この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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間に合った!


湯治への道中

「たぶんこれは皆さん食べるでしょうから多めに作って置いて。ジャガイモは揚げて。あ! でもどうせならポテトサラダでサンドイッチにした方が……」

 

 テキパキと旅行中に食べるお弁当を用意する。

 急に決まった為に買い置きしてあった食材がそれなりに残っており、腐らせるのは勿体無い。

 だからお弁当を作っている。

 フライパンで野菜を炒めている最中にめぐみんが厨房にやってくる。

 

「おはようございます、めぐみんさん」

 

「おはようございます。またすごい量ですね」

 

「少し、長く家を空けますからね。食材を使いきろうと思いまして」

 

「なるほど」

 

 納得しながら1口サイズに揚げられたジャイアントトードの唐揚げをパクっとつまみ食いする。

 スズハも特に咎めるような事をせずに苦笑した。

 

「めぐみんさん。お弁当に詰めるの、手伝ってもらって良いですか?」

 

もちろんです(ほひほんへふ)

 

 ゴクンと唐揚げを呑み込み、スズハの手伝いを始めた。鼻唄混じりにお弁当を詰めるのを手伝う。

 その作業を手伝いながらやはり量に違和感を覚える。

 

(これ、食べきれますかね……)

 

 どう見ても5人分を大きく上回るおかずにめぐみんが首を傾げた。

 いくら食材を使いきりたいと言っても、食べられる分量くらいは把握してる筈だが。

 

「もしかしてスズハ、旅行で浮かれてるのですか?」

 

 めぐみんの問いにスズハは照れたように笑った。

 

「実は……楽しみで張り切り過ぎてしまった自覚、あります」

 

 その答えにめぐみんは内心安堵する。

 もしかしたら本当は温泉に行きたくないのではないかと不安だったのだが、これなら杞憂だろう。

 

「しかし、やはりこれは多すぎますね」

 

「……一度、ギルドに顔を出して職員の方にお裾分けした方が良さそうですね」

 

 待ち合わせ場所に向かう前にギルドに向かうことが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっそーいっ! 2人共遅いわよっ!」

 

 腰に手を当てて不満を漏らすアクアにスズハはすみません、と頭を下げる。

 

「ギルドに寄ると言っていたが時間がかかったな。何かあったのかと思ったぞ」

 

「ちょっと予想外の男に絡まれまして」

 

 ギルドへ向かう途中、カズマの友人であるダストに絡まれたのだ。

 何でも、デストロイヤーでの報償金が底をつき、昨日から何も食べてないからその弁当を恵んでくれ、とのこと。

 別に余り物なので構わなかったのだが、その光景を途中から見ていたダストのパーティーメンバーであるリーンが、カツアゲしていると勘違いしてむりやり土下座をさせられたりしていた。

 ギルドに着いた後に会ったゆんゆんに余りのお弁当をあげたら喜ばれたりしているうちに時間が思ったより経過してしまった。

 

「ところで、ウィズさんはどうしてここに?」

 

「はい。バニルさんの勧めで、今回皆さんの旅の同行してもらえることになりました」

 

「本当ですか! それは楽しみですね」

 

 朗らかと2人で話していると、カズマがぼりぼりと頭を掻いて近づいてくる。

 

「わるい。全員馬車の中に入れないらしくてな。誰か1人は、荷台に座ってくれってさ。その分、料金は安くするからって」

 

「あ、なら飛び入りの私が……」

 

 ウィズが手を挙げて荷台に座ると言い出すが、カズマが止める。

 

「ウィズの旅費は、バニルからちゃんと貰ってるし、そんな不公平はさせられない。あ、でもスズハ。お前は先に馬車に入ってていいぞ」

 

「え? でも……」

 

 特別扱いを受けることに引け目を感じるスズハ。それにアクアが抗議する。

 

「なんでスズハだけ中確定なの! 依怙贔屓よこのロリニート!」

 

「スズハは赤ん坊(ヒナ)を抱えてんだぞ! もし落ちたら大変だろうが! それに弁当まで作ってくれてんだ! それくらい大目にみようぜ!」

 

「む。そう言うことなら仕方ないわね」

 

 カズマの言い分に納得しながらもぶつぶつ言うアクア。

 

「とにかく、手っ取り早くじゃんけんで決めようぜ。誰が荷台に移っても恨みっこなしだ」

 

 カズマの提案に皆が反対することなく頷く。

 最初に勝ったのはカズマだったが、アクアが駄々をこねるのでカズマとアクアの一騎討ちをすることになった。

 3回中、アクアが1回でも勝てたら荷台に移る条件で。結果はカズマのストレート勝ち。

 ついでにアクアが延長戦を仕掛けても負けた。幸運を上げる魔法まで使って。

 何度もやり直しを要求するアクアにキレたカズマが置いてくぞ宣言したことでアクアは結局荷台に座ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬車の旅。

 カズマとダクネスが外の景色と中の様子を交互にみたり、ウィズはちょむすけを可愛がったり、めぐみんは預かることになったドラゴンの子供を興味深そうに観察している。

 スズハもヒナのヒナに時々外の景色を見せたりしながら旅を楽しんでいた。

 アクアは荷台で足をプラプラさせたり寝っ転がったりしている。

 だんだんと荷台に居ることに飽きたアクアが文句を言ってき始めたその時。

 

「ん?」

 

 異変に気付いたのはカズマだった。

 

「すみません! なんか土煙上げて近づいてくるのが見えるんですけど! あれ何か分かります?」

 

 馬車を引いている御者に質問すると少し考えた後に答えた。

 

「うーん。ここら辺で土煙上げるほどの速度で近づいてくる集団っていやぁ、リザードランナーくらいですかね? でもあれは姫様ランナーが討伐されたと聞きますし、他に考えられるのは走り鷹鳶くらいかな?」

 

「走り鷹鳶?」

 

 スズハが聞き返すと、えぇ、と御者が答える。

 

「タカとトンビの異種間交配の末に生まれたモンスターで、鳥類界の王者です。奴等は鳥の癖に飛べませんがその凄まじい脚力で獲物を見つけると近づき、ジャンプして襲いかかってくる大変危険なモンスターです」

 

 説明を聞いて何とも言えない表情をするカズマに御者は軽く笑う。

 

「大丈夫ですよ、お客さん。奴等は春になると繁殖期を迎えてメスの気を引くためにオス同士の勇敢さを競い合うチキンレースという求愛行動を始めるんです。激突すると大惨事になる硬いものを本能的に探し当てて、直前で避けるという変わった行動です。どうせそこらの岩とか木にぶつかって行きますよ」

 

 それなら安心だと思ってカズマは席に着くが観察していた走り鷹鳶がこちらに向かってくる事に首を傾げる。

 

「何か、こっちに一直線に向かってくるんだけど……」

 

「おかしいですね。あれは走り鷹鳶ですが、なぜこっちに? もしかしたら商隊の荷物にアダマンタイトのような硬い鉱石でも積んでるんですかね?」

 

 疑問を口にしている最中にダクネスが会話に入ってくる。

 

「カズマ! モンスターがこちらに向かってくるぞ! というか、私を凝視してる気がするのだが! な、なんという熱視線! このままでは私はあのモンスターに蹂躙されてしまう!!」

 

 途中から興奮し出して息を荒くするダクネス。それを見てなぜ走り鷹鳶がこちらに向かってくるのか理解した。

 

「お前のせいかー!!」

 

 ぺチンとダクネスの頭を叩く。

 ダクネスの鎧はアダマンタイトを少量含んでいると以前聞いたことがある。

 それに加えてダクネス自身の耐久も相当な物だ。モンスターはおそらくそれを目掛けて突進してきているのだろう。

 一旦馬車は止まり、護衛として雇われた冒険者達が走り鷹鳶を迎え撃つ。

 

「本来俺達は護衛とは関係ないが、あれを引き付けたのは俺達だ! 自分の尻拭いは自分でするぞ!」

 

「私もお手伝いします!」

 

 ウィズが名乗り出るがカズマはそれを一時的に拒否する。

 

「いや、ウィズは中に居るスズハや御者のおっちゃんを守ってくれ! 頼む!」

 

 カズマの指示にウィズはコクンと頷いた。

 

 ダクネスが走り鷹鳶に向かって真っ直ぐと向かっていった。

 そんなダクネスに護衛の冒険者が声を出す。

 

「おいアンタ! アンタは護衛とは関係ないんだから引っ込んでろ!!」

 

 その忠告を無視して前に出るダクネス。

 護衛の冒険者達の勘違いが続く。

 

「あのクルセイダー! デコイのスキルでモンスターを自分に引き付けてるんだ!」※使ってません。

 

「あのモンスターの群れに、一歩も退かないわ! なんて勇敢なの!」

 

 そんな言葉を聞きながらカズマはだんだんと居たたまれなくなる。

 しかも、援護で放ったバインドという拘束スキルに自分から縛られるという醜態まで犯すが。

 

「まさか! バインドを食らわせて俺がモンスターの標的にされるのを防ぐために!? すまねぇ! 援護のつもりが邪魔しちまった! 許してくれ!」

 

(すみません! うちの変態が本当にすみません!)

 

 ついに心の中で謝罪しつつ土下座をするカズマ。

 

 ダクネスを飛び越える走り鷹鳶。

 それらを護衛の冒険者が討伐していく。

 しかし全てを討伐しきれずにダクネスを飛び越えた走り鷹鳶は旋回して再び襲いかかってくる。

 

「おっちゃん! ここらに崖か何かないか!?」

 

 ダクネスを餌に走り鷹鳶を誘導して自爆を狙うカズマ。

 

「ここらで崖なんて……在るのは、雨が降ったときに使う洞窟くらいですよ!」

 

「洞窟……」

 

 それにカズマはある考えが浮かぶ。

 

「なら、そこに向かって馬車を走らせてくれ! アクア、めぐみん! 馬車に乗れ!」

 

 言いながら、カズマは縛られて転がっているダクネスを回収しようとするが重くて持ち運べない。

 そこで本人の提案からロープで引きずる事となった。

 

「出してくれ!」

 

「はい!」

 

 カズマの指示で最大速力で馬車を走らせる御者。

 当然馬車に引きずられているダクネスは凄いことになっている。

 引きずられて何度も地面に叩きつけられる仲間を見て女性陣がドン引きする。

 

「カズマは鬼畜だと思ってたけど、これはいくらなんでもあんまりじゃないかしら」

 

「こ、このままじゃ、ダクネスさんが死んじゃうんじゃ……」

 

 非難の視線がカズマに降りかかり、スズハも身震いしている。

 

「違うから!? 俺じゃなくてダクネスから提案してきて────」

 

「お客さん! どうしますか!! このままじゃ、追い付かれますよ! 何処に向かえばいいんです!?」

 

 悲鳴のような御者の声にカズマが指示を出す。

 

「さっき言ってた洞窟に! 近づいてきた奴は俺達で仕留める! アクア! 俺にも筋力増強の支援魔法を!」

 

「分かったわ! パワード!」

 

 ダクネスに治癒魔法(ヒール)をかけ続けているアクアに指示を出して、筋力強化したカズマが馬車の上に移動する。

 

「ボトムレス・スワンプ!」

 

 ウィズが魔法で沼を作り、足を取られた走り鷹鳶が次々と沈んで行く。

 

「狙撃! 狙撃! 狙撃! 狙撃! 狙撃!」

 

 馬車の上に乗ったカズマも前を走る走り鷹鳶を射ぬいていく。

 しかし、速く俊敏な個体も居たらしく、ウィズの魔法やカズマの矢を避けつつ向かってくる。

 

「カズマさん! 追い付いてきた!? 1羽すんごい速さで追い付いてきたぁ! ちゃんと当てて!」

 

「わ、分かってるよ!」

 

 しかし矢を走りながら避けるというデタラメっぷりを見せる走り鷹鳶。

 ついに跳躍し、馬車に襲いかかってくる。

 そこで前に出たのが意外にもスズハだった。

 

風精霊(シルフ)!」

 

 デストロイヤーの時に契約した風の精霊を呼び出し、風を操って走り鷹鳶を押し出した。

 押し出された走り鷹鳶はそのまま後ろの2羽を巻き込んで地面に激突して迎撃された。

 緊張が解けて膝をつくスズハ。

 

「やりますね、スズハ!」

 

「は、い……これくらいは……!」

 

 息を切らすスズハ。

 その後も何とか走り鷹鳶を洞窟内に誘導。

 最後の締めを指示する。

 

「めぐみん!」

 

「待ちくたびれましたよ! エクスプロージョンッ!!」

 

 洞窟の中に誘導された走り鷹鳶はめぐみんの爆裂魔法で洞窟ごと殲滅させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり日が落ちてキャンプファイアーの火を囲いながら暖を取っている。

 

「あ、レベルが上がってます」

 

 お弁当を食べながら冒険者カードを見たスズハはレベルが上がっていることに小さく驚く。

 

「ほう? いくつですか?」

 

「7ですね。朝まで2でしたから、5も上がりました」

 

「あのモンスターを数羽仕留めましたからね。最初はレベルも上がりやすいですし」

 

 スズハの冒険者カードを横で見ためぐみんの言葉にスズハがへーと呟く。

 

「ごめんなさい、私までお弁当を頂いてしまって」

 

「いいんですよ。元々たくさん作りすぎてましたし。ウィズさんが食べてくれてちょうど良いくらいでした」

 

 申し訳なさそうにしているウィズにスズハがそう答える。

 

 少し離れたところでは、アクアが宴会芸を披露していてカズマは商隊のリーダーに報酬を払われようとしているのを必至で断っていた。

 今更にあのモンスターを引き付けたのは自分達とは言えず、それでも歓待してくれる商隊から報酬まで貰えるほどカズマの面の皮は厚くなかった。

 

「それにしてもお見事でした! 爆裂魔法を使うアークウィザードに勇敢なクルセイダー! 皆を治療してくれたアークプリーストに希少なエレメンタルマスター! それを指揮する貴方も素晴らしいパーティーでした!」

 

「はは、どうも……」

 

 そんな世辞を受ける度に胃がキリキリしていた。

 

 商隊にアクアの芸が絶賛されている中で、スズハはうとうとさせてふわぁっと欠伸をする。

 

「眠いのですか?」

 

「はい……」

 

「無理もない。緊張の連続だったからな」

 

「もう今日は休んでください。何かあったら起こしますから」

 

「ありがとう、ございます……」

 

 敷かれた毛布にくるまってスズハはそのまま寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スズハ! 起きてください! スズハ!!」

 

「は、はいっ!?」

 

 体を揺さぶられて目を覚ますスズハ。

 ぼやけた視界が元に戻るとそこには大量のゾンビゾンビゾンビだった。

 

「ひゃっ!?」

 

 掠れた悲鳴を上げて直ぐ様にヒナを抱き上げるスズハ。

 

「な、何ですか!? これぇ!?」

 

「ゾンビです! いきなり目を覚まして襲撃をかけてきました! 今カズマがアクアを呼びに行ってます! さがって!」

 

「は、はい!」

 

 杖を構えるめぐみんの後ろに退くスズハ。

 そこでアクアの声が響く。

 

「迷える魂達よ、眠りなさい! ターンアンデット!!」

 

 アクアが魔法を行使するとゾンビ達は次々と天に召されていく。

 その魂が昇天する光景は不謹慎かもしれないが。

 

「きれい……」

 

 アクアを中心に次々と召されていくゾンビ。

 

「あはははははっ!? 私が居るときに現れたのが運の尽きね! 片っ端から浄化して上げるわ!!」

 

 酒瓶を片手に次々とゾンビを浄化していくアクア。

 商隊の人達や冒険者も、そんなアクアの姿に感嘆している。

 

「アクアさんが居て良かったですね……」

 

「……」

 

 安堵するスズハにめぐみんが難しい顔をしている。

 

「めぐみんさん?」

 

「……おそらく、あのゾンビ達はアクアに引き寄せられたのだと思います。理由は解りませんが、アクアにはアンデットを引き寄せる性質があるみたいですし……」

 

「それって……」

 

 つまり、アクアが居なければこの場にゾンビが現れることもなかったのだというめぐみん。

 さっきの感動を返してほしい。

 

「昼間といい、モンスターに遭遇する原因は私達じゃありません?」

 

「……気にしない方が良いですよ、きっと」

 

 帽子を深く被るめぐみん。

 

 カズマもその事に気付いたのか、報酬を支払おうとする商隊のリーダーを躱している。

 流石にこんなマッチポンプで報酬を貰うつもりは無いらしい。

 

「うー、あー?」

 

 目を覚ましたヒナが微妙な顔をしているスズハの頬に触れる。

 そんなヒナを抱き締めながらある不安が過った。

 

(このまま、本当に温泉までたどり着けるのでしょうか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんな感じにスズハもチマチマとレベルを上げていく予定です。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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