ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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闇影 化け物s

 

 

 

「ったく、あの馬鹿ども人の手煩わせやがって」

 

 一人愚痴を吐きながらも見えてきた神殿を見据える清水。光輝からハジメと柏木の救出を頼まれた清水は急ぎこの場所へとやってきたのだ。

 

 召喚された日に初めて触れた魔法陣はもう自分の手で起動できるようになっていた。その事に感慨深くなりながらも、状況が状況なので素直に喜べなかった。

 

「で、アイツら何処にいるんだ?」

 

 移動してきた魔法陣から飛び降り、救出対象がどこにいるのかを一人呟く。勢いに乗ってやってきたは良いのだが殆どがノープランだったのだ。

 

「まぁいいや、しらみつぶしに探せばいいだろ」

 

 客人扱いかそれとも罪人扱いか。事情聴取だとか何とかいってたがおそらく後者だろう。しかしそもそも牢屋なんて場所を清水が知る訳ないのだ。結局はしらみつぶし、そう思い神殿の中へ入るのだった。

 

 

(やれやれ、まさかまたここに来るとはな)

 

 石造りの廊下を一人歩きながら溜息を吐く。懐かしさを感じながらも召喚されてきた時と同じ通路を歩くことになるとは思いもしなかった。

 

 召喚されたときはある意味気楽だった。憧れていたファンタジー世界、剣と魔法と魔物の分かりやす過ぎる世界観。自分一人だけだったら心細かったが皆や何より友人二人が居る以上心配することなぞ無かったのだ。

 

(それがまぁ戦争の道具扱いされるわ、二人とも死にかけるわ、碌でもねぇ場所だったな)

 

 しかし蓋を開ければ割と幻滅するのが正直な話だった。訳の分からない戦争に巻き込まれそうになり訓練と称された迷宮では親友二人が死にかける。

 

 チートを持ったからと言って死ななくなった訳では無い。そんな当たり前な常識に冷や水をぶっかけられ目が覚めたら、日本へとさっさと帰りたくなったのだ。  

 

(やっぱ()()()()()()()()()()()()()()()()()のが一番だったってオチか。……まぁーべっつにーヒロインやチート能力がどうしても欲しかったわけじゃねぇしなー)

 

 勿論あれば良いに越したことはない、自分に好意を抱く美少女や最強無敵のチート能力。欲しいと言えば是となる。

 

 しかし、それだけでは正直な話()()()()()のだ。面白くないのだ。

 

(強くてニューゲームなぞ不要。配られたカードで頭を捻るのがゲーマーって奴だろ?)

 

 期待して買ったゲームが最初からお膳立てされていた(する意味が無くなっていた)、それに一体何の魅力があるんだろうか。見せかけの与えられた強さにどんな魅力があるというのだろうか。そんなお膳立てされた物に清水は惹かれ無い

 

「俺には、アイツ等が居るだけで…それで満足」

 

 可愛い女の子や最強チートより一緒に馬鹿をやれる友達の方が大切。清水にとって優先するのはそんなシンプルな事だったのだ。

 

 

「儀式の間か…」

 

 廊下をさまよい見つけたのは召喚された場所であり、ある意味本丸とでもいうべき場所だった。最初に見た時は神官が大勢おり異様な雰囲気だったが今は伽藍洞な静謐さを醸し出す場所になっていた。

 

(まさかこんな所にいる筈が……!?)

 

 神殿の思わぬ静謐さに懐かしさを感じていると奥の方で足音が聞こえてきたのだ。杖を構え油断なく警戒すれば、人影が何やらうわごとを呟きながらフラフラと歩いてきた。

 

「…用済みだなんて……違う…エヒト様は…何故……私たちは何のために…」

 

 やってきたのは豪勢なローブを纏い長いひげを蓄えた老人。この世界で最初に自分たちに話しかけてきた、ある意味最初の始まりの男

 

「教皇イシュタル?」

 

「…りえない……我らを見捨てるなど……」

 

(何だ?何か様子がおかしい)

 

 清水の前に現れたイシュタルは普段とは様子が違っていた。始まりのこの場所で見たイシュタルは背筋を伸ばし堂々とした態度で明朗に話す食えない老練さのある老人だった。

 

「……あの者達を優先?……そんな筈ない…ずっとずっと信仰してきた我らを置いて……」

 

 それがどうだ、今清水の前にいるイシュタルは背を曲げ焦点のあっていない目でどこかを見、うわ言を呟き彷徨う只々弱弱しい老人だった。

 

(オイオイ 遂にボケちまったのか?)

 

 ある意味此処にいて当然の人物が想像とは違った様子に清水としても対応に困ってしまう。

 

「おい、イシュタル、お前あの馬鹿2人をどこにっ!?」

 

 しかしそれでも優先目標である親友二人の居場所を聞こうとしたその時だった。突如として光の槍がイシュタルから放たれたのだ。

 

「っと!」

 

 直感と本能に従うまま横に転がったことで何とか回避できた清水。自分が元いた場所は光の槍が突き刺さり破壊された跡が残っておりもし回避できなかったらを想像し冷や汗が出てきてしまう。

 

「ず、随分と荒い歓迎の仕方だな」

 

 冷や汗を拭う事もせず皮肉げに笑い杖を構えた。何故攻撃したのかはわからないがイシュタルが攻撃してきた以上無傷でここを出る事は出来ないだろうなという諦観に似た感情もあった。

 

「何故だ…何故お前たちなのだ…どうして我らではないのだ!答えろぉお!」

 

 胡乱な目が清水を見た瞬間、狂気に染まった。目を見開き唾を吐き散らしながらイシュタルの後方に出てきたのは後光かと見間違うような光。魔法陣だった。

 

「くそっ!一体何の話だってんだ!?」

 

 放たれたのは光の弾丸。光魔法の初級であるはずの『光球』は弱い威力の魔法ではあるが今現在清水を襲っているのはまるで機関銃の様に放たれている無数の弾丸だったのだ。

 

「貴様たちさえいなければ!貴様たちさえ現れなければ!我らは、私は!エヒト様の寵愛を受けれるはずだったのに!」

 

「うっせぇわボケ!歳くったからってキメェ妄想垂れ流すなや!」

 

 イシュタルの妄言に暴言を吐きながらも対峙する清水。ここで退く選択肢は合った、しかし親友二人がこの神殿のどこかにいる以上 去る訳にもいかず、かといってこのままイシュタルを放っておけば何を仕出かすか分からない。

 

 つまりここでイシュタルと戦わなければいけなくなったのだ。

 

(マズいな…技量とか才能っていう以前に何でアイツ詠唱無しで撃てるんだ?)

 

 イシュタルの放つ魔法が教皇らしく光魔法を使うのは良いとしても、先ほどから詠唱をしていない。おかげで清水は防戦一方になってしまった。

 

「そうだ!そうだそうだ!アレは神などではない!エヒト様が我らを見捨てる筈がないのだ!エヒト様!何処に居られますかエヒト様ぁ!」

 

 唾を吐き散らし目が完全に狂気に染まっているイシュタル。長年鍛錬をしてきたのかそれとも信仰のなせる業か教皇の名に違わず豊富な魔力を使い清水を攻撃する。

 

「ああもぅ! こっちは割と普通の闇術師なんだぞ!?」

 

 一応清水だって鍛錬はしているのでトータスの一般的な術師と比べればはるかに上だろう。しかし狂乱しているイシュタルとでは相手が悪かったのだ。どういった理屈かイシュタルは詠唱無しで矢継ぎ早に魔法を撃つのに対して清水は詠唱が必要だった。

 

 詠唱を唱えるか唱えないか、たったその一つの動作で戦局はイシュタルが大いに有利になってしまったのだ。

 

「早くどうにかしなっ!?がはっ!」

 

「捕まえたぞ…異端の信徒めがぁ!」

 

 故に魔法を放ちながら徐々に接近してきたイシュタルによって簡単に清水は拘束をされてしまった。一体どこにそんな力があるのか両手で首を締め上げられ宙づりにされる。

 

()()は何だ!言え!我らがエヒト様の真似をするアレは何なんだ!答えろ異端者ァ!」

 

「知らねぇよ…さっきから何宣ってんだ、このクソ老害は…」

 

 狂気に染まったイシュタルに反抗するも気道をふさがれているので力が出せない、唯一の武器である魔法も詠唱が不可能、ほぼ詰んでいる状態だった。

 

「爺……さっさとその汚ねぇ面をどかせよ…吐く息が臭くてしょうがねぇんだ」

 

 それでも清水は屈さなかった。無理矢理皮肉気に笑い悪態をつく。相性が悪い、実力と年季の差、様々な差があったがそれでも屈さなかった

 

「あの方が居ないのならばっ!この私が意思を継ぐまでだっ!このイシュタル・ランゴバルトがエヒト様のためにぃぃいい!」

 

 視界が赤黒く染まる中。イシュタルの咆哮が轟く。 

 

(ああ、くそ…やっぱりこいつに勝てのは…無理なのか)

 

 清水はイシュタルに勝てない。それは紛れもない事実だった。闇が光には勝てない様に清水はイシュタルには勝てない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきからうっせぇだよ。この阿保」

 

「な!?貴様どごぼっ!?」

 

 ただしそれは清水一人の場合の話だ。いきなりの背後からの声に突如現れた気配。反撃をする間もなくあえなく後ろからの強襲により意識を失ってしまったイシュタル。

 

「げほっげっほ!」

 

 イシュタルの手から解放されえづきながらもなんとか空気を吸う清水。赤黒かった視界が戻っていく中、しきりに喉を抑える。なんとしてでも今は酸素が欲しかったのだ。

 

 そんな清水を呆れとも瀬々笑うとも取れない溜息が響く。

 

「ったく。清水、お前この爺より弱いだなんて情けないぞ」

 

「うっせえーよ。うげぇっ!……はぁ、来るの遅すぎじゃないか遠藤?」

 

 イシュタルを強襲した人物は遠藤浩介だった。実は光輝に集合を駆けられたときに清水と一緒にハジメ達を救出するように頼まれていたのだ。

 

 清水は遠藤が居る事を気が付いていたものの、姿を現さなかったので別行動をしていると踏んでいたのだ。だからこそイシュタルに力負けをし、

イシュタルを不意打ちで黙らせることが出来たのだが。

 

「アイツらを探していたからな。まぁここに来たこと自体無駄に終わったけど」

 

 そう言って呆れたように遠藤は肩をすくめる。元々こういった性格なのかどうかは知らないが、永山たちといた時とくらべ随分と冷ややかな顔をしている。ある意味これもまた遠藤浩介の一つの顔なのかもしれない。もっとも清水にとっても同じような物なので気にすることでもないが。

 

「あ?どういうことだ」

 

 それよりも気になるのは親友二人の行方だ。先ほどの話しぶりだともうここにはいないみたいな言い方だったが…清水の言葉を肯定するかのようにまた溜息を吐く遠藤

 

「お前の考えている通りだ。ほら、俺こうやって存在感失くせるからそれで片っ端等から探していたんだけど」

 

 そういって遠藤は体の半分ほどを透明化させる。動かなければ背景と同化するほどの透明感とオマケに存在の希薄さ。つくづく建物の侵入に便利な力だと清水は思う。

 

「それで影の薄い遠藤君は俺が襲われている間何をしていたと」

 

「そう腐るなよ。んで牢屋を見つけたんだが…」

 

「だから何だよ」

 

「鉄格子が腐ってたし、砂が散らばっていた。オマケに道中に神殿騎士らしき連中が壁にめり込んでいた」

 

「あー」

 

 十中八九あの馬鹿2人だろうと清水は察した。近頃こそこそしていたがどうやら護衛という物が意味をなさないほどおかしくなっていたらしい。これには呆れるばかりしかない

 

 

「んで、廊下の壁に大穴が開いていたからそこから逃げて行ったみたいだ」

 

「入れ違いかよ!? ……はぁーアイツ等本当に…はぁ」

 

 結局助けに来た意味ないじゃんともまぁやりかねないよなという納得も。混じり合って出てくるのはやっぱり深い溜息。

 

 

(でもまぁ無事ならそれで…良いか)

 

 死にかけてた意味が無かったとか、イシュタルを置いてさっさと逃げればよかったとか。色々と思う事があるが結局は友人二人が無事でよかったのだ。

 

「…じゃあ帰るか」

 

「イシュタルは如何すんだ?」

 

「適当に縛って放っておけばいいだろ。つかもう2度と関わり合いになりたくない」

 

 白目をむき気絶しているイシュタルに溜息を吐く。放っておくには危険すぎるがだからと言って関わり合いになるにはうんざりだ。

 

 そこら辺にあったロープでイシュタルを雁字搦めにし、動けないように拘束しておくと清水と遠藤は肩を竦ませながら帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…暇」

 

 神殿騎士たちに捕まり、神山に連れていかれ、牢屋にぶち込まれてから早数時間。座禅やら筋トレやらをしていた俺は遂に暇を持て余していた。

 

 最初は見張りのような騎士たちが居たが、数十分もしたらそのまま俺を置き去りにしてどこかへ行ってしまったのだ。

 

「せめて見張りは交代制にしておけとあれだけ…あ、もしかして俺舐められている?」

 

 首には魔力を封じる枷みたいなのを付けられ扱いは罪人その物。寧ろ生贄だろうか?まぁそれはどうでもいのだホント。

 

(まぁ流石に反省しないと駄目だよなー)

 

 考える事はカトレアを脱走させてしまった事とカトレアの脱走で起きてしまうこれから俺が引き起こす罪状について。正直な話顔も知らぬ人たちが俺の薬の餌食になるのだと思うと心が罪悪感でいっぱいになるのだ。

 

 何処からどう考えても大罪モンである、だから反省も含めてこうやって牢屋で大人しくしていたのだ。

 

「結局、人の身に余る力を使う者は力におぼれるのかねぇ?」

 

 力を持ったから有効活用しているわけだが、言い方を変えれば力におぼれているだけでもある。こうやって自分の事を客観的に見れる分はまだマシなのだろうが、どうにも言い訳の様にも感じてくる。

 

「はぁー んでも戦争になるのだけは勘弁だしなぁ」

 

 で、考えても戦争が嫌だからという判断になり…結果自分は間違っていなかったのでは?とも考えてしまう。

 

 これは、堂々巡りですな!

 

「まぁ結局はなる様にしかならない…かな?」

 

「その出たとこ勝負の所悪いんだけど、お邪魔するよ」

 

 でっかい独り言をつぶやいていたら、何とも緊張感の無い声が聞こえてくる。まぁ案の定鉄格子から見えた人物は南雲ハジメその人他だった。

 

 南雲は俺と同じように別の牢屋に入れられていると思ったが…本人はケロッとしているところを見るとなんとことなかったらしい。まぁ魔力が封じられても俺と同じオーヴァードだもんね。

 

「もう脱獄か?」

 

「ちょっと緊急事態が起きてね」

 

 肩をすくめやれやれと。実に面倒そうなその表情から割と厄介な事が起きていると把握した。

 

「なにがあったんだ?遂に俺達がエヒトの生贄にでもされるのか?」

 

「違うよ、王都に魔人族が攻めてきた」

 

「……はぁ!?ちょ…何それ!?」

 

「今皆が戦って町の人達を助けようとしている。僕達もさっさと行かないと」

 

 どうやら俺がここでグダグダしている間に町の方で大変な事が起きてしまっているようだ。

 

 南雲が何故この遠く離れた神山に居る中でなぜ町の様子が分かったのか…と考えたが南雲もまた俺と同じようにオーヴァード。モルフェウスの力をもってすれば簡単なことかもしれない。

 

「出られる?僕の力で解放してあげようか?」

 

「いらん。つか下がっていろ」

 

 牢屋の鉄格子を触り、『腐食の指先』を使って鉄格子をドロドロに溶かす。魔力封じの枷をされようがオーヴァードの力は封じられないのだ。俺たちの能力を封印させたいのならアンチレネゲイド品でも作ってこい!

 

「何ともまぁ規格外の力で」

 

「それをお前が言うのか?兎も角さっさとここから出て拠点に行くぞ」

 

 何はともあれ脱出だ。まずはこの神山から出て拠点に行く。あそこには万が一王都が攻められたときの事を考えての最低最悪最終防衛システムが眠っているのだ。

 

「まさかこんなに早く使う機会が出てくるなんて思わなかったよ」

 

「全くだ。使わなければいいって考えていたのにぜーんぶパァ!だ」

 

 南雲が作った最終防衛システムはあくまでも王都に危機が迫った時の切り札。まさかすぐさま王都まで攻められることは無いだろうと作ったものがすぐに使う羽目になるなんて…これもまぁ運命か。

 

「一応確認するけど、あの薬品の効能は一任するからね」

 

「責任重大だな俺!」

 

「そりゃ柏木君の力がこの茶番戦争を止めるための鍵となるんだし?責任は重要にもなるよ」

 

 簡単に言ってくれるが覚悟の事とは言え一歩間違えば俺達はこの世界の人達から永久に恨まれることなる。つかやっぱり俺が何とかしないといけないのだろうか?

 

「天之河辺りに頑張ってもらおうってのは…」

 

「へぇ手を汚さずにいようっての?別にいいけど、相手は果たして天之河の話を聞いてくれるのかな?」 

 

 そうだ結局はそれだ。何せ魔人族からすればあと一歩で魔人族が勝つのだ。そんな時に第三者の話なんて聞くだろうか。まぁ聞く訳ないよな常識的に考えて。

 

 そんな雑談をしながら牢屋を抜け、廊下を通るとそこには先客が居た。豪華絢爛な鎧を着こんだ中年のおっさんたち。

 

「貴様ら、まさか逃げ出そうというのか!」

 

 剣を抜き明らかに殺気を放つのは…ああ誰だったか。どうでもいいモブの顔なんていちいち覚えられないんだ。兎も角剣を抜いてくる以上流血沙汰は避けられないと思ったが隣の化け物はそれ以上に酷薄だった。

 

「邪魔」

 

 隣にいた南雲のその一言。それだけで大半の決着がついてしまった。

 

「な、なんだこれは!」

 

 騎士たちに襲い掛かるのは壁から生み出された砂粒。纏わりつくような砂塵は一瞬にして壁へと騎士たちを引きずり込み、蠢く騎士たちを無慈悲に壁と同化させる。

 

「う、うごけん!」

「ぬぅぅ!出せ!さっさと出さんと叩っ切るぞ!」

 

 戦闘が起こるかと思ったがそれ以前の話だったのだ。始まる前から終わった戦闘の後に残ったのは壁にめり込んでじたばたとする神殿騎士たち

 

「ヒュウ♪やるじゃん」

 

「一々相手していられないよ」

 

 褒めればやれやれと肩をすくめる南雲。やっぱりこれがオーヴァードという者だろうか。戦闘用ですらない南雲でこれだ、中野はいったいどれほどの腕前なのか、想像するだけでぞっとする。

 

「んじゃ、俺は駄目だしにっと」

 

「貴様ら我らにこのような事をして只ではぁ~……zzz」

 

 ダメ出しとして騒いでいる騎士たちを相手に息を吹きかける。使うのはソラリス能力『眠りの粉』相手を眠らせるという単純で極めて分かりやすくしかし強力な力だ。

 

 先ほどまで騒いでいた騎士たちは今はもう安らかに眠る赤子の様。

 

「…人は生まれてきた時は無垢な赤子なのにどうしてこうなってしまうのでしょうか」

 

「それ、一体何のパクリ?」

 

 哀感を込めて言った言葉に南雲がジト目で冷ややかに返す。悲しいなぁ俺は真心を込めて言ったのに。

 

「環境によるんじゃない?後本人の資質。どうでもいいけどアホなこと言ってるとこのままじゃ皆やられちゃうよ」

 

「おわっとそうだった!」

 

 くだらない雑談をしている場合じゃなかった。さっさと拠点に戻らないといけなかったのだ。

 

「早く戻らないと、ああでも出口ってどこだ?南雲知ってる?」

 

「知らない。連れてこられたときもっと周りを見ておけばよかったね」

 

 神殿の牢屋付近ということもあってか、割と複雑なのだ。今から騎士たちを叩き起こして『抗いがたき言葉』で命令を下すのも『止まらずの舌』で自白させるもの時間が掛かりそう。

 

「うーん。それじゃちょっと裏技を使う?」

 

 そんな悩んでいる俺に茶目っ気たっぷりに壁を親指で刺す南雲。今日初めて見た滅茶苦茶いたずら小僧のような笑み。何となく嫌な予感がする物の時間が無いのは事実なので頷く。

 

「それじゃ、まずは壁に穴をあけてっと」

 

「うわでた!?掟破りのショートカット(MAP破壊)!」

 

 南雲が壁に手を突けばそこはさらさらと砂になり崩れ落ちていく。階段とか通路とか無視した斬新でもないけど思いつくにはかなり捻くれていないと出来ねーやつ。

 

「それで後はそのまま一直線!」

 

「お前ホント何でもできんのな」

 

 呆れながらも一直線に進む南雲について行く。丸い縁の穴を進んでいるので気分はまるで泥棒気分。南雲や俺が居れば完全犯罪は目の前か?あーあオーヴァードってマジでヤバイ

 

「という事で、後はここから飛び降りれば王都は目と鼻の先だよ」

 

「ほぼ崖じゃねぇか!?あほかよお前!」

 

 そうしてたどり着いたのは神殿の端の端である壁の先。目の前には確かに遠くても眼下に広がる王都がある。そこで火の手が上がっているのかちらほらとした明かりがついて居るのが分かるが…え?どうやって下っていけと?

 

「勿論そこは対策済み。って事で『モーフィングバイク』」

 

 そうやって一瞬で作り上げたのは大型の二輪バイク。重厚なフォルムとシックな色合いの黒が重なり合って実にカッコイイ!

 

「じゃなくて!え?バイクってお前まさか…」

 

「勿論そう言う事さ!さぁ乗って柏木君!一気に降りていくよ!」

 

 滅茶苦茶楽しそうにバイクにまたがり自分の後部座席をポンポンと叩く馬鹿。コイツは今、このほぼ崖にしか見えない神山をバイクで駆け下りていくと言ってるのだ!

 

「んなことできるかよ!死ぬぞ!?絶対に死ぬぞこれ!?って言うかお前免許持ってないじゃん!」

 

「いいじゃん。そりゃ車やヘリも作ろうと思えば作れるよ?でもそれじゃ面白くないし―」

 

「マジかよ作れんのかよ!?じゃなくてお前こんな状況でも面白い事優先なの!?」

 

「そうだよ。それに一応反論するけど、こんな場所じゃヘリは作り出せないしオマケに運転の仕方も分からない。車も同上。お分かり?」 

 

 まるで俺が反論するのを見越したみたいな言い方だった。そしてそれが正論っだてのもまたぐうの音が出ない。車なんて運転の仕方はゲーム基準だしヘリなんて尚更訳分からんだ。

 

「大丈夫。僕が運転するんだ、君が放り出されることなんてありえないよ」

 

 やたらと自信を持っていうので、これ以上の反論は無意味だと悟る。そもそも時間が無いのだし此処で南雲のバイクに乗らないと俺が拠点へとたどり着けない。

 

「うぅ~安全運転で頼むよ」

 

「任せて任せて」

 

 渋々と南雲の背なかに張り付くように後部座席へ。それを南雲が確認すると手早くロープを巻き付ける。…これが命綱ベルト替わりかぁ

 

「じゃあ行くよ!」

 

 思いっきりアクセルを吹かすと南雲は一気にバイクを崖へと躍らせる。感じるのは体の浮遊感と一瞬の解放感。そして一気に上へと流れる景色

 

「あぁぁあああ!!」

 

「さぁ待っててね皆!今すぐこの茶番劇を終わらせてあげるから!」

 

 絶叫を上げる俺を無視してイキイキと南雲は笑うのだった…

 

 

 

 

 

 

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