ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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これにて第四章の終了です。

実際この為にダブルクロスの設定をお借りしました。


戦争終結

 

「ゴホッゴホッ!グッ!?一体何なのだ!?」

 

 突如地面から噴出された黄土色の煙はフリードが反応する間もなく一気に上空まで巻き上がってきたのだ。何事かと驚き咄嗟に腕で口元を抑える。

 

(敵の罠か!?ここは奴らの本拠地だぞ!?もろとも自爆のつもりか?クソッ!考えがまとまらん!)

 

 視界が黄土色に染まる中咳き込みながらも頭をよぎるのは混乱した内容だった。敵の罠だと気が付きはするもののまさか自分の国に罠を設置するという常識外な行動。それは奇襲をしたのだというのにまるで来るのが分かっているかのような用意の良さ。

 

「ウラノス!早くこの場から撤退を…ウラノス?」

 

「………ゥゥ」

 

 なんにせよ今すぐにでもこの煙から逃げた方が良いのは確か。白竜ウラノスにこの場から離脱する様に命じるがなぜか反応が芳しくない。様子を伺えばに小さな鳴き声が返って来るのみ。  

 

「ウラノスどうしたというのだ!?ウラっ!?」

 

 相棒であり親友であるウラノスの異常を察知した時にはもう全てが手遅れだった。フリードの身体に違和感が出始めたからだ。

 

「ゴホッゴホッ!…ぶえっくしょん!」

 

 感じるのは急激な体のだるさと喉のむず痒さ。心なしか寒気がし、頭がぼんやりとする。無意識に額に手を当てればかなりの熱をもっていた。

 

(コレは…なんだ?私は……?もしかしてこの煙の…)

 

 そこまで考えて急に体が浮き上がったような気がして、周りを見渡せば自分が空中に体が投げ出されているのを感じた。

 それもそのはずウラノスがついに飛べなくなりフリードもろとも地面へと落下したのだ。

 

「グッ!?」

「ギュッ!」

 

 受け身を取ろうとするも力が入らず地面へと叩きつけられるかとフリードは熱を持った頭で身構えたが、思ったほどの衝撃は無かった。何か柔らかい物のがフリードと地面の間にあったからだ。

 

「ウラ…ノス?」

 

 ふらつく体を無理矢理動かして見たものは随分と衰弱してしまっている白竜ウラノスだった。自分が地面に墜落した時に力を振り絞ってクッション代わりになったのだろう。

 

 

「クソッ…人間族め、まさかこのような罠を張っているとは」

 

 自分が落下した場所は王都の中の住宅街だろうか。見回せば黄土色の煙はいつの間にか消えてなくなっていた。

 

 自分の急な体調の変化に白竜ウラノスの衰弱。原因なんて一目瞭然であの黄土色の煙のせい。勇者との戦闘に時間をかけていたせいで罠の気配にすら気が付かなかったのだ。

 

(クッ 人間族の卑劣さもそうだがこのような罠にかかってしまった私も私か)

 

 先ほどの声はこの事に対する警告だったのか、味方を巻き込んだ罠など気狂いでしかないがそれを予想できなかった自分もまた愚かだった。

 

「それよりもまずはウラノスの治療を…いや、アイツ等と合流を」

 

 ウラノスを治すかそれとも一度引いて部下と合流するべきか。熱に浮かされる頭でとっさの判断を迫られるフリードの前に地面から降りてきたのは勇者天之河光輝だった。

 

「恵理!大丈夫か?無理はしないでくれ」

 

「平気…だよ。ほんのちょっと怠いだけで」

 

 降りてきた光輝は少女の介抱をしていた。汗を流しながら気丈に笑う少女に視たところ何一つ異常が見られない勇者。何故違いが出てくるのかと疑問に出てきた所で能天気な声が聞こえてくる

 

『さて、みなさん俺の渾身のお薬の効果は如何かな?戦闘に夢中だったから存分に吸ったっしょ?』

 

 くすくすと笑っているような声だった。この自分がふらついている光景もどこかで見ているのだろうか、それにしても何とも胸騒ぎがするような煽った声だった。

 

 

 

 

「柏木!一体何をしたんだ!?恵理が治らないんだ!」

 

 光輝は恵理に向かって何ども治癒魔法をかける。しかしその効果は一向に見られず恵理の顔色は悪いままであり治る気配が無い。焦った光輝が空に向かって叫べばまるで見越したかのように柏木の声が響く

 

『ああ、毒じゃないから心配はしないでくれよ。その煙の効果を滅茶苦茶簡単に説明すると風邪を引いた状態にさせるんだ』

 

「…風邪?」

 

 確かに改めて恵理を見れば症状は軽度の風邪の症状だった。妙に熱っぽく顔の赤みが増していて時折せき込んでいる。自分達と同じように地面に落下したフリードも体調が悪いのか荒い息を吐き体がフラフラと揺れていた。

 

「でも、どうして俺は平気なんだ?」

 

 呟くのはそんな疑問。恵理やフリードは症状が出ているのに、自分は何ともないのだ。そんな当然の疑問は続いて聞こえてきた大馬鹿達の声によって解けてしまった

 

『お?何ともなかった人達も居るみたいだな、良かった良かった人間まだ捨てたもんじゃないって事か』

 

『柏木君説明しないと何の事やらさっぱりな人がいるよ』

 

『ふむん、それでは説明しよう。その煙はな、人に対して敵意や殺意を持った者に効くんだよ。『犯因症』っていうのか?兎も角人に対して敵意を持った奴はもれなく風邪をプレゼントだ』

 

 馬鹿2人の説明を聞いて納得する。確かに自分はフリードに対して敵意は愚か殺意を抱いてはいなかった。ただ戦いを止めて欲しいというそれだけで食い下がっていたのだ。

 

「はは…光輝君アイツ等最低最悪の策士だよ」

 

「恵理?」

 

「この戦場で…相手に対して敵意を抱くなってのは土台無理だよ…皆が皆光輝君じゃないんだから」

 

 息を荒くしながらも出した恵理の言葉は正論だった。この戦場においては当然であるその感情、だからこそ恵理やフリードには効果が出てしまったのだ。

 

『ちなみにだけどその煙は魔物に対しては致命傷なレベルの猛毒だからね』

『戦っている人は風邪で立っているのもやっと。糞ゴミな魔物は猛毒で全滅。うんうんこれぞ平和的解決って奴ですな♪』

 

「何処が平和なんだよ…」

 

 何とも言えない顔でそんな言葉が出てしまうのはどうしようもなかった。確かに遠くの方で魔物が口から吐しゃ物を吐き痙攣しながら倒れる魔物の姿を見れば猛毒の類なのは間違いないのかもしれない。でもそれはそれとしてそんな薬を味方が居る戦場で(しかも避難民もいる王都で!)まき散らすなんて正気の沙汰とは思えなかった。 

 

 そんなクラスメイトの鬼畜の所業にドン引きしているとまたもや放送が流れてきた。

 

『…風邪をひいた時って辛いよな。体はだるいし頭はボケーっとするし、正直死ぬんじゃないかなってそう思うよな。……それなのにまだ戦おうって言うのかよ』

 

 何処か呆れと感心が混じった声。風邪の症状が辛いのは光輝だって知ってるそれなのに戦おうとする者がいるなんて…そう考えた時目の前に迫る炎の玉をほぼ無意識で光る剣で防いだ。

 

「っ!? フリード!?」

 

「それが…なんだ!私は…私たちは負けるわけにはいかないんだ!」

 

(そうか…そうだったな)

 

 目の前にはふらつきながらも闘志をみなぎらせるフリードが居たのだ。美丈夫だったその顔は熱を持ってか赤くなり汗が流れ呼吸が乱れ…それでもまだ闘志は尽きていなかったのだ。

 

「…止めようフリード。貴方方の戦力である魔物は死んだ。もうこれ以上は」

 

「それがどうしたというのだ!只の駒が死んだところで我ら魔人族は折れるものか…私一人になっても!決っして諦めん!」

 

 漲るその姿に光輝は言葉を失う。柏木が散布した薬は戦場にまき散らすつもりからして生易しい物ではない筈だ、病魔の様に蝕み地に臥せさせるその効力をもってしても、その体の不調を凌駕するほどの精神がフリードにはあったのだ。

 

『うーん、風邪をひいたら止めると思ったんだけど…』

『魔人族って結構丈夫なのな』

『ま~だピンピンしている奴が一杯居るよ』

 

 そのフリードの姿を肯定するかのような二人の会話が流れてくる。フリードのほかにもまだ気合で戦おうとする魔人族が居る事に光輝は苦虫を潰した様な顔になる。

 

(ここまで…そこまでして止まれないのか?)

 

 信念や覚悟のせいで苦しむその姿、それがどれほど余計な苦痛を生むのか。そんな光輝の感傷を状況は察してはくれなかった。

 

「グッ!?ぐほっげほっ ヌォォォオオ!?」

 

 フリードの顔色が赤から青色に変わったのだ。何が苦しいのか今度は鼻を摘まみ吐き気がするのか何度もえづきはじめたのだ。 

 

「な、何が起きたんだ?」

「うぇぇええ……」

「恵理?平気か」

 

「光輝君…なんかそこら辺から変な匂いがするぅ」

 

「……は?」

 

 まったく意味が分からないと怪訝な声を出せば説明するかのように放送が流れてくる

 

『風邪をひいてそれでもまだ戦う、うん、一応想定はしていたんだ。だからそんな強情な奴にはシュールストレミングをプレゼントだ♪』

 

「……うん?」

 

 今柏木はなんといったのだろうか。妙に明るい声でとんでもない事を宣ったような気がして、光輝は思わず耳を疑ってしまった。

 

『ちょっと?』

 

『その煙には段階的に症状が酷くなる仕組みがある。大人しく武器を降ろせば風邪だけで止まるんだよ。それでもまだ敵意を消せず戦おうって言うのなら、シュールストレミングの匂いを嗅ぎながら戦いなぁ!』

 

「………さ、最低だ」 

 

 シュールストレミング、それは光輝達が住む地球で最も臭い食品として名高い発酵食品だった。中身はニシン塩漬けであるはずだが匂いは強烈その物で 、放置しすぎた生ゴミだとか極まった公衆トイレだとか兎に角酷い匂いのするものだった。

 

 幸いにも?光輝にはその匂いは感じられない。先ほど言った敵意が感知されなかったからだろう。だが恵理とフリードは?

 

「うぇぇええ 酷い匂い…」

 

「グホッ!?ゲホッ!?…オロロロロロ」

 

(ひ、酷い状況だ)

 

 鼻を摘まみ涙を流す恵理とせき込んで遂には胃の中にあった物を戻してしまったフリード。もはや戦争がどうとかいう話ではなくなってきたような気がした。

 

『ねぇ何それ?確か風邪をひいてそれでも動く奴には麻痺をさせるって話だったはずだけど?シュールストレミングとか僕そんな話聞いてないんだけど?』

 

『あははは、俺はちゃんと警告したぞ。それを無視した奴にはそれ相応の報いが来るのは当然じゃないか』

 

『……いや、君はそれでいいのかもしれないけど王都が汚都になるんだけど』

 

「そこは止めとけよ南雲!?」

 

 静観してしまった南雲につい突っ込んでしまう光輝。流石にこれ以上はどんどんマズくなるのではないかと冷や汗が流れてしまう。現に例え這いつくばりながらもフリードはそれでも闘志を消していなかったからだ。

 

「ふ、ふふ…たとえ汚濁に塗れようとも…我らは屈さんぞ…人間どもぉ…」

 

 ズリズリと這いずりながらも向かって来るのはある種の狂気を感じるほどだ。顔は真っ青で意識があるのかすら怪しい呂律。それでもまだフリードは戦う事を諦めようとしないのだ。

 

「なんで…何でそこまでするんだ?」

 

 光輝にはわからない。はっきり言えばこの状況魔人族が圧倒的な不利な状況なのだ、柏木が散布したあの煙で魔人族の戦力である魔物は全滅。そして魔人族事態も風邪を引き圧倒的な不調によりパワーバランスはもはや崩壊しているのだ。…人間族も巻き込まれている可能性もあるのだが

 

 皮肉にも電撃作戦の人間族の本拠地を奇襲するという作戦の時点で魔人族は敗北する運命だったのだ。 

 

「分かるものか…ようやく…我らに平穏が訪れるのだ…。貴様らが死にさえすれば…」

 

 息も絶え絶えでそれでも向かってくるフリードの口から出たのは怨嗟のような声。ほぼ死に体の状況でまだ消えぬその意思は光輝の想像を超えていた

 

「勇者よ…貴様にはわからんだろうな……魔人族の命運を背負った我らの意思なぞな」

 

 そう語るフリードには光輝には知らない宿命でもあったのだろうか。巻き込まれ請われ、それから自分で願い考えそうして今この場に居る光輝には計り知れない。そんな思いが魔人族にはあるのだろうか

 

(……俺にはわからない)  

 

 だが光輝にはわからない、あくまでも光輝は平和な日本で育ってきた高校生であくまで想像することしかできないのだから。

 

「光輝君、終わらせてあげなよ」

 

「恵理?」

 

「結局相手の事なんて考えたところで意味なんてないよ。こんな状況じゃ特にさ」

 

 ある程度容体が回復したのか、恵理は真っ直ぐに光輝を見つめてきた。そして光輝はまた恵理の言葉もまた正しいのだと感じた。

 

 この戦場で相手の事を推し量ろうとするは間違いであり、さっさと終わらせるべきなのだと。それが戦場に立つ者の当然の考えであり常識だったのだ

 

(…自分がどんな思いをしても相手にとっては意味が無い、か)

 

 つくづく辛辣な場所だと光輝は溜息が出そうになる。戦争参加を押し付けてきた王都の人間に、深夜にいきなり奇襲してきた魔人族にその悉くを踏みにじるクラスメイト。

 

 ままならない、そう光輝が思った所でその放送は響いてきた

 

『すげぇよ。アンタら本当にスゲェよ』

 

 その声には強い感心の感情が含まれていた。それが誰に対して向けられたものか光輝は何となくわかった。

 

『フラフラになって汚物を垂れ流しそうになって、そうしたら止めるって俺は思ってたんだぞ?それがまぁ…まだ戦おうって、ホント凄いよ』

 

 惜しみの無い称賛なのだろう。実際光輝自身も賛同は出来ないがフリードのその覚悟はすさまじいと思っていた

 

『アンタの事勇者って呼ぶんだろうな。魔人族の勇者。うん、だからそんなアンタに敬意をこめて一つプレゼントするよ』

 

「――――――――あ」

 

 そう言った瞬間だった。フリードが一言呟いて崩れ落ちてしまった。遂に立てなくなったのか、体力が限界になったのかそう思ったがフリードの顔を見た瞬間、光輝は酷く顔を覆いたくなった

 

「お”っ♡ お”っ♡お”っ!?♡」

 

 顔は完全に紅くなり涎をたらして奇妙なうめき声をあげる先ほどまで決意に満ちた美丈夫。時折身体を震わせビクンビクンしているところからして何の薬をその身に浴びてしまったのか、疎すぎる光輝でもわかってしまった

 

『よく効くだろ?流石にこれは最終手段だと思っていたがまさかこの症状が出てくるまで凄い男が出たとは…うーんやっぱ魔人族って凄いんだな!』

 

『あー …一応聞くけど何の薬を使ったんだい?』

 

『皮膚の感度が三千倍二なるお薬。そよ風を受けただけで逝き狂うって奴よ』

 

 

「……えぇ」

 

 完全にドン引きだった。明らかにヤバイ薬を王都中に拡散させるとか柏木は頭がおかしくなったのだろうか、いいや元から変だったが遂におかしくなってしまったのかもしれない。

 

「アイツ、救いようのない馬鹿だ」

 

「…うん、俺もちょっと擁護できないかも」

 

 これが動きを止めるだとか気分が悪くなるだとかならまだ用語は出来そうなものだが、流石にここまでくると悪辣だ。柏木の中ではトータスの人達は実験動物か何かにしか見えなくなってしまっているのだろうか。

 

 そんな考えで恵理と同じように深い溜息を吐いたのだが隣の少女は違ったようで 

 

「何で光輝君には効かないないんだよぉ!そこは効くようにするのが常識だろうがチクショォォオ!!」

 

「恵理、そう言う話じゃないと思う」

 

 目の前にはアヘ顔を晒して痙攣するフリードに隣では柏木への暴言を連発する少女。

 

 

 今度こそ光輝は顔を覆って深い溜息を吐くのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさぁ、ちょっとこれはやり過ぎじゃない?」

 

 モニターに映る阿鼻叫喚を見て溜息を吐き隣に居る親友に苦言を出すのも仕方なかった。

 

 本来ハジメの計画では王都に魔人族が集まってきた時にトラップとして発動、風邪を引いてそれでも動く者には麻痺をさせて身動きが取れなくなった魔人族を拘束するというプランだった。

 

「そうか?でも俺本当に何度も警告は出したはずなんだけどな。止めとけって」

 

 マイクのスイッチを切りこちらに向き直った親友の目はどこか爛々と輝いている。 

 

(確かに言ったけど…それ、聞き入れてくれるはずがないって分かってたよね?)

 

 確かにやめろとは言った、だがその内容には親友の無自覚な悪意が含んでいるのをハジメは感じ取っていた。

 

 どのような状況だとしても人の言葉で止まるのなら戦争なんて起きる筈がないのだ、それを分かってた上でトラップを仕込んだのは自分だ。

 そして親友もそれに同意した。だから親友は理解していたはずだ、必ずこの罠が魔人族に引っかかると。そして王都の人間もまた同じように。

 

 それなのに、わざと醜態を見せつけるような薬を親友は作ってしまったのだ。

 

「あ、オイ見ろよ南雲。あの指揮官ビクンビクンしてる、やっぱ三千倍って凄いな!」

 

 無邪気にモニターを指し示す親友のその指先では魔人族の指揮官が地面に倒れ何度もぶるぶると震えていた。それが面白いのか親友の顔は喜色満面だ

 

(……はぁ)

 

 溜息は一回だけ。親友のトラップの内容を任せっきりにしていたのは自分だしこの計画を立てたのも自分だ。だからこれはまぁ必要犠牲という奴なのだろう

 

「うん?どうした南雲?」

 

「ごめんね」

 

「お、クエッ”!?」

 

 奇声を上げ一気に気絶し沈黙してしまった親友。何てことは無い、首を絞めて落しただけだ。 

  

 ずるずると力なく倒れる親友を椅子に座らせ改めて大きな溜息。後はマイクを握りモニターに流れる王都を見て、再度深呼吸。

 

『あーあー王都の皆さん聞こえてますか?聞こえてると思って声を掛けます。今王都を攻めてきた魔人族と魔物なんですが、全員壊滅しています。まぁ平たく言えば人間族の勝利です』

 

 放送を流し、改めて状況を伝える。魔物はあの煙によって例外なく即死し魔人族もまた風邪の症状でフラフラだった。

 後に残されたのは、体調を崩しふらつきながらいきなりの状況に困惑しているハイリヒ王国の兵士達や騎士たち、自衛していた冒険者たちなど戦っていた者達だった。

 

『改めて言いますが、戦争は終わりました。だから武器を持っている人、まだ戦おうとしている人は止めて下さい、魔人族と同じように悲惨な目には遭いたくないでしょう?』

 

 戦争終了。その言葉を改めて王都の人間たちに知らせると、勝利したという喜びを爆発…させる事もなく物凄く居た堪れないような顔をする者達がモニターには映し出されたのだ。

 

 その者達が向ける視線の先にはピクリとも動かない魔物に息を荒くし倒れ込んでいる魔人族。自分たちが倒したのではなく罠によって病気で倒れてしまったというなんとも後味の悪い勝利だったのだ。 

 

『今からの戦闘行為を全て禁じます。攻めてきた魔人族に敵意を持つのは仕方のない事かもしれません、ですが倒れている魔人族を傷つける行為をすれば、貴方方もまた同じように…いえ、それ以上に悲惨な事になります。…うん、ご理解感謝します」

 

 戦闘行為を中止しなければ悲惨な事になる、そう認識させてしまえばこれ以上倒れている魔人族たちが傷つくこともなく酷い目にあう事もないだろう。そう含ませる言い方をすれば、人間族は武器を降ろしていった。

 

 後は大丈夫だろうと判断し、見知った顔をモニターに映し出す。物凄く苦い顔をした頼れる大人の一人だ

 

『ホセ副長聞こえますか? 申し訳ありませんが魔人族の拘束や運搬など諸々の後始末をよろしくお願いします』

 

 申し訳ないと思いつつもこういう時はホセの力を頼る事にした。魔人族は拘束さえしてしまえば無害であるし何より解毒薬を作れるのは柏木だけなのだ。回復しまた襲ってくることや逃げ出すのは不可能である以上もう脅威にはなり得ない

 

『あーあー 皆聞こえる?悪いんだけど騎士団の人達と協力して後始末をお願いしてもいいかな?……うん、君達の言いたいことは尤もだと思うけど、その処遇は後でお願いするよ」

 

 戦っていたクラスメイト達にはそのままホセのサポートに入る様に頼んだ。皆が異常な力をもっているのであれば、後始末も順調に行くだろうし何より野村のゴーレムが居る。アレが居れば後片付けば楽に行くだろう。

 

 光輝は勿論、清水や檜山を筆頭に何人かのクラスメイトが何かを言いたさそうなのを苦笑して見送った後、ハジメはモニターの電源とマイク放送の電源を消した。

 

 もうこの戦いでするべき事は終わった…戦争は終わったのだ。

 

 

  

 

 

 

 

「はぁー ま、こうでもしなきゃ守れないって事だよ」

 

 椅子に深く座り直し、気絶して図々しくもいつの間にか寝息を立て始めている親友の頬を遠慮なく突く。

   

 南雲ハジメが計画した防衛計画。それは王都に住む人間族を囮とした王都全体を巨大な罠にする事だったのだ。

 

 魔人族が攻めてくる以上どうしたって王都が戦場になる。魔法の関係や魔物の数などを考えても人間族が攻める事はどうしたって出来ないとハジメは考えていたのだ。

 

 だったら魔人族を一網打尽にし戦争を手っ取り早く終わらせる方法は何か、そう考えた時王都を罠にすることを考え付いてしまったのだ。

 

「カトレアが迷宮に居た以上、魔人族が攻めてくる方が早い。そしてその場所はこの王都だ」

 

 カトレアの居た場所、そして魔物の数と質。どうしたって人間族だけでは王都を守り切れることは出来ず、またクラスメイトの力がいかに強くても個々の力ではどうしたって無理が生じると考えた時、すらりと王都を罠にする計画が浮き上がったのだ。

 

 

 罠の内容は流血沙汰にならない様に毒ガスを使う事が自然と湧いて出てきた。血を流さず傷つかず、スマートで尚且つ脅威はしっかりと刻まれるように。

 

「大まかな薬の内容は柏木君頼み、でもこの王都中にまんべんなく届くようにするのは僕の役目」

 

 計画を練った地図を取り出し、マーカーをなぞる。錬成師としての仕事をしていたお陰か王都中のパイプラインを考えるのはたやすい事だった。

 後は錬成とモルフェウスの力を応用するだけの単純作業。懸念事項としては親友が作った煙が行き渡るかどうかだったがそこはオーヴァード、何もかもが自分の思う通りに動いてくれたのだ

 

「作戦勝ちって所かな。まぁ大部分は君のお陰なんだけど」

 

 親友の額を何度もぺシぺシと叩く。自分一人の力ではこうはいかなかったが親友が手を貸してくれたお陰で上手く行った。

 その事に安堵と多少の愉悦な気分が出てくる。

 

 

「……これで人間族と魔人族は戦いを止めざるを得なくなる」

 

 うっすらと考えるのは仄暗い事。あの煙がどのような物か魔人族を見れば人間族は理解するだろう、そしてその薬をまた自分達もまた吸ってしまったという恐怖感が染みついているだろう。

 

 戦争を無理矢理止めてしまった薬を作ったの誰であるか、()()()()()()()()()の解毒剤が作れるのは誰なのか。そしてその人間が何を願っているのか。

 

 人間族は気付かなければいけない、魔人族は身を持って分からなければいけない。

 

「ほら、これで良いんだろ糞エヒト。これがお前の見たかった光景なんだろ」

 

 どこかでこの愉快な光景を眺めているであろう神に煽る様に吐き捨てる。何処にいるか分からず、存在自体が怪しい神だが自分達を呼び出した元凶であることは間違いない。

 

 イシュタルは召喚されたハジメ達に対して人間族を救う事こそが地球帰還への一歩だと宣っていた。だからハジメはその通りに行動をしたのだ。

 

 人間族が勝てる様にしろとエヒトは言わなかった。魔人族を殺せとはエヒトは言わなかった。だからハジメはこう解釈をした。

 

『人間族、魔人族、双方を共倒れにさせる』

 

 振るう力をなくせば戦争をやっている余力なんてなくなる、だから魔人族は当然として人間族も巻き込んだ。ハジメにとっては人間族も魔人族もどちらもトータスの生き物であることに変わりなかったのだ。

 

 そして又、親友も同じように考えある非道な計画を立てて実行してしまった。捕まえた魔人族カトレアを利用して、自分と同じように戦争を止めるための、魔人族の命運を左右させるような優しくも愚かな計画を

 

  

 

「…トータスの命は親友が握っている。だから、いい加減茶番を終わりしろよ」

 

 トータスの戦争終結を画いた錬成師は仄暗い笑みを浮かべながら嗤うのであった 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに初期案ではもっと酷い症状になる予定でした。
次から最終章です。恐らく十話以内に終わる予定…だと思います。何時投稿できるのかは分かりません。

感想があればどうぞー投稿が早くなるかもです



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