこの部屋に充満している『錯覚の香り』と『帰還の声』を使い安心感を与える薬を使って精神の安定を図ろうとしたのだ。

 しかし当初の想像以上に天之河が疲労しているところを見たので急遽予定を変更したのだ。『眠りの粉』で天之河を強制的に睡眠状態にさせ『虹の香り』で自分が一番安心する匂いを嗅いで体と精神の疲労を回復させる、その予定のはずだったのだが…

 

『どうしてコイツはそこまでして人を助けようとするんだ?』

 

 ふとそう疑問に思ってしまったのだ。思ってしまった以上俺の行動は自分でも驚くほど早かった。

 

 俺は何時の間にか『堕ちる絶望』と言う能力を使い天之河の精神に負担をかけ天之河の本音を聞くことにしてしまったのだ。

 

 

 俺の力には薬を作り出す意外にも大まかにだが人の精神や記憶を仮想現実として認識する力もある。ソラリス能力でも割と異端だと思う『記憶探索者(メモリダイバー)』…対象の精神をエミュレートして操作をする力を使って天之河の抱える闇を見てしまったのだ。

 

 以前中村の時に使えた力をよりにもよって衝動的に使ってしまった俺は、天之河の抱える問題を見た後に慌てて天之河の尊敬する祖父を使って精神の安定化を図ったのだ。

 

 天之河と会話をしていた祖父は天之河が過去の記憶から作り上げた祖父自身。それによって天之河が自発的に立ち直り回復したのは喜ばしいのだが…

 

(…すまんな。お前の過去見ちまったよ)

 

 結果として俺は人の過去に土足で踏み込んでしまったのだ。以前の中村は悪意があったので良心が傷つくことは無かったのだが 今回は流石に不躾すぎたと後悔と反省するばかりだった。

 

「はぁ…はぁ~~~!!」

 

 過ぎたる力は身を滅ぼすというが人の過去に踏み込むのは如何なものだろうか。オマケに後悔や反省もしているはずなのにこうやって自分の罪を整理して行くと寧ろ天之河の精神を回復させたのだから問題なしなのではと考えてしまうようになってしまう。

 

「つくづく自分には駄々甘だよなぁ俺。……まぁいいや」

 

 このまま自己嫌悪と開き直りで時間が過ぎていきそうなので無理矢理思考を変えようとする。…人それを問題の後回しと言う  

 

 

(しっかし何だかんだで尊かったよなぁ天之河)

 

 勇者と呼ばれていたからにはそれ相応の理由がるはずだと思ったが、天之河の人を助けたいという気持ちは正真正銘本気だった。ただ手段などが少し間違えただけで人を助けようとする意志は尊いものだったのだ。

 

 何だかんだで言われようとも人が人を助けようとするのは美しいものだ。それが人の尊厳、人の善良さと言うのものだと思う。

 

「……でもそれって踏みにじられるのが現実だよなぁ」

 

 だが尊いはずのその意思は現実によって散らされてしまうのが実情だ。現に話し合いで戦争が止まるのなら俺達が呼ばれることは無かったはずなのだ。

 

(そんなに上手く行くのなら俺達は必要ないわけで……アイツのまた折れた姿は見たくない。ならするべき事は…) 

 

 だから天之河の理想は尊いと思う一方で叶えられるはずもないと見下す俺が居る。…それがまた酷く気に障る。

 

「………」

 

 考える。天之河の意思と止まらない戦争を

 

「……」

 

 思考する。人を助けるという事と変えられない現実を

 

「…」

 

 整理する。俺たちが帰る為の条件とその可能性を

 

 

「だよな」

 

 決める。自分のなすべき事とその罪の大きさを

 

「すまん天之河。俺は俺の思うやり方で戦争を終わらせるよ」

 

 今俺が浮かべている顔はどんな顔だろう?謝罪の言葉を述べながらも嘲笑うようなきっとこの世で一番醜悪な物になっているはずだ。

 

 だがそれでいい、俺は決めてしまったのだ。自分のやるべき事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「折角虎穴で手に入れたんだ。虎児を有効に使うのは…しょうが無いよなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一番書きにくかった部分が終ったので後はスルスルと投稿できたらいいなと思う所存です
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