「中野君から報告は受けているよ。異世界に行ってきたんだって?」
静かな口調で語り始めるのは園部孝之、俺のクラスメイト園部愛花の父親であり、喫茶店ウィステリアの店長でありUGN支部長でもある男だった。
異世界から帰ってきて数日間、
『この町のUGN支部長に会いに行け』
UGNには日本各地支部がありこの町にもあるのだという。それが偶に行くこの喫茶店ウィステリアだったとは…そして顔なじみでもある店長がオーヴァードだったなんて誰が分かるかっての
「戦争に参加を強要され、望まないながらも訓練をし、実地訓練で死にかけオーヴァードとして目覚め、ソラリス能力をフルに使って罠を張って異世界人を纏めて一網打尽…か」
「あ、あはは」
改めて俺の罪科を顧みれば 割ととんでもない事をしでかしている。中野がどう説明をしたのかは知らないが何となく嫌な予感がする
「ふむ、色々と聞きたいことはあるが、そうだね、まずは無事にみんな帰ってくる事が出来て良かったよ。柏木君も頑張ってくれたみたいだしね」
「お、俺はあんまり役立ってないというか、アイツ等が頑張ったというか」
裏実情を知っているためある意味では俺が黒幕でもあるのだが流石にそれを説明する気はない。謙遜しながらも内心では嘘をついていて隠し事をしているので冷や汗ものだ
「っていうかこんな荒唐無稽な話信じるんですか?」
ハッキリ言えば異世界に行ってきたという証拠が全くないのだがこの人は直ぐに信じてくれたのが疑問でならない、そんな俺の困惑に気がついたのか、店長は自分と俺を指さした
「信じるよ。中野君は嘘をつかないし、何よりオーヴァードなんてものがある時点で異なる世界があってもおかしくないだろう?」
「ごもっともです」
言われてみればレネゲイドウィルスなんて言う超能力があるんだからファンタジーな世界があっても受け入れらないなんてことはないか。
「それで、どうだいオーヴァードになって異能の力が使えるという気分は」
「そうですね……うん、人には過ぎた超常の力で身に余り過ぎるもの、だと思います」
「ふむ」
改めて思うのはこのレネゲイドウィルの力は人には身に余り過ぎる力だという事だ。考えて欲しい、いきなり超常の力を得た人間が何をしでかすのかを。自分の力だと思い込み過信しそして軽い気持ちで犯罪を犯すのだという事を嫌でも理解してしまう
「異世界では技能という力がありました。でもあの世界では皆が持つ力で合ってある意味平等でした。でもオーヴァードの力は根本的に違います。この力は…きっと俺の想像を超える力がある」
トータスの技能などが劣るとは思わないがアレは度重なる修練をした者だけが得るのだと思う。だけどこのレネゲイドの力は悪用をしようと思いつけばそれだけで事足り得る力なのだ。
「……正直な話、力に酔いたくなる衝動があります。幻覚作用や毒物を作り得る力なんて、この力は酷く抗いたい魅力があるんですよ」
正直に言おう、この力は抗いたい魅力がある。幻覚作用の効果がある薬を無尽蔵に生み出せる、それだけでどれほどの事が出来るか分かるだろうか?毒薬も治療薬も俺の思いのままなんて一体どれだけのことが出来るのか分かるだろうか。
「もし、許されるのならこの力を日常的に使いたい、使ってっ!?」
浮かれたようにその事を呟いた瞬間、ゾワリと悪寒が俺を襲った。その悪寒はあの橋で死にかけたあの時、トラウムソルジャーに殺されかけたあの瞬間と似たおぞましい寒気だった。
「うん、君の言いたいことはよくわかるよ。でもね、それはやってはいけない事だと分かってるだろう」
誰が何をしたのか、火を見るより明らかだった。首がひりつく殺気にも似た威圧を放っているのはUGN支部長であり俺よりはるかにオーヴァードを理解している園部さんだった。
「異世界から無事に戻って来れたのは君のオーヴァードの力のお陰なのかもしれない。しかしだからと言ってここは異世界トータスではない。日本には日本の、この世界にはこの世界のルールがある」
取り巻く部屋に異常が発生する。まるで植物が生い茂る様にして蔦が生えてきたのだ。
「何故トータスではレネゲイドウィルスが暴走しなかったのか分からない。だが断言しよう、この地球でオーヴァードの力を乱用すれば君は討伐対象となる」
それは嫌にはっきりとした明瞭な警告だった。現に今俺の周囲を囲むようにして植物が生えてきているのだ。蔦にはところどころ花も咲き始めてきた
「そ、れは」
「力におぼれたもの、力を自分の才能だと勘違いをしたもの。例えどんな崇高な精神を持っていようが力を持たぬ者達を脅かす存在であると認識すれば我らは決して君を生かさない」
植物はいつの間にか色と形を変えていた。色はピンク色を思わせる生々しく艶やか色になり、触ればぬめぬめとした質感を思わせる様な…蔦は形を変え太く、脈打つような…
「我らは異端者だ。だからこそ彼らの日常を壊してはならない。我らが得られなくなってしまったありふれた日常を守るためにも」
「あ……ああ……」
いつの間に俺は捕食者の領域に迷い込んでしまったのだろうか。満開だった花は何時しかギョロリとこちらを見つめる人の目となり、生い茂っていた葉はケタケタと笑う口へと変化していた。
(これが…オーヴァード…これがUGN)
異質な空間となってしまった事務所。領域に取り込まれ震える事しかできなくなった俺は改めてUGNとオーヴァードの恐ろしさを身に染みて…分からされてしまったのだ
蛇に睨まれた蛙以上に振るえて冷や汗をかいていたからか、ふと気が付いた時には部屋には何もなく先ほどまでの異質な状態は無くなっていた。
汗を拭う事も忘れ園部さんを見ると微笑んでいた。
「分かったかい、これがオーヴァードって奴だ」
「は、はい」
「そんなに怖がらないで。僕だって好きでこういうことをしたかったわけじゃないから」
俺が想像以上に恐怖していたことに対して穏やかに笑う園部さん。こうしてみれば穏やかな男性だが自分と同じオーヴァードなんだと改めて思わされる
「良いかい柏木君。君はオーヴァードになってしまった。異能力を身に着けもう普通の人間に戻る事は出来ない、それはどうしようもない事実だ」
園部さん穏やかにながらも真摯に俺に語り掛けてくる。先に非日常に足を踏み入れてしまった先人の言葉だ
「身体は変わった、異質で異常になってしまった。だけどね、僕達は心までは怪物にはなってはいない、普通の人なんだ」
これから先人間に戻る事は出来ないのだろう、だけど心の在り方は依然と同じ人として生きていける。彼はそう言ってるのだ
「君が何も変わらない日常を過ごせるように僕達も協力する。だから絶対に力に飲まれては駄目だ。 人として生きて居て欲しいんだ」
「…はい、肝に銘じておきます」
超常の力は人を狂わせる。例え人から半歩ずれたことになっても心だけは化け物になってはいけない、そう心に決める
「あの、園部さん」
「なんだい」
「これから、迷惑を掛けると思いますがご指導ご鞭撻のほどお願いします」
深々と頭をさげる。これから先いやが応にもオーヴァードとして、ソラリス能力と付き合っていかなければいけないのだ。人生の先輩でありオーヴァードとしての彼には今後お世話になるだろう
「ああ、これからよろしくね」
差し出された手を握り深く握手をする。異世界トータスでの騒動は終わったが今度は日本でオーヴァードとしての日常が始まるのだ。
トータスでの出来事が終わったからと言って俺、俺達の人生は終わった訳では無い、つまりそう言う事だ。
「君の今後の事はまた後日話すとして、そろそろ時間じゃない?」
「…あ!」
園部さんがさした時間を見て約束の時間が迫っていることに気が付く。あわてて準備をする俺にやはり園部さんは穏やかに笑っていた
「準備は私の方がしておくから君は皆を向かい入れておいで」
「スイマセン何から何まで」
「いいさ、何だかんだで君たちは私の娘を助けてくれたんだからね」
異世界トータスの話を信じてくれたかはわからない。だがそれでも俺達の為にこの店を貸し切りにしてくれたのだ。本当にこの人には頭が上がらない
「それに、友人たちとの付き合いが君の精神の成長を促す。オーヴァードは守る者がいると心も安定するんだよ」
「安定、ですか」
「守る者がある、失ってはいけない日常がある。その思いこそが僕達をジャームから引き留めるんだ。…大切な日常そのものだよ」
穏やかながらもどこかか悲しみを称えたその目が何を見たのかは俺は知らない。だが先を行く人生の先輩の金言を俺は心に留めようと改めて思う。
「いってきます。また改めて話をさせて下さい」
「ああ、言ってらっしゃい。何時でも相談に乗るよ」
深々と礼をし、俺は喫茶店のメインルームへ。先ほどまではオーヴァードとしての俺だが。この先は普通の高校生の時間だ
「……トータス、か」
柏木が出て行ったあと、ポツリと誰に聞かせるわけでもなく園部孝之はつぶやいた。
中野信治から報告された異世界トータス。その世界は剣と魔法のファンタジーの世界だったのだというのだ。トータスの存在については中野が嘘をつく意味もないため存在を信じてはいる。
(しかしレネゲイドウィルスが暴走しなかったとは…)
しかし異世界だからと言ってレネゲイドウィルスが活性化しないというのは如何なのだろうか?中野は制御の仕方を知っていたため問題ないとして柏木、南雲の両名が暴走しなかったのは一体どうしてなのだろうか
(まるで誰かに踊らされている、なんて)
帰還した時の話も妙な物だった。魔王という存在が召喚された場所と時間を指定して返したのだというのだ。それが本当ならいったいどれほどの規格外の存在か
(それに中野君の報告にあった唯一トータスからこちらに来た彼女)
そして懸念事項の一つとして優先順位が高いのはトータスからこちらに来た彼女の存在だろう。柏木にはあえてその話題を出さなかったが異世界人がどれほどの脅威なのかUGN支部長として把握をしておかなければいけないのだ。
それほどまでに今回の事件は終わってみれば大円団だが頭を悩ます事項が多いのだ。
「……また胃痛のタネが増えますね霧谷君」
もし、これらの事項を霧谷に報告した時の事を考え園部は苦笑するしかなかったのだ。
時間は大体約束の5分ほど前、当たり前だがそこにはある程度のメンバーがそろっていた。
「あれ?柏木何で奥からやって来たの?」
「ちと店長と打ち合わせをしてきてな。そっちのほうは…揃ってるな」
怪訝な顔をする野村にそう返し改めてメンバーを確認する。今現在揃っているのは野村、永山、遠藤に相川とそのお供二人だ
「天之河や檜山達は?」
「知らねぇ、どっかで時間つぶしてるんだろ」
肩をすくめる清水。いかにもやれやれと言った様子の彼は割と自然な様子で野村達と一緒に居た。
清水は何かしら心境の変化でもあったのか野村達と話すようになった。もちろん俺や南雲のとの交流は主なのだが…彼の中でクラスメイトという立場が上がったのだろうか。心境は分からなくとも俺にとっては嬉しい限りだ
「まだ時間があるのか、なら野村には悪いことしちまったな」
「うん?どういうことだ」
「ああ、それはな」
「おい馬鹿止めろ!」
永山がしみじみと言うと慌てた様子で野村が口をふさごうと騒ぎ立てる。何事か分からずキョトンとしてると遠藤が呆れながら話してくれた。
「野村の奴ここに来るまでに、辻さんと一緒に居たんだってよ」
「Fu~」
「ほほぅ~それはそれは」
野村はトータスからの帰還後辻さんと付き会い始めた様だった。当事者たちは隠しているようだが、まぁ俺達からして今更という事で。拙いながらも青春を謳歌しているらしい
「この前なんか放課後手を握っていたな。羨ましい限りだ」
「う、うるせーぞ!」
「照れるな照れるな」
ニヤニヤと笑われ揶揄われる野村。照れてはいるがまんざらでもなさそうなその顔は本当に嬉しそうだ。そう俺はこういうのを見たくて頑張ってきたんだ。
皆にジュースを出しながらそんな幸せそうな野村をからかっているとまた店のベルが鳴る。やって来た男子生徒達は四人
「うぃーす」
「流石に一番乗りじゃなかったか」
「あれ、まだ来てない奴いんの」
やって来たのは檜山達だった。ぞろぞろとおなじみのメンツを引き連れてけだるげに席に座っていく。
「来てないのは天之河と坂上と南雲だな」
「んだよ、下らない事で焦っちまったじゃねぇか」
「いいじゃん、その分グータラ出来ると思えば」
「んな事より聞いてよ!さっきゲーセンでリリアーナ王女を見かけたんだ!」
「はぁ?」
檜山達が来た途端、妙に騒々しくなる店内。がやがやとくだらない事で騒ぐのはいつもの学校と似ているようである種の安心感があった
「おい」
そんな光景を感激深く眺めていると中野から声を掛けられる
「話したか」
恐らく園部さんとの事を言ってるのだろう。先ほどの事を話そうとし、実力の差を分からせたことを思い出しぶるりと震える。
「あ、ああ。ちゃんと話したよ」
「その様子なら大丈夫そうだな。良かったな脳味噌を弄繰り回されないで」
「え”!?」
驚き中野を見るとがニヤリと笑うだけ。どうやら本当に園部さんはかなりの実力者らしい。……うん、もう阿保な事は止めよう。別にレネゲイドウィルスの力が無ければ幸せにはなれないって事ではないんだし。制御できるように頑張ろう
そんなやり取りをしていれば遅れていた者達も来るわけで
「っとゴメン少し遅れたかな」
やって来たのは天之河と坂上の二人。集まっている皆を見て少し申し訳なさそうにしている
「わりーな。ちっと色々とやってな」
「別にいいよ。それより飲み物はどうする?」
席に座る天之河に注文を取る。他の皆の分は終わらせたので今度は天之河達だった。
「あーそれじゃ烏龍茶で」
「俺はコーラで頼む」
「へいよー」
注文を聞きドリンクバーへ。その間に何やら天之河達が喋っているのを聞く。
「んで、聞いた話なんだけど天之河、お前中村と付き合う事になったんだって?」
「え、マジで?いつの間に…」
ピクリと耳が動く。そう言えば学校では天之河と中村が前より距離が近くなったような気がしていたが…本当にいつの間に付き合っていたんだろう
「そう言えば天之河王都の防衛線の時、中村と一緒に戦ってたんだっけ」
「そーそー中村が操っていた飛龍に二人乗りしたとか。よくもまぁ無茶が出来たな」
はやし立てる男子共。それはそうだろう、皆割と必死だったときに天之河は中村と一緒にランデブーをしていたんだから。
「あ、あれは恵理が助けてくれたというか…付き合ってるのも誤解だよ。まだ俺からは何も言ってないからね」
「またまた~お堅い天之河が何冗談を言って…え?」
何か今天之河らしかぬ発言が聞こえたような気がしたが?その事を追及する前に最後の訪問者が息を切らしてやって来た。
「ご、ごめん!ちょっと遅れちゃった!」
息を切らしてやって来たのは我が親友、南雲ハジメ。うっすらと汗を掻いている彼は謝りながらもやって来た
「別にまだ始めていないから平気だけど…どうしたんだ?」
南雲は大体時間に余裕をもってやって来る男だ。それが慌ててくるのは中々に珍しい、
「ちょっと白崎さんと話していて」
「白崎?」
名前を出したら檜山が首をグルンとむけてくる。正直コワイ
「南雲、お前白崎と会ってたのか」
「う、うんちょっと色々とあって…」
言葉を濁すあたり割といい雰囲気にでもなってたのだろうか。親友の色恋沙汰には極力応援する俺だが…何時の間に仲が深まったのだろうか
「……まぁいいか。俺にはもう関係ないし」
「え、なんだって」
「何でもねぇよ。それより全員集まったんだから幹事。さっさと準備したらどうだ」
「へいへいわーってますよ」
一瞬何かを考えた檜山だが直ぐに気怠そうにして俺に準備をしろとせっついてくる。まぁ発案者であり幹事でもあるので実際その通りなのだが
「おーい、全員飲み物もったー?」
皆が座っている中で改めて皆が飲み物を持っていることを確認する。見回せば全員持っていたのでコホンと咳ばらいを一つ
「それじゃ皆。改めてだけど今日は集まってくれて有難う。あれからもう二週間か?バタバタとしたけど皆日常に帰れているようで何よりだ」
皆の前で演説を披露する。そう、今日このウィステリアで男子生徒を集めたのは打ち上げを開くためだったのだ。
俺達はあの日あの時、魔王の送還術で日本へと帰ってくることが出来たのだ。帰ってきた場所は勿論教室で、時間は昼休みのあの日に帰ってきたのだ。
「あっちとこっちじゃだいぶ勝手が違うかもしれないけどよこもまぁ事件を起こさずに過ごしてくれた。その事に感謝!」
「えぇー?その感謝の意味訳分かんないけど」
「そうか?あっちとこっちじゃ全然違うだろ。慣れるまで騒動を起こさなかったのは良い事だって話だと思うけど」
ひそひそと囁く声が聞こえる。でもまぁその通りだ、トータスでは当たり前だった身体能力はここでは異質な力となる。地球に帰ってきてその時の感覚に振舞わされない様にするのがどれだけ大変か。肉体的な身体能力の低下は何が起きるか分かった者ではない
(まぁどうせエヒクが何か仕掛けたんだろうけど)
日常にすぐに馴染むように俺たちの精神を弄ったのかどうかは知らないがそれでも事件を起こさずに日常を過ごして来れたのは本当にイイことだ。
「ハッキリ言えば自分達の内定に一つも関わらない世界の平和を守る為に俺達は本当によく頑張った。俺達は偉い!」
「偉いかぁ?どっちかつーと余計な事をしてたんじゃねーの」
「そもそも役に立ってたのか俺等?」
王都民を守ったというよりは生きるために全力で戦ったという印象が強いらしい。流石というか何というか
「つーか柏木があんなことしなきゃ王都の人達からの歓待と賛美が待ってたはずなのに」
「綺麗なねぇちゃんとのイチャイチャが~」
「アレのせいで俺ら逃げる様に帰ってくることになったんだけど」
あれれ~なーんか矛先が変わってきたような?心なしか俺に対する陰口がちらほら見え始める
「あん時は言わなかったけどそもそも何で罠を仕掛けたんだ?」
「しかも効果が嫌がらせピンポイントの奴。酷くね?」
「アレをやって置きながら自分は悪くないとかある意味スゲーわ」
うーん何だが居た堪れなくなってきたぞぉ?これはヤバイ。仕方ないから矛先を変えようそうしよう
「ってなわけでそろそろ乾杯をしたいと思います。乾杯の挨拶は天之河光輝君よろしくお願いします」
「え?俺!?」
「コイツ面倒事を投げやがった」
こういう時は人に丸投げするのが一番だ。そもそも天之河には元から乾杯の音頭を取ってもらうつもりだったから何も問題はないのだ。
「えーあー コホン」
戸惑っていたのは少しだけで流石は優等生、無茶ぶりにも難なく答えてくれる。そういう所やぞ天之河
「異世界転移。信じられない話だけどあの世界から俺達は無事戻って来れた。これは皆の力によるものだ。改めて礼を言わせてほしい、有難う」
まずは感謝から言うあたり、根が真面目だなと思う。良いんだけどさ
「知っての通りあの世界では戦争が起きていて俺達はそれに巻き込まれてしまった。…いや違うか俺が皆を巻き込んでしまった、か」
「確かにあの魔法陣天之河を中心になっていたな」
「誰も避けようがなかったけどな」
「勇者と呼ばれ世界を救う救世主だと持てはやされ俺はその言葉に酔いしれてしまい皆を知らずのうちに危険に巻き込んでしまった、
本当に済まない」
「別に謝る事じゃないけどなぁ…皆生きてるし」
「謝って許されることじゃないしどう償えばいいのか分からない。現にあの戦争では俺はたいして力に慣れなかったからな」
「でも敵の指揮官抑えていたよね」
「卑下している?」
天之河は天之河で頑張っていたと思うが。まぁそれを決めるのは自分自身か。前例があるために何も言えない
「でもこれからはもっとよく考えて生きていく。だから皆俺が何か間違っていたら教えて欲しい。そして皆が困っていたら俺は力になりたい」
「じゃあ柏木君の英語の成績悪いから教えてあげて欲しいんだけど」
成長した?天之河の言葉に聞き入ってたら何故かいきなり南雲が爆弾発言しやがった!
「おいっ!?南雲お前何を言ってるんだよ!?」
「だって未だにゲームの英文タイトルが分からないってマズいでしょ」
「なるほど、柏木、俺がちゃんと教えるから安心してくれ」
「おおいっ!?」
もの凄く爽やかな笑顔でとんでもない事を宣う天之河。周りからは失笑や馬鹿にした笑い声が漏れているあたり物凄い恥ずかしい。南雲お前マジで覚えていろよ
「っと色々と話しすぎてしまったな。皆コップは持ったかい?」
「もうとっくに持ってんよ」
檜山が皮肉気に笑い光輝は苦笑していた。何せ飲み物は皆に配らられており早く乾杯したさそうにうずうずとしているからだ。
厨房からだろうか、料理の匂いが俺たちのところまでやって来る。いい加減腹も減ったのだ、挨拶はそこそこにして天之河にさっさと言えとアイコンタクトをとる
「それじゃ皆。改めてだけど」
天之河が手に持ったコップを高く上げる。皆もそれに伴ってコップを掲げる
「俺たちの努力でトータスは救われた!俺達は強かった!」
「おう!」
「過去形じゃなくて今も強いぞ!」
「皆無事で帰れた!俺たちが頑張ったからだ!」
「オオー!」
「チクショー!トータス料理もっと喰いたかった!」
「今日は無礼講だ!お金の事は気にせず楽しもう!」
「マジかよ!?」
「あ、それ店長のご厚意だってさ」
「うっそだろ!?」
「今日この場を提供してくれた園部さん!本当にありがとうございます!」
「「あざーっす!!」」
「それじゃあ皆! このクラス皆の勝利と無事を祝って乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
一年と半年以上お付き合いをいただき有難う御座いました。
後悔と反省しか残らなかった物語ですが無事終えることが出来ました。
後は蛇の足を書いて終わりとします