この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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悪質な裁判

「さぁ、カズマ! 今日は張り切って無罪を勝ち取るわよ! 弁護は、この女神アクア様にドーンとまかせなさい!」

 

 自身の胸を叩くアクアに反応せず、キョロキョロと周囲に視線を動かす。

 何故かこの場にアクアしか居ない事が気になった。

 

「なぁ、ダクネス達はどうしたんだ? 遅れて来るのか? もう裁判が始まるんだけど……」

 

「あぁ。あの子達は屋敷を出ていったわよ」

 

「ハァ!?」

 

 薄情よね、と腕を組んで眉間にしわを寄せるアクアにカズマは顎が外れるのではないかと思うほど口を大きく開ける。

 

「いやいやいや!? 冗談キツいぞっ! いくらアイツらでもそんな事する訳ねぇだろ! スズハに至っては俺を真っ先に庇ってくれたんだぞ!?」

 

 首を何度も左右に振って否定するカズマにアクアは憐れむような視線を向けた。

 

「カズマ……気持ちは分かるけど、現実を受け止めなさい。彼女達は貴方の下を去ったの。スズハだってほら」

 

 1枚の紙を見せる。

 そこにはこう書かれていた。

 

 ────ご飯は自炊でお願いします。

 

 と、だけ記されている。

 その紙を奪って他には何か書かれてないか確認するが、書かれてなかった。

 

「え? ホントに? マジでかっ!?」

 

 先日、連行された時に庇ってくれたアレはなんだったのか。

 あの行為に嬉しく、感動しただけに落とされた絶望感が強く襲ってくる。

 項垂れるカズマにアクアが声をかけた

 

「だ、大丈夫よ、カズマ! このアクア様がビシッと論破して、無実を証明してあげるわ! そしたらスズハ達の鼻を明かしてやりましょう!」

 

 自信満々なアクアの様子を見て何故か更に不安が大きくなる。

 というか、アクアがこんな風に勢い付いて事態が良くなった事があっただろうか? いや、ない!! 

 

「もう駄目だぁ……お終いだぁ……」

 

「ちょっとそれどういう意味よ、カズマさん!?」

 

 この裁判で死刑になったらアイツら絶対道連れにしてやる。カズマはそう固く心に誓った。

 落ち込んでいるカズマの腕をつんつんするアクア。

 

「ところでカズマさん。あれ、誰か分かる? 全然記憶に無い人が居るんですけど……」

 

 アクアが指差したのは証言人としてこの裁判に呼ばれているミツルギキョウヤとそのパーティー2人。そしてダスト。

 そこまでは良いのだが、1番後ろにいる20歳くらいの男性。

 無精髭を生やし、ヨレヨレでボロボロの衣服を着ている浮浪者にも見える男。

 元は整った顔立ちだったろうに、疲れたように目の隈と痩せこけた頬などで近づきたくない雰囲気が出ている。

 その男が親の仇でも見るようにカズマ達を睨んでいた。

 

「いや知らねぇよ、あんな奴は。つーか、あんなのが知り合いに居たら忘れないだろ」

 

「ホントに? 何か、すっごく睨んでるんですけど。私の知らないところであの人を陥れるようなことをしたんじゃないでしょうね!」

 

「するか!? おまっ、俺をなんだとおもってんの!!」

 

「イタッ!? 痛いじゃないカズマ!!」

 

 頭を叩かれてアクアが手で押さえる。

 ハアー、と大きく溜め息を吐く。

 

「とにかく、お前はなにもするな。頼むからしないで下さい。この裁判に勝ったら高級酒でも霜降り赤ガニでも買って来てやるから」

 

「何言ってるの、カズマ。カズマが死刑になったらそんなこと出来ないじゃない! まっかせない! 私、ここに来る前はこの手のゲーム、結構やってたのよ! アクア様の華麗なる論破に聞き惚れなさい」

 

「うん分かった! お願いですから何もしないで下さいマジでっ!!」

 

 カズマの頼みに頬を膨らませてそっぽ向く。

 もう一発叩いて解らせようと思ったが裁判長に呼ばれて指定された台に移動する事となった。

 

「静粛に! ではこれより、国家転覆罪に問われている被告人、サトウカズマの裁判を始める! 告発人、アレクセイ・バーネス・アルダープ」

 

 セナが立ち上がり、カズマの罪状を読み上げる。

 デストロイヤー討伐の際にコロナタイトをランダムテレポートで転送したこと。

 モンスターと爆発物や毒物などの危険物にランダムテレポートを行う事は犯罪であることが説明される。ついでに、コロナタイトの爆発で屋敷を失ったアルダープはこの街で宿を取っているらしい。

 そんなセナの声を聞きながらカズマは死んだ魚のような目をしていた。

 今回の裁判、問題児のアクアとめぐみんはともかく、ドMということ以外はわりかしまともなダクネスと、それに輪をかけて常識人なゆんゆんにはかなり期待していたのだが。まさか見捨てられるとは思わなかった。

 スズハが入ってないのはただ単に彼女がまだ子供だからである。

 先日の取り調べで最後の最後でポカミスしてしまったこともあり、気分が落ち込み過ぎて表情がちよっと危ない人みたいになっている。

 

「領主という地位のある人間に爆発物を送り、その命を脅かす。これは、国家を揺るがしかねない犯罪です。よって、被告の国家転覆罪の適用を認めます」

 

「異議あり!」

 

 セナが言い終わると同時にアクアがビシッと指を差して発言する。

 しかしそれは裁判長に咎められた。

 

「弁護人の陳述はまだです。発言がある場合は許可を取って発言するように。今回の裁判が初めてでしょうから、大目に見ますが。それでは弁護人、発言をどうぞ」

 

 発言の許可が出ると、アクアは満足そうに首を振る。

 

「異議ありって言いたかっただけですからもういいです!」

 

「弁護人は弁護の時だけ口を開くように!」

 

(アイツホントに俺を助ける気あんのかぁあああああっ!?)

 

 アクアをグーパンしたい衝動を抑えながら睨み付けると、本人は言ってやっぜ! とばかりに良い笑顔を浮かべていた。

 そのアクアの行動に気勢が削がれたようにセナは発言を終える。

 

「ええ、と……自分からは以上です。検察側は被告の国家転覆罪の適用を認めます」

 

「では次に、被告人と弁護人の発言を許可する。では、陳述を」

 

 そこからカズマはベルディアやデストロイヤー戦で如何に自分がアクセルの街を守るために奮闘したか、ややオーバー気味に説明を始める。

 

「と、言うわけで、こんなにも街の安全に貢献してる俺が、国家転覆とかあり得ないと思うんです!!」

 

 バンッと机を叩いて力説するカズマ。

 その熱と勢いにげんなりしながらも、嘘発見器として機能する魔導具が作動しないことで、裁判長はカズマの言い分を正しさの証明とした。

 

「も、もう良いでしょう。被告人の言い分は良く分かりました。では検察側。サトウカズマ氏が国家転覆罪の適用を認める証拠の提出を」

 

「良いでしょう。サトウカズマがテロリスト、もしくは魔王軍に与する者である事を証明して見せます。さぁ、証人をここに!」

 

 セナの言葉で先ず前に出たのがかつてカズマと決闘をした日本からの転生者であるミツルギキョウヤとそのパーティーである。

 少し前に起こったいざこざをセナが説明する。

 

「サトウカズマはミツルギキョウヤの魔剣をスティールで強奪し、あろうことかその魔剣を質屋に売り払った。間違いないですね?」

 

 セナに質問されてミツルギが困ったように頬を掻いて答える。

 

「え、えぇ。ですがそれは僕の方から──―」

 

 ミツルギ自体、あの勝負は低レベルであるカズマに負けた事もあるが、アクアの事で頭に血が昇っていたとはいえ、一方的に敵視し、事情も聞かずに勝負に持ち込んだ事をちょっと大人気なかったと反省していた。

 故に包み隠さず真実を言う気だった。

 しかしミツルギの発言を遮り、パーティー2人が目尻に涙を溜めて強い口調で証言する。

 

「そうです! そいつがキョウヤから卑劣な手段で魔剣を強奪したんです!!」

 

「その上、私達にもスティールを使ってパンツ盗ろうとしたんですよ!」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ2人。

 キョウヤがでもあれは僕が────と続けようとすると、セナがそれを遮る。

 

「もう結構です。では次の証人をお願いします」

 

「え? ちょっと!」

 

 ミツルギキョウヤ一行は兵士に促されてその場を退席させられる。

 次に証人の席に立ったのはダストだった。

 

「貴方はサトウカズマととても友好的な関係にある。そうですね?」

 

 セナの質問にダストが得意気に答えた。

 

「おうよ! 俺とカズマは所謂マブダチって関係よ! そうだろ、カズマ!」

 

「いえ、ただの知り合いです」

 

 ダストの言葉にカズマは平坦な声で返す。

 嘘発見器も鳴らない事にセナが戸惑うようにカズマの発言に質問する。

 

「そ、そうなのですか? 仲の良い関係と聞いていたので」

 

「いえ……知り合いなのは事実ですから」

 

 嘘発見器はやはり鳴らず、その友好関係から悪印象を植え付けようとしたようだが、少なくともカズマ側は彼を友人と見なしてない事が分かる

 それにダストが声を上げた。

 

「おいカズマ! 俺達の仲ってそんな薄っぺらいもんだったのか────っておい! 無理矢理追い出そうとすんなぁああああっ!?」

 

 ダストが降ろされて、最後に見知らぬ浮浪者風の男が席に立つ。

 

「ここにいるモリタケマコト氏は先日、サトウカズマにスティールで身ぐるみを全て剥ぎ取られ、河に投げ捨てられるという暴挙が行われ────」

 

 モリタケマコトモリタケマコトモリタケマコト。

 

 相手の名前を反芻しながら記憶から掘り返す。

 ポクポクポク────チーン! 

 

「あー!? あん時のロリコンッ!!」

 

 思い出してカズマは声を上げてマコトを指差した。

 カズマの言葉にマコトはビクリと肩が跳ね、遠くから裁判を見ていたスズハは、え! マコトさん!? と驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森岳誠────モリタケマコトはスズハにちょっかいをかけて全てを失ってからの生活は最悪だった。

 転生する際に貰った専用武器を失い、スズハとの件からアクセルの街とその近隣での冒険者としての活動も禁止されてしまう。

 冒険者ギルドから出禁を喰らい、要注意人物として張り出されてしまったマコトはまともな別の仕事にも就けず、貯金を浪費する日々。

 そこで彼は、顔の良さを活かしてしばらくは適当な女に貢がせる事にした。

 前の世界で上手くいっていたのだからこちらでも上手くいく筈と楽観していた。

 そこで声をかけた女性があろうことかあの悪名高いアクシズ教徒だった。

 最初はアクシズ教に入信することをのらりくらりと躱しつつ、金を貢がせていたが、それに業を煮やした相手がある日、厳ついマッチョな男数名を連れて入信を迫ってきた。

 なんとかやり過ごしていたが、連日続く過剰な入信勧誘。

 終いには、宿屋から追い出され、その際のゴタゴタで宿屋に置いてあった所持品と貯金全てアクシズ教徒に奪われる事となった。

 今は馬小屋生活で朝から深夜遅くまで働く羽目になっている。

 もはや身嗜みを整える余裕など無く、ボロボロの浮浪者のような姿へと変貌した。

 そこで今回の裁判である。

 自分を不幸のドン底に落としたあの男を死刑台に送り、この街の領主に取り入れば、こんな底辺な生活ともおさらばできるのだ。

 大丈夫。やれる。だって、自分の人生は最後には上手く回るのが当たり前なのだから。

 

 そう、思っていた。

 

 

 

「あー!? あん時のロリコンッ!?」

 

 カズマが叫ぶと裁判長が木槌で音を鳴らし、咎める。

 

「被告は許可を得て話をするよう────」

 

 しかしカズマは構わず叫んだ。

 

「ふっざけんなぁ!! そいつはこの間街でスズハを連れ込んで暴力を振るってたんだぞ! そんな奴を懲らしめて何が悪ぃんだよっ! そんな奴を裁判(ここ)に呼ぶんじゃねぇ!!」

 

 頭に血が昇ってゼェゼェと息を切らして捲し立てるカズマ。

 それに観客。特に女性陣からの冷たい視線がマコトに突き刺さった。

 

「な、何を言ってるんだっ!? 変な言いがかりは止めたま────」

 

 チーン! 

 

 ここで今日初めて嘘発見器の魔導具が音を鳴らす。

 このタイミングで何故鳴ったのかは誰の目にも明らかで。

 

「……どうやら、証人として不適切な人物を喚んでしまったようです。申し訳ありません。それと、モリタケマコトさん。この裁判が終わったらお話がありますので署までご同行願いますね?」

 

「ちょっ!? ま、待ってくれ! 私の話を! ってあ、あー!?」

 

 騎士2人に左右を捕まれ無理矢理退席させられるマコト。

 

 コホン、とわざとらしい咳払いをしてからセナが自身の発言へと戻る。

 

「今回、喚ぶ事は出来ませんでしたが、他にもある冒険者の女性の下着を盗むなどの行為を行っていたことが多数の冒険者に目撃されており、サトウカズマ氏の人間性に問題があるのは明らかであり、被告人にも恨みを抱いていました。それらの事からランダムテレポートを装い、通常のテレポートで被告人の屋敷にコロナタイトを送りつけたのでは、と」

 

 セナの発言にカズマは机を叩いて反論した。

 

「下着泥と爆破テロを一緒にすんなよ! 確かに俺は何の汚れの無い人間とも言えないし、領主には頭にきた事もあったけどなぁ! いくらなんでもわざとそんなことするか!! 言いがかりだ、言いがかり!」

 

「言いがかり?」

 

 カズマの反論にセナは目尻を吊り上げた。

 

「良いでしょう。サトウカズマが街の崩壊を目論むテロリスト。もしくは魔王軍に与する者であるという証拠を」

 

 そこからセナはこれまでのカズマ一行の行為を糾弾した。

 

 結果的にベルディアは討伐出来たものの、魔法で洪水を起こして街に被害を与えたこと。

 共同墓地に結界を張り、悪霊達の行き場を無くしてこの街に悪霊騒ぎを起こしたこと。

 めぐみんが連日爆裂魔法を放ち、地形や生態系を変えたこと。

 

「って、ちょっとまて! それ俺じゃねぇだろ! 同じパーティーだから無関係とまでは言わないけどさ、それならアクアとめぐみんの裁判をしろよ! 俺のじゃなく!」

 

 喰って掛かるカズマにセナが続ける。

 

「最後に、被告はアンデットにしか使えない筈のドレインタッチを使用したとの報告もあり、取り調べの最中、魔王軍との交流は無いかという質問に無いと答えたのにも関わらず、魔導具が反応しました。貴方が無実だと言うなら説明を!」

 

 セナの言葉にカズマはダラダラと汗を流す。

 ドレインタッチの事はウィズの名前を出さずに説明することは出来るが、魔王軍との交流はどうするか。

 ウィズの存在がカズマを追い詰め、いつもは働く小賢しい頭が滞る。

 そんな中でアクアが口を開いた!

 

「論破! それは違うわ!」

 

 ここに来て自信満々に言うアクアが救いの女神に見える。

 

「よし! アクア、頼んだぞ! バッチリ俺の無実を証明してくれ!」

 

 しかしアクアはやはりアクアだった。

 

「そんなの有るわけ無いでしょ」

 

「え?」

 

「これ、ずっと言ってみたかったのよね。あ~、スッキリした!」

 

 あまりにもあんまりな理由に裁判長が告げる。

 

「その弁護人を今すぐ退席させるように!」

 

「すみません! 本っ当にすみません!!」

 

「痛い! 痛いじゃないカズマ!?」

 

 アクアの額を机に押し付けさせ、自身も謝り倒す。

 そこで告発人であるアルダープが声を上げた。

 

「もういいだろう。そいつは魔王軍の手先だ! ワシの屋敷にコロナタイトを送りつけて破壊したのだぞ! 死刑にしろ!」

 

 アルダープの言葉にカズマはチャンスとばかりに叫ぶ。

 

「違う! 俺はテロリストでも魔王軍の手先でもない! そりゃあ、借金の件は頭に来たけど、コロナタイトをわざと送りつけた訳じゃない! いいか、良く聞けよ、そこの魔導具! 俺は断じてテロリストでも魔王軍の手先でもないんだ!!」

 

 カズマの叫びに魔導具は一切の反応を示さなかった。

 これに裁判長がふむ、顎を撫でる。

 

「このように、魔導具の判別は曖昧な物です。これでは魔導具を頼りとした検察側の主張を証拠として認める訳にはいきませんね。流石に証拠が薄すぎる。よって、被告人サトウカズマの容疑は証拠不十分とみなし────」

 

 裁判はカズマの勝ちで終わろうとしたその時、再びアルダープが発言する。

 

「いや、その男は魔王軍の関係者であり、魔王の手先だ。即刻死刑とするのだ」

 

 アルダープの主張に反論したのは意外にもセナだった。

 

「いえ、今回は死者も出ていませんし、懲役が打倒かと……」

 

 しかし、アルダープがジッとセナを睨むとすぐに手の平を返した。

 

「そうですね。死刑が打倒だと思われます……え?」

 

 コロコロと変わるセナの主張にカズマが喰ってかかった。

 

「おかしいだろ! 何でそんな言ってることが変わるんだよ!! 権力に弱すぎるぞ!」

 

 たがセナの様子は権力に屈した、と言うよりは、何故自分がそんな発言をしたのか理解出来てない様子だった。

 

「待って! ここに悪しき力を感じるわ! 誰かが事実をねじ曲げようとしている人が居るわね!」

 

「……誰かが、神聖な裁判で不正をしていると?」

 

 今までの発言からアクアを胡散臭い目でみるが、魔導具が鳴らなかった点から一応、続きを促す。

 

「そうよ! 私の曇りなき眼は、そこの魔導具なんかよりよっぽど精度が高いわ! 何て言ったってこの私は世界で1千万の信者を抱える水の女神、アクアなのだから!」

 

 チーン! 

 

「なんでよー! 嘘じゃないわよっ!」

 

「被告人は弁護人の選定をちゃんとするように!」

 

「すんません。超反省してます!」

 

 強い口調で言われてカズマは頭を下げた。

 なにやらまだブツブツ言っているアクアにはもう何も期待しないと決める。

 

「被告人、サトウカズマ。貴方の行ってきた反社会的行為や非人道的な行為は、街の治安を著しく乱し、検察側の主張は妥当と判断。被告人は有罪。よって────」

 

 裁判長の言葉にカズマは唖然とした表情をする。

 

「判決を、死刑とする」

 

「おかしいだろぉおおおおおおおっ!? なんだよこのいい加減な判決!! もっと決定的な証拠を持ってこい! やり直しだ! やり直しを要求する!!」

 

 カズマの訴えは無視され、騎士によって引きずり出される。

 勝ち誇った表情で席を立つアルダープに裁判長が待ったをかけた。

 

「待ってください。貴方には次の裁判にも出席してもらうのでそのまま着席していて下さい」

 

「何を言っている? ワシが訴えたのはあの男だけだぞ」

 

「いえ、貴方自身の、領主退任を決める裁判です」

 

「なにぃ!? なんだそれはっ!? 聞いてないぞ!!」

 

 怒るアルダープに裁判長は小さく息を吐く。

 

「何度もそちらに聴取の為に伺いましたが、拒否されていたでしょう」

 

「だ、誰だ! ワシを訴えた不届き者はっ!」

 

「個人ではなく団体ですね。では代表者の方、どうぞ!」

 

「ダクネス?」

 

 カズマと入れ替わる形で現れたのはカズマの仲間であるダクネスだった。

 ダクネスはカズマに近づくと彼にだけ聞こえるように告げる。

 

「任せろ」

 

 それだけ告げるとカズマが立っていた席に告発人として立つ。

 アルダープはそれに驚いたように声を上げた。

 

「ラ、ララティーナ様! 貴女がワシを────」

 

 ララティーナ? とカズマ達が疑問に思っている中で、アルダープの質問にダクネスは首を横に振る。

 

「いや、私は今回、この裁判の代表者の付き添い。アドバイザーのようなモノだ。なんせ、代表は年齢的に1人で立つのは難しいからな。貴方を訴えた団体の代表は彼女だ」

 

 後から現れたその人物に観客を含めた大勢が目を丸くした。

 この国ではお目にかかれない。しかしその人物だけが普段から着ている民族衣装。

 ただ違いは、もう見慣れた安物の布で自作した着物ではなく、この街に来た時に着ていた橙色を基調とした椿の花が描かれた上品な逸品。

 普段は流している黒髪をサイドテールで結わえ、大輪の花の髪飾りが付けられている。

 顔にも薄く化粧が施されて、唇には紅が塗られている。

 

 その少女。シラカワスズハは自身の怒りを表に出さず、アルダープへと視線を定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カズマを弁護して助けるんじゃなくてアルダープを領主から弾いてカズマの裁判をやり直させよう作戦。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他

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