「いいか! 俺は暖かくなるまで絶対ここから出ないからな!
キシャーッと炬燵の中を占領するカズマを女性陣は呆れたように見ている。
バニルと結託して手始めに作った商品。
量産体制はバニルの方で用意するらしく、試作品を作るだけで金が入ってくる契約をしてるらしい。
それでカズマは日本に在った商品を生産系のスキルで製造していた。
「カズマ。季節はもう雪解けです。カズマ達の国の暖房器具が優秀なのは分かりましたが、そろそろ冒険者活動を再開しましょう」
「ジャイアントトードを始め、モンスター達の活動も活発化している。私達も動かないでどうする! ほら行くぞ!」
めぐみんとダクネスがカズマを炬燵から出そうと近づく。
しかし、それで大人しく従うカズマではなく。
「おああああああっ!?」
「にょわあああああああああっ!?」
めぐみんにドレインタッチ。ダクネスの首筋にフリーズをかけて応戦する。
「こ、この男反撃してきましたよ!?」
「ふははははははっ! 俺を炬燵から引き剥がせると思うなよ、お前らぁ!!」
「さすがはクズマさんね……私でも引くわぁ……」
カズマの様子にアクアですらダメだこりゃ、とばかりの表情になる。
「カズマさん。ずっと炬燵に籠ってたら、また病気になっちゃいますよ?」
「ふん! スズハ! いくらお前でも俺をここから出せると思うなよ! 大体、また風邪を引いてもお前に治してもらうから問題ないな!」
「カズマは最低です! 言うことは聞かないくせに治療だけ要求してきますよ!」
「なんとでも言え! 俺は絶っ対にここを離れないぞ!」
困り果てるめぐみんとダクネスにスズハは口元に人差し指を当てて考える。
「炬燵に入りっぱなしだと、脳梗塞や心筋梗塞で死亡することもあるらしいですよ?」
ピクリとカズマは笑みを引きつらせた。
「わたしがこっちにくる前に見たニュースで、大学生の方が家の炬燵に長時間入っていて脱水状態と心筋梗塞で亡くなった事件がありまして」
哀しそうな表情でカズマを見る。
しかしそれでもカズマは強気に鼻を鳴らした。
「ふ、ふん。もし仮にそうなっても、アクアが俺を
「イヤよ! 何でそんなバカな死にかたした奴に、私の神聖な魔法をかけてあげないといけないの! それに、病死の場合は寿命と同等に扱われるから蘇生出来ないわよ!」
「なっ!?」
知らなかったカズマは愕然とする。
トドメにスズハが一言。
「炬燵から、そろそろ出ましょうか……」
「……はい」
カズマはガクンと頭を下げて自分から炬燵から這い出てきた。
カズマ達が冒険に出掛けて数時間後。
「にゃーんっ!」
「こらヒナァ。ちょむすけの尻尾で遊んだらダメだって何回も言ってるでしょう!」
イヤがっているちょむすけの尻尾を握ってキャッキャッと楽しそうに引っ張ったり振り回している娘の手を放させる。
助かったとばかりにスズハの胸に飛びつくちょむすけ。
スズハもちょむすけをよしよしと抱き上げるとヒナがそこは自分の席とばかりに泣き始める。
「アーッ!? アーッ!?」
「あー、ハイハイ。ちょむすけもごめんなさい。お詫びにおやつをあげるから」
ちょむすけを床に降ろすと、ヒナを抱き上げてあやす。
抱き上げて撫で、いつも唄っている子守唄を聴かせると、すぐに泣き止んだ。
そのまま用意してあったちょむすけ用に作ったささみの蒸し焼きをあげると、すぐに食いついてくる。
パクパクとささみを食べるちょむすけの姿に癒され、頬を綻ばせながら3本食べさせた。
休憩がてらにソファーに座っていると、ついてきたちょむすけが膝の上に乗って丸まる。
どうやらスズハの膝で昼寝をすると決めたらしい。
腕にヒナも抱えて地味につらい。
「仕方ないなぁ……」
苦笑してジッとするスズハ。
めぐみん達が冒険者業に出ている間、飼い猫のちょむすけの世話は基本スズハがしている為に懐いてくれているのだが、娘のヒナ は尻尾や足を掴んだり、抱き枕にして押し潰したり。
そんな訳で避けられているのだが、ちょむすけが不意に近付いて来るとちょっかいをかけるのだ。
そんな感じに休んでいると、窓の方を見る。
「カズマさん達は大丈夫ですかね……」
普段が普段なだけに心配である。
部屋に引きこもり続けるのはどうかと思うが、やはりスズハの感覚としては危険と隣り合わせよりも安全な仕事をしてほしいと思うが、こればかりはスズハが口出しする事ではない。
そんな事を考えていると、疲れた声と共に玄関の扉が開かれた。
「ただいま~」
そんな声が届いた後、カズマ達が居間にいるスズハのところに来ると、その状態に瞬きさせた。
「あはは。おかえりなさい、皆さん」
「いつもは玄関まですぐに出迎えに来るのに、おかしいとはおもいましたが、これでは動けませんね。ちょむすけ。おいで」
めぐみんの声に丸まっていたちょむすけが起き上がり、めぐみんのところまで走る。
自由になった足で立ち上がるスズハ。
「お疲れ様です。お風呂沸いてますけど、夕食とどっちからにします?」
「あ~。俺、先に風呂入るわ。木から落ちて砂や泥まみれだし」
そう言って脱衣場に行くカズマにアクアが文句を言う。
「ちょっとカズマ! 私も今日は遠出して汗掻いたから早めにお風呂入りたいんですけど!」
「うっさいわ! お前が余計な事したせいで俺は首が折れたんだろうが!」
「え? 首っ!?」
「なによー! ちゃんと治して生き返らせてあげたでしょう!」
驚いているスズハを余所に2人が脱衣所まで走り、カズマがフリーズで応戦して叩き出した。
涙目で悔しそうに歯軋りしながらソファーに行くアクア。
次にめぐみんがスズハに告げる。
「すみませんが、スズハ。私はこれから1、2日ほど、ゆんゆんのところに行かせてもらいます」
「え? でも夕ごはんは?」
「……惜しいですが、今は急ぎますので」
ちょむすけを抱えたまま早足で出ていくめぐみん。
その訳は、すぐに知ることとなる。
「めぐみーんっ! めぐみんどこだぁ!!」
「めぐみんならしばらくゆんゆんのところにいくとああああっ!?」
「うるさーいっ!?」
風呂場からタオルだけを腰に巻いて出てきたカズマ。
その姿にダクネスは顔を赤くして手で覆い、スズハはカズマの下腹部を見て呆然としている。
アクアは呆れたように応対する。
「カズマ。自分に自信があるのは良いことだけど、そういう自慢はどうかと思うわ」
「ざけんな!! めぐみんがコレ書いてた時に、お前ら隣に居たんだろうが!? 何が聖剣エクスカリバーだぁ!? そんな名前を思い付くなら、俺の刀の銘ももっとカッコ良くできたろうがぁ!?」
今回のクエストの前に、カズマは頼んでいた特注の刀を取りに行っていたが散々悩んだ末に自分で銘を入れる前にめぐみんに銘を刻まれた。
その銘はちゅんちゅん丸である。
「あんの
「いったいどんなことをするつもりなのか是非!」
ちょっと嬉しそうに質問するダクネス。
その後にカズマは泣きながらその落書きを落とした。
「気持ち悪いですぅううっ!?」
「……ははっ」
めぐみんの叫びにスズハも乾いた笑みを浮かべる。
今、居間のソファーで珍劇が披露されていた。
「カズマさん、最高級の紅茶を淹れましたわ」
「ありがとう、アクア」
カズマが一口紅茶を飲む。
「うん、お湯」
「あら? ごめんなさい。どうやら紅茶を浄化してしまったみたい」
「ハハ。構わないさ。また淹れれば良いだけだからね」
「ウフフフフ」
「アハハハハ」
そんな似非セレブごっこを興じる2人を見てめぐみんがスズハの肩を揺らした。
「な、何なんですか!? あの2人は!? わ、私が行ったイタズラでカズマとアクアがあそこまで壊れるなんてっ!?」
「あー。落ち着け、めぐみん。別にあの2人があぁなったのはお前のせいじゃない」
「実は昨日、バニルさんが訪れまして。それで」
バニルは、カズマが製作した炬燵を初め、様々な道具を高く評価し、是非、ウィズ魔法具店で販売したいと言ってきた。
その際に、これらの著作権、知的財産権ごと買い取りたいと言ってきた。その報酬として3億エリスの一括払いか、毎月百万エリスを支払う契約を提示してきた。
それに目が眩んだ2人はずっとこの調子なのである。
「いきなり大金が舞い込んできて、変な使い方をしなければ良いですけど……カズマさんは今、お金持ちではあっても資産家ではないですから」
さすがに呆れた様子でスズハはちょむすけにおやつを与えている。
「お金持ちと資産家。何か違うのですか?」
「違いますね。お金持ちは文字通り、物凄いお金がある人。資産家はそこからちゃんとお金を管理しつつ利益を上乗せして一定期間ちゃんと収入がある人の事ですし。お金の使い方が解らない人は、大抵余計な事にお金を使ってすぐに底を突かせるんだそうです」
父様の受け売りですけどね、と苦笑するスズハ。
確かに今までの冒険者としての報酬やバニルからの報酬が有ってもそこから何かビジョンがあるわけでもない。
まぁ、もしかしたら次に作る商品開発で利益を得られるかもしれないが、それよりも浪費の方に傾くかもしれない。
とにかくカズマとアクアがおかしくなった理由を理解してめぐみんは一安心する。
「まぁ、冒険者を続けるのに資金は幾ら有っても良いものですしね」
そう納得するめぐみんにカズマがなに言ってんだと小さく笑う。
「決めた。俺はもうクエストには行かない。ここで商売を始めて緩く温く生きてく。どうせ俺がいくら強くなっても、魔王を倒すなんてそれこそ夢のまた夢だしな!」
「カズマさん。困るんですけど。魔王を倒してくれないと流石に困るんですけど」
アクアの言葉にカズマは頷くととんでもない提案を出す。
金で多くの冒険者や殺し屋を雇い入れ、魔王を倒してもらうだの暗殺させるだの。
どっちが悪者だか判らない方法にめぐみんが反論するがお金の魔力に取りつかれている2人はすっかりその気だった。
それでも諦めずに説得を続けるめぐみんにカズマが折れる。
「分かった分かった。だけど俺も首の骨が折れて治ったばかりだし。せめてその傷が言えるくらいまではゆっくりさせてくれ」
「……分かりました。では、カズマの傷を癒すために湯治に行きましょう」
「おう! 分かってくれたか! なら俺はここでゴロゴロ……今なんつった?」
「ですから湯治に行きましょう。水と温泉の都アルカンレティアへ。道中を含めて1週間くらい」
静かに言っためぐみんの言葉にいち早く反応したのがアクアだった。
「温泉! 今、水と温泉の都アルカンレティアって言ったわよね!!」
カズマ以上の食い付きを見せるアクア。
カズマも、わざとらしく声を出す。
「まぁ、俺達もここ最近、あり得ないような強敵との連続だったしな! たまには豪遊するのもいいかー!」
「なんで棒読みなの? カズマさん」
「べ、べ、別になんでもないぞー! はははははっ!?」
温泉と聞いてオイシイ妄想をしていたカズマが慌てて取り繕う。
「それじゃあ、そのアルカンレティア? に明日出発だな! スズハ、お前は────」
「あ、はい! 1週間ですね。留守番は任せてください」
と、斜め上の発言をするスズハにめぐみんとカズマがずっこける。
「いや。お前も行くんだよ! なんで1人留守番みたいになってんの!? 俺らはシンデレラの継母と継姉か!!」
「え? わたし達も行っていいんですか?」
「当たり前じゃないですか!? というか、1番休まなきゃいけないのはスズハですよ! どうせこの2人が似非セレブやってる間もずっと1人で働いてたのでしょ?」
めぐみんの言葉にスズハはただ、苦笑いだけを浮かべている。
アクアも追加で勧めてくる。
「そうよ! せっかく皆で温泉に行くのに、お留守番なんて勿体ないわ! 皆でパーッと旅行を楽しみましょうよ!」
「遠慮することはないんだぞ。奥ゆかしいのは美点かもしれないが、行き過ぎれば息苦しくなるぞ。自分も周りもな」
全員から説得されてめぐみんが改めて問う。
「もしかして、スズハは行きたくないんですか?」
「いえ、そんな事は。もちろん行きたいですけど。旅費とか。ヒナのこととか」
自分の負担はカズマ達持ちになるだろう。それに赤ん坊であるヒナの事でも気を使わせないかと心配なのである。
その言葉にカズマが嘆息する。
「だから気を使いすぎなんだよ。ヒナの面倒は皆で出来る限り見れば、お前も少しは気を抜けるだろ? 旅費とかは気にすんな。いやホントに」
「そうです。皆揃って行かなければ意味がありません!」
「それに、アルカンレティアの人達は良い人ばかりだから、困ってたらどんどん頼めばいいわ!」
「アクア。それはどういう……」
何故かアクアの自信に不穏な物を感じるがここまで推されれば気を使う必要はないのだろう。
「なら。よろしくお願いします」
「決まりね! それじゃあ水と温泉の都アルカンレティアに行くわよ!」
『おーっ!!』
何気にちょむすけが初登場。すっかり出すの忘れてました。
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序盤
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デストロイヤーから裁判まで。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編
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王都編
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ウォルバク編
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番外で書かれた未来の話
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その他