「南雲頼む、もっと優しくしてくれ」
「ならもっと力を抜いて柏木君」
「んなこと言ったって…いぎぎぎ!!ちょっ!?やめんかこのドS!」
「へぇ そんな事言うんだ」
「あ、やめ…アッーーーーー!!!」
「いったい何変な声出してるんスか」
「ニート先生」
「痛いのぉ…もうお嫁にいけないのぉ」
呆れながら大きな木箱を運びながらやってくるニート教官。現在俺達は訓練所でストレッチをしていた。南雲に手伝ってもらい体をほぐしていたのだが何分今まで体を動かすことはあんまりなかったので体はバキバキに固まっている。毎度のこととはいえ南雲にイジメられるのはどうにかしてもらいたいものだ。
「まぁいいっスけど、それより南雲君、筆頭錬成師の事ごめんなさいッス」
「あはは、別に謝らなくてもいいですよ。ニート先生や柏木君と訓練しているのは楽しいですし」
「そう言ってくれるのは有り難いけど不甲斐ないッス。まさか顔を見合わせたらウォルペンさんに逃げられるなんて…別にいいじゃないッスか~今回は武器を壊したわけでもなく面倒事の後始末を頼むわけでもなく城壁をぶっ壊したわけじゃないんすからじゃないんッスから」
ニート教官曰く、筆頭錬成師の職人さんに会いに行ったところ逃げられてしまったらしい。色々過去に頼みごとをした結果だからしょうがないと溜息をついているけど騎士団の人たちは一体何をやらかしていたのやら。
「しょうがないッス。切り替えて行くッス」
「それで今日は一体何の訓練ですか」
「今日は武器を持って訓練をするッス。色々拝借してきたッスよー」
「武器!?マジですか!」
「うわぁ一杯ある…より取り見取りだ」
南雲が目を輝かせながら木箱の中をのぞく。もちろん俺も後に続く、木箱の中にはぎっしりと武器が詰まっていた。剣に槍に短剣、斧に曲刀に刺剣に大剣、鎌に槌もあれば鞭もあり、鎖鎌に弓もある。いったいドンだけ武器があるのだろうか。ニート教官曰くこれでもまだ少ないのだというのだから驚きだ。
「君たちがどんなものに適性があるのか確認したいッス。刃は潰してあるし訓練用に調整されているんで好きなものを持ってみてほしいッス」
「良いんですか!? 南雲どうしよう?お前は何にする?」
「僕は…取りあえずコレかな?」
南雲が取り出したのは細い西洋剣だった。細身の南雲にはよく似合うというべきか。まさしく初めて剣を持った少年と言った感じで良く似合っている。見習い剣士かな?
「なら俺は…コイツかな?」
そういって俺が取り出したのは斧だ。剣が良いとは思ったものの無骨な物に惹かれるのだ。もしくはシンプルなものがいいというべきか。俺が手に取った斧は小さい刃に木の取っ手と言うまるで農作業用の奴だ。確かハチェットと言うんだったか…?
「あれ?柏木君、斧を選んだの?意外だね」
「まぁな 一度振り回してみたかったんだ」
意気揚々に担いでみるが…何故だろうか。手に馴染む様な感じがしない。当たり前と言えば当たり前か。武器が似合う学生なぞ存在してほしくもない。
「2人とも武器を選んだッスね それじゃあ始めるッスか」
そんな言葉でとりあえず訓練は始まった。
「さぁ まずは軽く構えてみるッス」
「うい」
「はい」
南雲と二人並んで素人感丸出しで構えてみるが、やっぱりと言うか当然とも言うかニート教官から色々修正が入る。
「南雲君もっと脇を占めて!襲ってくださいと全身で言ってるっス! 柏木君は体がふらついているッス!なんスカそのグネグネした動きは!?」
「「はい!」」
「2人とも足に力が入ってないッス! そんな立ち方じゃ何にも動けないッス!まずはしっかりと立って武器を持つッス!」
と言う感じでなんだかんだで武器の振り方や特徴を教えてくれているのだが…
「今のところ南雲君は問題無いっすね。今はおぼつかなくてもこの調子で訓練をやっていけばそこら辺のチンピラ相手なら時間を稼ぐことが出来そうッス」
「あ、ありがとうございます」
南雲は教官の言葉をよく理解しなおすべきところは確実に直していった。予習復習を欠かさない南雲はこの調子である程度なら問題ないようになるかもしれない。
「柏木君は…」
「言わなくてもわかってますよーだ」
問題は俺だった。確かにフラフラで斧に振り回されている感じだったけど最初はこんな感じのはずだ。多分。だからそんな可哀想な物を見るような目で俺を見ないでほしい
「全然駄目っすね。やる気が空回りしすぎて何一つ身についていないっす」
「柏木君。ほかの武器を試してみたら?良いですよねニート先生?」
「勿論。とりあえずいろいろ試してみるッスよ」
という訳で色々試してみることになった どれか俺に会うようなものが見つかればいいのだが…
「槍はどうかな?」
「長スギィ!遠心力に振り回される!」
「んじゃ大剣ッス」
「も、もてましぇーん!」
「んー弓は?」
「これどうやって弦を引くんですか?非力な女性でもちゃんと使える武器じゃないの?」
「えっと、鞭!」
「痛ぁ!SMプレイは興味はありません!」
「短剣!」
「…これが物を殺すって、あちっ!指切った!」
「もう何やってんスか!何で刃を潰した刃物で怪我をするんスか!?おまけに素人が逆手で持つんじゃねぇッスよ!」
「ぶーぶー」
「はいはいブーたれていないで、次は…ニート先生どうします?」
「はぁ…じゃ初心に戻って剣を持ってみるッス」
ニート教官から渡されたのはいたってシンプルな西洋剣だった。南雲と違うところと言えば刀身が幅広と言うべきか。持ってみたが合わない感じがするが、これ以上文句を言ってもしかたがない。諦めてしげしげと手渡された剣を見る。
いたって装飾が施されたわけでもなく刃の方も潰れているだけあって手を切る心配はなさそうだ。しかしなぜか刀身に目を奪われる。むしろ奪われるというより…
「?どうかしたッスか」
「柏木君?」
2人の声が聞こえてても俺は刀身から目が離せない。人を傷つけるというただそのために存在するこの剣に。
「大丈夫ッスか? 他のに変えてみるッスか?」
「あ、いえ…大丈夫です。すみませんぼーっとしちゃって」
「…そうッスか。なら訓練を再開するッス。さっきまではとりあえず武器を振るう訓練をしていたッス 次は…対人戦の訓練をするッス」
「対人戦ですか」
「そうッス。 勿論魔物相手の訓練もするけど、今日は自分が相手をするんで相手にどう対処するか、どう立ち向かうかなど基本的な事を考えていくッス。」
対人戦。この世界にいる以上いつかどこかで人と相手をすることがあるのだろう。だから経験しなければいけないことだ。しかし…
「最初は柏木君から行くッスか。柏木君武器を持って自分と向き合うっす」
考えが纏まらないうちに教官が俺の前に移動する。頭を振り訓練に集中しようとして剣先を教官に向ける。
「さっきよりかは大分マシになったスね。それじゃまずは自分に遠慮なく剣を振りかぶって欲しいッス」
「…この剣でですか」
「ッス。ああ怪我の心配はしなくてもいいっすよ 自分これでも君たちより遥かに強いんで」
俺を安心させるように笑うニート教官。確かになんだか強そうな感じはする。だから俺や南雲が何千何万回攻撃しようとしてもきづ一つつけることは出来ないという予感を感じる。…だが俺の足は地面に縫い付けられたように動かす事ができないのだ。
「…?柏木君?どうしたの?早くしないと先生から攻撃されちゃうよ」
「お、おう…分かっているんだけど」
南雲がせかすように言うが、足は動かない。気のせいか持っている剣の剣先がぶれているような感じもする。
「………」
何も動かない俺に教官は特に注意する様子はなくむしろ目を細めて観察している。しかし自分の事に精一杯の俺は気付かない。気付くことさえできない。
(攻撃する…ただ振りかぶって真っ直ぐに剣を振り切ればいいんだ。相手は本物の騎士。怪我なんてするはずがない…だけど、もし当たってしまったら?)
何度かイメージする物の中々うまく体が動かすことができない。どうしても相手を怪我させてしまったときのことをしか考えることができない。
(大丈夫だ。だからビビるんじゃねえ…むしろやらないとこっちがやられちまうかもしれないんだぞ。大丈夫だ大丈夫…本当に?本当にやらないといけないの?
頭の中が真っ白になる中、ふいにガシガシと頭を撫でられる感触があった。気が付けば目の前にはニート教官が立っていて苦笑しながら俺の頭を撫でていた
「…教官?」
「顔色が悪いっすね。ちょっと休もうっスか」
「いや、俺はまだ」
「駄目っす。これは教官命令ッス。」
「…分かりました」
口調は優しいが目は笑わずはっきりと断言されてしまったため、もう何も言えなくなってしまった。ニート教官はそのまま待機していた南雲と訓練を開始する。
南雲は動きがおぼつかないながらも教官と対峙し打ち合いをしている。俺は何とも言えずにただその光景を眺めるしか無かった。
天之河光輝にとって幼少の時から困っている人を助けるのは当然の事だった。自分には人を助けることができる力がありまた祖父の教えもあった。厳格ながらも偉大で誰よりも尊敬していた祖父に褒められるのは嬉しかったし光輝自身困っている人が笑顔になるのも好きだった。
そんなある日いきなりクラスメイトと共に異世界に召喚されてしまった。警戒する光輝だったがそこで出会ったトータスの教皇イシュタルにより人間が危機的な状況にあるという事を知った。
魔人族と言う悪辣で卑劣な種族により人間族は滅びの危機にあると。危機に瀕している人間族を救うために呼び出されたのだと説明された。
助けて欲しいと願われたのなら光輝は助ける。救ってほしいというのなら自分の出来る限り行動する、それが光輝にとっては当然の事だったし祖父との約束だった。
『弱きを助け、強きを挫き、困っている人には迷わず手を差し伸べ、正しいことを為し、常に公平であれ』
幼い時に交わした約束。祖父はもうこの世にいないがずっと守り続けてきた、日本にいたときから変わらない事だった。
幸いにも、このトータスと言う世界に来てからあふれるような力が体の中から出てくるの感じたため、この力なら助けを求める人たちを助ける事が出来ると光輝は思った。
そんな決意をする光輝にとって親友の坂上龍太郎や幼馴染の八重樫雫、クラスメイトの皆が手伝うと言ったことには予想外だったがとても嬉しかった。皆が一緒にいるのなら心強い、きっとなんだってできると光輝は思った。そしてそんなクラスメイト達を守りたいと考えたのだ。
そんなこんなで始まった訓練は光輝にとって疲れるものの楽しく充実したものだった。自分の力がぐんぐん伸びていくのを感じ、また剣技や魔法を教えてくれる騎士団の人たちや見ら知らぬ場所で戸惑う自分たちの生活を支えてくれる王宮の人たちは皆気が良くいい人達だった。
光輝は絶対にこの人たちを魔人族の手から助けよう…世界を救って見せると決意したのだ。
「ふぅー今日も疲れたな」
訓練が終わり王宮にある立派なお風呂に入り人心地付いていたときだった。夕飯の時間まで光輝は散歩をしていた。
今日の訓練は騎士団長であるメルト・ロギンスとの手合わせだった。光輝は日本で剣道をしていたことがあり、この世界では勇者と呼ばれるような天職とステータスを持っていたため自分は強いという自負があった。
しかしメルドはそんな自信に満ち溢れる光輝を軽くあしらう技術を持っており、少しも歯が立たなかった。歯が立たない事に悔しくもあったが、逆に明確な目標ができて光輝は嬉しくなった。いつか絶対に越えてやるという気持ちも持った。そんな充実した訓練を振り返りながら訓練所にたどり着いた時だ。
誰かが一人端っこの方でポツンと座っているのが見えた。訓練はもう終わっている時間であり、騎士たちも引き上げている。こんな時間に一体誰だろうと思いながら近くまで近づいてみるとそこにいたのは意外な人物だった。
「そこにいるのは…柏木?」
「ん…なんだ天之河か」
そこにいたのはクラスメイトの柏木だった。意外に思いつつもどうしてここにいるのだろうかと光輝は思い声を掛けようとして柏木がなぜか落ち込んでいるように見えた。光輝は柏木とあまり話をしたことがない。クラスメイトではあるが進んで会話をしたことは無かったのだ。
こうやって2人だけで話すの初めてだなと思いつつ声をかける
「いったい訓練所で何をしているんだ?もう訓練は終わって皆風呂に入っているぞ」
「…ああ」
「聞いているのか?」
話しかけたものの柏木は心あらずのような声を出しなにやら考え込んでしまった。そんな普段の様子とは違うクラスメイトの姿に光輝は多少戸惑ってしまった。
光輝にとって柏木とは南雲ハジメ、清水幸利といつも一緒にいてゲームや漫画の話を楽しそうに話しており、良く笑っているという人物だった。 いつも何が楽しいのかわからないぐらいニコニコ笑っているクラスメイトがなにやら考え込んでいることに首をかしげる光輝。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「ん~~まぁそういえばそうなんだけど…」
妙に歯切れが悪い。いったい何を悩んでいるのか光輝には見当がつかない。言ってくれないと分からないのだ。
「なら俺が相談に乗るよ」
「ふぉ!?あの天之河が!?マジで?」
「何でそんなに驚くんだよ…」
「いやだって天之河って坂上か又は女の子しか話すことができないイメージがあったから…」
驚いた顔で随分と失礼なことを宣う柏木。気を悪くするほどの事でもないが一体どんな目で見られているというのか。
「柏木、お前は一体俺をどんな目で見ているんだ」
「勉強ができてスポーツもできておまけに顔はその綺麗な顔を吹き飛っばしてやるってなるほどの超絶イケメンと言う世の中の男が殺意を抱く様な完璧?な奴」
「それ、褒めているのか?なんだか貶されているような気がするんだが?」
「わかんない」
ズケズケと話す柏木は変な奴だ。光輝はそう思った。最も失礼なことを言っても冗談を言っているとはわかるので不快な感じはしない。
「で、いったい何について悩んでいたんだ」
「話を無理矢理戻すとはやるなぁ… それなんだけど訓練の内の一つに教官と手合わせがあってだな」
「ああ、俺がメルドさんとやっている奴だな」
現状メルドから一本もとることができない訓練だが光輝にとってはとても充実している訓練だった。上には上がいる、当然の話ではあるが日本にいたころでは負けなしの光輝にとって敵わないが挑戦すべき目標が居る大変有意義な訓練。
「それなんだが…恥ずかしいことに俺、剣を持って教官と向き合ったら何にもできなくてさ」
「??? 相手は騎士なんだ、何にもできないのは当たり前だろ」
相手は本物の騎士だ。素人が適う筈がないのにいったい柏木は何を言っているのか。非難するような目で見れば、柏木は困ったような顔をした後深く息を吐いた。
「そうじゃなくて、一つも動けなかったんだ」
「んん?動けなかった?」
「うん …怖くなったんだ。もし俺の持っている武器でニートさんが怪我をしたらと思ったら…足が動かなくなっちまって」
柏木は深く息を吐くと苦笑した。その顔は本当に困っているような顔だった。
「はぁー情けない話だ。どうにかしないといけないとはわかっているのにどうすればいいのか本気でわからん 天之河お前はどうだった?」
「俺か?俺は…なんともなかったな」
「マジか。 やっぱり天之河は俺とは違うな。羨ましい限りだ」
力なく笑う柏木、しかし光輝にはわからない理由だった。相手の力量を見極めれば敵わない相手だという事はすぐにだってわかる。怪我をさせること自体無理だという事が光輝にはすぐに分かるのに、柏木の考えが良く光輝にはわからなかった。
(…まぁいいや。さて、どう声を掛けるべきか)
しかしそれはそれとして、悩んでいるのなら手を貸すべきだと光輝は考える。しかしこのケースは日本にいた時とはちょっと違う物だった。光輝がこれまで日本で相談に乗った人の大半の悩み事は会話や親友の龍太郎と一緒に解決してきたものであったが、これは初めてのケースだ。
取りあえずそれでも訓練をするべきだと声を出そうとしたところで、柏木はゆったりと立ち上がってしまった。
「ま、そのうち慣れるかな?すまんな天之河変なこと言ってよ」
「それはいいんだが…大丈夫か?何か力になれることがあるのなら何でも言ってくれ」
声尾を掛ける前にどうやら柏木は自分で結論を出してしまったようだ。立ち上がり背を伸ばす柏木に何となくいつでも相談に乗ると言うと柏木はニヤッと笑う。
「お?何でも? …男から言われてもうれしくとも何ともないこの虚しさ。んーなら俺がピンチなったら助けてくれないか?」
「それなら安心してくれ。俺は柏木も皆も守って見せるから」
「なんとも頼もしいお言葉だ。頼んだぞ勇者様」
ケラケラ笑うとそのまま柏木は歩いていく。その背中を見ながらクラスの皆とこの世界の人間を改めて必ず助けようと考える光輝だった。
一言メモ
天之河光輝 彼には尊敬し敬愛している祖父が居る。幼少のころに亡くなった祖父の教えを光輝はずっと大切に守り続けている。