時間は有ったけどちょっと行き詰まってました。
「と、言うわけで、泊めてください、ゆんゆん」
「……もう深夜なんだけどぉ……」
パジャマ姿のまま、眠そうな顔でドアを開けたゆんゆんは大きく欠伸をする。
目の前には同じように寝間着姿のめぐみんとスズハが立っていた。
「あのですね。元はと言えば、ゆんゆんのせいでこんなことになったのです。なので、責任取って泊めてください」
「なんで!?」
めぐみんの発言に眠たげだったゆんゆんの目が大きく開いた。
「ゆんゆんがカズマとの子が欲しいなどと言うから、発情したカズマに襲われそうなのですよ?」
「え? ダクネスさんとかアクアさんが居るのに態々めぐみんを!?」
「……おい。何故私に襲いかかるのが疑問なのか聞こうじゃないか」
半目になってゆんゆんに詰め寄るめぐみん。
地雷を踏んだことを理解して慌てて口を押さえるゆんゆんに、スズハが申し訳無さそうにお願いする。
「あの、ゆんゆんさん。夜分遅くに礼を欠いているのは謝ります。でも、泊めて貰う訳にはいきませんか? めぐみんさんのご実家だと、その……不安で……」
めぐみんの手前か言いづらそうにするスズハ。
その意味を察して納得する。
「めぐみんの家はいつ壊れるか分からないものね」
「壊れませんよ! まだ壊れません!」
強い語調で反論するめぐみん。
しかし、スズハの不安の種はそれではない。いや、めぐみんの実家そのものに不安がないかと言われれば素直に首を縦には振れないのだが。
「その事ではなく、その……こめっこさんが……」
「こめっこちゃん?」
何故そこでこめっこの名前が出るのか分からずに疑問が顔に出た。
スズハはおんぶ紐で背負っている娘に視線を向ける。
「はい……彼女が、ヒナを見て、その……焼肉って呟くんです」
その言葉を聞いてゆんゆんが固まった。
「横になっている間もヒナをジーッと見て柔らかそう、とか。明日のごはんとか言ってきて、安心して眠れなくて……」
このままでは朝起きたら
幼子が赤ん坊を涎を垂らしながら見つめてくる様は一種のホラーである。
それを聞いたカズマは、紅魔族には人を食う文化が在るのかと本気で訊ねられた。
もちろんそんな禍々しい因習は存在しない。
「……めぐみん。もう少し、実家への仕送りを多めに送ってあげたら?」
「ダメですよ。これ以上増やしても、どうせ売れもしない父の魔法具開発の資金に消えるに決まってます」
「あ~……」
思い当たる節があるのか、ゆんゆんは夜空に視線を向けた。
めぐみんの父の魔法具は、とても精巧な作りなのだが、無視できない欠陥を抱えている事が多く、ほとんど売れない。
たまに売れても安く買い叩かれてしまう。
普通の魔法具を作れば今よりずっとマシな生活が出来るだろうに。何故か売れない魔法具を作り続けている。
「ま、まぁ、とにかく上がってよ! 今、お茶とお菓子を用意するから! ね!」
「もう深夜ですよ? 今からお茶なんて飲んだら眠れなくなるじゃないですか」
「う……!」
「すみません。わたしも今日はさすがに疲れてしまったので……」
「そ、そうよね! ごめん……」
友達が家にやって来て舞い上がっていたのだろう。既に眠気は飛んでしまっていた。
落ち込んでいるゆんゆんを見かねてスズハが提案する。
「でも、せっかく来たのに寝るだけというのもアレですから、少し、お話ししましょうか」
「スズハちゃん!」
手を組むゆんゆんにめぐみんが眠そうな顔で息を吐く。
「それは構いませんが、何の話をするのですか?」
「それは……えーと、うーん……」
考えるゆんゆん。
すると既に眠っているヒナに目を向けた。
「そ、そういえば、ヒナちゃん、大きくなったよね」
苦し紛れの話題だったが、思いの外、スズハが乗ってきた。
嬉しそうに背中から下ろしたヒナを抱き上げる。
「はい。最近は、ハイハイや、少しだけ支え立ちも出来るようになったんですよ」
「この間、バランスを崩してお尻を強く打って泣いてましたけどね」
めぐみんは眠っているヒナの頬をつつく。
一度眠ってしまうと中々起きないヒナは、めぐみんに触れられても気にした様子もなく、涎を垂らして寝ている。
幸せそうに娘の涎を拭くスズハ。
その年齢に合わない顔を見て、ふとゆんゆんが疑問をそのまま口に出した。
「そういえば、ヒナちゃんのお父さんって────」
「いません」
遮るようにスズハが言う。
「え? でも……」
「ヒナに父親なんて居ません」
笑顔のまま、珍しく有無を言わさぬ態度を取るスズハ。
めぐみんも、やっちゃったよこの子は、と言わんばかりに嘆息する。
「ゆんゆん。その話題は禁止です。いいですね?」
めぐみんも強い口調で諭すとゆんゆんは首を縦に動かす。
すると、ちょむすけがゆんゆんにすり寄ってきた。それで、話題転換に入る。
「そ、そういえば、昔、めぐみんがちょむすけを連れてきたばかりの頃に皆で、ちょむすけをめぐみんって呼んで。めぐみんを偽めぐみんって呼んでたよね」
「どうしてそんなことに?」
食いついてきたスズハに、ゆんゆんは当時を思い出してクスリと笑う。
「まだ呼び名が無かったからね、学生の頃は仮名で呼んでたの。めぐみんの使い魔になった時にちょむすけって名付けられたけど……」
あの時の事件は大変だったなぁ、と過去を思い出して嘆くように息を吐くゆんゆんに、めぐみんがムッとなる。
「何が不満なのですか。こんなに我が使い魔に相応しい名を授けたというのに。ちょむすけだって大層気に入っている筈です! そうですよね、ちょむすけ!」
「………………なーん」
すごく間を置いてから不満そうに鳴くちょむすけ。
「すごく不満そう……」
「そんなことはありません! 今のはちょっとタイミングがズレただけです!」
ちょむすけを抱き上げるめぐみん。
スズハが話を切り替える。
「でも、お2人の学生の時の話、興味あります」
「学生時代、ですか。ゆんゆんがいつも無謀な勝負を挑んできて、弁当を巻き上げてましたね」
「なによ! めぐみんなんて、起こさなくていい問題ばかり起こしてたくせに!」
「なにをー!」
友人同士、じゃれ合うようにして取っ組み合いを始める2人。
そんな2人を、スズハは羨ましそうに見ていた。
「で、結局朝方まで話して眠れなかったと……」
「いえ、寝ましたよ……2時間、くらい……?」
朝、めぐみんの家に戻ってきたスズハとめぐみんにカズマが呆れるように肩をすくめる。
「取りあえず、朝食を頂くか? 私達は既に食べ終わっているが」
「いえ。ゆんゆんの家で頂いたので、要りません」
「おい待てこら。俺らは朝飯がおかゆ1杯だったけど、まさかそれよりも豪勢なもん食ってねぇよな? 仮にも客を差し置いて」
『……』
2人揃って視線を逸らす。
ちなみに眠気覚ましに朝風呂まで頂いていた。
それに頬を膨らませるアクア。
「ちょっと2人だけ良い物を食べてくるなんて納得いかないんですけど! お昼はめぐみん達の奢りですからね!」
「そんなお金はありませんよ! 今日は紅魔の里の観光案内をしてあげるので勘弁してください」
昨夜、スズハにお願いされたので、アクア達も誘う。
「すまないが、私はこの里の鍛冶屋に用がある」
ダクネスだけ辞退すると、里の危機とやらは結局はデマだったので、折角だし紅魔の里を観光することに決めた。
「これは……」
最初に案内されたのは、日本でも在りそうな神社だ。
そこの御神体として祀られている物体にカズマとスズハが顔をひきつらせる。
猫耳を付けたスク水姿の美少女フィギュア。
「これは、以前モンスターに襲われた旅人を紅魔族が助けたお礼にと渡されたそうです。なんでも、命よりも大事な御神体だからと。それで、何かの御利益が有るかもしれないと祀られているんです。この神社という施設も、その旅人が教えてくれた通りに建築されたものです」
「それはひどい……」
あんまりな過程にスズハは日本人として頭が痛くなった。
カズマにヒソヒソと話しかける。
「その旅人さんってやっぱり……」
「アクアが考え無しに送った転生者だろうな……いや、ホント酷い……」
こんなものを祀らされている紅魔族に同情するカズマ。
その人物をこの世界に送った当の本人は、フィギュアを見て不満そうにして眉間にしわを寄せている。
「ねぇ。こんな人形が私と同じ神様扱いとか腹立つんですけど……」
「むしろ、こんなもんを祀らせる原因になったお前が紅魔族に謝れ」
そんなやり取りをしていると、ヒナが美少女フィギュアに手を伸ばして、その髪の部分を掴み始めた。
「あーうー」
「ダメよ、ヒナ。こんなのでも大事な祀られ物みたいだから」
「こんなのでも……スズハも言いますね」
ヒナを注意して放させようとするが、ヒナが強く引っ張って、フィギュアの髪がボキッと折れる。
「あ」
「あー! あー!」
折った髪を投げるヒナと顔を青ざめさせるスズハ。
「ちょっ! 変な隙間に入ったぞ! 失くなる前に拾え! アクア! 弁償を言い渡される前に直せ直せ!」
「ラジャー!」
急いで髪を拾ってアクアに直させる。
幸い、アクアの修復技術によって壊れた部分がまったく分からないほど完璧に修復された。
胸を張るアクアにスズハはお礼を言って喫茶店でおやつを奢った。
「伝説の聖剣、ですか……」
「と言っても、4年ほど前に鍛冶屋のおじさんが用意した聖剣ですが」
次にやって来た観光名所は剣が刺さった岩だった。
何でも、指定された人数が挑戦すると抜ける仕組みになっているらしく、挑戦するならもっと後の方がいいと言われた。ついでにアクアがかかっている魔法を解除して抜こうとしたのでめぐみんに止められた。
次は、斧やコインを供物して捧げると、金銀を司る女神が召喚できるという泉。
投げ込まれたコインなどは鍛冶屋が回収して武具やアクセサリーにリサイクルされる仕組みらしい。
アクアがコインを勝手に回収したり、無駄に神々しく泉から現れる芸を披露してくれた。
「ここは、紅魔族の謎施設です」
「なんだよ、謎施設って……」
「謎施設は謎施設です。用途も製造目的もいつ建てられたのかも不明。物珍しいので観光地として残してあるだけの建物です、言い伝えによると、世界を滅ぼす兵器が眠っているのだとかで、封印されているらしいですが」
「また随分と危なっかしいですね」
少しだけ怯えた様子で謎施設を見上げる。
そこでアクアが質問した。
「めぐみん。他にはなにか封印されている物はないのかしら?」
「うーん、時期が悪かったですね。以前は邪神が封印された墓だの、名も無き女神が封印された土地等が在ったのですが、今は色々あって封印が解けてしまっているのです」
「ここの連中の封印ザルじゃねぇかっ!?」
「我が名はちぇけら! アークウィザードにして上級魔法を操る者。紅魔族随一の服屋の店主!」
お馴染みの紅魔族流の挨拶を受けてカズマが受け答えをする。
「これはどうもご丁寧に。紅魔族随一とは凄いですね」
「この里で服屋はうち1軒だけだからね」
「バカにしてんのか!」
(それは随一ではなく唯一なのでは……?)
そう思ったが、口には出さなかった。
そこでめぐみんが問う
「ところで、このローブと同じ物はありますか? 替えが欲しくて」
「ほー。何着欲しいんだい?」
「全部です。このローブは勝負服のようなものなので、たくさん有って困るものでもないですから」
「あのめぐみんが随分とブルジョアになったねぇ」
そんな世間話をしていると、店内を見回していたスズハが赤ちゃん用の服を見る。
「すみません。こちらの服を頂けませんか?」
ヒナ用の服を数着か手に取るスズハ。
「なに? ヒナの服、買うの?」
「はい。最近は服がキツくなってきたので、少しサイズに余裕があるのを、と」
アクセルに帰ってからでも良いのだが、ここで買っても赤ん坊の服が数着増えた程度なら大した荷物にならない。
染色を終えたローブを取り込む店主に、めぐみんがカズマに手を伸ばす。
「という訳でカズマ。出世払いでお願いします」
「いや、良いけどさ……ついでにヒナの分もだな」
ヒナの分も支払おうとするカズマにスズハは遠慮しようとするが、いいからいいからと財布を取り出す。
そこでローブを干している物干し竿を見て、カズマとアクアにスズハが目をギョッとさせた。
「アレ、ライフルですよね……?」
「どうなってんだこの里は……」
「ようこそ! 我が魔法学園、レッドプリズンへ!」
「よ、ようこそ……」
案内されたのは里唯一の学校であり、制服姿のめぐみんとゆんゆん。
「どうしてここにゆんゆんが?」
「昨日泊まった際にこの時間にと約束したのですよ。どうやら楽しみすぎて、約束の1時間前から待っていたようですが」
「そ、そんなことないもん!?」
めぐみんの言葉に恥ずかしそうに反論するゆんゆん。
アクアがめぐみん達の着ている制服を褒める。
「それ、この学校の制服。かわいいわね!」
「そうでしょう! そうでしょう! 神聖な学舎を案内するのですから、正装に着替えて当然なのです!」
「どうせ懐かしくなってお前が着たかっただけだろ」
ひねくれた事を言うカズマにアクアがぼそりと呟く。
「カズマは学校の事になると辛辣よね。馴染めなかった古傷が痛むのかしら?」
「おいやめろ。プライバシーの侵害だぞ」
苦い表情をするカズマ。
「でも、よく似合ってますよ、2人共。私、妊娠してから学校に行けなくなってしまったから、余計に制服が懐かしいです」
「何? スズハの通ってた小学校も制服だったのか?」
「えぇ。エスカレーター式の私立でしたから。セーラー服で」
めぐみんとゆんゆんがスズハの発言に微妙に置いてきぼりを食らう中、部屋の扉が開く。
するとそこにはめぐみんくらいの年齢の少女が3人居た。
「我が名はあるえ! 紅魔族随一の発育にして、やがて作家を目指す者!」
「我が名はふにふら! 紅魔族随一の弟思いにして、ブラコンと呼ばれし者!」
「我が名はどどんこ! 紅魔族随一の……なんだっけ?」
グダグダな自己紹介を聞いた後に、めぐみんと同じ眼帯をした、あるえと名乗った少女が近づいて話しかける。
「無事に戻って来れたようで何よりだよ、2人共」
「あるえ。誰かさんが真に受けるので、ああいう手紙は控えてください」
「めぐみん!」
あるえ、という名前と作家志望という自己紹介。
それにめぐみんの台詞からスズハは耳打ちする。
「あの、めぐみんさん。この方達は?」
「同期です。あの手紙を送ったのも彼女です」
あるえを指差すめぐみん。
「へぇ……」
スズハは僅かに目を細めると、笑みを作り、前に出た。
「初めまして。シラカワスズハと申します」
流石にもう、紅魔族流の挨拶をする気はなく、普通に挨拶をした。
しかし、相手はスズハの雰囲気が少しばかりおかしい事に気付いて、首をかしげる。
コホン、と態とらしく咳をしてからあるえに話しかけた。
「ところでゆんゆんさんに送ったあの手紙はどういうおつもりで?」
「は?」
質問の意味を理解するのに僅かな時間を有した。
「あの小説を一部を読んだゆんゆんさんが暴走してそこに居るカズマさんの子を身籠ろうとしたことについてはどう思いますか?」
「スズハちゃん!?」
突然のカミングアウトにゆんゆんが泣きそうになりながら肩を掴んで止める。
あるえがキョトンと瞬きし、ふにふらとどどんこが、え? そんなことしたの? と感じにゆんゆんを見た。
スズハは赤子であるヒナを見せるように抱きかかえ直す。
「子供を作ることがどれだけ大変か知ってますか? ご友人の名前を使って文章にして本人に送るというのは些か不謹慎なのでは?」
それも、父親の手紙に便乗して、というのが質が悪い。
勘違いしたゆんゆんもゆんゆんだが。
「スズハちゃん! もういい! もういいからっ!?」
自分があの小説の内容を鵜呑みにしたことを暴露されて顔を真っ赤にしてスズハを抑えるゆんゆん。
それを見たあるえが口元を押さえて笑い始めた。
バカにされたと思ったスズハが眉間にしわを寄せるが、あるえが違うんだ、と手をひらひらさせる。
「良い友達を持ったじゃないかゆんゆん。学生時代めぐみんから弁当をたかられ、どこかの誰か達にお金を貸す名目でたかられてた頃とは大違いだ」
「あるえっ!?」
追い討ちをかけられてゆんゆんが叫ぶ。
「まぁ、すまなかったね。今度からは気を付けるから許してくれ」
「はぁ……」
何となく煙に巻かれたような気もするが、こうして謝っているのだからそれ以上なにかを言うのは止める。
その後、スズハが抱いている赤子が実子だと知って驚かれたり、ゆんゆんが手紙で勝手にカズマ達のパーティー入りしてて、めぐみんがボッチしていたと見栄を張っていたことがバラされたりと、ゆんゆんにとって散々な学校案内になった。
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序盤
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デストロイヤーから裁判まで。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編
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王都編
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ウォルバク編
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番外で書かれた未来の話
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その他