この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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オリ主の仕事?後ろで応援することですが何か?


デストロイヤー攻略戦・前

「本当に避難する気はないのですか?」

 

 めぐみんの確認にスズハは申し訳無さそうに首を横に振った。

 正直に言えばスズハとて先程言ったように確実にこの街の冒険者たちが事を収めてくれると信じているわけではない。

 ただ、少しでも士気を上げようとしただけ。

 そして、周りを駆り立てるような真似をしておいて、自分だけ安全な場所へと避難するのは無責任に思える。

 

「アクアさんが結界、でしたか? それを破れなかったら避難はするつもりですけど」

 

「まぁ、それが前提条件だからなぁ」

 

 もしそうなったら冒険者たちも即座に逃げざる得ないだろう。

 

「でも、今わたしとヒナの帰る場所はアクセルの街(ここ)ですから。ですから、皆さんとまたあの家に帰りたいんです。その為に手伝えることは手伝わないと」

 

 両拳を作って意気込むスズハ。それにめぐみんが返す。

 

「本当にもしもの時は私の故郷に案内しましょう。スズハとヒナくらいなら────」

 

 何故かそこでめぐみんが遠い眼をした。

 ゆんゆんが、めぐみんの肩に手を置く。

 

「めぐみん。あんまり見栄張らないほうがいいよ」

 

「うるさいですよ! 村長の娘であるゆんゆんには分からないんです! 貧乏人の気持ちなんて! 自分だけこんなに大きくなって!」

 

「ちょっと! 胸を叩かないでよ!? 八つ当たりしないでー!!」

 

 そうしているとギルドの職員からそろそろ街の縁側に来てほしいと告げられる。

 

「あ。ちょっと待ってください!」

 

 カズマたちがデストロイヤー出現する方向に向かおうとすると、スズハから呼び止められた。

 振り向くと、めぐみんにぎゅっと抱きつく。

 

「な、なんですか! いきなり!」

 

「え、と……お裾分けです」

 

「なにを!?」

 

 突然訳の分からない事を言うスズハにめぐみんが困惑の声を上げた。

 

「ほら。わたし、幸運が高いらしいじゃないですか。だから、こうしたら幸運値(それ)を分けられるかもって、思って……」

 

 要は願掛けの類い。

 皆を送り出す事への不安から考えたちょっとしたおまじない。

 めぐみんから体を離すと次は隣に居たゆんゆんに抱きつく。

 

「無事に戻って来てくださいね」

 

「う、うん……」

 

 慣れない抱擁に戸惑いつつ受け入れるゆんゆん。

 次にダクネス。

 

「あんまり無茶したらダメですよ」

 

「いや、むしろ望むところなのだか……」

 

「え?」

 

 ダクネスの言葉が理解出来ないままに離れると次は一緒に居たウィズ。

 

「わ、私もですか?」

 

 ちょっと意外な顔をするウィズにスズハはデストロイヤーとは関係のない願掛けをする。

 

「ウィズさんのお店がもっと繁盛しますように」

 

「あはは……ありがとうございます……」

 

 立ち寄るたびにいつも閑古鳥が鳴いているお店はある意味デストロイヤーよりスズハの不安の種だった。

 

 次にカズマへと近づいた。

 

「へ? 俺もか? スズハ、男に触るの苦手じゃないのか?」

 

 初めて屋敷に来て触れた時、その手を怯えて払いのけた事を思い出すカズマ。

 細かな事情は聞いてないが、今なら分かる。

 あの男に酷い事をされたのは想像がつく。なら、異性に苦手意識を持つのは当然だろう。むしろ、ちゃんと話したり出来るだけ上出来だとも思う。

 

「自分から触るのならそれほど。それに、最近はちょっと克服してみようかなって思ってるんです」

 

 言って、カズマの腰から背中に腕を回して体を密着させる。

 触れたスズハの感触。ある部分が当たっていた。

 冷静にその感触を測る。

 

(……めぐみんより少しでかいな)

 

 それがどの部分なのかは敢えて伏せるが、その心中をめぐみんに察知されたらカズマはデストロイヤーの前に灰塵と化していたかもしれない。

 

 カズマからも離れ、最後にアクアに抱きつこうとすると、彼女は自分の胸を叩いた。

 

「バカね、スズハ! そんなおまじないより運を上げるならもっと確実な方法があるわ! 見てなさい! ブレッシング!」

 

 神の祝福で一定時間幸運を上げる魔法。個人差はあるが。

 それを自身にかけるアクア。

 

「こっちのほうが効果抜群でしょ! みんなにもかけて────あれ?」

 

 ドヤ顔で胸を張るアクア。しかしそこで仲間たちが自分を見る目に気付く。

 白けたような。何やってんだこいつみたいな視線。

 

「え? 私、間違ったことしてないはずよね? なんでみんな、そんなかわいそうな人を見る目で私を見るの?」

 

 困惑するアクア。

 

「アクア。私が言えたことではないかもしれないが、もう少し空気を読め」

 

「そういう風に人の好意を無下にするのはどうかと思いますよ?」

 

「ダクネス! めぐみん!! なんでそんな私を責めるような視線を向けるの!?」

 

「やかましい! ほら行くぞ。お前が作戦の鍵なんだから! そんな事に魔力使ってんな! デストロイヤーぶっ壊して賞金で借金チャラにするぞ!!」

 

 なんでよー、と叫ぶアクアの手を引っ張るカズマ。

 

「皆さん!」

 

 もう一度、スズハが呼ぶと、そこにはベビーカーからヒナを抱き上げ、その手を振らせる。

 

「行ってらっしゃい」

 

 それは、いつもクエストに送り出す時と同様の声音だった。

 きっと、デストロイヤーを沈黙させて戻ったら、スズハがおかえりなさい、と笑って。

 

 アクアが自分の活躍を誇張して話す。めぐみんが自分の放った爆裂魔法を誇らしげに語り。ダクネスが受けたダメージを思い出して恍惚となり。カズマが今回のミスをぐちぐちと文句を言う。

 そしてそれを楽しそうに聞くスズハ。

 あの屋敷で、そうした明日を迎えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが。スズハに抱きつかれたカズマは、一部の特殊性癖(ロリコン)男性冒険者や、同性愛(レズビアン)女性冒険者からとてつもなく鋭い視線と殺気を充てられて、身の危険を感じたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ。ダクネスの奴あそこから動きやがらねぇ」

 

 呆れた様子で嘆息するカズマ。

 彼は先程からアクセルの街とデストロイヤーの進行の間で突っ立っているダクネスの説得に行っていた。

 しかしダクネスはあの街を守りたい理由があり、聖騎士としてここは引けないと頑なにあそこを動かない。

 

 あんなところに突っ立っていたら確実に挽き肉である。だからなんとしてもデストロイヤーがダクネスのところに着く前に無力化する必要が出来た。

 

 頭を抱えながらここで今回の攻撃役の内、2人を見る。

 ゆんゆんは普段の弱気な態度とは違い、緊張はしているようだが、意思の強い瞳でデストロイヤーの方角を見ている。

 

 問題は────。

 

「ダ、ダイジョウビ。我が爆裂魔法はサイキョウ! 我が前にテキはナシ……!」

 

 青い顔で及び腰状態で全身をガクガクと震わせている。杖がなかったら尻餅をついていたかもしれない。

 

 どうやらめぐみんは普段の強気に反してこういう土壇場に弱いらしい。

 対してゆんゆんは、普段は流されやすいところはあるが、こうした場面では肝が据わるらしい。

 そんな正反対な2人。

 めぐみんの様子に少し離れた位置に配置されていたゆんゆんがやってくる。

 

「ちょっとめぐみん! 貴女がそんな事でどうするの!」

 

「き、キンチョウなどしていまセン! こ、こへは武者震いですっ!」

 

 口だけは強がっているがところどころ咬んでるし、顔も青い。

 そんなめぐみんの様子にゆんゆんは嘆息する。

 

「街にはスズハちゃんとヒナちゃんも居るんだよ! ほら! シャンとして!」

 

「わかってます……分かってます……あ、あのようなデカ物、わ、我が爆裂魔法で吹き飛ばしてくれるわっ!」

 

 さらに呼吸が荒くなるめぐみんにゆんゆんはどうした物かと頭を悩ませていると、カズマが割って入ってきた。

 

「おらめぐみん! しっかりしろ! お前、そんなんじゃウィズはおろか、爆裂魔法を覚えたてのゆんゆんにも負けっぞ!!」

 

 ピクリ、とめぐみんの震えが止まる。

 

「お前の爆裂魔法への愛と信頼はそんな物なのか! なら、ショーがねーなー! もうウィズとゆんゆんだけでやってもらうか! 2人居れば充分みたいだしぃ!」

 

「ほら。下がってろよ! お前のへなちょこ爆裂魔法じゃあ、2人の邪魔になるだろ」

 

「な、なにをー!!」

 

 カズマの挑発に怒りが爆発して杖を高く掲げる。

 

「いいでしょう! そこまで言うなら我が爆裂魔法こそが最強だとこの場で証明して差し上げます! その濁った目にしっかりと焼き付けなさい!!」

 

「濁ったは余計だ!」

 

 いつもの調子を取り戻しためぐみんにもう大丈夫かと安堵するカズマ。

 

 デストロイヤーが接近し、合図と共にアクアが魔法を発動させる。

 

「セイクリットォ・ブレイクスペルッ!!」

 

 幾重の魔法陣から放たれる極大の解除魔法。それが砲撃となってデストロイヤーの結界を襲う。

 しかし、結界が破れる兆候はなく、駄目かと思ったその瞬間。

 

「だぁああああぁああっ!?」

 

 アクアの叫びと共に出力を上げた魔法がついにデストロイヤーの結界を撃ち破った。

 

「めぐみん! ゆんゆん! ウィズ!」

 

 カズマの合図で3人は詠唱を開始した。

 

『黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が真紅の金光を望みたもう。覚醒の時来たれり無謬の境界に堕ちし理、無暁の歪みと成りて現出せよ。エクスプロージョン!!』

 

 同時に放たれる3つの爆裂魔法。

 それがデストロイヤーに直撃すると、かつてない爆音がアクセルの街に響く。

 

 爆発の煙が晴れると、無残にも破壊されたデストロイヤーが、ダクネスの目と鼻の先で止まる。

 それを確認したカズマが内心、あっぶねぇ! と胸を撫で下ろした。

 

 爆裂魔法で魔力だけでなく体力も使い切っためぐみんとゆんゆんが、その場で座り込んだ。

 

「く、悔しいです。ゆんゆんには勝ちましたが、ウィズには爆裂魔法の威力で劣ってしまいました」

 

 悔しそうな表情を浮かべるめぐみんにカズマが苦笑した。

 

「ま、それはしょうがないだろ。魔法を極めたリッチーだぞ。次がんばれ。とにかく、今はお疲れさん」

 

 肩に手を置くカズマにめぐみんは次こそはー次こそはー、と呟く。

 そしてゆんゆんに話しかけた。

 

「ゆんゆん! どうですか! 病み付きになりそうでしょっ!!」

 

「ならないよっ!? 恐いよこの魔法っ!!」

 

 冒険者という荒事を仕事にしているとはいえ、根は平和主義者なゆんゆんは、もう絶対使わないと心に決める

 

 誰もが停止したデストロイヤーを警戒する中、アクアが上機嫌に指をパチンと鳴らす。

 

「やったわ! 何よ! 機動要塞なんて偉そうな名前のくせに全然大したことないじゃない! 国を滅ぼす災害級の賞金首もこの程度なのね! さぁ、帰って宴会よ! いったい報酬は幾らかしら?」

 

「このバカ! なんでお前はそう、お約束が好きなんだ!?」

 

 カズマが叫ぶと停止したデストロイヤーから地響きが鳴ると、呼びかけるように機械的な音声が流れる。

 

『この機体は、機動を停止いたしました。エネルギーの排熱、及び機動エネルギーの消費が出来なくなっています。乗員は速やかにこの機体から離れ、避難してください。繰り返します……』

 

 同じ警告を繰り返すデストロイヤーにカズマがアクアに怒鳴る。

 

「ほら見ろぉ! お前が余計なこと言うから! なんで1つ役に立ったら2つ以上足を引っ張るんだよこの駄女神ぃ!!」

 

「えぇっ! 違うから! これ私のせいじゃないから! まだ私何もしてないからーっ!?」

 

 デストロイヤーの危機がまだ去っていないこの場に、アクアの嘆きが空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半はほとんどスズハ視点になるかも。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他

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