この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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アンケート、ウィズが1位だったのは驚いた。
カズマかアクアだと思ってたから。

あと、このアンケート取ってる時、ギャルゲーの選択肢みたいだと思いました。


『ホウレンソウ』って知ってます?

「今日は色々と走り回ったから疲れました~」

 

「アクシズ教徒から逃げ回って、ですよね? お疲れ様です」

 

 スズハはめぐみん、ダクネスと一緒に娘のヒナは縁で借りた幼児用の椅子に座らせて見ている。

 アクアは温泉をお湯に変えてしまうため室内風呂に泣く泣く入っていた。

 温泉でのびのびとしているとめぐみんが近づいてくる。

 

「ところでスズハ。貴方が新しく契約したというサラマンダーの事なのですが」

 

「ふあい?」

 

 ヒナを見ていたスズハがめぐみんに話しかけられると気の抜けた顔でそっちを向く。

 するとめぐみんが鼻がくっ付けそうなくらい顔を近づけてきた。

 

「いったい、あのサラマンダーをどうするつもりですか?」

 

「ど、どうする、とは?」

 

「決まってるじゃないですか! 名前ですよ名前! 火の精霊サラマンダーにどんな名を付けるのかと訊いているんです!」

 

 瞳を爛々と赤く輝かせて問い詰めてくるめぐみん。

 そういえば、合流してサラマンダーを紹介した時は何故かとても高揚していた。

 馬車でドラゴンの子供を相手にしていた時くらいに。

 

「火の精霊とあのドラゴンにも似た姿! 紅魔族の琴線に物凄く響きます! それでどのような名前を付けるのか聞かせてもらいましょうか! まさかまたシロみたいな安直な名前を付ける訳ではないですよね!」

 

 興奮で息を荒くするめぐみんにたじろぎながら答える。

 

「いえ、特には。サラマンダーのままじゃダメなんですか?」

 

 初めて契約した雪精はなんともなしに愛称として名前を付けたが風精霊(シルフ)火精霊(サラマンダー)も特にそうした物を求めているようには感じない。

 精霊自体そういうものに無頓着なのかもしれないが。

 その返答に納得できないのか嘆かわしいとオーバーアクションを取るめぐみん、

 

「ダメに決まってるじゃないですか! それはサラマンダーを種族名で呼んでいるようなものです! スズハに名付けるつもりがないなら私が付けてあげます!」

 

(あぁ、つまり、サラマンダーの名付け親になりたいと……)

 

 こう話を持っていくつもりだったのだろう。腕を組んでとげっぽだのちょろんぱだの小さく口ずさんでいる。

 何にせよスズハの答えは決まっていた。

 

「あ、そういうのは結構ですので。そんなかわいそ……いえ、無責任なことは頼みませんから」

 

「おい、私が名付け親になったらどうかわいそうなのか聞こうじゃないか」

 

 無表情で怒りを表してくるめぐみんに内心めんどうだなぁと思いながらもどうするか考えていると話を聞いていたダクネスが口を挟む。

 

「それならサラマンダー本人に決めてもらってはどうだ? それなら誰も角が立たないだろう?」

 

「ダクネスナイスです! さぁ、スズハ! サラマンダーを出しなさい! 私が必ずや気に入る名前を付けてあげます!」

 

「まぁ、そういうことでしたら……」

 

 縁の上に手をかざすとオレンジ色の光が集まり、形作るとオレンジ色の体皮に尻尾の先端が燃えたデフォルメされたトカゲの姿が現れた。

 その姿に歓喜したようにめぐみんが立ち上がる。

 

「このアクセルの街1の大魔法使いである私が貴方の気に入るカッコ良い名前を付けてあげましょう! ふむ、そうですねぇ。やはりとげっぽなどはどうでしょうか!」

 

 ビシッとサラマンダーを指差す。

 その名前にサラマンダーは────。

 

 ぷい。

 

「なっ!?」

 

 めぐみんにそっぽ向いてスズハの傍にすり寄り始めた。

 それにショックを受けながらも涙目でサラマンダーに話しかける。

 

「何故ですか! 何がそんなに気に入らないのですか!? せっかくカッコ良い名前を付けてあげようとしてるのに!」

 

 めぐみんを避けるサラマンダー。

 ダクネスが苦笑してめぐみんの肩に手を置く。

 

「まぁ、本人が気に入らないと言うならしょうがない。諦めろ、めぐみん」

 

「うう……」

 

 納得できないように呻くめぐみんはそのまま恨めしげな視線を向けて温泉に口まで浸かる。

 とりあえず一段落したことに安堵してスズハは頭を撫でた後にサラマンダーをこの場から消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆! この街の危険が危ないの! 力を貸してちょうだい!」

 

「危険が危ないってなんだよ……」

 

 夕食時、突然そんなことを言うアクアにカズマが呆れたように半目になる。

 

「教会で聞いたんだけど、最近この街の温泉の質が悪くなってるらしいの! それで調べてみたんだけど、幾つかの温泉に毒素が混じってたわ! 私でも浄化に時間がかかるくらいヤッバイのが!」

 

 アクアの説明にスズハが疑問を口にする。

 

「そんなになってるなら、もっと騒ぎになってるんじゃないですか? それにそういう温泉は原因が解決するまで封鎖されたりする筈ですし」

 

 さすがに毒素が混じってる温泉に客を入れるとなにかと問題だろう。

 温泉が目玉な観光地である以上、そこら辺には気を使う筈だ。

 

「また昨日みたいに怒られたくなかったからこっそり入ったのよ! それにそうした温泉はエリス教徒に勧めてるんですって!」

 

 それを聞いた皆は勧められたエリス教徒に同情する。

 

「と、言うわけで、私はこの街の皆の為に立ち上がるわ! 皆も手を貸してくれるわよね! もしかしたら、魔王軍の手先が我がアクシズ教徒の収入源を絶つ為の工作かもしれないし!」

 

 アクアの宣言。

 しかし仲間の反応は肯定的なものではなかった。

 

「俺は、明日この街をブラブラしながらアクセルの知り合いにお土産買ったりするからパス」

 

「私も、アクシズ教徒の恐ろしさはイヤと言うほどに思い知りました。カズマに付いていって、ゆんゆんや実家の家族にでもお土産を買っていきます」

 

 アクアと視線を合わせずにそう告げるカズマとめぐみん。

 アクアの視線がスズハとウィズに向けられる。

 

「わ、わたしとウィズさんは、その……明日公衆温泉を見て回ろうと今話してまして……ですよね、ウィズさん」

 

 スズハの言葉にウィズもコクンコクンと頷く。

 

「なんでよー! 散歩なんてどうでもいいじゃない! お土産だって帰るときに買っていけばいいでしょー! ウィズやスズハも、その温泉が危ないんだから手を貸してってばー!」

 

 泣きそうな表情で助力を頼むがカズマ、めぐみん、スズハは頑なに視線を合わせようとせず、ウィズは困った様子だ。

 そこで残ったダクネスに抱きつくアクア。

 ダクネスも断ろうとしたが、体を揺さぶられながら、飲んでいたジュースを水に変えられて諦めたように了承する。

 その姿を見て全員の感想が一致した。

 

(かわいそうに……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、スズハとウィズは街の地図にある宿から1番近い温泉に入っていた。

 

「調査に出たアクア様は大丈夫でしょうか?」

 

「ん~。ここがアクシズ教団の本拠地である以上、そうそう無茶なことはしないと思いますよ」

 

 いくらトラブルメイカーのアクアでも、ここで大きな揉め事は起こさない筈だと思っている。

 そして宿泊予定の日が過ぎれば温泉の異変は警察に任せて帰ることになるだろうとスズハは思っている。

 どうしても何とかしなければいけない事態が発生しなければ、だが。

 

 そんな事を思いながら、スズハはウィズの事をじーっと見ていた。

 その視線にウィズが居心地を悪そうにする。

 

「あの、なにか?」

 

「あ、すみません。ウィズさんってすごく綺麗だなぁって思って。体つきなんて同性として憧れます」

 

 実際、ウィズの顔立ちは彼女が美人でないなら人間の8割は普通以下に落とされる程に整っている。

 体も胸は大きく形も崩れていない上に腰からお尻のラインなど子供のスズハも見惚れて息を吐く程に魅力的だ。

 そういう意味ではダクネスにも憧れるが、彼女は少々筋肉質すぎる。

 そう言うと顔が真っ赤になるウィズ。

 

「そ、そんな事は! それに私はリッチーで、肉体の時間は停まってますし……」

 

 勢いからウィズはリッチーについて説明する。

 不死者の王と呼ばれるリッチーであるウィズは、年を取らず、肉体的に変化をしない。

 

「だから、本当なら私ももっと年が上で、それでぇ! うう……」

 

 それからはどう説明するか悩んでいるウィズにスズハはヒナを見る。

 もしも娘が大きくなっても、自分がこのままなら、いったいどう感じるだろう? 

 それはスズハには想像外の事だ。でも分かることは。

 

「淋しいことですね、きっと……」

 

「……はい」

 

 スズハの答えにウィズは本当に淋しそうに笑みを浮かべる。

 

「でも。もしもわたしがおばあちゃんになって、ウィズさんが今のままでも、このまま仲良くしていきたいです。わたしはウィズさんの事が好きですから」

 

 スズハにとってウィズは商才は無いが優しいお姉さんである。それはきっとこれからも変わらないだろう。

 

「スズハさん……」

 

 涙ぐむウィズ。

 そこでスズハがあることに気づいて慌てて立ち上がった。

 

「うあ! この子、のぼせてる!? ごめんなさい、ウィズさん! 先に上がらせてもらいますね! あ~! ゴメンね、ヒナ~!」

 

 慌てて浴場から出ていくスズハ。

 それを見送り、ウィズは目を閉じる。

 

「本当に、なんて……尊い子……」

 

 その呟きは誰にも聞かれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のぼせ、肌を赤くして熱が出たようにあー、と苦しそうにしているヒナを団扇で仰ぎながら、濡らしたタオルで顔を拭く。

 

「だいぶ落ち着いてきた。本当にごめんなさい、ヒナ」

 

 娘の様子が戻ってきたのに安心して温泉で浮かれすぎていたことを反省する。

 

「もっと気をつけないといけなかったのに」

 

 団扇を仰ぎ続けるスズハ。

 すると、脱衣所の外で揉め事の声が聞こえる。

 

「だから! ポイントとか特典とか! 都合の良い言葉で誤魔化すなぁ!! そんな石鹸いるかぁ!!」

 

 見ると、褐色肌の三十代後半か四十くらいの顎髭を生やした男がアクシズ教徒からの勧誘を受けていた。

 しかもその男は昨日カズマと一緒に街を移動しているときに見かけ、その時も勧誘を受けていた。

 

「放っておくべきなんでしょうけど。んー」

 

 本当に困ってそうな男の様子にスズハは少し考えて動く。

 言い争っている2人に近づくと、スズハは考えておいた台詞を笑顔で口にする。

 

「旦那様。こんなところにいらしたのですか?」

 

 話しかけられて当然男も、は? と固まる。

 そこでアクシズ教徒に小首を傾げてなにも知らないふりをして訪ねた。

 

「うちの主人がなにか? もう娘と一緒に宿へ戻りたいのですが?」

 

「イ、イエ……ベツニ……ドウゾオカエリクダサイ」

 

 予想外の介入に片言になりながらアクシズ教徒から男性の手を繋いで離す。

 

「それでは行きましょうか、旦那様」

 

 アクシズ教徒の人間にペコリと上品に頭を下げてスズハは手を引いて男を店の外へと連れ出した。

 相手も突然の介入に固まって力が入らずに為すがままに連れ出される。

 その最中、他の客や店員から白い視線を受けながら。

 

「あんな小さな子が奥さん? 抱えてる赤ちゃんはまさか子供?」

 

「ねぇ、警察に連絡した方がいいんじゃない?」

 

 そんな視線や声を無視して店を出るまでスズハはニコニコと笑みを張り付かせる。

 店を出ると、男に話しかけた。

 

「すみません、余計なことをしてしまいました」

 

「いや、いい。正直、俺も助かった。アイツらしつこくてな」

 

「そうですよね……」

 

 スズハの意図を理解して礼を言う男に苦笑しながら同意する。

 するとすぐにウィズが出てきた。

 

「スズハさん、お待たせしました。中でお待ちしてくれても良かったのに」

 

「イッ!?」

 

 ウィズが出てくると、男は何故かとても顔をひきつらせる。

 

「あら? そちらの方は?」

 

「あ。こちらの方はアクシズ教徒の強引な勧誘をされてまして。お店の外に連れ出したんです」

 

「まぁ、そうなんですか。それは、災難でしたね」

 

 ウィズが同情的な視線を向けると男は作り笑いを浮かべた。

 

「いやー。このお嬢さんに助けていただいてとても助かりました! ではお嬢さん方、私はこれで!」

 

 HAHAHAと、駆け足気味に去っていく男。

 その後ろ姿を眺めながらウィズが思案するように顎に指を添える。

 

「あの方、どこかで会ったことがあるようなぁ?」

 

「ならもしかして、アクセルの街の住民なのかも」

 

「いえ。アクセルではなく……」

 

 どこで会ったのか思い出せないのか、考え続けるウィズに、スズハが切り替えさせた。

 

「思い出せないのなら、仕方ありませんよ。それより、ちょっと早いけど昼食にしませんか? 昨日カズマさんと回って気になるお店があったんです」

 

「そうですね。ではそこに────」

 

 行きましょう、とウィズが言おうとすると、聞き覚えのある声が拡張器を通して耳に届けられた。

 

『親愛なる我がアクシズ教徒よ。この街は今、未曾有の危機に晒されてます!』

 

「この声は……」

 

「アクア様、ですね」

 

 気になって声のした女神アクアの像がある広場まで行くと、そこには台の上に立って演説しているアクアと、その横で泣きそうな表情で俯いているダクネスが居た。

 付近を見渡すとカズマとめぐみんを発見してそっちに移動する。

 

「カズマさん! めぐみんさん! これは?」

 

 聞かなくても予想は付くのだが、情報を共有したかった為に、スズハは2人に問いかける。

 しかしカズマの方も疲れたように息を吐いて分かるだろ、と視線を向けた。

 

「あのバカが何を思ってか余計な演説をしてんだよ。ったくどういうつもりだよ」

 

 この後どう考えても厄介な展開になる予想しかできないカズマはガリガリと頭を掻く。

 そんな中でアクアの演説が続く。

 

『この街では今、魔王軍による破壊工作が行われています! それは、温泉に毒を混ぜるという大変悪質な工作です。皆さん、この件が解決するまで温泉への出入りはご遠慮ください!』

 

 そう訴えかけるアクアだが、ここが温泉街である以上、そんな言葉がすんなり受け入れられる筈もなく。

 

「でもよー。ここは温泉街だぜお嬢ちゃん。それに温泉を入るなって言われたら、この街が干からびちまうよ」

 

「それにさっき、温泉に入ったけど、なんともなかったわ」

 

 野次馬の1人に言われてアクアが得意気に返した。

 

『それは、私が温泉の毒素を浄化して回っていたからです! でもそれはあくまでも一時的な物。根本的に解決するまで────』

 

「いたぞー! うちの温泉をお湯に変えやがったプリーストだ!」

 

 アクアが温泉をお湯に変えた店の者が指を指して怒りを露にしている。

 それに呼応して他の店の者も声を上げだした。

 

「テメェ! うちの温泉を水に変えて! 今月の売り上げをどうする気だ!」

 

 怒声がアクアとダクネスに向けられる。

 温泉とは無関係のアクシズ教徒まで野次を飛ばし始めた。

 

「私達、世の中を良くしようとこんなに頑張ってるのに! どうしてそんな酷いことをするのよ!?」

 

「お前! まさかこの温泉街を破滅させるために派遣された、魔王軍の手先だな!!」

 

 終いには魔王軍扱いを受けるアクア。

 流石に涙ぐんできたアクアはとなりにいるダクネスに話しかける。

 

「ねぇ、ダクネス! 固まってないでちゃんと打ち合わせ通り言って! アクシズ教をお願いしますって! ほら恥ずかしがってないで早く!」

 

 瞳を紅魔族ばりに輝かせてダクネスに発破をかけるアクア。

 それにダクネスは泣きそうな顔でボソボソと口にする。

 

ア、アクシズ教を、よろしく、おねがい、します……

 

「聞こえねぇよ! 髪金(パツキン)の姉ちゃん!」

 

 怒声は更に増し、物を投げ始める者もいる。

 

「気の毒に……」

 

 その様子を見たカズマがダクネスに同情する視線を向けた。

 アルカンレティアの住民に業を煮やしたアクアが最後の手段に出る。

 

「なら、私の正体を明かします! 敬虔なるアクシズ教徒よ! 私の名はアクア。あなた達が崇める存在、水の女神アクアよ! 我が可愛い信者達よ! あなた達を救うために私自らこの地にやってきたの!」

 

 右手を胸に添え、左手を差し出すポーズを取るアクア。

 その姿は、傍目には本当に女神が降臨したように見える。

 そしてその神々しい姿に街の住民達は────。

 

「ふっざっけんなぁ!!」

 

 当然のように否定の意を発した。

 

「青い髪に瞳をしてるからって! アクア様を騙ろうだなんて罰が当たるよ!」

 

「簀巻きだ! 簀巻きにしろ! 水の女神アクア様なら湖に放り込んでも大丈夫だろ!!」

 

「ちょっ!? 本当だから! 私本物の神様ですからぁ!!」

 

 住民の怒りがヒートアップし、物を投げる者が増える。

 ダクネスがアクアを庇っているが、これでは本当に簀巻きにされかねない。

 それを見たカズマは。

 

「ダメだこりゃ。他人のふりをして帰ろう」

 

 冷静にそう告げた。

 

「えぇ!? アクア様とダクネスさんはどうするんですか!」

 

「ここまで騒ぎが大きくなると無理です。私達が介入しても火に油を注ぐだけです」

 

「せめて、女神云々を黙っていてくれれば……」

 

 カズマが隠蔽スキルを使ってウィズの背中を押して宿へと向かう。

 何だかんだで冒険者としてステータスの高い2人だ。何とか撒いて帰ってくるだろう。

 それにしてもこの街に到着した日に管理人に鼻で笑われたのにも関わらず、どうして今なら自分が女神だと信じられると思ったのか。

 

「だから、私は皆を助けようとしたんだってばー! 信じてよー!!」

 

 アクアの虚しい叫びがアルカンレティアの広場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあああああああぁああああん!!」

 

 夜になって帰ってきたアクアとダクネス。

 ダクネスは疲れた様子で椅子に座ってぐったりしており、アクアはスズハの太腿で泣き崩れている。

 

「私がここの女神なのに! 皆を助けようとしただけなのにぃ! なんで私、自分の信者の子に石投げられなきゃいけないの!? ねぇ、どうしてよぉ!」

 

 大声で泣くアクアにスズハは頭を撫でながら質問する。

 

「アクアさん、”ホウレンソウ”って知ってます?」

 

「何よスズハ! 野菜の事なんて今は関係ないでしょ!」

 

 ぷくーと頬を膨らませて怒るアクアにスズハはそうですね、と相槌を打つ。

 ちなみにスズハが言っているホウレンソウは野菜のほうれん草ではなく、報告・連絡・相談を表す報連相の事である。

 今日の事はアクアが温泉の管理人に毒素の事を報告し、管理人や関係者に連絡させ、温泉を浄化しても良いか相談すれば例え水に変えてもこのような騒ぎにはならなかったのだ。

 もちろん1番悪いのは温泉に毒素を混ぜた者で、次は温泉の管理を怠ったこの街の住民。そして関係者を無視して勝手に浄化を行ったアクアと順番が来るのだが、数の暴力により、矛先がアクアに向いている。

 落ち込んでいるアクアにカズマが呆れながら嘆息して話しかける。

 

「なぁ、アクア。明日は朝一でアクセルの街に帰らないか? この街の事は、この街の住民に任せればいいだろ?」

 

「駄目よ! 温泉を浄化してるとき、かなり強い毒素に汚染されているところもあったわ! あんな温泉に誰かが入ったら、病気になっちゃう!」

 

「ですが、住民に警戒されている以上、協力を取り付けるのは難しいですよ? やはりこの街の冒険者ギルドに任せるべきでは?」

 

 めぐみんの言葉にアクアは悔しそうに歯をギリッと鳴らす。

 事がアクシズ教絡みなだけに自分の手で解決したいのだろう。

 

 皆がどう説得するか考えていると、外の騒がしさに気づいた。

 それは、集まったアクシズ教徒の行進だった。

 

『悪魔倒すべし! 魔王しばくべし!』

 

「あんの魔王軍の手先め! 張り付けにしてくれるわ!」

 

「誰の許可を得て、髪を青く染めてるのよ!」

 

 カーテンを開けてそんなアクシズ教徒達にたじろいでいると楽観的なアクアが外を見る。

 

「何々? 私の話を信じた街の皆が集まってくれたの?」

 

「バカ!? 出てくんな!」

 

 アクアが外を見渡すと、それに気付いた教徒がカズマ達の部屋を指差す。

 

「いたぞ! あの部屋だ!」

 

「アクア様の名を騙る魔女め!」

 

 そんな殺気立った住民がこの部屋に乗り込む前にカズマが指示を飛ばした。

 

「お前ら! 捕まる前に逃げるぞ! アイツらマジでヤバいっ!」

 

『魔女狩りだーっ!!』

 

 叫ぶアクシズ教徒から逃げる為にカズマ達は荷物をそのままに部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スズハがアクアに付き添うとダクネスの役はスズハが。
ダクネスに付き合うとウィズが。
カズマに付き合うとめぐみんがアクシズ教をお願いします、と言う予定でした。

前話で文字数の関係でカットした教会でのシーン。

アクア「エリスの胸はパット入り。これを唱えると良いでしょう」

アクシズ教徒「おかげで目が覚めました!」

スズハ「アクアさん……」

アクア「なーに、スズハ?私のあまりの女神っぷりにとうとうアクシズ教に入信する決心がついたのかしら?いいわよ!特別に私自ら入信の洗礼をしてあげる!」

スズハ「……台所の管理権限でしばらくお酒抜きです」

アクア「!?」

カズマ(エリス様の悪口でキレてんな、スズハ)

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他

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