昨日に続いてカズマ達のパーティーが乗る馬車はモンスターに狙われて全力疾走を強いられていた。
「ねぇ! なんであのでっかい鳥達私達の馬車に狙いを定めてるの!? すっごく恐いんですけどっ!?」
人間の子供と同程度のサイズはある鷲に似た鳥型モンスターに威嚇するように襲われてアクアが泣きそうな声で叫びを上げるとウィズが答える。
「気をつけてください! あれは鳥隠しです!」
「鳥隠しぃ!? 神隠しじゃなくて!?」
馬車の上で矢を構えていたカズマのツッコミにウィズが頷く。
「あのモンスターは人間や動物の子供を! 特に赤ん坊をあの前足を使い拐って餌にする大変危険なモンスターです! 個体で動くときも街で親が子から離れた瞬間を狙って捕獲して食べることもあります!」
真剣なウィズの説明に馬車に乗っている面々の視線がスズハに集まる。
当の本人であるスズハもより娘を抱き寄せて顔を青くさせていた。
「じゃあ、あのモンスターの狙いは……!」
モンスターの狙いを察してスズハの体が震える。
それを見てめぐみんが叫ぶ。
「カズマ! 私が爆裂魔法であの怪鳥モンスターを吹き飛ばします!」
鼻息を荒くして爆裂魔法の準備に入るめぐみんに、カズマがストップをかけた。
「バカ!? こんな近くで爆裂魔法なんて使ってみろ! 俺達まで巻き添えだろうが! どうせお前加減なんてしねぇんだろうから!」
「当然です! 爆裂魔法を手加減して撃つなど言語道断!! 私はいつでも全力投球です!」
「だからそれがダメだってんだよぉっ! 下手したら俺らも全滅だろうが!!」
鳥隠しは既に馬車の頭上近くで獲物を狙っている。そんな中で爆裂魔法なんて使えるわけもなく、その上一ヶ所に纏まらずに少し後方で同じモンスターの群れが控えているのだ。これでは一発屋の爆裂魔法は使えない。
少しの間、どうするか考える。欲を言えばめぐみんの爆裂魔法で一網打尽。そうでなくとも残りをカズマ1人で片付けられる数に減らしたい。
モンスターの狙いから今回はすべて倒さなければ意味がないのだ。
ウィズの手も借りたいが、昨夜のゾンビ騒ぎでアクアのターンアンデットの巻き添えを喰らったせいで本調子ではない。
彼女の手を借りるのは最終手段だ。
そこでカズマはある事を思い出す。
「アクア! お前、リザードランナーを誘き寄せたあの魔法を使ったとき、神聖魔法の中にはモンスターを寄せ付けない魔法もあるって言ったよな! それ、使えるか」
「そりゃ使えるけどー! でも、その魔法じゃあの鳥、追い払えないわよ!」
目的がヒナと、もしかしたらスズハも。それなら魔法で一時的に遠ざけられても解決しないだろう。
「いいんだよ! その魔法で上にいる鳥達と距離が取れて、後ろの奴等と少しでも近づければ!」
そうすればめぐみんの爆裂魔法で殲滅出来るし、討ち漏らしがあってもカズマとウィズで迎撃できる。
説明しながら指示を飛ばす。
「アクアはモンスターを寄せ付けない魔法を! めぐみんは俺の合図で爆裂魔法だ! いいか絶対に早まって撃つなよ!! ダクネスはもしも突破された時の為に、ヒナを隠すようにしてスズハに抱きついてろ! いいな!」
カズマが指示を出すと全員が頷く。
ダクネスがモンスターに背を向けるように抱きついてくる。
「ダクネスさん……」
「心配するな。もしもの時は私が絶対に2人を守る。そうだ。赤子を拐うために邪魔な私をあの鋭い嘴が何度も私に襲いかかってくるのだ! そして私は2人を守るために無防備にその攻撃を受け続ける! くぅー、たまらん!!」
「ダクネスさん?」
興奮したようで頬を染めるダクネスにスズハは先程とは違うニュアンスでダクネスを呼ぶ。
そうしている間にアクアが空高く赤い光の魔法を飛ばすと、近くにいた鳥隠し達は戸惑うようにその場に留まり、後ろの群れと距離を近くしながら、馬車と距離が出来る。
爆裂魔法を準備していためぐみんが指示を待つ。
「カズマ! まだですか!?」
「まだだ! もうちょい、もうちょい……今だ! やれ、めぐみん!!」
「エクスプロージョンッ!!」
めぐみんの杖から放たれた光線が鳥隠しの中心で爆発し、全てを飲み込んでいった。
過度に走らせた馬を休ませるために休憩を取っていた。
昨日と違い、今回の件はさすがに隠しきれずに商隊に謝罪すると、気にしなくていい、と笑われた。
こういう事態は想定されて然るべきだし、その為に護衛を雇っていた。むしろ討伐をそちらにばかり任せて申し訳ないと。
それにこれでしばらくこの付近で鳥隠しに遭遇せず、子供や赤子連れの母親も安心して旅が出来るとも言われた。
「なーにしょげてんだよ、スズハ」
「カズマさん……」
馬車の奥で体を小さくしているスズハに、カズマが話しかけた。
「落ち込むなよ。誰もお前達のせいだなんて思ってないんだ。それにアクアやダクネスを見てみろ。昨日、あんだけの騒ぎの原因になったくせに、ケロッとしてるだろ?」
馬車の外ではモンスターの討伐記念にアクアが宴会芸を披露していた。
それをダクネスやめぐみんを含めて喝采を上げている。
「倒したモンスターも、解体して売れるところは持っていって売るんだと。逞しいよな」
大量の鳥隠しを捌いて取れる部分は取る採算らしい。
「だからお前もさ、今回のことはそんな気にすんな。もうすぐ目的地なんだ。そんなんじゃ楽しめないだろ?」
不器用ながら慰めてくれるカズマにスズハは小さく笑みを浮かべる。
「はい……」
よし! とカズマが立ち上がるとスズハが思い出したように質問する。
「あの……カズマさん。少し、お聞きしたい事が……」
「どうした? なんかあんのか?」
「ダクネスさんってもしかして────」
そこから先はカズマがスズハの口を塞いで言葉を切る。
「その事には触れるな。スズハにはまだ早い。いいな?」
人差し指を当てて真剣な様子のカズマにスズハはただ、コクリと首を縦に振る。
そこで芸を終えたアクアがやってきた。
「2人共ー! そろそろ馬車を出すらしいわよ! カズマ! 今回私もちょっとは活躍したんだから! 馬車の中に乗せて! 荷台はお尻が痛くなるからイヤなの!」
ここぞとばかりに要求してくるアクアにカズマは苦笑する。
「はいはいわかったよ。どうせもうすぐ着くんだし、最後は俺が荷台に移ってやるよ」
やった! とガッツポーズをするアクア。
その感情豊かな様子にスズハはプッと吹き出す。
それを見てアクアがムッと口を尖らせた。
「なによスズハ。人を笑うなんて失礼じゃない?」
「あ、すみません。アクアさんのそういうポジティブなところ、羨ましいなって」
スズハに褒められて一転して上機嫌に胸を張る。
「なに? ようやく私の偉大さに気付いたの? ならこれからは存分にこの女神アクア様を称えなさい。具体的に言うと、私にお供え物をしたり、朝昼晩私に祈りを捧げ、あいたっ!?」
調子に乗り始めたアクアの頭をカズマが叩く。
「遠回しにスズハをアクシズ教に入信させようとするな。スズハも、こいつを調子に乗せるなよ」
「なによっ! 御神体である
「それが本当に敬える存在ならな!」
言い合いを始める2人にめぐみんとダクネスが近付く。
「何をやっているのですか? そろそろ出発するそうですよ」
「アルカンレティアまでもう少しだ。何もなければ昼頃には着くだろう」
ダクネスの言葉にアクアが目を輝かせた。
「なら早く出発しましょ! ほらカズマ! 荷台に移って!」
「はいはい。わかったよ」
皆が乗り終えたのを確認してカズマが荷台に座る。
上機嫌なままアクアが宣言した。
「水と温泉の都アルカンレティア! そこで皆は私の凄さを思い知ることになるわ!」
腕を組んでうんうんと頷くアクアに、全員が疑問と悪寒が走った。
「今回の旅は本当に助かりました! では温泉街を楽しんでいってください。では」
商隊のリーダーが頭を下げて去っていくとめぐみんが名残惜しそうに呟く。
「あぁ……じゃりっぱ……じゃりっぱが行ってしまいました」
「じゃりっぱ?」
スズハが小首を傾げるとめぐみんがその胸を張った。
「預かっていたドラゴンの名前です。モンスターを蹴散らした大魔導師である私に是非名前を付けて欲しいと頼まれましたので。飼い主に可愛がられると良いのですが」
「ドラゴンは一度名付けられた名前以外では二度と反応しないと聞いたことがあるが……」
ダクネスの呟きにカズマは顔を青くさせた。
「お、おまっ! 人様のペットに何してんの!? 飼い主が可哀想だろ! いい加減お前ら紅魔族が一般のネーミングセンスから逸脱してることを自覚しろよ!」
カズマの忠告にめぐみんはふんと鼻を鳴らした。
「カズマに名付けのセンスがないのは分かりました。そんな格好良い名前を持ってるのに嘆かわしい。もしもカズマに子供ができたら私が名付け親になってあげます」
「お前にだけは付けさせるか! え? っていうかカズマって紅魔族的にはイカした名前なの? 地味にヘコむんだけど」
めぐみんが何でですか!! と憤慨していると、アクアがテンション高く叫び声を上げた。
「着いたわね! 水と温泉の都アルカンレティア! ここの案内なら任せなさい! なんたってここは、私の加護を受けたアクシズ教団の総本山なんだから!」
自信満々に胸を張るアクア。
しかしカズマはその内容に不安しか感じなかった。
(変人ばかりで有名なアクシズ教団の総本山!? 嫌な予感しかしない……)
そうして立ち止まっていると街の住民がカズマ達に集まってきた。
「どうなさいましたか! 観光ですか? 入信ですか? 洗礼ですか? 冒険ですか? お仕事をお探しなら是非アクシズ教団へ!! 今ならアクシズ教の素晴らしさを説くだけでお金が貰えて、なんと! アクシズ教徒を名乗れる特典がついてくるんです!!」
とてつもない勢いで迫ってくるアクシズ教徒と思しき街の住民。
その勢いにカズマたちは圧され気味だった。
アクアの方はその容姿を褒められて熱烈な歓迎を受けている。
カズマがアクアに近づいて釘を刺す。
「おいアクア。お前、間違ってもここで自分が女神だってバラすなよ? 大騒ぎになるからな」
「分かってるわよカズマ。そんなことになったら私も旅行が楽しめないじゃない」
カズマはどうせ信じてもらえず女神の名を語るペテン師として厄介事になることを危惧しており。アクアの方は女神として崇拝されれば慰安旅行の意味はないと考えている。
両者の意見の違いをカズマだけは感じ取ったが、ここであれこれ言っても喧嘩になるだけだと今は指摘しないことにした。
要は、アクアが女神を語らないことが肝心なのだ。
「ウチにはもう、アクシズ教徒のプリーストが居ますので! それじゃあ、失礼します!」
アクアの背中を押し、逃げるように街の入り口を去る。
「同士よ! あなた方にとって良き1日であらんことを!」
手を振るアクシズ教徒にアクアだけが応える。
少しの間アクシズ教徒の勧誘が続いたが、無視して宿に向かおうとカズマが提案する。
幸いにも宿の宿泊券を商隊のリーダーからせめて、と言われて渡されていたのだ。
「なら、カズマたちは先に宿に向かって荷物をお願い! 私はアクシズ教のアークプリーストとして、ここの教団本部に挨拶しに行ってチヤホヤされてくるわ!」
そう言って集団から離れるアクアに、めぐみんがアクア1人だと不安だからと付いていくと言う。
確かに、とちょむすけを肩に乗せためぐみんにアクアのお守りを任せてカズマたちは宿に向かった。
宿泊券が使用できる宿はかなり立派な建物だった。
それこそ、貴族御用達の宿泊施設なのでは?と思えるほどに。
「それじゃあ俺は、せっかくだから夕食までブラついてくるが、お前らはどうする?」
「む。そうだな。なら私も一緒にいいか? アクセル以外の街はあまり知らないのだ」
「それでしたら私もご一緒させてください。リッチーである私が1人で出歩くと万が一の事がありますから。誰かが一緒に居てくれれば安心ですし」
もしもウィズの正体に気付いたプリーストが現れたら騒ぎになるだろう。
その点、カズマがいれば口八丁でどうにでもなりそうだ。
「分かった。スズハはどうする?」
「すみません。わたしは慣れない馬車旅で疲れてしまったようですので、少し休んでからヒナと一緒に温泉に入らせてもらおうかと思います」
見ると、確かに先程から口数が少なく、疲れた様子だった。
それに昨日に続いて今日も馬車による全力疾走で揺れの激しさを経験したのだ。子供のスズハには想像以上に負担だったのかもしれない。
「そっか。宿の中なら何にも無いと思うけど、気を付けてな」
「はい。いってらっしゃい」
小さく手を振って観光に出掛けるカズマたちを見送る。
一息吐いて窓から見える街の風景を眺める。
「綺麗……」
水色を基調とした街並みに所々噴水が映えるように設置されていて、河も見映えするように計算されて設計されている。
この宿がそれらが良く見える位置に建てられているのもあるだろうが、それでもこの窓から見える景色は素直に美しいと思える。
「アクシズ教徒方達に囲まれたときはビックリしましたけど、こうしてみると本当に。ほら、ヒナ。綺麗な街並みね」
「うーあー」
娘を抱き上げて窓からの景色を見せると、何かを掴みたいような動作で手を伸ばしている。
その姿が微笑ましくて頬を緩めた。
「それじゃあ、汗を流しにいこうか、ヒナ」
馬車の旅だとやはり身を清める、というのは難しい。
それに砂埃なども地味に被っていて体を綺麗にしたい。
宿の従業員に温泉の場所を教えてもらい、今は混浴が誰もいないのでどうぞと勧められた。
赤子がいることでのトラブル回避のためか。それとも純粋に気を使ってくれたのか。
どちらにせよ、人がいないのはありがたいので混浴に入ることにした。
もしも誰かが入ってきても良いように、体にタオルを巻いて浴室に入る。
いつも通り自分の体を手早く洗ってからヒナの体を洗い始める。こういう時にあまり動かないでくれるのが助かる。
ヒナの体の汚れを落としていつも浴槽に入るのと同じように抱きかかえて温泉に入る。
「露天なのが幸いでしたね……熱が篭らないから、少しはのぼせにくいですし」
赤子のヒナがのぼせ易いので、今日は少し長くお風呂に浸かれそうだ。
抱いているヒナに温泉の湯をかけていると、混浴の戸が開く。
入ってきたのはスズハからしてとても羨ましい身体付きをした赤いショートヘアの女性だった。
「あら?」
「どうも……」
向こうがこちらに気付くと、スズハは小さく首肯する。
赤い髪の女性は洗い終わると、スズハの隣で入浴する。
「……」
互いに会話もなく困っていると、向こうから声をかけてきた。
「ねぇ、あなた。見ない顔だけどここへは観光?」
「あ、はい。お世話になってる方々と一緒に。3泊4日を予定して湯治を」
「そうなの? 奇遇ね。私も湯治の最中なの。もっとも、どっかの馬鹿のせいで台無しになりそうだけど」
もしかして、アクシズ教徒に何かされそうなのだろうか? そんな心配を顔に出さずにしていると、女性がヒナの頬に触れてくる。
「可愛いわね。あなたに良く似てるし、妹さんかしら?」
猫のような金の瞳で見られながら、スズハは躊躇いがちに答える。
「いえその……この子はわたしの娘です」
「……養子とかそういう?」
「違います。血の繋がった正真正銘の母娘です」
「あなた、いくつ?」
「11、です」
スズハの返答に目を細めて少しだけ遠い目をする。
予想の範疇な反応だったため、スズハは苦笑いを深めた。
「そうなりますよね」
「あぁ、ごめんなさい。大変ねって言うべきかしら?」
「いえ。今は周りの良い人達が色々と助けになってくれてますから」
実際、何だかんだでめぐみんを始め、皆に助けられており、大分楽させてもらってると思っていた。
だから大丈夫と言わんばかりに笑っているスズハに赤い髪の女性は目を細める。
「後悔は、してないのね?」
「後悔……」
ヒナの顔を見て思い返す。
望んで作った子ではなかった。
産んだ理由も、今思えば自分を守ってくれなかった家族への反発や命を奪う事への忌避感からだった。
それでも、産まれた娘を始めてみた時の事を覚えている。
少し力加減を間違えただけでいなくなってしまいそうなその存在。
触れた時に沸き上がった様々な感情からこっちが泣いてしまった。
あの世界の一生は、決して幸多い人生ではなかったけど。
それでも、
だから────。
「はい! 後悔なんて、きっとないです」
噛み締めるように笑みを浮かべて返答するスズハに女性は、そう、とだけ微笑を返した。
そしてスズハの髪に難しそうな表情で触れてくる。
「ダメじゃない。ちゃんと洗って手入れしないと。せっかく綺麗な黒髪なのに」
元々艶やかだった黒髪の質は少し傷んでることに険しい表情になる。
「えーと……お風呂とかだとこの子がすぐにのぼせちゃうからあまり手入れしてる余裕がなくて……」
仕方ないわね、と女性は嘆息して温泉から上がるとシャンプーでスズハの髪を泡立たせて洗い始める。
「髪は傷みやすいんだから。見えない汚れもちゃんと落としなさい」
「はい……」
人に髪を洗ってもらう心地良さにスズハは楽にして目を閉じる。
温泉にシャンプーの泡が入らないように顔を上げて湯で洗い落とすと、終わったわよ、と女性が再び温泉に浸かり始めた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。その子の事を優先するのは良いけど、もう少し自分に意識を向けなさい。まだ子供なんだから」
「はい。それ、周りの人達にも良く言われます」
「でしょうねぇ」
2人で吹き出す。
そこでヒナがのぼせそうなのに気付く。
「すみません。もう上がらないと」
「大変ねぇ。あぁ、ついでに警告しておくわね。あまりこの街に長居するのはお勧めしないわ。どっかの馬鹿が余計なことをするみたいだから。はぁ~。人はともかく、この街の温泉は気に入ってたのに。また別の湯治先を見つけないと」
残念そうに息を吐く女性にどういうことか質問しようとしたが、口元に人差し指を当てられる。
質問をするな、ということか。
警告に礼を言って脱衣所で着替えを終えて部屋に戻る途中であ、と声を漏らした。
「名前、聞きそびれました」
今からわざわざ戻って聞くのも何なので結局そのまま部屋に戻ることにする。
あの赤い髪の女性と再会するのはもう少し先の話。
椅子に座って以前ウィズの店で買ったエレメンタルマスターに関する本を読んでいると、街に出ていた面子が帰ってきた。
「あ、おかえりなさい。街の方はどう────」
「うわぁあああああああんっ!? スズハァ!?」
大泣きして帰ってきたアクアがスズハの太ももに顔を埋めてきた。
いきなりの事に混乱してカズマ達の方に視線を向けるが皆も事情を解っていないらしく、首を左右に振る。
「私、温泉に入っていただけなのにぃ!!」
泣き続けて要領を得ないアクアにカズマが質問する。
「で? 今度はどんな珍事件を起こして周りに迷惑かけたんだ? ちゃんと謝ってきたんだろうな?」
「珍事件って何よ! どうして私が悪いことしたって決めつけるのよ!」
憤慨するアクアに代わってウィズが説明する。
「実は、アクア様が入った秘湯が水に浄化されてしまって」
「え? あれってオンオフ利かないんですか?」
「っていうか結局お前が原因じゃねぇか」
「仕方ないでしょ! 私は水の女神なの! 浄化しちゃうのは体質なんだからオンオフなんて利かないの!!」
腕をブンブン振るアクアにスズハが疑問に思う。
(お酒は水に変わらないのに?)
だからスズハはてっきり自分で制御できるものだと思ったのだ。
「しかも、謝るときにそう説明したら、温泉の管理人が何て反応したと思う! 鼻で笑ってきたのよ!? 私女神なのに! 私がここの女神なのにぃ!!」
余程プライドが傷ついたのか、悔しそうに泣き続けるアクアにカズマも鼻で笑うとアクアの鳴き声が更に大きくなる。
そんなアクアの頭を撫でながら苦笑いを浮かべてスズハが諭す。
「えーと。もう少しがんばりましょう?」
「頑張ってるわよ! 私信者の子達の為にすごく頑張ってるの!!」
騒ぐアクアをダクネスとウィズで宥める。
それにスズハがカズマとめぐみんに話しかけた。
「街の方はどうでしたか? ここからの眺め、すごく良かったんですよ」
スズハの質問にめぐみんが少しだけ体を震わせる。
「まさしくここは魔境でした。街と温泉。景色も食べ物も文句なしなのに、人間だけが致命的です……」
「まぁ、なんだ。ここでは、エリス教云々は口にしない方がいい。ただでさえ何されるかわかんねぇのに、火に油を注ぐ事になりかねない」
疲れた様子の2人に首をかしげる。
「とにかく、私は明日、街の近くで爆裂魔法を撃って今日の憂さ晴らしに行ってきます!」
「温泉入るだけじゃ時間も潰し切れねぇし、俺はまた街をうろうろするかな」
「なら、わたしもご一緒して良いですか? 1人だと、迷っちゃいそうなので」
「別にいいぞ。まぁ、なんだ。街の連中の濃さだけは覚悟しててくれ……」
「はぁ。良く分かりませんが、わかりました」
そんなやり取りをしていると、アクアが泣きながら騒ぐ。
「今日はやけ酒よ! 限界以上に飲んでやるわ!」
こうして、アルカンレティア1日目が過ぎていった。
次回はカズマとのデート?回です。
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