ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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全てが手遅れだけど

 

 

 

 

「おらっ!これか!?これがイイんか!?」

 

「アバババッバ!!?!?!」

 

 ハジメとホセが話している同時刻、奇怪な悲鳴を上げるのは柏木だ。それもその筈柏木は友人である清水から関節技を食らっているからだ。

 

「何を!考えて!アレをやったんだよこの馬鹿は!?」

 

「ちょっ!?そこは曲がらな…アイェェエエ!?」

 

 柔道や格闘技を習ったことのない素人がする本気の関節技だ。腕がミシミシと妙な音が鳴り寝技になっているので脱出も出来ない。できる事は悲鳴を上げる事ぐらいだった

 

「知ってんのか坂上がダウンしちまった事!?滅茶苦茶いい笑顔で倒れちまったんだぞアイツは!?」

 

「それは戦いをやめなかったアイツが悪いんだぁ!?」

 

 清水の絶叫に至極当然のように反論をしたら更なる追い打ちをかけられる柏木。周りにいる男子生徒達は柏木の処遇を清水に任せてしまっているのか距離を取っている。尤もあんな罠を作り出した張本人なので近寄ろうにも近寄れないというのが彼らの心境なのだが

 

「あのなぁ、何で味方を巻き込むんだよ」

 

「うーん、本当は皆を巻き込むつもりは無かったんだけどね。相手が攻めてきたからやむ終えなくって感じ?」

 

「嘘つけオラァ!どの口んな阿保な事宣ってんだごらっ!」

 

「アバババーッ!」

 

 柏木が首を傾げながら言えば即座に清水が関節技を極める。まるで堂々巡りの光景に何とも言えない空気が流れる。

 

「柏木ィ!てめぇあーだこーだ言ってたけどよ、本当は誰が巻き込まれようがどうだって良かったって思ってんだろ!?」

 

「えーそんなつもりないよー」

 

 あっけらかんと言い放つその顔には罪悪感が薄れている様なそんな気が清水には感じ取れた。

 

「そう言ってるけど実際に俺たちに被害が出ているんだけどォ!」

 

「それについてはマジですまん。勿論解毒薬はちゃんとあるからそこは安心してくれ」

 

 クラスメイトに被害が出ていると知ると途端に申し訳なさそうにする柏木。逆にトータスの人達を巻き込んだことについては不可抗力とでも言いたげなその態度には流石に異質なものを感じる。

 

「もう一つ聞くけどよテメェが作ったあれで俺達がトータスの人達から白い目で見られるかもしれないって考えなかったのか?」

 

「ははっそれこそ何言ってんだよ。戦争が終わったら俺達は用済みで帰れるんだぞ?どうせ居なくなる世界でも信用や信頼が欲しいってのか?()()()()()()()()()がそんなに欲しいのか?」

 

「柏木……お前」 

 

 戦争を終えるためとはいえ被害が出たのもまた事実。それが仲間である柏木が行ったと知られてしまった以上王都の人達から召喚された者達がどう見られるかは明白である。

 

 それなのに柏木は気にした風を見せなかったのだ。確かに柏木の言う通り地球に帰ってしまえばトータスからの信用や信頼は意味のない物、今後地球で生きる者にとっては関係のない事である。

 

 しかしだからと言ってそれを口にしてしまうのはどういった心境か。

 

 同じ世界で生きてきたはずの人間。それなのに話していることはすれ違う。言葉は通じる筈なのに話がすれ違うようなそんな薄気味悪さが今の柏木にはあったのだ 

 

 

 

 

(うーん、何か可笑しかったのかなぁ?)

 

 口を閉じてしまい気まずさだけが残されたような空間のなか柏木は内心で頭を抱えていた。自分はおかしなことをやったとどこかで思うのにそれに伴う筈の罪悪感がごっそりと抜け落ちたように感じてしまうのだ。

 

(マズいよなぁ……何か分からんけどマズいよなぁ)

 

 周りの男子生徒達の様子からしてみて非常に自分の立場が悪くなっていくような気がしていく。友人の清水だって何を言うべきか迷っているように視線をさまよわせている。

 

(でもなぁーなんか罪悪感ってのが…無くなっていくような…)

 

 自分自身でも中身が変質しつつあるその時、柏木に歩み寄る者が居た。

 

「天之河?お前、中村の傍にいたんじゃ」

 

 現れたのはクラスのリーダーとなっている天之河光輝だ。疲れがたまっているにもかかわらずそれを見せない歩みで柏木の傍へとやって来る。

 

「恵理は寝かせた、今は俺が傍にいても意味が無いから。寧ろ君の方が心配でやって来たんだ」

 

「…俺?」

 

 目線を合わせる様に柏木の傍に座り込み、静かな口調で話す光輝。その顔には怒っている風でもなくましてや柏木に対しての忌諱感もなかった。

 

「柏木。改めて聞かせて欲しいんだ」

 

「聞かせて欲しいって言っても、俺が話す事なんて大体同じだぞ?」

 

 なぜあんなことをしたのかと問われれば、アレが一番効率的な戦争終結の為の作戦だった。あくまでも最終兵器扱いだったが魔人族が王都にいきなり攻めてきたので使う羽目になった。

 

 そう、言おうとしたが光輝は首を横に振った。

 

「違う、俺が聞きたいのはそんな事じゃないんだ」

 

「なら何が聞きたいってんだ?」

 

 光輝は柏木に声を荒げる事もせず、只々静かに問いかけた。  

  

 

「どうして俺達に、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

「………え?」

 

「あの煙を作る前にでも俺に相談する事は出来たんじゃなかったのか?」

 

 光輝の問いかけは責めるような口調では無かった。柏木の目を見て、なぜ自分に話さなかったのかと聞いてきたのだ。

 

 その静かな問いが不思議な事に柏木の心に刺さる。まるで失くしてしまいそうだったのものを思い出すかのように

 

「きっと柏木の事だから迷惑になるかもと思って話せなかったのかもしれない。それでも俺は、話してほしかった」

 

「……」

 

 寂しげに笑う光輝のその言葉に返す言葉が見つからなかった。何かを言うべきだと思うのに言葉が出てこない。

 

 必死に頭を巡らせて出てきたのは何とも言い訳染みた言葉。

 

「…その」

 

「うん?」

 

「……何かあった場合俺が責任を取ればいいって。そう思っていたんだ」

 

 尤もらしい言葉を言ったが実際にはその責任の取り方にまでは考えは及んではいない。只自分一人が罰を受ければいいと思っていたのは事実でもあった。

 

「ならなおさら話して欲しかった、以前言ってたじゃないか『一緒に考えて相談に乗る』って。その事を忘れて一人で責任を負うとするなんてそれこそ悲しいよ」

 

「……」

 

「なぁ柏木。以前男子達を集めてた時の事を覚えているか?」

 

「……ああ」

 

 男子達を集めて盛大に騒いだあの日。あの日柏木はしょげているクラスメイトを元気づける事を建前にして薬を盛ったのだ。その最初の過ちである日の事を思い出す

 

「『粋がって最高にカッコいい馬鹿になってやろうじゃないか』って。 ……あの時柏木はそう俺達に言ってくれたじゃないか」

 

「―――」

 

 そうだ確かに柏木はその言葉を言った。命の危険にあったとはいえ惨めに燻っているだけの男子達に檄を飛ばそうと思って確かにそう言ったのだ。

 

「俺達は同じ場所から呼び出された同士だ。だから助け合おう未熟な子供だけどそれでもやってやろう、そういう意味であの言葉を言ってくれたんだよな」

 

「………ああ、そうだ」

 

「確かに俺じゃ頼りないかもしれない。でも清水はどうだ?柏木と一緒に悩んでくれるんじゃないのか?檜山に話さなかったのか?あの時一番に手を貸すって言ってたよな」

 

 そうだ、確かに清水や檜山に話す手もあったのだ。ハジメと二人だけで話を進める必要なんてどこにもなかったのだ

 

「柏木、確かに君がやった事は褒められたことじゃないかもしれない。でも俺はその事について責めているんじゃない」

 

 例え外道な作戦だったとはいえ結果的に言えば負傷者は想定よりも物凄く少なかったのだ。だから光輝はその事について責めはしない、柏木自身が反省しいてるのだとその顔を見ればわかるのだから。

 

 それでも一言話してほしかった。

 

「皆に話して相談してほしかった。俺達は同じクラスメイトなんだから」

 

 同じクラスメイトなのだから。偶々一緒になった同じ高校生、されどもトータスに召喚された者同士。

 

 だからこそ言えることも有ったのではないか

 

 

(………まさか俺がそう言われるなんてな)

 

 ……その言葉が。光輝の視線が柏木の澱み始めた心を矯正させた。

 

(あーまさか、ここまでおかしくなっているなんて……これがジャームって奴なのか?)

 

 ソラリスの力、より正確に言えばレネゲイドウィルスの力をむやみやたらと使いすぎてしまった弊害だろうか。知らぬ間にジャームと呼ばれている者達へと変貌しつつあったようにさえ思った。

 

(…戻れてよかった。頼みの綱の中野は寝てるし、オーヴァードの事はちゃんと理解せんといかんよな)

 

 オーヴァードの先人である中野は郊外で魔物の処理をしていたらしい。早朝に帰って来たと共えば部屋に帰ってすぐ眠りに堕ちたらしい。王都の傍にあった平原が天変地異があったほど荒れている様子からして相当暴れていたらしいので寝ている中野に聞けなかったという事情もあるにあるのだが

 

「あー俺本当にかっこわり」

 

「ああ、滅茶苦茶カッコ悪いぞこの馬鹿」

 

 清水に小突かれて尚更出てくるのは深い溜息。周りの男子達もようやくいつもの調子に戻った柏木に大きく溜息を吐いたり呆れていたりと様々だ。

 

(天之河に助けられたな…あーマジで馬鹿やったな俺)

 

 光輝の善良さを守りたいと考えていた。芽生えた正義感と真っ直ぐな善良さ。それを世の中の汚い物から守りたいという構想はいつしか自分が汚そうとしていた。それがまた大きく罪悪感が増す。

 

「自分で悪いと気付けて反省したのならそれでいいと思うよ」

 

「天之河、そりゃちょっと甘いんじゃねーの?」

 

「そうかな?自分で自分の行いを顧みて反省することが出来たのなら俺はそれでいいって思ったんだけど」

 

(あーー罪悪感ががっが)

 

 清水と光輝の会話が柏木の罪悪感を更に重くする。何せ柏木が犯した罪はまだもう一つあるのだから。

 

「あーあー」

 

「あんだよ唸って。遂におかしくなったのか?…元からか?」

 

 不思議そうにする清水を見て柏木は観念した。許されない罪はもう正直に話した方が良いだろう。今更話したところでもう手遅れというのもあるのだが

 

「それが…その魔人族に関して何だけど」

 

「ああ、確か解毒薬を作っていたんだっか」

 

「それを飲ませれば後は処遇についてなんだけど…もしかしてその事で?」

 

 魔人族は全員が牢屋の中へと入っている。薬の影響で苦しむものは解毒薬を飲ませれば時期に回復するだろう。そう思った光輝だったが柏木のその目は泳ぎに泳ぎまくっていた。

 

「それもあるんだけど…その、すまん天之河に清水。ちょっと話を聞いてくれないか」

 

 そうして白状した柏木の計画した戦争集結の為のやらかした罪状を聞き光輝は驚愕して口を開く事しかできなくなり清水は頭を抱える事しかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分はどうッスか最高司令官殿?」

 

 薄暗い牢屋の中皮肉気に聞こえてきたその言葉にフリード・バグアーは顔を上げる。足音なくやって来たその声の主は軽薄な表情を浮かべてフリードのいる牢屋までやって来たのだ

 

「………」

 

 気絶したフリードが目覚めた時には魔力封じの枷を付けられ牢屋に転がっていた。魔力が使えない以上脱出できる状況では無く何よりあの煙の影響が残っているのか殺意や敵意をみなぎらせようにも体が拒絶反応を起こしているのだ

 

「おや?だんまりっスか。まぁしょうがないっすよね、完膚なきまでに負けたんスから」

 

 煽るのは糸目のの青年騎士だった。振舞はとても騎士ではない、しかしその身のこなしからとてもただものでは無い気配を匂わせていた

 

「……ふん、貴様が私の処刑係か」

 

「おや?どうしてそう思うっすか?」

 

「貴様のその隠している殺気を私が見過ごすとでも」

 

 目の前の青年からは殺気が漏れているのフリードは知っている、それがわざとらしく出しているのも。あの勇者が特別なだけで普通はこうなのだ。

 人間族と魔人族の溝は遥かに深い。今更の話ではあるが

 

「ま、さっさと殺せればよかったんすけどね」

 

「…ならさっさとしろ。私はこれ以上貴様らに醜態を見せる訳にはいかんのでな」

 

「なら、良かったスね。アンタと話がしたいっていう人がいるッス。今からソイツの元へアンタを連れて行くのが自分の仕事っすよ」

 

「何だと?」

 

「さっさと着いて来いッス。…じゃないとアンタら魔人族がマズい事になるッスよ」

 

 訝しむフリードに対して青年騎士…ニートは牢屋の鍵をあっさりと開けるとそのまま歩いて行く。さっさと着いて来いという意思表示だった。

 

(……)

 

 無論ここ無視をすることでもできた。力が弱まり満身創痍だとしてもフリードのプライドは折れていないのだから。

 

 しかし、だからと言ってこのままこの牢屋に至って事態が好転することはない。結局の所フリードはニートの言う事を聞くしかなかったのだ。

 

 

 

 

 

  

「ようこそフリードさん。歓迎しますよ」

 

 案内された場所は客室のような場所だった。そこにいたのはどこかで聞いた覚えのある声の少年だった。

 

「すいませんね、休んでいる所わざわざ来てもらって。あ、掛けてください。ちょっと長話になるので」

 

 引かれている椅子をに着席を求める少年。騎士の連中と思ったがそれにしては随分と隙だらけでとてもではないが戦いに携わる者ではない。

 

 そこまで考えてその声が最近聞いたものだと気が付き…フリードは目の前の少年が誰かを理解した。

 

「お前があのバカげたことをしでかした奴か」

 

「あー気付かれましたか。…改めて柏木です。どうぞよろしくです」

 

 苦笑した少年、柏木はそう言ってお辞儀をする。その態度にこちらを挑発する意図が無いのをフリードは何となく知った。

 

「それであの悪趣味な罠を仕掛けた貴様がわざわざ私に何の用だ」

 

「んー話が早い。そうですね、手っ取り早く言いましょう。魔人族と人間族の長年の戦い今ここで話し合いを持って終わらせてくれませんか」

 

 ストレートな物言いで言われたのは戦争を終わらせようという提案だった。それはあの放送で流れてたのと同じ内容で

、だからフリードは鼻で嗤った

 

「…我らを捕まえ命を握ったうえで何を言うかと思えば。実に下らん」

 

「そうですか?こうやって直に顔を突き合わせて話した方が良いと思ったんですけど…」

 

 むむむと唸る柏木にフリードは嘲笑していた。やはりあの悪辣な罠を仕掛けようともやはり見ため通りの子供なのだと。これではあの勇者の方がまだ話が出来たのではないかと思わせるほどだった。

 

「却下だ。我らは誇り高き魔人族。捕まえられ辱められようとも我らは人間族の根絶やしにするまで戦うのだ」

 

「む!…こう言っては何ですが貴方の部下は全員捕まえて有りますよ?部下の助命をするってのが上司の役割なのでは?」

 

「この戦いについてきた者は全員覚悟を決めた者達だ。魔人族の勝利の為ならば等に命を捨てる覚悟は出来ている」

 

 眉根を寄せる柏木に対してフリードはそう言い切った。実際に部下達にはそうなる可能性も話してはあったしフリード自身覚悟もしていた事だ。

 

「そう簡単に命を捨てるって…」

 

「フン 貴様のような卑怯者では我らの覚悟が理解できぬか」

 

「故郷に生きて帰るとか、部下たちを生き残らせてあげたいとか、そう言うのってないんすか?」

 

「無い」

 

 きっぱりと言い切ったフリードの大して柏木はさらに眉根を寄せていた。

 

(こんな下らぬ奴が私と交渉しようとは…随分と私も舐められたも牡だな)

 

 実際の所フリードは柏木の事を見下していた。フリードは軍人でもあり武人でもあった。戦いを主として生きてきたフリードには卑怯な作戦を使ってきた柏木を馬鹿にしている部分があったのだ。

 

 もし交渉の場にいたのが光輝だったらばフリードもそれ相応の態度をしていた。甘っちょろい事を言ったとは言え命を賭けて自分に挑んできた男だ、見下すことはなく一人の戦った男として真摯に接しただろう。

 しかし目の前にいるのは戦場でに出てくる事も無く命を掛ける事もなく隠れて罠を仕掛けてきた小年だ。見下すのは当然ともいる事だった

 

 

「……故郷にいる人達を安心させたくないんですか?戦争は終わったと戦わなくていいんだと伝えたくないんですか」

 

「それこそ思い違いだ。あ奴らならばまた戦力を蓄え、我らの悲願をかなえてくれるだろう。我らの意思を必ず継いでな」

 

 魔物が死に絶え戦力が著しく低下したのは確かに痛かった。だがしかしフリードは決して悲観することは無かった、

 今は力を蓄える時だがいつの日か自分の意思を継いで立ち上がる者がいるだろうと、魔人族の勝利まで決して挫ける事はないだろうとそう確信していたのだ。

 

 何より国には魔王がいる。だからフリードは揺るがなかったのだ。

 

 

「そう…ですか。話し合いでの解決は無理ですか

 

「……ッ!?」

 

 ボソリと呟いた柏木が顔を上げた。その瞬間とてつもない悪寒が一瞬だけ身体を巡る、まるで悍ましい化け物を目の前にしたようなそんな悪寒だった。

 

「では切り口を変えましょう。フリードさん、貴方はカトレアという女性を知っていますか」

 

「カトレア、だと」

 

 カトレア、それはフリードの信頼のおける部下の一人で、自分と同じように神代魔法の入手という任務に出てから行方が知れなくなった者だ。

 

 なぜ目の前の少年からその名前が出てくるのか、声を出すフリードを柏木は嫌らしく笑う

 

「実はですね、そのカトレアさんとオルクス迷宮で出会えまして…この王都にお越しいただいたんですよ」

 

 オルクス迷宮で出会ったという事は人間族のテリトリーには侵入で来たという事。しかしその後の言葉には眉根が寄る、何故カトレアが人間について行く?そんな疑問が来るのを分かってたのか柏木は笑っていた

 

「いやはや魔人族がどんな人達か分かりませんでしたが、俺達と何も変わらないんですね」

 

「…何?」

 

「カトレアさん、ミハイルって言う婚約者と結婚するんですってね。俺普通に祝福しちゃいましたよ」

 

 ミハイル、カトレアの婚約者であり自分の部下の一人。少々短慮に過ぎるきらいがあるが根が真っ直ぐな青年。その名を聞きカトレアが本当にこの柏木という少年に出会ったことをフリードは理解してしまった。

 

「貴様…カトレアに一体何をした!?」

 

 怒声が出てしまうのをフリードは止めることが出来なかった。カトレアは軍人だ、拷問されようがけっして自分たちの情報を漏らすことはない、それが結婚の事をよりによってこの少年に話してしまったのだ。

 あの煙を作った者だ、カトレアが何をされたかなど想像するのは実にたやすい

 

「あははは、さてここからが本番ですよ、魔人族総司令官さん」

 

 その時フリードは目の前の少年が同じ人間だとは到底思えなかった。顔や姿形の造形は全く一緒なのに中身だけが違う異物。自分とは全く違うそれが口を開く

 

「まずは安心してください。今現在カトレアさんはこの王都には居ません」

 

「何?どういう事だ」

 

「俺が脱走させました。いつまでも人間族が居るこの王都にいるのは危ないですからね」

 

 教会の連中は何しでかすか分かりませんからね、と一言告げて笑う柏木、いきなりの情報にフリードは戸惑うばかりだ。

 

(何故捕まえたカトレアをわざわざ逃がした? いや、コイツの言ってることは本当かどうかも怪しい。私を油断させるためという事も)

 

「勿論カトレアさんを逃がしたのは目的があってですよ。善意もありますが百パーセントではありません」

 

「なら、いったい何が目的なんだ」

 

 目的を遠回しにされるこの焦燥感。こちらを焦らせるのが目的かそれとも素で言ってるのか。どちらにせよ嫌な予感だけは止まらなかった 

 

「先ほどからずっと同じことを言ってるんですけどね。まぁいいや、それで実はカトレアさんには毒を仕込ませていただきました」

 

「貴様!」

 

 柏木の言葉に思わず体が浮き上がるフリード。親しい部下の一人だ、彼女の身に危険があれば激昂するのは当然だったが、状況が悪かった

 

「そんなに興奮しないでください。また薬の症状が再発しますよ」

 

「グッ!?」

 

 そう、今は抑えられている物の、またあの悪寒と匂いと快感が体を襲って来るかもしれないのだ。自身を襲ったあの症状を思い出し椅子に座りなおす。憤慨物だが場は完全に柏木が掌握しているのだ。

 

「毒の効能は、この王都に撒いたものと同様の物です。まぁカトレアさん自身は自分が病原菌になっている事に気付いていないでしょうが」

 

「どういう意味だ」

 

「色々と話している内に情が湧いてしまいまして。まぁそれはそれとして、その毒は()()()()()にカトレアさんが着けばカトレアさんを媒体として毒が散布し人から人に感染することになります。ま、要はクラスター(集団感染)を引き起こすわけですね」

 

 実際の所カトレアにはあの症状は出ていない。だが今はカトレアよりもカトレアがとある場所にたどり着いた時に何が起きるかの方がフリードと魔人族にとっての最優先事項だった

 

「まて、待て待て待て!貴様、今何と言った!」

 

 そしてフリードは気が付いた。目の前にいる悪辣な化け物がカトレアに何を仕込んだのかを。何を企んでいるのかを理解してしまった。

 

「ですからカトレアさんを媒体として」

 

「そうではない!それも許さんがとある場所とは…貴様!」

 

 フリードの口がワナワナと動く。認められない事を認めたくないと必死で抗うようなその青ざめた顔に柏木はニンマリと笑う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ようやくずっと引っ張ってきた伏線を出せて安堵です
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