この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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才能の萌芽

 カズマ達がスズハとこめっこを迎えに行ったダクネスと合流したのは、謎施設に残された情報を元に、服屋で物干し竿代わりにされていたライフルを取りに行き終えた頃だった。

 酷い姿へと変えられたスズハを見て3人は絶句した。

 

「私が、見つけた時には、建物の瓦礫に潰されていて……それで────」

 

 ダクネスが泣きそうな表情で何とか説明しようとするが、ぶつ切りで上手く話せない様子だ。

 背中に背負っていたスズハを降ろすと、胸から下は完全に潰されていて、血が逆流した影響で口や鼻。眼球や耳からも血の流れた痕がある。

 それを見たアクアは気分を悪くした様子で口を手で押さえた。

 

「ちょ……内蔵とか潰れたまま飛び出ててさすがにグロいんですけど。直視出来ないんですけど!」

 

 めぐみんが一緒に合流したこめっこに話しかけようとするが、その前に顔を青くして抱きついてきた。

 おそらくはスズハのあの状態を見て、恐怖しているのだろう。

 めぐみんがこめっこを慰めるように頭を撫でていると、泣き声を上げ続けているヒナに目をやった。

 

「それよりも、ヒナはその子が運んでいたのですか?」

 

 さっきから赤ん坊を持ち上げているもぐらモドキ。土精霊(ノーム)を指差す。

 

「あぁ。さっきからヒナを離そうとしなくてな。背負ってここまで運んでくれたんだ」

 

「アーッ!? アーッ!? アーッ!?」

 

 契約者の実子を守るようにしている土精霊(ノーム)

 しかし肝心のヒナは先程から一切泣き止もうとしない。

 それを見てアクアがカズマを見て質問する。

 

「ねぇ。スズハが死んだのって、カズマがあの兵器を解放したからじゃないの?」

 

 その言葉にカズマは直立で固まり、大量の冷や汗を掻いた。

 カズマがシルビアに連れ去られて謎施設に行くと、とある事情で封印の解き方が解ってしまったカズマ。

 脅されて抵抗することなく言われるがままに封印を解いた。

 弁明すると、封印の部屋に入ったシルビアを扉を閉じて再封印したわけだが、魔術師殺しと同化したシルビアはあっさりと扉を破壊して出てきた。

 紅魔の里を破壊するシルビアを見て罪悪感が半端なかった事もあり、頭がフリーズする。

 

「と、とにかく! アクア、スズハの蘇生を頼む!」

 

「えー! ここまで肉体の損傷が酷いと、治すのに時間がかかるわよ! あんなのが近くで暴れてるのに蘇生とか危ないんですけど!」

 

「なら、何処か移動するぞ! こいつを撃てる場所も用意しないとだしな!」

 

 手にしているレールガンを見せていると、遠くで里の住民を守るためにシルビアを相手に紅魔族流の啖呵を切っていたゆんゆんも、今は泣きべそを掻きながら追いかけ回されている。

 追い付かれるかどうかのギリギリのところで逃げているゆんゆんだが、それも時間の問題だろう。

 

「めぐみーん! たーすーけーてーっ!?」

 

「って、なんでこっちに来るんですか貴女は!?」

 

 めぐみんを見つけたからか、シルビアに追いかけ回されて居たゆんゆんがこっちに逃げてきた。

 カズマが慌ててレールガン(仮名)を構える。

 

「しょうがねぇ! ここで終わりにしてやるよ!」

 

 空間にスコープが映し出され、カズマはそれで照準を合わせると、狙撃スキルと併用して引き金を引いた。

 しかし、銃口からはポンッと小さな煙が出るだけだった。

 

「ちょっ!? 待てよ! まさか壊れてんのか!?」

 

 引き金を引くが、やはりレールガン(仮名)は何の反応も示さない。

 

「仕方ありませんね。ゆんゆん! 巻き込まれたくなかったら、全力でそいつから離れなさい!」

 

 めぐみんが杖を構えて爆裂魔法の詠唱を始めた。

 

「えぇっ!? め、めぐみんっ! 待って待ってぇ!!」

 

 走る速度を上げるゆんゆん。

 運良く爆裂魔法の発動を察知したシルビアがその動きを止めた。

 

「我が最強の奥義、爆裂魔法を喰らいなさい! エクスプロージョ、ンッ!?」

 

 放たれた爆裂魔法はレールガン(仮名)に吸い込まれた。

 

「はぁっ!?」

 

 自分の魔法が吸い込まれ、エネルギーを示すゲージがFULLと表示されていた。

 

「こいつは、壊れてたんじゃなくて、魔力が足りなかったのか!」

 

 その考えに思い至り、再びシルビアに狙いを定めた。

 

「楽しかったぜシルビアァ!! 他の幹部連中にもよろしくなぁ! ────狙撃ッ!!」

 

 引き金を引くと同時に目にも止まらぬ────黙視不可能な速度で撃ち出されたエネルギーがシルビアの腹を撃ち抜いた。

 

「え? あたし、これで、終わり……?」

 

 信じられない、という感じにシルビアが唖然とした表情で倒れる。

 撃ったレールガン(仮名)は、めぐみんの爆裂魔法分の魔力に耐えきれなかったのか。それとも試作品故か、完全な鉄屑に変わってしまった。

 カズマが緊張を解いて大きく息を吐くと、アクアが淋しそうな視線を空に向けて呟く。

 

「悲惨な戦いだったわ。私、二度と人を傷付けないと誓うわ……」

 

「態とらしい感傷に浸ってないで、さっさとスズハを生き返らせてやれよ」

 

 地面に置かれて放置されているスズハを蘇生させるように言うと、分かってるわよ! とアクアが治療に入った。

 だが、戦いはまだ終わっていなかった。

 シルビアが倒れた場所から急激に見覚えのある紫色の粘液が膨れ上がり、鉄の鎧が包んできて、大剣を手にしている。

 そこから産まれるようにしてシルビアが這い出てきた。

 いや、シルヴィアだけでなく、他にも見覚えのある顔が出てくる。

 

「ちょっとぉ!? これってこの間戦ったスライムじゃない!」

 

「そしてあの鎧兜は、ベルディアか!」

 

 死の縁。三途の川から倒した魔王軍幹部の魂を引っ張り上げ、同化融合したシルビア。

 スライムの体はなおも膨れ上がり、シルビアは完全復活を果たした。

 

「ここから、アタシの人生を始める! その先に行く!」

 

 存在が安定したシルビアはハンスの毒を津波のように吐き出す。

 事態のヤバさを察して既に逃げていたカズマ達はその毒の津波に呑み込まれかけていたが、その前に広範囲の冷気が毒の津波を凍らせた。

 

「カズマさん! これはいったいどういうことですか!?」

 

「ウィズッ!? どうしてここに!」

 

 そこで後ろに居たバニルがカズマに顔を近づける。

 

「汝から買い取った知的財産権で得た商品を生産する為にこの里を訪れたのだが。いやはや。まさか里が壊滅状態とはな。ふむふむ。我が身可愛さに魔導兵器の封印を解いてしまったと。しかも、それが原因でそこの娘はとばっちりで死んだと」

 

 やれやれと額に指で触れて首を振るバニル。

 これまでの事をズバリ言い当てられて焦るカズマ。

 なにか言おうとする前に、氷の上から巨大な剣が突き刺さる。

 上からこちらを覗き込むシルヴィア。

 

「ウィズ! それにバニルも!」

 

「お久しぶりです、シルビアさん! どうかここは穏便に……」

 

「出来るかっ!?」

 

「ふむ。魔王軍に我輩の生存が知られるのは少々厄介だな」

 

「この裏切り者共がっ!?」

 

 そんなやり取りをしている間にカズマ達は逃走を再開する。

 巨大化したシルビアに数百体にも及ぶバニル人形を爆発させ、ウィズも魔法で応戦するが、魔術師殺しと同化しているシルヴィアにはウィズの魔法は効かず、爆発による物理攻撃も大して意味を成さない。

 しかし、何かに気付いたようにバニルが顎に指を添えた。

 

 逃走中のカズマ達はシルヴィアをどうするか頭を抱えていた。

 

「クソッ! ウィズとバニルの2人掛かりでも倒せないとか、反則だろ!! あぁ、もう! どうすれば……!」

 

「そのことなのだが」

 

「おわっ!?」

 

 いつの間にかウィズを置いて追い付いていたバニルがアレを見ろ、とシルビアを指差す。

 

「そろそろ、動きが止まるぞ」

 

「え?」

 

 見ると、あの巨体で俊敏に動いていたシルビアが、段々とその動きは鈍重となり、巨大な剣を振るうのにも苦労しているように見えた。

 

「なんで!?」

 

「鎧の部分を良く見てみろ」

 

 走るのを止めて疑問を口にすると、バニルが指差すと、遠目からは判りづらいが、見覚えのあるもぐらが引っ付いていた。

 

土精霊(ノーム)ッ!?」

 

 いつの間にかシルビアに引っ付いていた土精霊(ノーム)に、誰もが驚きの表情をする。

 

「あの大精霊の欠片め。自分の契約者を殺されたのが余程怒り心頭になったと見える。本来の能力を取り戻しおったわ」

 

「能力って……アレか! ダクネスがかかった!」

 

 この里に来る前にダクネスに使った弱体化の呪い。

 それをあのもぐらが使っているという。

 

「と言っても、効果は本来の呪いよりも大分弱体化してるがな。それでもあの巨体だ。ほんの僅かでも力を落とせば忽ちと動けなくなるだろうよ」

 

 しかし、すぐにシルビアは元の動きを取り戻す。

 

「とはいえ、今の状態では解呪もそう難しくはない。後は呪いをかけては解きのいたちごっこだな。それに、このままではあの精霊、存在が消えるぞ。早くそこにいる娘を蘇生するのが最善だろうよ」

 

 まだ土精霊(ノーム)が存在していられるのは、契約者のスズハがエリスの元に留まって、蘇生できる可能性があるからだ。しかし、土精霊(ノーム)の魔力が切れれば、呪いも無くなり、事態は悪化するだろう。

 

「それにしても、ここまで精霊に好かれる精霊使いも珍しい。余程食わせた魔力が舌に合ったか。そこの子供らしさを置き去りにした娘。子育てなぞ辞めさせて、冒険者として旅にでも出したらどうだ? 数年も修練させれば、この国の脳筋王族レベルで魔王軍の脅威になると見た」

 

 本気なのか冗談なのか判断できない事を言うバニル。

 とにかく今は、シルビアの動きを止められる方法が分かったのだ。

 ここでやることは決まった。

 

「アクアッ! とにかく、大急ぎでスズハを生き返らせろ!」

 

「わ、分かったわっ!」

 

 ダクネスが背負っていたスズハを降ろすと、アクアが蘇生を開始した。

 

「ダクネスは何とかしてシルビアを足止めさせてくれ! それと、ウィズにこっちへと来るように行ってくれ!」

 

「分かった!」

 

 剣を抜いてシルビアの方へ行こうとするダクネス。それにバニルが追加案を出した。

 

「それならば、我輩がそこのなんちゃって騎士の肉体を使った方が良かろう。それ」

 

「おい待て! 貴様まさか……うにゅうっ!?」

 

 言うや否や、バニルは自分の仮面を外してダクネスの顔に張り付かせた。

 即座にダクネスの肉体の主導権を奪い、シルビアへと向かっていく。

 

「めぐみん! ゆんゆん! 締めはお前らだからな! 頼むぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダクネスの肉体を乗っ取ったバニルがシルビアの足止めをし、カズマの案を聞いたウィズが紅魔族から魔力をドレインタッチしている間、スズハはまだ蘇生していなかった。

 

「おいアクア! まだスズハを蘇生させられないのか!!」

 

「ちょっと待って! 体の方は治したけど、エリスの奴がスズハをこっちに戻してくれないの! そんなことより早くスズハをこっちに返しなさいよエリス! こっちも危ないの!! ヤッバイのっ!! スズハの力が必要なの! 早く返してー!!」

 

 怒鳴り付けるように天界に居るであろうエリスに訴えるアクア。

 それからすぐにスズハは息を吹き返した。

 

「ケホッ!?」

 

 スズハは気管に入っていた血は吐き出す。

 アクアのスカートに。

 

「ちょ! なんかスズハの血で卑猥な感じになったんですけど!」

 

 丁度スカートの股間部分に血を吐いてアクアが眉間に皺を寄せる。

 

「ごめんなさい……それで、ヒナ、は……」

 

「あーうーっ!」

 

 スズハが呼ぶと、カズマに抱えられていたヒナが手を伸ばす。

 血が足りないせいか、いつもより危うい動きながら、しっかりと抱く。

 

「それで、わたしは何をすれば?」

 

 カズマが現状を説明すると、スズハはすぐに分かりましたと土精霊(ノーム)に魔力を送り、呪いの力を強化する。

 スズハのバックアップを得た事で、土精霊(ノーム)の呪いの解呪が不可能になり、ダクネスの肉体を乗っ取ったバニルが足止めをしていた。

 ここから離れたところでウィズが紅魔族から魔力をドレインタッチで吸い上げている。

 動きが徐々に鈍くなるシルヴィア。

 最後に、目標が動けないように、シルビアを大きな落とし穴に落とした。

 あの巨大全てを深く落とすことは出来なかったが、筋力の弱ったシルビアには、そこから這い出るのに苦労するだろう。

 

 そして、仕上げに紅魔族から吸い上げた魔力をめぐみんとゆんゆんに送り、2人分の爆裂魔法でシルビアを討伐した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。大工なんぞ要らぬとばかりに恐ろしい速度で建て直されていく紅魔族の里。

 臨時の休憩所として建てられたスペースのベンチにスズハは腰を下ろしていた。

 

「イタタ……さすがに今回はひどい目に遭いました」

 

 ヒナを横に寝かせてお腹を擦りながら、ぶり返す痛みに顔をしかめる。

 傷自体は完治しているが、感覚がまだ、痛みを覚えており、ふとした瞬間に蘇る。

 今回、紅魔の里に訪れたウィズとバニルだが、その相手はめぐみんの父親だったらしい。

 カズマ案の商品を製作してもらおうとやって来たのだが、バニルが見通したところ、職人としての腕は確かだが、余計な機能を付与して商品が売れなくなる未来が見えたらしく、商談は中止となった。

 取り敢えず、アクセルの街までテレポートで一緒に送ってくれるらしい。

 カズマはシルビア討伐後に土下座で謝ってきた。

 シルビアが魔術師殺しを手にして暴れ、その結果スズハが今回死亡した件についてだ。

 今は、めぐみんの実家の中でダメになったベビーカー2号を製作している。

 アクアはバニルと喧嘩中で、ダクネスは復興作業を手伝っていた。

 

「エリス様にも散々心配をかけてしまいましたし……これからは気を付けないと……」

 

 傍らで眠る娘の頬に指で触れながら自戒する。

 そうして寛いでいると、めぐみんとこめっこがやって来た。

 

「スズハ。体の調子はどうですか?」

 

「はい。アクアさんのお陰で。問題なしです」

 

 笑みを浮かべて答えるが、現れたこめっこを見て無意識にヒナを手で隠すように腕を動かす。

 それに気付いているのかいないのか、めぐみんは自分にしがみついているこめっこにほら、と促した。

 こめっこがスズハに近付いて見上げてくる。

 

「たすけてくれてありがとう……」

 

 スズハが死ぬ瞬間を見たことがショックだったらしく、今回の騒動を終えた後もどこか避けていたが、どうやらお礼を言うタイミングというか、心の準備を整えていたようだ。

 お礼を言われて、スズハは小さく笑みを浮かべる。

 

「こめっこさんも怪我がなくて良かったです」

 

 そう返すと、こめっこがうん、と歯を見せて笑った。

 

「言わなければいけないことはそれだけじゃないでしょう?」

 

 めぐみんにつつかれてこめっこが眠っているヒナを指差した。

 

「あかちゃんをおいしそうって言ってごめんなさい。それはもう食べるなんて言わないよ」

 

 それだけ言うと、休憩所から走って出ていった。

 

「避難する前に、こめっこに怒鳴ったそうですね。すみません。どうにもこの里でも末っ子な為か、本気であの子を怒る人が居なかったので。スズハには不快な思いをさせてしまいました」

 

 姉として頭を下げるめぐみん。

 しかし、スズハは先程のこめっこの言葉が少し気になった。

 

「それ"は”?」

 

「……大丈夫です。こめっこはああ見えて頭が良いですから。ちょっと言い間違えただけです……たぶん」

 

 自信がないのか最後には小さくなってしまった。

 スズハはそこである考えが頭を過った。

 こめっこを怒る相手がいなかったという部分から、まったく関係のない事が繋がった。

 胸の霧が晴れて、納得してしまったというか。

 それを理解して思わず顔が赤くなる。

 

「どうしました? やっぱりまだ傷がっ!?」

 

「あ、いえ、そうじゃなくて……わたし、結構失礼なことを思ってたんだなって……思い至って……」

 

「?」

 

 赤くなった顔を押さえるスズハ。

 

「すみません。少しの間、1人にしてもらえますか? ちょっと考え事がしたいので」

 

「はぁ。分かりました。何かあったら呼んでくださいね。それと、アクセルの街に戻ったら、話がありますから」

 

 それだけ言い終えると休憩所から出ていくめぐみん。

 1人になると、大きく息を吐くが、赤くなった顔は治まらない。

 

「そうか、わたし……エリス様を、そんな風に思ってたんだ……」

 

 あまりにも失礼な感情を向けていて、それが恥ずかしく、スズハはしばらく体を小さく丸めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクセルに戻って数日。

 シルヴィア討伐の報酬も(珍しいことに)問題なく受け取り、お祝いにピクニックに来ていた。

 

「そろそろ故郷でお花見の季節だとは思ってましたけど、まさかこうしてピクニックが出来るなんて」

 

 桜は流石に無いが、草原にも所々に野花が咲いている。

 それを眺めながらお弁当も悪くない。

 

「天気も良いしな。今日は良いピクニック日和だ」

 

 シートを広げて荷物を置くダクネス。

 少し遅れてきているカズマとめぐみんをアクアが呼ぶ。

 

「2人ともー! 早く来ないと、お弁当なくなっちゃうわよー!」

 

「作ったのはスズハだろうが!」

 

「詰めて盛り付けたのは私よ! なら、私が優先的に好きなおかずを多く食べる権利が有るわ!」

 

「アクアさん。お弁当を詰めるの、すごく上手なんですよ」

 

「なにその初めて子供と一緒にお弁当を作った母親みたいなセリフ。それは大きくなったヒナの為に取っておけよ」

 

 カズマとめぐみんが追い付くと、スズハにちょっと良いですか? と話しかけてきた。

 

 集団から少し離れたところでめぐみんが話を切り出す。

 

「今回はすみませんでした」

 

「はい?」

 

「スズハが今回死んでしまったのは、私にも責任がありますから」

 

 すると、自分の冒険者カードを渡してくる。

 

「私がテレポートや上級魔法を使えていれば、スズハが死ぬことはなかった筈です。ですから、これからはもっと使い勝手の良いアークウィザードになろうと思います。ですからスズハには、私が修得する上級魔法を押してほしいんです」

 

 あの時、ダクネスに2人を頼まずに、テレポートで自宅に戻っていればこめっこが恐い思いをせず、スズハも死ぬことはなかった。

 

「……爆裂魔法はどうするんですか?」

 

「爆裂魔法は卒業です。我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、上級魔法を操る者! 今度からはこれでいきます」

 

 紅魔族風の自己紹介を変えためぐみんはトンガリ帽子で目元を隠した。

 それを見たスズハは項目を確認して冒険者カードを操作した。

 

「お返しします」

 

 冒険者カードを受け取り、懐に入れる。

 

「それじゃあ、さっそく爆裂魔法を撃ってください」

 

「はぁ?」

 

「今日はまだ撃ってないでしょう?」

 

 スズハの言葉に呆れるように肩を落とす。

 

「あなたという子は普段は私が爆裂魔法を使うのに渋い顔をするくせに。まぁ、いいでしょう。生涯最後の爆裂魔法! ゆんゆんと一緒に撃ったときと同等。いや、それ以上の威力を出して見せましょう!」

 

 自身を奮い起たして、爆裂魔法を詠唱する。

 

(さようなら、私の爆裂魔法……!)

 

 心の中で別れを告げ、最後の爆裂魔法を野に放った。

 

「エクスプロージョンッ!!」

 

 すると、その威力は今までの比ではない。

 過去最高レベルの爆裂魔法が落とされた。

 草原に倒れためぐみんが呆気に取られた表情でスズハを見る。

 

「スズハ、貴女……」

 

「良いんじゃないですか。爆裂魔法しか使えなくても」

 

 結果的に見れば、今回も含めて爆裂魔法がなければこれまでの戦いも勝利することは出来なかった。

 馬鹿な選択かもしれないが、あんな顔でめぐみんに自分を曲げてほしくなかった。

 

「誰に文句を言われてもこれだけは譲らない。私が知っているめぐみんさんは、そういう大魔法使い(アークウィザード)ですから」

 

 いたずらっぽく笑うスズハにめぐみんは空に向かって高らかに叫んだ。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードにして爆裂魔法を操る者! アクセル随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を極めし者!」

 

 そう叫び、歯を見せて笑うめぐみん。

 スズハとめぐみんは笑い合いながら互いの拳をコツン、と打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 




バニルが言っていたスズハがこの国の王族並みに脅威になるというのは、番外編のスズハのレベルではなく、あくまでも子育てとか辞めて冒険者と精霊使いとして経験を積んだ場合のスズハです。
そうした場合、アイリスレベルで魔王軍の驚異になります。

次はすぐに王都編に行かず、別の話を挟みます。
そして王都編は事件の元凶が既に退場しているので、別の事件を起こすつもりです。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他

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