この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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番外編3:前払い(4)

 アクアを大人しくさせて席に座らせてからウィズ魔法具店の店長であるウィズから話しかけてきた。

 

「ここに来るまでに迷いませんでしたか? ここら辺は少し道が複雑ですので」

 

「あぁ。スズハに案内してもらったから」

 

 カズマがスズハを指を差すと、ウィズが、スズハ、さん? と首をかしげた。

 てっきり知り合いだと思っていたカズマが2人を交互に見る。

 スズハが前に出て小さく頭を下げた。

 

「以前このお店で商品を購入した事のあるシラカワスズハと申します」

 

「えぇ! そ、そうなんですか? お客さんの事は記憶していると思うのですが……」

 

 記憶を掘り返そうとしているウィズにアクアがふん、と鼻を鳴らす。

 

「お客の顔も覚えないなんて。これだからリッチーは」

 

「自分で送り出した奴も覚えてない駄女神が言うことかよ」

 

 ブーメラン発言をするアクアにツッコミを入れてから本題に入った。

 

「それでウィズ。一撃熊とか白狼とかを倒してポイントに余裕が出来たからさ。スキルを教えてもらいにきたんだ」

 

 カズマの言葉にアクアが机に頭をぶつけた。

 

「ちょっとカズマさん! 女神の従者がリッチーのスキルを覚えるとか許容出来ないんですけど!」

 

「誰が従者だコラッ! はっきり言って、普通のスキルを取って、俺が真っ当に強くなれると思うのか? 多少変則的なスキルを習得して、お前達のサポートをする方が建設的だろうが! それでウィズ。なにかオススメのスキルってあるか?」

 

 気軽に言うカズマにウィズがチラチラとスズハを見る。

 

「あの、スズハさんには私の事を……?」

 

「あ……」

 

 勿論スズハにウィズがリッチーだとは教えていない。

 当のスズハはポーション棚を眺めていたがこちらの視線に気付いて振り向く。

 

「先程アクアさんが言ってましたね。まぁ、ここだけの秘密と言うことで。勿論吹聴する気もありませんから」

 

「スズハさん……」

 

 安堵した様子で目尻に涙を浮かべるウィズ。そのチョロさがちょっと心配になってきた。

 

「何言ってるのスズハ! リッチーなんてね、暗くてジメジメしたところが好きな、謂わばナメクジの親戚みたいなモノなのよ! そんなに簡単に心を許してどうするの!」

 

「ひ、ひどい……!」

 

 アクアの言い分にウィズが泣きそうな表情をする。

 しかし、カズマはウィズの正体を知って平然としているスズハに違和感を覚える。

 自分達は以前、幽霊達を成仏させているウィズを見たから彼女が善人であると知っているが、ただ客と店員という関係だけでリッチーであるウィズを信用するだろうか? 

 

(もしかして、最初から知っていた?)

 

 それならそれで疑問は残るが、とりあえずウィズに対する態度はある程度納得できる。

 そんな風に考えているとウィズがおずおずとアクアに質問する。

 

「あ、あの……私を難なく浄化出来る力といい、先程女神の従者と言ってましたが、まさか本物の女神だったりは……」

 

 半信半疑の様子で質問するウィズにアクアが気を良くした様子で髪をなびかせ、ウィズを指差した。

 

「少しは物を理解しているようね。そう! 私はアクア! アクシズ教団の御本尊にして水を司る女神、アクアよ! 控えなさい、リッチー!」

 

「ヒ、ヒィ!?」

 

 上擦った声で下がるウィズにスズハが耳打ちする。

 

「大丈夫ですよ、ウィズさん。もし危害を加えようとしたら、こちらで取り押さえますので」

 

「あ、いえ。アクシズ教徒の方は頭のおかしい方々ばかりというのが世間での常識でして。その元締めの女神様と聞いて……」

 

「あ、あ~……」

 

「なんですってぇ! この! リッチーのくせに! スズハも何で納得したような顔してるの! 謝って! うちの子達を頭のおかしい連中だと思っていた事を謝って!」

 

 目尻に涙を浮かべてウィズの胸ぐらを掴んで文句を言うアクア。

 困っているスズハにカズマが質問する。

 

「なぁ、アクシズ教って前からちょくちょく名前は聞いたことあるけど、どんな連中なんだ?」

 

「まぁ、その……ダメな人を育てるには適した宗教だとは思いますよ、とだけ言っておきます」

 

 出来る限りオブラートに包むスズハだがアクアが泣きながら抗議する。

 

「ダメな人ってなによ! 言っておきますけどね! うちの子たちはどこに出しても恥ずかしくない良い子ばかりなんですからね!!」

 

 抗議するアクアにスズハはただ、困ったように笑うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を戻してカズマはウィズからオススメのスキルを教えてもらう。

 

「ドレインタッチなんてどうですか? 体力や魔力を吸い取ったり、誰かに分け与えたり出来る便利なスキルなんですけど……」

 

「なるほど。上手くすれば倒れためぐみんに魔力を与えて動けるようにしたり、逆に相手から体力を奪うことも出来るわけだ」

 

 少し考えてそのスキルを教えてもらうことにした。

 

「ではスキルを教えるために、その……スズハさん。魔力を吸わせてもらっても良いですか? ほんの少しですから」

 

「あ、はい。もちろん」

 

「なんで一瞬こっち見てからスズハを選んだのかしら?」

 

 一度アクアに視線を向けてから慌ててスズハを指名したことに目尻をつり上げる。

 そんな文句を言っている間にウィズはスズハから魔力を分けて貰う。

 

「これで、カズマさんの冒険者カードにドレインタッチのスキルが表示されている筈です」

 

 カズマが冒険者カードを見ると、そこには新たなスキルが追加されており、ポイント的にもギリギリ習得可能だった。

 冒険者カードを操作してドレインタッチのスキルを習得する。

 

「ありがとな、ウィズ。これでちょっとはクエストが楽になりそうだ!」

 

「はい。お役に立てて嬉しいです」

 

 笑みを浮かべるウィズ。

 そこで店の扉が開く。

 

「すみません、ウィズさんはいらっしゃいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕刻になり、カズマたちは元貴族の別荘だったという屋敷の前に立ち、その敷居を跨いでいた。

 

「しかし、その不動産屋も太っ腹ですね。住み着いた幽霊を浄化する代わりにこの屋敷を安値で貸してくれるなんて」

 

「ただでさえ買い手が付かないのに、幽霊が住み着いてて完全に事故物件扱いらしいからな。噂が払拭されるまで、ここを安く貸して貰えることになったんだ。ところでめぐみん。貸し賃とはいえ、屋敷を手に入れた俺に何か言うことがあるだろ?」

 

「う! カズマの運の良さには正直脱帽です。お願いですから一緒に住まわせてください」

 

 以前、カズマが屋敷を手に入れるなんて夢の見すぎと笑っためぐみん。

 本当に屋敷を手に入れるとは予想できなくて当然だが。

 

「でも、一緒に住んだ方が色々と便利でしょう? 連絡とか」

 

「ま、そうだけどな」

 

 スズハも今日からこの屋敷に住むことになる。そうなると今まで半分ずつ出していた宿代をめぐみん1人で出さなければならない。

 それは無駄だし、もしも意地を張ってめぐみんが宿屋で暮らそうとすれば、なんやかんやで屋敷まで引っ張って来そうだが。

 

「アクア、屋敷には祓っても祓っても幽霊が集まって来るというが、除霊は大丈夫か?」

 

「まっかせなさい! 私はアークプリーストにして女神よ! この屋敷の霊くらい、すぐに成仏しつくしてやるわ!」

 

 自信満々に胸を叩き、中の霊を確認する。

 

「見える、見えるわ! 私の霊視によると、貴族が遊び半分で手を出したメイドとの間に出来た娘が幽閉されていたようね!」

 

 そこからなんでそこまで分かるんだというくらい詳細に語られる幽霊のことに逆に不安になる一同。

 

「とにかく、中に入ろうぜ!」

 

 霊視に夢中になっているアクアを放っておいて中に入る。

 中に入ってスズハは屋敷の様子を見渡す。

 

「やっぱり、埃もそれなりに積もってますね」

 

「あぁ、でももうすぐ夜だし本格的な掃除は明日だな」

 

「いえ。大まかになら夜までに終わらせておきますので」

 

 荷物から雑巾などを取り出すスズハ。

 

「待て待て! なんでスズハ1人で掃除するみたいな流れになってるんだよ! 皆でやろうぜ! な?」

 

「え?」

 

 まるで手伝ってくれるんですか? みたいに首をかしげるスズハ。

 

「皆でここに住むのだから当然だろう。スズハだけ働く事じゃないぞ!」

 

「あ、そ、そうですね! 癖でつい……」

 

「癖って……おいめぐみん。宿で一緒に暮らしてたんだろ? まさか、掃除とかスズハに投げてたのか?」

 

「失敬な。ちゃんと2人でやってましたよ! ただ、スズハの仕事が早くて割合としてはスズハの方が多かった事は認めますが」

 

 そんな事を話していると、雑巾を渡す。

 

「このままだと体に悪いですし、簡単な掃除だけでもしませんか?」

 

「……分かった……やるよ」

 

 仕方なしに雑巾を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最低限の掃除を終えてスズハは元の時間軸と同じ部屋のベッドに腰を落とす。

 掃除の方はかつて知ったるどころか知り尽くした屋敷の掃除だ。

 カズマ達が呆然とするくらい高速かつスムーズに終わらせた。

 自分の部屋に戻ってきた感覚に安堵しながらふと思い出す。

 

「あれ? そういえば、カズマさん達ってなんで何千万エリスも借金があったんだっけ?」

 

 その借金自体当時の領主の言いがかりによって背負わされた物であった事は覚えているのだが、当事者ではなかった事もあり、その部分がやけに曖昧だった。

 少し考えたが、結局思い出せずに断念する。

 

「それらしいことには気を付けておけばいいでしょう。それよりも、ヒナのことです」

 

 今頃、というと変な話だが、どうしているだろうと気になる。

 

「学校だってあるし。アイリス様はどうせあの子を甘やかして好きな物を与えてるんだろうし……カズマさんやアクアさんにそれを注意するのを求めるのは無駄だろうし。めぐみんさんに頑張ってもらわないと。あぁ、そうだ。一緒に付いてきてもらったダクネスさん達も私を探してるだろうから」

 

 不安がつきない。

 早くこの時間に来るきっかけとなったあの精霊を見つけないと、と焦る気持ちを抑えるために腕を強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはや人の住んでない廃村の周辺をダクネスは走り回っていた。

 豪雨と呼んで良い雨の中でひたすらに1人の少女を探し回っている。

 

「スズハ! 何処だ!! 居るなら返事をしろっ!!」

 

 迂闊だった、とダクネスは自分の見積もりの甘さを後悔していた。

 この廃村に見知らぬ精霊が住み着いたことがそもそもの発端だった。

 ここは天災とモンスターの襲撃が重なって村人が別の場所へと村を移して捨てられた場所だった。

 そこに住み着いた精霊を、最初はモンスターとして討伐隊が向けられたがあっさりと返り討ちにされてしまう。

 近くにそのような危険な存在が住み着いたことに近隣から不安の声が上がり、調べる内にあれが大精霊であることが判明。

 それを知ったアイリスはダスティネス家を通してシラカワスズハにその大精霊との交渉を依頼した。

 ダクネスとしてもアイリスの本当の目的は分かっていたが、近隣住民からの不安の声を無視できずにスズハに頼ってしまった。

 もし被害を出さずにこの件を収められるならスズハが適任と確信して。

 それだけ、ここ数年での彼女の精霊との交渉による功績は大きかった。

 もちろん大精霊がスズハに危害を加えるなら全力で守護するつもりだった。

 そこに大精霊の攻撃に対する期待がなかったのかと訊かれれば否定は出来ないが。

 しかし目標は一直線にスズハを狙い、テレポートのような力でスズハを消し去り、大精霊自体もどこかへと姿を消した。

 スズハが消えた瞬間、背筋が凍りついた。

 

「ダスティネス卿! これ以上の捜索は危険です! この雨の中、丸1日動いているのですよ! 皆が限界です!?」

 

 一緒についてきた騎士がダクネスにそう進言する。

 彼女はカッとなって進言した騎士の胸ぐらを掴んだ。

 

「馬鹿を言うな! スズハは今回の依頼を無理に引き受けてくれたのだぞ! そんな少女を放ってっ!?」

 

「ですがっ!?」

 

 騎士達も決して捜索に手を抜いているわけではない。それでもこの周辺を探しても見つからないのではと思い始めていた。

 なにより、雨の中これ以上の捜索は危険だった。

 

「分かった……」

 

「ダスティネス卿」

 

「皆は一度戻って捜索隊の増員を要請してきてくれ。私は1人でスズハを探す」

 

「ダスティネス卿っ!?」

 

「我儘を言ってすまない。だが、今回の件を頼んだのは私で。あの子は私の仲間で妹分でもあるんだ。このまま手掛かり1つ見つけずに帰ることは出来ない。なに。体力には自信があるんだ。お前達が戻ってくる間くらい動けるさ」

 

 相手の返事を待たずにダクネスは走って捜索を続ける。

 

(待っていろ、スズハ! 必ず見つけて、ヒナのところに帰ろう!)

 

 アテもなくダクネスは1人捜索を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部屋にいきなり入ってきてどうしたんですか?」

 

「いえ、その……外に人形が……」

 

 悪霊の憑いた人形達が動き回っていて、近かったスズハの部屋に飛び込んだらしい。

 何やら股をもじもじさせるめぐみん。

 

「もしかしておトイレですか?」

 

 恥ずかしそうに首肯するめぐみん。

 

「分かりました。付いていきますね。水精霊(ウンディーネ)

 

 水の精霊が姿を現す。

 

「霊を祓う事は出来ませんが、幽霊避けの弱い聖水くらいの効果は期待出来ます」

 

「べ、便利ですね……」

 

 簡単な説明をすると、トイレまで手を繋いでついて行く。

 水精霊(ウンディーネ)の力で必要以上にこちらには近づいてこない人形に取り憑いた幽霊達。

 トイレまで着いて、めぐみんがドアノブを回すが、開かなかった。

 

「あ、あれ?」

 

 ガチャガチャと何度も回すが、一向に扉は開かない。

 どうなっているのかと不安になると、中から声がする。

 

『だ、誰だ! 誰か外にいるのか!?』

 

「カズマ!? カズマですか!?」

 

『そうだよ! 人形達に追われて、トイレにも行きたくなったからアクアが除霊し終わるまでここに閉じこもっていようかと……』

 

「ちょっ!? 早く出てきてください! 出てこないと爆裂魔法で吹き飛ばしますよ!」

 

『めぐみんだろお前! 紅魔族はトイレになんて行かないって言ってただろうがっ!!』

 

「確かに紅魔族はトイレになんて行きませんが! 今は入りたいんです! いいからさっさと出なさい! 出ろーっ!!」

 

 強く扉を引っ張るとカズマは分かったよ、とトイレから出て来ると、押し退けて中へと入るめぐみん。

 

「あの野郎……今度本当に数日かかるクエストを受けてやる」

 

 尻餅を打ったカズマが立ち上がるとスズハに気付く。

 

「どうした? スズハもトイレか?」

 

「いえ。私はめぐみんさんの付き添いで霊避け係です」

 

「霊避け?」

 

 指を差すと、水の格子が通路に張られている。

 

「これで、幽霊の憑いた人形は近寄ってこれませんよ」

 

「もしかして、スズハも除霊が出来たりは……」

 

「しません。あくまでも避けるだけです。除霊には、光の精霊の力が必要だと聞きましたから」

 

「そっか。なら、アクアの奴が除霊を終えるまでここで待つか。さっき、高い酒飲まれたーって屋敷中の霊を浄化しに行ってたし」

 

「幽霊ってお酒飲むんですか?」

 

「いや、知らねぇけど……」

 

 2人で疑問に思っているとアクアの悲鳴が聞こえて駆けつけると、ダクネスの手違いで額を殴打されたアクアが倒れていた。

 その時には屋敷の除霊は終わっていたらしく、この晩の幽霊騒ぎは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギルドからの追加報酬は受け取らない。ついでに、不動産屋さんにも謝りにいくぞ。いいな」

 

「はい……」

 

 翌日、除霊の報酬を受け取りにギルドを訪れると、意外な形であの屋敷に霊が集まっていた理由が発覚する。

 あれらの霊はこの街のプリーストに放置されていた共同墓地に集まっていた幽霊で、その霊達を成仏させる仕事はウィズからアクアへと譲渡されていた。

 しかし、いちいち墓地まで赴くのが面倒という理由でアクアは墓地に結界を張って霊が寄り付けなくしていたらしい。

 その結果、あの屋敷に再現なく幽霊が集まっていたのだとか。

 そのマッチポンプにカズマが報酬の受け取りを拒否させた。

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

『緊急! 緊急! 冒険者の皆さんは、直ちに武装して街の正門に集まってください! 特にサトウカズマさんのパーティーは大至急お願いします!』

 

「は?」

 

 ご指名の意味が分からずに取り合えず指示に従い、正門まで移動するカズマ達。

 するとそこには見覚えのある首なし騎士(デュラハン)が聳え立っていた。

 

「ベルディアっ!?」

 

「ベルディア?」

 

 それは以前この街に訪れてダクネスに呪いをかけて帰っていった魔王軍幹部のデュラハンだった。

 スズハは聞き覚えのあるその名前を思い出そうと反芻する。

 ベルディアの後ろには配下と思わしき多数のアンデットモンスターが控えている。

 自身の頭を手にした騎士は憤慨した様子で怒声を上げた。

 

「何故城に来ないのだ! この人でなし共がぁあああああっ!?」

 

「はぁ?」

 

 何を怒っているのか分からずカズマは反論する。

 

「なんで態々危険な城に行かなきゃならないんだよ! 大体、もう爆裂魔法は撃ってない筈だろ! この街になんの用だよ!」

 

「撃ち込んでないだと! あれからも毎日毎日、そこの頭のおかしい娘が爆裂魔法を撃ち込んできていたわ!」

 

 冒険者達の視線がめぐみんに集まる。

 

「そんな事をしてたんですか? めぐみんさん」

 

 スズハの質問にめぐみんが少し言いづらそうに言い訳する。

 

「はい。今までは適当な場所に爆裂魔法を撃っていれば満足出来たのですが。あの城を攻撃してからは大きくて硬いものじゃないと満足できない体に……」

 

「モジモジしながら言うんじゃねぇ! 何の照れ隠しだ! というか、お前! 爆裂魔法使ったら動けなくなる筈だろ! なら、運んでた共犯者が────」

 

 すると1人だけ明後日の方角に出来ない口笛を吹き始めるアクアに誰が共犯者か理解した。

 

「お前かーっ!? なんてことしてくれんだこのバカッ!?」

 

 頭を拳で挟み、グリグリとするカズマにアクアがだって! と言う。

 

「アイツがここら辺に住み着いたせいで手頃なクエストが減っちゃったし! アンデットのくせにあんな立派な城に住んでるなんてムカつくじゃない! 嫌がらせしてやりたかったんだもん! 痛い痛い! 力を強めないでよ!」

 

 アクアに制裁を加えているとベルディアの言葉が続く。

 

「俺が怒っているのは爆裂魔法の事だけではない! 貴様らを庇い、俺の呪いを受けたあのクルセイダー! それを見捨てるなど、貴様らには仲間を想う心はないのか! 生前は真っ当な騎士であった俺から言わせれば、あの騎士の鑑のようなクルセイダーを見捨てるな、ど……」

 

 段々と言葉が小さくなるベルディア

 それもその筈。彼の呪いを受け、とっくに死んでいると思っていたクルセイダーの女はピンピンしてやぁ、と手を振っているのだから。

 

「あれぇええええっええっ!?」

 

 驚きのあまり変な声が出るベルディア。

 そしてそこで別の者も声を出す。

 

「あーっ!?」

 

「今度はなんだ!」

 

 突然声を出したスズハが険しくも真剣な表情でベルディアに視線を向ける。

 

「思い出しました! ベルディアさん! 聞いたことがあります! その剣の腕と死の呪いで大勢の優れた騎士や冒険者を狩ってきた魔王軍幹部です!」

 

 スズハの説明に鼻を鳴らすベルディア。

 

「少しは物を知っている人間が居るようだな、異国の娘よ。そこの者達が最初から大人しくしていれば、こんなところで死ぬこともなかったろうに……」

 

 クックッ、と笑うベルディア。

 しかし、スズハの説明はまだ続いていた。

 

「気を付けてください! 特に女性の冒険者の方は!」

 

「ん?」

 

「あの人は、自分の頭を転がして女性のスカートの中を覗いたり! 頭を投げて胸に当ててきたり、お風呂場にも投げて女性の裸を凝視してくるのが趣味なデュラハンです!!」

 

 その瞬間、男性冒険者達の親近感が僅かに上昇し。

 女性冒険者達の殺意が大幅に上昇した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次でこの番外編も最後です。
そうしたら紅魔の里編に入ります。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他

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