この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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GW期間中に書けるかなって思ったけど、そんな事はなかった。


ダスティネス家への訪問+仮面の悪魔の忠告

「……おっきい」

 

 目の前にある大きな邸宅にスズハは圧巻されて声が漏れた。

 

「め、めぐみん! 本当に大丈夫かな!? わ、私、変なところ、ない?」

 

「その挙動不審な態度以外おかしなところなんてありませんよ。落ち着いてください、ゆんゆん」

 

 動揺しているゆんゆんをめぐみんがあしらっている。

 

「ねぇ、カズマ。あの屋敷もこのくらい大きな家に建て替えない? 女神であるこの私を住まわせるんだからもっと広くて当然だと思うの!」

 

「しない。これ以上大きくなったら管理しきれないだろうが」

 

「なによー! たくさんお金だって入ったんだからちょっとくらい増築しても良いじゃない!」

 

 他人の物を見て羨ましがる子供の心境で駄々をこねるアクアを無視してゆんゆんはスズハが持っている袋に入っている箱に注目する。

 

「それなに? スズハちゃん」

 

「カステラです。手作りの物はどうかと思ったんですけどダクネスさんに訊いたところ問題ないそうなので」

 

 生前の経験から上流階級の者は手作り品が好まれない傾向にある。

 それにこの世界だと、何か良くない物が入れられているのではないかと疑われる可能性もある。勿論、スズハにそんな気は全くないが。

 馬車を降りて少し待っていた一行に門は開かれ、中からダスティネス家の使用人が案内してくれる。

 

 屋敷の中へと入ると、そこにはここ数日顔を見せなかったダクネスがいた。

 

「皆、よく来たな!」

 

 貴族が着る派手な服に身を包んだダクネスが嬉しそうに現れると、カズマが恭しく名前を呼ぶ。

 

「ややぁ! これはララティーナお嬢様! ご無沙汰しておりますぅ!」

 

「久しぶりね! ララティーナ! 会いたかったわ!」

 

「どうしました? ララティーナ。そんな顔を真っ赤にして?」

 

「ララティーナって呼ぶなぁ!?」

 

 さっきまでの満面な笑みはどこへやら。ララティーナ、ララティーナと繰り返すカズマ達に顔を真っ赤にさせて張っ倒す。

 主にカズマを。

 

 大きな声を上げてぜぇぜぇと息を荒くするダクネスにスズハが近づいた。

 

「ダクネスさん。今回はお招き頂き、ありがとうございます。これはつまらない物ですが。今回の事でお世話になったお礼に」

 

 そう言ってお土産に持ってきたカステラを渡す。

 

「これは丁重に。しかし、マメだな、スズハ。今回の件はダスティネス家も助かったし、気を使う必要はなかったんだぞ?」

 

 ダクネスの返しにお礼ですからと返すと、近づいて質問する。

 

「それより、本当にダクネスさんと呼んで良いんですか?」

 

 一応、今回は半分プライベートの集まりとはいえ、相手は大貴族。下手な態度を見せれば本当に投獄されかねないのではないか? 

 その疑問にダクネスは苦笑する。

 

「構わないさ。お父様にはお前達のことは話してあるし、私も今さら皆に貴族令嬢扱いされてもこう、背筋が寒くなる。時と場合にも依るが。だからなるべく普段通りに接してくれ」

 

「分かりました。では遠慮なく」

 

 もしも自分達が必要以上に失礼な言動をした時を考えるとある程度話が通してあるのはありがたかった。ホッとしてスズハは胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、カズマくん。アクアくん。めぐみんくん。ゆんゆんくん。スズハくん。私がララティーナの父、ダスティネス・フォード・イグニスだ」

 

 初対面で会ったダクネスの父に対する印象は画に描いたような貴族紳士。

 金髪のオールバックに整えられた口髭。

 穏やかな物腰に柔和な表情。

 態度も上級貴族とは思えない程に気さくで話しやすい人、というのが第一印象だった。

 簡単な挨拶を終えるとイグニスから裁判の件の顛末が語られる。

 

「あの裁判以降、アルダープの犯罪や不正行為の証拠が多く出てきてね。今は彼が溜め込んでいた財産をアクセルの街の門の修繕費や、デストロイヤーの進行で被害に遭った商人等の支援金に当てているところなんだ」

 

 本当はそれだけでなく、アルダープの悪事で傷付いた者達にも出来る限りの手を尽くしていた。

 

「アクセルの街の領主もまだしばらく決まりそうも無いからね。近くに屋敷を構えている私がその任に就くことになった」

 

 そこで疲れたように小さく息を吐く。

 

「しかし、情けない話だよ。私は本来、アルダープの悪事を暴くためにこの地に留まっていた筈なのに、つい最近までその尻尾を掴むどころか、彼の良いように動かされていたのだから。本当に何故あのような愚行(ミス)を犯したのか。まるで催眠術から解放された気分だ」

 

 アルダープに対して取っていた行動が自分でも理解できないとばかりに自責から顔を歪めた。

 だがそれも僅かな間で、すぐに笑みを浮かべた。

 

「と。いけないな。今日は私の愚痴を聞いてもらう為に来てもらった訳ではないのに。とにかく、君達のおかげでこの街、延いてはこの国の損失を止める事が出来た。国に仕える者として、感謝するよ」

 

 礼を述べるイグニスに一同が驚き、ゆんゆんに至っては動揺してオロオロしている。

 アクアが当然とばかりに胸を張るのは彼女の正体(しんじつ)から仕方ないだろう。

 それともこの国でのダスティネスの地位を忘れているのか。

 パーティーのリーダーであるカズマが頭を下げた。

 

「あ、いえ。俺の方こそ裁判で色々と助けてもらって、ありがとうございます!」

 

 カズマとしては、アルダープをどうにかしようとする意図はなく。結果的に事件の中心になっただけである。

 ダクネスやスズハからダスティネス家が証拠集めの為にカズマの裁判の日を延ばしてくれたり、検察官を遠巻きに手配してくれたりと手を貸してくれたと後で聞いた。

 感謝すべきなのは自分達であり、頭が上がらない思いだった。

 

「あれには驚いたよ。ララティーナが帰って来て突然力を貸してください、と尋常ではない様子で頼み込んできたのだから」

 

「お、お父様!?」

 

 苦笑しながらその時の事を思い返すイグニスにダクネスが焦った様子で止めさせようとする。

 しかし、時は既に遅し。屋敷に帰ったら、カズマとアクア。めぐみんに盛大に弄られることとなる。

 そこからダクネスが屋敷を案内する話になり、続きは夕食まで取っておく事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出るとゆんゆんがホッと息を吐く。

 

「あ~緊張したぁ……」

 

 ちょっと涙目になりながら安堵するゆんゆん。

 

「まったくゆんゆんは。あのくらいの事で心臓が止まりそうな顔をして。胸の大きさに度胸が取られてるんですか?」

 

「その理屈でいくと、めぐみんが全然平気なのも納得だな」

 

「おい。それはどういうことか聞こうじゃないか」

 

 薄ら笑いを浮かべてからかってくるカズマにめぐみんが杖を握りしめた。

 スズハは今出た客間を見つめている。

 

「どうしたの、スズハ? 忘れ物?」

 

「あ、いえ。ダクネスさんのお父様って。思った以上に優しそうな方だなって思って。ちょっとわたしの父様と比べてしまいました」

 

 あまり自分の事を話さないスズハがそんな事を呟くのは珍しい。

 

「スズハちゃんのお父さんって、どんな人だったの?」

 

 このまま聞いて良いものか一瞬迷ったカズマ達と違い、事情に1番疎いゆんゆんが促す。

 

「厳しい人でしたよ。今思うと自分の価値観を一方的に押し付けてくるところがありましたね。家事が出来ない女はみっともないって物心付いた頃に母様や使用人の方に料理を始め、家事を教わりましたし。平仮────字の読み書きを覚えるより先にキャベツの千切りが出来るようになってましたから」

 

「そりゃまた……」

 

 少し冗談めかしているが、事実を口にしているだけなのだろう。

 

「それに子供に対してあまり愛情を持たない人でしたね。わたしの妊娠が知られてしまった時も、産むのに賛成も反対もしないでただ、売女がって舌打ちされて会いに来ることもありませんでしたから。まぁ、ある意味楽でしたけど」

 

 たぶん、あの瞬間、父にとって白河涼葉は気にかける必要ない存在になったのだろう。

 

「スズハさん。重いから。笑って話してるけどすんごく重いから!」

 

 アクアが引きつった顔で言う。

 すみません、と話を変える。

 

「それに皆さんを見て、一緒にいるとわたしって故郷で友達って居なかったんだなって思いますね」

 

「そうなの!?」

 

 ここまで性格が良くできた少女に友達が出来ないとはどんな環境だったのか。

 

「基本話すのは家の関係者の子達ばかりですし。一般家庭の子と仲良くなると家の品位を貶める気かって怒られるんですよね。話す子達も、会話が家の自慢話か、持ち上げるような会話ばかりですし。なんて言うんでしょう。人の顔色を伺いつつ失敗を常に見張ってくる、みたいな? 気を抜けなかったですね。下手をすると最悪、イジメに発展しますから」

 

 お互いがお互いを監視しあうような日々。

 しかも出産までしたスズハはいったいどんな誹謗中傷の的になっていたことやら。

 あの時は毎日が目の前の事でいっぱいいっぱいで、そこまで考える余裕はなかった。

 だからこちらに来れてよかったのかもしれないと今は考えている。結果論だが。

 

「……」

 

 なんて言えば良いのか分からないカズマ達にヒナを抱きかかえているスズハが付け加えた。

 

「こちらに来て、皆さんに会えて、大分気を楽にさせてもらってます。これでも、感謝してるんですよ」

 

 ふふ、と笑う。それは本当に心からの言葉と自然な微笑で。

 

 そんなスズハにアクアが宣言する。

 

「スズハ! 今日の夕食を楽しみにしてなさい、とっておきの宴会芸を披露してあげるわ!」

 

「おい待てアクア。なにする気だ」

 

「バッカねぇ、カズマ。それを教えちゃったら面白くないじゃない」

 

 フフンと鼻を鳴らすアクアを問い詰める。

 

「お前がとっておきって言うと、何か起きるんじゃないかって不安になるんだよ! いいから教えろ!」

 

「何ですって! めぐみんの爆裂魔法でもあるまいし、私の芸で被害が出ることなんてないわよ!」

 

「おいまて。それは私に対する挑戦ですか? それ以上言うと、我が爆裂魔法がどれだけの被害をもたらすかこの場で証明することになる」

 

「それ、何にも意味ないよめぐみん!?」

 

 丁度良いとばかりに今日の爆裂魔法を放とうとするめぐみんをカズマとゆんゆんが押さえる。

 それを見ていたスズハの肩にダクネスが手を置いた。

 

「スズハ達の国の上級階流がどんなものかは知らないが、私もこの家の貴族令嬢だ。吐きたい愚痴が有るなら言え。少しくらいは理解できることもあるだろう」

 

「えぇ。その時はお願いします」

 

 優しく置かれた手を拒絶せずにスズハは頷いた。

 

 

 

 

 

 この後、夕食で披露したアクアの宴会芸で、イグニスが大事にしていた壺を紛失させる騒ぎになり、一同頭を下げる事になる。

 それを口元を引きつりながらも許してくれたダスティネス家に余計頭が上がらなくなることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらにその数日後。

 キールのダンジョンから奇妙なモンスターが大量に出現する、という話が回ってきて、その騒動の際に魔王軍幹部であるバニルを撃退するという功績をカズマ達が上げる。

 そしてその知り合いであろう魔王軍のなんちゃって幹部であるウィズに報告する必要があるだろうと、めぐみんとアクアを除く3人が店の前にいた。

 

「エリス様に仕えるクルセイダーがこんなことを言ってはいけないのだろうが、体を共有して暴れまわった仲だ。だからかな。まあ、嫌いではなかったよ」

 

 人をからかうのはいただけないがな、と店の扉を開ける。

 

「へいらっしゃい!」

 

 そこには先日倒した筈の魔王軍幹部の悪魔、バニルが似合わないピンクのエプロンを装着して働いていた。

 バニルの事を知らないスズハ以外が硬直する。

 

 挨拶代わりとばかりにダクネスをからかい始めると、赤くなった顔を隠して膝を折る。

 

「どういうことだよ!? めぐみんの爆裂魔法を受けて無傷って、反則だろ!!」

 

「実際、受けてピンピンしているクルセイダーの娘を連れてきておいて何を言うか。しかし、さすがの我輩もあれを受けてはタダでは済まなかった。見よ、この仮面に刻まれたⅡの文字を!」

 

 仮面の額部分を指差すバニル。

 悪魔として残機が1つ減り、二代目バニルとしてここに居候すると言い始める。

 それを聞いたカズマは────。

 

「ざけんな!!」

 

 頭を抱える2人を余所にスズハがバニルに近づく。

 

「バニルさん、ですね。初めまして、シラカワスズハと申します」

 

「おっと、これはご丁寧に。そこの2人よりはよほど文明人であるな。感心感心! なにやら年齢似合わぬ厚い仮面を付けた娘よ」

 

「は、はぁ……」

 

 スズハは挨拶を終えるとウィズと話始める。

 以前、エレメンタルマスターに関する書物が見つかったら取っておいて欲しいと頼んでおり、今日はそれを買いに来たのだ。

 ちなみに見つけて来たのはバニルである。

 そんな2人を見ているバニルにカズマが釘を刺す。

 

「なんだよ。スズハに変なちょっかい出すなよ。まためぐみんの爆裂魔法を喰らわせるぞ」

 

「たわけ。客に対してそんな真似をするか。我輩はこれでも礼節を弁えているのでな。しかし、ふむ。この見通す悪魔である我輩があの娘に関する忠告をしておいてやろう」

 

「……」

 

 まるでスズハに危険が迫るような言い方にカズマは耳を傾ける。

 

「あの娘の笑顔や物腰は一種の擬態であり仮面だ。本人の自覚は薄いようだがな。だが近々、その仮面が脆く崩れさるかもしれん。その時に貴様らが選択をしくじれば、あの娘は貴様らの下を去ることになるだろう。くれぐれも慎重にな」

 

「なんだよそれ」

 

「おっと。我輩が口にできるのはここまでだ! 精々頑張るが良い」

 

 腹立つ感じに口元を歪めるバニル。

 店内の掃除に戻ったバニルと入れ替わる形でスズハが寄ってきた。

 

「カズマさん。ダクネスさん。お待たせしました」

 

 分厚い本を袋に入れて下げたスズハにカズマは軽く返事を返す。

 

「なぁ、スズハ……」

 

「はい? なんです?」

 

 ジッと見つめてくるカズマにスズハが首をかしげる。

 

「いや、何でもない」

 

「?」

 

 きっと、さっきのバニルの言葉は自分をからかう為のものだろう。

 スズハが自分から去っていくなんて考えられない。

 だからカズマは、さっきのバニルの忠告を深く受け止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 その事を、後々に後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




温泉編にさっさと入りたくてバニル戦は丸々カットすることに決めた。だってスズハの出番ないし。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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