「ふぅ、やっと着いたね。中々手間度ちゃったよ」
「………」
コリをほぐす様に肩を揉む南雲。その隣では無茶な運転でベッコンベッコンに拉げてしまった大型バイクが横たわっていた。その悲惨なバイクを気にせず慣れないバイクを運転して疲れたという感じの南雲に俺は恨みがまし視線を送っていた。
「何?どうかしたの」
俺の視線に気が付いてこのキョトンとした顔である。自分が何をしていたのか本当に分かっているのだろうか?
「こ」
「こ?」
「怖かった!」
深山にある神殿からこの拠点までどうしたって距離がある。だからバイクを使うのも仕方がないとは考えたが…
「ほっとんど崖から落ちて行ったようなもんだぞアレ!どうしてそう平気なの!?」
ぶっちゃけ崖から真っ逆さまに堕ちて行ったようなもんだったのだ。何度空中に体が投げ出されそうになった事か。あの道中を思い出してまた体がブルリト震える
「あはは、君の運転よりはずっとマシなはず――うん?まぁいいや。行こう早くしないと手遅れになっちゃう」
苦笑しながら話をしていた南雲は一瞬不思議そうに首を傾げ、それよりもと拠点へと歩き出した。慌てて俺もその後へ、今は崖が同だとかどうだっていいのだ。
「…にしても普通地下室なんて作るかねぇ?」
拠点の端っこにある偽装された蓋を開け中の階段を下りていく。あの日からもう何度も通った道ではあるがそれにしたって出るのは驚きと呆れが混じった溜息だ。拠点ってだけでも良い思いさせてもらっているのに、秘密裏に違法改造をするかね?
「秘密基地だよ。それぐらい普通じゃないの」
「そうか?そうなのかなー」
秘密基地と言えばやはり地下室なのだろうか。気持ちは分かるが、それでもこの地下にあるのはちょっと異質すぎるのだが…
(相変わらず世界観壊してんなこの部屋!)
南雲に先導されて着いた部屋は、はっきり言えばこのファンタジーの世界から逸脱した部屋だった。
まず目に飛び込んでくるのは正面に設置されたモニターの数々である。所狭しと置かれているそれは王都のあらゆる所に置かれている監視カメラからの映像を送ってきているのだ。
そして机の上に置かれているパソコンと映画とかでよくあるスイッチ(キーボード?)の数々だ。ぶっちゃけそんなに量は要らないんじゃないのかとか南雲一人でこんだけ必要なのかとか疑問が出てくるが…まぁここはツッコんだら負けだ。
要はこの部屋だけ日本のテクノロジーが密集されているのだ。
『そりゃ僕だって世界観壊すのは嫌だよ。でもねもしもの事を考えたらこれぐらいは必要なのさ』
とはこの部屋を最初に見せてくれた時の南雲の弁だが…まさか本当に使う事になるとは、そして本当に魔人族が攻めてくるとは。
「…マジで攻めてきたんだな」
王都の様子を示すモニターからは大量の魔物の姿とそれらを撃退する俺のクラスメイトの姿が映っている。勿論想像はしていた事だった、王都が攻め込まれたら自分達も戦わないといけないって。でもまさか一直線で魔人族が攻めてくるなんて誰が予想できたのだろう。
「用意しておいてよかったね」
そんな俺の心境を察知したのか実に様になる顔で南雲はそんな事を宣う。もしかしこんな事になるなんてわかっててやったのだろうか。
「感だよ。虫の知らせって言うのかな?もしくは…既視感?」勘だよ
「なんだそれ?」
「さっきからどうも変な気がして…兎も角用意を進めているから、君は君で心の準備をしてよ」
心の用意と言われてもする事なんてない。この作戦が終わったら恐らく拘束されるのだろうから、最後の自由を謳歌して置けって事なのだろうか。
気分転換を兼ねてモニターを見る。映し出された王都の様子ではやはり、魔人族と人間族が戦っていた。数は圧倒的に劣る魔人族だが
周囲の魔物に号令をかけ、対して人間族は徒党を組み魔物の数に抗っている。
(なるほど、まだ戦っているって事は、アイツ等はっと)
探せばそこには広場で戦う坂上が居た。魔物を千切っては投げ千切っては投げを繰り返し、ぶっちゃけ負ける要素の見つからない無双状態である。オマケに坂上の動きに合わせる様に巨大なゴーレムが戦っていて…うん?
「なぁ南雲、このゴーレムってお前が作ったのか?」
「知らないよ。坂上君と共闘しているところから見て騎士団の秘密兵器なんじゃないの?」
そうなのだろうか?騎士団にそんな技術力があったのだろうか?オマケになんかちっちゃい子供の背丈のようなゴーレムがわちゃわちゃとモニターのそこら中に映っているし…
「あの小さいゴーレムはもしかして野村君が何かやったのかも」
「アイツが?そこまで凄かったのか…」
流石野村。辻さんとは上手くいってるようだし、真の勝者とはあんな奴の事を言うのだろう。にしても暗闇であんまり見えなかったけどゴーレムの数多くない?
「んじゃあの空にさっきから見える影は…」
「知らないってば」
斎藤あたりだろうか?正直このカメラはあくまでも監視用なのでそこまで性能が良くないらしいので動き回る影が何なのかはわからないのだ。ただ、空に居る魔物が次から次へと地面へと堕ちて行ってることから判断したぐらいだ。
まぁ斎藤だと思うが…アイツ空を飛んでから本当に可笑しくなったな
「あ、檜山と白崎だ」
「え?」
「ほらあそこ、あの両手に大剣を持ってる…何か」
路地裏の壁を蹴り自由自在に動く檜山はまぁ分かる、アイツ本当に強者だもん。ならそれより恐ろしげな大剣二刀流のあの白崎は何なのだろうか?アイツの天職は治癒術師じゃなかろうか?南雲に視線を向けると物凄く微妙な顔をした後うげっと顔をした。みれば白崎がカメラに気が付いているような動きをしている。…考えないでおこう
白崎の異常行動を視界の外に置いてモニターを見ていた時、王都の空を駆る二つの影が確認できた。
「あれは…天之河と中村か?」
首のない竜で空を飛んでいるのは天之河と中村だった。中村が騎手をして空を飛びその後ろで天之河は光る剣で何事かを叫んでいる。こう言っては何だがその必死な顔は胸を響かせる迫力がある顔つきだった。
「どうやら敵の指揮官と戦っているみたいだね」
「マジで?」
天之河と敵対していたのは白竜に乗ったこれまたかなりの男前な魔人族だった。着ている意匠からして確かに豪華だったが前線に指揮官が出てくるものだろうか?
「間違いないよ。アレは指揮官だ」
「どしてそう言えるの?」
「他の魔人族が灰色の龍に乗っている中アイツだけ白い竜だよ。特別感あるじゃないか」
「なるほど専用機って事ですな」
ならアイツこそがこの魔人族侵攻戦の総指揮官だ。つまりアイツを説得さえすれば…ふむん。これは俺の腕が鳴る事ですな。
「さぁ準備が出来たよ」
そうこうして居るなかで準備が整ったようだ。いつの間にかマイクが設置されており、後はボタン一つで放送が始まる。
と、その前に。
「何してんの?」
「いや、流石に素面で生放送をするのはちょっとね…」
取り出したのは俺が作ってそのままお蔵入りしてしまった『深夜のテンションッ!』と『賢者タイム』の二種類だ。
「で、どっちを飲む?」
「僕も飲むこと前提なのかよ」
「まぁまぁ危ない橋を渡るときは一緒じゃん」
「はぁ…」
呆れたように溜息を吐いた南雲が手に取ったのは『賢者タイム』の方だった。まぁそうだろうと思ったよ。って事で俺は 『深夜のテンションッ!』をグイッと一気に飲む。
「おっふ。うーんコイツは効くねぇ!」
「ほどほどにね」
南雲の呆れた声が聞こえるがもう駄目だ。気分が高まって来るのが腹の底から分かる。つか攻めてきた以上あの魔人族たちだってそれ相応の覚悟はしている筈だろ?なら何をしたって自己責任じゃないか!
高まる気分に合わせて勢いよくボタンを押す。さぁ後は野となれ山となれだ!
『あ~あ~マイクテスマイクテス~ おけ?それじゃトータスの皆さん!元気ですか!』
「…あ?」
『うん?』
その声は広場の魔物をあらかた殴り飛ばし、数がそれなりに減ってきた所だった。あれだけいた魔物は小さなゴーレムたちの増援が来たおかげか数を減らし、ある程度のメドが立ちそうな時だった。
「この声は」
『柏木だ』
巨大ゴーレムとなった永山がポツリと漏らす。その名前を聞き誰の声か判明する、この能天気そうな声はクラスメイトの柏木だった。
「いやまて、アイツ教会の連中に連行されていたよな」
確か記憶では教会の本山である神山にいる筈だった。それがどうしてこの町中で聞こえるのか、寧ろその前に何故放送のように聞こえるのか。
『分からん、清水達が上手く行ったかもしくは自力で脱出でもしたか』
何となく後者ではないのかと坂上は考える。理由は無い、直感だ。
『まぁ元気な訳ないですよね!ただ今戦争の真っただ中ですもん!つか魔人族の皆さんいきなり攻めてくるなんて駄目ですよ!しかも夜襲だなんて!効果は抜群ですってば!』
うひゃひゃひゃと笑い声が聞こえる。おかしくて仕方がないのかその嘲るような声に何やら不穏な気配が漂ってくる。
「アイツ…ここまでイカれてたか?」
「いや、まだ理性的だった、はず」
永山も何やら思うところがあるのか何処からか聞けてくるクラスメイトの声に困惑しているようだった。
『でもまぁ仕方ないっすよね!永い永い怨恨が積み重なっているんですから!確かこの人間族と魔人族の戦争はずっと昔から続いていたんでしたっけ?。貴方達のおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのそのまたおじいちゃんの…ずーーっと昔から馬鹿みたいに続けていたんですよね!?んまぁ飽きないこと飽きない事!』
「何を言ってるんだろう?」
あらかたの魔人族を地面にキスをさせた斎藤は聞こえてくるクラスメイトの声に首をひねるばかりだった。
とは言え仕事は仕事だ。魔人族が地面に落ちて行ったとは言えそれでも空に魔物が居る事に変わりはない。襲い掛かる魔法や光弾を避けながらも魔物を切り落としながらも聞こえてくる話を聞く。なぜかここで聞き逃すとマズい予感がしたのだ。
『でもその戦いちょっと待っていただきませんか?少し俺の話を聞いてもらいたいんですよ、拒否しても駄目っすよ?それではお耳を拝借!』
「ホセ副長、彼は一体何を言ってるんでしょうか」
「分かりません。今はそれよりも避難民の誘導と魔物の駆逐に専念しなさい!」
「はっ!」
部下であるアランに檄を飛ばしまた自分も部下に指示を出す。メルドが居ない以上副長である自分が指示を出さなければいけない。
(せめて貴方が居てくれればって、そんな甘い事は言ってられませんよね)
解放者達の末裔であるメルド・ロギンスが居ればこの王都に運び居る魔人族の殲滅はぐっと楽になるだろう。だがいない者は仕方がない、メルドが感じた直感とやらを信じるしかないのだ。
(しかし彼は一体何を伝えようとしているのでしょうか)
騒音に混ざって聞こえてくるのは柏木の声だ。能天気そうで今一分からない変な少年。その彼がこの状況で一体何をしでかそうと何をしているのか、ホセは妙な胸騒ぎを感じていたのだ。
そんなホセの心情を知ってから知らずか明るく話していた柏木の声のトーンが一気に変わった
『その永きにわたる戦い、止めてもらえませんかね?』
「…そんな言葉で終わるのでしたらとっくの昔に終わっていますよ」
どこか煽る様な先ほどの言葉に腹を立てないのは、昔から続くこの戦争を終わらせれない自分たちに非があると考えていたからだ。
勿論努力はしている、しているが一向に実らない努力は何の成果をもたらさないのだ。
だから自嘲する様に溜息のような声が漏れた。止まれと言って止まる戦いではないのだ、呆れてしまうほどにこの戦争はずっと続いていたのだ。
『改めて自己紹介をさせていただきます。俺達、ううん、俺はこの世界の神、エヒト神によって別の世界からこの世界に呼び出されてきた者です』
『呼びだれた理由は、なんでも魔人族が魔物を使役するようになったせいで、人間族が危機に陥ったから勇者を召還して巻き替えそうだとか何とか。まぁともかく俺たち勇者組はこの戦争を止める為にエヒトって神に召喚されたんです。………俺たちの意思を無視してと言う滅茶苦茶大切な事を蔑ろにしてね』
「改めて思うけど、俺たちに戦争を止めろとか酷くね?」
「うん、いくら力を与えたって言っても私たち只の高校生だよ。何で子供にそんな重要な事を頼むのかなぁ」
柏木の放送を聞きながら野村と辻もまた頷く。幾らチートの力を与えられたからといっても高々成人すらしていない子供に一体何を望んでいるのか。エヒトという神は随分と身勝手で無責任だ、そんな認識がクラスメイト達のエヒトに対する評価で共通認識だった。
『それは貴方方トータス側からの話であって俺たちにとってどうだっていいんです。俺達ははいきなりこの世界に呼び出されたんです。俺たちの意思は無視され無理矢理だったんです。拒む事すらできずに見知らぬ世界で命を賭けて戦え、補填も保証も責任すら蔑ろでせめて必要最小限の説明すらも無くて。…ねぇ貴方達はこの事についてどう思いますか?』
「これ。柏木君怒ってる?」
先ほどのむやみやたらなテンションとは違ってやけに冷静な声。だが話している内容からして腹に堪っていた物があふれ出ているようなそんな声音だった。
自分たちの周りでわちゃわちゃと動いているゴーレムたちを次々に送りだしながらも野村もまたそれは仕方のない事だと思った。
「仕方ないよ。俺達普段トータスの人に世話になっているから誰にも文句言えないけど、…本当はこんなことしたくない」
勿論、世話になった人たちが死んでいいという話ではない。だが、こんな戦争とは関わりたくなかったというのは紛れもない事実だ。誰が好き好んで死地へと向かうのだろうか、誰が好き好んで無責任な神に賛同するのだというのか
『家に帰りたい。これが俺たちの…いいえ俺の意思です。昨日と同じ今日、今日と同じ明日。何でもない日常が大切だったと自覚した俺が思うのは只故郷に…家に帰りたいって事だけなんです』
「家…か」
「ホームシック?」
「ちげぇよ馬鹿」
白崎の揶揄うような声に檜山は吐き捨てる。別に家が恋しくなった訳では無い、ただふと家族の顔を思い出しただけだ
「親の事でも考えてんだろ、檜山ってば孝行息子だからな」
「おい馬鹿近藤、テメェなます切りにされてぇのか?」
「へぇ やっぱり檜山君て可愛いね」
「死ね」
途中で合流した近藤がニヤニヤと笑うので蹴りを入れれば今度は白崎までもが微笑む。蹴りを入れたところで敵う訳がないのは知ってるがそれでも足を延ばす。案の定さらりとかわされてしまったが
『どうでしょう皆さん。可哀想な俺たちに免じてここはひとつその手を止めてもらってもよろしいでしょうか』
「んなので止まる訳ねぇだろ。あほかコイツ」
巻き込まれた少年少女の為に勝てる戦を放り投げる人間が果たしてここにいるだろうか。答えは考えるまでもない、だから檜山は呆れた。光輝が言うのなら仕方がないとは思うが柏木ならそれで止まる訳では無いってわかる筈だろうに。
『何、別に戦いをやめろと言ってるわけではありません。俺達が帰ったら続きをしてくださっても結構です。ちょっと手を休めて民間人が避難をしたら再開すればいいだけの話です。ね?簡単でしょう』
「…馬鹿だね。柏木君て本当に馬鹿だよね」
「俺、アイツの事あんまり知らなかったけどまさかここまで馬鹿だったとは思いもしなかった」
白崎の言葉に近藤は同調する。だから近藤は気付かなかった、白崎が本当に呆れて、そして懐かしむように苦笑していることに
『………あのさぁ。止めようよマジで。何でまだ騒音が響いているわけ?何でまだ続けているの?魔物はしゃーないよ?コイツら只のゴミだから。でもさぁ俺の言葉がちゃんと聞こえている魔人族の皆さんと騎士団の人達は何度止めないの?話聞いてる?』
「……うーん」
「何、どうしたんだそんな変な顔をして」
清水と一緒に神山から帰ってきた遠藤は先ほどから難しそうに唸る清水を見て思わず聞いた。最初は呆れていた清水だが途中から顔を青くして何やらウンウンと唸り始めたのだ
「いや、何でこんな事をしてるんだろうって」
「そりゃ戦いを止める為だろ」
先ほどから柏木が放送しているのは戦争を止めさせるための言葉だ。だからそう思い話したが清水は尚更唸った
「いやアイツならそんな無駄な事はしない。つか隣には南雲が居るだろ、何でアイツは何もしないんんだ」
「?そう言えば柏木の隣には南雲がいたっけ」
とは言っても何をしているのかはわからない。遠藤は南雲とはクラスメイトではあるが友人ではないのだ。流石に何を考えているのかまでは想像つかない。
「うーん…うん?アイツらの天職って…それでこの状況、あーマジ?」
「何か分かったのか?」
『もしかして俺の言葉なんて聞くつもりが無いって事?どうだっていいって事?知った事ではないし知るつもりもないって事なんだね?
言ったぞ俺は。今すぐ戦いをやめろって』
「あ!」
その怒りが混じった声を聴いて、何するのか分からずとも確信した、何かとんでもない事をしでかすと。
そして自分達も巻き込まれるとのだと清水は確信してしまった
「……柏木?」
聞こえてくるクラスメイトの声に不穏と不安を感じるのは光輝の直感に置けるものか。ただ分かるのはこのまま戦闘を続けていたらなにか酷い事が起きてしまうのだけはハッキリと分かった。
「フリード!今すぐこの戦いをやめよう!柏木は…アイツはきっととんでもない事をしでかそうとしている!」
「先ほどから何やら下らぬ声が聞こえてきたと思えば貴様の仲間か!貴様と同じように随分と戯けの様だな!」
戦いを止めたい、それなのにフリードは効く耳を持たない。どうすればいいのか、光輝が悩むのを見越したかのような声が響いたのは直ぐだ
『柏木君、ちょっと待って』
『あ?今更止めるってのか?そりゃ無理な話だ』
『そうじゃなくてせめてあの指揮官に降伏勧告位したら?』
『それこそ無理だろ?この状況で俺の話を聞いて戦いを止める奴だなんてそんな頭のおかしい奴おるぅ?』
「………そんなこと言うなよぉ」
「こ、光輝君、諦めた駄目だよ」
柏木に悪気はないのだろうが今物凄く馬鹿にされたような気がした。確かにそれは内心思ってはいる、こんな説得で止めるなんてそれは難しいって。
『でも、こういうのはちゃんと言わないと。後々面倒なことになるよ』
『あーなるほどねー。そう言う事なら…コホンっ それでは改めまして今現在俺たちのリーダー天之河と戦っている指揮官さん、少し人の話を聞いて………何でリーダー同士が戦っているんだ?こいつら馬鹿じゃないの?』
『知らないよ。どうせ天之河が敵のトップを説得しようとして戦う事になっちゃったんだろ』
『ふむん争いは同レベルでしか起きないって事か。まぁいいや、それで指揮官さんよ、悪いが回りくどいのは止めて要求はストレートに言うぜ』
柏木達の勝手な物言い。恐らく自分たちの戦いをどこからか見ているのだろう、そう考えると先ほどの会話も納得できるが。…それにしたって柏木達が話をしているのを聞いてしまうとどうして場がグダグダとするんだろうか、光輝はちょっとだけ悲しくなった
『今すぐさっさと国へ帰れ。以上だ』
それは余りにも緩慢な降伏勧告だった。無数の魔物が王都を責めているという何処からどう考えても魔人族が優勢というこの状況下において余りにも傲慢な物言いだった。
「ああ、帰るとも。貴様らの首を取ってからな!」
だからこそフリードは怒りで狂いそうになった。相手が何を考えているのかは知らない、例え先ほどの召喚云々の話が本当だとしてもそれは相手の都合だ。
(全ては、我が先祖たちの悲願の為!)
たとえこの世界とは関係のない少年少女達を殺したとしてもフリードは止まる気はない、この戦いはずっと続いてきた因縁と執念の決着の時なのだ。今更、誰かの言葉で止まるようなそんな柔な覚悟で戦っているわけではないのだ。
(その為にもコイツは必ず葬らねばならん!我が全身全霊を持って!)
この呼びかけてくるふざけた人間よりも目の前の勇者の方がよっぽど手ごわかった。自身の魔法もウラノスのブレスも回避と防御を繰り返して、それでも執拗に迫ってくる。
「はぁ…はぁ…」
「恵理、平気か?」
「冗談、最後まで諦めないよ」
騎手の少女なんて汗だくで、それでもまだ闘志は尽きていなかった。それは勇者も同じ、どんな言葉を駆けようとも意思を変える筈がないと分かっているだろうにそれでも挑むその姿にある種の敬意を感じた。
「こいつらを始末せねば、我らに明日は来ない」
フリードの意識は完全に光輝に固定されていた。魔王から交戦を避けるように再三言われ続けてきたが、あろうことかフリードは光輝に惹かれてしまっていたのだ
『最終通告をするよ。戦いを自らの手で止め長年の因縁を今この時を持って終わりにしてほしい』
思えばそれが全ての間違いだったのかもしれない。
『そっか……そうだよな。お前たちにだって譲れないもんはあるわな。それじゃ、カウントダウンを始めまっす!』
溜息とも苦笑とも取れるような声が聞こえてきた後、どこか陽気な声が響いて聞きた。
「フリード止めろ!止めるんだ!柏木もまだ待ってくれ!今ならまだ」
「我が前から消え失せろ勇者!」
「ああもう!どいつもこいつも人の話を聞かないな!?」
『じゅう、きゅう…はち……ヒャア 我慢出来ねぇ 0だ!』
光輝が絶叫を上げフリードが声を荒げた瞬間、地面から一気に黄土色の煙が舞い上がって来るのはほぼ同時だった