会食、王城でやったのかと思ったらダスティネス家だと知ったので修正しました。
「はい。はい。それでは、屋敷の修理をよろしくお願いします」
「任せてくれ! 俺達が責任を持って元通りしておくよ」
頭を下げるスズハに、大工達は快く笑って承諾した。
アクアとめぐみんが壊した屋敷の修理。
破壊されたカズマの部屋だけでなく水浸しになった際に駄目になった細かな部分の修復も頼んでおいた。
今回の修繕費は屋敷を破壊しためぐみんにアクアそして、騒動の発端となったスズハの貯金から出される。
一応カズマは出さなくて良いとは言ったが、スズハが頑なだった為、出してもらう事にした。
ちなみに何故スズハが対応しているのかというと、カズマ、アクア、めぐみんだと余計な注文を付けそうなことと、ダクネスが少し意気消沈している為である。
屋敷の修理を依頼した大工達に頭を下げる。
「カズマさんの部屋も、壊れたままでは不憫ですので」
「カズマの奴の部屋はどうでも良いけど、貰った金の分は仕事をするよ! 任しとけって!」
「はい。頼りにしてますね」
そう言ってもう一度頭を下げたスズハの姿に大工の男達は癒されていた。
「お待たせしました」
カズマ達と合流したスズハ。
「おう。大工の人達との話は終わったか?」
「はい。ダクネスさんの実家で会食を終えて数日もすれば修理も終わってると思います」
「まったくまどろっこしいですね。紅魔の里なら一晩もあれば魔法で終わるというのに」
「じゃあ直してくれよ。お前が俺の部屋を壊したんだからよぉ! アクセル随一の魔法使いさん!」
「うぐっ!?」
カズマに責められて肩身を狭くするめぐみん。
それにスズハがフォローに入る。
「ごめんなさい。元はと言えば私のせいで」
「いや、違うからな? スズハが飛び出した事とコイツらが屋敷をめちゃくちゃにしたことは別問題だからな?」
確かにスズハが飛び出さなければあんなことにはならなかったかもしれない。
しかし、だからと言って屋敷の一部を破壊する理由にはならないのだ。
「それよりも、今回はスズハもドレスを着るのですか?」
「はい。流石に王族に呼び出されてこの格好だと色々とマズイと思うので」
「そうか? 俺はタキシードの代わりに日本人として、着物や袴を用意するか迷ってるんだが……」
「そんな時間的余裕ないですよ。わたし達のドレスも既存品をサイズ直しして貰う訳ですし。それでも大忙しだと思いますが。というか、それを縫うのわたしですよね?こっちには着物なんてないんですから」
「えー! 女神であるこの私がフルオーダーじゃないドレスを着て王城に行くとか恥ずかしいんですけど!」
そんな話をしていると、どんよりとした暗い表情のダクネスが躊躇いがちに聞く。
「お、お前達、本当に王城に行く気なのか? なぁ、今からでも断ろう。行ってもきっと! お前達が期待するような楽しい事なんてないぞ。だから、な! 今からでも断ろう!」
「しつこいぞダクネス。せっかく王族からのお誘いなんだから、行かない訳には行かないだろ」
「お前のその態度が不安だからだ! いつもなら面倒だと断るくせに! いったい何を企んでいる!」
半泣きで指差してくるダクネスにカズマが呆れた様子で嘉多を竦めた。
「別に何にもないよ。ただ、王族に招待されて無視するのも失礼かなって思っただけだ。つーか、お前は俺達が王女様に無礼を働かないか不安なんだろ? それで、ダスティネス家の名前に泥を塗られるとか」
「うぐっ! あぁ、そうだ! はっきり言ってお前達が王族との会食で何のトラブルもなく終わるとは思えん」
「失礼ですよ、ダクネス。私達だって弁えるところでは弁えてます」
「そうよ! 私達も礼儀作法くらい知ってるんですからね!」
文句を言うめぐみんとアクア。
しかし、スズハはそこで疑問を口にした。
「でも、わたしもカズマさんは面倒だから行きたくないと言うかと思ってました」
堅苦しい事を嫌う傾向にあるカズマが乗り気なのが少し以外だと言うスズハにカズマは懐かしむように呟く。
「実は俺、前から妹が欲しかったんだよ。弟は居たんだけどな。実の両親にも、離婚して可愛い女の子の連れ子がいる人と再婚してくれと訴えたほどさ」
「……最低ですね」
「……お前の両親はよくお前を追い出さなかったな」
「うるさいよ! そんなことは今さらどうでもいいんだ! ここに来て俺は多くの女性達との出会いがあった。癒し系お姉さんのウィズ。元気娘のクリス。幸薄いゆんゆん。クール系お姉さんのセナ。それこそ、王道派のヒロインであるエリス様まで……」
「ねぇねぇ、カズマさん、私は」
「お前はペットか色物枠────おい掴みかかるんなら話の後にしろ!」
胸ぐらを掴んで揺らしてくるアクアにカズマが腕を外す。
そんなカズマにめぐみんが仕方ないとばかりに息を吐いた。
「つまり、カズマは私に妹の代わりになれと……」
「何言ってんだ。めぐみんはロリ枠だろ」
「あれ!?」
即座に否定されて驚くめぐみん。
「わ、私は何枠になるのだろうか」
「お前はエロ担当だよ。他に何があるんだ?」
「おい!」
ショックを受けているめぐみんとダクネスを放置して話の纏めに入る。
「それでこの間、紅魔の里でめぐみんの妹のこめっこを見たときに思ったんだ。俺に足りないのは妹枠だってな!」
腰に手を当てて宣言するカズマにふてくれされた様子のめぐみんが話す。
「それだったら、スズハが居るでしょう? 同郷なのですから、まさにカズマの言う妹枠なのでは」
「え? わたしですか?」
いきなり話題を振られて小さく驚くスズハ。
カズマはじーっとスズハを見ると、躊躇いがちに視線を外した。
「いや、その……なんつーか、スズハは~……お母さん?」
「……言いたいことは分かるが、その発言は色々と危ないと思うぞ」
「うるさい!」
そんなカズマに、アクアがどや顔をする。
「バブみってやつね! カズマはスズハに赤ちゃんみたいに甘えたいのね! プークスクスクス!」
「泣かすぞゴラァ!」
からかってくるアクアに拳骨を落とそうとするがヒラリと避けられてしまった。
しかし、その言葉の意味を知らない3人は首をかしげた。
「バブみとはなんですか?」
「バブみっていうのは、カズマ達の国の言葉で母性のある女の人に赤ちゃんみたいに甘えたいっていう欲望のことよ! 近年では、スズハみたいな幼い女の子に母性を感じて甘えたいって思う男が増えているらしいわ!」
『…………』
「説明してんじゃねぇよ駄女神! お前の羽衣奪って売り飛ばすぞ! おい、ダクネスとめぐみんも距離を取るな! 傷つくだろ!」
騒ぐカズマに少し考えてスズハはストレートに質問した。
「えーと、カズマさんはわたしに甘えたいんですか?」
「ホンット、勘弁してください……」
両手で顔を覆うカズマ。こういう素直な返しが時には1番ダメージを与えるのだ。
そこで今日の目的の店の1つであるウィズ魔道具店に着く。
「ウィズ、邪魔するぞ」
「こんにちわ、カズマさん。聞いてください! カズマさんが出してくれた案の着火道具、ようやく完成して届いたんです!」
持ってきたのは地球では馴染みの着火道具、ライターである。
バニルが出てこないところを見ると、今は出掛けているらしい。
興味深そうにめぐみんが質問する。
「カズマカズマ。これは何の魔道具なのですか?」
「魔道具じゃなくてただの便利アイテムな。ほら見てろ」
『お~!』
カズマが火を付けると、周りから驚きの声が上がる。
「これはすごく便利ですね。本当に、まんまティンダーの魔法じゃないですか! これは売れます! 売れますよ!」
火が付くところを初めて見たウィズが興奮気味に言う。
めぐみんも魔道具でもないのに信じられないと感嘆し、ダクネスが火打石の代わりになると1つ買おうとした。
しかし、元はカズマの案である為、今回のお代は要らないとサービスで、それぞれ持ち帰って良いと言う。
「もう、3人ともライター1つで騒ぎすぎよ。これだから文明が遅れてる人達は」
そう言って茶菓子を貪っていたアクアが自分の分のライターを手に取ろうとするとカズマがペシッと手を叩いた。
「何するのよカズマさん。私も貰っていいでしょ?」
「3人をバカにしないなら何にも言わなかったんだが、お前は金払え」
「なんでよー! 私にだって貰える権利が有るでしょ! なんでそんな意地悪するの!」
「なんでってお前、ライターに関しては何もしてねぇだろ。めぐみんには紅魔族の魔道具制作技術を教えて貰ったし、ダクネスには親父さんを介して大手卸売り業者を紹介して貰ったぞ。店主のウィズは言わずもがな。スズハだって、今日この日の為に商店街やギルドでライターの宣伝をしてくれてたんだぞ? お前その間、食っちゃ寝してただけじゃねぇか」
カズマの言葉にアクアは頬を半泣き顔で膨らませる。
その姿にカズマは代案を出した。
「ライターが欲しけりゃ、せめて客引きでもしてこい」
「カズマの甲斐性なし! 洗濯物を洗う前に私達の服の臭いを嗅いでる事を黙ってあげてるのに!」
「最低な嘘吐くんじゃねぇよ! おい違うからな! そんなことしてないからぁ!!」
再び距離を取る皆にカズマは無実を訴える。
その後、客引きに芸を始めたアクアと帰って来たバニルが喧嘩となり、迷惑になる前に首根っこ掴んで退散した。
「それで、めぐみんさんとアクアさんはどんなドレスを選ぶんですか?」
「やはり黒ですね! 大人の色気が出るデザインの!」
「私はやっぱり白かしら。私の神々しさをアピールするのを探すわ!」
貴族御用達の専門店でダクネスの仲介で来ていた。
並べられているドレスを眺めながらスズハはダクネスに質問する。
「ダクネスさん。一応、ヒナにもドレスを用意するべきでしょうか?」
「うーん。今回、我々と会食を望んでいるのはアイリス様だからな。たぶん必要は無いと思うが、用意出来るのなら用意しておいた方がいいな」
「そうですよね。じゃあ赤ちゃん用のドレスを先に選んできます」
「あぁ。それなら、私も一緒に行こう」
「ありがとうございます」
ダクネスと2人でヒナのドレスを幾つか見て、店員の意見を取り入れて決める。
「それにしても意外だな。スズハは今回の件は乗り気じゃないと思っていたが」
「正直に言うと、あまり。でも、余程の理由もなく断るのも怖いですから」
前領主であるアルダープはカズマを国家転覆の容疑で捕まえた。王族の判も押されて。
今回断って、自分達かもしくは交友のあるダクネスの実家にデメリットが生じるかもしれない。
「それなら、要求を聞いて無難に過ごして帰ってもらった方が良いかな、と思いまして」
王族の頼みを厄介事のように語るスズハにダクネスは笑う。
「お前も大概失礼だな。まぁ、だが……その無難にやり過ごせるメンバーなら良かったのだが……」
「……そうですね」
はっきり言ってこの面子で何のトラブルもなく終わるとは思わない。
それを聞いて近づいてきた3人は心外とばかりに不機嫌そうな顔を作る。
「心配し過ぎですよ、2人共。私達だって、しっかりする時はするんですから」
「まったくだ。王女とちょっと話をするくらいでビビリ過ぎなんだよ」
「でもカズマは不安よね。王女にセクハラして捕まっちゃったりして。やめてよ? 前は私達のおかげで裁判で済んだけど、今度は処刑台に上がるとか」
「なんか変なフラグ立てんじゃねぇ! それとお前はあの時何の役にも立たなかったろうが!」
牢屋に入れられた時の事を思い出して更に不機嫌になる。
そこでスズハがでも、と口にした。
「出来るなら、本当に無難に終えたいです。出来れば何の事件にも巻き込まれずに」
「含みがありますね。何かありました?」
問われて、スズハが少し言いづらそう答える。
「実は、半月経ったらわたし、12歳の誕生日なんです。だから、出来ればあの屋敷でいつも通り過ごしたいなーって」
正確には地球とこちらでは時間の流れが異なるのでズレがあるが、日付的にはスズハの誕生日だった。
「む? そうなのか。なら、帰ったらスズハの誕生日を祝わないとな」
「いえ。そこまでして貰うことでは」
「何を言ってるの! 誕生日は1年に1回しかないんだから、取って置きの宴会芸を見せてあげるわよ!」
「それに、スズハを休ませる話も有耶無耶になってしまってますからね。誕生日くらいは楽してもらわないと」
戸惑っているスズハに、カズマが頭に手を乗せた。
「ま、なんだ。子供が遠慮すんなってことだ」
皆がそう言ってくれる事にスズハは笑顔を浮かべる。
「はい。わたしの誕生日、期待してます」
それは小さな、当たり前の約束。
家で誕生日を祝おうという、ささやかな。
帰って来て、そして仲間であり、家族同然の者達に新しい地で初めての誕生日を祝って貰う。
ただそれだけの、決め事。
帰ってさえ、くれば────。
これからもマイペースに投稿を続けます。
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デストロイヤーから裁判まで。
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番外で書かれた未来の話
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