この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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スズハ激オコに、出来なかったよ……。


荒れる感情

 カズマに突如かけられた国家転覆罪の容疑にこの場にいる誰もが何言ってんだこいつは? と現れたセナ検察官を見ていた。

 そんな中でアクアが、カズマの肩を揺さぶる。

 

「ちょっとカズマさん! 貴方いったい何をやったのよ!? ほら謝って! 私も一緒に頭下げてあげるから!」

 

「何にもやってねぇよ!? ここ最近、ずっと一緒だったろうが!!」

 

 カズマがアクアの手を放させると、セナ検察官が1枚の羊皮紙を見せる。

 

「先日、領主の屋敷が転送されたコロナタイトの爆発に因って破壊された。貴様にはその件でテロリスト。もしくは魔王軍の手の者ではないかと疑いがかかっている」

 

 その言葉にカズマの顔が青くなる。

 

「何てこった。俺の指示が原因で領主と屋敷の人が……」

 

「死んでない。幸いにして領主は地下に籠っていて、屋敷の使用人は全員出払っていたそうで、怪我人も出ていない。屋敷は木っ端微塵になったがな」

 

 セナの言葉を聞いてカズマはホッと胸を撫で下ろす。

 しかし、次にそんな事で? と疑問が沸き上がった。

 

 カズマがやったことはつまり、ランダムテレポートで偶然領主の屋敷を破壊してしまった。それだけである。

 いや、屋敷の破壊による損害賠償の請求なら分かるが、国家転覆は些か以上に罪状をふっかけ過ぎではないだろうか? 

 実際に周りの冒険者やギルド職員も、え? それだけ? と戸惑っている。

 そんな中でめぐみんが腕を組んで反論する。

 

「さっきから聞いていれば。カズマはデストロイヤー戦に於ける功労者ですよ? 確かに領主の屋敷を破壊した事は申し訳ないですが、それだって緊急の措置として行ったことです。そうしなければ、コロナタイトでアクセルの街が消し飛んでいたかも知れないのですよ!」

 

「めぐみん……」

 

 熱を入れてフォローしてくれるめぐみんにカズマが感動して瞳を潤ませる。

 そこで大体、と付け足す。

 

「カズマが狙って行える犯罪なんて精々ちょっとしたセクハラ程度です。そんな大それた事をヘタレなカズマに出来るわけないのです!」

 

「おい」

 

「そうだな。薄着で屋敷を歩いている私を舐め回すような視線を向けて一切手を出せない、そんなヘタレだこの男は。国家転覆など出来よう筈もない」

 

「べ、別に舐め回すようにみ、見てねぇし!? つーかお前ら! 俺の弁護をしたいの? それとも遠回しにバカにしたいのかハッキリしろよっ!」

 

 ダンッとテーブルを叩くカズマ。

 しかし2人の弁護に周りもそうだそうだと同調する。

 そんな彼らにセナは冷たい視線を向ける。

 

「ちなみに、国家転覆罪は主犯本人以外にも適応される場合がある。裁判が終わるまで、注意した方がいいぞ。この男と一緒に牢屋に入りたいなら止めはしないが」

 

 その言葉に反対派だった者達も触らぬ神に祟りなしと言わんばかりにセナやカズマから視線を外す。

 この手の平返しにカズマが慌てふためくが、誰もフォローしなかった。

 むしろ。

 

「た、確かカズマ言ってたわよね? 全責任は俺が取る! 世界は広いんだ! 人のいる場所に何てそうそう当たらない! 俺は運が良いらしいしな! って」

 

「おいアクア! おまっ!? まさか……!」

 

 それにめぐみんも続く。

 

「わ、私はそもそもデストロイヤーの内部に乗り込んですらいませんからね! 私が側にいればカズマを止めて別の方法を提示出来たかもしれませんが! 居なかったもの仕方ない! えぇ! 仕方ありません!」

 

「アクアさん! めぐみんさんも!!」

 

 2人の手の平返しにスズハが咎めるように呼ぶ。

 そこでウィズが、ランダムテレポートを行った者として名乗り出ようとするが、アクアに止められた。

 

 カズマも周りに弁護と抗議を求めようとしたが、知らん顔される。

 それどころか、以前やったスティールによるパンツ泥棒の件を挙げられたりと、より立場が悪くなった。

 

「それではサトウカズマ。署までご同行願おう」

 

 セナの後ろに控えていた騎士たちがカズマを無理矢理連行しようとする。

 

「ま、待ってください!」

 

 そこでベビーカーに乗せたヒナをゆんゆんに預けてカズマの前に出る。

 

「スズハ!?」

 

 この行動には庇われているカズマも驚く。

 

「こんな、一方的に連れて行くなんておかしいです! デストロイヤーから命懸けで街を守ってくれた人にこんな……!?」

 

「貴女は確か、サトウカズマのパーティーのシラカワスズハさん、でしたね。下がりなさい。国家転覆罪は、子供とはいえ適用されれば只では済みませんよ」

 

 まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような声音。いや、子供の駄々に付き合っていられないという感情が伝わってくる。

 そんなセナをスズハは唇を噛んで睨んだ。

 

「デストロイヤーが向かって来たときに、何もしてくれなかった方々が、何を偉そうに────っ!?」

 

 そこで、カズマを連行しようとしていた2人の騎士が、剣を抜いてスズハの首筋に突きつけ、ギルド内で小さな悲鳴が上がった。

 子供のスズハなら、少し脅せば引き下がるだろうと踏んでの行為だったが、変わらずセナを睨み付けている。

 さすがに見ていられなくなっためぐみんとゆんゆん。そしてダクネスが動こうとするがそれより早くカズマがスズハを引かせた。

 

「小さな女の子にそんなもん向けんじゃねぇよ!!」

 

 スズハを自分の後ろに下がらせるカズマ。

 だがしかし、まだ納得出来ないように喋ろうとするスズハに、カズマが宥める。

 

「ほら。スズハも落ち着け。こんなの、向こうの勘違いに決まってんだろ? ちょっと話をしたら、すぐに戻ってくるから。な?」

 

「でもカズマさん!」

 

「いいから!」

 

 無理矢理話を切り、スズハをめぐみんの方に押しつける。

 しょーがねーなー! と頭を掻いた。

 

「行くよ! 行けばいいんだろ!」

 

 そのまま大人しく連行されていくカズマ。最後スズハが手を伸ばそうとしたが、アクアに止められる。

 ギルド内の建物からカズマの姿が見えなくなると、アクアがスズハに話しかける。

 

「だ、大丈夫よ! こんな言い掛かり、すぐに解けてカズマも釈放させるわ!」

 

「…………」

 

「そ、そうですよ! そもそもランダムテレポートを故意に領主の屋敷に転送した証拠を出されない限り、カズマの有罪は証明出来ません! すぐに釈放されるは、ず……」

 

「…………」

 

『ご、ごめんなさい!』

 

 ジト目を向けてくるスズハに耐えられなくなり、アクアとめぐみんは謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズマが連れ去られた後にカズマの抜けた場所にゆんゆんが座って話し合いをしていた。

 

「あの……わたし、この国の法律に詳しくないんですけど、今回の件は、その……本当に国家転覆が適用されるほど重い罪なんですか?」

 

 こういうことに詳しそうにダクネスに訊くと彼女は首を横に振った。

 

「いや。ランダムテレポートで危険物を転送するのは犯罪だが今回は人死にが出てる訳ではないし、状況が状況だからな。充分に温情が出る筈。屋敷の件も、借金は増えるだろうが、デストロイヤーを討伐した件を考えればお釣がくる功績だ。本来ならば、だが……」

 

 含むような言い方に皆がキョトンとする。

 

「アクセルの領主であるアルダープはその……絵に描いたような悪徳領主でな。今回の裁判、確実に奴の権力が介入してくる。このままでは本当に力ずくで国家転覆罪が適用されてしまうかもしれない。というよりは、今の時点で介入している筈だ。そうでなければ、こんなにも早く強制的に連行はされない」

 

 視線を下に移して告げるダクネス。

 他の冒険者の反応を合わせても、この逮捕が異常なのは皆が薄々と感じていた。

 続けてスズハが質問する。

 

「もしも、カズマさんにその罪状が適用されたら、どうなりますか?」

 

 震える声でされた質問にダクネスは重く息を吐いて答えた。

 

「……最低でも30年以上の牢獄。最悪、というか、殆どの場合は死罪になってしまう」

 

 そう教えられ、スズハは抱っこしていたヒナを持つ腕が震えた。

 身近な人が死ぬ。それは、一度死んだことのあるスズハには堪らなく怖い事だった。

 震えているスズハにアクアが慌ててフォローに入る。

 

「大丈夫よ、スズハ! いざとなったらこのアクア様がカズマを生き返らせて、他の国にでも逃げればいいんだから!」

 

「そ、そうだよ! なんなら、しばらくは私とめぐみんの故郷に来てもいいし!」

 

 震えているスズハを見てアクアとゆんゆんが慰める。

 しかし、その呼吸は荒くなり、ポタッとヒナの顔に雫が落ちた。

 

「うーあー?」

 

 不思議そうにヒナがスズハの顎に触れる。

 スズハは俯いて悔しそうに涙を溢していた。

 

「わ、たし……こんなの、嫌です……」

 

 何で、こんなことになっているのだろうと思う。

 今日はデストロイヤー討伐の報酬を受け取るだけの筈だったのに。

 さっきまで、皆でそのお金をどう使うか笑いながら話し合っていて。

 そこからいきなりカズマの逮捕だ。

 あまりにも事態が下へと動きすぎていて頭が追い付かず、感情だけが暴れまわる。

 

「あの屋敷で……アクアさんが面白いものを見せてくれて。ダクネスさんが色々教えてくれて。めぐみんさんがヒナのお世話を手伝ってくれて。ゆんゆんさんが遊びに来てくれて。カズマ、さんが色々作ってくれて……街の人達も、優しくて……だから、わたし……この街で、ちゃんと笑えて……」

 

 死ぬ前の世界。白河の家ではいつも感じていた窮屈さ。

 良い子で、優秀さを押し付けられる日常。予期せずそこから外れ、興味を示さなくなった両親。自分を裏切った兄。

 この世界で、大変な事もあったけど、充実した日々は少しずつそうした殻を剥がしてくれた。

 

「あの屋敷で、お仕事を終えて帰ってきた皆さんに、おかえりなさいって……わたしはそれだけで、いいのに……」

 

 そんなささやかな日常(しあわせ)がこんなことで壊されようとしている。

 カズマを連れていって者達に怒り、どうすれば良いのか分からない自分に苛立つ。

 そんなスズハの頭にめぐみんが小さく笑みを浮かべて手を乗せた。

 

「めぐみんさん……」

 

「スズハの気持ちは分かりました。先程はあぁ、言いましたが、カズマは私達の仲間です。前に言ったでしょう? 紅魔族随一の天才は、仲間を見捨てたりはしないのだと!」

 

 胸を張るめぐみんにアクアが続く。

 

「そうよ! 思えば領主って私達に不当な借金を負わせた奴じゃない! ここでカズマを助け出して、ついでに借金もチャラにしてやるわ!!」

 

「わ、私も手伝うよ! だから泣かないで。ね?」

 

 ゆんゆんがハンカチでスズハの涙を拭った。

 こくんと頷くスズハ。

 それにアクアが勢いよく拳を天井に掲げる。

 

「それじゃあ、めぐみんの爆裂魔法で牢屋を襲って! それからカズマを回収してこの国から逃げるわよ!」

 

「ちょっと待って下さい!? それじゃあ、本当にテロリストじゃないですか!!」

 

「アクアっ! お前微妙に事態を理解してないだろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず屋敷に戻り、皆が寝静まった夜にダクネスは部屋で1人頭を抱えていた。

 本来ならば、今回の件は無罪放免とは往かずとも、国家転覆だの、死罪だのとの話には繋がらない事なのだ。

 アルダープの屋敷の件だって全額と言わずとも、国から補助金だって出る筈。

 アクセルの領主にすぎないアルダープがどのようにしてそう持ち込んだのかはダクネスには解らないが、このままだと裁判でも此方の言い分が全て握り潰される可能性もある。

 

「それに、スズハの涙(あんなもの)を見てしまえば、放っておくなど出来ないではないか。カズマのバカめ」

 

 別に今回はカズマが全面的に悪いわけではない。そんな事はダクネスにも分かっているが、こうして悪態の1つも吐いてないとやってられない。

 何せ彼女がこれからやろうとしているのは曲がりなりにも自身の信条を曲げる行為だ。

 

「帰ったら覚えていろよ、カズマ!」

 

 ダクネスは、紙にペンを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何気にダクネスもスズハに甘いです。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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