ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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接敵、開戦

 

「……」

 

 眼下に広がるは夜の暗闇に沈む王都。頭上には赤く燃える太陽のような火の玉があり、そのおかげで王都の全貌を見渡せれるようになっていた。

 光輝が知っている活気あふれる王都は今は人間族側と魔人族側の戦いで至る所で火の手が上がり怒声が聞こえてくる。

 

 そんな景色を勇者と呼ばれ、召喚された者達のリーダー天之河光輝は一人、王城のバルコニーで見ていたのだ。

 

「どこかにいる筈だ…これだけの規模の戦いなら必ず指揮官が居る筈なんだ!」

 

 光輝はクラスメイト達へ指示を出した後誰にも告げずこの場所へ来たのだ。王都を見渡せる場所、其処で光輝は魔人族の指揮官を探していたのだ。

 

 

(話し合う余地はないかもしれない…それでも俺は)

 

 指揮官を探す理由。それはこの戦いを話し合いで止めるつもりだった。勿論光輝はそれが到底実現できない夢だと理解はしている。しかしそれでも諦めることが出来なかったのだ。

 

 

 カトレアという魔人族、白昼夢のような夢。それらを経験してきた光輝には魔人族も自分達と何ら変わらない人間だと判断した。

 

 だからこそ話し合いがしたかった。戦いで勝敗を決めようとするのは止められないのかと、自分のような第三者が間に入れば止められのではないのかと

 

 

 その願いが通じたのかあるいは偶然だったのか、光輝の探す相手は直ぐに現れた。

 

 

「貴様が…勇者なのか?」

 

 白竜に乗り装飾の施された鎧を着た美丈夫が殺意を滲ませながら目の前に現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 フリードは内心、憤慨していた。何故敬愛する魔王は勇者との戦闘を避けるようにに言ったのか、何故自分では敵わないと言ったのか。

 

 魔人族の為なら命を捨てる覚悟はある、魔王の為ならどんなことだってする。その覚悟で今日ここまでやって来たのだ。

 

 なのに目の前にはとても弱そうな少年が一人。長年の直感で分かった、この少年こそが魔王アルブヘイトの話していた勇者なのだと

 

(こんな…こんな奴が勇者だというのか?)

 

 勇者は魔王と同格。そう言う話であったはずなのに目の前の少年にはとてもではないが特別な力があるとは思えないのだ。精々が魔人族の軍人と同じくらいか、蓋を開けてみれば魔王と同格どころか自分よりはるかに劣る存在だったのだ。

 

(何故魔王様はこんな弱者との交戦を避けろと?)

 

 フリードにとっては弱者でしか無い勇者。なぜこんな人間から逃げなければいけないのか、弱いのに一体どこが敬愛する魔王と並ぶというのか

 

「貴方が、魔人族の指揮官か?」

 

「…如何にも。私こそが魔人族最高司令官、フリード・バグアーだ」

 

 聞かれたから名乗りこそすれ、失望感が溜まっていく。自分は魔人族にとって脅威となる勇者を討ちに来たのだ。それがこのような貧弱な子供では肩透かしも良い所だった。 

 

 だから多少の魔法を撃ち蹴散らしたらすぐに前線に戻るつもりだった。今は魔人族にとっての悲願の大決戦なのだから。

 

「俺の名は天之河光輝、勇者と呼ばれているけどそんな事はどうだっていい。フリード、軍を引いてくれないか?」

 

「……何?」

 

 

 …しかしその目論見は外れた、光輝の軍を引けと言うその言葉に癇に障る者があったのだ。

 

 この決戦は、魔人族にとってまさに全戦力を集めた一大決戦そのものだった。変異魔法を駆使し魔人族の数の不利を補うために魔物の数を揃え、備えてきた。

 

 自分の部下である魔人族はどれもが精鋭で共に魔人族の勝利の為に命を賭けてきた同胞だった。

 

「この戦いを止めて欲しいんだ。暴力や力で解決するんじゃない。話し合いで終わらせることは出来ないだろうか」

 

 軍人である以上命を落す覚悟だってある。例えベットの中で死ぬことは出来なくても魔人族の輝かしい未来のためならどんな目に会おうとも承知の上だったのだ。

 

 それを今目の前にいる勇者はあろう事かやめろと言うのだ。フリード達の決意をふいにしろと同じことを言ってるのだ

 

「貴様…何を世迷言を言っている!これは我ら魔人族誇りある戦いだ!よそ者がしゃしゃり出ていまさら何を宣う!」

 

「待ってくれ!話を聞いてくれ!俺達は人間族は勿論、魔人族にだって余計な犠牲を生まないためにも話し合う必要があるんだ!」

 

 魔法の準備のため魔力を集める、ウラノに合図でブレスを放つよう命じる。今目の前で必死に何かを訴えようとするこの少年が目障りに映ったのだ。 

 

「余計だと!我らに後を託し散って言った我らの祖先を侮辱しているのか器様は!」

 

 相手が口を開けば開くほど堪忍袋の緒が切れそうになる。寧ろどうしてここまで相手に話すのを許しているのだろうか、フリード自身が自問するほど勇者の言葉は癪に障った。

 

「誰も馬鹿にしてなんかいない!只、殺し合いをするのは止めろと言ってるんんだ!」

 

「ウラノス!あのふざけた奴を黙らせろ!」

 

 相棒である白竜に合図を出し、ウラノスはブレスを、フリードは魔法を放つ。何も知らない部外者の少年が口を挟むことにフリードは我慢ならなかったのだ。

 

 

「待って人の話をっ!?」

 

 

 叫ぶ光輝に迫るフリードの魔法と白竜ウラノスのブレス。光輝にその攻撃を防ぐ手段は無い、他の覚醒したクラスメイト達ならば回避や防御できる手段があっただろう。攻撃するチャンスを手繰り寄せフリードと互角に戦いながら話すことが出来ただろう

 

(クソッ!やっぱり駄目なのか!?)

 

 だがここにいるのは勇者という幻想に惹かれ時間を無駄にし目覚めてからはクラスメイトとの時間に使った戦力としては数えられない勇者天之河光輝だったのだ。

 

 

 そんな彼にできるのは、ただ頭を抱えながらブレスと魔法から逃げる事だけだった。一瞬の判断で避けたその後ろでは爆風が起き、その衝撃で吹き飛ばされる

 

「うわっ!?」

 

 感じたのは衝撃と浮遊感。足元に地が付かないという状況で視線を巡らせれば、上に流れていく建物達。下を見れば迫ってくる地面。

 

 何が起きたのか一瞬で把握した。テラスから吹き飛ばされて王都へと堕ちて行ってるのだ

 

 

(クソッ!何て迂闊なんだ俺は!)

 

 その後悔は一体何に対してか。話し合いで止められる事に対してか魔人族を甘く見ていたことに大してか、それとも何もかもが上手く行くとでも思ってしまうこの異常な世界か

 

どちらにせよ飛行手段が無い光輝にできる事は無かった。あるとすればアドレナリンが活性化しているのか非常にゆっくりとした視界の中思う事だけ。

 

 

(皆、爺ちゃん。俺は…)

 

 

 走馬灯の様に流れていく思い出、思い出すのは祖父とクラスメイト達。 

 

 

 

 

 しかしその思い出も一瞬で欠き消え、来るはずの衝撃に身を固くした時

 

 

 

 

 

 

 

 

「光輝君!捕まって!」

 

 

 

 

 滅多に聞かないような友人の大声を光輝は聞いたのだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ!?」

 

「しっかり捕まって光輝君!お願いだからここで死ぬなんて嫌だよっ!」

 

 体に衝撃は受けた物のそれは思ったほどの衝撃では無かった。寧ろ直ぐ近く帰ら聞こえる声からして自分は死んだわけではないようだ。

 

「ここは、空?…その後ろ姿は」

 

 周囲を見渡せば自分はまだ空の上で真下には王都が広がっていた。自分が何にしがみついているのか分からず触るとざらざらとした感触。

 分かったのは何かに捕まって飛んでいる事

 

 浮遊感を感じながら声を掛けた人物の後姿を見る。ショートボブの女の子、クラスではいつも一歩下がった位置にいて控えめながらも自分たちの傍に立つ少女。

 

「もうっ!姿を見かけないから探していたらまさか無茶をしていたなんて!」

 

「……恵理?君なのか」

 

 そこにいたのは中村絵里だった。確か女子は避難をするように指示を出したはず。それなのになぜここにいるのか、なぜ自分と恵理は空を飛んでいるのか、疑問は浮かんだがようやく落ち着きを取り戻した頭が自分の置かれている状況を把握し始めた。

 

「これは、竜?それも首の無い?」

 

 恵理と光輝が乗っていたのは首のない灰色の竜だったのだ。 断面から血は出ておらず黒い靄で覆われている、騎乗用の鞍の上には恵理が乗っており無いはずの首に引っかかってる手綱を握り必死にバランスをとっているようだった。

 

「光輝君!大丈夫!?怪我をしていないあの糞魔人族よくも僕の光輝君に魔法をぶち込んでくれやがって!許さないあの顔を○○○してあそこを○○してやるっ!」

 

 どうやら恵理は怒り心頭の様子でフリードに対して恨み言や罵声を毒づいていた。その顔は鬼気迫るようで普段の姿を見ている光輝にとっては

多少引いてしまう者だった。

 

「た、助けてくれてありがとう恵理。でもどうしてここに?それにこの竜は」

 

「光輝君の様子がおかしいと思って別行動をしていたの!そうしたら偶々この死体があったから僕の死霊術を使って操って光輝君を探していたんだ!」 

 

(……僕?)

 

 何やら一人称が変わっているがそこは突っ込まない事にする光輝。それよりも自分を探していたせいで危険な事に巻き込んでしまったことに対して申し訳なく想う光輝。

 

「すまない恵理、俺はもう大丈夫だから君は安全な所へ」

 

「はぁ!?何を言ってるの光輝君もこのまま一緒に逃げるんだよ!」

 

 光輝の言葉に反論する恵理。恵理としてはあの魔人族の男には罵詈雑言を放ったものの勝負にはならないと判断しこのまま逃走することを考えていたのだ。先ほどは威勢よく毒づいたもののどうしたって力量差が分かってしまうのだ。あの魔人族は恐らくこの軍勢のトップであり、一番強い奴だと。

 

 強い奴と相対した時はどうするかなんて考えるまでもない事だ。とっとと逃げるに限る、恵理にとってはこの国がどうなろうと知った事ではないし、このままこの死体を使って光輝と一緒に逃げてしまおうと思っていたほどだった。

 

 

 しかしそんな恵理の正論を光輝はハッキリと断った。

 

「それは駄目だ!このまま逃げるなんて事俺は出来ない!」

 

 後ろではしっかりと竜に騎乗して力強く言った光輝がそこにはいた。首のない竜とは言え光輝が乗ると結構な様になり一瞬見惚れかけたが、慌てて反論する。

 

「何でさ!光輝君だってわかるだろ!アイツには勝てないってさ!それにこの状況!もうこの国は終わったんだよ!」

 

 光輝はあの魔人族との力量差が分からないほど愚鈍ではない、真下に広がる王都の状況を光輝が理解できない筈がない。

 

 勝てない、この国はもう終わりだ。クラスメイト達が奮戦しているがそれも時間の問題その筈なのに何故まだとどまろうとしているのだ

 

「それは「皆の為!?この国の人の為!?それは押しつけがましい偽善って言うんだよ!」

 

 光輝が口を開く前に恵理は言葉を遮った。いつもの光輝の口癖である皆の為、誰かの為という言葉にうんざりしていたからだった。

 

 恵理は光輝に自分を見てもらいたいという欲望がある、強い独占欲と執着心がある。最近夢で出てくる父親のお陰でその兆候は鳴りを潜めていたが、それでも譲れないものはあった。

 

 要は光輝が誰かに目を向けるのは嫌だったのだ。だからこそ言葉を遮ったのだが、光輝は開いた口を閉じてふっと笑った。

 

 

「違うよ恵理、違うんだ」

 

「……何が」

 

 何か様子がおかしい。いつもの善意に捕らわれた光輝では無く、只々穏やかに微笑む少年が居た

 

 

「此処で逃げたら、俺は(天之河光輝)に失望してしまうからだよ」

 

「…何それ」

 

「俺は勇者としてではない。天之河光輝としてあの場所に行かないと」

 

 光輝が何を決意し、何を考えているのかは実際の所恵理には何一つわからなかった。実力差は明確で敵う相手ではない、逃げればいい。そう考えるのは当たり前で光輝を連れてこのまま逃げるつもりだったのだが。

 

 

 トゥンク

 

 

「あ」

 

 だができなかった。光輝のその顔を見た瞬間胸が高鳴ってしまったのだ。

 

 恵理は光輝の事を惚れていると言っても過言では無かった。だがそれは自分の為の恋であり自分の欲望をかなえるための自己的な愛だった。自分が気持ち良くなるため自分が良い思いをするため、相手の事を決して考えない何処までも自分を中心的に考えたそんな歪んだ恋心だった。

 

 

 だが

 

ドグンッドグンッドッグン!

 

(し、心臓が痛い…)

 

 バクバクと大音量の鼓動を響かせる心臓、頬が焼け落ちてしまうかのように熱を持つ。視線は光輝の顔しか見えず、言葉を出そうにも音となって出てくることは無い。

 

「どうしたんだい恵理?顔が赤くなってるけど大丈夫かい?」

 

「ひゅい!?にゃ、にゃんでもないよぉう!?」

 

 恵理は今改めて本当の意味で光輝に惚れてしまったのだ。腹を決めて悩みから抜け出した少年に恵理もまた年頃の少女のように惚れてしまったのだ。

 

「頼む恵理。勝手なのは分かってるだけど力を貸してくれ!」

 

「わ、わかったよ!」

 

 頼み込んでくる光輝に恵理は考える暇もなく承諾してしまったのだ。こうなってはもうどうしようもない、死骸の灰竜をあの魔人族の元へ向けるしか恵理にはできない

 

(あ、ああ~~ 駄目だやっぱり光輝君にはかなわないッ!)

 

 恋愛ごとは惚れてしまった方が負けである。友人である鈴とそんな話をしたことがあったがまさか自分がそうなるとは思いもしなかった。

 

「じゃあ向かうからしっかり捕まっててね!振り落ちないでよ!」

 

 こうなってはもう仕方がない、腹をくくってあの魔人族に立ち向かうだけだ。気合を入れる様に光輝に向かって叫び方向転換する。あの魔人族はまだ遠くへ入ってない筈だ。

 

 そんな事を考えていた恵理に光輝は言われた通りに捕まった。恵理の身体を両手で抱きしめる様にして。 

 

「分かった!」

 

(……お”!?)

 

 惚れた男に抱擁されるという事実。日本では絶対にされなかった事であり長年思い続けていた事であり無意識で諦めていた事だった。

 

 図らずとも密着したことにより光輝の体温が恵理に伝わってくる。命の熱さと温かさが伝わってきて光輝の呼吸音が耳元に近づいて来て……

 

「命、預けるよ」

 

(…あっ)   

 

 光輝の吐息のような声が聞こえてきた時恵理の頭は白くバーストした。多幸感と安心感、それらが内側から溢れ出てきており、恵理の穴という穴から溢れ出てきそうだった。

 

(おっおっおっ♡)

 

 そしてその多幸感を逃がさない様に光輝が抱きしめてくるのだ。恵理の頭は炸裂したと言っていいほどアドレナリンがギュンギュンドバドバと溢れ出てきてそのせいか鼻血が出てきてしまった。

 

『恋する少女には無限の力がある』

 

 日本でふと見かけたラブコメの題材でそんな言葉があったが、なるほどまさしくその通りだった。今の恵理は溢れ出てくる魔力によってまさに無限の力を得ようとしていた。早い話が限界突破である。

 

「……ふふ、まさかこんな事になるなんて」

 

「何か言ったかい?」

 

「何も!」

 

 あふれ出てくる感情と魔力を制御しつつあのいけ好かない魔人族の元へと死竜を飛び立たせる。気分は高揚し、今なら誰にも負けない気だった。

 

 

「――――!!」

 

「ッ!!」

 

 接敵すれば光輝が魔人族に向かって何かを叫ぶ。その内容は頭に入らない、魔人族が乗っている白竜がブレスや光弾を仕掛けてくるからだ。

 

 その回避に全力を注ぐ恵理。騎乗の技能なんてない素人の騎馬戦だった。相手は空を支配する白竜と魔法をわが物にする魔人族でどこからどう考えても相手に分がある戦いだった。何処か冷静な理性が逃げる事を推奨してくる、たとえ今は平気だとしてもいつかは落とされるのだと

 

(だけどねぇ!僕にだって意地があるんだよ!)

 

 後ろには愛しい人である光輝がいる。光輝の為ならば力と気力が無限に湧き出てくるのだ。なら自分は光輝の手伝いをしよう、愚かだが気持ちのいい真っ直ぐな正義感、反吐が出るほどに甘く優しい善性に添い遂げるとしよう。

 

「ククッ ほぅら如何した蜥蜴ちゃん。まだ僕を倒せないってのかい?それとも僕と光輝君の愛の共同作業の踏み台になるかぃ?」

 

 敵の白竜に向かって思いっきり煽る。聞こえるかどうかなんて知らない、しかし敵の魔法や光弾を回避しつつ恵理は全身全霊のドヤ顔を白竜にむかって放った。

 

キュォォオオオ!!!

 

 相手の白竜がイラついたように見えるがそんなこと知るもんか。口角を上げて相手を挑発する恵理はどこか、望みに望んだ幸せを享受する少女の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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