この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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紅魔族編のプロローグ。

次に番外編やるならヒナが実父と会う話とか書きたい。
前後編で8割シリアスの。


精霊を引き寄せる娘

「これでよし、と」

 

 庭の掃除を終えてスズハは汗をタオルで拭く。

 

「気温も大分上がってきましたね。日本ならもうすぐお花見の季節でしょうか?」

 

 そんなことを思いながら屋敷に入っていくと、ぬいぐるみで遊んでいる娘がいる。

 

「あーうー」

 

 ヒナはちょむすけのぬいぐるみに抱きついて、嬉しそうに遊んでいる。

 

「……うん。まぁ、ヒナが気に入ったのなら良いんだけど」

 

 あのぬいぐるみはアルカンレティアで購入した材料でスズハが作成した物ではなく、アクアが作ったぬいぐるみだ。

 アルカンレティアから帰って来て、チクチクとちょむすけのぬいぐるみを作っていたスズハにアクアが現れて、

 

『そんな出来映えじゃあ、ヒナは満足しないわ! 見てなさい!』

 

 と、余った材料で本物そっくりの1/1(等身大)ちょむすけ人形を縫ったのだ。

 案の定、ヒナはアクアの縫ったちょむすけ人形を一目で気に入り、手離さなくなった。

 

「ちょむすけ、おいでー」

 

「なーん」

 

 ちょむすけを膝に乗せて体を撫でる。

 ヒナが人形に夢中になるとちょむすけを乗せても泣かなくなり、こうして癒されている。

 

「さて。そろそろ皆さんが帰ってくる筈ですから、夕御飯の支度を────」

 

 立ち上がろうとすると玄関が強く開けられる音がした。

 

「とぅあだぁいーまーっ!?」

 

 何かから逃げるように帰ってきたカズマ達は、息を切らせて玄関にへたり込む。

 人数分水の入ったコップをトレイに載せて玄関まで行く。

 

「おかえりなさい、皆さん。今日は随分と大変だったみたいですね」

 

「それどころじゃねぇよ! おい、ダクネス! あんなバケモノどうにか出来るかーっ!?」

 

 受け取ったコップの中身を飲み干して、クエストを持ってきたダクネスに文句を言う。

 

「いや、すまない。あそこまで大物だとは思わなくて。クッ! それならば、奴の攻撃を喰らっておけば良かった!」

 

「冗談じゃないから! あんなのの調査なんて、ホンットーに冗談じゃないんですけど!?」

 

 泣きながら両手を上下に動かすアクア。

 

「そんなに危険なクエストだったんですか?」

 

 爆裂魔法を使ったのだろう。カズマに背負われためぐみんが説明する。

 今回は、森の奥に建てられた神殿に居座っているモンスターと思わしき存在の調査だった。

 ギルド側から防御力の高さを見込まれてダクネスに依頼されたクエスト。

 いざ乗り込んで見ると、想像以上におぞましい姿の精霊(モンスター)だった。

 土の大精霊という噂もあるが、真偽は定かではない。

 めぐみんの爆裂魔法を叩き込んだが、倒すとまでは行かないだろうと。

 

「とにかく、一応今回の依頼は完了だ。あそこら辺は立ち入り禁止にしてもらう事になった」

 

「お疲れ様でした。お風呂も沸いてますから、順番に入ってください」

 

「ありがとう。本当に気が利くなぁ」

 

 と、先に浴室に行こうとするカズマの肩を、アクアとめぐみんが掴む。

 

「待ちなさい、カズマ。アンタ、女の子達より早くお風呂に入ろうって言うのかしら?」

 

「カズマ。貴方、レディーファーストって言葉を知ってますか?」

 

「……俺は真の男女平等を願う者。大して何もしてない自称女神や、爆裂魔法をぶっ放して担がれてただけの1発屋に遠慮する必要はない」

 

 暫しの沈黙の後に、男女どっちが先にお風呂に入るのか揉め始める。

 そこで鎧を脱いだダクネスにスズハが頼み事をした。

 

「ダクネスさん。ご実家から、お荷物が届いていて。たぶんいつものかと。中身を確認して厨房まで運んでもらってもよろしいですか?」

 

「分かった。まったく。お父様も度々何かを贈りつけなくてもいいのに」

 

 ダクネスの実家であるダスティネス家から、たまに高級食材やら高級酒等が贈られてくる。

 今回も何かしらの高価な食材が贈られているのだろう。

 ダクネスが玄関横に置かれた箱を持ち上げようと動く。

 

「あ、あれ?」

 

 ダクネスが箱を持ち上げようとするが、僅かに動くだけで持ち上がらない。

 

「ダクネスさん?」

 

 確かに届けられた荷物は重かったが、頑張ればスズハでも持ち上げられる重さだった。それをダクネスが持ち上げられない筈はないのだが。

 んー! と顔を真っ赤にして持ち上げようとするが、やはり少し浮くだけだ。

 それを見ていたアクアが代わりに箱を持ち上げる。

 

「なによ、持ち上がるじゃない。ダクネス。疲れてるからってそんな演技をするなんて感心しないわよ?」

 

「い、いや! そんなつもりは……」

 

 自分の手を不思議そうに見つめるダクネス。

 それを見て全員が首をかしげる。

 カズマが近づいてダクネスの腕を捻り上げた。

 

「いたたたたっ!? いきなり何をすんだっ!?」

 

 力ずくで手を外させようとするが、圧倒的に筋力で優っている筈のカズマに、ダクネスが腕を外させる事が出来ない。

 それを見てカズマは確信する。

 

「おい、ダクネス。お前、弱くなってるぞ」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐに判明したことだが、どうやら調査対象だった精霊に、ダクネスは弱体化の呪いをかけられてしまったらしい。

 アクアが解呪を試みたが、相手がかなり強力な精霊の呪いであることから、完全に効果を消し去るには数日の時間を有するとのこと。

 

「大丈夫なんですか? このまま筋力が落ちて歩いたり立ったり出来なくなったり、内臓機能に支障が出たりしたら……」

 

「2、3日くらいで完全に呪いの効果は消えるから大丈夫よ。ま、ダクネスが本調子になるまで私達は何もせずに休んでましょう」

 

「おまえ自分がぐうたら出来る理由が出来て喜んでるだろ」

 

 ソファーで菓子を食べながら言うアクアにカズマが呆れる。

 

「相手が精霊なら私が役に立てませんか? 一応、精霊と意思疏通出来るスキルは取得してますし。話せばダクネスさんの呪いを解除してもらえるかも」

 

「あまりお勧めは出来ませんね。私の爆裂魔法を喰らった後で気が立ってるかもしれませんし。最悪、スズハも同様の呪いにかかって最悪の事態も考えられます」

 

 ダクネスですら一気にここまで筋力が下がる呪いだ。スズハが喰らったら本当に洒落にならない事態も想像できる。

 

「アクアの話では数日で解けるという事だし、危ない橋を渡る必要はない。だが、スズハの気持ちは受け取って置く。ありがとう」

 

「はい……」

 

 要は、危ないことはするな、ということだ。

 何となく歯がゆい気持ちになり、拳を握っているとヒナの泣き声が聞こえてくる。

 

「あぁ! どうしたの、ヒナ!」

 

 小走りでヒナのところに慌てて行くスズハ。

 もしかしたら、エレメンタルマスターのスズハなら本当にあの精霊を何とか出来るのかも知れないが、そんな危ない賭けをする必要はないのだ。

 スズハが1番に考えなければいけないのは娘の事なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日からダクネスの肉体は確実に弱まっていっていた。

 

「ダクネスさん、あーん」

 

「あ、あーん……」

 

 スズハが差し出したスプーンに乗せられた、小さく切られて柔らかく煮込まれた野菜を咀嚼する。

 その光景を見たアクアがピョンピョンと跳ねて手を挙げる。

 

「ねぇ、スズハスズハ! 私もダクネスに餌をあげたいの!」

 

「おい! 餌ってなんだ! 人をペット扱いするな!」

 

 顔を真っ赤にして声を上げるダグネス。

 不満そうな顔をするアクアにカズマが肩を掴んだ。

 

「待てアクア。俺はまだこの光景を眺めていたい。よく考えてみろ。黒髪の和服美少女が金髪の美人お嬢様を甲斐甲斐しくお世話するなんてレアなシーンだぞ。なんでこの世界にはビデオカメラが無いんだと憤ってしまいそうだ」

 

「びでおかめら、というのは分からないが、お前がそれをいかがわしい事に使おうとしているのは分かるぞ!」

 

「HAHAHA! いかがわしいなんてそんな! ただ、美しい場面を残したいと思うのは人間のエゴだって話さ」

 

 笑い続けるカズマにダクネスがフォークを投げようとするが、それは不出来な紙飛行機のように円を描いてカズマの足元に落ちるだけだった。

 

「まったくダクネス! 皆にちやほやされて良いご身分ですね」

 

「べ、別にちやほやされているわけでは……! うう……」

 

 難癖を付けてくるめぐみんに恥ずかしそうに肩を小さくするダクネス。

 そこでスズハが不安そうにアクアに訊く。

 

「でも、紅茶の入ってるティーカップを持つのも危なげなんですよ? 本当にもう少しで元に戻るんですか?」

 

 普段のダクネスからは想像も出来ないほどの弱々しい姿に、スズハは落ち着かないようだ。

 

「とは言っても、あの神殿には立ち入り禁止と接触禁止令が出されてるからな。それに迂闊に近づいて全員やられたら意味ないし」

 

「はい……」

 

「まぁ、アークプリーストとしての腕だけは一流のアクアです。その言葉を信じましょう」

 

「そうそう! この私の言葉を────アレ? だけって言った? ねぇめぐみん。私だって他にも色々と役に立つんですからね!」

 

 アクアの文句を流すめぐみん。

 コホン、とダクネスが態とらしく咳をしてスズハの頭を弱々しく撫でた。

 

「大丈夫だ。だからそんな顔をするな」

 

「……」

 

 そこで街中に放送が流れた。

 

『緊急! 緊急! 冒険者の方々は、直ちにギルドまでお越し下さい!』

 

「なんだぁ!?」

 

「もしや、あの精霊が街の近くまで来ているのでは?」

 

「うげっ! 私、またアレと対峙するなんて嫌なんですけど!」

 

 緊張する様子を見せるカズマ達。

 真っ先に立ち上がったのはダクネスだった。

 

「よし! 行くぞ!」

 

「おいおい! 大丈夫かよ、ダクネス!」

 

「甘くみるな! 筋力は確かに落ちたが硬さはお前達より上だぞ! めぐみんがもう一度、爆裂魔法を使う為の盾くらいやれるさ!」

 

 こうなったら意地でも今回のクエストに参加しようとするだろう。

 その斜め上に意地の張るダクネスに、カズマは頭を掻く。

 

「とにかく情報が先だ! ギルドに行くぞ!」

 

 慌てた様子で支度してギルドまで急ぐカズマ達。

 屋敷を出るカズマ達の後ろ姿に不安を覚え、スズハは手を組む事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなスズハの不安は見事に外れ、賞金首の大精霊は、カズマ達がギルドに着く頃にはウィズによって討たれ、ダクネスの呪いも解除されることとなってめでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(────)

 

 その声がスズハの耳に届いたのは、日付が変った深夜だった。

 動物の鳴き声にも聴こえる。

 歌声にも聴こえる。

 悲鳴にも聴こえる。

 そして、助けを呼ぶ声にも。

 放って置くことが出来ず、ベッドから起き上がり、蝋燭の灯りを頼りに庭まで歩いた。

 庭に建てられた小さな墓石。

 それに巻き付くように”それ”は居た。

 ”これ”がダクネスに何をしたのか。それを考えれば無視して見捨てれば良い筈だ。

 放って置けば皆が目覚める前に消えてしまう魔力の残り滓。

 見捨てたとて誰に叱られることもない。むしろ、ここで助ければどう思われるか。

 それでも────。

 

「これは……わたしのワガママだから……」

 

 蛇にも見える1本の触手にスズハは手を差し出す。

 

「おいで。わたしと、生きましょう……」

 

 その触手が、弱々しくスズハの指に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、スズハ。そのモグラはなんだ?」

 

土精霊(ノーム)ですけど?」

 

 椅子に座って、膝に乗っているぬいぐるみのようなモグラを撫でているスズハ。

 それを見てアクアが何度も瞬きする。

 

「カズマさんカズマさん!」

 

「はいカズマです」

 

「アレ! アレはアレよ!!」

 

「いや、アレだけじゃ分かんねぇよ」

 

「だーかーらー! 昨日ウィズが倒したあんの、恐い賞金首!!」

 

「はぁ?」

 

 土精霊(ノーム)とは聞いたが姿が違いすぎるし、ヤバイ感じもしないのだが。

 

「たぶん、ウィズに倒される瞬間に、体の一部を切り離して完全に消滅することを逃れたのね。放って置いたら消えてただろうに。近くに居た精霊使い(スズハ)と契約して消滅を免れたのね」

 

「はい。深夜に、この子の声が聞こえて、つい……」

 

 スズハも正体は理解しているらしく、申し訳なさそうに土精霊(ノーム)を胸元まで上げる。

 

「それじゃあ、このモグラが力を取り戻したらあの姿に戻るのですか?」

 

「んー、どうかしら? 契約してるスズハ次第だと思うんだけど……ねぇ、スズハ。貴女、土の精霊で何を思い浮かべる?」

 

「モグラ、ですね……この子も最初は蛇のような見た目でしたけど、私が触れたらこの姿に……」

 

 アクアがまじまじと土精霊(ノーム)を見る。

 

「ここまでくると生まれ変わりに近いわね。アレの力の残滓は残ってるみたいだけど……」

 

「つまりはスズハ次第か」

 

「そういうことね。この私が保証するわ!」

 

「お前の保証とか逆に不安なんだが……」

 

 カズマの呟きに、アクアが半泣きで信じなさいよー! と掴みかかる。

 

「それで、この子は……」

 

「もう契約したのでしょう? なら、今までの精霊と変わりませんよ。アクアの言うとおりなら、スズハが決めることです」

 

 めぐみんの言葉にホッと胸を撫で下ろして、この場から土精霊(ノーム)の姿を消す。

 ダクネスがスズハに耳打ちする。

 

「もしもあの弱体化スキルを使えるのなら、もう一度私にかけてくれ。頼む」

 

「聞こえてんぞ。なに欲望に走ってんだ、このドM」

 

 いつもと変わらない空気が流れ、朝食の準備をしようと立ち上がる。

 すると────。

 

「すみませーんっ! 皆さん居ますかー!!」

 

 早朝から珍しくやって来ためぐみんの親友の声。

 

「ゆんゆんですね。無視しましょうか」

 

「いや、入れてやれよ……」

 

「わたし、お茶を先に淹れますね」

 

 カズマが玄関からゆんゆんを中に通す。

 何故かちらちらとカズマを見るゆんゆん。

 

「どうしました? こんな朝早くから人の迷惑も考えて欲しいのですが」

 

「いや、めぐみんが言うなよ」

 

 毎日日課で爆裂魔法を放っている爆裂魔に人の迷惑を考えろとか、思いっきりブーメラン発言である。

 しかし、ゆんゆんは変わらずもじもじとしながらカズマの方をチラチラと見ていた。

 

「わ、私……今日は……その……」

 

 何か言い出しにくい話題なのか中々先に話が進まず、痺れを切らしためぐみんがテーブルをバンバンと叩いて先を促す。

 

「いったい何なんですか! 言いたいことがあるならはっきり言いなさい! そんなんだからいつまで経ってもボッチなんですよ!」

 

「そ、そんな言い方しなくても良いでしょ!? そ、それに里には友達だってちゃんと……」

 

 友達の部分で自信無さげに声量が小さくなって俯いてしまう。

 それでも彼女なりに意を決してカズマに向き直る。

 

「あの、カズマさん……その……私……」

 

「はい?」

 

 次に出た言葉は、この館の誰もが想像もしてない言葉だった。

 

 

 

カ、カズマさんの子供が欲しいっ!! 

 

 

 

 

 その衝撃的な一言に誰もが動けず凍りついた。

 告白されたカズマはドヤ顔で仲間達の方へと振り向く。

 

「モテ期、入りました……!」

 

 スズハは、ティーカップに注いでいた紅茶が既に溢れている事にも気付かずに呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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