「フリード!話を聞いてくれ!」
恵理の力を借りもう一度フリードの前までやってきた光輝。相手が何かを言う前に出てきたのは先ほどと同じように話し合いをするための呼びかけだった。
「またもや我が前に顔を出すか弱者めが!逃げていればいい物をそんなに死にたいのか!」
帰ってきたのは怒声と相手の怒りを示すかのようなプレッシャー。比較的顔が整っているフリードの顔から憤怒の色が出てきており会話をするのは困難かと思われた。
「死にに来たんじゃない!話をするために来たんだ!」
それでも光輝はめげない。逃げるという選択肢も諦めるという選択肢も光輝にはないのだ。
「ならば死ぬがよい!ウラノス!」
その言葉と同時にフリードから魔法が放たれてくる。中級以上の魔法だろうか風の槍と炎の渦が同時に向かって来る。
「恵理!」
「分かってる!舌噛まないでよ!」
途端にがくんと高度が下がりその頭上を炎と風の魔法が過ぎ去っていく。光輝には騎乗の技能が無い、だから自分の命はすべて恵理に任せたのだ。
「手を止め話し合うんだフリード!この状況魔人族が優位なのは分かってるだろ!圧倒的な戦力差なのにむやみやたらと人の命を奪うのが魔人族のやり方なのか!」
高度が頻繁に変わり体が重力で吹き飛ばされそうになるのを耐え光輝は疑問を投げかけるように吠えた。実際フリードを止めるのは難しい、自分の一言で止まるのなら始めから戦争なんてしないからだ。
だから問いかける様に光輝は言葉を投げつける。それが無意味だと思われても光輝は声を張り上げるのだ。
「ふん!この戦いこれは我ら魔人族の悲願なのだ!数によって脅かされた魔人族が今度は圧倒的な物量差によって虫の様にすり潰される!愚かで傲慢な人間族共の当然の報いだ!」
「当然だって!?人が死ぬことが当然なはずあるもんか!そもそもこの物量差なら王都を囲んで降伏勧告でもすればいいじゃないか!なぜわざわざ人の命を脅かす!?」
「人間族は下賤な種だ!交渉なぞしようものなら裏切り罠に陥れてくるのが人間族だ!なら蹂躙するのに何の躊躇がある!」
「一度だって話をしていないくせになぜそうも暴力的な手段を取ろうとするんだ!?戦いを回避したがっている人もいる!俺の様に!」
「そう言って遥か昔は和睦を進めようとしたものもいるさ、戦いに疲弊したなどと愚かにも宣ってな!それがどうした、結局は人間族の卑劣な裏切りにあい手酷く殺されたのさ!お前のような偽善者ぶった奴共に!」
叫び合いの最中にも魔法やブレスは飛んでくる。対してこちらは防御できる手段は無く回避が精一杯だ。何時撃墜されてもおかしくなく 自分は只叫ぶだけ。それも光輝は声を張り上げるそれが自分の役割だと信じて
「昔はそうだったかもしれない、でも今は違う!それにそんな事が起きようものなら俺が止めて見せる!」
「戦う力もなく避ける事が精々の貴様が何が出来る!力のない弱者がぁ!我らと何の関係もない部外者が!」
「何も関係のない部外者だから止めろと言ってるんだ!関係の無い部外者でも気づけるんだ殺し合いをするのはおかしいって!部外者でもわかる事が何故止められないんだ!」
まるで子供の口げんかの様だとどこかで光輝は思った。お互いに相手の話を聞かず自分だけが正しいと、そう思考することしか出来ず相手の事を考えないそんな子供じみた口げんかだと光輝は思った。
「いい加減戦いを止めろ!言葉を交わすという事がそんなにできないのか!?フリード・バグァアア!!」
戦いを止めて欲しい、誰にも傷ついて欲しくない。そう考えていたはずなのに、それが最も最良だと思うのにそこに至るまでがなんと難しい事か。
声を張り上げながらもどこか胸の中は冷静だった。
そんなどこか虚しさが胸の中にたまっていく中、この戦いを肯定するものが居た
「その調子だよ光輝君。こんな状況の話し合いなんてね、結局は
(それはあの時の俺みたいに?)
ふと、召喚された時を思い出す。クラスメイト達の意見を聞くことだってできたのに声を出した自分の意見が通ってしまった。あの時誰よりも早く大きく声を出した自分が。
(…ああ、本当に難しいよ 爺ちゃん)
相手と分かりあうために言葉があるはずなのに、その行為がどれだけ難しいか、戦いの中で光輝はまた一つ成長していく。
そんな事を考えてしまったせいか、光輝の存在を否定するかのようにフリードから特大の魔力の圧を感じた。
「貴様の存在はいちいち気に障る……何も知らず分かったような口を開く貴様はもうこれ以上生かしてはおけん」
フリードの手が白竜に触れた途端、白竜が発光する。力が凝縮する様に白竜の口元に光が集まっていく。
「あれは…ヤバイね」
滝のような汗を流す恵理がヒク付くようにつぶやいた。光輝にだってそれは分かる、今まで回避してきた魔法はすべて前座だという事に。
(回避かそれとも防御?駄目だどちらにしたってもう)
一瞬で流れる思考、それよりも相手の方が一歩早かった。ほんのたったの一瞬が、相手に攻撃を差せるチャンスを作ってしまった。
「死ね、勇者」
そうフリードが呟いた瞬間、白竜ウラノスから全てを覆い尽くすかのような光弾が発射された。
と、同時に腕の中にいた恵理が僅かに体を震わせ一言呟いた。
「ごめんね、光輝君」
「あれ…生きてる?」
あの白竜によって視界が白く染められたとき、恵理は死を覚悟した。光輝を殺させるつもりはなく自分だって死ぬつもりなんて毛頭ないがそれでも避けようのない事はあるのだ。
だから最後はせめて光輝と一緒に居たいと願ったとき、瞑った目を開ければまだ自分は生きていたのだ。
「貴様…それは一体何のつもりだ?」
魔人族が驚愕と憤怒の表情で自分達を、正確には光輝を見ている。何の事だろうかと後ろを見ればそこには驚いた表情の光輝が居た。
性格に言えばその手に白く淡く光の聖剣を握った光輝が居たのだ。
「これは…?」
「光輝君、それ」
恵理が驚いた様に光輝もまた驚いていた。手に持つのは刃の無い剣、あのアリスという女性から渡された南雲ハジメが作ったとされる中途半端な剣。
その不完全な剣が光を刃として光輝の手に収まっていたのだ。
「何だろう、凄く……綺麗だね」
恵理が零した言葉通りそれは白い純白の光で構成されていた。見ていると落ち着きと心の温かさを思い起こすような不思議な剣。
(コレ…もしかして俺の魔力が形になっているのか?)
確証はない、しかし頭のどこかでは確信を持った答え。この光輝く刃は自分の魔力を媒体とした
「高々付け焼き刃ごときで!この私をコケにするか!」
そこまで考えた時またもや白竜から光弾が発射される。先ほどとは違って光弾は小さいがその分連射力と数を増やしたようだった。
「光輝君!」
「大丈夫だ恵理!」
こちらに迫って来る光弾、それを光輝は光の剣で何処か確信した気持ちで真横に振るう。破れかぶれではない意思を持った一振りだった。
そんな光輝の意思に反映されたのか、光の刃は真っ直ぐと刀身を伸ばし…光弾を打ち消してしまった。
「…え?消えた」
(やっぱり、これは…)
握って使ってそして光輝は確信した。これが南雲ハジメが自分に託したその理由と想いに。
光輝が握っている光の剣。それは錬成師南雲が考案し作った『意思を力とする』武器だった。
光輝に手渡された聖剣は他者の力を吸い自身の力にする勇者が使うには余りにも不釣りあいな剣だった。その事に不満を持っていたハジメは、光輝に謝られた次の日から妄想だった武器の作成に入ったのだ。
自身の
それをアリスがくすねて自身の生成魔法を使って、完成にまで至らせて…そして光輝の手に渡ったのだった。
白竜ウラノスが放つ光弾を白い光の剣は打ち払う。フリードが放つ魔法の事如くを光輝の意思を具現化した剣が防ぎきる
「そうだったんだ…ああ、その通りだよ南雲」
光輝は納得する、この武器がどういった過程で作られた物か、どのような考えで作られたのかを。その考えは間違っているかもしれないしそこまで考えていないものかもしれなかったが、光輝にとってはそう考えるのがらしいと思った。
「
この光の剣に殺傷能力は無いのだろう、コレは只人を守るための剣だ。だから相手の魔法を打ち消し光弾を防いでくれるのだ。
だから『刃要らず』天之河光輝に傷つける武器は必要なかったのだ。
「恵理、まだ頑張れるかい?もうちょっとだけ付き合ってくれるかい?」
「いいよ、どこまでも付き合うよ。っていうか今更離れてだなんて言っても絶対に離れないからね」
「…有難う。その言葉に甘えるよ」
いくら攻撃を防ぐための武器を手に入れたからと言って移動は恵理頼みだ。恵理の奮闘に光輝は全幅の信頼を置く、一人では出来なくても二人では出来るのだ。
「フリード。俺は貴方には敵わない。魔人族の運命を背負った貴方にはきっと勝てない」
ただ人を救いたいだけの光輝ではフリードに敵いはしないだろう。背負っている責任の大きさが違うのだ。
「だけど俺は絶対に折れないし諦めない。どんなに足掻いても貴方を止める」
だけど人を助けたいという意思だけは絶対に負けないのだ。それが天之河光輝のこの世界にいる理由だ。
「悪いけど、俺はどうしようもなく諦めが悪いからな!」
(くそっ!なぜこうも癪に触るのだコイツは!)
次々と魔法を放ちウラノスに攻撃命令を出しながらもフリードの心中はイラつきによりかき乱されていた。
魔王と並び立つと言われていた勇者は想像よりもずっと貧弱で取るに足らない存在だった。だから失望により殺そうとするも 仲間の協力により九死に一生を得てまたもや自分に挑んでくるのだ。
(しつこく癪に触る!何なんだコイツらは!?)
馬鹿ではあるが道理が分からない奴ではない、力量差だって気が付いているはずだ。それなのにしつこく付き纏い邪魔をしてくるのだ。
この勇者たちにとってはトータスの人間族は第三者であるはずだ、寧ろ呼び出した元凶でさえある。それなのにどうしてここまで必死に食らいついてくるのか。
(洗脳でもされたか、それともよほどの大馬鹿なのか)
理解が出来ない、訳の分からないニンゲン。魔物を止めろ、戦争を止めろ、人殺しをやめてくれ。
「つくづく反吐の出る言葉だ…!」
ずっとずっとの昔から続く戦争だ、犠牲者が出るのが当たり前の戦いだ。人間族として生まれた以上フリードの敵でありまた魔人族の自分たちも人間族の敵である。そんな当たり前の関係に部外者がしゃしゃり出てくるのだ。
「どうして部外者が我らに関わろうとする!甘ったれた子供の思想をどうして私に押し付けるのだ!」
怒りによる咆哮だった。反吐が出る偽善に対してどうしようもなく怒りが湧き出てくる。そんなフリードの怒りを知ってか知らずか光輝はやはり大声で叫ぶ
「子供だからだ!子供でも駄目だと分かる人殺しをしようとするから関わって止めようとするんだ!」
「貴様たちが人間族にとって都合のいい駒だとしてもか!お前たちを盾にして自分たちは助かろうとする人間族をお前は助けようとするのか!」
「勿論だ!」
これだ、この余りにも開き直った叫び。自分達がどういった存在かを知ってもなお真っ直ぐに叫ぶこの愚かなまでに清々しい叫び。
そのせいかフリードは光輝を無視をすることが出来なかった。
(忌々しい!私はコイツと遊んでいるわけにはいかないというのに!)
フリードの役割は司令官としての指揮が本来の役目だった。だが魔王に一目置かれている勇者を一目見ようとして場を部下に預けここまでやってきたのだ。
現場の状況がどうなっているのかフリードは知らない、部下が後れを取るとは思えない、大多数の魔物を退けるとは思えない。だからこそさっさとこの勇者を始末したかったのだが…
(私は!この甘ったれた奴から逃げる事は出来ん!この何も知らないような偽善者からは!)
相手側からの攻撃は一度だってない。それが本当に誰かを傷つける事を望まず停戦を望む姿勢だとフリードは理解していた。
だからこそその甘い考えが気に喰わなかった。戦争に善悪を持ち込もうとするこの勇者が気に喰わなかった。
……全身全霊でこの戦争を止めようとする
そんな暗澹たる思いを抱えてしまったせいか、その時はやってきてしまった。
チャラン~チャラン♪ チャラン~チャラン♪
その音はフリードにとってはいきなり戦場で鳴り響いたチャイムのような物だった。警戒はする物の気の抜ける音だと例えても良い物だった。
だが目の前の敵対しているはずの二人は急に跳ね上がったように慌てだしたのだ。
「ヒッ!?この耳障りで一番聞きたくないチャイム音は!?」
「き、緊急地震速報!?!?どうして何でこのトータスでこの音が!?」
明らかに疲労とは違う汗を流し周囲を警戒し始める勇者と騎手の二人。フリードを警戒はしている者限りなく集中が薄れている証拠だった。
「一体何の真似か知らんが、ここで決着をつけさせてもらおう」
慌てて混乱する二人にとっては異常事態でもフリードにとっては別の話。そう考えウラノスにブレスを吐かせようとした時、
『あ~あ~マイクテスマイクテス~ おけ?それじゃトータスの皆さん!元気ですか!』
余りにも呑気な声が王都中に響いてきたのだった