この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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番外編3:前払い(3)

「お願いです。お金が無いのでクエストを手伝って下さい」

 

 ギルドに集まって早々アクアが冷や汗をだらだらと流しながら頼んできた。

 朝食のパンを飲み込んでスズハが質問する。

 

「あの、先日のクエストで結構な額を受け取りましたよね? 数日で使い切れる額ではなかったと思うのですが」

 

 1人50万エリス以上を受け取ってまだ1週間も経っていない。

 スズハの質問に両の人差し指をつんつんと合わせて言いづらそうにしていると、カズマが大きく息を吐いて説明する。

 

「こいつ、散財しまくったんだよ。毎日酒場で好き勝手飲み食いしたり、酒を始めに色々買い込んだりして、すっかり金が底をつきかけてるんだ」

 

 カズマの説明に3人が何とも言えない表情をする。

 それを見てアクアがぶわっと泣き出した。

 

「お願いよ! このままだと来週には宿を出なきゃいけなくなっちゃうの! もう馬小屋生活に戻るのはイヤなの! 頑張るから! 今回私、全力で頑張るからー!」

 

 泣きついてくるアクアにスズハが苦笑した。

 

「アクアさんのお金は別の人に管理を任せた方が良さそうですね。私は構いませんよ。手伝える事があるなら言ってください」

 

「スズハ……!」

 

 感激して手を組むアクア。

 めぐみんがスズハに訊く。

 

「良いんですか? この街に探し物をしに来たと言っていたのに。ここ最近はそれで動き回っていたのでしょう?」

 

 街中を歩き回っている事を知っているめぐみんが質問するとスズハははい、と頷く。

 

「中々に尻尾を掴ませてくれませんし、案外皆さんと一緒に行動してた方が見つかるかもしれませんしね」

 

 どのような考えからそんな結論に至ったのか。もしくはアクアに気を使わせない為の気遣いか。

 ホットミルクを飲んでいる様子からは判断できない。

 

「助かる。どうせ宿代が払えなくなったら俺のところに住み着いてくるのが目に見えてるし。俺もいい加減プライベートな空間が欲しい」

 

「なら、ギルドの掲示板を見るか。良いクエストが見つかると良いな」

 

「うう……ありがとう、みんなぁ!」

 

 涙ぐみアクアに皆が仕方ないなぁ、という感じに苦笑する。

 朝食を食べ終わって張り出されている掲示板を見る。

 

「これなんてどうかしら!?」

 

 アクアが取ったのはグリフォンとマンティコアの縄張り争いをしているので両方を討伐する依頼だった。

 報酬金額は一撃熊よりも大分上なのだが。

 

「出来るかっ!!」

 

 即座にクエストの紙を掲示板に戻す。

 その反応に不満の声を出すアクア。

 

「なんでよー! 2体集まったところをめぐみんの爆裂魔法で倒しちゃえばいいじゃない!」

 

「その集める案を考えるのは俺だろうが! そもそも、一撃熊より報酬が上なのに一撃熊を倒せなかっためぐみんの爆裂魔法で倒せる保証がないだろ!」

 

 その言葉にめぐみんが悔しそうに歯噛みする。

 

「確かに、今の私の爆裂魔法では2体同時は厳しいですね。しかし! いずれ我が爆裂魔法で討伐して見せます!」

 

 先日の件を考えて今は無理だと言うめぐみん。それでも態々何れ挑もうという気概は彼女らしい。

 

「私も反対です。この依頼はアクセルの街総出の冒険者で挑まないと危険すぎると思います」

 

 何でも手伝うとは言ったが、全滅する危険までも許容するつもりはない。

 3人に反対されて肩を落とすアクア。

 ダクネスが掲示板を見ながら唸る。

 

「しかし、そうなると殆んどのクエストが難しいな。魔王軍幹部が近くに住んでいるせいで手頃なモンスターは隠れてしまっているし。残っているのは塩漬けクエストくらいだぞ?」

 

「うう……こうなったらあの腐れデュラハンを浄化してやろうかしら」

 

「だからわざわざ格上に挑もうとするなっての!」

 

 魔王軍幹部に挑もうとするアクアにツッコミを入れるカズマ。

 そこでアクアはあるクエストが目に入る。

 

「これよこれ! これこそ正に私向きのクエストだわ!」

 

 街の水源1つである湖の浄化クエスト。

 胸を張ってクエストの紙を見せるアクア。

 水質が悪くなった湖の浄化。正しくアクアにはうってつけのクエストだろう。

 特に、湖に住み着いたモンスターを討伐しなくて良いというのがいい。

 自分が水の女神であることを主張しながら、水に触れるだけで浄化も出来るとこのクエストを推すアクア。

 それならアクア1人で良いんじゃないかと言ったが、湖に住み着いてるブルータルアリゲーターというワニ型モンスターから浄化が終わるまで守って欲しいと頼む。

 浄化が終わればモンスターも住み処を別に移す筈だからと。

 少し考えるカズマ。

 

「アクア。安全に浄化できる方法があるぞ」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特殊なモンスターを入れる檻にアクアを入れて濁った湖に流す。もちろん檻には鎖がついており、近くの岩に括りつけて流されないようにしてある。

 

「私、出汁を取られてる紅茶のティーパックの気分なんですけど……」

 

 体育座りで浄化を行っているアクア。

 

「お願いね、水精霊(ウンディーネ)

 

 スズハも水精霊(ウンディーネ)を呼び出して水の浄化を頼む。

 しかし、当の精霊はどこか嫌そうな顔をしている。

 

「お願い……」

 

 手を合わせて済まなさそうにお願いするスズハに水精霊(ウンディーネ)は仕方無さそうに湖へと潜り、というより同化したように見える。

 カズマ達は湖から少し離れたところにシートを敷いてスズハが用意したサンドイッチを食べている。

 

風精霊(シルフ)、アクアさんにも届けてあげて」

 

 小包みを持った風精霊(シルフ)がアクアにもサンドイッチを届けに行く。

 それを見たカズマは便利だなーと思い、スズハに質問した。

 

「そういやさっきさ、水精霊(ウンディーネ)が嫌がってるように見えたけど……」

 

「はい。あの水質の湖に入りたくないみたいで。少し説得に手間取ってしまいました」

 

「精霊が精霊使い(エレメンタルマスター)の命令に異を唱える事があるのですか?」

 

 めぐみんの言葉にスズハは頷く。

 

「私達はあくまでも精霊から力を借りている立場ですから。人間ほど我は強く無いですけど、精霊にもそれぞれ性格というか、人格がありますからね。酷い扱いをしていると契約を切られてそっぽ向かれてしまうんです」

 

 サンドイッチを飲み込んででも、と続ける。

 

「精霊は純粋で律儀な子が多いですから。滅多な事では契約破棄はしないモノですけど。でもだからこそ精霊達の意見にも耳を傾けないと」

 

 話を聞きながらカズマは考える。

 ダイナマイトという例外もあったが、先日はスズハの活躍で一撃熊と白狼の群れを撃退出来た。

 カズマは初級魔法こそ使えるが、如何せん火力が足りない。

 めぐみんは大火力過ぎて1発しか使えない。しかも使う場所を選び過ぎる。

 

「なぁ、スズハ」

 

「はい? どうかしました?」

 

「もし良かったら、エレメンタルマスターのスキルを俺に教えてくれないか? 冒険者ならスキルは覚えられる筈だろ?」

 

 いつか、精霊に出会った時に契約してみたいという考えからの申し出。

 しかし、カズマの申し出にスズハは難色を示す。

 てっきり、すんなりと教えてくれるかと思っていたのでちょっと意外だった。

 

「何かマズイのか?」

 

「教えること自体は構いませんけど……先日の私を見て習おうとしてるならあまりお勧めはしませんよ?」

 

 自分の職のスキルをお勧めしないというスズハの言葉に瞬きする。

 躊躇いがちに説明し始めるスズハ。

 

「簡単に言えば私達はどれだけ精霊に心を許されているかで使える力が変化します。同じ精霊でも仲の良さで全然協力してくれる度合いが変わりますし、それはスキルでは補えない部分ですから」

 

「え? そうなの? レベルを上げたら勝手に向こうから好きになったりしてくれたりは……」

 

「しません。それってスキルを使った洗脳と変わりませんし。そういう精霊を洗脳する術はありますけど、そんな縛りかたをした精霊は本来の力をほとんど発揮出来ません。ついでに契約した精霊には常に魔力を与え続ける必要もありますから、魔力量が低いと日常生活に支障を来す恐れもあります」

 

 そして最後に続ける。

 

「以前、冒険者職の方にエレメンタルマスターのスキルを教えた事があって、結局精霊と契約出来てもほとんど力を引き出せなくて、思ってたのと違うと訴えられたことがありましたから。あぁ、訴え自体は明らかに言いがかりなので問題にはなりませんでしたよ。まぁ、その……冒険者カードに適性が出ないなら習得は止めた方が良い、というのが私の考えです」

 

 言い切るスズハにカズマはむぅ、と唸る。

 そこまで言うなら覚えたいとは言えない。特に常に魔力を与え続けるというのは大変そうだ。

 上手くいかねー、と快晴の空に息を吐いて浄化を続けるアクアに話しかける。

 

「アクアー! 浄化はどんなもんだー?」

 

「浄化は順調よー! このペースなら夕方までには終わるわー!」

 

「トイレに行きたかったら言えよー! 鎖ごと引き上げるからー!」

 

「アークプリーストはトイレなんか行かないし!!」

 

 顔を少し赤くして怒るアクア。

 その様子を見てめぐみんが問題無さそうですね、と言う。

 

「ちなみに紅魔族もトイレになんか行きませんから」

 

「お前らは昔のアイドルか!」

 

 そこでダクネスが恥ずかしそうにモジモジと体を動かして言う。

 

「私も、クルセイダーだから、トイレには……!」

 

 3人が言ったことで自分も言わなければと思ったのか、スズハまで顔を赤くして口元を隠しながら。

 

「わ、私もエレメンタルマスターですから……その……」

 

「いや! いいよ2人とも! そんな無理して言わなくても!? 特にスズハァ! すごく反応に困るんですけど!?」

 

 大きく息を吐いてめぐみんを見る。

 

「2人には今度、数日帰って来られないクエストを受けて本当にトイレが不要か確かめてやるからな!」

 

「や、やめてください!?」

 

 めぐみんが慌てて止めに入る。

 

「紅魔族はトイレになんか行きませんよ! でも、謝るのでやめてください……」

 

「いやぁあああああああっ!? カッズマさぁあああんっ!?」

 

 そんな風に話していると、アクアから悲鳴が上がる。

 見ると、ワニに似たモンスターであるブルータルアリゲーターはアクアが入っている檻に襲いかかっていた。

 水を浄化しているアクアが目障りになったのか。それとも餌とでも思ったのか、鉄格子に噛みついて揺らしている。

 

「おーいアクアー! 今から檻を引っ張るぞー!」

 

「止めてよ! そんなことしたら報酬が貰えないじゃない! ピュリフィケーション! ピュリフィケーション! ピュリフィケーション! ピュリフィケーショーンッ!? いーやぁああああっ!? 今変な音鳴った! 鳴っちゃいけない音がなったぁ!?」

 

 モンスターに遊ばれながら必死に浄化を勤しむアクア。

 それを見てめぐみんが呟く。

 

「これなら、スズハの水精霊(ウンディーネ)だけで浄化した方が良かったかもしれませんね」

 

「うーん。でもそれだと2、3日はかかるんですよね」

 

「あの中、ちょっと楽しそうだな」

 

「行くなよ。まぁ、あの檻は頑丈って話だから壊れることはないと思うけど……」

 

 段々自信が無くなってくるカズマ。

 それから1時間程して濁っていた湖は透き通る水質を取り戻す。

 

「ありがとう、水精霊(ウンディーネ)

 

 スズハがお礼を言うと精霊は頷いてその場から姿を消した。

 

「なぁ、アクアいい加減出てこいよ。皆で話し合ったんだけど、報酬はアクアの1人占めで良いってさ。スズハも今回の報酬は要らないって言うし」

 

「30万エリスだぞアクア! スゴいじゃないか!」

 

 皆がそれぞれアクアを励ますが、一向に動く様子を見せない。

 その状態が続き、業を煮やしたカズマが檻を叩く。

 

「さっさと檻から出てこい、つってんだ!!」

 

 ガンガンと鉄格子を叩くとアクアは光のない瞳で呟く。

 

「このまま連れてって……」

 

「はぁ?」

 

「檻の外は恐いの……ここから出たくない……」

 

 その言葉と姿にこのクエストでアクアにトラウマが刻まれた事を皆が悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青かった空が橙色に変わり始める時間。

 檻に入れたままドナドナを歌っているアクアが注目を集めながらもギルドまで移動していると、見知らぬ誰かが物凄い勢いで近づいてきた。

 

「ア、アクア様ー!?」

 

 青を基調とした鎧を着た薄い茶髪の少年がこちらに近づいて鉄格子をぐにゃりと曲げた。

 モンスターを閉じ込める頑丈な檻を曲げるその腕力に全員が驚くが、当のアクアはあいかわらず光の無い眼でドナドナを歌っている。

 アクアを連れ出そうとする男にダクネスが肩を掴む。

 

「おい貴様! 私の仲間に何をしている! 知り合いにしてはアクアの反応が無いようだが」

 

「いや。アクアさんは周りに反応してないだけだと思いますよ?」

 

 アクアは今も座って1人ドナドナを歌っている。

 このままでは話が進まないとカズマが声をかけた。

 

「アクア! なんかお前の知り合いが突っかかって来てるんだけどよ! アレ、もしかしてお前が女神としてこの世界に送った奴なんじゃないのか?」

 

「女神……?」

 

 カズマがそう言うとアクアは女神という単語に反応する。

 

「そうだよ! ほら!」

 

 カズマが青い鎧の少年を指差すとガバッと立ち上がった。

 

「そう! 私は女神なのよ!」

 

 隙間の開いた檻から出て来て鎧姿の少年と向き直る。

 

「貴方、誰?」

 

「あ、貴方にこの世界に送ってもらった御剣響夜です! この魔剣グラムを頂いた!」

 

 御剣響夜と名乗った少年にアクアはしばらくは誰だっけ? とボーッとしていたが、すぐに取り繕う。

 

「あ、あー! あの人ね! ごめんなさい! たくさんの人をこの世界に送ったから忘れてたわ! しょうがないわよね! あはははははっ!」

 

「こいつ、覚えてないな……」

 

 アクアの反応にカズマが御剣響夜を覚えてない事を確信する。

 

「女神様! 何故この世界に? いや、それよりも何故檻の中なんかに入って居たのですか!?」

 

 響夜の質問にアクアが事情を説明する。

 カズマにこの世界へと引き摺り込まれたことや今日までの事をかいつまんで話した。

 それを聞いた響夜は────。

 

「何を考えているんですか君はぁあああああああっ!?」

 

 ガックンガックンとカズマを揺らし始める。

 

「女神様をこの世界に引きずり込んだだけじゃなく、クエストで湖に浸けたぁ!?」

 

「ちょ、ちょっと! 私としてはそれなりに楽しい日々を送ってるし。この世界に連れてこられた事はもう気にしてないんですけど! それに、最近やっと馬小屋生活からも脱出出来たし!」

 

「馬小屋ぁ! アクア様は最近まで馬小屋で生活されてたんですかぁ!?」

 

 アクアが仲裁に入るも、火に油を注ぐ結果になっていた。

 周りからも先程より注目を集め始めている。

 流石に見かねたダクネスが響夜の手首を掴む。

 

「おい。事情はよく分からないが、その手を離せ! 失礼だろう!」

 

「撃って良いですか? こいつに爆裂魔法を撃って良いですか?」

 

「やめろ。俺も死ぬ」

 

 ダクネスとめぐみんを見て響夜は説教気味にカズマに問いかける。

 

「アークウィザードにクルセイダー。そっちの女性は分からないけど。でも君は、そんな優秀な人達とパーティーを組んでアクア様を馬小屋生活させて居たなんて恥ずかしいとは思わないのかい?」

 

「あ?」

 

 響夜の言い分にカズマも流石に苛ついて眼を吊り上げた。

 この御剣響夜という人物は転生特典(魔剣グラム)で特に苦労することなくこの世界で生きてきたのだろう。そんな相手に何故1から頑張っている自分が上から目線で説教されているのか。

 響夜がダクネス達を見る。

 

「君達もこれからはソードマスターである僕と一緒に来ると良い。馬小屋生活なんてさせないし、高価な装備も買い与えてあげよう」

 

 まるで断られることを想定していない。決定事項のような口調に女性陣は苛立ちを交えて引く。

 

「ねぇあの人、本気で引くくらいヤバいんですけど。ナルシスト系も入ってて怖いんですけど」

 

「どうしよう。攻めるより受ける方が好きな私だが、あいつだけは無性に殴りたい」

 

「撃っていいですか? 撃っていいですよね?」

 

「まぁまぁ。皆さん落ち着いて」

 

 宥めるスズハにめぐみんが鼻息を荒くして怒りを表現する。

 

「スズハは腹が立たないのですか! あのボンボン、ナチュラルに私達を見下してますよ!」

 

 その質問に困ったようにあはは、と笑うスズハ。

 スズハからすれば、もっと下劣で害にしかならない人物を知っているだけにこの程度で怒りの感情は沸き上がらなかった。

 

「いいですか、3人とも。世の中には人の将来や家族を含めた人間関係をズタズタにしたくせに素知らぬ顔でせせら笑ってくる上に自分の不幸は全て他人の所為。特に女性にとっては吐き気がするくらい下衆で視線を合わせたり、名前を呼ぶことすら害にしかならないどうしようもない人だっているんですよ?」

 

「ちょっ!? スズハ痛いです! 手に力が入りすぎです」

 

 優しい眼でめぐみんの肩にミシミシと鳴ってはいけない音を出してくるスズハ

 

「あ、すみません。あの人の事を思い出したらどうしても怒りが抑えられなくて」

 

 温厚なスズハがここまで嫌悪感や敵意を剥き出しにする相手。

 会ってみたい気もするが、きっと会わない方が良い相手なのだろう。

 

 閑話休題。

 

 皆が響夜に関わりたくないのを察して追い払おうとする。

 

「うちの女性陣は、おたくのパーティーに入りたくないそうです。それじゃ」

 

 そう言って立ち去ろうとすると回り込む響夜。

 

「待て! 僕はアクア様をこんな境遇には置いておけない。だから、勝負をしよう。もし僕が勝ったら、アクア様を僕のパーティーメンバーに加えてもらう。もし君が勝ったら、なんでも言うことを1つ聞こう。どうだい?」

 

「わー。自然とアクアさんを物扱い……」

 

 本人の意思を聞かずにこの発言は流石にスズハも引く。

 それも、チート特典持ちが貧弱装備の冒険者職にだ。自分が負けることがないのを理解しているからの発言なのは誰の目にも明らかだった。

 自分が対処した方がいいかな、とスズハは前に出ようとしたが、その前にカズマがショートソードを引き抜いて響夜に襲いかかる。

 そこからの展開は一方的だった。

 カズマの。

 スティールで魔剣グラムを盗み取り、頭に1発喰らわせて気絶させた。

 流れるような一幕。倒れた響夜を見てスズハは首をかしげた。

 

(この人、こんな人でしたっけ?)

 

 あまり接する機会はなかったが、スズハの中で御剣響夜は友人であるゆんゆんと同じくらい礼儀正しい常識人と認識していた。

 だから、自分の記憶と今の響夜の言動に差異を感じていた。

 アクアの境遇によほど腹を立てていたのか。それともこれから変わる要因でもあったのか。

 

(まぁ、いいでしょう)

 

 少し考えて終わった事と切って捨てる事にした。

 

 その後、響夜のパーティーメンバーの女性2人が異を唱えたが、カズマがスティールを示唆すると逃げていき、魔剣グラムを頂戴したが、重さに振り回されて使えないことが分かるとあっさりと売り払った。

 

 後日、返すように求めた響夜は外へ流れた魔剣を追ってアクセルの街を去っていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズマとアクアは待ち合わせの場所に訪れるとそこには冒険者と思わしき男性2人に絡まれているスズハがいた。

 しかし、スズハがカズマとアクアに手を振ると冒険者の2人はそのまま去っていった。

 

「誰だ、今の?」

 

「パーティーに入らないかと誘われて、断っていたところなんです。その……視線が変だったので……昼間なのに酒場に連れ込もうとしてきましたし」

 

 胸に手を当てながらされたその説明だけで大体の事を察するカズマ。

 おそらくあの冒険者達は前にスズハが酒場で酔っているのを見たのだろう。

 

「ま、まぁなんだ。じゃあ案内頼む」

 

「はい。任されました。この街の魔法具店は1軒しかないですから」

 

 以前、スキルを教えてもらう約束をしたある人物が経営する店を訪れる事を決めたカズマ。

 一応住所と地図は貰ったのだが、スズハが場所を知っているらしいので案内してもらうことになったのだ。

 歩いているとそう言えばと思い当たってカズマはスズハに質問する。

 

「今までめぐみんとダクネスが居たから聞きづらかったんだけどさ。スズハも日本からの転生者なんだよな?」

 

「はい。5年程前にこの世界に来ました」

 

「5年!?」

 

 すると、大体10か11くらいでこの世界に来たのか。

 驚いているとアクアがスズハの前に立つ。

 

「日本からの転生者ならスズハを転生させたのは私よね! 今まで、めぐみんやダクネスが居て言えなかった感謝の言葉とか! なんなら、今晩は私に高級シュワシュワを奢ってくれてもいいわよ!」

 

 手を差し出すアクア。

 しかしスズハの答えは意外なモノだった。

 

「あ、いえ……私をこちらに転生させてくれたのはエリス様ですから」

 

「ぶっふぅ!?」

 

 盛大にずっこけるアクア。

 

「なんでよー!? なんでエリスが私の仕事を取ってるわけぇ!?」

 

「私に言われましても……」

 

「エリスって確か、アクアの後輩女神だったよな?」

 

「そうよ! あの時エリスに仕事を押し付けた時かしら? でもアレは……」

 

 ぶつぶつと言い始めるアクア。

 どうやら覚えがあるらしい。

 

(それなら、アクアに会ったときに反応が淡白だったのは納得がいった。アレ? でもなんかスズハはアクアが女神だって信じてる?)

 

 めぐみんもダクネスも信じてないのに会ったことのないアクアをどうしてスズハが女神だと信じているのか。

 エリスの事は知らないが、はっきり言ってアクアは女神っぽくない。

 自分で女神だと言ったところですんなり信じるものだろうか? 

 そんなことを考えていると、スズハがカズマの顔を覗き込んでくる。

 

「どうしました? 立ち止まって」

 

「い、いや! なんでもない!」

 

 間近にスズハの顔があって顔を赤くして1歩下がるカズマ。

 

「そ、そういや、こういうことを聞いて良いのか分からないけど。スズハは、その……なんで死んだんだ? いや、言いたくないならいいんだけどさ……」

 

 少しばかり不謹慎な質問だったかと途中で考え直す。気にならないと言えば嘘になるが。

 そこでアクアがカズマの死因を暴露した。

 

「カズマさんわね! トラクターをトラックと勘違いして女の子を突き飛ばした挙げ句自分はそのままショック死したのよ! プークスクスクス! 今思い出してもチョー笑えるんですけど!」

 

「こいつ……!」

 

 笑い続けるアクアにカズマは握り拳を作る。

 

「でも……勘違いでもトラックから庇おうとしたんですよね?」

 

「う! そうだけど結局女の子に怪我させただけだし……」

 

 自分を卑下するカズマにスズハは優しい笑みを浮かべる。

 

「そういうの、色んな意味でカズマさんらしいと思いますよ」

 

「……どういう意味だよ」

 

 その態度にカズマは肩に力を抜く。

 ただ、自分の死に方を聞いて馬鹿にせずにいてくれるスズハの言葉に少しだけ前向きになれた。

 

「それで、私の死因、ですよね。私は……」

 

 すると途端にスズハの瞳から光が消える。

 

「母様に包丁で刺されました」

 

「へ?」

 

「部屋にいきなり押し入られて馬乗りになって包丁で刺されたんです」

 

 掠れた笑いを出して続きを言おうとするスズハにカズマが止めに入る。

 

「いや、もういいよ! 悪かったよ! 思い出したくないなら無理に言わなくても!?」

 

「重い! 重いからスズハァ!?」

 

「もう5年も前の事ですからある程度気持ちに整理は着いてるつもりなんですよ。それにこっちに来て良い縁も多くありましたから」

 

「……全然そうは見えねぇよ」

 

 笑顔を浮かべるスズハにカズマは頭を掻く。

 

 

 そのまま案内してもらうとそこには小さな店が建っていた。

 店に入る前にカズマがアクアに忠告する。

 

「言っておくがアクア。これから店の人を相手に問題を起こすなよ」

 

「なに言ってるのカズマ! 私、チンピラやならず者じゃないのよ! 女神なのよ」

 

「だから言ってるんだよ……」

 

 騒がしいアクアを無視して扉を開けるカズマ。

 

「いらっしゃいませー……あぁあああああっ!?」

 

「ああああああ、アンタッ!?」

 

 挨拶をした店員が驚きの声を上げるとアクアが掴みかかろうとする。

 その前にスズハが押さえに入った。

 

「はいはい。落ち着いてください、アクアさん」

 

「離しなさいスズハ! このリッチー、浄化してやるわ! イタッ!?」

 

「だから問題を起こすなって言っただろうが……」

 

 アクアの予想通りの反応にカズマは大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにスズハを訴えた冒険者はカズマではありません。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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