この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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黒幕との対峙

「やっぱり、源泉が怪しいと思うの」

 

 路地裏で身を低くして追いかけてくるアクシズ教徒から身を隠しながらアクアがそう呟く。

 

「私が温泉を浄化してるとき、結構な数の温泉が汚染されてたわ。あれだけの温泉に毒を混ぜれるんなら、源泉か、それに近いパイプに毒を混ぜるしかないと思うの」

 

 珍しく冴えた事を言うアクア。路地裏に身を潜めながらカズマ達はその推理を聞く。

 

「だから毒を入れられた源泉を浄化する。そして毒を入れた犯人を捕まえれば万事解決だと思うの!」

 

「まぁ、言いたいことは分かった。で、まさかこれからその源泉に行って、犯人を捕まえたいなんて言わないよな?」

 

 アクアの推理にカズマが青筋を立てながら嫌そうな顔をする。

 もうアクセルに帰りたい。

 この街が滅ぼうと知ったことか、という思いが強かった。

 そんなカズマの態度にアクアが泣きついてくる。

 

「なんでよー!? このままじゃ温泉がダメになってアクシズ教団が崩壊しちゃうのよ! それに私をこんな目に遭わせてる奴に目にもの見せないと気が済まないじゃない!」

 

 アクシズ教団が無くなるのは良いことじゃん、とカズマが返そうとすると、スズハが小さく手を挙げて質問する。

 

「あの……源泉を浄化するって温泉自体がダメになったりしませんか? 毒だけを器用に取り除く訳じゃないんですよね?」

 

 スズハの質問にアクアがドヤ顔でち、ち、ち、と人差し指を動かす。

 

「バカねスズハ。源泉の全部じゃなくて一部だけを浄化すればいいのよ。そうすれば最初はお湯だけでるかもしれないけど、少し経てば温泉が元通りになるわ」

 

 得意気にそう言うアクアにカズマは悪い予感しかしない。

 

(っていうか、なんで自分からフラグ立てるんだよコイツは)

 

 そんなことを思っているとめぐみんが発言する。

 

「どちらにせよ。街の出入り口は塞がれているでしょうし、何か策を考えないと」

 

 これだけの騒ぎになっているのなら、先ずは逃げ道を塞ぐのが道理だ。

 今ごろは街の門はアクシズ教徒に見張られていることが容易に想像できる。

 

「とにかく、魔王軍の好き勝手になんてさせないわよ! 私の可愛い信者達を、必ず守って見せるわ!」

 

 意気込むアクア。

 そこで魔王軍という単語にスズハが、あ、と声を漏らす。

 

「どうした? スズハ」

 

「あ、はい。この街に来たときに温泉で一緒になったお姉さんが、誰かが何かをするからこの街にあまり長居することは止めておいた方が良いって言われてて。もしかしたらそれって温泉の毒の事だったのかなーって」

 

 あはは、と苦笑いを浮かべるスズハ。

 それにアクアが半泣きでスズハの肩を掴む。

 

「ちょっとぉ! なんでそういう大事な事をもっと早くに言わないのよ!」

 

「す、すみません! あの後に泣いて帰ってきたアクアさんのインパクトがすごくて……それに、アクシズ教徒の方々の執拗な勧誘に関しての事だとも思ってましたし……」

 

 というよりも、あの勧誘よりも酷いことが起こるとは思っても見なかった。

 アクアがスズハの肩を掴んで大きく揺らす。

 

「なんでよー! うちの子達を毒を混ぜるような奴と一緒にしないでっ!!」

 

「いたぞ!!」

 

 アクアの大声に発見されて急いで逃げ出す。

 逃げながらカズマがアクアに問いかける。

 

「なぁ! もうあんな奴ら放って、助けなくてもいいんじゃないか! この街だって、来るときに一緒だった商隊の人に頼めば何とかなるかもしれないだろ!」

 

「う~! だってこのままじゃうちの可愛い信者達がぁ!」

 

 半べそを掻いて未練がましく事態を何とかしようとするアクア。

 このままでは1人でも残りかねない。

 そして絶対問題を起こす事が予測できる。

 

「しょうがねぇなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 源泉までの道を塞いでいる門番をアクアが必至に説得していた。

 

「ねぇお願い! この先の源泉が危ないの! 緊急事態なの!」

 

「駄目なモノは駄目なんです。管理人の方に、ここからは誰も通すなと命じられてまして」

 

 アクアが源泉が湧いている山に通すようにお願いしているが、聞き入れてもらえない。

 それも当然だろう。

 この場に居るのは軽装の冒険者。

 ダクネスはきっちりと鎧を着ているがこのメンバーでは浮いている。

 そして何よりも、極めつけは赤子を抱えているスズハまで居るのだ。こんな怪しい集団を通す門番などハッキリ言っていない。

 アクアが泣き落としや褒め殺し等をして通させようとしているが、当然効果なし。

 ついには温泉をお湯に変えた犯人だとバレてさらに通るのが難しくなる。

 見かねたカズマとめぐみんがダスティネス家の権力を使って無理矢理通る羽目に。

 当然ダクネスはたいそう不服そうだったが。

 門番がモンスターが出るので気を付けてくださいと警告したところでスズハが、ん? となる。

 

「あの……モンスターが出るのに管理人のお爺さんだけで大丈夫なんですか?」

 

「あぁ。いつもなら護衛を引き連れて源泉まで行くんですが、今回は自分1人だけで良いと。絶対に誰も通すなと厳命されてまして」

 

 門番も不思議に思ってはいるのだろう。

 それでも命令として従っているようだ。

 

「ついでに、合流したら管理人の方の護衛もお願いできますか?」

 

「まっかせなさい! この街で暮らす可愛いうちの信者をモンスターなんかに傷つけさせやしないんだから!」

 

 アクアが胸をドンと叩く。

 ちなみに門番はダクネスに言っているのである。

 そこでめぐみんがスズハに言う。

 

「スズハ。ここからはモンスターなどの危険が伴います。貴女は先に宿に戻っておいてください」

 

 普通ならめぐみんの言うことは真っ当なのだが、今は状況が悪かった。

 

「そうしたいのは山々なんですが……アクシズ教徒の方達に部屋も知られてしまっているでしょうし。一緒に逃げるところも見られている筈ですから。戻ったら何をされるかと考えるとちょっと……」

 

 アクアの仲間として見られている以上、今アルカンレティアに戻る事に実の危険を感じているスズハはやんわりと拒否する。

 

「だよなぁ。戻ったら、スズハが磔にされて火炙りや水責め、なんて事態も考えられるしな。今はウィズもいるし、一緒に行動させた方が安全か」

 

 頭を掻いて重い溜め息を吐くカズマ。

 その言葉にダクネスが反応する。

 

「磔……火炙り……水責め……んんっ!?」

 

「興奮すんなよこのドMクルセイダー! っていうか、戻るなよ! こっからはお前みたいのでも必要なんだからな!」

 

「おい! お前みたいのとは何だ! 私だって、たまには役に立っているぞ!」

 

「ちょっとカズマさん! うちの子達がそんな酷いことするわけないでしょ! 今はちょっと気が立ってるだけで本当は皆優しくて良い子ばかりなんですからね! 謝って! うちの子達を狂暴な犯罪者みたいに言った事を謝って!」

 

 そんな風にいつもの喧嘩を始めるカズマ達。

 するとウィズがスズハに近づく。

 

「なら、スズハさんは私の傍を離れないようにしてください。お2人は、私がお守りしますので」

 

「ありがとうございます、ウィズさん」

 

 スズハのお礼にウィズはニコリと笑って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し進んだところに初心者殺しと呼ばれる巨大な猫に似たモンスターが溶かされて殺されているのを発見。

 その討伐方法に訝しむがその場で結論が出る筈もなく先を急ぐ。

 幸い、山の中と言っても繋がれているパイプを辿って行けば良いため迷うことはなかった。

 ただ問題は────。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ハッ……!」

 

「スズハ、大丈夫ですか?」

 

「はい……まだ……」

 

 汗だくになって文句も言わずにカズマ達の後ろを付いていくスズハだが、元より体力が低い上に娘を抱えているため疲労を見せ始めている。

 逃げるときにベビーカーを宿に置いてきてしまったのも原因だろう。

 

「よし。ここらで休憩するぞ。源泉に着いて敵が居たら、疲れて戦えませんじゃ話にならないからなぁ」

 

「いえ。わたしはまだ────」

 

 スズハが大丈夫、と言おうとするが、その前にカズマが座りだした。

 

「俺が疲れたんだよ。見ろよこの汗! よくお前らは平然としてられんな」

 

「なぁにぃ、カズマさん。このくらいでへばっちゃったの? 貧弱すぎて引くんですけど。プークスクスクス!」

 

「確かにカズマも息切れしてるな。アークウィザードのめぐみんも平然としてるのに」

 

「いくらなんでもめぐみんより体力が低いなんて事ねぇよ! ほら見ろっ!」

 

 冒険者カードを見せるカズマ。

 めぐみんは自分の冒険者カードとカズマの冒険者カードを見比べる。

 すると憐れむ視線を向けた後に明後日の方向を見る。

 

「ま、まぁカズマは私たちの中で1番レベルが低いですし、しょうがありませんよ!」

 

「おいちょっと待て。もしかして俺ってめぐみんより体力とか腕力とかが低かったりしないよな……?」

 

 その質問に答えずにめぐみんはスズハに水を渡す。

 もうちょっとレベルを上げようと思うカズマだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パイプの先に見つけた源泉。それは黒く濁っていた。

 

「毒なんですけど! ねぇこれ毒なんですけど!」

 

 アクアが腕を突っ込んで水を浄化する魔法を使う。

 しかし、源泉の温度が高くて痛そうに顔を歪めた。

 

「アクアさん! 雪精(シロ)!」

 

 雪精の冷気で源泉の温度を下げようとするが、さして意味を為さない。

 

「フリーズ!」

 

 しかしウィズが初級魔法を使うと手を入れても問題のないくらいに温度が下がった。

 

「ありがとね、ウィズ! スズハも!」

 

 しばらくして浄化も終わると、パイプまでは簡単に浄化できないため、この源泉はしばらく使えないと悔しそうにするアクア。

 そんな風に他のパイプに繋がっていた源泉も尽く毒に汚染されており、その度にアクアが浄化を行いながら進んでいった。

 足を進めて最奥に着くと、緑の上着を着た浅黒い肌の男が見えた。

 その人物を見てスズハが見覚えのあるその人物を思い出して声を出す。

 

「あ! あの人昼間の!」

 

「知り合いか、スズハ?」

 

「今日、アクシズ教徒にすごく絡まれて勧誘されてた人です。それを見かねて連れ出したんですけど……」

 

 スズハの声に気付いて男がこちらに振り向くと、ゲッと顔をひきつらせたが、すぐに取り繕うように笑みを浮かべた。

 

「これはこれは昼間のお嬢さん! どうしてここへ? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ?」

 

 そこでウィズが頬に指を当てながら考え込み、ポツリと呟く。

 

「やはりこの方、どこかで会ったような……」

 

 ウィズの言葉に男は顔を反対方向に向く。

 

「嫌だなぁ! 会ったことなんてありませんよ! 何かの勘違────」

 

「あー! 思い出しました! ハンスさん! ハンスさんですよね!! 私ですよ! リッチーのウィズです! もしかしてハンスさんが温泉に毒を混ぜてたんですか? 確かハンスさんはデットリーポイズンスライムの変異種でしたね」

 

 ハンスと呼んだ男に近づいて知り合いらしいその人物に話しかけ続け、次々と相手の情報を暴露していくウィズ。

 

「忘れちゃったんですか? ほら、魔王さんのお城で────」

 

「おわぁあああああああっ!?」

 

 突然叫びだし、ウィズの声を掻き消す。

 

「わ、私はこれから用事があるので街へ戻らせて頂きます! では!」

 

 そう言ってこの場から立ち去ろうとするハンスにアクアが立ちふさがる。

 指を鳴らしてこめかみに血管を浮かべて。

 

「そんな言い訳が通ると思ってるのかしら? アンタのせいでどれだけ苦渋を舐めたか……さぁ、覚悟しなさいハンス!」

 

 続いてめぐみんとダクネス。そしてカズマも道を塞いだ。

 

「どこへ行こうというのだハンス!」

 

「もう逃げられませんよハンス!」

 

「観念して正体を現せハンス!」

 

「だぁああああああっ!! ハンスハンスと馴れ馴れしく呼ぶなクソ共がぁっ!!」

 

 名前を連呼されてさっきまでと態度を一変させる。

 

「おいウィズ! お前、結界の維持以外では魔王軍に手は貸さない。その代わり敵対もしない約束だろうが! なにこっちの邪魔してんだ!」

 

「えぇ! 私、ハンスさんの邪魔をしてしまいましたか!? ただ名前を呼んだだけじゃないですか!」

 

「それが邪魔になってんだよ!」

 

 忌々しそうに頭を掻くハンス。

 

「クソ! 今日のあの後、通報されて警察に追いかけ回されるわで本当にツイてねぇ。おいウィズ。まさかそいつらと一緒に俺と戦う気じゃねぇだろうな」

 

「この人達は私の友人なんです。なんとか、話し合いで解決出来ませんか?」

 

「ハッ! 相変わらずリッチーになってからは腑抜けてるんだな! お前がアークウィザードとして俺たちと敵対してた時は話し合いなんて言葉は出てこなかったぜ」

 

 ハンスの指摘にウィズは恥ずかしそうに言い訳を返す。

 そこでカズマが腰の刀を抜いてハンスに向けた。

 

「ウィズは知り合いだってんならやりづらい相手だろ。こいつは俺達に任せてスズハを頼む」

 

「カズマさん! 確かに私としては戦うのは遠慮したいのですが────」

 

 なにか言おうとしたウィズの言葉を手で制してカズマは名乗りを上げる。

 

「俺の名はサトウカズマ。数多の強敵を屠りし者!」

 

 カズマは今回の戦闘は楽勝だと思っていた。

 ウィズはハンスをスライムと言った。

 毒は持っているようだが、それはアクアが浄化出来るし、スライムと言えばゲームなどではチュートリアル担当の基本雑魚敵。

 温泉に毒を混ぜる、などという回りくどい方法を取っているのも戦闘能力の低さ故だと推理した。

 それがまったくの見当違いだとすぐに知ることとなる。

 

 カズマの名乗りに何を思ったのか不適な笑みを浮かべるハンス。

 

「俺の正体を知ると誰もが平伏し命乞いをする。だがお前は中々に骨がありそうだ。俺の名はハンス。魔王軍幹部のデットリーポイズンスライムのハンスだ」

 

 魔王軍幹部と名乗ったハンスにカズマは耳を疑う。

 

「え? 魔王軍幹部? スライムが? おいダクネス。スライムってのは雑魚だよな?」

 

 小声で訊かれた質問に何を馬鹿なとダクネスは自分の剣を構えた。

 

「小さなスライムはともかく、一定の大きさになったスライムは強敵だぞ! 物理攻撃はほとんど効かないし、魔法にも強い耐性がある! 取りつかれたら体を溶かされるか気管に入って窒息死させてくる!」

 

 続くめぐみん。

 

「しかもそいつは、街中の温泉を汚染するほどの強力な毒を持ってます! 触れたら即死だと思ってください!」

 

「大丈夫よカズマ! 例え死んでも私が蘇生してあげるわ! でも完全に消化されたらダメよ! そこまでいったら蘇生できないから!」

 

「気を付けてください! ハンスさんは幹部の中でも高額賞金をかけられている方です!」

 

 アクアとウィズの助言にカズマは自分の浅はかさを呪う。

 野菜が動いて飛んだりするこの世界で何故ゲーム知識を便りにスライム=雑魚の方式を信じ込んでいたのか。

 

 戦闘体勢に入るハンス。

 目の前のかつてない強敵にカズマは。

 

「さぁ、勇敢な冒険者達よ! どこからでもかかって────」

 

 

 

すみませぇえん!! ほんっとうにすみませんでしたぁ!! 

 

 脇目も振らずにカズマは全力で逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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