ドラクエ8の主役は○○だ!!   作:賀楽多屋

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そう言えば、昨年でDQ8は十五周年でした。
作者はあまりの時の速さにgkbrです。


諸君、私を仲間に入れてくれないだろうか?

 マスター・ライラスからグルッペンとの出会いを聞かされたトロデーン一行は、衝撃的な事実のてんこ盛りに最早、達観とした笑みを浮かべていた。

 

「詰まり、ドルマゲスはライラス殿に復讐するために、我が家宝を狙ったという訳なのだな?」

 

「そうだとも。彼奴は、儂の書棚で“呪われし杖”のことを知ったに違いない」

 

 トロデーンの宝物である、杖のことが誰かの著書に書かれていたとしても何ら可笑しいことは無い。王族の宝物は、庶民にとって見ることの叶わない天上の代物だ。

 

 だからこそ、姿形を書き記した書物で知ることが彼等の娯楽となる。

 

 だが、マスター・ライラスの口ぶりからして、彼が例の杖について知っていることはまだ他にもあるだろう。自然と表情が固くなるトロデから矢継ぎ早に質問される。

 

「ライラス殿。あの杖は、一体何なのだ? 儂は先祖から引き継いだだけで仔細は知らぬのだ。ただ、『魔法結界の外に持ち出すべからず』という教えだけを守ってきた」

 

 トロデの言葉裏には、無知であった己を後悔する色が存在する。そんなトロデを見ていられるず、エイトが「陛下……」とつい声を漏らす。

 

 しょぼくれたように視線を下げるトロデーン主従を前にしてマスター・ライラスは、「知らぬのも致し方ないことと」と彼らを擁護した。

 そして彼は、元々彼等にそのことを話すつもりであったようで、書架へと向かったかと思えば、一冊の本を抜き取る。

 

 表示をめくって、目次も見ずに、目的の頁に辿り着いたマスター・ライラスの手馴れたその様子が、彼が何度もその本を開いたことを物語る。

 

 マスター・ライラスにとっても、この本は思い入れのある物なのだろう。

 

「呪われし杖は、“神鳥の杖”とも呼ばれていてな。この杖には、魔王ラプソーンの魂が封じられている」

 

「ま、魔王げすって!? そんな話、聞いたことがないでげす!!」

 

「それもそうじゃろう。ラプソーンが封じられたのは、気が遠くなるほど過去のこと。トロデーンは古より続く大国だ。そのため、奇跡的に王族が杖を管理することが出来たが、もし他の国が管理していれば奴の復活はもっと早かったことだろう」

 

 マスター・ライラスの口から語れる話は、あまりにも非現実的で、まだ魔物が蔓延るこの時間軸であったとしても、なかなか頷ける事ではなかった。

 

 魔物を率いる魔王という存在。

 

 それは、元々この世界ではなく、魔物達が生まれた原初の世界で座していた。

 

 しかし、その世界で力をつけた魔王は、己の世界と表裏一体の世界があることに気づく。神にも手が届くほどに、その世界で権威を振るっていたラプソーンは、その背中合わせになっている世界も掌中に収めようと目論んだ。

 

 だが、ラプソーンのその目論見は、表の世界───エイト達が住む世界にいた七人の賢者と神鳥によって阻まれることになる。

 

 元の世界で暴虐の限りを尽くしていれば、まだ延命しただろうに。魔王は、不相応な欲に溺れたせいで、七人の賢者と神鳥に敗れ、杖に魂を封じ込められてしまったのだ。

 

 ───その杖は、神鳥が拵えたことから神鳥の杖と呼ばれた。

 

「魔王の存在を覚えている者は、儂を含めた七人の賢者の末裔ぐらいだろう。一族で脈々と()の魔王の脅威を語り継いできただろうからな」

 

 マスター・ライラスが漸く、一段落ついたと口を閉じる。

 

 そこへ、グルッペンが自分が飲んでいたのとは別のティーカップに紅茶を注ぎ、マスター・ライラスに手向けた。

 

「翁、良かったら飲むかね?」

 

「嗚呼、頂こうか」

 

 グルッペンから差し出されたティーカップを素直に受け取り、マスター・ライラスは紅茶を口に含む。

 紅茶を淹れてから少々時間が経ちすぎていたこともあり、温度は生温くてしょうがなかったが、今のマスター・ライラスにはどんな紅茶も美味しく飲めた。

 

「では、翁が小休憩している間に私の話をしようか」

 

 マスター・ライラスが話している間、一言も口を挟まずに耳を傾けていたグルッペンが口角を上げて口を開く。彼は、エイト達が気になってしょうがなかった事柄について漸く口火を切ったのだ。

 

 魔王に操られているドルマゲスをたった一人で撃退したということを聞いたせいか、グルッペンを見る目が各々鋭くなる。

 

 この男は、明らかに実力者で、この場をあっという間もなく制圧することが出来る力を持っているのだ。まだ、グルッペンのことを何も知らないトロデーン一行にとって、彼を味方と判断出来ないのも無理からぬ話である。

 

 いつでもトロデの前に立てるようにと、エイトが重心を動かしている内に、グルッペンは話し始める───勿論、グルッペンは、彼等が己のことをこれ迄以上に一等警戒していることなどお見通しだ。

 

「私が生まれた世界は、此処とは常識が全く違う世界だ。だが、知らぬことを話したところで理解が出来るとは思えないから、貴殿らに関わることだけをピックアップしよう」

 

 白手袋に包まれた人差し指を楽しげに揺らして、尊大に足を組み替える。一国の王を前に取る態度とは言えず、エイトの目にはますます険が篭っていくが、それを見越しているらしいトロデに首を振られる。

 

『この者の話を黙って聞くのだ』

 

 暗にトロデからそう告げられているようなものだ。エイトは、無意識に腰元へと伸びていた手をそのまま腕組みさせた。きっとまた、彼が尊大な態度を取る度に得物へと手が伸びてしまうだろうから。

 

 そんな主従のやり取りを、鈍感な振りをして知らぬ存ぜぬを貫き通すグルッペンの厚顔さったらない。本心では、心の中でさぞ愉悦に喉を震わせている事だろう。

 

「私は、“魔王を封じた神鳥”によって、この世界に呼ばれた。『どうか、私の世界を救ってください。世界の要となる七人の賢者の末裔を無事守りきることが出来れば、元の世界へと貴方達を返しましょう』。少々省いていることもあるが、そのような事を言われて承諾をしない内にマスター・ライラス邸に連れていかれたという訳だ」

 

 グルッペンの話はとても簡潔なもので、彼がまだ何か隠していることは見え透いている。しかし、彼の身の上ではエイト達の敵になり得ないことも確かで、今出来ることといえば、その話を信じるしかないということだ。

 

 だが、やれやれと言わんばかりに続けられたグルッペンの愚痴を聞いて、トロデーン一行にも心境の変化が訪れる。

 

「まぁ、私もある意味被害者なのだ。縁もゆかりも無いこの世界を勝手に救えと連れてこられて、命を投げ出して強敵と戦えと言われてな」

 

 トロデーン命のエイトでさえ、この台詞でグルッペンのこの口振りには少し同情を覚えた。人情家のヤンガスや意外と優しいトロデなどは、二人揃って沈痛な面持ちだ。

 

 帰ることも出来ない異界人という立場は、彼等にとって効果抜群であった。

 

 

 

「ふむ。詰まりそなたの目的は、ライラス殿のようなドルマゲスに狙われている賢者の末裔を守ることなのだな」

 

「理解が早くて助かる────そこで、私から一つ提案があるのだが」

 

 その言葉と共にグルッペンは、優雅に腰掛けていた椅子から立ち上がる。

 

 顎を引いて、胸元に片手を添え、同情心でいっぱいのトロデ───ではなく、僅かにしか憐憫を抱いていないエイトの目を真っ直ぐに見据えたグルッペンは口角を上げた。

 

 急なグルッペンの動きに、エイトがすかさず腰元に差している剣へと手を伸ばす。

 

 だが、エイトから牽制を受けても、グルッペンは余裕綽々と言わんばかりに一切表情は変えない。

 

「諸君、私を仲間に入れてくれないだろうか?」

 

 エイトを見据えている、血のような暗さを持つ赤を愉しそうに細めて、胸に手を添えていた片手をエイトへと差し出す。

 

 刹那、トロデーンの近衛兵の脳裏に浮かんだ言葉は、“悪魔との取引”であった。

 

 それは、彼が人外じみた美を備えているからか。

 それとも、地に足のついていないような、何処か浮世離れした空気をその身に纏っているせいか。

 

 ───この人を、仲間に迎え入れるなんて……。

 

 僅かの時間の間に導き出される答えは、彼は仲間に引き入れるには危険が多すぎるということ。

 

 だが、エイトが声を出す前に、彼の手をぴょんと跳んで掴んだ人物がいた。

 

「勿論だとも。お主のような者が仲間になるのは心強い」

 

「ありがとうございます」

 

 エイトが敬愛してやまないトロデ、その人がグルッペン(悪魔)を仲間に入れると宣言したのだ。

 

 きっと、トロデのことだ。声には出していないが、元の世界に戻ることの出来ないグルッペンを憐れんで仲間に入れた節もある事だろう。

 

 そのエイトの推測を立証するように、「儂らと旅をしながら、元の世界へと帰るための別の手段を探すと良い」などと言っている。

 

 トロデのその甘さをこれ程に歯痒く思ったことは無い、とエイトはつい彼等から視線を逸らす。

 それに、ヤンガスが「兄貴……」と心配そうにしていたことは知らぬまま。

 

「これで、また一人家来が増えたの」とホクホク顔のトロデに、彼の家臣であることに誇りを持つエイトが水を差せるはずもなく、トロデーン一行はこうして、グルッペンを仲間として迎えることになった。

 

「……かしこまりました。グルッペン、どうか宜しくお願いします」

 

 エイトの目前にグルッペンが歩みよってき、胡散臭いほどに輝かしい笑顔で手を差し出すものだから、エイトもしぶしぶ彼と固く握手を交わした。

 

「此方こそ。貴方のような志の高い方の仲間に入れて光栄です」

 

 グルッペンは、穏やかにエイトと挨拶を交わす。一瞬意味深な笑みを浮かべて、その後声を出さぬまま小さく口を開閉した。

 

 兵士の基礎として読唇術を心得ているエイトは、グルッペンから受け取った秘密のメッセージにどくりと胸を高鳴らせる。

 

『忠犬も大変だな』

 

 それは、グルッペンという男の本性が垣間見得る、傲慢な感想だった。

 

 

 

 その後マスター・ライラスから、『失せもの探しの名人』と名高いルイネロのことを聞き、グルッペンを仲間に入れたトロデーン一行は彼の家へ突撃することにした。

 

 しかし、酔っ払っていたルイネロは話をまともに取り合ってくれず、そもそも占い家業なんてもう辞めたなんて言い出す始末。

 

 これは長期戦になるかもしれないと覚悟を決めるが、時間帯は既に逢魔が時を超えてとっぷりと日も沈んだ夜。

 

 結局、夜も遅いからと宿屋にチェックインしたのだが、そこへルイネロの娘が彼らの部屋を訪れたことから出来事は急展開を見せる。

 

「ワシは、戦争の資材集めに洞窟に潜るのは構わんのじゃが、人助けのために潜るなんて生産性のないことはしたくない」

 

「……なんか急にキャラが変わったみたいになったでげすよ」

 

 いつもは、エイト・ヤンガス・トロデで三人部屋を使っているのだが、グルッペン加入ということもあって、二人部屋を二つ宿屋で用意した。

 

 四人部屋もあったのだが、トロデの前で猫を被り、人畜無害そうなフリをするグルッペンとトロデを同室にする訳には行かず、トロデーン主従とヤンガス・グルッペンという部屋割りにしたのだ。

 

 因みに、ヤンガス・グルッペンの組み合わせにしようと言い出したのは、意外なことにヤンガスであり、彼は尊敬してやまないエイトが彼を余程警戒しているものだから、気を使って申し出たのである。舎弟の鏡でしかない。

 

 そして、今。

 彼等は、ヤンガス・グルッペンの部屋に集合し、ルイネロの娘から齎されたとあるお願いを前にして皆、一様に腕を組んでいたのだが、そこへ意外な駄々が投下されたのである。

 

「言っとくが、ワシはこう見えてヤンガス殿と歳は同じか、それ以上だからな」

 

 駄々を捏ねたのは、新参者のグルッペンだ。

 

 娘のお願いである『父の商売道具である水晶を、滝の洞窟に行って探し出して欲しい』を叶えなければ、彼等は稀代の占い師にドルマゲスの行方を探して貰えないのだが、そんなことは知らぬと言わんばかりの我儘であった。

 

「はぁあ!? 嘘を言うんじゃねぇでげすよ! どう見たって兄貴より幾つか上のあんちゃんでしょうが!!」

 

 年齢を武器に、洞窟に潜る元気さなんてないと訴えるグルッペンに、流石のヤンガスもジト目になる。オッサンと称すには、身体の節々に若さが漲っているし、何より肌の綺麗さったら女性とタメを張れる程だ。

 

 しかし、グルッペンは、チョイチョイとエイトの隣で腕を組んでいるヤンガスを自分が腰かけているベッドの傍に来いと手招きするので、仕方なく彼の手招き通りに寄ることにした。

 

 傍まで来たヤンガスの耳元に片手を当てて、口を寄せたグルッペンはごにょごにょと何かを言っている。終いには、「嘘でげす! そんな筈がある訳……!?」などのヤンガスのオーバーなリアクションばかりが繰り返された。

 

「……エイト、グルッペン抜きで行ってくれるか? 儂はこ奴と留守番しておるわ」

 

 ヤンガスとグルッペンが妙に話し込んでいるのを見ながら、トロデがとんでもない提案をしてくる。いつもなら、自分のことは棚に上げて、「我儘を言うでない!」くらいは言いそうなのに。

 

 妙にグルッペンには甘いトロデに、エイトはますます危機感を募らせる。あの男にまんまと騙されている主の目を覚ましたいが、今のエイトには、彼の異常さを申し立てる証拠が無い。

 

 まだ現状で騒ぎ立てるのには分が悪いと、エイトが奥歯を噛み締めて逸る気持ちを抑えた。

 

「しかし……」

 

「お主がグルッペンを怪しんでおるのは分かっておる───今のお主に儂が言ったところで納得せんじゃろうが、彼奴はそこまで悪い人間では無いだろう。少々、捻くれているようじゃがな」

 

 エイトは瞠目した。

 まさか、トロデにグルッペンへの警戒心を見抜かれているとは思ってもいなかったのだ。

 

 達観とした横顔をエイトに披露しながら、「こればっかりは、年の功という奴じゃよ」と頼もしい台詞をトロデは続ける。

 

「そなたの疑念は、彼奴と行動することで自然と溶けるじゃろう。それまでは───とくと見ておるが良い」

 

 そんな意味深な台詞を吐き終わったら、トロデは自室へと戻って行く。扉を開けて、廊下へと出ていく主の後ろ姿にエイトも慌てて付いていけば、「ミーティアの様子を見てくるわい」とのこと。

 

 親子水入らずを楽しむと暗に告げられたエイトは、流石にそれ以上トロデについて行くことも出来ずに、扉前に佇むことになった。

 

 ふと、背後を振り返ってみれば、グルッペンとヤンガスが妙に静かに盛り上がっている。いつの間にか、ベッドの脇に設置されている小テーブルには、蓋の空いた瓶ビールと二つのグラスが鎮座していた。完全に酒盛りを始めてやがる二人に、エイトは知らず溜息を吐く。

 

(今は、陛下とヤンガスを信じるしかない、か。うん、何かあれば、僕が陛下と姫様の盾になれば良いのだから)

 

 

 翌日、二日酔いで頭を抱えているヤンガスと連れ立ってエイトは、早朝より滝の洞窟へと向かった。

 

 宿屋に残してきた二人の王族と悪魔のことが気になって、後ろ髪を引かれる思いが募るが、早く終わらせればこの憂いも断ち切れると歩くがどんどん早まっていく。

 

 最終的には、小走りになって滝の洞窟へと直行するエイトに、ヤンガスが白目を剥きながらついて行ったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 




DQ8登場人物紹介(No.2)
トロデ
トロデーンの現国王。ドルマゲスに呪いをかけられたせいで、魔物の姿へと変えられた。ゲーム中では、その姿のせいで街中に入ることは出来ないようになるが、グルッペンが宿屋の主人を説き伏せたこともあって、トラペッタでは居場所を確保。基本、無害なエイトが時たま暴走することに肝を冷やす。グルッペンには、国王としての勘が働いており、「敵にするよりも味方として傍に置いておいた方がマシ」という評価を下していたりする。

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