コロナのニュースが広まってるこの時期に看病ネタはどうなんだろう?と思いましたが、投稿することにしました。
アクセルの街を騒がせた領主退任の裁判の熱も少しずつ収まり、カズマ
もう働かなくても良いような大金を前にカズマ達は数日間のお祭り騒ぎを楽しんだ。
そして現在────―。
「うぇ~。腹イテェ。気持ち悪い。頭がくらくらする~……」
熱を出して寝込んでいた。
ベッドで寝ているカズマにアクアが腰に手をやって不機嫌な顔を見せる。
「まったく。カズマったら情けないわねー。せっかくお金も戻ってきてこれからって時に風邪引くなんて」
「うっせ! 声出させんな。吐きそう……ゲホゲホ……!」
具合を悪そうに咳をしているカズマ。
そこでめぐみんが部屋に入ってきた。
「カズマ。お粥、持ってきましたよ」
お粥用の鍋を盆に載せて現れためぐみん。
蓋を開けると細かく刻まれたネギと卵の入った粥が湯気を立てている。
「食べられるだけ食べてください。食後用の風邪薬しかないんですから」
そう言ってめぐみんが小さなお椀に粥を盛る
「おう。悪いな」
お椀を受け取って食べる。
卵の入ったお粥は思いのほか食欲がそそられ、お椀に盛られた中身をあっという間に平らげた。
それを見てめぐみんが薬と水を渡すとアクアの方へ向く。
「アクア。スズハが呼んでましたよ。買い物を頼みたいそうです」
めぐみんの伝言にアクアが目尻を吊り上げた。
「女神をパシリに使おうだなんて、スズハも偉くなったわね~」
「小姑か、お前は……」
薬を飲んだコップを置いて呆れた口調をする。
その反応を読んでいたスズハの駄々をこねられたときの追加の伝言を言う。
「ダクネスが居ないんですから、出来ることはしないと。スズハ1人で全てこなすのは大変ですし。それと、買い物代の範囲内なら好きなものを買って良いそうですよ。お酒込みで。今日の夕飯はアクアのリクエストを受け付けるそうです」
それを聞いてアクアの表情がパッと明るくなった。
「それを早く言いなさいよ、めぐみん! さ、今日は鰻に決まりだわ!」
そう言って早歩きで部屋を出ていくアクア。
それを見たカズマはさらに呆れの言葉を溢す。
「子供かアイツは」
「スズハもすっかりアクアの扱い方を覚えましたね」
「スズハは今、なにしてんだ?」
「洗濯物を干してますよ。カズマの風邪がうつって、ヒナまで風邪を引いたら大変ですから」
本人は様子を看たそうにしてましたが、と付け足す。
そこでカズマは鼻を擦ると話題を変える。
「つーか、今日は鰻かよ。この体じゃさすがにそんな脂っこい物食えん」
「まさか鰻があんなに美味しくなるとは思いませんでした。カズマ達の故郷の調理技術はどうなっているのですか?」
この世界ではまだ鰻の蒲焼きなんて伝わってない。日本からの転生者が再現しようとした事はあったらしいが、結局形にならなかったらしい。
スズハも、以前本で読んだ調理方をこっちで試してるらしい。
本人曰く、本職には到底及ばない及第点な品物、とのこと。
「いや。確かに俺の国で鰻は食べるけど、一般家庭で調理なんてしない。店とかで食うもんだ」
「……スズハは本当に料理スキルを取ってないんですよね?」
「ないだろ。レベルも上がってないみたいだし。というか、未だにスキルの価値もよく解ってないからな、スズハ」
クエストに参加するわけでもなく、普段の生活に必要な技術は大抵修得してるスズハは冒険者カードを殆んど弄ってない。
そこで部屋の外からスズハの声が届く。
「めぐみんさーん! 少し、お手伝いをお願いします!」
「大変だな」
「まぁ、今はクエストにも行きませんし。家事を全て任せっきりというわけにもいきませんからね」
大金が入ったばかりで働く必要がない上に、ダクネスは領主がダスティネス家に移ったことで忙しいらしく、こちらにあまり顔を出せない。
ダクネスには、今回の裁判でお世話になったお礼をしに訪問をスズハが希望していてそのスケジュール調整も頼んでいた。
めぐみんが部屋を出ていくと、薬が効いてきたのか眠気が襲ってくる。
カズマは抗う事なく睡魔に意識を落とした。
カズマの意識が浮上し始めた時に、ひんやりとした手が額に触れる。
それが気持ちよくて目を開けた。
「あ、起こしてしまいましたか?」
「ス、ズハ……」
「あはは。はい……やっぱり心配ですので畳んだ服を持ってくるついでに様子を見に来ました」
照れ臭そうに笑うスズハ。
なんとなくその仕草に癒されているとスズハが額から手を離す。
「う~ん。顔色は良くなってますし。熱は下がってると思うんですけど……やっぱり体温計がないと判りにくいですね」
「体温計か~」
生産系のスキルで作れないかな、とカズマが考えていると、スズハが提案する。
「カズマさん。すみませんが、服を脱いでもらえますか? あ、辛いのなら私が脱がしますけど」
「えっ!?」
いきなり脱衣しろと言われて動揺するカズマ。
しかも辛いならスズハが脱がすってなんでそんなに脱がそうとするのか?
何が目的だ? もしかしてこの間のパンツスティール仕返しにめぐみんのように体にラクガキでもされるのではないだろうか?
「お、お前いったい俺をどうする気だ!?」
「へ? 汗をたくさん掻いてるみたいですから拭こうかと思いまして。それに着替えた方が良さそうですし」
「……すみません。ホントにごめんなさい」
善意から看病してくれようとするスズハの誠意を一瞬でも疑ったことに罪悪感が半端ない。
他の仲間。特にアクアとめぐみんがアレなので、つい疑う癖が出てしまったようだ。もしくは熱で思考が変な方向に行こうとしたか。
そんなカズマにスズハは頭に? を浮かべて変なの、と呟く。
「それで。やっぱりわたしが脱がしますか?」
「いや、脱ぐよ!? 自分で」
「ズボンもお願いします。着替えも持ってきてますので」
「お、おう!」
上に着ているシャツを脱いで適当に捨てる。後ろからスズハが手にしたタオルで汗を拭き始めた。
「あー。しかし何だって熱なんて……ちょっと楽になったけど」
「少し前に捕まって牢屋に居た上に、裁判が終わって数日夜遅くまで宴会騒ぎ。ここまで生活のリズムが狂えば熱くらい上がってもおかしくないと思いますよ?」
「……ごもっともです、はい」
自分より周りの方が気付く事が多いんだなーと思っていると、首回りの汗を拭いているスズハの白い腕が見えた。
その腕が、先日宴会で見たスズハの肌と重なって思い起こされる。
(って何緊張してんの俺!? 相手は
背中を拭き終わり、前に回って肩や胸板の汗を拭き取られる。そこで顔を警戒心の薄い様子で近づかれてカズマは顔が赤くなった。
(いやいやいや!? 何で顔が熱くなんの!? 俺上も下も2歳差以上は守備範囲外だからな!)
いったい誰に言い訳しているのか。
心の中で動揺しているとスズハがカズマの体温が上がっていることに気付く。
「あれ? 熱がぶり返してません?」
「あ、あああああっ!? そーだなー!! 下の方は自分で拭くからもう出てていいぞぉ!? 風邪が感染ったら大変だろ!?」
ズボンを脱いでパンツ一丁のカズマがそう言うが、スズハは慈愛に満ちた瞳で首を振った。
「カズマさんは病人なんですから、素直にわたし達に頼って良いんですよ?」
言って屈むと太腿の汗をタオルで拭き取る。
さっきから丁重な動きで汗を拭き取られるのが気持ち良いなー、と意識を別方向にシフトさせていると、バタンと勢いよく扉が開く。
「ねーねー聞いて聞いて! 今ダクネスの実家から高級ハムが届いたのっ! 今晩は鰻とどっちをメインに────」
偶然そこでアクアが入ってきて2人の体勢に言葉を失う。
ベッドに座っているカズマの下半身をスズハが屈んで手を触れている。
見ようによってはスズハがカズマのパンツを脱がそうとしているように見えなくもない。というか、アクアはそう解釈してしまっている。
「ス、ススススススズハさん! 貴女いったい何をしてるの!?」
「何を、と言われましても。(汗まみれで)大変だろうと思って(汗の)処理をしてあげてたんですけど……」
「おい! 説明に大事なところが抜けてんぞ!?」
「しょ、処理ィ!? ちょっとカズマ! あなたスズハになにさせてるの!? まさかあの男と同じところまで堕ちちゃったの! 見損なったわ!?」
「ちげぇよ! ぶっ飛ばすぞこの駄女神ィ──―ケホケホ!」
熱のせいで咳をしてぐったりし始めるカズマ。
その姿にアクアが得意気に鼻を鳴らした。
「ふん! 小さい子にエッチな事させようとして罰が当たったのね。ついでに女神アクアからのありがたい天罰を受けなさい! クリエイトウォーター!」
「うわっ!? つめてっ!」
「アクアさんなんて事を!?」
魔法の水を頭からぶっかけられてカズマは寒そうに身を縮こませ、スズハは顔を青ざめる。
居間でヒナの面倒を見ていためぐみんは、何を騒いでいるのかと呆れている。
「最近、お金が入ってちょーっと調子に乗ってたから! これを気に反省なさい! さ、スズハ行くわよ! カズマが悔い改めるまで、近づいたら駄目よ!」
「え? ちょっとアクアさん!」
アクアに無理矢理引っ張られて出ていく。
「あんのやろー……」
治って体力が戻ったら絶対復讐してやると心に誓う。
取りあえず今はスズハが落としていったタオルで体を拭き、用意されている着替えを着て寝ることにした。
「カズマさん。あーん」
「あーん……」
卵粥を掬ったスプーンを差し出されて口に入れる。
アクアの水魔法を受けたカズマは見事に熱が上がって持ち直しかけた体調を崩した。
昨日の事が勘違いだと説明されて気まずいアクアは今日、家にいない。おそらくは酒場かどこかでほとぼりが冷めるのを待っているのだろう。
めぐみんは所用で少し出掛けている。
昨日より具合が悪くて意識が朦朧としているカズマの看病をしているスズハ。
本人はどことなく楽しそうだが。
ヒナは部屋の隅っこでベビーカーに座っていた。
「わるいな、スズハ……2日もかんびょーさせて……あーなさけね……」
弱音をはくカズマにスズハは首を振る。
「誰だって体調を崩しますよ。それにこれくらいは苦じゃありませんから」
ありがたい言葉にちょっとカズマはうるっときた。もしもスズハの年齢がもっと近かったら本当に惚れてたかもしれない。
そこで何かに気付いたようにスズハが、あっ、と声を出す。
「どうしたー? スズハ」
「あ、いえ。カズマさん。起き上がってもらって構いませんか?」
「んー? あぁ……」
少し辛いがそれくらいは、とゆっくりと体を起こした。
(昨日みたいに体吹拭くのか? まぁ、今はアクア達も居ないし丁度良いんだろうけど……)
昨日体を拭かれた気持ち良さを思い出してカズマはちょっと興奮する。
何よりスズハの拭き方は献身的で、安心できる。
(ちょっと癖になりそう……)
そんな不安を若干覚えていると、スズハは腕に神器の腕輪を填めて手をカズマにかざした。
黄緑色の光に包まれると、次第にカズマから倦怠感が抜けていく。
「あれ?」
「成功、ですね。よかった~」
スズハがホッと胸を撫で下ろした。
「エリス様からもらったこの腕輪。怪我とちょっとした病気なら治せるらしいですから。あはは。今まで怪我以外で使わなかったからすっかり忘れてました」
恥ずかしそうに笑って誤魔化す。
あーそういえばとスズハがここに来たばかりの頃にそんな説明されたな、とカズマも思い出す。
「どうですか? 顔色は普段に戻りましたけど……」
「あーうん。もう平気そうだ。体も軽くなった」
「そうですか。良かった。やっぱり体調を崩すのは辛いですからね」
「ソウダネ。アリガトナ」
「はい。あ、でも治ったばかりですからあまり無理はしないでくださいね?」
実はもう少し看病されたままでもいいかなと思っていたカズマはひきつった笑顔で取り繕った。
スズハはそれに気付く事なく立ち上がると、ヒナを連れて部屋を出ていった。
「いや、うん。熱が下がって良かったよ? 吐き気とかもないし。でもなぁ! う~ん!」
何だかモヤモヤした気分になりながらカズマは何度もベッドの上でゴロゴロと寝返りを繰り返し続けた。
実は今回、看病しながらスズハの生前の私生活とか学校生活とかを語らせる予定でしたが、カズマだけに話すのもな、と思い、後回しに。
次はダスティネス家への訪問です。でも考えてみればこれは外せない話だったとアンケート出した後に気づいた。
票が下回ったアクアとめぐみんメインの話で書こうとしてた話。
・アクアとスズハのケンカ。
正式にエリス教徒になったスズハにアクアが怒ってエリスの悪口を言い続けた結果、スズハの堪忍袋の緒が切れてアクアとケンカ。カズマとめぐみん、ダクネスが仲直りさせようとする話。
・めぐみんとの友情物。
11という歳で子供を抱えているスズハに街の若者が数人(大体カズマとめぐみんくらい?)でスズハに絡んでからかっているのを見つけためぐみんが相手を追っ払う。
それが原因で更にスズハがトラブルに巻き込まれてめぐみん(と、もしかしたらゆんゆんも)が解決するために奔走する話。
というのを書こうと思ってた。
読者さんがこの作品で好きな話は?
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序盤
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デストロイヤーから裁判まで。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編
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王都編
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ウォルバク編
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番外で書かれた未来の話
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その他