ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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第三章であり準備編最後の話です。
ここまで準備してきた伏線回収でもあります
長いのでごゆっくりお楽しみください


そして化け物たちは嗤い合う

 

 

 

 

(さて、これで準備は出来たはずだが…)

 

 時刻は深夜、諸々の作業を終え休憩にと秘密基地である作業場の椅子へと腰掛けていた。無論だが辺りは静かで静寂に満ちている何とも落ち着くロケーションだ。

 

「ふぅ…」

 

 南雲が凝って作ったランタンの明かりをつけ一呼吸。仄かに照らす光が部屋を優しく照らす。流石は一流錬成師、こういった調度品のように見せかけた実用品を作るのは流石だとは言わざるを得ない。

 

「お疲れ様。大変だったみたいだね」

 

 そう言ってリラックスした俺のに声を掛けたのはやはりというか南雲だった。コップを片手に地下室から上がってきたらしい…地下から?

 

「ああ、ちょっと拡張をしてね。僕の秘密の作業場が地下にあるんだ」

 

 疑問を持てばクスリと笑って地面を指さした。どうやら知らぬ間に秘密の空間を作っていたらしい。流石というかなんというか…この場合どう言えば良いのか。

 

「さてね、それよりもこれ美味しいね」

 

「そりゃ俺が作ったジュースだからな。上手いに決まっているさ」

 

 南雲がガラスのコップの中にある液体をゆらゆらと揺らす。中に入っているのはソラリス能力『隠し味』で作られた只の水だ。『隠し味』を使えば生肉だって甘い果物の味にすることが出来てしまう、その力を応用して俺達は只の水を現代日本のジュースへと変えていたのだ。まぁこれもオーヴァードの特権という事で。

 

「君もどうぞ」

 

「サンキュー」

 

 冷蔵庫から取り出してきた瓶をこっちに渡してくる。瓶に入っているのは遊びで作ったヌカ・コーラ味の水だ。爽やかな青色が怪しくきらめいている。

 

「…ふぅ」

 

 一口飲めば爽やかなのど越しが疲れを取り除いていく。『元気の水』という疲労回復効果も合わせているので度々愛飲して居る飲み物だ。

 

 

「……」

 

「……」

 

 静かな夜だ。近くのソファでチビリチビリとコップを傾ける南雲は何も言わずただジュースの味を自然と楽しんでいるようで俺は何も考えずただ天井を眺めている。静かな時間だった。

 

 偶に夜ひとしきり遊んだ時こういう時間が俺たちにはあった。何も話さず何も行動せず、だからといって気まずい空気にもなる事もなく只静かな時間、友人との大切な時間を楽しむ時があるのだ。  

 

 お互い何も言わず何もせず、ただ眠るまでのひと時を過ごす。しかし今日は少し違ったようだ。

 

「…何をしたの?」

 

「うん?」

 

「色々と裏で動いていたんでしょ」

 

 咎める色は無かった。しかし疑問という音色でもない。只聞いてきただけでありしかし確信している問いだった。

 

「何を言って…あーそうだな」

 

 誤魔化そうとはしたが、流石に隠すのは止めにすることにした。どうせいつかはばれる事だし感の良い南雲の事だ。案外俺が企んでいること全部感づいているのかもしれない

 

「何から聞きたい?」

 

「そうだね、まずは…皆の事についてかな」

 

 皆、まぁクラスメイトの事だ。さらに詳しく言うのなら男子達の事。

 

「皆、強くなったよね」

 

「ああ、凄くなったな」

 

「斎藤君は空飛んで、坂上君は馬鹿力が増して、遠藤君はこの頃誰にも分からなくなって、近藤君はこの頃水に執着し始めて、檜山は何かふっきれたのか順当に強くなって、野村君はゴーレムづくりに精を出して永山君は何か秘密兵器があるみたいでさ、天之河なんてあんまり変わんないけど顔つきは本当によくなった」

 

 南雲がつらつらと上げた名前は最近著しく能力…異常に強くなった者達の名前だった。

 

「ああ、皆強くなったな。この世界に来た時とは比べ物にならないほどに」

 

「君が何かしたんでしょ」

 

 南雲はやっぱりクスリと笑っていた。咎める色はどこにも含まれておらず確信に満ちた声を出した。

 

「確かに僕達はこの世界の人達よりも強いのかもしれない。でもね、これは普通じゃないんだ。明らかに常識ってのを飛び越えてしまっているんだ」

 

 この世界で強くなる方法、それは鍛錬やレベルアップでステータスが伸びる。それが常識だった。陳腐で実によくあるつまらない方法で、それがこの世界での強くなる常識というのだった。

 

「ああ、そうだ。俺がやった。皆にドーピングをした」

 

 だから俺は、そのつまらない方法を覆すことにした。調合師という天職が判明した時に頭をよぎったのだ。数字で強くなれるのならドーピングすればいいんじゃないのかと

 

「人をRPG見たいに数字で表示をする。それが気に入らなかった、だからあっさり強くなる方法を考えた」

 

「それがドーピング」

 

「そうだ、俺の天職は調合師。ドーピング薬なら幾らでも作れるってそう考えていたんだ」

 

 ゲームみたいにステータスとかがあっても俺達はキャラクターではない。抜け道を探すことを想像すればドーピングという方法を思いついた。

 RPGでは貴重品のステータス永続向上アイテムも俺が無限に作り出せば幾らでも強くなれる。

 

「って最初は考えていたんだけど…予定外の事が起きた」

 

「僕達はオーヴァードとして目覚めた事?」

 

 天職が調合師だったからかオーヴァードとして目覚めた能力はソラリスだった。生きた生体化学プラントになった俺は本当に際限なく薬を作れるようになってしまったのだ。

 

「それもある、だけど死にかけたことで考え方がちょっと変わったんだ」

 

 しかしあのオルクス迷宮で死にかけた時…目を覚ましてからドーピングという方法も少し考えを改めたのだ。

 

「最初は自分達だけ強くなれればいいと考えていたんだ。でも死にかけた時、頭をよぎったのは死にたくない『これは俺が請け負う事じゃない』

っても思ったんだ」

 

 非戦闘職の俺が死にかけるのなんて嫌だ。誰が好き好んで痛みを請け負うのか、気に入らなかった。

 

「でもだからといって皆に押し付ける事は出来なかった。…痛みを知っているから傷ついてほしくなかった」

 

 自分が痛い目にあうのは嫌、でもクラスメイトが痛い目に合うのも嫌。そんな考えが頭に浮かんだ時閃いたことは一つだった。

 

「両方嫌なのなら、クラスメイトを強くすれば良いって考え付いたんんだ。俺の代わりに強くなって前線に立てばいい、アイツらが強くなれば俺は痛い目に遭わずに済むしアイツ等も死ぬことなんてない」

 

 単純な思考回路だった。そして皆にドーピングを仕掛けようとして

 

「あの男子会議を開いた、皆に君が作った薬を飲ませる為に」

 

「そうだ、勿論皆を励ますって目的もあったが本当の狙いはそれだった」

 

 あの日あの時、皆は俺が作ったクスリを飲んだ。一人残らず飲み欲し、存分に体中行き渡ったのだ。俺が調合師としての能力とソラリス能力を使った『覚醒薬』を

 

「作ったクスリは覚醒を促すクスリ、自らの扉を開き、可能性を高める。…そういうふわっとした薬を作ったんだ」

 

 技能が芽生え、可能性をいかんなく伸ばす俺の作った薬は、読み通り皆の才能を著しく伸ばし始めた

 

「流石に空を飛ぶってのは想定外だったけど…概ねは上手く行った」

 

 目を見張る力を持つ者が続出した。空を飛ぶ斎藤に身体能力がおかしくなった坂上とか。…最もこの薬には個人差があるので自身の殻を破れない者には作用しないという欠点もあった。特に相川たちは心折れたので今後覚醒することもないだろう

 

「ほとんどの男子が力に目覚め始めた。…まぁ個人の努力ってのが大半を占めるけどな」

 

 それでも俺の代わりに戦う戦士が出来たのは間違いなかった。これが俺の罪の一つ目

 

 

「…そっか」

 

 話を聞いたな南雲はは目をつぶり納得する様に薄く微笑んでいた。そうして目を開けた時静かに俺を見た。

 

「誰もこの事を知らないと思うから、勝手に利用された皆に代わって僕が非難してあげるよ」

 

 薄く笑っている南雲はどこか得も知れぬ艶があった。頬は少しだけ赤らんでいるような気がする。…アルコールは含まれていない筈なんだけどね

 

「君さ、クラスメイトを、皆を何だと思ってるの?まさか君の実験台とか思ってるわけじゃないよね」

 

 反論はしない、薄々と考えていた事であり誰にかにそう思われても当然のことだった。

 

「傷つけられるのは嫌で傷ついてほしくなかった?冗談じゃないよ、君が勝手に思ってることだろ。皆に了承を取った訳でもなく勝手に薬を盛っておいてもっともらしい言い訳をするなんて阿保みたいだよ」

 

 その通りだと思う。人がどうだとか入ってるが自分で判断し勝手にやったのだ。皆に無断で薬を服用させたのは間違いないことだった。

 

「君の薬は強力だ、それは認めるよ。でもね人は自分の身に余る力を身に着けてしまった力におぼれる生き物なんだ。みんな強くなったのは間違いはないけど、その責任を君はどうするつもりだったんだい」

 

『大いなる力には大いなる責任がある』好きなアメコミの有名な言葉だ。力を持つにはそれ相応の責任が出てくる、だが皆が手に入れた力は努力をした結果ではあるものの俺が後押しをしたものであることには違いなかった。

 

「…一応リセットの薬も作ってはいる。この世界から帰る時になったら使うつもり」

 

「ふぅん?…果たして皆は手に入れた力を手放すのかな?」

 

 南雲の問いに俺は答える事は出来ない。俺や南雲はもう一生の付き合いになる力を得ってしまったので割り切るしかないが皆は…

 

「まぁいいや。さて、それじゃ次の質問だけど、何であの魔人族を逃がしたの」 

 

 次の追及はカトレアの解放だった。折角捕まえた魔人族。それを俺の独断で逃がしたことに対する南雲の追及だった。

 

「それは…って何でお前知ってんの?」

 

「さっき見ていたから。…嘘だよ、本当はこの王都の至る所に監視カメラを付けていてね。それで知ったんだ」

 

 南雲の錬成もはや錬成がどうだとか言うレベルのではなくなった。モルフェウス能力との組み合わせだとは言えここまで万能なのだろうか?

 

「必要な物や便利な物はほとんどできるよ。…欲しい物は手に入らないけどね」

 

「あんだって?」

 

「何でもないよ。それより話の続き」

 

 欲しい物がどうだとか呟いたが追及するとヘソを曲げそうだ。仕方がないのでカトレアの解放の本当の意味を教える事にする

 

「んー色々と目的はあるけどカトレアにはどうしても魔人族の故郷へ帰ってもらいたくてね。それで解放した」

 

 カトレアとの別れを思い出す。あんまりそんな雰囲気はなかったがカトレアは軍属の人間だ。流石に敵地から脱走してその後にどこかへ寄り道はするとは思えない。真っ直ぐに故郷へ帰るはずだ。

 

「どうしてさ。流石にいくら君への恩とかがあっても帰ったら魔王とかに色々と報告するんじゃないの」

 

 確かにそれはするだろう。いくら世話をしたとかあってもカトレアには譲れない事があるはずだ。でもそんなのはどうだっていい重要な事じゃない

 

「いいや、必要なのはカトレアが故郷へ帰った…魔人国家ガーランドへ帰ったという事が一番大切なんだ」

 

「故郷へ帰る事が?」

 

 イマイチピンと着ていない南雲にふと笑みがこぼれる。流石に全部を直でいうのは面白くないのでヒントを言うとしよう

 

「あのさ、俺割と結構な時間カトレアと一緒に居たじゃん」

 

「そうだね。ご飯とかは一緒に食べる様にしていたよね。他にも結構雑談とかもしていたみたいだし」

 

 一応女性なので配慮する部分はあったがそれでもカトレアは俺と同じ時間同じ場所にいた。牢屋とは名ばかりの俺たちの拠点であの狭い部屋で。

 

「俺と二人っきりの部屋にカトレアはいたんだ。…ソラリス能力者の俺とね」

 

「ソラリス能力?それってたしか…あ、柏木君の身体って。それにカトレアのあの態度。って事は…えぇー?そう言う事?」

 

 思いついたのだろうか、南雲がハッとした顔をすると俺をマジマジと見つめ…ドン引きした。なんでやねん、気持ちは分かるけど

 

「上手く行けばこれで戦争は終わる。誰も血は流さず、誰も傷つかず。ハッピーエンドの始まりだ」

 

 カトレアが無事に故郷へ帰った時、俺の秘密の作戦は開花する。その時こそ永かった戦争は終わり、俺たちの勝利となるのだ。

 

「それ絶対にハッピーエンドじゃないよ。寧ろ完全最悪なバットENDだよ。良く言ってもビターだよ」

 

「何処かだよ、これ以上なく平和じゃないか。」

 

「戦いが終って平和じゃなくて生物全部死に絶えて争う物が居なくなったENDに近いよ。つまり戦いではなく争う人が居なくなったから平和って訳だ」

 

「そこまで危険な事をしてるわけじゃないけどなぁ」

 

 一応ちゃんと機能しているかは確認してある、だから大丈夫と言いたいんだが南雲はそう言う事を言ってる訳では無いらしい。

 

「さっきの話と一緒だよ。君マジで人を何だと思ってるのさ。正直な話今の君平和を謳いながらやってる事は物凄くタチが悪いよ」

 

 それは知ってる。そもそもソラリス能力をフルに活用しようとすればどうしてもマッドサイエンティストの様になってしまう

 

「はぁーまさかここまで危険なチカラだったとは。これじゃ万能薬じゃなくて劇薬だよ」

 

 呆れた南雲の溜息が響く。小さな声で「これじゃどうやっておじさんに顔を合わせればいいんだろう」とか呟いていた。

 

(でもまぁ確かに南雲の言う通りだな)

 

 言われてみれば確かに俺は人の事を何だと思っているのだろうか。味方を薬漬けにし、敵さえも薬漬け。その事に良心は傷みつつも実行することに躊躇はなかった。人の為と願いつつも根底にあるのは『誰も傷つきませんようにという』自分勝手な我儘。

 

(もしかして…俺はもうとっくに)

 

 ふとよぎったのは中野から教えてもらったことの一つ。ジャーム化だ。力を私利私欲に使い人の心を失くした化け物。

 

 もし中野に相談したらどうなるのだろうか、ぼんやりとそんな事を考え始めてふと部屋に視線を向ければ片隅に地下へ続く階段が目に入った、

 

「なぁ南雲。お前何時の間に地下室なんて作ったんだ」

 

 拠点の管理などは南雲にほぼ一任しているのが現状だが、それにしたって地下室なんてものは無かった。一体いつの間に作ったのだろうか

 

「はぁ…ああ、それ?実は結構前から、いつもは分からないように偽装していたんだ」

 

 流石はモルフェウスの能力者、もはや何んでも出来てしまうという認識をもった方が良いのかもしれない。気になった俺はそのまま南雲に質問する

 

「それはいいとしても、地下で一体何をしていたんだ」

 

 作業場は作ってはあるのだからそこで錬成やモルフェウスの練習をすればいいはず。もしかして隠したいものでも作っていたのだろうか

 

「うーんとね、あー…まぁいいか。いつかは協力してもらおうって思ってたしね」

 

「?」

 

「柏木君。君に手伝ってもらいたいことがあるんんだ」

 

「そりゃいいけど、いったい何を?」

 

「この王都を守る、最終防衛システム、だよ」

 

 そうして南雲が取り出したのはかなり使い込まれた跡が見えたこの王都の地図だった。主要な建物から住居までびっしりと緻密に書かれてあるその地図は何やら赤い線で書き込みがされている

 

「これは僕の仕事場からもらってきた地図でね。観光用の物じゃない実用的な物なんだ」

 

「それは分かるけど、これを使って何をしていたんだ」

 

 俺の質問には答えず、南雲は地図上にある赤い丸が何度も記された場所を指さす。そこは王城の中でも端っこ。俺たちの拠点だった

 

「ここが僕達が居る拠点。ここが心臓部になるんんだ。他はまぁ手足と見ていいかもね」

 

 赤い丸が重点的に描かれた拠点から各方面に伸びる赤い線。その線の数はかなり多く、百本では効かない。

 

「末端の部分は丁度王都の結界の内側壁になっている。一応何度も確認したけどこれで王都を取り囲むことが出来るはずだ」

 

 王都には結界が張っておりその結界がある限り魔物が侵入する事は無い、それは魔人族も一緒のはず。そしてそのオマケのような扱いで防壁も設置はされているのだ。

 

「まるで牢屋みたいだな。んで、それは言いとして何を…うん?」

 

 何となく地図を見ていて気が付いたというか思いついたものがある。地図は居俺達の拠点を中心として書き込みがされているのだ。それは、なんとなくだが先ほど言った牢屋という言葉と照らし合わせると…

 

「これ、もしかして脱出用経路か?」

 

 よくある牢屋からの脱出劇である、逃亡ルートのように見えたのだ。もし緊急事態があった時すぐこの拠点から逃げる為に地下通路を作って、町の外へと逃げるための、そんな物を冗談で思いついたのだ、

 

「あはは、ちょっと違うかな。でも実に惜しいね。地下通路という部分は合ってるよ」

 

 どうやら脱出用は無いらしい。なら一体何なのかそう思って南雲を見ればニンマリと笑っていた

 

 

「コレはね、魔人族が攻めてきた時ようの…僕達ができる攻撃手段なのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この地図を見ながら聞かされた南雲の計画。防御こそが最大の攻撃手段と呼ばれるものは、なるほど確かに俺の協力が無ければ完成しない代物だった。

 

「魔人族は誰にも気づかれずに人間族の町の中にあるオルクス迷宮の中にやってきた。それがどうやってなのか僕は知らない。もう知る事は出来無いかもしれないけど、でも想像することは出来るんだ」

 

「もしかしたら魔人族は転移ができる、もしくは姿や気配を消す魔法ができるんじゃないかなって。それを思うとこの王都は絶対に安全とは言い切れなくなったんだ。…ああ、結界?アレを盲心的にを信用できるほど僕は阿保じゃなくてね」

 

「だけど僕の力で対抗するには色々と被害が出る。その時の思いついたんだ、君の力と僕の力を組み合わせればいいんだって。ソラリス能力とモルフェウス能力、錬成と調合の、僕達だからこそできる王都の防衛システム。それを思いついたんだ」

 

「だから、それを実現させるためにも君の力がどうしても必要なんだ柏木君」

 

 …南雲が考えたのは最悪を想定しての罠だった。この王都が攻め込まれた時を考えて作った悪辣な罠だったのだ。でもそれを完成させるには俺の力が必要だった、だってそうでもしないと

 

「…そうでもしないと王都の人間が死ぬかもしれないから。僕の力じゃ足り無いんだ」

 

「ハッピ―ENDを向かえるには俺の力が必要になる。か」

 

 考える、混沌無形でそれでいて確かに上手く行けば、被害は出ずにそれでいて何もかもを手玉に取ることだってできてしまうのだ。

 

「どうかな、僕の考えた計画は?上手く行くとは思うんだけど」

 

 そうだ、俺達はもはや化け物。上手く行くかどうかで尋ねられれば上手く行くしかないだろう、だってもう俺は自分で計画して実行しているのだから

 

「そうだな、上手く行く」

 

「なら、急で悪いけどこれから」

 

「その前に言わせてくれ」

 

「何を?」

 

 

 

「お前はいったい何を考えてるんんだ?人を何だと思ってるんだ?」

 

 

 

 それは先ほど俺が南雲に言われた言葉だった。まさかついさっき聞いたこのセリフを自分が言うとは思わんかったがそれでも言わせてもらおう南雲の為に。

 

「確かに上手く行く、でもなこれが成功するって事はお前王都の人たちの事を蔑ろにしてるっていうもんじゃないか。あの人達がどうなっても構わないおまえはそう言ってるのと同義なんだぞ」

 

 南雲の計画は上手く行くがどうしたって王都の人にも被害は及ぶだろう、その事を分かってるのかと言えば南雲は無表情だった

 

「知ってるよ。でもね柏木君」

 

「なんだ」

 

「僕の中じゃ優先度が低いんだ」

 

 一切の感情が込められていない声だった。同時に南雲はまるで見下すかのように地図を見た。異世界の人々が住む住宅地を冷たい目で見降ろしていた。

    

「確かに王都の人にも影響を及ぼすかもしれないけど、それは戦争だから仕方のない事なんだよ。だって僕達が巻き込まれているんだよ?この世界に何の関係もない僕達が、だったらこの人たちもそれ相応のリスクは背負ってくれないと割に合わないよ」

 

 何も関係のない俺達を巻き込んで置いて戦争の道具に仕立て上げるのなら、その期待に応えてやる。だけどそれ相応の責任を負え、自分たちは関係が無いのだというその考えごとお前らも被害者になれ、

 

 南雲の目にはそう言ってるような気がした。それは俺も薄々と考えていた事だ。だからその事についてはもう反論するのは止める事にした、どうせ俺も同じ穴の狢だ。

 

「…じゃあもう一つだ。確かに協力するのは良いけどよ、それ被害が出たら完全に俺のせいになるよな」

「…そだね」

 

「作ったは良いけどよ、肝心な部分は人任せって事だ。自分は兵器を作った訳で使うのは自分じゃないってそう言ってるのと同じ事だ」

 

 作戦は上手く行くだろう、でもその場合被害が出たら南雲の責では無く俺のせいとなる。俺は南雲のスケープゴートになるって事だ

 

「すました顔をしているけどお前は卑怯だ。自分は作っただけでやってませんって言えるからな」

 

 武器を作ったけど利用したのは別の人だから自分は罪に問われません。そう主張しているのと同じことだ

 

(クソッそんなこと解ってるのに、断れねぇなコレ)

 

 この話の卑怯な部分は俺が絶対に断らないって南雲自身が確信していることだ。俺は南雲の頼みを断れない、だから南雲は俺の力を前提にしてこの防衛システムを作り上げた。…卑怯だと思うよホント

 

「否定はしないね。でも僕にとっては二の次だ」

 

「だろうなぁ…はぁホント何時からこうなってしまったのか」

 

 顔を手で覆う。結局の所協力をするのは確定で断るつもりなんてサラサラ無かったのだ

 

 だからこそ溜息が出てしまった。どうしてこうも俺達は人の命を軽々しく考えてしまうのだろうか、俺達は一体いつのまに捻くれてしまったのだろうか。

 

(他の国の人ならいざ知らず王都の人を巻き込むなんて…お前だって知り合いの何人かはいるだろうに)

 

 南雲の立てた計画には恐らく俺だけが知ってる南雲の性格上の悪癖…欠点が露骨に出てしまっているのだ。

 

 それは強い被害者意識。普段なら多少のいざこざでも笑って受け流し、苦笑してやり過ごす南雲だが、いざ自分が被害者になったと認識した場合

加害者に対しての倫理観を消失してしまうのだ。

 

『自分は被害を受けたものだ、だから相手には何をしても良い』

 

 南雲の立てた秘密兵器などそれが露骨に出てしまっている。自分はこの戦争に巻き込まれた被害者だから、だから呼び出してしまったこの世界の住人に対してためらいが無くなってしまった。

 

 普段は奥底に隠れていて出てくることのない欠点が力の覚醒と共に出てきてしまったのだ。こうなってしまったら止めることなどできないし止まる事もないだろう。自らの被害者意識が消えるまで。

 

(南雲はこうなってしまったが…俺はどうなってるんだろう)

 

 なら反対に俺は如何なのだろう。俺は一体どんな精神の異常を引き起こしたのだろうか。自分ではわからないが…もしかしたらこの状況をどこかで楽しんでいる事だろうか。

 

 薄々どこかで面白いと思ったことに関しては歯止めが効かないときがある。この前の媚薬に関してもクラスメイトへの薬物投与に関しても。それが良いと思ったことに関してはためらいが無くなてしまうのかもしれない。

 

(はぁ…本当にこうなるとは、もしかして…もう手遅れだったりして)

 

 ふと、先ほど考えていた中野が教えてくれたジャームというのを思い出す。力を使いすぎて戻れなくなったもの。力に魅入られ理性を失くしてしまった正真正銘の化け物。…中野が討伐する怪物

 

 俺達は力を使うあまり気が付かずにジャームになったのかもしれない。この世界ではジャームになる予兆が無いと中野は言ったけれど俺達はそもそもジャームという物がどんなものか分からないのだから。

 

「…ひょっとして暗いこと考えている?」

 

「ああ」

 

 そんな事を考えていれば南雲から声を掛けられた。存外その声は気付かうようなものだ。けろりとしている南雲は俺達がどういう存在になってしまったのか心配しないのだろうか。

 

「心配か、あんまりしていないね。例えどんな姿になっても僕は僕だからね。何も変わらないさ」

 

「気楽でいいねぇ」

 

「優先順位がぶれないからね」

 

 その優先順位が何かは知らないがぶれなくて結構である。どうか今後は控えて欲しい。そんな事を想いつつ南雲を見ればいつの間にか南雲は剣の柄を持ち何やら作業をしていた。

 

「何してんの?」

 

「ああこれ?…不服だけどアイツ専用の剣を作っているんんだ」

 

「アイツ?」

 

 南雲が誰かの専用の武器を作るなんて珍しい、そう思って返事を返せば南雲はかなり顔を竦めて小さく「天之河」とだけ呟いた

 

「へぇ?お前結構天之河嫌ってたんじゃなったっけ?それが一体どういう風の吹きまわしだ」

 

「…アイツ、僕に直接謝りに来たんだ。あの時は助けに行かなくてごめんってさ」

 

 聞けば天之河は直接南雲に対してオルクス迷宮の橋の一件について謝りに行ったらしい。どういったやり取りをしたのかは知らないがぶーたれながらも南雲の顔にイラつきは見られない。

 

「全く謝るぐらいなら最初から気を付けろって話なのに、調子に乗ってたって気づくの遅すぎるよ」

 

「まぁまぁそうぶーたれるなよ」

 

 ブツブツと文句を言いつつも剣の柄に対する作業は手を抜く気配はない。真正面から謝れられて南雲も戸惑いが生まれて何だかんだで天之河の事を認めたのだろう。その事を口には出さないが作業で示す南雲に苦笑する

 

「人は過ちを起こしてしまう。でもその過ちに気付き反省することが出来るって事だよ。アイツも色々と思う事があったんだから認めて許してやるのが度量の広さって奴ではないのかね南雲君」

 

「…そうだね、現在進行形で罪を犯しまくっている僕と君がそう言うと説得力が段違いだね」

 

 物凄いジト目で見られてしまった。確かに現在進行形で物凄い大罪を犯そうとしている俺達があ~だこーだというのは筋違いにもほどがあり過ぎる。

 

 なんだか微妙な雰囲気になった空気を南雲は溜息一つ吐くと別の話題を話し始めた。正直助かる。

 

「…そうだ、そう言えば知ってる柏木君」

 

「何がだ?」

 

「僕達オーヴァードって二つ名がつけられるらしいよ」

 

「あんだそりゃ」

 

 話を聞くとどうやら中野から色々と教えられてたらしい。そこでオーヴァードはUGNから二つ名が付けられるとか

何とか。

 

「ちゅ、中二病だな」

 

「いいじゃん、面白そうだから僕らも付けてみようよ」

 

 ケラケラと笑う南雲。何となくなぜいきなりそんなことを話したのかわかった。俺に気を使ってくれたのだろう。何となくそんな気がした。

 

「んーつっても行き成りは思いつかないな」

 

「能力や性格とかそれにちなんだものを付けた方が良いんだって。中野君は『火の粉』だってさ」

 

 とてもではないが中野のそれは違う気がする。中野の火はそんな生易しく儚い物ではなくもっとヤバイすべてを燃やし尽くすような凄みがあるのだが

 

「モルフェウスとソラリスのピュアブリードか…錬成と調合の力」

 

 そんな事は気にせず南雲はつぶやきながら色々と俺と自分の二つ名を考え始めている。まぁわからんでもない誰かってキャラクターに設定を付けたりするときが一番楽しいのだ。俺はこの能力も同じ、自分だけの自分にピッタリの名前を付けたくなるのが人間ってもんだ。

 

「ソラリス能力ってさ。何でも作れるの?」

 

「大体人が想像できるものは出来る。流石に蘇生薬とかは無理だけどな」

 

 人を治す薬は出来ても人を生き返らせる薬なんてものは出来ない。色々は出来ても流石に制限はあるのだ。

 

「そっか…薬は勿論毒薬も万能薬も出来る、か」

 

「あんまり毒薬なんて作りたくはないんだけどねー」

 

 人を治す方に意識を湧いてきたが、ソラリスの力はまだまだ可能性が広がっている。毒薬は分かりやすく言っただけで本当はもっと恐ろしい薬だってできるのだ。南雲が頼み込んだものみたいに。

 

「うん、決まった。君の二つ名」

 

「お、おう。お前が決めるのか…」

 

 

「君の二つ名は『万能劇薬』だっ!」

 

「万能…劇薬?」

 

「そう、ありとあらゆる病気を失くす可能性のある万能薬であり、ありとあらゆる病気をまき散らす劇薬。君の意思一つで薬にもなり毒にもなる。二つの可能性を持つ薬そのもの、それが君だ」

 

 『万能劇薬』なるほど確かにそれはソラリス能力を上手く表している。どんな病気でも直せる薬を作り出すことも出来ればどんな病気をも引き起こす薬も出来てしまう。

 

「うーん、我ながらいいいアイディアだったね」

 

 ドヤ顔をしている南雲。となれば俺もまた南雲に厨二溢れる二つ名を考えて上げねばなるまい。 

 

「じゃあ南雲の方は俺が考えるとして…モルフェウスに錬成か。それって本当に何でも作れるのか?」

 

「作れるよ。必要な物はいくらでも。…まぁ大切な物は作れないってオチが付くけどね」

 

 何やら小声で付け加えていたがとにかく何だってできてしまうのだろう。こればっかりは俺では把握できないので想像でしかないのだが…

 

「まぁ、本気でやろうと思えば街一つ作り上げることが出来るんじゃないかな?多分」

 

「そ、そこまで規格外なの?」

 

「多分ね。ほんと、なんだって作れるんだ。冗談抜きで僕一人で経済を破綻させることだって可能さ」

 

 手から生み出すのはこの世界の通貨。特に一番高いはずの金のルタを手のひらからあふれさせている。零れ落ちている物だけで億万長者は夢ではない。その中に何十人かの俺達が愛してやまない諭吉さんが混じっているのは気のせいではない。

 

「…お金だけじゃないよ。衣食住、全部を賄えるし建造物もお手の物。寧ろ作れないのは、生き物だけだったりして」

 

 冗談めかして笑うが皮肉にすらなっていない。南雲の傍にはいつの間にか食べ物が置かれており、服も何着も出てくる。…ダグダの大釜、何故かそんな言葉を思い出す。

 

 上段抜きにもしかしたら万物を創造できる力、それがモルフェウスの神髄であり幾つく先なのかもしれない。

 

 なら南雲の二つ名は…これしかない

 

 

「……万物錬成。それがお前の二つ名だ」

 

 

「万物ってそんなに大層な名前をもらっても」

 

「ありとあらゆるものを手中に収める異能。お前一人だけで国を作ることが出来滅ぼすことが出来る。軍隊は兵站が無ければまともに動けず人は道具が無ければか弱い生き物だ。それをお前はたった一人で覆す。万能という言葉は大層でもないさ」

 

 万物を作り出すなんて正直世界のパワーバランスを崩すものだ。南雲が本気でこの世界を壊そうとするのなら物理的ではなく社会的にじわじわと滅びの道へ辿らせる事になる。逆もしかりというのならそんな力を万物錬成と言わずしてなんというのだろうか。

 

 

「そ、そうだね。…そっか万物錬成か」

 

「嬉しそうだな。気に入ったのか?」

 

「まぁね。ふふっ本当に僕達にピッタリの名前だよ」

 

  ニヤついて嬉しそうにする南雲この部分だけを見れば年相応の顔なのだが、あいにくその二つ名に恥じない異能持ちなので 何とも複雑な気分になる。

 

「しっかしまぁ俺達本当に変わっちまったな」

 

 出てくるのはそんな他人事のような言葉。召喚される前はごくごく普通の少年だったはずなのに異世界に来てから良くも悪くも変わり過ぎてしまった気分さえある。

 

「変わったね、特に命のやり取りをしたあの時から」

 

 南雲は言ってるのはオルクス迷宮の端のあの事件の事だろう。南雲が死にかけて助けに行った俺も瀕死になって。2人とも助かったとはいえ、その後にオーヴァードとして覚醒して……

 

「僕達はこの世界に居てはいけない」

 

 ふと南雲がそうポツリと漏らした。誰に言う訳でもないその言葉は俺の胸にしみていく

 

「僕達は異能を持った。この世界の形を壊してしまう力だ。元からあった生態系やこの世界の歴史を消し去ってしまう力。…無い方がいいに決まっている」

 

「オマケに使う奴が躊躇しなくなりつつあるからな。…この世界にとって俺達は外来種なのかもしれない」

 

 自分で言ってようやくその言葉を本当の意味で実感する。そうだ俺達は、この世界に不要なのだ。

 

 

 『外来種』元々その地域にはいなかったのに人為的に他の地域から入ってきた生物の事だ。よく日本で環境問題について取り出されているこの単語が俺たちによくあてはまるのだ。

 

 『外来種』はもとにあった生態系を壊し外来種が繁殖することがあるらしいが、これが俺達にもよくあてはまる。なにせファンタジーの世界で

出来あがった生態系を無残に壊してしまうからだ。たとえそれに悪意が無く善意だとしても元あった生活を壊し価値観を自分達(日本人)にとって居心地の良いものへと変えてしまう。

 

「外来種って結局の所俺達異世界転移するものの事を言うんだろうな」

 

 自分の知らない未知の世界へ。なんてて軽く言うけどやってることはハッキリ言えば異世界に対する侵略だ。…あんまり考えたくないけ異世界物のなろう主人公は全部これに当てはまるんじゃなかろうか。そんな事を考えてしまう。

 

 

 兎も角だ、そんな外来種たちは元の住処へ帰ろうにも手段が全くわからないこの現状、唯一の帰れるための可能性であるこの戦争を終わらせなければいけない。この世界の人の為にも、俺たちの為にも。…エヒトの掌の上ってのは心底気に喰わないけどね

 

「…どっちにしろ早く日本へ帰らないとな」

 

「そうだね。だからこそこの計画を完成させないと」

 

 南雲の計画は一瞬で戦争が終るシロモノだ。まさに防御こそが最大の攻撃であり、また俺が立てた計画は攻撃に転ずるものがある。魔人族人間族、この世界で幾年も飽きる事もなく殺し合いを続けてきた生き物たち。

 

 和解が成立せず和睦が無理ならば俺達がその切っ掛けを作り上げてやろうではないか。

 

「結局、僕達のような悪意ある第三者が現れなければ手を取り合うのは無理って話か」

 

「人と人が分かりあうにはまず同じ立場にならないといけないからな。必要不可欠だったのさ」

 

 ニヤリと笑う南雲。そうだ結局は誰かがやらなきゃいけない。それならば戦争を終わらせるためにやってきた、その為だけに召喚されてしまった俺達が叶えてやろうではないか 

 

 

「さぁやってやろうじゃないか南雲。善は急げって奴だ」

 

「ふふっそうだね。始めようか。僕達で戦を終わらせる最低最悪の秘密の作戦を」

 

 オーヴァードは嗤いあう、それが大罪だと理解していても自分達

 

 

 

 なによりトータスの為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この物語で一番のクソ野郎は主人公。

次回からようやく物語が終わりに向けて進みます。
感想があれば嬉しいですが…難しいでしょうかね
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