思ったよりも短くなりました。
めぐみんの爆裂魔法をクレーターに落下したハンス目掛けて放ち、スライムの体を四散させる。
爆裂が収まり、小さくなったハンスにウィズがクレーターに飛び込んで氷結魔法で凍らせていく。
全魔力をハンスを凍結させることに注ぎ込むウィズ。
スライムの体の大半がウィズの魔法に飲み込まれていく。
しかし、ハンスもとっさに自身の核の部分を分離させる事で力の大半を犠牲にしつつも討伐には至らなかった。
「この俺が、こんな失態を……! だが、貴様らを喰らい、すぐに元に戻ってやる!」
毒々しい紫色の蛸に似た姿になりながらも、スライムの驚異が襲いかかろうとしている。
カズマ達の読みは外れて、
だが、彼はすぐに思い知る事となる。
自分という障害を打破するのは、同じ魔王軍幹部でも爆裂魔法を扱う紅魔族でも、ましてや最弱職の冒険者でもない。
自身が忌み嫌う女神とその信者達こそが、最後の一手なのだと。
ハンスの前に青髪のアークプリーストが立つ。
その後ろには壁のように密集して立ち塞がるアクシズ教徒達。
アクシズ教のプリーストが声を上げる。
「アクシズ教、教義っ!」
『アクシズ教徒はやればできる! できる子達なのだから、上手くいかなくてもそれはあなたのせいじゃない! 上手くいかないのは世間が悪い!』
『自分を抑えて真面目に生きても頑張らないまま生きても明日はなにが起きるか分からない! なら、分からない明日よりも、確かな今を楽に生きなさい!』
『汝、何かの事で悩むなら、今を楽しく生きなさい! 楽な方へと流されなさい! 水のように流されなさい! 自分を抑えず、本能の赴くままに進みなさい!』
『嫌な事からは逃げればいい! 逃げるのは負けじゃない! 逃げるが勝ちという言葉があるのだから!』
『迷った末に出した答えはどちらを選んでも後悔するもの! どうせ後悔するのなら、今が楽ちんな方を選びなさい!』
『悪人に人権があるのならニートにだって人権はある! 汝、ニートであることを恥じるなかれ! 働かなくても生きていけるのならそれに越した事はないのだから!』
『汝、我慢をする事なかれ! 飲みたい気分の時に飲み、食べたい気分の時に食べるがよい! 明日もそれが食べられるとは限らないのだから!』
『汝、老後を恐れるなかれ! 未来のあなたが笑っているかは、それは神ですらも分からない! なら、今だけでも笑いなさい!』
「エリスの胸はパット入りぃ!!」
次々と並べられるアクシズ教の教義。
それを近くで聞いていたカズマはこれは酷いと夜空を仰ぐと
その異質な光景を眺めていると、アクアの拳が炎を纏うように光だす。
「悪魔倒すべし。魔王しばくべし────っ! 爆熱ゴッドブローッ!!」
光るアクアの拳がハンスへと突き刺さった。
肉体を少しずつ浄化されながらもハンスの本体は消えない。
「この程度で俺を滅する事は出来んぞ! このへなちょこプリーストがっ!!」
スライムの体を伸ばしてアクアを取り込もうとし始めるハンス。
しかしそこでアクアの左拳が右拳以上に神聖な輝きを生み出す。
「可愛い信者達の温泉を毒で汚した罪、万死に値するわ! 神に救いを求めて懺悔なさい! 喰らいなさい! 女神の愛と怒りと悲しみのぉ!! ゴーッドォレクイエムゥ!!」
左拳から生み出された光がハンスの本体を急激に崩壊させていく。
その圧倒的なまでの浄化能力にハンスはようやく目の前のアークプリーストの正体に思い至った。
「まさか、貴様! 貴様があいつらが信仰する忌々しい女神とは────!」
「どりゃあああああああああああああっ!!」
アクアの雄叫びとともに一条の光の柱が生まれてハンスの本体を包み込む。
アクシズ教徒達の強い信仰が生み出した
まさに多くの人達の純粋な
ハンス討伐と温泉の浄化の中心となったアクアたちに対する怒りも収まり、アルカンレティアの平和は取り戻された。
めでたしめでたし。
「なんでよぉおおおおおおおおっ!!」
とはならなかった。
「私頑張ったのに! 温泉を浄化しただけなのにぃ!! なんで信者の子達に石投げられて街を追い出されなきゃいけないのよぉおおおおおおっ!?」
帰りの馬車の中、スズハの太腿で泣き崩れるアクア。
そんなアクアの行動にスズハは肉体内部の痛みで苦悶の表情をする。
「イタタッ!?ア、アクアさん、抱きつかないでくださいよ! わたし、今筋肉痛なんですから!」
爆裂魔法でハンスにダメージを与えた後に、娘のヒナを抱きかかえた状態で倒れて動けないめぐみんを背に乗せ、ついでに付いてきていたちょむすけを頭に乗せた状態でカズマと合流するために走ったのだ。
そのせいで現在筋肉痛であり、ヒナもめぐみんに預けている。
泣いているアクアに荷台に腰を落としたカズマが呆れたように事実を告げる。
「お前があの街の源泉をお湯に変えたからだろ。スズハも言ってただろうが。源泉をお湯に変えちゃいませんか? って。なんでダメなフラグ回収に余念がないんだよお前は」
「だってだって! 本気で浄化しなかったらあの毒が街中に広がってたかもしれないのよ! それを頑張って浄化したのに、なんで私怒られなきゃいけないのぉ!?」
変わらずスズハの太腿で泣き崩れているアクアにめぐみんがとどめを刺す。
「結果的に魔王軍の企みを完遂する形になった訳ですからね。報酬も賠償金として差し出す事になりましたし」
「め、めぐみん!」
ハンス討伐の報酬金は温泉を駄目にした罪で賠償金として納める事となった。
それに、ゴッドレクイエムの影響でウィズはいつ消えるか分からない程に消耗しており、今にも消えそうな程に存在が薄くなっていた。
「ハンスの時といい、お前水の女神だろ。ベルディアの時に洪水で城門ぶっ壊したのといい、なんで自分の得意分野の仕事では大雑把なんだよ」
宴会芸やら土木仕事だのと、他の物作りには感嘆するほどに繊細なくせに。
だってだって! と泣いているアクアに溜め息を吐いて雲1つない空を見上げる。
「結局、湯治としては微妙だったなぁ」
アクシズ教徒に追われたり魔王軍幹部と戦闘したりで結局は最後は休まらなかった。
「でも、良いこともありましたよ」
アクアをダクネスに預けて危うい足取りでカズマに近づく。
彼女の前にはカズマが買い取ったサラマンダーが一鳴きしてカズマにくっ付く。
「この子と出会えただけでわたし、あの街に行って良かったと思ってます」
「そっか……」
筋肉痛の痛みに耐えながら笑みを浮かべるスズハを見てまぁ、いいか、と思いながらサラマンダーの頭を撫でた。
「あー! やっぱり我が家は良いものね!」
あれだけ泣いていたアクアも家に帰ってくる頃にはすっかり元通りになる。
アクセルの街に戻り、眠り続けているウィズをバニルに預けて知り合いに会うたびに挨拶しながら屋敷に戻る。
外では待ち構えていたゆんゆんとめぐみんがじゃんけんで対決している。
荷物を一旦置いたスズハは街に出る直前に買っておいたお土産を取り出す。
「ギルドに行ってきますね」
「クリスに会いにか? なら、私も同行しよう」
ダクネスの提案にスズハは、はい、と頷いた。
幸いにしてクリスはギルドの酒場で軽く飲んでいるところだった。
それを見たダクネスが眉間にしわを寄せる。
「あ、帰ってきてたんだ」
「はい。先程に」
「クリス。あまり人の生活をどうこう言う気は無いが、昼間から酒とは感心しないぞ」
「固いこと言わないでよダクネス。これでも一仕事終えたばかりなんだからさ!」
手をひらひらさせながらジョッキのおかわりをするクリス。
そこでスズハが手にしていた袋を差し出す。
「クリスさん、お土産です。良かったら」
「わぁ、ありがとう! 悪いね」
「いえ、そんな。クリスさんにはこちらに来てからずっとお世話になってますから」
アクセルの街でカズマ達を紹介してもらったり、生活費を援助して貰ったりと言葉に尽くせない程の恩がある。
このくらいはむしろ当然だった。
「そこまで言われると照れるね。えーと、これお酒?」
それは、アルカンレティアで売られている中でもそこそこグレードの高い地酒だった。
「はい。予算で買える中で1番高い地酒を。ダクネスさんがクリスさんへのお土産ならお酒を渡せば確実に喜ぶと教えてもらったので」
「へー」
まるで自分が飲兵衛どころかアル中のような言いようにダクネスへ鋭い視線を向けるが本人は違わないだろ? とどこ吹く風だった。
「それで、旅行は楽しかった?」
「はい! ちょっと大変でしたけど、新しい
サラマンダーを見せると、クリスは驚いたように火精霊に触れる。
それからクリスはスズハの土産話を聞く。
アクシズ教徒に追われたことや温泉で知り合った赤い髪の女性のこと。
アクアが起こした騒動から魔王軍幹部との戦闘。
大変なことも遭ったようだが、それでも楽しそうに旅行の話をする少女の話を嬉しそうに聞き続けた。
次回は紅魔族編に入らず、スズハ(16)が原作のベルディア戦辺りに時間移動する番外編を何話か書こうと思います。
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序盤
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デストロイヤーから裁判まで。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編
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王都編
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ウォルバク編
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番外で書かれた未来の話
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その他