この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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めぐみんって書くと何故か眼愚民って変換予測が出る謎。


機動要塞デストロイヤー

 スズハたちがギルドに着くとそこにはすでに多くの冒険者が集まっていた。

 そこで身内である3人を見つけて話しかけた。

 

「カズマさん!」

 

「?」

 

 1番見えやすい位置にいたカズマの名前を呼ぶと彼は小首を傾げている。

 その反応にスズハも首を傾げた。

 するとアクアがカズマの耳元に小声で話しかける。

 

(ちょっとカズマさん! 貴方こんな小さな子といつ知り合ったの?)

 

(いや知らねぇよ。見覚えはある気がするけど、わかんねぇよ)

 

(も、もしや、こんな小さな子に、い、いかがわしい事をしたわけではあるまいな!)

 

(するか! つーか言ってて自分で興奮すんじゃねぇよこのドM騎士!)

 

 一方的に悪者扱いしてくる両者に小声でツッコミを入れる。

 そこでカズマが顔から下へと視線を向けると手で引いてある見覚えのあるベビーカーとそこで収まっている赤ん坊に目が行く。

 

「え? もしかしてスズハか?」

 

「はい? そうですよ」

 

 何を当たり前のことを訊いてるんですか? とキョトンとする。

 

「いやだって……」

 

 いつもは着物を着ているスズハは街の人間が着るような少し上等な洋服に変わっている。

 それも、ご丁寧に髪を三つ編みにして前髪も若干変化していたことからパッと見てスズハと判らなかった。

 

 後ろからやって来ためぐみんが呆れた様子で嘆息する。

 

「今しがたゆんゆんの奢りでスズハの服を買ったんです。まったく。そんなに狼狽しなくてもいいじゃないですか」

 

「やっぱり。わたしにこういう服は似合いませんよね……」

 

 ちょっとだけ淋しそうにして笑うスズハにカズマは慌てて訂正する。

 

「え? いや! そんなことはないぞ! うん!」

 

 実際似合っているとカズマは思う。

 着物を着ている時の印象が強いが、これはこれでかわいらしい。

 話題を変えるべくカズマは一度咳払いして集められた件について話をする。

 

「そ、それにしてもその、デストロイヤーってやつ。前にちょろっとだけ聞いたけど、そんなにヤバイのか?」

 

「誤魔化したわね」

 

「誤魔化しましたね」

 

「誤魔化したな」

 

「うるさいよ、お前ら!」

 

 3人の反応にカズマは地団駄を踏んで黙らせた。

 すると、ギルド職員が来て集まった冒険者に礼を述べると席に着くように指示する。

 

「それでは先ず、機動要塞デストロイヤーについて説明が必要な方はいらっしゃいますか!?」

 

 焦った様子で質問する職員にカズマやスズハを含む数名が手を挙げた。

 そこから説明されたデストロイヤーについての話はカズマのやる気を削ぐには充分な脅威度だった。

 先ず巨大な蜘蛛のような姿のゴーレムで、小さな城ほどの巨体らしい。

 それも8本の足からなる移動速度が最も厄介で、近づけば潰されるのがオチだと言う。

 なら、遠距離からの魔法攻撃をするのはどうかと思うが、デストロイヤーは強力な魔法結界が張られており、爆裂魔法でも突破は不可能だとか。

 空からの侵入にも自立型の小型ゴーレムが待ち構えてるとのこと。

 デストロイヤーは人族、魔族、モンスターやどこの国も区別なく蹂躙し、向かって来れば通り過ぎるのを待つしかない天災として扱われている。

 ついでに言えば、デストロイヤーを製造した魔導技術大国ノイズは、暴走したデストロイヤーに真っ先に滅ぼされたらしい。

 

 その説明を聞いてカズマが頭を抱える。

 

「なんつームリゲー。どう考えても始まりの街で起こるイベントじゃねぇぞ」

 

 せっかく貸し賃とはいえ、家を手に入れて冬を越せると喜んだばかりなのに。

 

「落とし穴を掘るというのはどうでしょう? そこまで大きいなら落としてしまえばそう簡単に上がってこれないのでは? 土系統が得意なウィザードが集まればギリギリ間に合うかと」

 

「無理です」

 

 質問したウィザードに職員が返す。

 

「以前、ウィザードやエレメンタルマスターが集まって地面に落として埋める作戦を実行したらしいのですが、すぐに這い上がって埋める余裕はなかったそうです」

 

 それから出される意見が全て試した後で効果無しと返されて冒険者たちが意気消沈する。

 

 スズハがカズマの袖を引く。

 

「なんとかなりませんか? カズマさん」

 

「何とかっていわれてもなぁ……遠くからめぐみんの爆裂魔法で吹っ飛ばせない時点で詰んで……ん?」

 

 そこでカズマがあることを思い出す。

 視線を動かし、水を使ってテーブルに絵を描いてるアクアに話しかける。

 

「おいアクア。前にウィズが魔王幹部2、3人くらいの結界なら破れるって言ってたよな? お前ならそのデストロイヤーの結界を破れるんじゃないか?」

 

「え? どうかしら? こっちに来てスペックダウンしてるし、確実に破れる保証なんて出来ないわよ」

 

 その言葉を聞いた職員の1人であるルナが寄ってきた。

 彼女はアクアの肩を掴んで体をガタガタと揺らす。

 

「あのデストロイヤーの結界を破れるんですかっ!?」

 

「だから分からないって! やってみないとぉ!!」

 

「それでもお願いします! 結界さえ破れれば、魔法による攻撃も可能になりますから!!」

 

「やる! やるから揺らさないでよ!」

 

 ルナの手を外させるアクア。しかし、そこで別の問題が浮上する。

 

「しかしいくら結界が破壊できても、この駆け出しの街にそんな高威力な魔法を修得してる奴なんて……」

 

 冒険者の1人がそう言い欠けるが、そこで今度はめぐみんに視線が向く。

 

「そうだよ! あの頭のおかしい爆裂娘ならデストロイヤーにダメージを与える攻撃出来るじゃないか!!」

 

「あぁ!? あの頭のおかしい紅魔族の娘なら!!」

 

「おい……さっきから人の事を頭がおかしい頭がおかしいと。私がどれだけ頭がおかしいか今ここで証明してあげましょうか」

 

「め、めぐみん!?」

 

 杖で床をコツコツと叩くめぐみんをゆんゆんが制止する。

 しかし、冒険者たちの期待の籠った眼差しに段々と態度を萎縮させた。

 

「た、確かに我爆裂魔法は強力無比ですが、さすがにデストロイヤー相手だと一撃とは。もう1人か2人居ないと……」

 

 爆裂魔法は強力だが、1日に撃てるのは1回だけ。それはめぐみんも例外ではない。

 そこでスズハがゆんゆんに質問する。

 

「ゆんゆんさんは爆裂魔法を魔法を修得してないんですか?」

 

 めぐみんがよく、紅魔族は1日に1回爆裂魔法を撃たないと死ぬ、などと言っているため、紅魔族では爆裂魔法が必須魔法なのかと思っての言葉だった。

 それに、ゆんゆんは慌てて否定する。

 

「してないよ! あんな使い所が難しいネタ魔法! あんなの好き好んで修得するのはめぐみんくらいで────」

 

 両手を振って否定していると、めぐみんが近づいてきた。

 

「ほほう? 私のことだけでなく爆裂魔法までバカにするとは良い度胸ですね、ゆんゆん……|」

 

「め、めぐみん……?」

 

 すると、めぐみんが警告も無しにゆんゆんの懐をまさぐり始めた。

 

「ちょっ!? なにするの、めぐみん!?」

 

「うるさいですね。とっとと冒険者カードを出しなさい!」

 

 ゆんゆんの懐から冒険者カードを取り上げると、表示を確認する。

 

「ほう? 結構スキルポイントが貯まってるじゃないですか」

 

「め、めぐみんまさか!?」

 

 ゆんゆんが何かを察して止めに入ろうとするが、その前に爆裂魔法の項目を押される。

 

「あーっ!?」

 

「ついでに、残りのポイントも威力向上に注ぎ込みましょう!」

 

「他人の冒険者カードを勝手に弄くるって普通に犯罪だよめぐみん!?」

 

「非常事態です!」

 

 ゆんゆんが周りに助けを求めようとするが、街の危機のために見て見ぬ振りをされる。

 ギルドの職員たちすら。

 

 カードを返され、ポイントが爆裂魔法関連に注がれていることに半泣きになる。

 

「ひどい……」

 

「ゆんゆんも、一度撃てば病み付きになりますよ」

 

「ならないよ!? あんなテロリスト御用達の魔法なんて!!」

 

 ゆんゆんが冒険者カードをしまうと同時にギルドに入ってくる女性が居た。

 

「遅れてすみません! ウィズ魔法具店の店長です! 一応、冒険者資格が有りますので私も手伝いに来ました!」

 

 ウィズの出現にギルド内で喝采が上がる。

 それをカズマとスズハが疑問に思っていると、近くに居た冒険者が説明した。

 

 何でもウィズは、元高名なアークウィザードで、ある時を境に姿を眩ませていたが、いつの間にかこの街で店を開いていたらしい。だから時々、ウィズに冒険者としての仕事が回ってくるのだとか。

 そうでなければあの売れない魔法具店は潰れていただろうことも。

 

 ウィズがギルド職員に状況を説明されていると、顎に指を添えて意見する。

 

「なら、私とめぐみんさんとゆんゆんさんの3人で三方向から爆裂魔法で攻撃した方が良いですね。機動要塞の脚さえ破壊してしまえば、どうにでもなると思いますので」

 

「え!?」

 

 ウィズの言葉にゆんゆんが声を上げる。

 もう少し早くウィズが来ていれば、めぐみんが爆裂魔法を修得させるなどと言う暴挙をしなかったかもしれないことに。

 事情を知らないウィズは、首を傾げているが。

 その事に落ち込んでいると、スズハが申し訳なさそうに話しかける。

 

「あの……もしかしてわたし……余計なことを言いましたか?」

 

「……ううん、いいの。非常事態なのは本当だし。めぐみんならどっち道同じ行動を取っただろうし……でもせめて、了解くらい取ってくれても……」

 

 真実どうか分からないが、そう思うことで自分を慰めるゆんゆん。

 その姿を見て、スズハはこの件が終わったらお礼とお詫びをしようと決めた。

 ある程度、話が纏まると、ルナが冒険者たちに告げる。

 

「それでは! 冒険者皆さんがこの街の最後の砦です! 念のため、ギルドの職員は街の住民の避難誘導をします。それが取り越し苦労になるよう、皆さんのご健闘を祈ります!」

 

 ルナが頭を下げると、冒険者たちは自分の役割を確認し始める。

 そこでゆんゆんがスズハに告げる。

 

「スズハちゃん。スズハちゃんも、早く避難を」

 

「いえ。わたしもここにヒナと2人で残ります。怪我をして運ばれてくる人もいるでしょうし、応急手当の心得くらいありますから。それに、この腕輪なら、傷の手当ても出来ます!」

 

 治癒の腕輪を見せてここに残ると宣言するスズハ。自分にはそれしか出来ないと。

 それに難色を示すカズマとめぐみん。

 

「でもなぁ……」

 

「もしもの時の為に、2人は避難すべきです」

 

 そう説得するカズマとめぐみん。しかし、スズハは頑なに首を縦に振らない。

 

「大丈夫ですよ。だって、皆さんが守ってくれますから」

 

 それはカズマたちだけではなく、このクエストに参加する全ての冒険者に向けての言葉だった。

 スズハのその言葉を聞いた冒険者たちがスズハに注目すると、少女はにっこりと微笑んだ。

 

「守って、くれるのでしょう?」

 

 無垢な信頼を宿したその瞳にカズマはガリガリと頭を掻く。

 

「だぁ! しょーがねぇなぁっ!!」

 

 そして準備している冒険者たちに激を飛ばした。

 

「おいお前らぁ! こんな小さな子にここまで期待されてんだ! 絶対デストロイヤーからこの街を守り抜くぞ! 気合いを入れろ野郎どもぉおおおおっ!!」

 

「おぉおおおおっ!!」

 

 

 カズマの激に冒険者たちは拳を掲げた。

 各地を蹂躙した機動要塞デストロイヤー。

 それを駆け出しの街の冒険者が迎え撃つ。

 

 その意思を、1つにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ゆんゆんは爆裂魔法を修得させられた。この会話がやりたかっただけだったりする。
当たり前ですが、スズハはお留守番です。後方で怪我人の治療が仕事です。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他

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