この小さな母娘に幸福を!   作:赤いUFO

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王女との会食

「いいか、お前達。あくまでも無難に終わらせるんだ。余計なアドリブはしなくていい。訊かれた事だけに答えるんだぞ。いいな! 冒険者相手だから、多少乱暴な口調でも許容されるだろうが、調子に乗って変なことを口走るなよ!」

 

「いやそれ、何度目だよ。分かってるって。お前は俺の母親かよ」

 

 王女との会食に何度も注意事項を確認してくるダクネスに、カズマはうんざりした様子で手をひらひらさせる。

 

「いいか? この国の死刑囚はリザレクションが使わせない為に火刑。それも、灰も残らないようにだ! いつもみたいにアクアに頼ることは出来ないんだからな!」

 

「それも何度も聞いたって。大丈夫だよ。もっと仲間を信じろ」

 

「お前の事を知ってるから不安なんだ! 真面目に聞け!」

 

 心配してくれるのは理解しているが、そう何度も同じような話をされて煩わしくなるカズマ。

 その後ろでは3人の少女が話している。

 

「どう! あまりの神々しさに目を離せないでしょ!」

 

 純白のドレスを着て身を翻すアクア。

 基の容姿は女神に相応しい美しさのあるアクアだ。こうして着飾れば見映えするのは当然と言える。

 

「どう? カズマ。まさに、馬子にも衣装でしょ!」

 

「…………そーだな」

 

 ただ、こうした言動が全てを台無しにしているのである。

 その代わりアクアには親しみ易さがあるため、プラスマイナスゼロなのかもしれないが。

 反応の薄いカズマにアクアが不満そうに腕を組む。

 

「なによ、その適当な返事は。やっぱり、ロリコンのバブマさんにはこのアクア様の神々しさは伝わらないのかしら?」

 

「おい今何つった? あんま舐めたことぬかしてると、そのドレスを奪い取って素っ裸で王女に会わせんぞ」

 

 スティールの指の動きをするカズマにアクアは胸を隠す動作で後ろに1歩下がった。

 

「や、やってみなさいよ! そんな事したら、帰ったときにウィズにお願いしてバブマさんをメスオークの縄張りに叩き込むんだからね!」

 

「バブマ、つうんじゃねぇ!!」

 

 睨み合うカズマとアクアを余所にスズハとめぐみんが話す。

 

「めぐみんさん、その黒いドレス。良く似合ってますよ」

 

「ありがとうございます。しかし、スズハの桃色のドレスは意外でした。青か白を選ぶと思ってたので」

 

「そう、でしょうか? 故郷で似たドレスを着たことがあったので。それより────」

 

 スズハが着ているのは首から掛けて肩を露出させた薄桃色のドレスだった。

 しかし、決して子供っぽいという事はなく、スズハの立ち振舞いが洗礼されている事からも年齢より大人びて見える。

 スズハが何か言おうとしていると、ダクネスがスガズカとめぐみんに近づく。

 

「おいめぐみん! その不自然に盛り上がった胸はなんだ!? 何を隠している! 出せ!」

 

「ち、違います! これは素です! 大きくなったのです! あー、胸元を引っ張らないでください!」

 

「数時間でそんな大きくなるか! いいから出せ!」

 

 ダクネスがめぐみんの胸に手を突っ込むと、幾つかの道具が取り出される。

 

「爆発用のポーションにモンスター除けの煙玉! これで何をするつもりだった!!」

 

「……ちょっと紅魔族流の派手な演出をしてお姫様を驚かせようとしただけじゃないですか」

 

「普通で良いと言ったろう! こういう場ではお前が1番不安だと今理解した。頼むから事を荒立てたくなかったら大人しくしていてくれ」

 

 道具を奪い取るとめぐみんが不満そうに口を尖らせる。

 そんなめぐみんにダクネスは嘆息するとスズハが質問してきた。

 

「あの、ダクネスさん。ヒナは本当に大丈夫ですよね?」

 

 案内役の従者にベビーカーを押されているヒナは色合いが同じ色のドレスが着せられているが、今は小さく寝息を立てていた。

 王族との会食ということで、騒がないように今のヒナは魔法で眠らされている。

 安全は保証されているからと何度もダクネスが説明したが、スズハからすれば薬で無理矢理寝かしつけられているのと変わりなく、不安が消えない。

 

「大丈夫だ。王族に会う際に赤子が同伴する場合、失礼が無いようにこうして眠らせるのが通例だ。少なくとも私はそれで何らかの問題が起きたとは聞いたことがない」

 

「……はい」

 

 そう納得するしかなく、スズハは何度目かの返事をする。

 赤子を連れてくることはダクネスが事前に返事の手紙で書いて知らせており、許可は降りている。

 もっとも、ダクネスはそれを理由に断れないか頭を悩ませていたが。

 そんな冒険者パーティーを見て案内役の従者が、もしも問題が起きたら、自分達は巻き込まれないようにしようと注意を払うと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイリス様の相手は私がするから、お前達は食事をしながら何か訊かれた時にその都度答えてくれればいい。あくまでも無難にだぞ!」

 

 最後に念を押されると、晩餐会に使う広間の扉が開く。

 通された広間は派手過ぎない内装だが、高級感と清潔感の保たれた晩餐用の室内。

 燭台に火が灯されてかなりの明るさを保っている部屋には赤い絨毯が敷かれ、長いテーブルに豪勢な馳走が並べられている。

 その奥には純白のドレスを着たスズハと同い年くらいの少女が座っており、左右には黒いドレスを着た魔法使いと思わしき女性と、騎士風の男装が似合う女性が立っている。

 

「お待たせしました、アイリス様。彼が私の友人であり冒険者仲間のサトウカズマとその一行です。4人共、こちらがこの国の第一王女のアイリス様です。どうか失礼のない挨拶を」

 

 アクアから挨拶をしようとさっそく宴会芸を披露しようとして、ダクネスに止められる。

 その隙を突いてめぐみんがスカートの中に隠していた黒マント広げていつもの自己紹介をしようとしたが、それもダクネスに阻止される。

 

「すみません。この者達は、アクセルでも指折りの問題児でして」

 

 ダクネスがひきつった笑顔で取り繕う。

 そんな中でスズハが一礼してから自己紹介に入った。

 

「初めましてアイリス王女。わたしは、このパーティーで精霊使い(エレメンタルマスター)を務めております、シラカワスズハです。以後お見知り置きを。そして、こちらで今眠っているのがわたしの娘のシラカワヒナです。今回の会食に随伴する無礼をお許し下さい」

 

 ベビーカーで眠る娘を差して紹介すると、王女とお付きの2人が驚いたように表情や視線が動く。

 ダクネスから手紙で知らされていたらしいが、王女と年齢の変わらない子供が既に子持ちというのは、日本よりも結婚や出産の適齢が早いこの世界でも異例である。

 戸惑う表情の中でアイリス王女が騎士風の女性に何かを告げる。

 

「その年齢でご結婚を? と仰せだ」

 

 どうやら、直接ではなく彼女の言葉はお付きを通してこちらに伝わるらしい。

 

「いいえ。以前、少々盛りついた猿のような不躾な男性に襲われただけです。あまり口にしたくはないのでどうかご容赦を」

 

 早々に話題を切るスズハ。

 少なくとも十代前半の子供にする話ではない。それに今日はあくまでも冒険譚を聞かせることが呼び出された目的なのだから、態々スズハの過去を語る理由はない。

 

「彼女は幼いながら、優秀な精霊使いです。赤子を抱えているため、あまり一緒にクエストをこなす事はありませんが、既に高位の精霊(その一部)と契約を交わし、とある魔王軍幹部との戦いでは彼女の力が大いに役立ってくれました」

 

 ダクネスがそう説明してくれるが、お付きの2人が疑わしげにスズハを見る。

 この場で冒険者業はおまけで本職は家政婦ですとは言えない空気になった。

 そこまで挨拶が終わると、白けたような顔をした

 

「チェンジで」

 

「おいカズマ、ちょっと来い」

 

 ダクネスがカズマの肩を引っ張る。

 

「お前、散々ごねておいて、チェンジとはどういう意味だ!」

 

「いや、なんか思ってたのと違うし。もっとこう、目をキラキラさせて、”私、外の世界に憧れてますの! 是非とも貴方様の冒険譚をお聞かせくださいまし! ”みたいな反応を期待してたのになって……」

 

「だから! 最初からお前が期待するような物はない、堅苦しいだけの会食だと言っただろう!」

 

 親切丁寧に説明した筈なのに、思ってたのと違うと駄々をこねる子供のような言い分をするカズマにダクネスが小声で話しつつも青筋を立てた。

 2人が話している間にアクアが砂絵を描いてアイリス王女にプレゼントして、その褒美として宝石を貰っている。

 そこから指示された席に座り、会食が始まる。

 アクアは遠慮なく酒を飲み、スズハとめぐみんは黙って食事を摂る。

 カズマは王女の近くに座り、冒険者になって、これまでの活躍を少し────いや、かなり盛って話していた。

 それを聞きながらハラハラしているダクネス。

 今は紅魔の里でシルビアとの戦いを話している最中だ。

 

「あの男、盛大に調子に乗ってますね。結果だけ見れば嘘は吐いてませんが……」

 

「あそこまで自分に都合の良く脚色できるのは流石というか……詐欺一歩手前ですね」

 

 めぐみんとスズハがそんな会話を小声でしつつ、眠っているヒナを気にかける。

 

(後で、ダスティネス家の台所を使わせてもらえないかな? ダメでも、何か作ってもらわないと、ヒナも起きたらお腹を空かせているだろうし)

 

 早く帰りたいと思いながら、緊張から味がぼやけて感じる食事を喉に通す。

 すると、魔剣の勇者ミツルギキョウヤとの私闘についてアイリス王女や男装の女性が興味を示す。

 そこからカズマが最弱職の冒険者であることが知られ、どうやって王都でも有名な魔剣の勇者に勝利したのか口ごもるカズマに、先程まで話に聞き入っていたアイリス王女達が疑わしげな視線へと変わった。

 会食が終わりに近づいた頃に、向こうから、カズマの冒険者カードの開示が求められる。

 こちらは、冒険者である自分達の手の内を王族とはいえおいそれと明かせない事をやんわりとした言葉で拒否した。

 すると、アイリス王女は失望した様子でこれまで聞かせたカズマの冒険譚を嘘と決めつけてきた。

 確かに話は大分誇張していたり、都合の悪い部分はカットしていたが、虚偽は話していない。

 精々たまたま都合よく事が運んだ部分を、さも計算通りだったと言ったくらいか。

 それでも、カズマが紅魔の里やアルカンレティア。そして、定住しているアクセルの街を救うために知恵を絞り、体を張ったのは事実である。

 

「おいお前ら。流石の俺でも引っ叩くぞ」

 

 イケメンイケメンとミツルギの事を連呼する男装の女性にカズマがイラッとして思わず素で返した。

 当然それを無礼と受け取られ、男装の女性が声を荒らげる。

 

「無礼者! 王族に向かってお前らとは何事だ!」

 

 腰に携えていた剣を抜刀する勢いだったが、ダクネスが頭を下げた。

 

「申し訳ない。なにぶん礼儀作法も何も知らない男ですので。私に免じてどうか御容赦を。それにこの男が華々しい戦果を挙げていることは紛れもない事実ですので。ここで会食を求めたアイリス様が処分してしまうと外聞が……」

 

 そんな風に説得する中、動こうとしているめぐみんをスズハが制する。

 

「めぐみんさん」

 

「分かっていますよ。私1人ならともかく、ここで暴れたら、頭を下げたダクネスの苦労が無駄になりますからね」

 

 怒りを飲み干すようにめぐみんは出された果実水を一気に呷る。

 パーティーで1番喧嘩早いのはめぐみんだが、1番仲間想いなのもまためぐみんなのだ。

 今すぐにでも爆裂魔法を撃ちたいだろうに、この会食を無事終わらせる為に頭を下げているダクネスに免じて堪えているのだ。

 その事をダクネスも感じてか、何かを決めたように立ち上がると王女に頭を下げた。

 

「申し訳ありません、アイリス様。先程の嘘吐きという言葉を取り消してもらえませんか? 確かに大袈裟には伝えたものの、あの男は何も嘘は申しておりません。それに、最弱職ではありますが、いざという時には誰より頼りになる男です。どうか先程の発言を訂正し、彼に謝罪をしては頂けませんか?」

 

 もちろんただの冒険者であるカズマに王族が安易に謝罪する事など認められる訳もなく、男装の女性が怒りを隠さずにいきり立つ。

 そこで、先程からお付きを介してでしか話さなかったアイリス王女が立ち上がると、こちらに聞こえるように話す。

 

「謝りません、嘘ではないというのなら、その男にどうやってミツルギ様に勝利したのか説明させなさい。それができないのなら、その男は弱くて口先だけのうそっ!?」

 

 しかし、アイリス王女の言葉は最後まで続けられなかった。

 あろうことか、ダクネスがアイリスの頬を張ったからだ。

 

「何をするか、ダスティネス卿!!」

 

 誰もが驚く中、男装の女性がとうとう腰の剣を抜き、ダクネスに襲いかかった。

 ダクネスは腕で、その剣を受け止める。

 おそらくは相手は本気でダクネスを斬るつもりだった。しかし、皮膚と筋肉を僅かに切っただけで剣は止まり、そこから動けない。

 常識はずれなダクネスの硬さに驚いて下がる。

 ダクネスは自分が叩いた王女の頬を撫でた。

 

「アイリス様、失礼しました。ですが、精一杯戦い、あれだけの功績を残した者に対しての物言いではありません。彼にはどうやって魔剣使いに勝ったのか説明する責任もありません。また、出来なかったとしてもそれを罵倒される謂われもないのです」

 

 腕から血を流したまま、子供に諭すように話すダクネス。

 この国は長いこと魔王軍との戦いで苦しめられていた。

 魔王軍幹部だけではなく、あのデストロイヤーも、カズマ達が居なければ破壊などできず、今頃アクセルの街は潰されていただろう。

 例えそれが成り行きと幸運が重なった結果だとしても、目の前の危機に立ち向かい、最良の結末を引きずり出したのは紛れもない事実だ。

 それを安易に嘘と否定して良いものではない。

 優しく諭すダクネスを呆然と見上げるアイリス王女。

 

「よし。仲間にここまで庇われて教えない訳にはいかないだろ。見せてやるよ。俺がどうやってミツルギに勝ったのかを……てっ!?」

 

「ヒナッ!?」

 

 そこで、事態を見守っていた給仕が驚いてヒナの乗るベビーカーを押してしまう。

 普段なら、タイヤを止めるブレーキをかけているのだが、忘れていた。

 押されたベビーカーを止めようとスズハが立つが、間に合わず、カズマに当たるまで動いてしまった。

 衝撃で目覚めたのか。それとも眠りの魔法自体が解けたのか。

 眠っていた筈のヒナはゆっくりと目蓋を開かせ、黒曜石のような黒い瞳が、アイリス王女の姿を映しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここから番外編でアイリスがヒナを溺愛する理由が明かされていく予定です。

読者さんがこの作品で好きな話は?

  • 序盤
  • デストロイヤーから裁判まで。
  • アルカンレティア編
  • 紅魔の里編
  • 王都編
  • ウォルバク編
  • 番外で書かれた未来の話
  • その他
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