ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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四章
決戦の前に


 

 

「……」

 

 目の前に広がるのは作戦の最終チェックに走り回る自分の部下達。誰もが精鋭で士気高くこの作戦が成功することを信じている自分の部下たちだった。

 

 

 魔人族軍最高司令官フリード・バグアーは魔人族と人間族との雌雄を決するための戦の準備に捕らわれて居た。今、ふと手が空いたことにより、見回りをしていたのだ。

 

 自身が火山で手に入れた神代魔法である『空間魔法』そのおかげで一気にこの戦争を終わらせるための策が出来たのだ。その作戦は余りにも単純で、尚且つ分かりやすいシンプルな物。

 

『自身が率いる軍勢全てを空間魔法で人間族の本拠地までワープ。その後数に物を言わせて蹂躙する』

 

 改めて言葉にすると作戦とすら呼べない力技ではあるが、そもそも数の有利さは絶対的な物であるのだ。例えどれだけ王都の防備が優れていても絶え間なく続く数の暴力にはひとたまりもない。

 

 自身が獲得した変成魔法を使って数を揃えた魔物たち。数は優に百万を越えているだろう、その数で怒涛の勢いで攻めれば魔人族の勝利は確実そのものだ。

 

「……そう、我らの勝利は確実なのだ」

 

 だが喉に小骨が刺さったような不安がある。そのは今この場で姿を見せない部下の一人カトレアの存在だからだろうか。

 

 自分と同じ特殊任務に就いたカトレアは遂に帰還することは無かった。アハトドを引き連れていた上にカトレア自身油断をするタイプではないので任務の途中で想定外の事態が起きてしまったと考えるのが普通だった。

 

(迷宮の試練で果ててしまったか…)

 

 変成魔法を手に入れた氷雪洞窟しかり空間魔法を手にいれたグリューエン火山しかり、神代魔法を手に入れる為には過酷な試練を突破しなければいけない。その事を考えればカトレアは迷宮にやられてしまったと考えるのが普通だ。

 

(そう…だから噂の勇者共にやられたはずは無い。そうだろう?カトレア)

 

 もしくは考えられない事だが異世界から召喚されたという勇者たちによって倒されてしまったかのどっちかだ。

 とはいえフリード自身はその節は否定している。勇者など眉唾物であるし、やはりカトレアが負けてしまったとはどこか認めたくないものがあったからだ。  

 

 

 

 

「フリード。ここにいたのか」

 

「アルヴ様?」

 

 そんな思考をしていたいフリードに話しかけるものがいた。自分の上司であり敬愛する魔王アルヴヘイト、いつもにこやかな微笑は崩さずに隣に立ったアルヴは目の前で忙しなく動く部下たちを見つめる

 

「いったいどうなされたのですか?このような場所に」

 

「準備が上手く行ってるか見たくなってね。順調かい?」

 

 にこやかに話すアルヴ。この敬愛する魔王は今回の作戦には参加しない事になっているのだ。魔人族の総大将にして誰よりも規格外の力を持つこの魔王は念のためにと本拠地で吉報を待ってもらうようにフリードが頼み込んだのだ。

 

 …そこには人間族如き敬愛する人が出るまでもないというフリードの無意識の驕りもあったが。

 

「はっ、全てはこの上なく順調です。これほどの大群が居れば我らの勝利は確実かと」

 

 見渡す限りの魔物の数、それに合わせての精鋭中の精鋭の自分の部下たち。士気は十分でフリードは魔人族の勝利を疑っていなかった。

 

「そうだね。この数の魔物、()()()()()では何も出来ずに終わるだろうね」

 

(…?)

 

 気のせいだろうか、にこやかに笑うアルヴにどこか影が差したようにフリードは感じた。この敬愛する上司に何か懸念事項でもあるのかとフリードは思案し…直接聞くことにした。

 

「どうなされたのですか、何か懸念されることでも?」

 

 魔王とその配下。アルヴとフリードはそのような関係だが実際はもっと気安い関係でもあった。フリードがアルヴに敬服する以上出過ぎた真似はしないがアルヴ自身は気楽に接してくるのだ。だからこそ問うたのだ、その懸念を晴らすために

 

 

「……フリード」

 

「ハッ」

 

「本当にこの軍勢で人間族に奇襲を仕掛けるんだね?」

 

 その声に咎める色は無かったが再三の確認でもあった。フリードが提案したこの物量決戦。その効果を盤石とするために夜、暗闇に紛れて一気に人間族の本拠地へと奇襲を仕掛けるのだ。夜ならば暗闇に乗じて行動できるだろうし何より物量ので押しつぶす出鱈目さには相手の動揺を誘う目的もあった

 

「ええ、一気に王都へと侵攻しすぐさま愚かな人間族共を制圧をしてみせますとも」

 

 言葉には出さないが電撃的な侵攻をすれば結果的に大切な部下の命を守る事も出来る、大きな怪我を負う事もない。そんなフリードの意思もまたこの作戦にはあったのだ。部下は大切な同胞でありフリードにとっても死なせたくはない者達でもあった。たとえ全員軍人として命を賭ける意思があったとしてもフリードには生き延びていてもらいたかった。

 

「そうか……降伏勧告はしないんだね」

 

「?何を仰いますかアルヴ様。これは我らの聖戦、あの人間族共に何故降伏勧告をする必要をするがあるのでしょうか」

 

 これは長年にわたる魔人族と人間族との雌雄を決するための聖戦である。人間族を討ち滅ぼすのが代々先祖から引き継がれたことなのだ。それを何故魔王であるアルヴが疑念を持つのか、フリードにはわからない。

 

「それに遥か昔、愚かにも魔人族の者達が人間族と和平をしようと動いたら手酷く裏切られたと聞かされています。話す価値は微塵もないかと」

 

「あーうん。そんな事あったね」

 

 どこか遠い目をしたアルヴ。まるで何があったのか知ってるような顔つきだったが頭を振ったあとフリードに向き直った。

 

「作戦や軍事行動にはすべて君に判断を委ねている。今更私があれこれ言うのは君に失礼だったね」 

 

「いえ、貴方様が我らの事を気遣っての言葉だと私にはわかっております。何も気になさらないでください」

 

 降伏勧告をすれば部下たちの危険は無くなり無駄な労力もとらず戦争は終わるかもしれない。しかしこれは長年にわたる魔人族の宿願なのだ、今更作戦を変える気などフリードには無かった。

 

 そんなフリードの思いを知ってか、アルヴはそのにこやかな顔を引き締め真剣な顔つきになった。自然とフリードの背筋も伸びる

 

「フリード。これはまさしく決戦だ、今私たちの持てるすべてをかけての戦いになる」

 

「はっ!」

 

「だからこそ、もしも。もし万が一にでも負けるようなときがあったら…その時は君も潔く腹をくくりなさい」

 

(……何だって?)  

 

 激励の言葉かと身構えたフリードは一瞬その言葉を聞かされたときポカンとした顔をしてしまった。それほどまでにアルヴの言った内容が信じられ中たのだ

 

「お、お言葉ですがアルヴ様。我らが負けるとは御冗談が過ぎます。流石に人間族にこの数を打ち破る事は不可能で…」

 

「もしもの話だよ。あまり真に受けないでくれ」

 

 百万の魔物の数を相手にして一体どうやって人間族が勝利するとはフリードには思いつかなかった。だからアルヴに引き攣った笑みを浮かべたのがアルヴは煙に巻くようにして別の事を話題にした

 

「知っているかいフリード。人間族には異世界から召喚された勇者がいると」

 

「勇者、ですか?」

 

 眉唾な噂ではあるがある程度はフリードだって知っている。何でも人間族が信仰する神が異世界から呼び出したのだと。

 

 フリードの中では失笑に値する話だった。幾ら数の理が崩され窮地に立たされているとはいえ自分達の手で戦おうとするのではなく何も知らない第三者の力を借りるなんて誇りが何もない愚劣極まる話だったのだ。

 

 自分たちで身命を賭けて戦うのならいざ知らず異なる世界に助けを求めるとは何て恥知らず極まった事ではないか。

 そんな思いもありフリードの中では噂話とは言え人間族を尚更見下す要因となっていたのだ。

 

「その勇者が実際に呼び出されているみたいなんだ」

 

「……何ですと?」

 

 だがそんな失笑話はアルヴによって真実だと判明した。真実だと判明したからこそ余りにも人間族の情けなさと不甲斐なさで怒りが湧き上がってきた。

 

「どうやらカトレアの向かった先で遭遇したらしい。…彼女が帰還できなかったのも多分だけど」

 

「その勇者とやらのせい、ですか」

 

 先ほど考えていた懸念が当たったようだった。カトレアの安否を思案するが…生きている保証はないだろう。

 

「分かりました、例え異世界から現れた者といえども必ず私が打ち滅ぼしてやりましょう、それがカトレへの手向けです」

 

 たとえ異世界の者でも人間族に加担したならばそれはフリードにとっての敵だ。哀れではあるがそもそも巻き込んだ人間族の神とやらが原因なのだ、こちらがどうこう謂われる気は無かった。

 

「それなんだけど、フリード」

 

「はい?」

 

 アルヴの顔はフリードの予想と違って、少し苦み切った顔をしていた。何故だがそれがフリードにとっては癪になるものがあった。

 

「彼等…勇者と出会ってしまったら逃げて欲しいんだ」

 

「…………は?」

 

「より正確に言えば交戦を避けて欲しいと言った所かな」

 

 先ほどは我慢した声が今度は出てきてしまった。それほどまでにアルヴの言葉は衝撃的だった。

 

 フリードは魔王アルヴヘイトの懐刀でありこの軍の最高司令官でもあった。と同時に誰よりも魔法と武術の達人でもあった。

 

 幼少の頃から研磨され他その力は今では誰にも届かない領域へとなっており、魔王を除いて頂点に達する腕前を持つ最強の魔人族と呼ばれる、そんな強さを持った男だった。

 

 性格的に多少の高慢さがあったとしてもそれは立場の責任や自負からくるものであり決して驕る事は無いその強さ。国の為、民の為何より敬愛する魔王のために磨き上げてきたこの力をあろう事か魔王アルヴヘイトは勇者より劣ると言ってしまったのだ。

 

「な!?そ、それは私がその勇者より劣っているのだとそうアルヴ様はおっしゃられるのですか!?」

 

 思わず大声になったことを誰が咎められようか。敬愛する魔王と言えどもこればっかりはフリードにとっては我慢できなかったのだ

 

「君の動揺も混乱も理解できるよ。でもねフリードこれは『命令』だ」

 

「っ!?」

 

 普段は言わない命令だという言葉。冷たく鋭く切り出されてしまったので自然とそのまま反論する言葉を失くしてしまう。……尤も反論が出来なくなっただけで心の中はまだ怒りで煮え立っているが

 

「勇者とはね、只の称号や言葉じゃないんだ。勇者とは魔王と並び立つもの。そういう意味があるんだ」

 

「……」

 

 不服な表情でアルヴの言葉を必死に理解しようとするフリード。その姿は見ようによっては不貞腐れている子供のような姿で、アルヴは自然と声を和らげさせた。 

 

「勇者が居るから魔王が居る。魔王がいるから勇者が居る。合わせ鏡のような存在なんだ」

 

「…では何か?その勇者やらとはアルヴ様と同じような強さだと?」

 

 声にはまだ不満の色が滲んでいた。それはそうだろう、魔王アルヴヘイトと同じ強さの者が存在するなんてそれこそ考えられない事だったのだ。

 

「さてね。私は直で見たことがある訳じゃない、だからあくまで予想だよ。それでも勇者として呼び出された者なんだ、何か特別な意味を持ってこの世界に呼び出された存在である事には変わりはないんんだ」

 

 教え子に諭す教師のような声音。しかしそれだけではフリードの不満とぎらつく様な炎を消す事には至らない

 

「…私では敵わないと」

 

「力の優劣じゃない。君を失いたくない、ただそれだけなんだ」

 

「…勝負にはならないと」

 

「君の使命は何だい?勇者に勝つことかな?」

 

「……魔人族の勝利です」

 

 そう、魔王から言われたようにフリードの使命は魔人族の勝利であり、戦争の終結。自国に暮らす民が平和に生きていられる様にするのがフリードの使命であり責任なのだ。

 

「なら、勇者とは会わない事だ。()()()()()()()()

 

 フリードの意思を知ってから知らずか魔王アルヴヘイトはそう断言した。断言してしまったのだ。

 

「返事はどうしたんだい?」

 

「分かり、ました」

 

 不服を大いに含ませ不満の表情は晴れることなくフリードは頷いた。その事にアルヴは納得した様に頷いた。

 

「うん、それじゃ頼んだよフリード。この決戦、この戦いこそが魔人族の行く末を決めるのだから」

 

 そう言ってフリードの肩をポンポンと叩くとアルヴヘイトは踵を返していってしまった。例え重大な決戦と言えども軍の事はフリードのすべて任せているのだ。口出しはもうしないだろう。

 

(私が…劣る、だと)

 

 残されたフリードは俯いた視線の先で自分の手を見ていた。魔人族の平和のため敬愛する魔王の為、磨き上げた物をどこぞの勇者に否定された、そんな気がしてフリードは内に燻るモノを感じていた、

 

「そんなはずは無い。私が、劣るなぞ、あり得ない」

 

 神代魔法を手に入れる為にフリードは何度も命の危機を乗り越えてきた、平和のためにだと自分の身体に鞭を打ってそして手にれた神代魔法。そのおかげで魔人族は絶大な戦力を手にれたのだ。

 

 その努力を否定されて納得できるほどフリードは完成された大人では無かった。諦めと言われて素直に辞退するほど聞き分けが良い性格では無かった。

 

 フリードは若かった。若くして魔人族最高司令官の立場を手に入れた、しかし若かったからこそ負けん気もまた強かったのだ  

 

「アルヴ様、申し訳ありません。私は」

 

 その後に続く言葉を出すことは無く、フリードはその場を後にした。やる事はまだある軍の編成や準備など。そして何より己が最高の相棒である白竜ウラノスへ私事に巻き込むことに対する謝罪を

 

 

 

 

 その目にはギラつく様な闘志が燃えていたのだった。

 

 

 

 

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