カトレアさんの脱走を手引きしてから数日後。南雲と俺の計画がほぼ完成した日の事だった。遠出に出ていた連中が返ってくるという報告を受けたのだ。
一応みんなで出迎える為に応接間で待っていたら、元気よく扉が開かれた。
「おーい帰ったぞー」
その一言で応接間に入って来た者達を見る。その顔は懐かしクラスメイト園部や相川たちの姿だった。
「あ、相川と園部とその他」
「何だよ、その他大勢って言い方」
「まぁまぁ」
苦笑はしているが、皆結構元気そうだった。、この分だと心配していた襲撃や貞操の危険は杞憂だったみたいだ。女子連中は早速集まって華やかに何事かを話している。
こっちはこっちで男子連中が集まりワイワイとしている。
「無事でよかったよ。って先生はどうしたんだ?」
「先生は調査報告とかなんだとかだってさ」
聞けば先生は騎士団やほかの方面に報告をしに行ったらしい。まぁ何だかんだで一応責任者だしね。仕方ないね
「んで、お土産の方は?」
とまぁ先生の方は置いといて、割と楽しみにしていたお土産がある。催促するようにチラチラと見れば相川にドヤ顔をされた。
「へっへっへ~良いもん持って帰ってきたぜ!じゃん!これだ!」
そういって相川が取り出してきたのは袋に入った白い粒粒。あれ?これって…もしかして
「コレ?米か?」
「そうだ、このトータスにも米があったんだよ!」
「ウルって所でカレーがあってさ。折角だから貰ってきたんだ」
話を聞くと田んぼがある肥沃地帯があるのだとか。そこでは米料理が広まっており、相川たちが泊まった高級ホテルではカレーが人気料理だったらしい。
(……言えねぇ…南雲が作ってくれるから、あんまり感激が無いって言えねぇ)
南雲の異能『無上厨師』のお陰で米なんて食い放題なのだ。他のクラスメイトには秘密にしているので他の奴らからは喜ばれているが…あ、南雲が遠い目をした
「ってお前ら高級ホテル止まったのかよ!?」
「へっへ~いやぁ神の使徒、豊穣の女神様様だったぜ!」
「しんっじられねぇ…星三つのレストランで飯食って高級ホテルとかあり得ねぇ」
騒ぐ男子共の話を聞けば何でも愛子先生は農耕の技能を使いまくって土地を耕し続けていたその活躍から何とも恥ずかしい二つ名を付けられてしまったらしい。
まぁ土地が豊かになるってマジで称えられてもおかしくないから仕方ないね。
とまぁそんな感じでクラスの皆でワイワイ騒いでいた時だった。
「いたぞ!この裏切者!」
「魔人族の内通者め」
「我らが神に仇名すとはこの恥知らずが!」
「な、何なんですか貴方達は!?」
いきなり武装した神殿騎士がやって来たのだ。突然の事に狼狽えるクラスメイト達を尻目に神殿騎士たちはぞろぞろと殺気立った目で俺の周りを取り囲んで…ふぅむ、こりゃばれたな。
「へーほーこりゃ大勢でおいでなさって。どうしたんです?そんな血相を抱えて」
「しらばっくれるなこの薄情者が!貴様何をしでかしたのか分かっているのか!?」
大柄の偉そうな神殿騎士が唾を吐き散らし目を開き切ってこちらをば罵倒してくる。まぁ気持ちは分からんでもない、こいつらに言わせればとんでもない事を俺はしているのだから。
「か、柏木、この人たちはいったいどうしたっていうんだ?!」
「まぁまぁちょっと離れていろ天之河。皆も少し落ち着いて」
天之河達はいきなり殺気立つ神殿騎士に驚いているようで騒然としている。対する俺は予想より遅かったなと苦笑ぎみだ。
「おや、随分と落ち着いておられますな」
そんな俺の前に現れたのはやはりというか教皇イシュタルだった。取り囲んでいた神殿騎士の一部がさっと場所を開けたところから見るとコイツが指示をしたと見れるが…さて、どうすっかな。
「そう見えます?これでも結構ドキドキしているんですよ」
「ほぅ」
「んで、教皇さん?この物騒な人たちは一体何のつもりで俺を取り囲んでいるんですかねぇ」
「無論それは貴方が大罪を起こしたからですよ」
ザワリと周り騒がしくなる。クラスの何人から「一体何をしたんだ」とか「冤罪じゃね?」とか「遂にやりやがったか」とか聞こえるが…これを俺は無視する。
いやほんとやったことは間違いないから。
「イシュタルさん、待ってください柏木は一体何をしたって言うんですか!?」
「勇者殿、この者はあろう事か捕まえた魔人族を逃がしてしまったのです」
「「はぁ!?」」
騒然とした場がさらに騒がしくなる。天之河なんて理解が追いつかないのか何度も口をパクパクさせている。ちょっと面白い
「あの魔人族からは我らが知らぬ魔王の事や魔人族の戦力、聞けることがたくさんあったというのに。なぜ貴重な情報源を逃がしてしまったのですかな調合師殿?」
「ん~まぁ理由はいろいろとあるけどどう言った物やら~」
全部を話す気はないがはてさて何を言えば良いのやら。っとここで混乱から回復した天之河が俺に詰め寄ってきた。
「待ってくださいイシュタルさん、少し柏木と話をさせてください!柏木、お前カトレアさんを逃がしたのか!?」
「おう、やっちまったぜ」
「どうしてそんな事を勝手にやってしまったんだ!?理由は?一体どうして勝手な事を」
「そりゃ魔人族つっても一人の女の人だぜ?それが軟禁させているとはいえいつまでも敵国に居させるのはマズいだろ」
肩をすくめやれやれと首を振る。俺の態度に天之河は表情を何度も変化させる、きっと頭の中では俺がやったことの重大さと迂闊さとカトレア自身への情とかが混ざり合っているんだろう。いやほんとごめんな!
「それは…そうかもしれなくても君が1人で決めることじゃない、何か物事を犯す前にせめて俺に相談してくれてもよかったじゃないか」
(……ふふ)
その言葉にふと笑みがこぼれる。前だったら勝手に逃がすなんて悪い事だとか何とか言う筈だったが相談して欲しかったなんて言葉が言えるようになったのは、間違いなく天之河の中で一皮むけたものがあったんだろう。良きかな良きかな
「それについては正直すまんかった。でもな。やっぱあの人を見てると思っちまうんだわ。敵だとか戦争だとか言ってるけどあの人達も只の人間だって事をな」
「…それはそうだ。あの人達は俺達と何も変わらない」
散々戦争だとか何とかいわれていたが蓋を開けてみれば何とも下らない話ではないか。どうして人間同士が争わなければいけないのか、魔人族は魔物でも動物でもないってのに
きっと天之河も同じこと思ってる。敵対する種族なんてどこにも無く、だからこそどうやって戦争を終わらせればいいのか考えているはずだ。
「ふむ、貴方方にとってはそう見えるのでしょうが私達からしてみれば因縁の仇敵に違いはありません。そしてその仇敵を逃がしてしまった罪は余りにも重い」
「……」
確かにそうだろうな。魔人族の対しての情報源は何より貴重だし俺がしたことはいわばこの国を危険にさらしたことも同然なのだから。普通に考えれば逃げた魔人族がどういう行動をするのか分かるよねって言う。
「んで、俺をどうするっていうんだ?処刑か?だったら割と反抗はするけど」
「流石に神の使徒を我らの手で処刑することは出来ませんよ。せいぜいが軟禁し詳しい事を聞かせていただくだけです」
「そっか。事情聴取って奴か」
そう言って有無を言わさず俺の周りに集まってきた神殿騎士は変な輪っかみたいなのを俺を拘束するように嵌めていく。(後で南雲から聞いたが魔力封じの拘束具らしい)
「おや、抵抗しないのですかな」
「やった事がとんでもない事っていう自覚があるのでね。流石にこればっかりはしょうがない」
イシュタルのやや驚いたような声に苦笑する。抵抗しても意味が無いし、何より無駄でしかないのだ。
「それでどこに連れていかれるってんだ?これでも結構仕事とかがあるんだけど」
「神山に連れて行きます。あそこではエヒト様に近い場所ですからね。そこで事の詳細を聞いた方がいいでしょう」
何やら事情聴取みたいな言い方だが結局は監禁するつもりだろう。もしくは拷問か悪ければ処刑かな?
「OKわかった、つーわけで皆少しの間ちょいと席をはずしてくるぜ」
俺のあっけらかんとした態度にクラスメイト達に動揺が広がるが…その中で一人声を上げる者がいた。
「その連行待った」
「南雲?」
「ほぅ…」
案の定というかやっぱりというか声を出したのは南雲だった、結構イラついているのか表情は何時も通りなのに醸し出すオーラが結構な圧を放っている。近くにいた相川なんてヒエッ!って情けない声を出してしまっているよ
「柏木君、何で阿保面晒して大人しく連れていかれようとするわけ?頭正気?」
「もう手遅れだよ。…冗談だからそんな怖い顔すんな、別にとって喰われるわけじゃないから」
冗談をかましたらものすっごい顔をしてきた。まったく冗談も通じないんだから~
「これは錬成師殿、何も我らは彼に危害を加えようとしているのではございませんぞ、ただ彼の仕出かしたことはこの国では前代未聞な事なのです。魔人族がどこへ行ったのか…いいえ魔人族に関するすべてを彼から話してもらわないといけません」
「……」
「魔人族があの迷宮に居たという事実を考えれば。今この国が危機に瀕していることはお分かりでしょう。我らにとっては死活問題なのです」
流石は教皇。言ってる事が正論過ぎて南雲が何も言えない。しっかし考えれば考えるほど割とピンチだよなこの国。カトレアさんがオルクス迷宮にいた事実というのを考えれば考えるほど本当に猶予が無いのだから
「…わかった。だけど僕も連れていけ、錬成師1人増えたところでアンタらには問題は無いだろ」
「おい南雲、お前こそ何を言って」
「今更僕を除け者にする気?召喚されてからずっと一緒だったんだ。今回も一緒、それだけの話だよ」
南雲はここにいて有事の際に備えて欲しかったんだが…こうなると決して自分の意見を曲げる気はないだろう。説得は無理だ
「ふむ、まぁ我々としては構いません。それではお二人とも同行をお願いいたしますかな」
イシュタルがそう言えば神殿騎士共は南雲にも同じように輪っかをつけ拘束していく。ステータスの低い後方支援組、どうにもでもなるというそんな顔だ
「「………」」
相川たちが帰ってきたと思えばクラスメイトが敵を逃がしてそして連行されるといういきなりの展開。突然の事過ぎて皆が唖然として行動できない、そんな時だった。
「……柏木、南雲」
正論過ぎるイシュタルに何も言えず悔しそうにする天之河の顔が目に入った。
(……ふぅむ)
正直な話俺と南雲はたとえ拘束されてもなに一つも問題は無いのだ、だが天之河からしてみればクラスメイトが馬鹿な事をしたとは言え連行されていくのを見ると辛いものがあるか。…本当に精神的に成長したなぁ、前だったらイシュタルと同じように批判していたのかな?
「なぁ天之河」
「な、なんだ」
「一応さっさと戻ってくるつもりだけど…もし何かやばい事が起きたら俺を尋ねに来てくれ」
俺と南雲で作り上げた最終防衛システムはほぼ完成している、とは言えあの装置は俺と南雲が居なければ発動しない。カトレアさんが言ってたが何時攻めてきてもおかしくない状況を考えればもしもの時を考えて布石を張っておくのが常套か
「例えばそうだな、国の危機が迫った時なんかは特に」
「!」
ひっそりと呟けばびくりと肩を花ね上がる天之河。薄々と魔人族との対応を考えてたのだろうか難しい顔になってしまった。そう言えばこの頃アイツの笑顔を見ていない、年頃だとは言え大丈夫か?
「冗談だよ。でもまぁそれぐらい対処できない時があったら…な?」
「…分かった」
幾分か歯痒そうにしながらも天之河は頷いた。良し、これで本当にもしもの時があっても大丈夫だろう、天之河は判断を間違えない奴だから。
「南雲君」
「白崎さん、僕がいない間皆の事を頼んだ」
「任せて」
所で隣の南雲君は白崎となんかいきなり所帯じみたやり取りをしているけどお前らなんかあったの?
「それではよろしいですかな?」
「ア、ハイ」
イシュタルに促され、俺達は神殿騎士に連行されていく。これからどうなるのだろうという不安は微塵もない、俺達はオーヴァード。人の形をした化け物なのだから
俺達が最初に見た魔法の代物であるエレベーターに乗り懐かしき神山へと行く。時刻は夕方、さて何が起きるやら
「さて、それではみなさん、その不届きモノを牢屋にぶち込んでおきなさい」
「はっ!!」
と思ったつかの間、いきなり乱暴気に神殿騎士に捕まれ引きずられる。うーんこの
「おいおい、もう本性露わしやがったのかよ」
「本性?それは貴様の方であろう!魔人族を招き入れたエヒト様の反逆者め!」
言葉と同時にいきなり頬を殴られる。衝撃で吹き飛ばされ視界が揺れ、続いてきたのは頬への痛み。糞痛ぇなオイ!
「なにが『アイツ等は人だ』だ!あのような下賤なウジ虫どもを我らと同じ扱いするとは貴様の目は腐りきっている!」
頬から感じた痛みは直ぐにソラリス能力で遮断した。俺は大変な痛がりなのでこのまま痛い目に合うと何をしでかしてしまうか分からない。代わりにするのは殴ってきた相手を確認するだけ
「お前は…誰だっけ?」
「貴様!この神殿騎士団長デビットを忘れたのかぁ!」
んなこと言われてもお前のこと知らねーもんは知らねーんだもん。激昂して顔を真っ赤にするデビットはそれでもまだ腹に来るものがあるのか俺に詰め寄ってくる。やだなぁ少し防衛でもするか?でもそれだとイシュタルに見つかるだろうし…
「デビットそこまでにして置きなさい」
「教皇様!?いやしかし、この反逆者はまだ我々に反抗的な態度を」
「エヒト様からの神託を下された今、そのような者は放って置きなさい」
(待て、今なんつった?神託だって?)
イシュタルがデビットと揉め始めたでホッとしたのもつかの間、何やら不穏な言葉が出てきた。神託って事はエヒトが直接イシュタルに何か話したって事で…思わぬビッグな名前に流石に俺も冷や汗が出てくる。
「エヒト様の選別の前に些事に捕らわれてはなりませんよ」
「も、申し訳ありません!」
「さぁエヒト様から神罰を受ける前にこの者らを投獄するのです」
「ははっ!」
かしこまった神殿騎士はそう言うと荒々しく俺達を掴みそのまま神殿内へ。さてはてどう動くべきか…尤も答えは決まっているけどね。