『少し聞きたいことがあるんだけど、いいかい?』
何でもある空間で二人一緒にゴロゴロとしている時だった。そいつはライトノベルを読みながらふと思いついてと言う感じで話しかけてきた。
――なに?
『前から思っていたんだけど、転生と転移の違いって何?』
そいつが持っていた物は今どきはやり過ぎて食傷気味になってきた転生もののライトノベルだった。近くにもどっさりと同じ様な内容の題材の本が置かれているあたり嵌ったのだろうか?
―ふむ。それは興味深い…ってか いきなりどうしたんだ?
『この本たちを読んでいたら少し気になってね。 自分の思う転生と転移を間違えているんじゃないのかなと思ったんだ』
―なるほど
『君からしてみれば他人事じゃないだろ。だから君の意見を聞かせてほしんだ』
確かに今はお互い快適空間でグータラとしているが今後の自分に関わってくることだ。ありふれ世界に行くと決まってしまった以上その話は大切なことになるかもしれない。
何より自分の願いに大いに関係してくる話なのだから
―分かった。私的な意見でも良ければ語ってみようか。
『有難う。…しかしありふれ世界に行く君は転移になるのかな、それとも転生どっちになるのかな』
―――それは『――』だろ
「やっぱ何もねーよな」
「図書館を片っ端から探したんだけどねー」
清水の部屋で借りてきた本を積み上げながら深い溜息を吐く。俺たちがやるべき事の一つ異世界からの脱出法を探していたのだ。
王都にある図書館から異世界に関することやエヒト神に関すること、他にも歴史や戦争の始まりなどいろいろと借りて調べてはいるのだが…本の量はあるくせに記されていた物は案外少ないのだ
「休憩がてら少し整理しようか。今お茶を入れるわ」
「サンキュー」
テーブルの上を片づけながらお茶の準備。労働をした後は甘いものがほしくなる。…ならない?
さて、疲労回復のお手製薬湯を飲みながら大好きなディベートを始めよう。清水が相手ならどんな事だって言える。
「まず異世界召喚についてだが、俺達より前に呼び出された人間はいなかった」
「俺達が初めて呼び出されたって事だな。…何でだ?」
「魔人族が魔物を従えるようになったから」
「本当かなぁー」
俺達より前に異世界から呼び出された人間はいない。言い変えれば初めて異世界から呼び出されざるを終えなかったという事。しかしここで疑問が残る、何故今更なんだ?
「魔人族が魔物を従えるようになったのは確かに脅威だけどそれ以前にも人間族が境地に追いやられることはあったはず。なんでいきなり召喚なんて試みたんだ」
「どう考えても滅亡の危機って訳じゃないだろ、まだこの国には余裕がある。即ち…神にとって召喚には別の思惑があった可能性がある」
ふむ、他の思惑か。…きな臭いな
「次は歴史。遥か昔から人間族は魔人族と戦ってきた。一体どれだけの年月か書かれてはいなかったが…ちょっとおかしな話だ」
「人間魔人族、両者ともそこまで戦争を続けられるのかって疑問が出てくる。士気は信仰で補うとかしても物資や食料、兵站が戦争についてこれないと思うが」
実際の話兵站は戦争を支える最優先重要事項なのだ。誰かって腹が減っては戦は出来ん。それなのにまだ戦争を続けている、来る日も来る日も
終わりのない戦争。流石に馬鹿げているんじゃないのか?
「んで、信仰戦争でも必ずこう考える奴は出てくるはずだ『このままでは国が疲弊する。和睦かせめて休戦をしなければ』ってね」
「だが歴史を調べるとそんな記述は一つも無かった。多少の知恵があれば和睦への選択を考えてもおかしくは無い。…信仰が原因か?」
終わりのない戦争に恐怖を覚える者がいてもおかしくは無い、なら和睦だって考えてもおかしくない筈なのにどうしてか和睦を進めようという人間の記述が歴史書には無かったのだ。邪魔たから捨てた?士気にかかわるとはいえ嫌な感じだ
「そして最後に神に関してだ。無関係な人間を呼び出し戦争を終わらせようと考えるエヒト。…どう考えたって変だ」
「どうして今更人の戦争に介入してきた?今まで人が滅亡しかけようが繁栄しようが手を出さなかった神が今、どうしてわざわざ他の世界から駒を入れたんだ?」
今までの歴史を見ると、神に属する人間が出てきたことは書いてあったが神の直接的な介入は無かったのだ。それが今回の戦争ではわざわざほかの世界の人間を使ってまで人を勝たせようとしている
「今の今まで何もしてこなかった奴が急にでしゃばるのは目立つよな。どう考えたって怪し過ぎる。清水はどう思う?」
「同意見。今まで何もやってこなかったのに急に手を出してきたって事は…何か目的があると考えられる」
「何だろうね俺達を呼び出してまでやりたい目的って。分かる?」
「お手上げだ。いくつか候補は浮かぶけどな」
これには清水もお手上げだった。流石に色々と想像は出来るけど人を攫ってまでやりたい事なんて思い浮かばないって事なんだろう。
「ま、仕方ね―からぼちぼちと探っていこうぜ。こういうのは焦って探しても見つからないパターンだ」
「だな」
と言う訳で、少しばかり休憩を取る事になった。元から休憩を取っていたって?気のせいだ。
「なぁ清水さー 聞いてもいいか?」
休憩中少し気になる事があったので雑談混じりで清水に話しかけた。借りてきた本を興味なさげに読んでいるが特に嫌そうでもなかったので話を続ける
「転生とか転移ってあるじゃないか。アレの違いってなんだ」
俺の疑問に興味を示したのか本をぱたりと閉じるとわざとらしくニヤついく。
「そりゃ転生は生まれ変わりで、転移は場所の移動だ。急にどうしたんだ、俺たちの境遇に嫌気が差したか?それとも生まれ代わりでもしたくなったのか」
実にイキイキした表情で笑ってくる。こういうライトノベルでよくありそうな話題に対しての清水の食いつきは中々の物だ。だからこそ話題に出したんだけど
「あーまぁ色々とあってな。んで転移の方は良いんだ、なんとなく予想つくから。転生ってのについてお前の意見が聞きたいんだ」
「転生か。さっきも言ったが生まれ変わりだ。俺達オタクどもからするとはやりの異世界転生が分かりやすいか」
「それなんだけどさ、異世界転生って転生って言えるのか?」
「ほぅ中々興味深い事を言うじゃないか。続けろ」
乗り気になってくれた清水にこれは自分の持論だがと前置きをする。転生の詳細は知らないけどあくまでこれから俺が話すことは俺自身が思っている事なのだ。
「異世界転生モノってよくあるトラックに轢かれてとかなんかで死んでとか色々あるけどさ、結局の所肉体が変わっただけで
人格…魂は前世と一緒じゃん。あれって生まれ変わりって言えるのか?」
よくあるライトノベルのテーマとして日本で死んだ人がファンタジー世界で赤ん坊から始まり新しい人生を謳歌するって話がある。それを異世界転生とひとくくりにしているがアレは実際の所転生と呼ばれるのだろうか?
「肉体が変わった。でもそれって酷い言い方だと要は体つきが変わったとも言えるだろ?中身は如何取り繕っても前の肉体の持ち主で肉体的には死んだ人間が中にいるってだけなんだ。それはソイツの地続きの人生であって生まれ変わり…新しい人生を歩んでいるのとは違うんじゃないのか?」
「なるほど柏木は、中身を重視している視方なんだな。魂が一緒で記憶も引き継いでいる。すなわちそれは体が変わっただけで生まれ変わりではないと」
肉体が変わり名前に顔や髪色が変わったとする、しかしそれは言い変えれば整形と同じだ。転生とは来世の自分の話であり生まれ変わり真っ白な状態の事を指し示すと思う。
そう考えると転生では無くある意味人生の続きとも呼べるのだ。
「理解が早くて助かる。清水の意見はどうだ?」
ふむふむと頷き俺の言いたいことをすぐに理解してくれる清水。本当にこういう会話は清水にしかできない。
「俺の意見としては転生だと思う。…いやちょっと待て、転生と言う言葉を使うから話がややこしくなるのかもしれん。ここでは俺の意見として新しい人生と言う言葉を使おう」
「ふむん?その言葉の神髄は」
「新しい肉体になったとしてそこから環境が変わるからだ。今までの生きてきた環境とは全然違う事になる、それは人間関係や 住む場所、常識が変わってるんだ。中身は一緒、けどそいつを取り巻く環境がゼロになってまた新しい場所から人生を始めるのならそれはある種の生まれ変わりとでもいうんじゃないのか」
「なるほど…取り巻く環境、外的要因か」
「話を極端にするが、今までいじめられてきた人間が自身の事を何も知らない場所に行き自身を取り巻く環境が変わったことで新しい人生が始まったというのもある。それは生まれ変わりとは違うが新しい自分が芽生えるって事じゃないか?」
ふーむ…新しい場所、新しい人間関係を指し示して新しい人生とも言うのは確かに生まれ変わるとも称するのかもしれない
「と、言った所で自身の記憶を消せるわけじゃないから、やっぱりこういう話は当事者がどう思うかだと思うぞ」
「なるほどなー やっぱこういうのは自分がどう思うかだな」
となると、あの朝の夢は…あの話の内容はどう考えればいいんだろう
「しかしいきなりどうしたんだ。俺にとっては良い気晴らしになったが急にする話でもないだろ」
流石はお見通しか。清水の指摘に苦笑しつつ事の八端となったことを話す
「実は朝、夢の中で転生がどうたらっていう会話をしていてな。詳細は覚えていないけど頭の中に残っているんだ」
「へぇ夢の中でか… そう言えばお前召喚された日もそんな話をしていたよな」
「その通りなのよ。しかも話している奴は同じ奴で…妙に気になってな」
夢の中で転生がどうとか話をしていたのだが、それが召喚された日に夢見た奴らの会話の続きだったのだ。その事が凄く気になったので清水に
相談を持ちかけたのだ。
「夢の話にこだわるのもアレなのかもしれんが…うぅん」
どうしてそんな夢を見たんだろう。どこかへ転生し生きる願望でも持っていたのだろうか。夢の中の自分が何を考えていたのか其処だけがどうしても気になってしまう。
「そう言えば、あの時流していたけどよ」
「うん?」
転生について色々と考えて俺がウンウン悩んでいるのを気になったのか清水は話を切り替えてきた。変な気の使い方だがそれが有り難い。
「あの時望むものがどうたらって俺言ってたじゃん。お前だったら何を願ったんだ」
確かにそう言えばそんな話をしていたような気がする。あの時願いと望みとかを言う前に起きてしまったんだ。
改めて自分の願いとかを意識すると…
そりゃやっぱり
【自分の望み、願いは――――だ】
「…え」
何かが引っかかった。何か頭の中で引っかかった。
「どうした?」
「…俺ってさキャラクリエイトできるゲームが滅茶苦茶好きなんだよ」
「?ああ、そう言えばそんなゲームが好きだとか豪語していたな。それがどうした」
俺の急な話の転換に清水は気を悪くした様子もなく付き合ってくれている。その事に感謝を覚えつつも溢れだす言葉をそのまま吐き出す。
今はそうでも言ってないと有耶無耶になってしまいそうだったから。
「いつも作るのは女性キャラでさ。出来る限り丁寧に作るんだ。顔の輪郭とかは難しいから上手くできないけど見てハッキリとわかる部分…髪の色や目の色なんかは特に。難しいけどそこだけは譲れないんだ」
「へぇー こだわりがあるんだな。そう言うの俺は嫌いじゃないぜ」
特に髪の色はいつも銀色にしている、この色だけは外せない。目の色は翠色にしている、あの色が心から離れない。
無意識とも呼べるその色を忘れない様に俺はいつも架空の世界では、そうやって幻想の少女を作り出して…
「おい、どうした顔色が悪いぞ」
「…すまん。ちょっと思考がバグった」
清水に話しかけられ先ほどの思考が消えた。何か変な事を考えていたようだ、頭を振ってもう一度話を続ける、今はとにかく言葉に出さないと訳が分からなくなりそうだ。
「兎も角そうやって主人公を作り上げるんだ。それでな、ゲームの世界…未知の世界を旅をするんだ。俺に変わって冒険をする主人公。出会いと別れを繰り返し、成功と挫折を経験して成長して強くなって…俺はそんな主人公がとても好きなんだ」
「愛着を持つって事か? なんつーか娘自慢をする親バカみたいだな」
そうかもしれない。でも親とはちょっと違う。それはもう一人の自分、有り得たかもしれない可能性の一つ。そういう目で俺は主人公を見ているんだ。
「だからもし何でも願うのなら俺は… 自分の願いはそんな主人公を……―――たいんだ」
《それが君の願いなのかい?》
「そうだ。最強とかチートとかそんな物は要らない、そんなのでは意味が無い。そんな事がしたいんじゃない。有り得た可能性、イレギュラー引き起こす未知数。それが…だから自分は」
「おい柏木。大丈夫か?お前一体誰と話しているんだ」
「……へ? あ、すまん。ちょっと熱くなってた」
声を掛けられそこでようやく意識がはっきりしてきた。何か開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまうところだった。
慌てて話を切り返す。
そうしないと…自分の事があやふやになりそうで何かマズそうだ。
「それで、えっと、清水だったら何を願うんだ」
話を有耶無耶にするかのように清水に話を返す。これ以上は自分で考えるべきで人に聞かせるような話じゃない。話題を振られた清水は特に気を悪くした様子もなく考えて、何やら言葉に詰まってしまった。
「そりゃ……あーあー」
「何だよ、そんなに悩む事なのか?」
何故だかこちらを見てはあーだとかうーだとか言い眉根のしわを寄せる。もしかしてかなり言いにくい事を聞いてしまったのだろうか、清水の様子に一株の不安が芽生えるが、清水は溜息一つ吐いて答えてくれた。
「…欲しいもんはもう手に入っているからな」
「何だって?」
「俺はいいや。その手の話は絶対に裏があるって疑っちまうからな」
確かに言われてみればそう言う願い事云々って裏があるような気がしてきた。無償の奉仕こそ怖い物は無い、だからもし神様だとかがお詫びとか何とかで力を与えようとして来る時は何かしらの思惑があると考えた方がいいかもしれない。
(…って事は夢の中の俺は一体何を代償にしたんだろう?)
考える、夢の中の俺は転生を代償に一体何を支払ったんだろう?代償を払ってでも叶えたいことがあったのだろうか、それとも何も知らずに…
(ああ、だめだこりゃ。また回線がバグってくる)
どうやら夢の事を真剣に考えようとすると思考回路がバグっていくようだ。これ以上考えるのは止めて清水でも弄っておこうか。
「んで、欲しいもんは手に入ってるって一体何なんだ?」
「聞いてたのかよ…」
「ごめんごめん、言いにくいんだったら言わなくていいけどよ」
苦笑してイジると清水は観念した様に大きく溜息を吐いてきた。
「お前と南雲が居りゃそれでいいって話だ。言わせんな馬鹿」
「それって」
「願いとかチートがどうとかよりも、気の合う馬鹿が居た方が人生よっぽど楽しいだろ」
観念した清水が言うそれは…つまりはそう言う事なのだろう。中々初心と言うか、嬉しい話である。ニヤニヤが止まらなくなると清水は顔を赤くして蹴ってきやがった。
「気色悪い顔すんなボケっ!」
「ごめんって!」
気恥ずかしそうに足で小突いてくる清水に俺は笑ってしまうのであった。
俺は俺が作ったゲームの主人公が好きだ。自分で作った自分のもう一つの可能性、
女性で銀の髪を持ち翠色の目をした…主人公。
名前は決まっている、俺の知らない世界を旅する、不思議な国を歩くその主人公の名前は…
「アリス。不思議な国のアリス。お前は…もしかしてお前の正体って…」
一つの疑念がわいた。彼女のこれまでの行動と言動を振り返るとあながち間違いでは無さそうで…
実に厄介で本当に楽しくなってきた。