ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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原作キャラの名前を使ったオリジナルキャラ登場です。


訓練開始!正直ダルい!

 

 

「ふわぁ~ 眠いっス」

 

 ほかの皆が訓練で別行動している中俺たち二人は担当の教官を待っていた。遅れて数十分やってきたのは細目で何とも気の抜けそうな青年だった。晩餐会で記憶に残った騎士の一人で年は俺達より上の二十代前半だろうか?

 

「ん~君たちがアラン先輩から聞いた二人っスね。自分の名はニート・コモルドッス。これから君たちの担当になるッス」

 

「えっと 俺の名前は柏木です。ご指導の方よろしくお願いします」

 

「僕の名前は南雲ハジメです。今日からよろしくお願いします」

 

 取りあえずはお世話になる人に自己紹介と挨拶をする。…言っててなんだがこの人が俺たちの教官になるというのは本当に大丈夫なのだろうか?先ほどまで部屋でサボっていたというし…

 

「あー そこまでかしこまらなくてもイイッスよ。もっと気楽に行こうッス。自分とそんなに年齢変わらないんでしょ?」

 

「そりゃそうですけど…」」

 

「はぁ…」

 

 何とも気が抜けるような声と顔で笑う彼に南雲と顔を見合わせる。と言っても拒否することもできないし、色々教わらなければいけないのは確かだ。

 

「まぁ色々と不安に思うかもしれないと思うけど、取りあえずは簡単な事から始めていきましょうっすね」

 

 そんなこんなで俺達非戦闘職業組は、なんとも風変わりな担当教官のニート教官に指導を受けるのだった。まさかこれから地獄の様な特訓が始まるとも知らずに…

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハァ……ハァ……死ぬぅ…」

 

「ほらほらまだまだッスよ!もっと頑張るッス!」

 

「…もーむりぃ」

 

 わき腹が痛い、足が上がらない、呼吸がままならない。吹き出た汗はとっくに乾いてシャツがべったりと肌に吸い付いている。明らかにいつも高校生活の運動量をオーバーしている。

 

「南雲君はあんなに頑張っているんスよ!悔しくないんスか!」

 

「ぅぅぅううう!……ち、チクショー!!」

 

「ははは!やればできるじゃないっスか!その調子ッスよ!」

 

 目の前を走る南雲の背を見て、負けられないと足を動かす。何ともはめられたような気がしたが煽られると勝手に乗ってしまう自分が恨めしい

 

 今俺と南雲は訓練所の中をぐるぐると走り回っている。訓練所の広さは俺達の高校の校庭より広い。その中をひたすら走り回ると言うのがニート教官の最初の訓練だった。

 

 ニート先生曰く「一度、君達の体力が知りたいっス。異世界の君たちがどれほどの運動量があるのか、知りたいことが山ほどあるので取りあえずは倒れるまでは走るッス。あ、倒れても大丈夫っすよ。ちゃんと自分が起こしに行きますから」との事だ。のほほんと言っていたが、目はマジで断れなかった。

 

「ひぃ……ひぃ」

 

 何故異世界で運動部の様に走り込みをしなければいけないのか、そもそも後方支援職、又は生産職なのになんで訓練をしなければいけないのか、城で留守番を決め込んでいてもいいのに、そんな弱音が頭の中をよぎる。しかし、疲れた頭ではうまく考えることができない。

 

「辛いっスか?もう倒れて動きたくないっスか?」

 

 隣で囁かれる甘い言葉。囁いたニート教官は、俺達と並行して走っている。息も乱れず笑っていた顔は今はなぜか鳴りを潜めている。

 

「色々思う事があるかもしれないッス。苦しいと思うッスそれでも今は自分を信じて走ってほしいッス」

 

「……ぁい」

 

 そう言われてしまってはどうすることもできない。疲れる体に鞭を打ちただひたすら走るしかなかい。

 結局、疲れ果て動かなくなるまで走っても南雲を抜くことはできなかった。

 

 

 

「走り込みお疲れッス。慣れない中でよく頑張ったッス」

 

 

 

 俺と南雲が倒れ込んでいる横でニート教官はニコニコした笑顔でそんな事を言い出した。疲れているので喋るのも億劫なので目線だけで返事をする。

 

「ふぅー…あれ?ほかの皆はどうしたんですか?」

 

「ん?ほかの子たちは今は座学を受けているッス。確か、魔法についての座学を受けて居る筈ッス」

 

 魔法!なんとも心をくすぐられるワードだ。今すぐにでもその座学を受けてみたい!しかし今は動く気力がないのでどうすることもできない。

 

「魔法…僕も聞きたいんですけど」

 

「まぁまぁ、自分が説明するから焦らない焦らないッス」

 

「ならいいんですけど…魔法かぁ僕は何ができるんだろう」

 

 南雲とニート教官が話しているのを聞く俺。そろそろ呼吸が落ち着いてきたので会話に参加する。決して寂しくなったからじゃないからね!

 

「ニート教官それより俺達はこの後どうするんですか」

 

「お?ようやく回復したッスか。やっぱ若いっていいッスね。この後は汗を流した後自分と簡単に雑談ををしながら昼飯を食べようっス」

 

「昼ごはん?他の皆と一緒に行動しなくてもいいんですか」

 

「それなら大丈夫ッス。ちゃんとあっち側が何を教えているかは知っているし許可は取ってあるんで。自分は先に向かうんで汗を流したら食堂に集合するッス。待ってるっスよ」

 

 ひらひらと手を振るとニート教官はそのまま訓練所から立ち去ってしまった。あとに残るはへばっている俺と座り込んでいる南雲。疲れた体に吹き抜ける風が気持ちいい。今しばらくはこうしてへばっていたい。

 

「変わった人だね。なんかほかの騎士の人たちとは全然違う感じがする」

 

「同感。悪い人じゃなさそうだけどな」

 

 何とか立ち上がりとりあえず風呂場に向かう事にする。体はクタクタで動きたくはないが汗を流さずに昼食をとるのはゴメンこうむりたい。

 

「それにしてもクタクタだよ。ここまで運動するなんて高校入ってから初めてかも」

 

「帰宅部の俺達にはとんでもない辛さだった。あー天之河や坂上だったら楽勝だったんかねー」

 

 そんなとりとめのない雑談をしながら訓練の感想を言いあう俺達だった

 

 

 

 

 

 

「んで、君たち2人に聞きたいんスけど、後方職だから訓練はしなくていいって思わなかったスか?」

 

 食堂でニート教官と合流した俺達は昼飯を大量に食い漁った。美味い食事の後の一服をしているとそんな事を聞かれた。ズバリと聞くなぁと思いつつも正直に答えることにした。隠し事をしても面白くないからね。

 

「一応さっきメルド団長さんから説明は受けていたんですけど…」

 

「少しでも自分の身を守るすべを身に着けていた方が良いって…」

 

 この世界は地球…正確に言えば日本とは違うのだ。手ほどきを受けていた方が良いとは聞いていたのだが…思っていた以上にハードだった。当たり前と言えば当たり前なのだが。

 

「…何だちゃんと説明していたんスね。仰る通り君たちは後方支援職っす。戦線には出る事はせず城で作業などをしてもらう事になると思うっす。でもあくまでもそれは後の話であって今は人並みには自分の身を守れるようになってからッス」

 

 やはりというかちゃんと体力などはつけておかないと行けないらしい。正論過ぎて仕方のない事だが急に体力づくりをするのはやはり疲れるものだ。俺と南雲どちらともなく溜息のようなものが出てきてしまった。

 

「…いきなりこの世界に呼び出して、君たちの事情も考えずにこちらの事情を押し付けるのは正直な話申し訳ないッス」

 

 俺たちの様子に何か思う事があったのか、少し暗い顔をして頭を下げるニート教官。

 

「だからせめて君達には生き抜くためのそれ相応の知識と経験を教えようと思ってるっス。それが団長や騎士団員のせめてもの償いと総意っス」

 

 償いと総意?どういう意味だろうか。そんな疑問が顔に出てきたのかニート教官は少しだけ苦い顔をした。

 

「…内緒にしてほしいんスけどそもそもこの召喚自体、自分や騎士団は否定的なんっスよ。…いきなり現れる人間たちに頼り切ろうとする教会と、呼び出そうとするアレ()の考える事が、気に入らないんだよ」

 

 ほんの少しだけ背筋にヒヤリとしたものが流れた。気に入らないといった瞬間だけこの人の本音が垣間見えたような…

 

「それは」

 

「っと。ちょいと言い過ぎたっスね。兎も角君達が故郷に帰れる日が来るまで自分や団長は協力するッス。それまではいきなりで難しいけど自分たちを信じてくれないっスかね」

 

 先ほど感じたヒヤリとする雰囲気は嘘のように消えそこには錆びそうに笑うニートさんが居た。…この人はいい人だ。話していると本当にオレたちのことを気遣っているのが分かる。きっと南雲に話したらチョロイと言わそうだが、何だかこの人は信じてもいい気がする。

 

「わかりました。なら訓練も頑張らないとな、だよな南雲」

 

「…そうだね。色々と思う事はあるけどどうにかして頑張ろうか」

 

「2人ともありがとうッス。自分もできる限りの事はするんでこれからも色々頼りにしてほしいっス!」

 

 三人でこれからの事に悩みながらも頑張ろうと言いあう。異世界で青春染みたことを話す俺達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ魔法の訓練を始めようっスか。2人とも準備は良いスか?」

 

「マジですか!ついに魔法か~どんな魔法が出来るやら」

 

「魔法!楽しみだったんだよね。かっこいいものができればいいな」

 

「まぁまぁ慌てないっスよお2人とも。まずは魔法がどういう仕組みなのかを教えてからッス」

 

 魔法と言う地球では絶対にできない事にはしゃぐ俺たち2人をどうどうと抑えながら落ち着かせるニート教官。苦笑しているところを見ていると、きっと今の俺達は玩具を与えられた子供の様なきらきらとした目をしているに違いない。でも仕方ないだろ?魔法なんて日本似たときには絶対に使えないものなんだから。

 

 

 

「…という事ッス。魔法について分かったッスか?」

 

「ほうほう。つまり無詠唱で魔法を使うのは無理っと」

 

「ふむふむ。魔法を使うのには魔法陣が必要ですか…」

 

 ニート教官の説明によると、この世界の魔法は体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る必要がある。魔力を直接操作することは出来ず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

 そして、詠唱の長さに比例して流し込める魔力は多くなり、魔力量に比例して威力や効果も上がっていく。また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる。それは必然的に魔法陣自体も大きくなるという事に繋がる。

 

 例えば、RPG等で定番の“火球”を直進で放つだけでも、一般に直径十センチほどの魔法陣が必要になる。基本は、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の式が必要で、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式を加えていき魔法陣が大きくなるということだ。

 

「ここで例外があるッス。それが適正ッス。確か君たちのクラスメイトの中に炎術師っていう天職の子がいたっすよね?」

 

「あー確か中野が炎だったな。やっぱ天職が魔法に関係してくるんですか」

 

「そういう事っス。あの子をたとえ例で言うと、自分たちが高度の炎魔法を使おうとするとかなりの大きさの魔法陣やらが必要になるッス。だけどあの子なら数センチの魔法陣で事足りるッス。炎術師であるから炎をイメージすればその分式を書き込む手間が省ける適性を持ってるっス」

 

 つまり天職やそれに準ずる技能による影響があるのだろう。何とも羨ましい限りだ。

 

(炎…俺ならいろいろ使い道のイメージができるんだけどなぁー良いなぁー)

 

 そんな事を思いつつも座学が終わったので、今度は俺と南雲に魔法の適性があるのかどうかを調べるのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ort」」

 

「…あーっと、えっと2人ともそんなに落ち込まないでほしいっすよ~」

 

 結果的に俺と南雲は魔法の適性が欠片もなかった。攻撃魔法を無理にでも使おうとするならば一発放つのに直径二メートル近い魔法陣を必要としてしまい、実戦では全く使える代物ではなかったのだ。

 

「天職は非戦闘職で魔法は実用的じゃない。…何この糞ゲー」

 

「…どうして、どうして僕や柏木君は適性がないんだろう。期待していたのにあこがれだったのに…僕たち何か悪いことした?別に何も悪いことしてないよね。皆が戦闘職なのにどうしてなんだろう…何か強い悪意を感じる。酷いよ…こんなのってあんまりだよ」

 

 南雲が何やら呟いているがまぁそういう事だ。念願だったはずの魔法が使えないことに対する無念に項垂れてしまう。

 

「一応適性がない君たちでも魔法は使えるっちゃ使えるんすけど…」

 

「スクロールですか?でもあれは一回きりで威力は落ちるって…」

 

「他には鉱物に刻むタイプがあって何度も使えて威力もあるけど値段が高くて嵩張るから使いにくい物があるって先生は言ってましたよね」

 

「2人ともなんだかんだでちゃんと聞いてたんスね…」

 

 結局は戦闘に使える魔法は出来ないという事になってしまった。悔しいがこれも仕方のないことだと考えることにする。そうしなきゃやってられない。

 

 その後ニート教官は、錬成の魔法陣が刻まれた手袋を南雲に、調合の魔法陣が刻まれた腕輪を俺達にプレゼントしてくれた。何でも皆に今頃手渡されている武器のアーティファクト代わりの品らしい

 

「本当ならもっといいものがあると思ったんスけど…こんなもんしかなかったッス。力になれなくて申し訳ないっス」

 

「そんな謝らないでくださいニート先生。僕達にはアーティファクトは何ももらえないって思っていたんですから。ね、柏木君」

 

「そうですよニート教官。このプレゼント大事にしますからそんな暗い顔しないでください」

 

「2人とも…ありがとうッス」

 

 申し訳なさそうな顔をしていたが正直な話くれるだけでもありがたいものだ。ニート教官の心遣いに感謝しながら最後の頼みの綱である錬成と調合をものにしようと決意する俺と南雲だった。

 

「と言ってもステータスが低いんで、アーティファクトがあろうが無かろうが結局は雑魚でしかないんだけどねー」

 

 そしてポロリと出たのは嫉妬染みた愚痴。まぁこれぐらいは許してほしい。僻みのようだが皆が羨ましいのだ。

 

「あ~二人ともステータスは低いんッスよね」

 

「オール10ですよ10! まったくなんで皆が高いのに僕達は低いのか」

 

 教官の言葉に南雲は憤慨しながら答える。何だかんだで南雲も皆の高ステータスが羨ましいのだろう。そんな俺達を見つめるニート教官は…少しだけ嗤っているようだった。

 

「二人とも、そんなにステータスは大事だと思っているんスか?」

 

「?そりゃ高ければ高いほどいいに決まってるんじゃ?」

 

 実際にメルド団長の話によると高ステータスはかなり強いという話だが…どうやらニート教官はそう思っていないらしい。

 

「…これはある程度の強さに入った人間たちの暗黙の了解なんスけど、そのステータスプレートに書いてある数字は只の飾りなんスよ」

 

「え!?飾り?」

 

「ふむん?」

 

 俺は驚き南雲はふむと考える。どうやらマル秘の話をしてくれるらしい。ここぞとばかりにのめり込んでしまうのはゲーマーのサガか…

 

「とても簡単な話ッス。例えるなら…オール10の人間がオール100の人間を倒すことは出来るかどうか。君たちはどう思うっスか」

 

 例えの例が身近な俺達と天之河な辺り分かりやすいような皮肉が入っている様な…取りあえずは思ったことを伝える。

 

「そりゃ、10の人間がボコボコにされて終わりっしょ?」 

 

「ふむ。南雲君の方は如何っスか」

 

「…確かに10の人間は負けるかもしれない。でもそれはあくまで正面から挑んだ場合。そういう事でしょ先生」

 

「なるほど、南雲君はよくわかってくれた見たいっスね」

 

 南雲はすぐに理解したようだ。少し悔しいので俺も考えるようにする。思考停止だけは止めろって父さんにもよく言われているからな!

 

 そもそもステータスが高いとか低いとはどう違いが出てくるのだろう。筋力とかなら持てる物の重さが違う、体力ならどこまで動いていられるか。そういう事なんだろう。でもきっとそれは重要じゃない。南雲が言ったのは正面から駄目。なら絡めてを使って…ん?もしかしてそう言う事?

 

「ニート教官。変な例えですけど人の急所ってオール100もオール10も変わらないんですか?」

 

「お、物騒なことを思いついたっスね。答えとして言うなら変わるッスよ。ただし、意識をしなければという話っスけどね」

 

「なら寝ている時とか、リラックスしているときは…」

 

「サクリと行けるっすね。それはもう簡単に」

 

 ニヤリと笑うニート教官。なるほどそういう事なのか。高ステータスの者でも体の構造とかが変わるわけではない。つまりやり方を考えれば低ステータスでも勝てる要素があるのだ。

 

「どうやら気づいた様っスね。確かに高ステータスの奴らは強いっス。団長のように力は馬鹿げているわ、副長のように魔力の量は人間を超えているわ。でも、その数字の強さが慢心を生むっスよ、自分が強い、自分は最強だと程よく油断をしてしまうっス」

 

「一方低ステータスの人たちはどれだけやっても伸びないのなら、いっそ諦めて搦め手を使うこと考えるんだ。足りない物を知恵と発想で補うって話だね」

 

「そう言いう事っス。だから二人とも低ステータスという事で悲観するのは絶対に駄目っスよ。勿論能力が高い方が良いのに決まっているのはこの世の真理ッス。だけどだからって能力の低い物が弱いと決めつけるのは愚者の極みッス。だから向上心だけは捨てるんじゃねぇっすよ?」

 

「はい!」

「分かりました」

 

 それはもしかしたらニート教官なりの激励のつもりだったかもしれない。だがそうやって励ましてくれるのは嬉しかった。なんとも気恥ずかしい思いをしながらも元気良く返事する俺と微笑みながら返事する南雲だった。 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「錬成…錬成…錬成…錬成」

 

「おーい南雲君やーい。もう休んだらどうだーそろそろ錬成がゲシュタルト崩壊するぞー」

 

「錬成…れんせ…うーん、ううーん??」

 

 鉱石を手に取りながら首をひねり続ける南雲を止める。時がたちニート教官の訓練を終えた俺達は、自室で調合と錬成の練習をしているのだ。

 

 本来ならそれ相応の作業場を貸してもらえるはずだが今は何やら立て込んでいるらしい。二―ト教官は、その作業場を貸してもらえるための交渉と錬成と調合に関する専門の先生を探しに行ったのだ。

 ニート教官曰く何やらこの国の筆頭錬成とは知り合いらしくその人に南雲の先生になってもらえないか打診をするとか何とか…

 

「でも調合師の知り合いはいないとの事。」

 

「自習の訓練も何とかできるけど、やっぱり誰かに教えてもらった方が伸びるからねーはぁ」

 

「自主学習では限界があるからなー最も俺たちに教えてくれる希有な人がいるかどうかだが。んでどうだ錬成の具合は…って聞くまでもないか」

 

 溜息をつく南雲のその手には変な形状になった鉱石が握られていた。南雲の天職である錬成師は、鉱石の形状を変え物を作り出す職業と言われている。その言葉通り武器を作ろうとしているらしいのだが…

 

「一応、鉱石を棒状にはできたんだけどね…ほかにも平べったくしたり太くしたりとか色々…かな」

 

「なんだかんだで成功しているじゃねえか。で、そのグネグネした失敗作はいったい何を作ろうとしたんだ?」

 

 一見すると粘土細工をしているようにも見える。固い鉱石をグネグネしたものにするだけ凄いように思えるが…どうやら南雲の目指す物とは違うらしい。 

 

「……う」

 

「ん?なんだって?」

 

「…銃を作ろうと思ったんだ」

 

「はぁ!?銃ってお前…いくらなんでも出来る訳ないだろう!?」

 

「むぅー」

 

 通りで鉱石がグネグネとした歪な形になるわけだ。そもそも銃を作るって…俺はよくは知らないがマガジンやらバレルやら色々パーツの組合わせが必要になるのになんでいきなりそんなものを作ろうとしたのだろうか。つか無理じゃね?平凡を絵にかいたような高校生がそんなもん作れたら可笑しいわい!

 

「だってほかの皆は戦闘用のアーティファクトもらえているじゃないか。僕達にはないし―それならいっそ強力な武器を作ってもいいかなって…」

 

「気持ちは分からんでもないけど、流石に段階飛ばしてぶっ飛びすぎじゃ…」

 

「それは確かにそうだけど…でも」

 

「?」

 

「銃ってカッコイイじゃないか」

 

「むむ」

 

 カッコイイものを作りたい、そう言われてしまうと頭ごなしに否定するのは憚れる。やりたいことにケチをつけるのは違うような気がするしそう思っての行動なら止められない。最も出来る筈のない物でもあるし、南雲自身出来る筈がないと分かってはいるだろう。つーか出来ちまったらこの世界のパワーバランスが消えるような…そうでもないか? 

 

「と言っても出来ない事はちゃんとわかってはいるんだけどね。…出来ちゃったら世界の情勢変わっちゃうし」

 

 苦笑して手元のゴツゴツとした鉱石を丸い球状に変えていく。改めて見るが力を加えているわけでもなく手の平にある鉱石が変わっていくのは摩訶不思議な現象だ。ボケーと見ていると南雲がこちらの視線に気づいたようだ。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、…何だかんだで魔力ってのがあるんだなぁと」

 

 手の平に乗っている石ころの形状を変えていく。日本にいたころには絶対に出来ない事だった。いくらそれがこの世界には当たり前の出来事だったとしても、やっぱり違和感がある。

 

「そうだよね。日本にいたころには考えられない力を僕は手に入れたんだ」

 

「物質錬成の能力ねぇ…どうやって使っているんだ」

 

 自分にはできないその力はどうやって使っているのか。南雲に聞くが苦笑されてしまう。

 

「これがうまく説明できないんだ。魔力を流すというより……んん?」

 

「どったの?」

 

 首を傾げ改めて自らの掌にある鉱石に視線を移す。そこにあるのは先ほど変わらない球状の鉱石。しかし南雲には何か違和感を感じたようだ。

 

「いや、何でもない。それより柏木君は何を作っているの?」

 

「んー俺か?俺は回復薬を作ろうとしているんだけど…」

 

 俺の前にある簡易作業台の上にある物を見ながら質問する南雲に上手い返事を貸すことができない俺。作っているのは市販に売ってある回復薬をより上位の物にしようとしているのだ。

 

 だが上手く出来たものは無い。当たり前の話だが回復薬に回復薬を混ぜ合わせたところでできるものは量が増えただけの回復薬だ。ゲームの調合師たちはどうやって上位の物を作り出しているんだ? 

 

「うーん。発想は悪くない筈なんだけど…」

 

「…ねぇ柏木君、それってちゃんと魔力を込めてやっているの?」

 

「…!?」

 

「そりゃ上手くできるわけないじゃないか」

 

 失念していた。根本的な所が駄目駄目だった。恥ずかしさの余り顔が赤くなるのを感じながら魔力を回復薬に込め、混ぜ合わせる。

 

「で、味の方は…」

 

「味?」

 

「うん微妙だ。つーかコレちゃんと回復効果上がっているのか?」

 

 そもそもの話ちゃんとこれは回復薬の効果が上がっているのか俺では判断できない。試しにと飲んでみた南雲も味は既製品より多少良くなってはいるがそもそもどこまで効き目があるのか分からないだそうだ。

 

 ちなみに味はリ○ビタンDだ。いったいこの異世界からどうやって作りだされたのか非常に謎である。あとで南雲と話してみよう。

 

「そもそも俺は怪我なんてしていないからなー …んん?そもそも回復薬って飲むものなの?それとも傷口に振りかけるものなの?どっちなんだ?」

 

「言われてみれば…どっちなんだろう?僕はてっきり飲むものだと思っていた」

 

「む?むむむ??…俺達の世界には手に入らない物だからなぁ一体どうすれば…」

 

「一応魔力回復薬は飲むもので怪我に使う物は振りかけるのが主流ですよ」

 

「む?」

 

 声がした方に振り替えればそこにはアリスさんがお盆をもって立っていた。失礼しますと一声だし、俺達に歩み寄ってくる。一体いつの間に部屋に入ったのだろうか全く気付かなかった。…このメイド出来るっ!

 

「そろそろ休憩されてはいかがでしょうか。根を詰めるのはよくないですよ」

 

 持ってきたお盆には焼き菓子と飲み物があった。焼き菓子は見たところ煎餅とクッキーだろうか。疲れているの中でこれはとてもありがたい。南雲と共に礼を言い早速ありつくことにする。

 

「…この煎餅ウメェ!」

 

「このクッキー味が優しい…あ~疲れた体に染み渡るぅ~」

 

 味はとても美味で南雲はすぐにだらけた顔になってしまった。アリスさんはくすくす笑っているところからしてきっと俺もそんな顔をしているのだろう。

 

「良かった。味にはちょっとした自信があったんですけどもし口に合わなかったらと考えていて…気に入ってもらえてよかったです」

 

「いえいえ日本人の俺達にとっては丁度いいものです」

 

「お菓子作り得意なんですね。ちょっと意外に見えます」

 

「あはは…数年前までは全くできなかったんですけど知人と一緒に料理をする機会がありまして、その時にのめり込んでしまって」

 

「へぇー数年でここまで上達するんですか…」

 

 俺も練習したら上手くなるだろうか?…駄目だな数年はかかる。そんなに器用ではないのだ。

 

「ふふふ、それより錬成と調合の調子はどうですか」

 

「あーどうも思ったようにうまくいかなくて…」

 

「余計な事を考えすぎているからでしょうかね、難航していますよ」

 

 あんまり芳しくないことを説明する。南雲と同じような曇った表情だ。そんな俺達を見てアリスさんはふむと考え込み口を開いた。  

 

「…少しよろしいでしょうか」

 

「はい?なんですか」

 

「南雲様も柏木様もうまくできなくて悩んでいるようですが最初はそんな物ではないでしょうか?」

 

「ふむん」

 

 確かにそれは一理ある。誰かって最初は上手くいかないものだが…

 

「誰かって最初は上手くいくわけがありません。月並みですが失敗を繰り返しそこから何を学び考えるかが成功の道になるのです」

 

「でも…」

 

「南雲様。まずはご自身の錬成を見直すのです。ある偉くて強い王様は言いました。『凡俗であるのなら数をこなせ。才能が無いのなら自信をつけよ』と。」

 

「自信をつけろか…どこかで聞いたことあるような気がする」

 

 良い言葉だ。何度も数をこなし自信をつけることが成功への道筋だと凄くわかりやすい。いったい誰の言葉なのか。

 

「柏木様。あなたは…」

 

「…ゴクリ」

 

「頑張ってください!」

 

「何もねぇのかよ!?」

 

 南雲に対して真摯に話すものだから俺にも何かあるのだろうかと身構えていたらなんとも投げやりな言葉が来た。あんまりすぎる、内心何が来るのかドキドキしていたのに!

 

「し、仕方ないじゃないですか!私だって柏木様がまさか非戦闘職業になるとは思ってもみなかったんですから!うまく言えませんよ!」

 

「それでも何かこう無いのかよぉ~期待したじゃんか」

 

「むぅ、なら色々試してみてはどうですか。そもそもの話、2人ともこの世界に合わせようとしすぎなんですよ。もっと好き勝手ハジけても良いんですよ?寧ろもっとはっちゃけて下さい」

 

「ハジけるって…」

 

「その方が私の好みなので。…む!そろそろ時間の様ですね。それでは私はこの辺でお暇します。では、頑張ってくださいねー」

 

 好き勝手煽るとそのまま、すたこらさっさと部屋から出て行ってしまうアリスさん。あとに残されたのは何とも微妙な表情をした俺と何か思う事があるのか考え込む南雲。

 

「…取りあえず錬成もうちょっと頑張ってみるよ」

 

「ん?まだやるのか」

 

「うん。『諦めたらそこで試合終了』ってね」

 

「そっか。なら俺ももうひと頑張りしてみようかな」

 

 食べ終わったものを簡単に後片付けした後、それぞれ作業に集中する。今はまだ何もできないかもしれない。それでも一歩ずつ成長するのだ。

 

 

 

 

 




一言メモ

ニート・コモルド メルド直属の部下。一見やる気がなさそうに見える

魔法陣 どうせすぐに意味のない言葉になる。不要の産廃、合掌

魔力回復薬 味はリポ○タンDらしい、この異世界でどうやってその味が…

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