この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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いのちをだいじに

 恥も外聞もなく逃走したカズマに一瞬呆けたアクアが後を追う。

 

「ちょっとカズマァ! なんで逃げるの! ねぇ!」

 

 続いて他の面々も後を追う中、逃げ遅れたスズハがハンスにペコリと頭を下げた。

 

「えーと……失礼します」

 

「あ? あぁ……山の中はモンスターが出るから気を付けてな……」

 

「はい、どうも。みなさーん! 待ってくださーい!」

 

 軽く走り始めて少し進んでもう一度頭を下げるスズハ。

 その姿が見えなくなると手を振って見送っていたハンスは正気に戻る。

 

「って違う! 何をアドバイスまでして見送ってんだ、俺はぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってよカズマさん! なんで逃げ出すの!? アイツをやっつけるんでしょ!!」

 

「出来るかバカヤロウ! つべこべ言わず逃げるんだよ!!」

 

 走りながらアクアに怒鳴り、カズマは先程相対した魔王軍幹部を思い出す。

 

(アイツはヤバい!? これまでで1番ヤバい!)

 

 これまでカズマ達が本当の意味で強敵と対峙したのは2回。

 魔王軍幹部のベルディアと機動要塞デストロイヤー。

 どちらも何とか危機を乗り越えたが、ハンスは相性が悪すぎる。

 

(被害規模はデストロイヤーに劣るかもしんねぇけど、触れたら即死とか反則だろ!)

 

 今回ばかりは撤退を決め込んだが、道の向こうにアクアを探しに来たアクシズ教徒の集団を確認して立ち止まる。

 門番をどう言いくるめたのか気になるところだが、そうも言ってられない。

 アクアの方を向いて説得に入る。

 

「もう源泉は諦めようぜ。例え温泉がダメになっても別の産業を興せばいいだろ? 大丈夫だよ。雑草や害虫よりしぶといことで有名なアクシズ教徒の連中なら、強く生きていけるさ」

 

「なに言ってるのカズマ!? ここの温泉はアクシズ教団の大事な収入源なのよ! ここが失くなったらアクシズ教団が崩壊しちゃうじゃない!」

 

 泣きながらカズマの肩を揺さぶるアクア。

 

「そうは言っても、俺に出来ることなんて何もないぞ。狙撃スキルは無意味だろうし。触れないんじゃドレインタッチも無理。作戦っても、もうめぐみんに長距離から爆裂魔法で不意打ちして倒すくらいか?」

 

 カズマの案にウィズがおずおずと意見を言う。

 

「あの……爆裂魔法でも魔法耐性の高いハンスさんを一撃で倒しきるのは難しいと思います。それに、源泉を陣取ってる以上、完全に焼き尽くさない限り体の毒が四散して汚染は免れないかと」

 

 ウィズの意見にカズマがほら見ろと言い、こっちに来るアクシズ教徒の一団を指差す。

 

「なんだったら、向こうの連中に任せてみるか? この先に居る魔王軍幹部を見れば、誰が悪いか一目瞭然だし。アイツらも死に物狂いでどうにかしようとするだろ」

 

 あんまりな案にアクアが揺さぶる勢いを速めた。

 

「なに馬鹿なこと言ってるのよ! そんなことになったら私の大事な信者があのスライムの餌になっちゃうでしょ!?」

 

 さっきから信者信者と自分達に危害を加えようとしているアクシズ教徒を庇って無茶を言うアクアにカズマも段々苛立ってきた。

 

「じゃ、なにか! アイツらを守るためにやられて死ねってのか! お前が蘇生させるからって、倒すまで死んでこいってのかぁ!! お前には信者を想う気持ちはあっても仲間を想う気持ちはないのか!!」

 

「だってだってぇ!!」

 

 怒鳴るカズマにアクアがゴニョゴニョと口を動かす。

 アクアとて流石に無茶を言っている自覚はあるのだが、事が自分の信者であるアクシズ教徒達の問題なため、簡単に引き下がることが出来ないのだ。

 怒りに任せてカズマが更に続けた。

 

「どうせアクシズ教団なんて要らない子達だし。これ以上はやってられ────」

 

「もういいわよ!!」

 

 最後まで言い終える前にアクアが来た道を走って戻っていく。

 カズマに皆の視線が集中する。

 

「いいんですか? アクアを放っておいたら、もっと大変な事態になりますよ」

 

 めぐみんの言葉にカズマは視線を逸らす。

 そこで追ってきたスズハが合流した。

 

「ハァ、ハァ……やっと追いつきました……あの、そこでアクアさんとすれ違ったんですけど、また戻るんですか?」

 

 さっきまでの会話を知らないスズハが純粋な疑問をぶつけてくる。

 カズマも少し言い過ぎた事もあり、ガリガリと頭を掻いて嫌そうに来た道を戻り始める。

 

「しょうがねぇなぁ……」

 

 ふてくされた子供のような声でアクアを追おうとするカズマにめぐみん達がクスリと笑う。

 ただ、状況が分かっていないスズハだけが首をかしげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズマ達が戻るとアクアがハンスに喧嘩を売るように暴言を吐いていた。

 戻って来てくれたカズマ達にアクアが笑みを浮かべるが、ハンスは面倒そうに腰を上げた。

 

「どの面下げて戻ってきたんだ。この雑魚どもが」

 

 睨まれてカズマがたじろぐ。

 しかし、ウィズが再度説得に入った。

 

「あの……ハンスさん。本当に話し合いで解決出来ませんか? ほら。昼間ハンスさんを助けてくれたスズハさんも居ますし!」

 

 ウィズの説得にハンスの口元が歪につり上がった。

 

「バカか! あの後結局通報されて警察に追いかけ回されたんだぞ! だからこうして管理人に化けて源泉を直接汚染してるんだろうが!!」

 

 怒鳴るハンス。

 それを聞いてダクネスがスズハを見る。

 

「なぁ、スズハ。お前はいったいどんな助け方をしたんだ?」

 

「え、と……その……普通、ですよ? 普通……」

 

 視線を明後日の方向に向けながら言うスズハ。

 ハンスの管理人に化けた、という言葉を聞いてカズマが質問する。

 

「じゃあ、管理人のじいさんはどうしたんだよ!」

 

「食った」

 

「へ?」

 

 あっさりと答えたハンスにカズマ達は呆けた表情になる。

 

「門番を通るのに管理人は邪魔だったからなぁ。それに俺はスライムだ食べる事が本能だ。それに食った相手でないと擬態出来ないからな」

 

 当然の事のように言い放つハンス。

 しかしそこでウィズの様子が一変し、彼女の周りから冷気が噴き出した。

 

「冷たっ!?」

 

 驚く間もなくウィズはハンスに向けて魔法を放った。

 

「カースド・クリスタルプリズン」

 

 放たれた冷気は一瞬でハンスのところまで一直線に凍結し、後ろに在った温泉すら一瞬で氷付かせた。

 腕を凍らされ、身動きが取れないハンスに、ウィズは普段の弱々しい雰囲気は影を潜め、アンデットの王であるリッチーに相応しい貫禄を醸し出して歩く。

 

「私が中立で居る条件。魔王軍の方に手を出さない条件は、冒険者や騎士などの、戦闘に携わる者以外の人間を殺さない方に限る、でしたね?」

 

 そのあまりの豹変ぶりにアクアとめぐみんが怯えてカズマの背中に隠れていた。

 ハンスが魔法を解けと叫ぶ中でウィズは歩く地面を凍らせながら言う。

 

「冒険者が冒険で命を落とすのは仕方のないことです。彼らは日夜モンスターの命を奪って生計を立てている。なら、自分が狩られる覚悟も持つべきです。そして騎士も。彼らも民から税を取り立てて生計を立て、その対価として民衆を守るために魔王軍やモンスターと戦います。対価を得ているのですから、命のやり取りも仕方ありません。ですが────」

 

 討って良いのは討たれる覚悟のある者だけ。

 命のやり取りをして生計を立てる以上、その結果を他者がどうこう口に挟むべきではない。

 しかし。

 

「ですが管理人のおじいさんは、何の罪もないじゃないですか」

 

 哀しげに睨んでくるウィズにハンスは開き直るように笑い出した。

 

「悪いなウィズ。俺はまともにお前と戦う気はない。仕事を終わらせて早々に帰らせてもらう!」

 

 ハンスが凍らされた左腕を切断する。

 その行動にスズハがヒッ、と掠れた声を出すが、切り離した腕から血は出ずに、ハンスその物がゼリー状に変化していく。

 

「氷の魔女と謳われたお前を相手にこの姿では分が悪い。スライムらしく、本能のまま食らうとしよう」

 

 ゼリー状になったハンスの体がみるみると巨大化し、カズマ達の住む屋敷と同じくらいの大きさまで膨れ上がった。

 そのスライムを見てダクネスが興奮して言う。

 

「なんと見事なスライムだ! 惜しい! 毒さえなければ、持って帰って我が家のペットにするところだ!」

 

「それは流石に……持って帰っても屋敷ごと消化されちゃうんじゃ!」

 

 ダクネスの願望にツッコミを入れるスズハ。

 ハンスが毒を内包した体を撒き散らして辺りを溶かし、源泉を汚染していく。

 それを見たアクアが大慌てで源泉に向かって行き、手を突っ込んだ。

 

「ピュリフィケーション! ピュリフィケーション!! あぁ! 熱い熱い!!」

 

「バカ! アクアァ! もう温泉なんていいから戻ってこい!!」

 

「アクア様! その毒は、ハンスさんの体から直接放たれた物です! 今までの汚染とは訳が違います」

 

「ダメよ! ここをやられたら、私のかわいい信者達が生活出来なくなっちゃう!!」

 

 ハンスの毒が撒き散らされる中で退こうとしないアクア。

 そこでアクシズ教徒達がこの場に現れる。

 流石にこの事態になってアクシズ教徒達も温泉を汚染していた原因を理解して即座にターゲットを巨大化したハンスに移る。

 プリースト達が浄化を行っているアクアに回復魔法をかけ、それ以外の者はハンスに向かって物を投げつけていた。

 

「みんな下がれ! ここは危険だっ!?」

 

「何言ってんだこのエリス教徒がっ!!」

 

 その際に毒から住民を守り、避難させようとするダクネスにまで物を投げつけてくるのが彼ららしいと言うか。

 めぐみんが爆裂魔法でハンスを吹き飛ばそうとするが、山自体が汚染される為、ストップがかかる。

 状況が動く中でカズマがウィズに問う。

 

「ウィズ! さっきみたいにアイツを凍らせることは出来ないのか!?」

 

「今の私の魔力では、巨大化したハンスさんを凍りつかせる事はできません! せめて、あの半分くらいの大きさにならないと!」

 

 そうして話している間にもハンスはアクシズ教徒達が投げた物を次々と食らっていく。なぜか石鹸と洗剤は避けているようだが。

 

「カズマ! いつもみたいに小狡い手を考えて何とかしてくださいよ!」

 

 めぐみんの大声にカズマは今考えてるよ! と辺りを見渡す。

 すると、ハンスの体から人の骨が見えた。

 それは、この街の管理人が溶かされた姿だった。

 カズマはそれを見てアクアに質問する。

 

「アクア! 完全に消化されてないなら、蘇生できるか!?」

 

「えっ! で、出来るけどー!!」

 

 言質を取ってカズマはもうこれしかないかと嫌そうに目を細めた。

 

「めぐみん! 爆裂魔法を撃たせてやるから! 向こうで待機だ! ウィズは、爆裂魔法で小さくなったアイツを凍りつかせてくれ! ダクネス!」

 

 カズマが指示を飛ばす前に心得ているとばかりに先に口にする。

 

「私は、スライムの毒からアクシズ教徒達を守ればいいんだな?」

 

「そういうこと! 頼りにしてるぜ! スズハ、お前は────」

 

「カズマさん!」

 

 スズハがカズマに近づくと手の平に乗せた緑色の服を着た小人。風精霊(シルフ)を差し出す。

 すると風精霊《シルフ》はスズハの手から飛び、カズマのマントにしがみつく。

 

「この子を連れていってあげてください」

 

「いや、でも……」

 

 返そうとするカズマにスズハは首を横に振る。

 

「どうか御自愛を。アクアさんが居ても、簡単に自分の命を投げ出すような無茶をするのはダメです」

 

 自分が何をするのか。大まかに察したスズハが強い視線を向けてくるのにカズマは苦笑する。

 

「そう、出来たら良いんだけどな! まぁ、分かった。こいつは借りてく! スズハは、めぐみんの後ろに引っ付いてろ! そこが1番安全だ!」

 

「はい!」

 

 スズハが頷くのを見てカズマは走り出した。

 頭の中で文句を言いながら走る。

 

(クソ! なんで湯治に来て、魔王軍幹部と戦わなきゃならないんだ! もし蘇生できなかったら、エリス様に頼んでアクアに天罰を下してもらってやる! もし上手く行っても、今回の祝勝会は全部アクア持ちにしてやるからな!!)

 

 次々とアクシズ教徒が持ってきた物を走るのに邪魔にならない程度に拾い、アクアに襲いかかろうとするハンスに饅頭を1つ投げつけた。

 

「お前の餌は、俺だぁ!!」

 

 自分を指差して源泉から引き離す為に走り出す。

 今のハンスに知性はなく、本能のままに回りの物を食らっているだけ。

 なら、少しでも多くの物を持つ奴を優先的に狙ってくる筈だとカズマは予想していた。

 その予想は的中し、本来は真っ先に食わなければいけないアクアかウィズを無視してカズマを追ってくる。

 

(お前の運の尽きは、この街に来たことじゃない!)

 

 見えてきたクレーターにカズマは躊躇う事なく身を投げ出す。

 

「俺達を相手にしたことだぁあああっ!?」

 

 追ってきたハンスがそのまま降下し、カズマの体を飲み込んでいく、筈だった。

 しかし、マントにしがみついていた風精霊(シルフ)が風を操り、その体を覆うとカズマを強制的に空中移動させ、ギリギリのところでハンスの体から外れる。

 そのまま風の力でクレーターの上まで押し上げていった。

 

「どうあっ!?」

 

 風の膜を解くとヘッドスライディング気味に着地するカズマ。

 

「し、死ぬかと思った……!」

 

 空中移動している最中、台風の目に居るような状態で息が出来なかったカズマはぜぇぜぇと深呼吸をする。

 風精霊(シルフ)がカズマの目の前で心配そうな顔で浮遊している。

 スズハがどこまでカズマの考えを察していたかは知らないが、この為に自分の精霊を預けてくれたのだ。

 

「はは! 助かったぜ……」

 

 笑みを浮かべて親指を立てるカズマに、風精霊(シルフ)は子供のように笑って親指を立てる真似をした。

 仕事を終えたカズマは仲間達に向かって叫んだ。

 

「後は頼んだぞぉ! みんなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風精霊(シルフ)からカズマの無事を知らされたスズハがめぐみんに教える。

 

「カズマさんが安全地帯まで移動しました! めぐみんさん!」

 

「カズマは無茶しますね。ですが、これで心置きなく爆裂魔法を撃てます!」

 

 杖を構え、詠唱を開始する。

 

「哀れな獣よ。紅き黒炎と同調し、血潮となりて償いたまえ! 穿て! エクスプロージョンッ!!」

 

 人類が扱える最大火力である爆裂魔法。

 それのみを習得し、文字通り必殺の域にまで研鑽された爆裂魔法(こうげき)

 その一撃が今、クレーターに落ちたハンス目掛けて放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でアルカンレティア編は終了すると思います。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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